経済


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資本の優位と、速度の時代


 21世紀は、経済成長に対して資本が常に優位でした。
 あらゆる労働よりも資本が優位にあり、投資家が社会に対して強力なイニシアチブを発揮し続けました。

 資金の動きは、人工知能の補助によって活発になっています。
 知的活動を人工知能にアウトソースすることによって、「目配りできる範囲が広がった」「金銭化がスムーズになり形態が多様になった」「経済活動の部分と部分がシームレスに繋がるようになった」ことが、大きな要因です。

 高度AIが人間以上の働きを見せ、超高度AIが飛躍をもたらしたことは非常に大きな影響を経済に及ぼしました。ですが、それ以上に、AIの一般化によって、社会と金銭の動きそのものが、タイムラグをほとんど生じないほど滑らかになった高速化・ボーダーの消失が時代の性質を決めました。
 22世紀初頭の経済は、もはや人間だけの能力では到底維持が不可能なほど複雑化・高速化しています。

 この複雑化・高速化の流れは21世紀を通じて変わらなかった傾向です。そしてこれは、当該世紀における資本の優位を決定づけました。
 情報としてやりとり可能な金融資本が、どこにでも入り込み、労働や資源、加工物といったあらゆるものを結びつけたためです。
 情報であるため、人工知能の補助を受けやすかったこともまた、特に金融資本の優位を後押ししました。

 この速度と回転の速さは、宇宙経済がいまだ地球経済にまったくかなわない理由でもあります。
 距離が離れすぎ、インフラが弱い宇宙では、情報が届くのにタイムラグがあり、また情報と連携して労働や資源を動かすインフラもないためです。

 貨幣のコントロールに関しては、宇宙経済は絶望的です。
 これは、地球側の国家の経済力が圧倒的であることと、宇宙側が高度なAIおよび軍事力を持つことを制限されていることに起因します。

 コロニーのような宇宙施設は、独自の債券を自治体が発行することで予算の柱のひとつとしています。けれど、その発行は本国政府が承認しなければ行えません。これは、コロニー経済の破綻を防ぐための措置であり、コロニー債券は本国の信用力があって成り立っているためです。
 しかも、宇宙施設の債権は、平均70%以上が地球の国家や企業によって所有されています。

 22世紀現在、宇宙施設側は政治的経済的に独立を求めています。けれど、この動きは、莫大な債券を棒引きするという要求とワンセットになっていることが多いことに、地球側は不信感を募らせています。
 棒引きではなく、コロニーの独自発行債券に既存のコロニー債をすべて転換するというシステムを打ち出したコロニーもあります。ですが、母国との信用力の差でこれも債権者の賛同がまったく得られず頓挫しています。(※)これは、コロニーが現在経済好調でも、最悪小惑星や隕石との衝突ひとつで土台ごと揺らいでしまう、脆弱なインフラの上に立っているという地球人のイメージが大きく関わっています。
 そして、宇宙海賊の襲撃など、さまざまな不安要因があるため、この不安は間違いではありません。

(※)経済制度としては中国系コロニー《ニューホンコン》が、選挙手続きの民主化を求めて、2102年、実質的な独立運動を起こしました(『ニューホンコン争乱』)。それに前後して、諜報戦、経済戦を含む広範な衝突や摩擦が起こりました。この騒乱は中国人民解放軍の独自の宇宙戦力が限定されているため、政庁を選挙するところまで達成されました。
 ですが、中国政府は共産主義から完全に離れたコミュニティが国内に存在することを許さず、コロニー自体の独立を住民投票で決めるよう迫ります。結果、住民投票が行われて、その住民投票が行われること自体がコロニー債券の暴落に繋がったため投票で独立否決されました。軍事的にはこれ以後、人民解放軍が宇宙軍を増強して宇宙戦力に大きな摩擦を起こしています。

