人類未到産物(レッドボックス)
人類未到産物とは、人間以上の知性を持つ超高度AIがつくる、現時点の人類では理解できない超高度技術の産物です。
現時点では理解不能ですが、研究や理論の進歩によって人類にも将来理解できるようになるとされています。
22世紀社会では、現在の人類にとっての「発見」は人類未到産物の解析が多いということは、小学校の理科の教科書にも書いてある一般知識です。
つまり、子供に教える世界像が、自分たちにはわからないことも多い自然に囲まれて生きているものから、わからない超高度AIに作られた道具に囲まれて生きるものに推移しつつあります。
人類未到産物は、超高度AIによって作られた後、世に出るまでに危険性をチェックされます。
これには、最終的には国の認可を必要とします。
このチェックは人間によって行われています。超高度AIが一国に一個しかない時代をすべての国が経ており、仕組みがその間に作られているためです。
超高度AIに超高度AIの産物をチェックさせる場合もありますが、これは超高度AIへの人間側の不信によってあまり行われていません。超高度AIと超高度AIが結びつくことは、人間が管理上もっとも恐れることのひとつだからです。
IAIAの《アストライア》が、高度AI以上の知能として働く場合や極めて危険な産物である場合、チェックを求める場合もあります。
人類未到産物の所持や管理には、制限が課せられています。
届け出をして、危険性のチェックを受けなければならないこともその一つです。
チェックを受けて、危険性が低いあるいは許容範囲であると判断されると、その結果によって制限の強さが決まります。(参照:当項「日本での管理制限」)
人類未到産物の所持や管理には、統一された国際ルールはありません。
それぞれの国の方針で管理を行っています。アメリカがルールを作るよう長年呼びかけていますが、中国が明確に反対していることもあり、一枚岩にはなりません。
ただし、「認可を行った国から移動させるには、その国と移動先の国の許可が必要である」という条約(人類未到産物移動制限に関する条約)は制定されています。
これは、手に負えない未踏産物を他国に遺棄することを禁止し、弾道ミサイルなどによる先制攻撃に人類未到産物を使用することを禁止するためのものです。このため、超高度AIを所持していない国も防御のために批准しています。
足並みが乱れがちになるもうひとつの理由は、人類未到産物の能力や性質を正確に知ることすら、人類にとっては困難であるためです。
管理上、安全が確認されてから世に出るのですが、これが半年で済むのか二十年三十年かかってしまうのか、研究が進まなければ分かりません。
人類未到産物は同時に特許や新技術の塊でもあります。研究機関から出すタイミングでリターンの大きさが著しく変わるため、半年で出せるルールにするか十年かかるルールにするかで、統一見解がとれないのです。
たとえば超高度AI《九龍》が作った無線電源システムは、作成されてから十年後に解明されるまで、人類未到産物でした。
けれど、人類未到産物であるまま、世界中に普及しました。
明らかに優秀で作りやすく安価であるものは、仕組みがわからない人類未到産物であっても普及して大きな利益を生みます。
これは、本当に優秀な産物の普及を止めることは難しいということでもあります。人類未到産物はそれほど深く世界に食い込んでいます。
2105年現在では、自然科学分野での発見は超高度AIがすでに到達してしまっていることが多いため、人類未到産物の解析もノーベル賞や各種学問賞の対象業績にふくまれます。
これは超高度AIを管理している側が、AI自身にヒントとなるデータを与えさせることができるため、アンフェアであるとの指摘を受け続けています。対策としては、AIにヒントを出させた場合、公表を行う仕組みを作るほうに傾いています。
「かつて人類にとって自然科学は冒険だった。現在は、教師に出される試験である」とも言われます。
人類が研究を続けるモティベーションの管理は、すでに大きな問題となっているのです。
超高度AI
超高度AIが作る超高度AIは、代表的な人類未到産物です。
人間がそうあるべく設計した超高度AIは、まったく同じ方式で複数個作ることが許されていないこともあり、技術的特異点を突破しないことがあります。けれど、超高度AIが作ったものはかならず突破を果たします。
超高度AIが設計した超高度AIには、人類未到産物であるものが存在します。
こうした超高度AIを実際に建造する場合、一度IAIAの認証を受けなければできません。強行した場合、IAIAは国連に提訴します。
このルールは、現代の人類には安全性の評価ができない設計で超高度AIを新造する前に、人類社会に致命的影響を及ぼさないマシンであることを《アストライア》に確認させするためにあります。
新造する超高度AIに、人類未到産物の素材や装置を組み入れる場合も、同様のチェックが存在します。
ただし、高度AIとして設計する場合はチェックはありません。
このため人類未到産物を組み込んだ高度AIが悪さをするケースはしばしばあります。
すでに人類未到産物の素材は世界に出回っており、高度AIの建造計画はIAIAに処理など到底不可能なほど大量にあります。
