夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

正義の味方

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匿名ユーザー

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 ―――例題です。
 ―――いえ、是はおとぎ話です。

 昔、昔のこと。あるところに……
 ひとりの若者がいました。人々を愛し、世界を愛する若者でした。
 そんな彼に、偉い碩学さまは言いました。

 ―――お前に力があるとすれば。
 ―――何を守る?

 世界を守る。そう彼は言いました。尊いものを守るため、輝くものを守るため。
 彼はかみさまに誓いました。いかずちの鳳に誓いました。
 そして……

 そして、彼は戦士となりました。それは比類なき雷の戦士。彼は、雷電そのものとなりました。
 彼は戦います。彼の望んだように、雷電として、紫電の光として。まるで人ではないかのように。
 でも、問題がひとつ。すなわち。



◇ ◇ ◇



Q.お前の守るべき世界とは?



◇ ◇ ◇



 ―――夢を。
 夢を、見ていた。

 朝。これまでと変わらない、初夏の陽気に照らされた空気。
 カーテンの隙間から差し込む陽射しは暖かくて、ともすれば二度目の眠りに落ちてしまいそうな魅力があった。
 しかしそれを振り払い、南条光はけたたましく鳴る目覚ましを止め、上半身をベッドから起こす。
 夢を見ていた。それは酷く幻想的で、しかし空想と断じることができないほどの現実感を秘めていた。
 それは……

「ライダーの、記憶……?」

 ライダー。ニコラ・テスラ。光が呼び出したサーヴァント。おぼろげに垣間見た夢の中の人物は彼に似ていて。
 契約したサーヴァントの記憶が夢を通じて流れ込んでくることがあるというのは、聖杯戦争の知識として知っていた。だけど鮮烈に残るその夢が本当にライダーの記憶なのかは分からない。
真偽は分からない。けれど、夢に見たそれを、光は尊いものだと強く感じた。

「いけない、もう起きないと……」

 ともかく起きなければと、揺れる視界に微睡みながら、光はベッドを抜け出る。時計の針は予想以上に進んでいて、考えにふけることを許してはくれない。

 起き抜けで重い体を無理やり押し進め、洗面台へと足を運ぶ。洗顔、歯磨き、ブラッシング、全部OK。冷水を顔に浴びれば曇っていた視界が綺麗に晴れ、鈍った思考も鋭さを取り戻す。

「……よしっ、今日も頑張っていくぞ!」

 ピシャリと頬を一叩き、それで気持ちは切り替わる。
 寝ぼけた少女から正義の味方へと、姿は変わらずとも光は変身を遂げるのだ。

 力強い足取りでそのままリビングへと向かう。聖杯戦争において光に与えられた家は一人暮らしをするには少々大きく、自分には少々不釣り合いなのではなどという思いがよぎったことが印象深い。
 廊下を歩くこと少し。照明の明かりが漏れる扉を開く。

「おはようライダー! ごめん、ちょっと寝過ごしたみたいだ」
「構わん。子供は多く寝るものだ」

 そこには、相変わらず不遜な表情をした彼がいて。
 椅子に腰かけながら、呑気に新聞紙を広げていた。



◇ ◇ ◇



 彼―――ニコラ・テスラには謎が多い。
 自分のことを英国紳士とか、碩学(科学者のようなものらしい)とか、万民を救う者(黄金の女神に誓ったらしい)とか、まあそういう風に語ってはいたけれど。嘘とまでは言わないが、どうにもそれだけではないように感じるのだ。

 以前、何か隠してるんじゃないか、と問うてみたことがある。
 そうしたら、彼は何も言わずむすっとだんまりを決め込んで。むう、と顔を近づけてみたらそっぽを向かれた。
 なおも詰め寄ろうとしたら、淑女がはしたない真似をするなと窘められてしまった。

 ―――絶対に何か隠してる。
 そう確信した瞬間である。

 また、モラトリアム期間を利用してネットで彼のことを調べてみたことがあった。意外なことにあっさりとヒットして、簡単に彼の半生を知ることができた。
 ニコラ・テスラ、20世紀前後にその名を馳せた電気技師。ラジオや蛍光灯を発明したとか、無線システムを提唱したとか、あの有名なエジソンと仲が悪かったとか、功績は枚挙に暇がなくて。確かに彼は、人類史に名を残すに足る偉人なのだと分かる。
 ただ、そこに書かれてあったのはあくまで”発明家”としてのニコラ・テスラであって。それは今ここにいる彼のような、雷を纏って戦う超人的な人物とは到底思えなかった。
 と、そこまで考えて。

「なるほどな。”史実”の私はこのように伝えられているのか」

 いつの間にか後ろから覗き込んでいた彼がそんなことを呟いていた。突然のことにびっくりして、そそくさと立ち去る彼に声をかけることはできなかった。
 だけど一つだけ、何より気になることは。
 大百科に乗せられていた古い顔写真が、今ここにいる彼とは似ても似つかないことだった。



