夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

無間叫喚地獄

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匿名ユーザー

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 世界はきっと、こんなはずじゃないということばかりなのだろう。
少なくとも自分の辿る人生というものはこんな波乱万丈ではなかったはずだ。
聖杯なんて訳のわからないものを巡る戦いに巻き込まれ、現れたサーヴァントはまるで自分を馬鹿にしているかのように正しすぎるヒーロー。
諦めず前を見て、その果に夢を掴んだ成功者。仲間に恵まれ、最後は大団円を迎えた物語の主人公。
それは、諦めなかった自分の未来を見ているようで。
北条加蓮が逃げ出さなければ見ることのできた光景だ、と言われているようで。
彼と自分が違うのは、諦めたか、諦めていないか。
北条加蓮は選択肢を間違えている。彼がサーヴァントとしてあてがわれたのはその証明である、と。

(私は間違っていない。今の私は正しくて、諦めたのは当然なんだ)

 されど、加蓮は悪くない。
悪いのは全て、運命という不確定な要素で満ちたこの世界だった。
そう、思う。否、そう、思わなければならない。

(そうでなきゃ、私は――聖杯に縋ってしまう)

 黄金の奇跡を手にすることで、過去にだって戻れる。
選択肢のやり直し、もしくは、またアイドルをやれるように願ってもいい。
けれど、それは自分が間違っていたという証明にも成り得ることである。

(やり直したいなんて、思ったら駄目)

 どれだけ心を強く持っても、胸の奥底から溢れ出る願いは収まらない。
北条加蓮にとって、アイドルはキラキラと輝いた夢である。
それは加蓮のちっぽけな心が執着するには十分すぎるものであり、短い人生ではあったが、総てを懸けてもいいとさえ思ったものなのだから。

(だって、その願いを肯定することは――)

 口ではどれだけ否定しようが、夢の残骸は加蓮を蝕み続けるだろう。
終ぞ、死ぬ時まで。もしくは、諦めない、と右手を伸ばす時まで。

(――タイガーを、切り捨てなきゃいけない)

 その選択を取った自分は、本当に笑えているのか。
輝きの向こう側へと、辿り着けているのか。

「……ばっかみたい。そもそも聖杯なんてあるかどうかもわからないのに」

 これ以上は考えても仕方がないことだ。
そもそもの話、自分達が勝ちのこれるかどうかすら定かではないというのに。
避難所で過ごす夜は、色々と考えたくもないことを考えさせる。
いつもとは違う部屋で多くの他人と過ごすというのはストレスも溜まっているのだろう。
今もこうして避難所の外に出て夜風にあたって、一人でたそがれることぐらい許して欲しいものだ。
幸いなことにタイガーも空気を読んで霊体化してくれているし、NPCの大人達ももう少し聞き分けがよくなってくれないものか。

「加蓮!」

 もっとも、他の人間はそんなことお構いなしにかまってくるけれど。
我が母親ながらこんな深夜近くになるまで来ないとは。
会社を早退していたはずなのに何かあったのか、全く持って苦労人である。
加蓮はため息混じりに振り返り、気だるそうに笑おうと口を釣り上げようとした所で。

「――――――――えっ」

 浮かべていた表情が全て抜け落ちた。
口から漏れ出す言葉はまともに綴りを見せず、ひゅうひゅうと息が吐かれるだけである。
あの“母親”は何だ? 何故、“パラメーター”なんてものが見えるのか?
朝に姿を見た時は何の異常もなかったはずだ。どうしてという疑問が頭の中を埋め尽くし、足許がおぼつかない。
そんな動揺が伝わったのか、タイガーは即座に霊体化を解除。
加蓮を抱き寄せ、全速力でその場を離脱した。

「おい、マスター! マスター!!!」
「うそ、なんで、どう、して、おか、おかし、おかしい、だって、あれ、あれ」

 ガタガタと震えて、見てはいけないものを見てしまった絶望を浮かべて。
加蓮は、ようやくしっかりとした言葉で呟いた。

「なんで、サーヴァントが母さん、なの?」

 その意味が、その事実が、何を意味しているのか。
感情論で信じたくないと喚こうが、そこにある事実は変わらない。
北条加蓮の母親は聖杯戦争に巻き込まれていなくなった。
運の悪いことにその対象だっただけ。

「……ッ! とりあえず、今は目をつぶってじっとしてろ!」

 虎徹に言える慰めなんてなかった。
これは聖杯戦争だから、の一言で片付けたくはないし、そんな余裕はない。
加蓮達がしているのは戦争だ。無関係な人も多く巻き込んだ無差別の争いなのだ。

