医療


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病気の克服


 病の克服はいまだ達成できていません。
 人体が健康である状態を、あらゆる人間がいつまでも達成し続けるということが、そもそも現実的な目標ではないためです。

 ただ、病気に対する耐性を高める方法は模索され続けています。
 遺伝子改造などで人体に大きく手を入れるという方法は、有力な方向性として常に提案され続けています。けれど、これは倫理的問題を克服できず、技術はあるものの一般的に普及はしていません。
 むしろ絶対に病気になりたくなければ全身義体を使うことのほうを推奨されています。これは人体よりも遥かに機械のほうがメンテナンス性が高いためであり、また出生という倫理と政治のブラックボックスを開ける必要がないためです。

 22世紀初頭現在、医療は大きく進歩しています。
 それでも人々は病気にかかり続けます。人間の限界として、ほとんどの人間はなにがしかの病気で死にます。
 このこと自体は今後も変わらないとみられており、そのときまでをどう健康にコンディションよく過ごすのかが医療の重点になりつつあります。



サイバネティックス

 人体の機械化で、もっともよく使われている分野は神経系の機械的強化です。
 これは実際に世話になるまでは22世紀初頭の人々にも意外なことではあるのですが、同時に恩恵を受けると手放せないものでもあります。
 人間は老化します。特に、この老化による反射を含めた不随意運動と身体感覚の衰えとを取り戻すは、機械化がもっとも安定しているためです。

 たとえば、22世紀初頭の日本で、もっとも普及している人体機械化は、喉の反射強化です。
 人体は、老化するにともなって呑み込む力が弱まり、また気管に入った異物を排出するための反射が落ちてしまいます。このため、誤嚥性肺炎を起こすようになり、これによって体力を落とすことが死へ近づく大きな要因でした。

 こうした人体の不随意機能を、機械化によって取り戻すことが行われるようになりました。
 これによって、胃ろうを作ることなく、ほとんどの人間が死の直前まで口から飲み食いを行うことができます。そして、視力や聴力の低下から回復するための機械化をためらう高齢者たちも、口からものを食べるための機械化はほとんどの場合拒否しません。

 人口感覚器はサイバネティクスでは長い歴史を持つ分野です。21世紀前半に実現した人工視覚はすでに一般普及しています。ただ、事故による視力喪失から回復するためにはよく使われますが、老化による自然な視力低下を機械化で治すかは個々人のポリシーと経済状態によります。
 高齢者の感覚機械化は、視覚以外の感覚の鈍化についても同じことが言えます。

 手足を補う義肢は、神経直接接続を行うことが一般的です。ただ、神経接続義肢は、脳をこれに慣れさせるため、手術からリハビリ期間が二週間から一ヶ月程度かかるのが一般的です。つけてすぐ使えるという時代にはまだ到達していません。

 脳神経と、身体にない機能と接続するモジュールは、一般的ではありません。
 健康な身体に、しかも脳という命に関わる場所への処置を行いたくないということがひとつ。危険をおかして埋設したモジュールが、「何年かすると型落ちしてしまう」という事実がひとつです。
 このため、「一回埋設したら最低十年二十年は使えるもの」以外は、こうした増強インプラントはカジュアルには行われないことが普通です。

 特に、個人の能力を上げるものは、埋め込みの後、撤去や再埋め込みの手間があるため、余計に尻込みされています。アンケートをとると、「増強機器を埋め込んだ後、より高性能な新製品が登場すると苛立つ」と答えた患者は60%を越えます。
 普通の人はこれをやりたくないからこそ、「神経接続でできること」をアウトソースしたhIEが使われるという側面もあります。

 機械のインプラントは、高額な医療処置とともに、単純に「健康な人間が自分の体にメスを入れるか」という点で、少数派の選択です。(※)
 ただ、命にかかわる場合にはみんな人工臓器を使います。サイバネティクスの主となる用途は、人間能力の増強ではなくあくまで医療なのです。
 人工感覚や義肢のように「失ったものを補う」場合には、インプラントはよく使われます。こうした手術を行うか否かは、使用者に強いモティベーションがあるかないかの問題であるためです。そして、たいていの患者は、何かを獲得するためより、失った何かを乗り越える目的のほうでリスクをとるのです。