◇ ◇ ◇



 そして。
 そして、今。謎多き彼は目の前のテーブルに座している。
 光が眠りに入っていた間も、彼はずっとここで待機していた。彼が雷電感覚と呼ぶ広域索敵をかけながら、ずっと辺りを探っていたのだ。
 結果として何の反応も掴むことはできなかったが、光がそれを疎んじることも、ライダーがその働きを苦に思うこともなかった。

「さて、遂に聖杯戦争が始まったわけだが」

 広げた新聞を捲りながら、胡乱げな調子でライダーは呟く。
 そう言う彼の前のテーブルには、大量の料理が並べられていた。寿司、蕎麦、お膳に色々。見事なまでに和食で統一されたそれらは、全て出前で注文した品である。
 本来サーヴァントに食事は必要ない。しかし、ライダーに曰く「脳を働かせるのに栄養は必要不可欠」とのことで、毎朝大量の出前を取って口に運ぶ光景は最早日課と化していた。
 無論、これほどの量の出前を賄うお金など光は持っていない。会計は全てライダーが支払っていた。方法は知らないが、ライダーはどこからか纏まった金額のお金を手に入れてくるのだ。
 自分の前に置かれた料理に光もまた手を伸ばしながら、黙ってライダーの言葉を聞く。

「まず第一に。マスター、学び舎には変わらず通うつもりか?」
「ああ、当たり前だよライダー」

 応じる声は素早く、問いかけるライダーに光は即答する。声は穏やかなものだったが、そこから発せられる気配には強いものがあった。

「あそこにはみんながいる。ミサカも、他の人たちも」

 言葉に迷いはない。真っ直ぐに、光はライダーの目を見つめ、言う。

「アタシはみんなが大事だ。だから、アタシはみんなを守らなきゃいけないって、そう思う」
「あすこに在るのは人ではないぞ。人格を再現されたNPCに過ぎん。それでも、お前は守りたいと願うか」
「何度も言わせないでくれライダー。アタシはもう迷わないって言っただろ?」

 せめてもの強がりにと口角を吊り上げる光に、ライダーもまた不遜な笑みを以て返す。
 ともすれば狂気にも映りかねない無駄の極みとも言える方針。しかし、そんな彼女だからこそライダーは召喚に応じたのだ。

「それがお前の輝きならば、私が異論を挟む余地はないな。
……実のところ、な。学園に通うというのは一つの手でもある」

 そんな光の決意に応えてか、ライダーはそんなことを言った。
 え、と驚くのは光だ。断られるとは思っていなかったが、それでも余計なことをライダーに強いていると若干の罪悪感を持っていたのは確かなことで。故に、余計なそれが有効な行動方針だと言われるとは微塵も思っていなかったのだ。

「そうなのかライダー?」
「ああ。まず私たちはこの冬木の街において他のマスターとサーヴァントを探すことから始めなければならないわけだが、しかし手当り次第に探すというのも聊か非効率的だ。
 故に、だ。目印となる地点において他の動きを待つというのも選択肢として浮かんでくる。問題はその場所だが……」

 言いながら、ライダーは一枚の紙を取り出す。冬木の全体図が描かれた市販の地図。ライダーは既に食べ終わった容器を机から下ろし地図を広げる。そして、いくつかのポイントを指し示した。

「多くの人目につき、地図上においてもすぐに目星をつけられる場所となれば自ずと限られてくる。
まず初めに街の中央を繋ぐ大橋に、深都と深山町のビルディング群。駅や病院といった主要施設。
 そして最後に」
「……アタシたちが通ってる学園、か」

 その通りだ、とライダーは僅かに笑みを見せながら言う。

「日中多くの者が訪れ、施設として巨大な分外部からも目につきやすい。何よりマスターが赴いても何一つ不自然ではなく、マスター自身も守りたいと願う場所だ。私たちが待ちの姿勢を取るならば、これ以上の場所はないと考えるが」

 どうだ? とライダーは目線を送る。
 その問いに返すべき言葉など、最初から決まっている。

「それなら話は早い! やろうライダー!」

 当然乗る。ここまでお膳立てをされたのだ、乗らねば正義の味方失格だろう。

「ふむ。ならば善は急げだ。そら、食事と準備を終えたら出立するぞ」

 そう言うとライダーは手に持った碗を下げ、てきぱきと後片付けを始めた。
 その姿からは、これから戦いに行こうというのに少しの気負いも感じられなかった。

「どうしたマスター、言いたいことがあるならはっきりするといい」
「いや、やっぱりライダーは凄いって思ってさ」

 まじまじと見つめる視線にライダーは訝しげに答える。流石に無遠慮が過ぎたかと、光は慌てて目を逸らした。

 視線の理由は単純だ。凄いと、素直にそう思っただけ。殺しあいに動じず、すぐに具体的な案を提示して、何より自分を信じて疑わない。
 あの時もそうだった。かつて恐怖で震えていた時も、ライダーはずっと励ましてくれた。
 だからこそ光は、ライダーと並んで立てるくらいに立派であろうとして、でも。

