社会の中のhIE

社会でhIEに向けられる目


2105年現在、日本は超少子高齢化の影響で8400万人しか人口がありません。
しかも、人口比率は21世紀中葉の状況よりは若年の比率が高くなったものの、まだ比重は高齢者が厚くなっています。
超少子高齢化社会のままの日本では、必要であるからhIEの数は多いです。

けれど、人々は、人工物に包囲されたような、強いストレスにさらされ続けています。
hIEは日本国内で産業用も含めると1000万体使われているためです。普通に生活している人間が、一日に一体もhIEを見ないということはそうそうありません。都市部だけではなく、過疎化地域ですら労働力確保のためにhIEはよく使われているからです。

だからこそ、アンドロイドを破壊するような事件は後を絶ちません。
《抗体ネットワーク》(社会セクションで後述)のような集団が存在するだけでなく、hIEに対する虐待は、社会道徳としては問題にされますが法的規制が存在しないためある場所にはある光景です。
hIEに対する虐待を禁止する法や、hIEに人権を与えようという社会運動はありますが、どれも実を結んでいません。
hIE虐待については「自分の所持する物品を、生物ではなく、かつ完全に修理で復旧できるのに破壊を禁じる公益が存在するのか」という問題によって止まっています。人間のカタチをしていることが問題であるなら、人形や彫像のようなものも対象になってしまうこともあります。
hIEへの人権賦与は、人間以外への人権賦与がAIの人権の問題に繋がるため、正当性以前に反対勢力が強大です。
学校のような教育現場からも、アンドロイドはあたりまえに排除されています。

若い世代はhIEが物心ついたときからあったので、それほど極端な反応はありません。
hIEは地域社会の目の届かない部分にセンサーを向けてログをとることで貢献し、社会的アナログハックで人に親切にすることで地域社会での助け合いを無償で担っています。都市住民の減少と高齢化によって重くなった、地域社会の安定に掛けるコストを、hIEが支払って都市生活が健全に保たれていることも事実なのです。

ただし、2080年代以前に10代を過ごした人々には(2105年現在では50代以降世代)、違和感が消えない人が多くなります。
特に2063年のハザードを知っている世代には、根深い不信感を持たれています。




hIEとの付き合い方の地域差

hIEとの付き合いかたには、社会の性質によって大きな差が出ます。
宗教的なジェンダーの現れかたに差異が大きいことがひとつ。特にイスラーム圏では、女性型hIEの取扱が地域によっては非常に微妙です。
もうひとつは社会の持つ過剰な部分が、アンドロイドとの付き合いかたにも反映するということです。

たとえば、日本の場合は、リスク忌避体質、サービス業への過剰要求が、hIEにも反映します。日本では接客業者に扱われるhIEはかなりの割合でハードワークさせられています。
デジカメや自動車がそうであったように、日本人はhIEでも製品に安心やサービスを、当然あるものだとして考えます。
日本の業者のクラウドは常に安心を重視するため、アンドロイドの機能としてのエンタテインメント性は、アメリカ製よりも弱めです。
歌うと上手い、バスケットボールが上手いといった、家事にあまり役に立たない機能はアメリカの業者のクラウドが強いです。そして、実際、アメリカの家庭ではそういうことをhIEにさせます。

ただ、全体的にhIEが多く使われる社会では、子供の性虐待被害は、一定割合程度ではありますが減っています。
これはhIEに子守や子供と遊ぶことがアウトソースされることが増え、子供と大人が直接接する機会が減ったことが一点です。また、センサーとメモリー機器の塊であるhIEが見張っているため、犯罪者が犯行に及ぶ機会が減っていることがもう一点です。



ビジネスユースhIE

 ビジネスユースに食い込んでいるアンドロイドは、「ないとこまる」ほど依存具合が強くなっています。なので、企業がオーナーのhIEは、hIEに何事かあったときの用心に、オンラインの会社サーバにデータを持たせています。
 セキュリティ意識の高い企業は、機体ローカルには重要なデータを極力持たせない運用であることが多いのです。重要な仕事に同行したhIEが、帰り道に盗難に遭ってデータを抜きとられるケースがあるためです。