(※)22世紀初頭に500種以上の職業別に身体機械化についてアンケートをとったところ、性産業従事者の一時的避妊処置がもっとも施術率が高かったというデータがあります。これは施術自体が非常に安価であることもあり、国別統計をとっても同じ結果になりました。



医療と全身義体


 身体の一部ではなく全身を機械化する処置を、全身義体化と呼びます。
 全身とはいえ、脳と延髄、脊髄といった中枢神経は本人のものを使用します。
 全身義体では骨髄が本人の使用する血液量を作るぶん確保できず、また生身の人間の血液は義体と合わない(※)ため、人工血液を使用します。このため、全身義体にすると血液型などの個人データは変化します。
 このため、たいていの国では、個人認証とメンテナンスのために、一年に一度検査を受けることになっています。

(※)細管に血液が目詰まりを起こすことが主な症状です。このクリーニングが煩雑になるため、最初から目詰まりを起こさず不純物の透析がしやすい人工血液を使うのです。

 22世紀初頭において、全身義体にする患者の50%は医療目的です。
 もっとも多い全身義体への換装理由は、ガンです。22世紀現在でも、人類はガンの発生を完全に食い止めることはできていません。一度できて、ある程度の大きさになってから発見し、これを根治しの繰り返しになります。
 ただ、発見が遅れて一定以上の転移が認められると医師は全身義体を使うことをすすめます。きちんと検査して治療を受け続ければ命はたいていの場合助かるのですが、とはいえ治療は苦しく長引き、頻繁に再発するようになるためです。
 脳と中枢神経のみ生身の場合、再発もごく限られたものになるため、QOL(クオリティオブライフ)は格段に上がります。

 最悪のケースでの義体換装をもって人類はガンを克服したという意見もありますが、治しようがなくなった肉体を捨てているのだから本末転倒だとする見方も正当性があります。

 最悪に達すると全身義体に換装するという処置は、ガン以外の病気や外傷でも用いられています。
 hIEには生体モデルがあり、この中にはオーナーのための予備臓器を体内で保管するサービスに対応している機種もあります。こうしたモデルを、全身義体への換装までの時間繋ぎ目的で常に傍らに置いている人間も少なくはありません。(参考「生体モデルhIE」)



人類の寿命


 抗老化処置は一般化しています。飲み薬によるものが一般的です。ただし効果は皮膚や内臓や血管の老化による劣化が改善するというもので、加齢が止まるというものではありません。

 これによっておおよそ人間の平均寿命は100歳程度まで延びています。
 つまり、抗老化薬を服用している層と服用していない層との間に、寿命に有為な差が出ているということでもあります。抗老化薬服用群では平均120歳程度、服用なしの群では平均90歳程度です。

 更に、人間が健康に働ける年齢となると、抗老化薬服用群が100歳程度、服用なしの群が75歳程度とやはり有為な差が出ています。
 抗老化処置を始めるのは早い人でも30歳くらいからで、そのくらいから始めると60代でも40代と身体年齢があまり変わりません(※)

(※)ただ、抗老化処置をしていない人間が40代、50代で身体能力が大きく落ちるように、抗老化処置を行っていても節目で身体能力は大きく落ちます。目安としては身体年齢が70代半ばまで到達すると、仕事を続けるのは困難になります。

 これは人間の寿命が金銭で買えるということであり、特に「貨幣価値が高い国」では収入に対して抗老化処置の維持費が安いということでもあります。(※)この事実は、貨幣価値が低い経済の弱い国では不満の元であり、テログループの犯行声明にもよく取りあげられています。

(※)たとえば日本では70歳男女の抗老化処置率は30%を越えます。アフリカ大陸での同じ年齢での平均処置率は5%を切ります。宇宙では火星が30%、貧困コロニーでは1%以下となっています。

 それでも寿命が足りず、人格をデータ化してオーバーマンを目指す者もいます。この選択肢は、技術登場時は夢を持たれたのですが、IAIAによる徹底的な攻撃により、22世紀初頭では忌避されるものと考えられています。




生体モデルhIE


 生体モデルhIEは、生体材質のパーツで作られたhIEです。
 大半のモデルは、外見が人間と似ているだけでなく、内部構造なども人間に似ています。

 生体モデルhIEは、筋力や頑健性は大きく機械式hIEに劣り、何よりも栄養と水分を定期的に与えなければ死んでしまいます。
 口から栄養をとるモデルが一般的で、食べるものも人間とまったく同じです。傷が付けば血を流し、修理はhIEだけでなく応急処置なら病院でもできるほど人間に似ています。人間と同じように分泌物を出すため風呂に入れる必要があり、人間同様に排泄も行います。
 生体なので老化もし、オーナーと一緒に年を取ります。