「アタシはさ、ライダー。ライダーが何かを隠してるんじゃないかってずっと疑ってた」

 顔が俯く。視線が下に下がる。そんな光を、ライダーはただ黙って見つめていた。

「なんで話してくれないんだろうって思ってさ。アタシってそんなに頼りにならないのかなとか、信頼されてないのかなって思って、悔しくって。でも、そうじゃないんだよな」

 眩い英雄と肩を並べられるほど自分は凄い人間ではない。そんなことは百も承知で、それでも悔しい思いは抑えきれなかった。
 だけどそうじゃない。悔しくても、並び立てなくても、何もできなくても。自分がやれることは確かにあるのだから。
 夢で見たかつてのライダーのように、只人の身であろうとも成せることはあるはずだから。

 光は俯いていた顔を上げ、毅然とした表情で前を向く。

「アタシはライダーを信じる。何もできないアタシだけど、それでも自分のサーヴァントのことを信じることだけはできるから」
「だから、これから”一緒に”頑張ろう、ライダー!」

 一息で言い切って、光は笑顔でライダーに手を差し伸べる。
 対するライダーは、やはり常と変らない表情で光を見つめて。

「突然何を言うかと思えば、お前にできることなどないと誰が言った。現にな」

 立ち上がり、ライダーは光の頭に手のひらを置く。
 ぽんぽん、と。老人が孫を可愛がるように、優しげな手つきで頭を叩いて。

「……充電完了だ。こうして傍にいるだけで、マスターは何より私の役に立っているとも」

 見下ろす視線も同様に。誰かを慈しむように双眸が細められていて。

「一緒に頑張る、か。その提案はこちらこそ言うべきものだ。これから”共に戦う”ぞ、マスター」
「―――ああ!」

 二人は互いの手を取り、おそらくは初めてになる握手を交わした。
 迷いはない。どちらも、己の中にある正義を信じて戦うことを誓ったのだ。



◇ ◇ ◇



 少しばかり時が経ち。大通りに面したバス停の前に光の姿はあった。
 その後ろ姿を、ライダーは霊体化したまま見つめる。

(感づかれるか。敏い子だ)

 隠し事をしているのではないかという光の懸念は事実だ。確かにライダーは、マスターたる彼女に告げていないことがある。
 黙っていたのは彼女を信用していなかったわけでも、役に立たないからでもない。ただ単に、話すほどのことではないと判断した故のことだ。

(マスターの住む世界と私の生きた世界が違う、か。何の意味もない事実だ)

 意味を持たない。ライダーはそう断じる。
 それは例えば世界の辿ってきた歴史が違うだとか、自身を始めとした偉人たちの来歴が違うだとか、何よりライダー自身の伝承が違うものになっているだとか。
 それらは全て彼にとっては何の意味も成さない。まして、わざわざ人に話して回るようなことではなかった。

 ライダーは生前、ある誓いを立てている。それは、碩学としての彼を育てた恩師への返答でもあった。
 すなわち―――”この手が届く全て、それが私の守るべき世界である”。
 それはここでも変わらない。蒼天の広がる異界の街であろうとも。遥か遠き三世の果てであろうとも。

(変わりはしない。私は、ただ人々を救うのみ)

 例え万象が立ち塞がろうと、この手が届く限り。
 彼は、遍く輝きを守護するのだから。


【C-9/大通り・バス停の前/一日目 午前】

【南条光@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]鞄(中身は勉強道具一式)
[金銭状況]それなり(光が所持していた金銭に加え、ライダーが稼いできた日銭が含まれている)
[思考・状況]
基本行動方針:打倒聖杯!
1.聖杯戦争を止めるために動く。
2.学校に向かい、そこで他のマスターの動きを待つ。
[備考]
  • C-9にある邸宅に一人暮らし。

【ライダー(ニコラ・テスラ)@黄雷のガクトゥーン ~What a shining braves~】
[状態]霊体化、索敵による魔力消費(ほぼ回復)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を破壊し、マスター(南条光)を元いた世界に帰す。
1.マスターを守護する。
2.学園に向かい、そこで他のマスターの動きを待つ。道中は時折実体化しエリアを索敵する。サーヴァントが引っ掛かった場合は状況に応じて対処。
[備考]
  • 一日目深夜にC-9全域を索敵していました。少なくとも一日目深夜の間にC-9にサーヴァントの気配を持った者はいませんでした。


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