宇宙利用-地球圏以遠


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宇宙住民について


 宇宙住民という統一したアイデンティティは、22世紀初頭現在では、地球から遠く離れるほど薄くなっています。
 これは、単純に植民や開発が始まってからの期間の差です。

 中国系住民は火星にいようが木星にいようが中国人のままですし、アメリカ人もそうです。アラブ人は金星にいてもメッカに向かって一日五回礼拝します。
 あくまでも地球の各地域の文化を持ったまま、宇宙で暮らしている住民であり、宇宙に立脚したアイデンティティが広く根付いているわけではないのです。

 むしろ、宇宙住民としてのアイデンティティを持っているのは、宇宙で受益している富裕者層と、高等教育を受けている層です。

 木星開発はまさに始まったばかりであるため、住民もほとんど木星住民という意識はありません。長期の出稼ぎという感覚の労働者が大半です。

 宇宙はいまだフロンティアです。
 地球近圏のコロニーに居住する人々にとって、宇宙は格差社会であるように感じられています。けれど、月や他の惑星にいる人々からは、宇宙には快適な生活と不快な生活があるだけに見えています。
 木星や水星はコロニーよりも劣悪な居住環境ですが、居住者は大きな財産を持っているためです。各人がリソースとしてどれだけ資産を持っているかと、その生活が豊かであるかは、宇宙ではまだズレが大きいのです。

 地球近圏のコロニーで政治運動が活発になっているのは、宇宙というフロンティアが地球化しつつあるということなのだとも言えます。(参照「宇宙利用-地球圏」)
 宇宙では急速に開拓が進みつつあるのです。




テラフォーミングについて


 環境そのものを改善するテラフォーミングは、22世紀初頭現在では行われていません。

 月は大気を留める重力が弱すぎ、金星は熱すぎ、もっとも有望な火星については「そんな大規模に改造しても投資した資金の元がまったく取れない」ためです。

 そもそも敢えて不便な地球外に移住する理由とは、資源採掘であり、資源のない場所まで人間が住める環境にするのは予算がかかりすぎると考えられたのです。

 増えた人口の受け皿とするなら、地球化を行えば、火星でも十億人以上もの人口を支えることができます。
 けれど、そもそも22世紀初頭現在でもすでに自動化は一般化しており、人間がそれほどいなければ発展が支えられない状態ではありません。

 22世紀初頭現在の火星人口は4万人で、最低でもこれが一億人を超えるまでは地球化の必要はないと考えられています。
 そして、火星人口が一億人を超えるときが来るのかは、疑問視されています。



地球圏外の文明の離散


宇宙人口


 2105年現在、宇宙人口は50万人を抱えています。そのうち、32万人は地球公転軌道を含めた地球圏のコロニーに居住しています。月居住者が8万人であり、水星、金星、火星、小惑星帯、木星の居住者はすべて合わせても10万人でしかありません。

 ただ、2104年当時は地球の高度一万キロメートル以遠に約40万人であり、わずか1年で十万人近く増えたことになります。これは移住者が増えたこともありますが、宇宙生まれの宇宙第二世代が子供を持つ時期になっていることが影響しています。
 これは、宇宙居住者同士のカップルが生まれていることが大きな要因です。そして、それと並行して、宇宙居住者と結婚して宇宙生活を始める宇宙住民が大きく増えていることもあります。地球住民にとって、宇宙生活を始めるもっともスムーズな流れは、すでに生活基盤を築いている宇宙居住者と結婚することなのです。

 この人口増加は宇宙での最初のベビーブームになると言われており、2110年には宇宙人口は100万人に到達するとも言われています。
 宇宙社会が新生児に備えるということは、子育てのためのインフラが伸びるということでもあります。このため、生活基盤として安定してきたと判断して宇宙移住を選ぶ人も増えるという、プラスの流れが続いています。

 ただ、地球近圏コロニーに比べて太陽系の他惑星の人口の伸びはゆるやかになるとされています。これは居住インフラが貧弱であるためです。もっともよい条件である火星も、問題を抱えています。



宇宙文化の爆発

 人口増加とインフラの増強により、人間の居住環境として宇宙は大きくクローズアップされるものになっています。そして、そのため宇宙文化は大爆発期を迎えつつあります。

 人権宣言にすら調印していないコロニーも、地球圏外のコロニーには存在します。

 こうしたコロニーは、地球からあえて遠く影響が薄くなる居住地を求め、経済制裁を受けても生活が営める戦略をとっています。
 地球文明の影響を嫌って遠い植民地を求める傾向は、特徴的な政治や文化のかたちを持つコロニーでは強固なものです。