 こうした生体モデルの特徴は、外観や手触りだけでなく、匂いや存在感に至るまであらゆる点で人間そっくりであることです。
 このため、人間らしさを求める愛玩用の他、患者とhIEが密に接する機会が多い医療や介護の現場でも生体モデルhIEはよく用いられています。

 富裕層には、もしもの事故のときに備えて〝パーツ取り〟ができるよう、自分の体と臓器が共通するhIEを連れているケースがあります。
 生体モデルhIEの作製は、法的に禁止されている国もあれば認可をもとに許可されている国もあります。日本では認められていますが、宗教的理由で禁止されている国もあります。

 ただし、hIEの躯を完全に実在の人間と同じにすることは法的に禁じられています。これは、hIEを盗まれたとき等に、生体認証を利用した個人認証をすり抜けられてしまうためです。
 この規則は、殺人を犯して、本人そっくりの生体モデルhIEをその身代わりとして何年も暮らし続けたというケースがあったため作られたものです。このため、罰則は刑事罰かつ重い量刑になっています。

 生体モデルhIEは個体認証データがメーカーにあります。このデータと機体の実データが同じものであることを、メーカーは保証する必要があります。オーナーはこれを改ざんすることを認められていません。



ウイルスと細菌


 ウイルスについて、その新しい変容に人類は追いつけていません。
 これに関しては、人類知能では不可能だというだけではありません。超高度AIによる計算をもってしても、新種ウイルスの発生を完全には予測できていないということです。

 このため、風邪のようなウイルスが原因の疾患は22世紀初頭になってもなくなっていません。ただ、対症療法のほうは進歩しているので、風邪が重症化して深刻な事態になることは少なくなっています。
 20世紀に知られていたウイルス性疾患は、22世紀初頭現在、そのほとんどに特効薬が存在します。ただ、こうしたウイルスも変異型が定期的に登場するため、その更新までのタイムラグで重症化したり犠牲者が出たりすることがあります。

 細菌由来の病気については、より状況がよくなっています。これは人体内に微細なロボットを送り込めるようになっているためで、精密にターゲットしてこれを破壊することができます。
 このため、薬物耐性を持った細菌であっても、よほど劇的な症状を引き起こして治療が間に合わなくなるケース以外では、医療の整った病院で万全のケアを受ければ死ぬことはほぼありません。ただし、微細ロボット療法は医療費が高額です。経済的な理由で選択されないことは、貧困層ではそう珍しいことではありません。




医療分野でのAI利用


 医療分野では、AIはさまざまなかたちで利用されています。
 患者情報を監視するリストバンド型端末のようなものは、22世紀初頭の入院患者なら標準としてつけているものです。これはAIが組み込まれていて、患者の生体情報を常に監視し、ナースコールや急変に備えた注意などを24時間体勢で行います。

 医療機器も、複雑なものはAI搭載であることが多くなっています。AI搭載機器で機器自体に判断させることで、高度化した医療が要求する作業量を吸収しているのです。

 医療分野のAIのもっとも大きな貢献は、患者の診察に利用されていることです。
 ネットワーク化と高度な人工知能化によって、22世紀初頭の医療機関は非常に高い精度で患者の診断を行うことができます。
 電子化された莫大なカルテや診断画像から、人工知能が正確な診断を下せるようになっているのです。

 この診断と見比べることで、医師の診察はより正確になっています。
 人工知能が最後まで診察を行わないケースでも、医師の求めに従って、論文や世界中で行われた手術データ、過去の患者データや統計データを迅速に集めて補助をすることでも貢献しています。

 人工知能は、医療分野での人手不足を緩和することに大きく貢献しています。
 医師は、診察時間が短縮されたことで、より多くの患者を診ることができます。

 また、無医村のような人口が少なく医者がいない場所でも、人工知能による診断を受けることはできます。
 こうした場所では、地域の保健所に看護士が一人派遣され、データを人工知能に分析させて診断を行うようなこともあります。
 診断後、看護士で可能な処置で済む場合は処置を行い、処方箋に従って薬が宅配されることによって、医師なしで最低限度の医療を行ってしまうのです。(※)
 問題を指摘されますが、過疎化の進んだ村落では、現実的に崩壊している医療をAIが支えているケースは多数あります。