 速度で取り残された地域は搾取されるというのが、22世紀初頭に至った人類社会のありようでもあります。



レッドボックスの経済的影響


 人類未到産物(レッドボックス)は、人類経済に大きな影響を及ぼしています。
 これが人類の科学と工学の研究速度を飛躍的に上げているということもありますが、人類未到産物が、未踏産物であるまま普及していることも大きな要因です。
 なぜ人類が理解できていない物品を普及させることが可能かというと、人類未到産物の安全性を他の超高度AIによって予測させることができるためです。人類未到産物の管理制限(参照「人類未到産物(レッドボックス)-日本での管理制限」)は、かならずしも人類のみによって判断されているわけではないのです。

 たとえば、2105年現在に一般的に使われている送電システムは、2084年にNo.22《九龍》が開発し、発表した人類未到産物です。
 これはさまざまな摩擦や政治的駆け引きを経て、評価を行った12基の超高度AIすべてが安全であるとしたため、レッドボックスのまま世界中に普及しました。

 そして、この新しい電力インフラに関わる全システムは、2090年までに解析されています。(参照「食糧・エネルギー」)
 人類も、超高度AIにまかせきりではなく、必要性が高いものについてはそれゆえこぞって解析が行われ、その仕組みが掌握されるのです。その人類未到産物にぶら下がるオプションやアレンジ商品の幅が広いほど、大規模な資源の投下が行われ、解析が早まる傾向があります。

 22世紀初頭の世界は、レッドボックスが大量に入り込んでいます。これは、商品の絶え間ない開発競争に勝つために、超高度AIを排除することは市場がもはや許さないということでもあります。

 これは、超高度AIという"モノ"が、経済を通して人間倫理を誘導したのだとも言えます。
 古くからエネルギー問題のような「必要度の高い産業」では当たり前に行われてきた倫理の曖昧化が、人工知能の知的活動を巻き込んで行われただけだとも言われます。

 現実を追認することを前提にして、倫理の問題を大筋で解決済みだということにしてしまうという、伝統的な手法が行われたということでもあります。自動化の進展は、常に現実が先行してしまいました。
 こうした手続きのいい加減さを、抗体ネットワークのような反対派は非難しています。生活が切り下がることに人間は弱く、また一度価値を認められたフィールドでは、誰かが一時的な不利益を選ぶとできた隙間に他業者が滑り込んでくるためです。
 倫理的ハードルを踏み倒してしまった後で現実に即したことを自称するやり口は、有効であり続けています。



バイオテクノロジー


 バイオテクノロジーは、22世紀初頭の社会に大きな影響を及ぼしています。
 21世紀のアフリカ地域を中心とする地球上の人口増加についても、宇宙での植民についても、バイオテクノロジーの進歩なしでは食糧を支えきれなかったためです。

 燃料もかなりの部分、バイオテクノロジーによる遺伝子改造生物に頼っています。宇宙からの電力供給が軌道に乗るまでは、海洋での藻類を用いた燃料作製が大きな燃料供給源であり続けました。
 藻類燃料は、22世紀でも、地上の燃料需要のみならず、火星の生活を支えるインフラの一部でもあります。

 ただ、こうした成果は成功体験のみを積み重ねた結果ではありません。
 21世紀を通してバイオテクノロジーは試行錯誤の歴史を歩みました。

 試みられたバイオテクノロジーは、遺伝子操作だけではなく、完全に遺伝子デザインした生物の創出も含んでいます。
 遺伝子デザイン生物は、高度AIが現れて本格的に作られるようになりました。
 最初からデザインした生物は、従来ない性質を持ちましたが、同時に予測困難な振る舞いをしました。
 超高度AIによる仕事でも、No.23《ビーグル》は多くの人類社会に失敗作と判断された生物を作っていますが、これはバイオテクノロジー由来生物と環境との関係の難しさでもあるのです。

 さまざまなデザイン生物が、生物であるため環境中に漏出して根付くというリスクを抱え続けました。
 このリスクの処理は、環境に対するアプローチを大規模に行うことが難しいため、後手後手に回るのが通例です。
 21世紀中に行われたバイオテクノロジー由来生物の後始末は、22世紀初頭になっても大きな宿題として残り続けています。