 ただ、こうしたコロニーが存在することが、地球が宇宙への高度な人工知能の持ち出しを制限している理由にもなっています。
 「常識と良識の側に立ちたい」という欲求は、宇宙住民にとっても強いものだからです。

 ただし、この文明の離散も一直線に進んでいるわけではありません。
 これは植民世代では強い意思を持って始められた特徴づけが、世代を重ねると薄まってゆく傾向があるためです。たとえば、少数民族の近代以前の暮らしを求めて植民したコロニーが、子供や孫世代に地球文明に戻ることを選ぶケースもあります。

 こうした自然な復帰の動きを、人工知能による社会制御や誘導が止めてしまう可能性があると、地球側は主張しています。
 そして、22世紀の社会科学の成果として、その主張は正当です。

 宇宙人口が地球人口を上回り、宇宙文化のほうが主流になったとき、人類がどのような文明を築いているかはまだ模索の段階です。
 ただ、宇宙人口が地球人口より多くなったとき、超高度AIが地球のみに集中される正当性は果たしてあるのかということはすでに議論されています。
 そのとき人間と人工知能の関係がどうあることがよい道であるのか、その答えは出ていません。



地球圏外の情勢


 地球文化圏で生きられない人々や文化が、地球公転軌道から遠く離れた場所を目指す傾向があります。
 古い時代の宗教様式を復古しようとする勢力が、予算と人員を集めて大規模移民したケースもあります。これは、信徒数の少ない小規模宗教では安定せず世代が変わるとコミュニティ崩壊するケースがままありました。
 ただ、信徒数の母数が大きい世界宗教では、移民と資金が地球から流れ込み続け、独立国として地球に承認をもとめているケースもあります。武器を集めて軍隊を立ち上げるような動きも起こっているのですが、22世紀現在ではそれは達成できていません。これは、地球上の多くの国際機関が宇宙国家の建設を全力で食い止めているためです。
 宇宙時代になっても、その社会の中での人間のありようを保障する方法は、国家が憲法によって行うことがスタンダードです。このため、独自のかたちを持つ国家として、人類社会が細分化してゆくことを無制限に認めていると、人間のありようがバラバラに分断してしまうと考えられています。

 IAIAは、高度AIを宇宙のコミュニティが持つことを強く制限しています。
 これは、高度AIが用いられることで、成員が求めていない性質を持つ分離社会が維持可能になってしまうためです。
 人間を強く抑圧する社会に高度なAIが荷担することを、IAIAは推奨していないのです。

 特徴的な生活ルールのコミュニティは、文化の特徴の独自性を保とうとするものは、あまり長続きしていません。これは文化に流行があり、数十年単位の継続が困難であるためです。
 宗教で繋がるもののほうが圧倒的に安定しています。

 こうした独自ルールの社会は、人格をデータ化したオーバーマンを引きつけます。既存のオーバーマンの生き残りだけではなく、これから人格をデータ化しようとしている志願者もまたこうしたユニークな社会を求めます。既存の社会と適合できないことがわかっているためです。

 IAIAはこうした宇宙へのオーバーマンの逃走を常に警戒しています。
 IAIAの警戒にもかかわらず、地球圏外に逃走したオーバーマンは存在すると考えられています。IAIAはこれが超高度AIにまで進歩してしまうことを強く警戒しています。この事態を防ぐためのIAIAの対応は苛烈のひとことに尽き、コロニーをまるごと居住不能にすることもあるほどです。



地球圏外の法律判断


 地球圏外では、法律判断が一つの大きな問題になっています。植民コロニーではたいてい本国の法律がそのまま有効になるのですが、国境線が明確でない宇宙空間ではどの法律で収めればよいのかも明確でなくなるケースがよくあるためです。
 これは、宇宙空間においてはコロニー間の位置関係すら変動するためで、宇宙空間で法的判断の必要な状況になるたび煩雑な手続きが必要になります。

 この手続きでは、超高度AI《オケアノス》への問い合わせがもっともよく行われています。世界中の判例をリアルタイムに収集し、同時に莫大な数の問い合わせに回答できるこの超高度AIは、宇宙生活者にとってなくてはならないものです。