「今は、マスターッ! お前を護ることに全力を注ぐ!」

 この街に住む全ての人を護るなんてできないとわかっていても、歯痒いものがある。
元の世界とは違い、ヒーローは自分しかいない。
誰彼構わず助けるお人好しが都合よくいない世界で、戦わなくてはならない覚悟。
そんなものは背負いたくなかったが、やるしかない。
鏑木・T・虎徹がヒーローとして戦うことだけが、唯一残された選択肢なのだから。

「追っては来てるだろうが、能力で引き離す!」

 素早さで言うと向こうのサーヴァント方が数段上である以上、このままだと追いつかれる。
出し惜しみをするつもりはなかった。NEXT能力の開放と共に、加速が増していく。
そして、夜の街を一心不乱に駆け抜ける。

「とりあえず、キャスターに助力でも頼むしかねーな、これは!」

 飛んで走って潜って。街中を縦横無尽に駆け、距離を稼ぐべく。
幸いなことに加蓮の母親に擬態したサーヴァントはそこまで追いかける気はなかったのか、もう後ろに姿は見えなかった。
もっとも、それで安心できるはずもなく、タイガーは能力が消えてなお、走ることをやめなかった。
その間、頭の中にはカウントダウンの声が流れてきたが、加蓮もタイガーも聞く余裕などなく、ただただ逃げ続けた。
そうして、数分が経過して。

「夜分遅くにそんな形相で訪ねてくるなんて、何かあったんだね」

 キャスターのマスターであるはやての家近くで一呼吸を置いている時。
霊体化を解いたギーが音もなくタイガーの横についた。
索敵でもしていたのか、外にいるとは思わなかった加蓮達は小さく驚きの声をあげた。

「詳しい話は後だ、とりあえずマスターをアンタの陣地に避難させちゃあくれねぇか。
 俺にできることだったら礼もしっかりとする。だから――」
「……わかった。僕も貴方に会いに行こうと思っていたからちょうどいい。
 まさか、そちらの方から来るとは思っていなかったけれどね」

 数秒も経たぬ内に二人は行動に移して、移動を再開した。
歴戦のサーヴァントである以上、彼らの行動に澱みはなく、加蓮が落ち着きを取り戻した時には、既にはやての家の中へと到着していた。

(私は、何をあんなに取り乱していたんだろう。あの母親は偽物で、悲しむ必要なんてなかったのに)

 そうして、思い返す。先程の出来事をゆっくりと消化するように。
北条加蓮は外面こそキツイが、内面は優しい少女だ。
他人のことを思いやり、向けられた信頼にしっかりと応えられる、そんな少女であった。
もしも聖杯戦争なんてものに参加しなければ、喪ってしまった信頼も取り戻していたのかもしれない。
けれど、それはあくまで例えばという話であり、加蓮が置かれている状況はそんな過去の話をしている程、余裕はなかった。

(別に、どうだっていい。死んだって構わない、偽物だもの。元の世界に帰ったら、私のことを待っているはずだ)

 母親が、死んだ。否、母親役だった他人である。
本当の母親はこんな世界にいなくて、今も元の世界で自分がいなくなったことを心配していて。
だから、彼女の死に対して、何の責任も悲しみも抱かなくてもいい。
此処にいる全ての人間は自分とは関わりもない、赤の他人だ。
赤の他人が不幸な事に聖杯戦争に巻き込まれて死んだ。それで、話は終わりだ。

(だから、考えるな)

 しかし、それでいいのだろうか。
これもまた、例えばの話だ。
もしも、あの母親が本物だとしたら、自分はどうする。
その可能性がないと、確実に言えるのか。誰がマスターかもわからない聖杯戦争で、絶対なんて言葉はない。
その僅かな確率が当たったとしたら、自分は、泣いて、喚いて、苦しんで、後悔するのではないか。

(可能性を信じるな)