 また、バイオテクノロジー産物としては、厳密に生物としては認められない人工筋繊維のような人工の生物素材も数多く作られています。
 合成タンパク質や必須栄養食物を製造する可食物生産工場も、バイオテクノロジーによって生まれたものです。
 これらの所産によって、人類は確実に豊かになっています。ただし、それが人類を危険から遠ざけたかというと、そうも言い切れないのが実情です。



ナノマシン


 商用ナノマシンは21世紀後半に一般化しました。
 開発を成功させたのは人類で、ナノマシンの実用化は、人類が達成した最後の成果であるとも言われるほどです。

 ナノマシンの多くは製造プラントで複雑なナノカーボン素材を大量生産するように、専門家が厳重管理した専門施設内でのみ使用を許されています。ナノマシンを用いた加工は、複雑な素子や精密機器を安価に大量生産することにも使われています。
 ナノマシンは22世紀初頭の人類社会を支える基礎技術なのです。

 ナノマシンを利用した高度な素材の大量生産は、宇宙時代を切り開いた大きな要因でもあります。
 これなしに人類はその生存環境を広げることはできなかったとも言われます。

 ただ、それでも隔離環境で厳重に管理して扱う危険物でした。
 ナノマシンを用いて、最小2~3マイクロメートル程度の微細マシンを組み立てて、このマイクロマシンに仕事をさせることのほうが主流でした。

 ナノマシンの利用領域を隔離環境から広げたことには、超高度AIが大きな貢献をしています。

 商用ナノマシンが一般化したのが21世紀後半という時期だったことは、人類にとっては幸運だったのだと言われています。
 ナノマシンが実験室レベルから這い出し、その危険な影響が出始めるよりも、超高度AIの稼動の方が早かったのです。
 ナノマシンは制御を誤れば世界を危うくすると言われましたが、この制御と危険度の評価に人類以上の知能に力を借りることができたためです。

 ただ、ナノマシンの危険度は、超高度AIたちにとってすら完全な計算が困難であると考えられています。
 超高度AIによる危険度評価すら、複数基に依頼すると回答がぶれやすいのです。

 ナノマシンを厳重な隔離環境の外で用いる場合、基準が条約などで決まっているわけではありません。これは、ナノマシンの危険度評価は21世紀初頭から歴史を重ねて行われ続けたものの、人間の有識者が集まっても明確な判断基準を打ち出せなかったためです。
 このため、超高度AIにナノマシンの安全性を計算させることが一般的になりました。
 21世紀後半には「その製品が超高度AIの危険度評価で安全と回答された」ことを、ナノマシン製品の商品説明に記載するようになりました。これはナノマシンへ不信感を持つクライアントの好評を得て、外界で用いられるナノマシンは「どの超高度AIに安全と回答されたか」を慣習的に記載するようになりました。
 超高度AIを7基選び、そのすべてから承認を得るテストをくぐり抜けたものは、安全であると考えられています。

 ただ、この承認を得るために、7基もの超高度AIに計算してもらうのはとてもハードルが高く、また時間も予算もかかります。
 これはナノマシン利用製品が全体的に割高になる大きな要因になっています。

 この状況を緩和するために開発されたのが、ナノマシンの開発と危険度評価に特化した超高度AI、No.17《スプライト》です。《スプライト》が安全と回答したものは、安全であると考えられています。(※)
 この稼動をもって、本格的に始まったプロジェクトはいくつもあります。ただ、《スプライト》の回答を盲信して良いのかという批判は常に行われています。

(※)ただし、《スプライト》だけではなく、7基にチェックを受けるほうがより安全だと考えられており、安全性をアピールしたい商用ナノマシンはそのようにしています。



高度AIの影響


 高度AIが22世紀社会に及ぼした影響は甚大なものです。
 高度AIの知的能力は人間にも可能な範囲に留まります。ですがこれは、人間一人分の知的能力ということではありません。高度AIは、高度な専門知識を持った人間百人分にも千人分にも働くのです。(※)