 宇宙における航行法規はあるのですが、これには明確な罰則がなく、逮捕などは各国の法律で行われています。このため、宇宙でのトラブルは当事者の属する国が強引な方針をとっていると、落としどころを失うことがよくあります。
 こうした状況では、当事者が煩雑さと拘束時間の長さを嫌って逃げてしまうこともよくありました。
 《オケアノス》の登場によって、まずこの超高度AIに判例をはかるという選択肢ができました。裁判になると非常に長くかかるため、《オケアノス》に判例を問い合わせて、それで示談で済ませてしまうケースも増えています。
 22世紀初頭現在では、宇宙空間でのトラブルでは、当事者が刑事罰を受けるケース以外では裁判にならないことがよくあります。




現在、人類はどこまで到達しているのか?


 軌道エレベーターが業務を開始した2090年から、宇宙開発は飛躍的な成長が続いています。
 このため、宇宙は2105年現在どこでも建設ラッシュなのですが、太陽系を俯瞰すると、地球から見て内側の軌道よりも、外側の軌道のほうが開発のペースが速いといえます。

 人類は海王星まで到達していますが、開発が行われているのは木星までです。海王星は、海王星軌道に人を乗せた宇宙船が到達はしたものの、基地などは一切作らず、冷凍冬眠で帰還中の乗組員はまだ木星圏に戻ってきてすらいません。
 海王星軌道の外側は、現在のところ完全に片道航行になってしまうため、人が乗っていない無人探査機しか飛ばしていません。ただし、無人探査機に人工知能とロボットを乗せているため、探査は滞りなく進んでいます。


水星

 水星が太陽に近すぎるということは、開発の手が入れにくかったということでもありました。
 とにかく環境が過酷で、しかも軌道が太陽に近すぎて、その軌道に出入りするために大量の燃料か長い時間をかけなければなりません。このせいで、水星へ向かう往還便はほとんどなく、水星へ向かう船の半分以上は片道航行です。宇宙船が水星に到達後、物資として水星探査基地でバラして使ってしまうのです。

 木星の莫大な燃料を使えるようになったことで、22世紀初頭では木星-火星-地球-月-金星までは定期運行する大型宇宙船が存在します。けれど、この定期便すら水星には行きません。純粋に太陽に近すぎてリスクが高いからです。水星軌道で長期間を過ごすのは、条件が過酷なため専用船でなければ危険なのです。
 22世紀初頭現在、このため商用としては水星開発はまだ行われていません。資金がかかるわりに回収が微妙だと考えられているためです。

 探査のしにくさと到達しにくさを利用して、宇宙海賊の中には水星軌道に拠点を持っている者もあると言われています。ただ、水星軌道で居住するコストは非常に高くつくため、そこに住む者がいるとしても、高度に身体を機械化しているのでない限り生活を営めないと考えられています。

 実際に水星開発が本格的に行われるのは、太陽開発の策源地としてだと見られています。

 2105年現在、人口は約1500人です。
 産業はまだ存在せず、水星の小規模な探査施設の他は、太陽研究の拠点として研究所や観測施設しか存在しません。環境は劣悪ですが、そこで働く人々は、高額な危険手当を受け取る高給取りのプロフェッショナルたちです。
 水星はまだ少数の選ばれた人間のみに開かれた開発の最前線なのです。



金星

 金星は、開発の手がまだほとんど入っていません。
 これは主に地球より内側の軌道を巡る惑星である金星に資本を投下して、後でどうするのかというプランがなかったためです。

 金星の金属資源には期待がかけられています。ただ、金星の資源調査は、表面の大気環境が厳しいため、火星に比べて長くかかりました。このため、金星開発の時期には火星開発への批判が世界的に強くなっていました。火星開発では、初期に到達した国々が大きな利権を主張し、資源開発を囲い込んでしまったことが、非常に大きな問題になっていたのです。

 このため、金星の資源はもっと慎重な取扱をすることが決まっています。(金星条約)そして、船頭が多すぎて具体的な採取計画は22世紀初頭になってもまだ立てられていません。

 少なくとも22世紀初頭現在では、人類社会は金属資源よりもエネルギー効率を重視しています。
 その点でも、金星開発は遅れることになりました。木星の燃料を目標にできた火星-小惑星帯-木星及び木星トロヤ群の、太陽系外側軌道の開発はロードマップを敷きやすかったのです。