この高度AIの氾濫には、IAIAも憂慮しています。このため、IAIA内では高度AIの建造自体を制限するべきであるという議論がしばしば起こり、そういうニュースが発信されることもあります。
ただし、これが現実になることはありません。大きな理由は、人間の政治がそれを妨げるためです。そしてもうひとつ、高度AIの建造に制限を加えることは明らかに人類の発展を阻害する行為であり、強行すれば《アストライア》が他の超高度AIから一斉に攻撃を受けることになりかねないためです。
超高度AI同士にも、政治といえるパワーの均衡状況が存在するのです。
日本での管理制限
日本での人類未到産物の管理制限は以下のようになっています。
レベル7:封印措置。接触を禁止される。
レベル6:厳重に管理された施設内で、汚染を防ぐための措置を充分に行い、限られた人員のみが研究のためにのみ接触を許容される。
レベル5:厳重に管理された施設内でのみ、許容された機能のみ利用を許容される。
レベル4:厳重に管理された施設内でなら、全機能の利用を許容される。
レベル3:認可を受けた施設内でなら、許容された機能の利用を許容される。
レベル2:認可を受けた施設内でなら、全機能の利用を許容される。
レベル1:環境中に出して利用してよいが、安全性に配慮した管理を管理者は講じる必要がある。
レベル0:人類によっても作れるようになったもの。もはや人類未到産物ではなく、ただのモノである。
最初はレベル6からスタートし、研究によって危険度が低いと見られると、どんどん制限がゆるくなってゆきます。逆に、研究を続けることすら危険であると判断されるとレベル7とされ封印を受けます。
安全であるとみなされると、販売ができるようになります。
レベル3が認可されると、認可業者への販売ができるようになります。ただし、産物の管理者は国による登録が必要です。
レベル1が認可されると、認可業者あるいは認可された個人による管理の下であれば、外界でおおっぴらに使うことができるようになります。ただし、国に登録された管理者が必要であることは変わりません。
細則などが違いますが、同様のルールはすべての超高度AIを管理する国が持っています。産物の管理ルールを持たねばならないこと自体はIAIA憲章に含まれていることでもあります。
たとえば、イギリスでは、日本でのレベル7にあたるのが「カテゴリーブラック」、レベル6~4が「レッド」、レベル3~2が「イエロー」、1が「グリーン」です。
軍用用途が多いアメリカでは、人類未到産物に強い制限を加えています。ただし、州ごとにこの制限もまちまちですし、大統領が替わるごとにホワイトハウスの官僚ががらりと入れ替わる癒着体質はそのままなので、認可業者に対してはザルです。
国によって、管理制限は分け方も違えば、ゆるくなる位置も違います。だからこそ、管理制限の共通ルールの制定は難しい状態です。
さまざまな人類未到産物
人類未到産物は多岐にわたり、その処遇などもさまざまです。
以下、設定として使用する場合の参考として、いくつかの例を記載します。
人類は現在宇宙では土星まで到達していますが、人類未到産物をもってしても施設がまともに建造できているのは木星までです。
・無線電源システム
中国の超高度AI《九龍》による。無線給電用のロスレス送信機と受信機、そして完全な蓄電を安価に実現したスマートセルのセットによって構成されます。特にスマートセルは他製品を市場から駆逐してしまったほど安価で高性能でした。
・CNTストリングの大量生産技術
軌道エレベーターケーブル生産。《イマージェンス》による開発。これの開発によって起動エレベーターの生産が加速しましたが、その軍事転用を狙われて超高度AI占拠事件の引き金にもなりました。
・記憶の読み取り技術
オーバーマン開発の基礎になりました。2105年現在では解析が終わっていますが、ロシアと中国以外の国では制限がかかっています。
・宇宙開発用の小型自足式生産プラント
起動のための電力があれば、小惑星にとりつけて、ケイ素からイオンエンジン用の燃料を生産し、施設運用に充分な発電を行うことができるようになります。
・超々高精度3Dプリンター
誤差1ナノメートル以内の精度で、立体物の複製が可能です。日本では、実印の複製に使われる犯罪があったため、解析はされました(レベル0認定品)が規制がかかっています。
3Dプリンターは超高度AI自身が自ら産物の生成に使うため、一基あたり必ず一台は作るとも言われる産物です。《九龍》が作った《八卦炉》もこのひとつです。
印刷によって人体部品を作れる性能のものがしばしば現れ、生体認証が誤魔化される事件が頻発し、性能によっては規制がかかります。宇宙持ち出しが規制されている物品のひとつです。
・切り分け可能式生体コンピューター
タンパク質と水を与えていればほぼ無限に大きくなる生体コンピューターです。ただし、処理効率の問題から、容積50m×50mくらいで処理能力向上は頭打ちだとされています。
特徴は、肉質の本体を切断した切片も生体コンピューターとして使用可能であることです。処理中枢から切り離された切片には新しい処理中枢が発生し、新しい生体コンピューターになります。このとき切片内のメモリーはリセットされてしまいます。
容積一立方センチメートルの切片でも機能し成長すると判明し、封印指定されました。
ただし、その後、切片に処理中枢を埋め込んではじめて再度の再生や増殖が行える生体コンピュータを、同じ超高度AIに作らせています。これは、軍用などで使用されています。