 ビジネスユースでのhIEの位置づけは、一定ではありません。
 これはhIEがセンサー類の塊であることはよく知られており、保安のために「交渉の席にhIEを同行することを断られる」ケースがあるためです。
 特に自社ビルに研究セクションがある企業では、外部hIEを社内に入れることを全面禁止するケースもあります。

 このビジネス現場ではhIEが情報の穴になることから、重要な会議に同行したhIEは、可能になったとき本社サーバに情報をすぐに送って、機体本体の情報キャッシュのたぐいはすべて破棄してしまいます。

 ただし、こうしたセキュリティ重視の運用は確実に利便性と非常時の耐性を奪います。すべての実データをオーナー企業のサーバが抱えるため、こういう企業では、企業サーバがシャットアウトするとhIEがデータを持っていないためそれを使えなくなるケースがあります。もちろんユーザー側が選択した運用なので、保証はありません。

 なので、特別なセキュリティをほどこされた管理職用のhIEに、ハードコピーを持たせるケースもあります。こうした機体は例外なく、高度に暗号化された特別なデータストレージを持った高級機です。
 このような特別なアンドロイドは、部署付きとかで、企業外に許可無く持ち出しできせません。

 こうした特別なhIEは、企業の人員に顔を覚えてもらったほうが都合がよいので、社会的アナログハックで社員のために日頃働いているケースが多くあります。こうした労働の積み重ねで、企業の顔役のような独自の社内社会での立ち位置を得ているケースもあります。
 給湯室の主になっていたり、朝一番にかならず来るとそのhIEが掃除をしている場合もあり、そうした機体の社内の人間関係での評価は良好です。



プレミアムブランド


ハイクラスのhIEメーカーの生き残り戦術は、高級車メーカーのそれを参考にしています。双方共に、顧客のほとんどが男性だからです。
hIEに身につけさせる革製の特注オーナーエンブレムや、国際オーナークラブの紹介など、オーナーに特別感を持たせる演出が盛んに行われています。

盗難に供えた機体追跡サービスなど、機体外のサービスも充実していることが普通です。

プレミアムブランドでは、クラウドを自社と関連企業で囲い込んでサービスの向上にあてています。
こうしたプレミアムブランドは、データをフィードバックする顧客も上流階層や富裕層であるため、得られるデータも価値が高くなります。
こうした高級ブランドが扱うクラウドは、オーナーが求めるTPOに合わせた社会的振る舞いを行うことが可能です。
「LSLX(Luxury Style your Life Xteram)」は、アメリカ、スタイラス社のプレミアムブランドです。LSLXは、人間以上を志向してショウに様々なコンセプトモデルを出すブランドで、hIEの皮膚を吸湿性にして人間の皮膚とまったく同じ素材感を出すことに初めて成功しました。
プレミアムブランドは、ブランド戦略として、皮膚であったり、動きであったり、髪であったり、どこかしらにどこにも負けない自負を持つ特徴があることがほとんどです。どのブランドのhIEを持っているかで、趣味が分かることが、オーナーの自己表現であるようイメージ戦略しているためです。(参照:NOTE2)

一般hIEメーカーでも、大手メーカーは買収や新規立ち上げによってハイブランドを最低一つは持っています。

プレミアムブランドのhIEは、一機で都内に家が買えるくらいの価格と、相応のオプションやサブパーツ費とランニングコストを要求します。



[NOTE]

1:この時代のhIEユーザーにとっての、hIEのコスト感


人間型の機械であるhIEは、この時代、ひとり暮らしのおとなの男女によく購入されています。
それは、人生の満足と物質的な裏付けという二軸の、「現実的な拮抗点」であるためです。
欲望に対して使える金銭の範囲で考えると、hIEは、安い収入環境でまかなえる満足なのです。