 あの母親が本物だったかなんて、今となっては永遠にわからない。
元の世界に帰るまで、自分はずっと真実を知らぬまま戦わなくてはならない。










“やり直しの理由を探そう”なんて、考えるな。










――――だからこそ、少女は奇跡へと縋るだろう。
弱く、痛みに耐えきれないモノ故に。












 無理に追う必要はない。ある程度の追跡こそしたが、本気にはならなかった。
T-1000はキルバーンの時と同じく、深入りすることはしない。
彼はあくまでアサシンであり、得意とする分野は暗殺である。
真正面から戦うこともできなくはないが、本分は違う。
あのまま追いかけて戦ったとしても、相手のサーヴァントの力量がわからない以上、返り討ちにあっていた可能性だってある。
幸い、未知のサーヴァントは逃げの一手を打ってくれたことによって、手傷は全く負わなくて済んだ。
だから、彼はあくまでマスターを狙うことに終始集中する。
まさか、化けた母親の娘がマスターであった偶然が舞い込んでくるとは流石に思わなかったけれど。

「今後は計画を修正する必要がある」

 今回は突然のケースであったが、今後はこのような事態を想定して動かなければならない。
ひとまず、マスターである少女の顔は覚えた。この母親の娘ということで名前も把握している。
仲村ゆりと違い、この少女はマスターであると確定した以上、やれることは色々とある。
元来、自分はこのように手段を選ばずに標的を殺すモノであろう。
表情一つ変えず、T-1000は北条加蓮を殺す手段を構築し、それを実行に移せるか思考を張り巡らせる。
他の敵対する主従に情報を流すなり、撹乱の意味も込めて、極悪非道というレッテルを貼るなど、やりようは幾らでもある。
無力な少女一人陥れるなど、人類抹殺と比べたら楽な仕事だ。



【B-4/八神はやての家/二日目 深夜】

【北条加蓮@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的動揺極大(本人は落ち着いていると思っています)
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[金銭状況]学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:――やり直したい。
0.悲しむ必要なんてない、誰が死のうが関係ないはずだ。
1.自分の願いは人を殺してまで叶えるべきものなのか。
2.タイガー、ギーの真っ直ぐな姿が眩しい。
3.聖杯を取れば、夢も、喪った人も、全部がやり直せるの?
[備考]
とあるサイトのチャットルームで竜ヶ峰帝人と知り合っていますが、名前、顔は知りません。
他の参加者で開示されているのは現状【ちゃんみお】だけです。他にもいるかもしれません。
チャットのHNは『薄荷』。
ギーの現象数式によって身体は健康体そのものになりました。
八神はやての主従と連絡先を交換しました。

【ヒーロー(鏑木・T・虎徹)@劇場版TIGER&ampBUNNY -The Rising-】
[状態]NEXT能力使用済み(再発動可能まで残り1時間)
[装備]私服
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの安全が第一。
1.加蓮を護る。 その為にもギーに協力を要請する。
2.何とか信頼を勝ち取りたいが……。
3.八神はやてとキャスターの陣営とは上手く付き合っていきたい。
[備考]

【キャスター(ギー)@赫炎のインガノック-what a beautiful people-】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:はやてを無事に元の世界へと帰す。
1.ワイルドタイガーによる人海戦術を頼りたい。避難場所へと向かう。
2.脱出が不可能な場合は聖杯を目指すことも考える(今は保留の状態)。
3.例え、敵になるとしても――数式医としての本分は全うする。
[備考]
白髪の少女(ヴェールヌイ)、群体のサーヴァント(エレクトロゾルダート)、北条加蓮、黒髪の少女(瑞鶴)、ワイルドタイガー(虎徹)を確認しました。
ヴェールヌイ、瑞鶴を解析の現象数式で見通しました。どの程度の情報を取得したかは後続の書き手に任せます。
北条加蓮の主従と連絡先を交換しました。
自身の記憶に何らかの違和感を感じとりました。
新都で"何か"が起こったことを知りました。



【C-3/二日目 深夜】

【アサシン(T-1000)@ターミネーター2】
[状態]正常、『北条加蓮の母親』の姿に擬態
[装備]警棒、拳銃
[道具]『仲村ゆり』の写真
[思考・状況]
基本行動方針:スカイネットを護るため、聖杯を獲得し人類を抹殺する。
1.多種多様な姿を取って、情報を得る。
2.マスターらしき人物を見つけたら様子見、確定次第暗殺を試みる。ただし、未知数のサーヴァントが傍にいる場合は慎重に行動する。
3.「仲村ゆり」を見かけたらマスターかどうか見極める。 北条加蓮はあらゆる手段を使って殺す。
[備考]
キリヤ・ケイジの私物に液体金属の一部を忍ばせてあるので、どこにいるかは大体把握しています。




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ヒーロー(鏑木・T・虎徹)
053:願い、今は届かなくても キャスター(ギー)
046:這い寄る悪夢 アサシン(T-1000) 061:Re:try

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