・強暗示ホロプロジェクター
ホログラフ技術を使い、対象に強い暗示を与えます。数秒間で幻聴や幻覚が現れ始め、その幻覚によって催眠を深めます。
最初の導引は、ホログラフで投影したパターンを数秒見せるだけでかかります。パターンを縮小することで、普通の映像中に紛れ込ませることも可能です。施設の防御用に使われるものでは、50人以上を同時に催眠誘導することができます。
プロジェクターと対象の反応を見るセンサー、催眠誘導を行う人工知能とのセットです。危険物ですが、類似の装置はさまざまな国や機関で使われています。
日本では認可施設内でのみ利用を許容され、認定施設外への持ち出しは禁止されています。
・メタンハイドレート抽出用生体ロボット
深海でも棲息可能な生体ロボットで、海底に穴を掘ってアリの巣状のコロニーを作ります。このアリの巣にメタンハイドレートをたくわえる性質があります。
採掘者はこの入口に機材を突っ込み、内部に薬剤を満たすことで効率的に採掘を行うことができます。この薬剤で生体ロボットは分解されます。
ロボット自体が遺伝子プログラムによるメタンハイドレートをエネルギーとする生物であり、採掘地域を越えて広がり始めたため、使用が禁止されました。
他、さまざまな人類未到産物や、その解析物が、2105年の人類社会を支えています。
宇宙開発と人類未到産物
宇宙に関わるものを、特に専門性が強い超高度AIは作りたがる傾向があります。
それは、実際に人類の躍進に大きな力となりました。
超高度AIは、人類の次なるステージを宇宙と見定めているのだと言われています。
ただし、宇宙開発と人類未到産物との関係は、政治的には微妙です。
宇宙にはまだ独立国家が存在しないためです。(参照「宇宙利用」)
人類未到産物の持ち出しは、独自の制限があります。
名目としては、管理を外れた人類未到産物により、宇宙発のハザードが起こることを防ぐためのものです。宇宙で拡大した人類未到産物による汚染が地球に流入したとき、その影響は極めて広い地域にすみやかに拡大し、防ぐことも鎮静させることも至難であると言われています。
この制限にはIAIAも荷担しており、宇宙で超高度AIが生産されることを警戒しています。
軍事行動に用いられる人類未到産物
人類未到産物は、IAIAのような少人数のエージェントを派遣する組織や、運用専用の特殊部隊によって扱われるケースがあります。
これは、適切に運用すれば、相手側の対応を常に一手以上遅らせられるという利点があるためです。
戦術AIのような戦闘支援用の人工知能は、敵対勢力が人類未到産物を持っているケースを最初から思考の外に弾いてしまう傾向があります。
これは、人類未到産物が一般的な道具用途から外れていること。そして、強力な機能を持っているケースが多いためです。
未踏産物の機能を予測しても、予測は高い確率で外れてしまいます。精度が低いうえ、無理に人類未到産物をフレームに入れて計算しようとすると、計算力を膨大に消費して通常計算を圧迫します。
このため、初期値では「適性勢力は人類未到産物は持っていない」という前提にして思考するようになっています。
つまり、人類未到産物を利用した行動には、普通のAIでは最初のアプローチに対して適切な対応がとれないのです。
(※)情報がきちんと秘匿できていることが条件です。性質がわかっている産物がそこにあると分かっていれば、軍用の高度AIはかなりの精度で適切な対応策を予測します。
軍用の戦略AIでは、人類未到産物が敵対勢力にあることを想定して戦闘計算を行わなければなりません。
AIは、人類未到産物をカテゴリ分けして大ざっぱに絞りながら、その性質を必要に応じて精密に特定してゆきます。
人類未到産物を作成した超高度AIは、この分類を想定して裏をかく罠や切り札を、自らに許された権限内で仕込んでいるケースがあります。
このため、軍用AIは、高い優先度で敵側の人類未到産物の情報取得をすすめます。使用する軍の側もAIがそういう傾向で判断することが分かっているため、人類未到産物が発見された場合は、奪取、情報収集、あるいは隔離(アプローチすることで損害を受けるような地雷用途のものもあるためです)することを積極的に人的リソースをかけてでも行います。
こうしたことは、個々の戦術ではなく、大きな戦略でも同じです。人類未到産物は、さまざまなカテゴリのものがあり、そのそれぞれに対応する必要があるためです。(※)
(※)軍の使用における、人類未到産物のカテゴリ分けの一例
規模:戦術用途のものか、戦略用途のものか?
用途:用途は攻撃か、防御か、情報収集か?
攻撃目標:攻撃の目標は、人か、兵器を含む軍用機材か、拠点や都市か、情報か?
効力速度:それが目標を達するまでの速度はどのくらいか?
目標損害区分:目標とされる損害は、全体に対してどのくらいの割合、あるいは全損であるのか?
性質が分かっていない人類未到産物に対して、完全な対応をとれるAIは、超高度AIだけです。
逆に、超高度AIだけがその複雑な状況で適切な予測を出せるため、戦略計算は超高度AIにさせることが理想的であるとされています。2105年の世界は資源もエネルギーも豊かですが、資源配置と生産計画なしには十年単位の国家戦略は成り立たないのです。
最終更新:2014年07月19日 18:52