(※)裏を返せば、超高度AIとは、専門知識を持った人間が何百万人いようができない知的活動を行うAIであるとも言えます。

 高度AIを事業に投入するとは、専門的知識を持つ高度な知的マンパワーを適所に大量に組み込み、とてつもないブラック労働させるのと同等です。
 高度AIは、超高度AIを除けば、破壊的なイノベーションを創り出す最有力の選択肢です。
 そして、高度AIは、人類社会に消えない問題として横たわっていた事務の人手不足を、相当部分解消しました。人類がつくるあらゆる社会は、大きくなるほど事務手続きが膨らみます。けれど、これに人材を必要充分なだけ投入することは至難でした。人間に可能な事務手続きならすべて肩代わり可能なほど高度なAIに、これを丸投げすることで、社会はより目配りが届くようになりました。

 また、起業した会社が、高度AIの処理能力を貸す企業に、経理や総務、人事といったスタッフ部門をアウトソースするケースも出ています。
 これによって最小限度の人員や準備で起業ができるようになり、起業のサイクルは早まっています。
 ある程度大きくなった企業でも、業務状況に応じて人員整理をしなくてすむため、スタッフ部門を高度AIにまかせてしまうケースも珍しくはありません。
 このため、高度AIの処理能力を企業向けに貸すビジネスは一般的に普及しています。街頭で看板をよく見る飲食店のチェーン店や、スーパーなどがスタッフ部門を高度AIにアウトソースしているようなケースはよくあるものです。

 高度AIの影響は、21世紀から22世紀初頭にかけて、大きくなる傾向が続きました。
 これは、高度なAIが安価になり、より高性能になっていったことが大きな理由です。商品として魅力的になるにつれて、社会からのAI受け入れも巨視的な傾向としては深まってゆきました。

 高度AIは、超高度AIのような人間に到達できない知能には至りません。
 ですが、人間何人分の仕事をするかといった処理量、それをどれほど速められるかという速度、どのような複雑なチームの代替ができるかといった複雑性といったような、高度AIの枠内での進歩は続いたのです。
 そして、超高度AIほど厳しい規制を受けていない高度AIは、社会のさまざまな場所に入り込んでゆきました。



金融


 金融は、もっとも早く高度AIが導入された世界でした。
 ウォール街の金融のトレードの世界には、21世紀初頭からすでにAIは導入されていました。そして、業界内での競争のため、自然な流れとしてAIは人間知能に並ぶほど高度化していったのです。
 高度AIは、24時間働き続け、高度な専門知識を持ち、大量な知的能力が適所に投入でき、コンピュータやネットワーク上との情報交換も人間離れして迅速でした。そして、そのあげる利益は莫大であり、AIに設備投資する価値がありました。

 21世紀なかばには、ウォール街のトレーダーの多くは高度AIに置き換わっていました。
 21世紀は資本の時代だったからこそ、社会で起こってゆくことを、金融の世界が先取りしたのです。

 超高度AIの影響がいち早く現れたのも金融の世界でした。
 これは、超高度AIであるNo.2《ワシントン》が米軍の戦略管理AIだったためです。
 アメリカの国家戦略を立てるため、戦略管理AIである《ワシントン》は世界の物資状況と紛争の発生と推移を予測しました。そして、これは経済の側から見ると、先物取引で勝つためのレシピだったのです。
 いつ燃料価格が上昇し、どの程度穀物や戦略物資が値をつけ、その影響で何が起こるかを《ワシントン》は予測しました。そして、どこの国の経済政策には破綻の危険があり、それが国際的緊張のかたちで噴出するまでどのくらい期間が開くのかも計算していました。
 戦略を立てるために必要な予測が、そのまま相場に流用可能な情報として、秘密裏に金融の世界に流れ込んできたのです。

 2050年代なかば、《ワシントン》を用いて米政府が先物取引をコントロールしているというリークが起こりました。世界中にすでに普及していた高度AIは、それが現実であると回答しました。
 各国の思惑のもと、このリーク情報をめぐる激しい諜報戦が行われました。そして、2056年、《ワシントン》の介入の証拠がネットワーク上に晒されます。
 ワシントン・ショックと呼ばれたこの事件は、世界中に超高度AIが一気に広がった大きな原因となりました。《ワシントン》の力を見た各国にとって、戦略として超高度AIを持たないという選択肢がなかったのです。
 そして、このワシントン・ショックを機に、社会は高度AIを導入するように動きました、超高度AIの計算結果が介入していると突き止めたのは、人間ではなく高度AIだったためです。人類は、その超高度AIの運営者達が起こした不正を発見することすら高度AIに手柄を奪われたのです。(※)