 2105年現在、人口は約5000人です。



 月は22世紀初頭現在、地球以外ではもっとも開発が進んでいる天体です。月の昼側に居住プラントが密集しています。

 月の砂(レゴリス)に吸着した酸素やヘリウム3が代表的な資源です。
 この月の砂は、酸素を取りだし生活のために役立てられ、またヘリウム3を燃料として核融合発電を行うことで工業プラントが建造される原動力となりました。

 宇宙開発最初期の宇宙開発を支えたエネルギーは、このヘリウム3でした。2105年現在も月は重工業地域として大きな存在感を示しています。
 これは、月面の面積がコロニーと比較して明らかに広いという、ハードウェアとしての強みに支えられています。この面積を利用して、小惑星帯やトロヤ群から曳航してきた小惑星を最終的に繋留する場所として利用され続けています。そして、工業プラントを集積し、エネルギー施設を置き、廃棄物の再処理工場や処分場も存在します。
 重工業地帯として、月のスケールメリットと正面から勝負できる宇宙施設は、火星が台頭するまでは存在しませんでした。
 22世紀初頭になっても、地球と地球圏コロニーに近いという生産拠点としての強みが失われることはまったくありません。

 居住環境としては、月面ドーム都市では、地球からの距離の近さと豊かなインフラのため、快適に暮らすことが出来ます。ただ、施設を回転させて見かけの重力を作ることが難しいことから、長期滞在を行う場合は3ヶ月置きに1G環境に居住することを推奨されています。このため、月居住者は、中産階級以上では地球と月のラグランジュ点のコロニーなどに二つ目の住居を持っています。
 月は観光地としてもよく訪れられています。

 2105年現在、人口は約8万人です。
 2110年には人口が25万人を超えると考えられています。月は現在施設建造ラッシュのさなかにあります。



火星

 火星の主な産業は資源産業です。火星で大きな鉱脈を持って採掘をしている業者は非常に儲かります。火星の大きな鉱脈は、開発開始当初から、小惑星採掘業者とは桁の違う収益をあげ続けています。
 火星は22世紀初頭現在、非常に進んだ自動化社会になっています。

 これは、火星開発が計画的に行われたためです。
 火星は月の次に人類が到達した天体であり、その開発はルールが整備される前に始まりました。このために大鉱脈は火星開発最初期に大資本と地球各国にまっ先におさえられてしまいました。
 火星の大鉱脈は、21世紀中に探査され尽くされました。22世紀初頭現在、ここに新規業者の入る隙はすでにありません。

 火星開発には、まず最初に大きな権益を握る開発会社が関わりました。こうした開発会社が主導して火星開発のかたちを決めたため、自動化が進みました。
 つまり、開発に必要な人手を算出して、それ以上を受け入れないという方針をとったのです。

 この開発会社主導だったことが火星のありようを決めた例としては、テラフォーミングの問題があります。
 火星は開発開始当初、テラフォーミングに期待がかかっていました。そして、人類第二の居住環境として、いつか太陽系外に出るときのためのテストケースになると考えられていました。けれど、結局テラフォーミングは行われませんでした。
 あまりにもコストがかかりすぎて、生活者にインフラの負担をもはや求められないという経済的判断からです。そして、何よりも「そこまでしてテラフォーミング環境に住みたいのか?」という疑問への答えが、ほとんどの火星入植者にとってNOだったためです。
 開発会社主導だったため、経済的理由と需要のデータが出ると、テラフォーミングはあっさり却下されたのです。

 それでも、経済的合理性のおかげで、火星の居住環境は宇宙としてはかなり快適です。
 火星をテラフォーミングする数千分の一の費用で、火星全人口をおさめられる数の居住ドーム都市を建造し、その住み心地を地球並みにすることが容易にできたのです。(※)
 そして、火星開発には全土を居住可能にする必要はまったくなく、必要な場所に居住ドーム都市や小さな採掘都市があれば充分でした。こうした開発の集中も、民間が入っていることによる特徴でした。

(※)ただし、火星の重力が地球の1/3程度しかないため、定期的に1G環境に生活の場所を移すことを推奨されています。火星住民は、物価の安いコロニーに別荘を持って、一年に一ヶ月程度そちらで暮らすケースがよくあります。
 こうした低重力の月や火星からの退避客を受け入れるコロニーは、外貨準備も豊富で投資も集まりやすく、快適です。