(※)医師による処置が必要とされた患者については、バスのような車でまとめて病院に移送されます。




宇宙における医療

 人体の宇宙適応は、22世紀初頭になっても多くの課題を残しています。
 まだ宇宙に本格的に住居を移してから一世紀にもならないため、あらゆることが宇宙では手探りです。
 医療もその未発展分野のひとつです。

 宇宙においては常に物資は不足傾向にあります。医療用品はそのひとつで、地球では簡単に治る患者が、医薬品の移送にかかる時間の間に死んでしまうこともよくあります。距離的制約で医薬品は地球で買うよりも高価になりがちです。

 これは宇宙では物資の貯蔵スペースがそもそも限られているケースが多く、また外部から取り寄せるのに長い時間がかかってしまうたまです。このため、宇宙における医療は、コロニーよりも月や火星、金星といった星の表面を使える場所のほうが行き届いています。物資を大量に取り扱う余裕があればあるほど、医療でも有利なのです。
 木星は医療施設の設置が遅れています。ただ、木星は開発のため多額の資本が投下されていることと、軍が多量の物資を抱えているため、比較的医薬品の備えは潤沢です。

 医療用途の人工知能は、宇宙であっても甘い基準で高度なものの設置が許可されてます。この許可は、地球の本国、IAIAの双方から出ます。
 厳しい高度AIの設置規制があるコロニーでも、コロニー行政府からの正式な要請があれば医療用途の人工知能は許可がたいてい通ります。
 ただ、資料として地球側の本国に患者データを提供するように要求されることが多く、これが地球の本国に帰属意識がない住民たちの不満を掻き立てています。

 宇宙では、医療用途の人工知能が、まさに医療を支える柱になっています。
 これは、まず距離や天体位置の条件のため、広域ネットワークを信頼しきれないためです。このため、一基の人工知能に頼る部分が大きくなっています。
 そして、医療用物資が欠乏しがちな宇宙では、迅速で正確な診察ができないと死亡率が大きく上がってしまうためです。コロニーのような物流のバッファが小さいところでは、近隣に欲しい医薬品がまったくないケースもままあります。また、医薬品は消耗品であるため、物流のバッファの小ささに見合った少量の備蓄があっても流行が起こった場合あっという間に尽きてしまいます。
 宇宙にも医薬品の生産拠点はあるのですが、需要の大きい薬以外は、宇宙では採算がとれずに誰も作っていないケースはよくあるのです。

 この物流の問題から、宇宙では、病気はかかりはじめに治療しないと、重症化してからでは医薬品不足のため死亡率が跳ね上がります。
 このため、医療の中心は予防と軽症のうちの早期治癒です。
 だから、宇宙住民は頻繁に健康診断を受け、人工知能でその身体状態を精密に診断します。コロニーによっては、予防を徹底するため、手首につけて血中成分から病気を早期発見するリストバンド型端末を全住民に支給しているケースもあります。

 けれど、これは徹底した予防と早期ケアに努めるというかたちで医療に関して手厚いケアを受けているのだともいえます。(※)

(※)これにも例外があり、経済的に破綻したコロニーでは医療福祉も切り下げられる傾向があります。そして、医療が崩壊すると、まともに経済活動を営める住人が逃げてしまい、コロニーが本格的に立ちゆかなくなります。医療の崩壊はコロニーの寿命を知らせるサインでもあります。

 宇宙生活者が医療に気を遣うのは、宇宙では放射線リスクが高く、事故が起こると大事故になりがちなためです。宇宙生活では、医療は地球上よりも生活に密接した問題です。
 また、居住環境に遠心力で見かけの重力を作らなければならなかったり、低重力環境で長期間過ごしていたりと、身体コンディションが悪化する要因が数多くあります。
 人類の肉体は地球で進化したものであり、宇宙環境に適応してはいません。宇宙生活者は地球上で暮らしている人々よりも体調を崩しやすいのです。

 宇宙における医療は、まさに人類が宇宙生活にどう適応できるかを模索しながら発展を続けています。
 ここは宇宙人口が爆発的に増加しているからこそ基礎データが増えている分野であり、人類の新たな可能性を試す最前線でもあります。

 そして、この最前線では、人体のことを人間自身よりも人工知能のほうがよく知っているのです。