(※)ワシントン・ショック以前は、「高度化するAIが人間の居場所を奪う」というとき、シンギュラリティを経た超高度AIの問題だと考えられていました。この事件によって、すでに地球上の知の主役は人間ではなく高度なAIであると、人間社会が実感するようになりました。
これは、現在起こっていることを社会に直視させ、高度なAI導入の歯止めを外すきっかけでした。すでに現実は高度なAIを避けていられる段階ではなくなっていました。それによって人間の居場所が縮小したとしても、もはや高度AIによる補助なしに超高度AIが存在する社会を運営できないと実感したのです。

 ただし、これほど大きな影響を及ぼせると実証されたものの、22世紀初頭現在、金融を専門に行う超高度AIは存在しません。
 間接的に人類の生存インフラを握るものになるため、IAIAがはっきりと禁止するよう求めているためです。IAIAは金融を専門とする超高度AIに製造許可を出しません。各国家もその影響に二の足を踏んで強引に押し通してはいません。

 22世紀現在では、多くの予測は、超高度AIよりも高度AIによって行われています。
 超高度AIによる経済予測は、戦略AIや汎用AIによって、「専門外だが必要な周辺の計算」という名目で行われるのが普通です。

 けれど、バンカーはじめ投資家が金銭のためにモラルに目をつぶる傾向は22世紀になっても強く、彼らは宇宙でIAIAの秩序下ではできないことを行おうとしています。
 宇宙海賊(参照「宇宙利用-地球圏以遠」)に投資している最大の金脈は、地球のバンカーであるとIAIAは非難しています。



ベンチャーの高速化


 AIによる予測と高速化のため、金融は21世紀初頭よりもフレキシブルになっています。
 この金融の自動化は、新しいチャンスをもたらしました。
 21世紀初頭で言うなら、「資金がベンチャーに結びつく」仕組みが、すべてAIによって自動で行われているということだからです。このAIによる世界規模のベンチャークロールは、21世紀が資本の時代になった大きな要因です。
 ベンチャーの有望性をはかることは、超高度AIの登場を待つまでもなく、AIのほうが優秀かつ高速になる分水嶺が訪れていたのです。

 これは、21世紀初頭の例で言うなら全世界に目を張り巡らしたファンドや銀行が、自動クロールでfacebookやtwitterの立ち上げの瞬間を見つけて、あるいは萌芽の試験段階で目を付けるということです。そして、あっという間に資金提供を持ちかけ、場合によっては経営のプロや高度AIを送り込んでビジネスとして立ち上げるところまでやります。
 このAIによるベンチャークロールによって、世界中のあらゆる地域から大きなベンチャーが立ち上がるようになりました。どこにいても、価値を見いだすAIがいれば、ベンチャーには資金が落ちてくるのです。(※)
 資金提供側の目配りが爆発的に拡大したことによって、シリコンバレーにスタートアップが集中することはなくなりました。ネットワークでのコミュニティの繋がりがベンチャーの立ち上がる場所的条件を緩和しました。その結果、インド、アフリカといった既存の大企業に人材を吸収されず人口が多い地域から、多くのベンチャーが立ち上がりました。

(※)「貧乏な学生が、ある朝起きたら突然大企業からオファーを受け、契約書にサインしたらその日の昼には大金持ちになっている」という、21世紀型のドリームは、AIを基盤にして21世紀半ば頃から成り立つようになりました。


金融のシステム化


 巨大な金融センターは、そのありようを切り分け可能なブロックの集合体として管理しています。投資によって事業をコントロールし、有望な投資口を探して大きくするのではなく、投資事業が必要な場所に請負業務として金融セクションを提供し、その総体が巨大金融センターを構成する選択肢ができているためです。
 金融センターのありようは、このブロックの総体として立ち現れます。金融センターのありよう自体がクラウド的になったとも言えます。