 居住条件としては、どんなに予算をかけたとしても、地磁気が失われ地表に水がほとんどない火星の環境はそれほど快適にはなりません。

 ただ、22世紀初頭現在、宇宙開発としては、火星表面は現在爆発的に発展しつつある木星開発に押されています。これは、火星開発が、大規模開発会社とそれに付き従う下請けと関連業者のピラミッドでできていて、社会の流動性があまり高くないためです。
 火星開発会社の上層部は、資源開発という地球のノウハウを利用できる分野であることから、地球資本の人間で占められています。
 その影響もあり、火星社会は若い割に老成しています。

 人口は約4万人です。月人口の半分であるのは、増える余地がないのではなく、火星社会が受け入れている人口自体が小さいためです。
 地球資本によって高度な自動化とワンセットで開発されている火星は、それほど人間を必要としていません。

 ただ、地球近圏人口の増大にともなって、より豊かな火星への移住を希望する人々は増加しています。このため本国への移住者受け入れの圧力もあり、火星社会は気乗りしないながら移民を受け入れています。



木星

 木星は地球から遠く離れすぎているため開発が遅れ気味でした。
 けれど、木星開発は、木星表面から水素燃料を吸い上げる井戸が建設されてから爆発的に進み始めています。

 これは木星-地球間の距離そのものすら有利な条件に変えて進んでいます。
 つまり、木星開発以前、火星と木星の間にある小惑星帯は、小惑星の軌道が集中する絶好の採取地でありながら開発が進んでいませんでした。これは小惑星帯の軌道にある小惑星を、地球軌道に乗せるためには減速してやる必要があり、この大質量を減速するための燃料を運ぶと非常に高くついたためです。
 そして、この条件は、燃料を木星から運ぶことで解決しました。
 木星に無尽蔵にある水素燃料を使って、木星発で小惑星帯へ行き、そこから減速して地球軌道まで小惑星を運ぶのです。この木星発便による移送では、地球発便のように周辺環境に配慮する必要がなく、大型の推進器と大型の燃料タンクを備えた宇宙船を扱います。
 この大型の宇宙船は、その大量の燃料を使って、従来の宇宙開発では通例行わなかった急加速や急減速を行います。そして目標の小惑星と軌道を合わせ、そこから引き抜いて地球圏へと運びました。

 つまり、22世紀初頭現在、小惑星開発は、木星の水素燃料を使って行われているのです。

 木星発便の登場により、少ない燃料で軌道に徐々に近づけてゆく宇宙船航行は、地球以遠の軌道では少なくなりました。
 木星発の大型タグボートが太陽系を巡り続けています。
 木星の水素燃料井戸は、最初の一本目が稼動したのが2098年でしかありません。それから2105年まで、十年にも満たない短期間で、爆発的に開発が進みました。
 22世紀初頭の宇宙経済は、木星バブルと言い換えてもよい状況です。

 木星は一大資源地として、太陽系開発が続く限り大きな発展を続けると考えられています。
 ただ、木星は資源地でありますが、消費地と遠すぎるため、木星に生産拠点を作る意味がまださほどありません。

 木星居住者は、ほとんどが一攫千金目当ての起業家たちです。住環境も劣悪です。これは、火星-木星間の航路が、かつては地球近圏や月にいられなくなった宇宙海賊が最後に流れ着く場所だったことにも起因しています。
 木星の治安を地球圏からコントロールすることは、その距離の遠さから、非常に難しいためです。
 木星開発はまだ始まったばかりであるにもかかわらず、宇宙海賊と、生命と財産を守るため必然的に武装する開発者たちとが大規模に衝突しています。

 安全を求める声に応えて、地球諸国家は、木星に大規模な軍事基地を建設する計画を立てています。
 ただし、これは充分な資源とエネルギーが存在するにもかかわらず、まだ実現していません。太陽系資源を運搬する燃料を供給する要地であるため、木星でどの勢力がイニシアチブをとるかの綱引きが凄まじいためです。
 そして、木星のポテンシャルを恐れる地球諸国家は、木星植民施設の武装に神経を尖らせています。