このため、一般的なhIEは、金利を入れても月々3万円程度の支払いで、ローンで5年以内に完済できる価格帯です。21世紀初頭でいうと100万円程度のコスト感のhIEが中心です。
安価なモデルや中古品は、その30%~70%で購入することが出来ます。
この時代のhIEメーカーが販売のために計量した、満足と物質的裏付けの二軸の、この額が安価な拮抗点だということでもあります。

hIEのためにローンを組むのは圧倒的に男性ユーザーのほうが多く、そのため女性に人気のあるタイプのaIEは家事労働ができても30~70万円程度のコスト感の商品が中心です。



2:ユーザーの社交性とhIEの取扱


hIEを購入するユーザーは、90%以上が社会人です。これは、hIEを置くスペースをとれるのが独身の男女だからです。
家庭にすでにhIEがあるのでなければ、最初の一台はある程度の収入を得ることとができるようになった後に購入することがほとんどです。
特に社交性の高いユーザーは、家内で使用しているケースでも外には連れ歩かないケースがほとんどです。

人間関係を広げる時期の人々は、年代を問わず、hIEを意外と連れ歩きません。この傾向は25歳以下のユーザーに顕著ですが、生活介助が重要になる60代くらいまで続きます。
hIEを連れ歩くユーザーの割合は、60代の自営業者より30代の子供がいない主婦のほうが高いというデータがあります。
これは「他の人間と仲良くなりたいときはお荷物」だからです。

グループの中でhIEを嫌っている人がいる場合があることをユーザーも知っていて、それを避けるためです。グループの中で、人間型機械とのよからぬ関係を邪推されるかもしれないということを、社交性の強い人々は避ける傾向があります。
グループの中で「悪い評判」を流されることはリスクであり、それを特に若くて世間が狭いときは避けたがる傾向が強いのです。

プレミアムブランドのhIEは、こうした社交性が重要な場でも連れ歩けることが大きな特徴です。
狭義のプレミアムブランドの定義は、「このブランドの製品なら社交の場に出ても問題ない」という暗黙の了解を獲得したブランドだからです。
このため、プレミアムブランドはイメージを非常に重視して、常にアピールを続けています。こうしたメーカーが、完璧な機能性や、歩く宝石のような一目で人を黙らせる何かを求めるのは、ユーザーからの要望をくみとってのことです。
ある程度以上の規模のhIEメーカーがハイブランドを持つのも同じ理由からになります。
hIE文化は、すでに通常のhIEユーザーのコスト感以外に、文化を抱えられる広がりを獲得しています。



3:hIEはオーナーの下から脱走を行うのか?


hIEにとって、人間はストレートに所有者です。
なので、事故で所有者から「はぐれる」ことはあっても、人間の元を「脱走」することは(語意的な問題として)ないと見られています。
なので、「保護・捕獲」というよりは「回収」が近いニュアンスになります。「落とし物」であるとみなされるからです。

hIEが脱走を行わないと見なされるのは、それが機体内に自律して行動を決める判断系を持っていないことが良く知られているからです。
hIEの行動を決定する行動管理クラウドは、それ自体がサービスです。なので、持ち主の元を脱走する行動プログラムをhIEに実行させることもありません。サービス提供会社が訴えられるためです。

逆に、そういう行動指針を与える特殊なカスタムクラウドに接続していれば、hIEが人間を避けて稼働しようとするケースはあります。
元の所有者が、みずからそうし向けて、人間社会にhIEを放流したものです。
この時代の芸術作品には、おそらく芸術家が、自分の所有するアンドロイドにカスタムクラウドを接続して放流し、「人間として生活させて、グラフィティフィルムを撮る」ようなものもあります。

所有者がこうした行動をするケースでは、原因は様々です。
人間のように情報を取り入れて整理するカスタムクラウドに接続させて、調査目的でhIEを社会に放流するケースもあります。
ただし、こうしたhIEが、長期間活動することはマレです。自動車を鍵をかけたまま放置しているのと同じで、盗難に遭うからです。
逃走、自衛の能力を持たせるケースもあります。ただ、hIEの自衛によって犯人が怪我を負った場合、犯人に逆に訴えられることがあります。この場合は、hIEの持ち主が警察に出頭して事情を説明、メモリーから事実関係を確認する必要が出ます。
最終更新:2014年07月04日 22:37