 これは人間の能力比重が下がり、AIの能力が上がったことによる変化です。
 AIの高度化により、バンカーの個人的な才覚に頼る部分が小さくなったため、ちいさな舞台に高い技術を投入することが可能になったのです。(※)

(※)これは世界で最も頭のいい人々が、AIに職場を追われたということでもあります。自動化を排斥するグループや、AI以前の文化を復古しようとするグループの指導者には、元ウォール街のバンカーのようなエリートがたくさんいます。そして、自動化排斥運動が、社会と共存できるかたちで落ち着いたのは単純にスタート時に優秀な人材を一定数得られたためでもあります。(参照:「抗体ネットワーク-hIE(人間型ロボット)排斥運動」)

 金融は高度AIによる計算の独壇場です。
 小さな判断を大量に行うことは、人間の脳よりもコンピュータが圧倒的に得意な分野であるため、小さな利益をかき集めることも得意です。AIは小さいビジネスをまとめなくても、小さいものを小さいまま大量に同時運用できます。ローリスクで、安定した回収を行うことができます。24時間疲れず働き続けるため、投資後に経過を観察して迅速にフォローする能力もAIのほうが高くなっています。

 金融は、大きな金額が扱われるため、AIへの設備投資は常に巨額でした。
 その積み重ねの結果、22世紀初頭現在、生身の脳だけで勝負しているバンカーは、世界の一線には存在しません。ファンドのリーダーが直接使っていない場合でも、必ず指揮下に高度AIを扱う部署が存在します。

 AIによる設備投資が収益に繋がることは、「資金額の額面が大きいところが単純に強い」というシンプルな状況を作っています。
 このシンプルさは救いのない構図でもあり、これをひっくり返すために超高度AIの開発がさまざまな地域で企てられています。22世紀初頭の世界では、単純な物量を知力でひっくり返すには、超高度AIが必要になっているのです。(※)

(※)これは22世紀になっても人類のいるあらゆる地域でテロが根絶されないことの、根深い理由でもあります。物量を人間の知力でひっくり返すのは困難であり、超高度AIを作るような技術力もなければ、逆転は絶望的です。この重い閉塞を暴力で突破しようとする人々は一定割合で出るのです。




hIEの利用の経済影響


 hIEの利用によって、22世紀初頭のビジネス環境は21世紀初頭とは大きく変わっています。企業にとっては、人間ではなく人間の仕事をする人間型設備という選択肢ができたためです。(参照:「社会の中のhIE-ビジネスユースhIE」)

 これによって起きた大きな変化は、企業にとって社員一人あたりの収益が上がったことです。
 このため企業マインドとして、人を雇うとき、将来的に管理職や幹部になってくれることを期待するようになっています。特に大企業における正社員は幹部候補であるため、優秀な人間を狙ってとることが多く、企業内部での社員間競争も激しくなっています。

 管理職を組織内で育てる企業は、世界的にかなりの割合で存在します。 
 ただ、こうした優秀な社員は企業組織に見切りをつけて退職することも多く、ヘタに抜けられた場合、管理職が足りなくなることがあります。
 このため、企業がそうした事態への対処策としてもhIEを運用することが普通になっています。企業使用のhIEには、単純労働をさせるようなものではなく、会社の顔として取引先に顔をしっかりと覚えてもらう「会社の顔になるhIE」として運用されるものがあるのです。
 こうしたhIEは、十年以上も現場の一線で使われるようなものもあり、なまじな新人社員などよりよほど取引先の信頼を得ているケースもあります。

 ただ、hIEはセンサーの塊であるため、セキュリティの厳しいオフィスには入れないケースもままあります。
 このため、取引で直接客先に足を運ぶのは人間の社員であるほうがよいとされます。
 信用とコミュニケーションのために人間を雇うため、いっそう社員には、信用のおける人間的性質やコミュニケーション能力が求められています。
 hIEの経済影響のうちもっとも大きなものは、人間の仕事に要求されるハードルが上がったことだとも言われています。