 社会状況としても、木星は開発ラッシュに沸いており、政治的な独立を果たそうという機運はまだ大きくはありません。
 これは、木星は一攫千金の存在する場所ですが、そもそも高い資金をかけなければ来ることすらできないためです。つまり、木星には続々と人が集まっていますが、まずはその投資の元を取らねばならない人々だからです。ここでの競争に生き残るために、住民たちに政治運動をしている余力がまだありません。
 ただ、「木星の力をあてこんで宇宙に独立国家を作りたいコロニー」はたくさん存在します。

 2105年現在、人口は約2万人です。



小惑星帯居住者および宇宙空間移動者


 火星と木星の間に横たわる小惑星帯は、22世紀初頭現在有力な資源生産地になっています。
 この小惑星帯の中には、小惑星をくりぬいて居住施設化した場所がいくつか存在し、居住地と最低限度の生産を行える施設になっています。
 ただ、小惑星帯は非常に危険であるため、好んでここに住むのは行き場のない宇宙海賊くらいでもあります。

 また、宇宙には、移動し続けている人々が存在します。
 木星からの定期便が就航したことにより、大型宇宙船に居住する人々が存在します。この航行は一周一年にも及び、搭乗員、乗客を含めて千名を超える規模のものも存在します。

 5万人を超えます。




宇宙海賊


 宇宙海賊のはじまりは、地球資本の犯罪請負業者だったと言われています。
 宇宙に行くための技術的金銭的ハードルが下がったことで、21世紀前半から犯罪もまた宇宙へ広がりました。
 宇宙輸送が商業ベースに乗り始めると、麻薬をはじめとする持ち込み禁止品の密輸が始まり、宇宙居住者が増えると宇宙への逃亡者が増えました。

 この最初の宇宙犯罪者たちは、拠点を地球上に置いていました。
 けれど、宇宙居住者が増えるにつれて宇宙移民の割合が増えてゆきました。宇宙人口が増加するに従って、宇宙に失業や貧困もまた広がっていたからです。

 宇宙に生活の場を持った宇宙犯罪者たちは、またたくまにその規模を拡大させました。
 宇宙で社会的な弱者になった人々や、宇宙社会になじめなかった人々、社会での失敗から立ち直れなかった人々、能力的にドロップアウトした人々が、莫大な数になってしまったためです。
 そして、宇宙移民の初期、こうした人々のケアに明らかに人類社会は失敗しました。リソースとしての余裕のなさや、投資との損益の判断から、少なくない割合の人々を見捨ててしまったのです。

 そして、ケアを受けられなかった人々は、宇宙のそこかしこで犯罪者になってゆきました。

 これは宇宙生活が、地球環境での生活よりも、覚えることや学ばなければならないことが多かったことに起因しています。
 宇宙で一人前の社会人になることは、地球でそうなるよりもハードルが高いのです。これは、宇宙がエリートのみに開かれていた20世紀を超えても、本質的に変わらないことだったのです。

 宇宙海賊は、宇宙移民の割合が増加するにしたがって、より凶暴化し、犯罪が悪質化してゆきました。
 地球の影響を受けない自由な世界への憧れが、ひとつのアンダーグラウンドの文化になってゆき、これは社会に一定の地位を占めることになりました。

 そして、宇宙海賊の時代が始まりました。
 求心力を持った犯罪集団に、高度な専門技術を持った人々も荷担するケースが増えたのです。

 宇宙海賊によく狙われるのは、小惑星運搬を行うアステロイドキャッチャーたちです。
 特に木星時代に入る前のアステロイドキャッチャーは、数年もの長い時間をかけて地球軌道へ小惑星を投入していました。これは剥き出しのお金が宇宙空間を移動しているようなものだったため、海賊が簡単に盗掘することができたのです。

 また、木星の資源採掘施設や、木星からの定期便も海賊に襲撃をしばしば受けます。
 襲撃による資源強奪は地球近圏でもよく起こっています。こうした大胆な犯行が行われるのは、救難信号や通報が発せられても、宇宙は広すぎてたいてい救援が間に合わないためです。

 ただ、大きな被害を出しているため、宇宙海賊への処罰も苛烈です。
 その最たるものは、宇宙海賊であると判断された船舶は、船舶識別登録を取り消されるというものです。宇宙船舶は、それぞれが船舶であることを、通信で識別コードを送り合うことで判別しているのですが、海賊船はこの恩恵にあずかることができません。
 この結果、海賊船はあらゆる公共の宇宙船舶向けサービスから排除されてしまいます。
 また宇宙を漂うデブリ(ゴミ)と宇宙船を分けるのは、この船舶識別登録です。つまり、あらゆる宇宙船や宇宙施設は、危険なデブリを排除するために積んでいる武装で、海賊船を破壊してよい(※)ということです。
 これは自衛のために必要な措置ではありますが、宇宙海賊から退路を奪って過激化させるよう追い込んでいるという批判もあります。

(※)ただし、自由に撃ってよいわけではなく、デブリ排除のための規則に従わなければなりません。たとえば、「デブリ」を撃った結果、その武器が宇宙施設に命中する恐れがあるような場合は、射撃に施設側の許可が必要です。

 22世紀初頭は、宇宙海賊が爆発的に増えつつある時代でもあります。
 強奪だけではなく、宇宙におけるあらゆる犯罪行為に手を染めています。組織のありようや内部ルールもそれぞれ特徴があり、一様なかたちを持っていません。多様であることもまた、宇宙海賊の撲滅が難しい理由なのです。




各星の軍備


 月、火星、金星、木星は、それぞれ条約を結んで独自の軍事力を持っています。
 軍隊を駐留させる余地が充分にあり、かつそうする必要があるためです。

 これら4つの星の宇宙施設は大規模であり、これを守るために軍隊が必要であると、地球の国家も考えているためです。

 ただ、これは地球にある条約締結国(植民地の本国)が軍備を出し合っているものであり、各星独自の軍隊というわけではありません。
 各星の宇宙軍は、各星を守るだけでなく、状況によってはその住民を押さえつけるために働く軍隊でもあるのです。

 そして、宇宙の軍隊は、それぞれ不自由であることが共通の特徴です。
 つまり、保有艦艇数を厳しく制限されていて、自由に艦数を増やすことが出来ません。

・宇宙で戦闘艦を持っていること自体が権力であること。


・高度な訓練を受けた戦闘員の確保、及び戦闘艦の維持やメンテナンスの規模が大きくなると、その集団とそれにまつわる産業を巻き込んで自然に軍閥化してしまうこと。


 が、主な理由です。
 地球は、宇宙に大きな軍閥ができてしまうことに、神経質なほど気を払っています。

 各星の軍には、戦術AIが高度AIとして配備されています。このため、実際には行政府として宇宙の居住民をまとめる能力があります。
 これは、地球側が各星宇宙軍のコントロールに躍起である理由ともなっています。
 高度なAIをもしも自由に持ち出しや生産ができたなら、人類社会が地球を中心にする理由は急速に薄れてしまうと、地球側が考えているのです。

 反対に、宇宙側にとってみれば、軍用の戦略・戦術AIを地球側が管理することは、受け入れがたいことです。これは、「宇宙住民を守るために、宇宙住民自身が命を懸けて戦う軍隊である」にもかかわらず、戦略と戦術を作る頭脳は地球側にコントロールさせろという主張であるためです。
 このため、各星宇宙軍の持つ高度AIの管理問題は、根深い不信と不満を宇宙住民に抱えさせる元になっています。

 妥協策として、地球側のコントロールは、軍に対する量的なコントロールが主であり、質に関しては自由度が高くなっています。
 人工知能を宇宙でもっとも自由に使っているのは各星宇宙軍です。このことが、各星宇宙軍の質的自由さを象徴しています。

 各星宇宙軍は、高度に人工知能化されていることにより、宇宙海賊艦艇に対して数が拮抗していれば一般的に優位に戦闘を行うことができます。このため、各星宇宙軍は精鋭であると宇宙住民に考えられています。
 ただし、精鋭ではあるものの常に手は足りていません。なので、海賊被害が起こるごとに住民から突き上げが起こっています。

 文化と同じく、宇宙における軍隊の地球側統制も永遠に続くものではないと考えられています。これは、宇宙側、地球側で、ほぼ同一の意見が持たれています。
 宇宙における軍隊はずっと拡大傾向にあります。これは、カバーしなければならない領域の広さ、増え続ける海賊被害を食い止めるため軍事増強する必要性、そして宇宙人口が増え続けていることからです
 このため、現在のペースでも二百年以内には完全に地球と力関係が逆転すると考えられています。
 このとき、地球と各星の関係がどういうものになるかの枠組み作りのため、すでに話し合いが始められています。