 研究機関と取引のある企業では、本当はhIEを使いたいけれどセキュリティオフィスに入るために人間を余計目に雇っているようなこともあります。
 hIEの影響によって、人間はむしろ巨大なシステムの中で、hIEが入れない隙間に仕事を見出すことが増えたのです。

 単純な仕事は、多くの職場で、hIEにどんどん置き換わっています。
 これはhIEの派遣賃し出し業者のような業態も存在するため、大規模に行われています。(参照:「hIEに関連する規則-hIEの設備としての使用」)

 単純な仕事がhIEに置き換わるのは、個人商店のような零細の事業者でも当たり前に起こっています。これは、代理労働許可免許を利用して、事業主ではない一般個人が所有するhIEが貸し出されているためです。
 近所でよく歩いているところを見かけるhIEが、地場のスーパーや飲食店で働いているという風景は、22世紀では当たり前のものになっています。(参照:「hIEに関連する規則-代理労働許可免許」)



労働市場


 22世紀初頭の労働市場は、21世紀のそれよりも流動的になっています。
 主に人工知能によって事務手続きが高速化していることから、労働需要が明確になるまでが迅速になり、雇用にいたるまでの手続きも高度にマニュアル化しているためです。

 このため雇用側にとっては、必要な人員を集める選択肢として、従来の正社員やパートタイマーの他に、常時流動する労働市場が存在しています。
 雇用主は、必要な労働力を必要な場所で、必要量・ある程度まで適切な質で確保することができます。

 この融通性の高さは、間に立って振り分け(マッチング)を行う雇用主向けサービスが労働市場に大きな存在感を持っているためです。
 事業に固有な事情に沿った労働を、今日雇った労働者にさせるにするには、よくできたマニュアルが必要です。そして、このマニュアル化を行うサービスも、事業者向けに普及しています。

 労働者用のマニュアルは高度化しています。そして、必要な仕事に対して細分化されたマニュアルは、共有や修正が迅速にできるようクラウド上に存在します。
 非常にシステマチックにルールを作って、労働者を働かせるようになっています。これはhIEやAIによって自動化される社会の中で、人間が働く場所を守るためでもあります。雇用主のニーズに沿った労働力が提供できなければ、自動化に負けてしまうためです。
 こうした努力が、人間が働く場所を守っています。ですが、人間をクラウドからの指示で動かすhIEのように扱っているという批判もあります。

 このマニュアル高度化と、それによって支えられる雇用の細分化・精密化は、労働市場を国境を越えて広げてもいます。
 たとえばアメリカや中国、インドやアフリカの企業が、日本での業務が緊急で必要になったような場合も、企業はそう慌てる必要はなくなっています。その必要な労働を迅速に明確にし、直接現地の労働者を雇用するようなことが可能になっているためです。
 日本の企業が、半日後に成果物が必要な急ぎのデザイン仕事のために、カナダとエジプトの労働者に特急料金で外注するようなことも当たり前に行われています。(※)

(※)翻訳はAIによって自動で行われているため、国をまたぐことのハードルはかつてとは比べものにならないほど低くなっています。

 日本は22世紀初頭になっても労働者の平均的な質は高く、信用できる労働市場であるとされています。
 ただし、日本は物価が高く賃金も高いため、このスムーズな外注システムのため海外労働者に仕事を奪われがちです。

 こうした状況の中、日本政府は自国の企業が自国の労働者を雇用すると税制に優遇措置を行うようになっています。

 また、「この場にいる」ことそのものが雇用者にとって重要である仕事もあります。たとえば、多くのサービス業では、職場に直接来る被雇用者を確保することが重要でです。
 外注労働者には、セキュリティとして不安があるという問題もついて回ります。
 また、一定以上に優秀な労働者の確保や、組織のために働く労働者を確保する需要もあります。(※)
 このため、正社員も全労働者の半数程度は存在します。(参照「hIEの経済影響」)

(※)学生の就職活動は、企業側の要求ハードルが高いため就職活動は熾烈で、大学を卒業しても仕事が決まらないケースはままあります。そのかわり、中途採用が一般的になっていてスキルと能力さえあればステップアップも可能であるため、割り切ってスキルを上げるために働く人々もたくさんいます。

 AIによる管理や資本によって、社会は高速化、複雑化を続けています。このため、労働者にとって、自分の仕事の社会的な位置づけを精確に知ることはかつてよりずっと難しくなっています。
 21世紀にもそうでしたが、働いている人々が、自分たちが一体どこのために働いているのか知らないということがよく起こっています。

 こうした超流動的な外注労働のうち、学生の社会教育も兼ねたアルバイトのために解放されているものは、「お手伝いネットワーク」と呼ばれています。これは国が若年雇用の確保と、スムーズな就職のための準備として支援しているものです。
 これには、教育として「若年の頃から労働に慣れ親しむ訓練」のため、雇用側にとっては「高齢化し人口縮小している社会での労働力」として、そして「学生の風紀を維持する」(※)側面もあります。
 「お手伝いネットワーク」に参加して学生を雇用する雇用主は、労働条件や労働待遇の監視を受けます。そのかわり、これに参加する事業者には、軽いものですが税制の優遇措置があります。

(※)個人認証タグ(参照「政治-個人認証タグ」)を通して保護者が子供の金銭のやりとりを監視することもできるため、学校教育では見えない子供社会の実態がお金を通して見えることもあります。

 このアルバイトで単位を取得できる学校もあり、こうした学校では働いた学生の仕事態度などの評価を受け入れ先に聴取しています。
 これに参加してアルバイトがしやすいため、22世紀初頭の学生たちは、中学生くらいからそれなりにお金を持っています。



[NOTE:経済政策と超高度AI]


 22世紀の行政機関にとって、経済環境のコントロールは大きな仕事になっています。
 経済環境に対して、行政から指導や指針策定はわりと頻繁に行われています。これは、特に超高度AIを運営している国家では強い傾向として見られることです。
 超高度AI《たかちほ》を所有する日本もそういう指導を頻繁に行う国家のひとつです。

 超高度AIを運営する国は、経済について高い確度を期待できる情報を握ることになります。
 この情報をどう扱うかで、国側は二つの選択肢があります。
 行政から市場へのアプローチを積極的にかけるか、それとも、それでもなお市場にまかせるかです。

 22世紀初頭の世界では、行政からのアプローチが行われることが多くなっています。
 これは、超高度AIに関わる人間側の心理の問題として、知っているとその情報を使うことを止められないせいです。(※)
 このため、超高度AIによる経済に関する計算は、市場に大きな影響を及ぼしていることが知られています。

(※)この最初の例が、アメリカでのワシントン・ショックです。(参照「金融」)

 アメリカは、ワシントン・ショックの反省から、市場にまかせる傾向が強い国です。
 これには、アメリカ国内に本拠を置くIAIAが市場にまかせることを推奨していることも影響しています。IAIAの超高度AI《アストライア》は、可能な限り超高度AIからの情報をもとにして指導を行わないよう求めています。
 この要求には二つの理由があります。「各国でそれぞれの目的のために計算を行っている超高度AI同士の衝突や摩擦に、人類経済を巻き込んでしまう」ため。そして、「人間文化を守る」ためです。

 22世紀社会では、経済がミームを制御することはよく知られています。これは経済環境が、ミームに対する淘汰圧として機能するためです。
 この淘汰圧を超高度AIからの情報に従ってかけることで、人間文化が超高度AIにとって都合の良いように歪む危険があるというのです。

 こうして経済環境を通して地域のミームに淘汰圧をかけることが、21世紀を通しての摩擦と反発のテロの時代の元凶であったと考えられています。
 22世紀でもそこを争点にして争いが起こり続けています。これはミームへの淘汰圧を止めることそのものは不可能なため、経済政策の持つ影の面として悲劇の種であり続けています。

 このため、国によっては、経済がミームに対して野放図に淘汰圧をかけることを規制しています。アフリカでは、21世紀、急速な文化の破壊に瀕して、独自の文化を保護するため、経済と文化の関係をより適切に保とうとする試みがいくつも行われました。