夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

伸ばされた夢-シンデレラは右手を伸ばす-

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匿名ユーザー

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じりじりと喧しい目覚まし時計を聞きながら迎えた朝は最悪の一言だった。
カーテン越しだろうとお構いなしに差し込んでくる光に鬱陶しさを感じながらも、本田未央はのっそりと起き上がる。
しかし、起き上がるには朧気な意識では足りなかったのか、すぐさま横に倒れてしまう。
寝ぼけ眼を擦りながら、這いずり回って目覚まし時計のスイッチを乱暴に押し、そのまま電池を抜き取った。
この目覚ましがあるおかげでせっかくの怠惰な時間が台無しである。
大方、あのお節介なサーヴァントが気を利かせたのだろうが、余計なお世話だ。

だが、決定的に嫌いと言えないのは彼が紛いなりにも自分に対して歩み寄ろうとしているからだろうか。

マスターとサーヴァント。
その関係である以上、加藤鳴海は表立って自分に対して危害を加えない。
あの大きな腕の矛先に、自分は加えられないと、まだ安心していられるのだ。
しかし、薄氷の上で踊るかのように、未央達の関係は歪で脆い。
サーヴァントとして呼ばれた以上、鳴海にだって願いはある。
何があっても、何をしてでも叶えたい願い。
それを達する為には未央はお荷物でしかない。

理解しているからこそ、本田未央は加藤鳴海を完全に信用しきれない。

彼は絶対に裏切らないと誓っているが、そんな口約束を信じれる程、自分達の関係は深くなかった。
令呪を使って裏切らないように強制するべきなのか。
もっとも、偽りの忠誠などいつかは崩れるものだし、命令から逃れる抜け道は幾らでも存在する。
絶対は絶対にありえない。
だから、未央は掌に刻まれた紋様を行使しなかった。
そもそも行使する前に鳴海が自分を襲ってしまえばそれまでの話である。

「シャワー、浴びよ……」

しかし、あくまで仮定の話だ。
未央の拙い頭が出した結論は性格ではない。
それに、ただでさえ雁字搦めに絡まったしこうをこれ以上ややこしくする必要はない。
未だ夢見心地の頭を冷やす為に、未央はのっそりと起き上がり、大きく伸びをする。
そして、立ち上がり緩慢ながらも汗ばんだ身体をさっぱりさせようと風呂場へと行こうと歩を進める。
今、この家で未央は一人だ。
家族は全員各々の役割に準じる為に外出しており、ここには役割すらも放棄して引きこもっている未央しかいない。
口から漏れ出した溜息はこれで何度目だろう。
数えてこそいないが、結構な回数を重ねていると予想する。

夢からはまだ醒めない。延々と続く悪夢は今も聖杯戦争という形に変えて、続いている。
それは初めてステージに立った時の夢であって、初めてステージで失敗した夢でもあった。
夢の中、未央の表情は重く澱み、ステージは自らを拒絶する場所だった。
思い出して微かに嗤う。それは夢でも何でもない、現実だ。
通り過ぎ、目を背けた過去を消す為に自分はここにいる。

だからといって、躊躇なく人を殺せるはずもなく、未央は家に引き篭もることで中途半端に今も生きている。

この冬木市から抜け出すには最後の一組になるまで勝ち残るしかない。
人を殺す。たったそれだけの行為に、自分は尻込みして前へ進むことも後ろへ逃げ帰ることもできなかった。
もっとも、未央が殺人に躊躇を感じるのは当然のことだ。
一般人の範疇を出ない彼女にとって、殺人とは最大級の禁忌であり侵されざるべき領域なのだから。

どうして、ここまで来てしまったのだろう。

問いかけても返ってこないとわかっていながらも、未央は問いかけられずにはいられなかった。
考えても仕方がない。しかし、考えずにいられない。
矛盾していることは百も承知している。けれど、そう思っていることは事実だ。
そんな自問自答を夏の茹だるような暑さと一緒に振り切って、未央はシャワーを浴びるべく服をするすると脱いでいく。
そして、シャワールームへと入り、備え付けの鏡に写るのは未だ血に汚れていない綺麗な身体だった。
加藤鳴海のおかげで未だ争いを知らぬ純白の右手。

『こんにちは、ミオ』

――そして、視界の端で踊る道化師。

この道化師を見ているだけで自分の胸元を掻き毟りたい衝動が迸る。
何度も、何度も。道化師は嘲笑うかのように、未央に語りかけてきた。

諦める時だ、と。

そんな情けない言葉、あの時まで考えたこともなかった。
せっかくの舞台、自分達の為に用意された新曲。
できたてEvo! Revo! Generation!
そのメロディーは今も脳裏に刻まれ、歌うことができる。
明るいはずの旋律が、凶暴に歪んで不協和音として頭にこびりついていた。

「…………こんなはずじゃ、なかった」

未央を引き裂き、煉獄の炎となってその身を炙る熱は何処までも離さなかった。
逃避で耳は塞げない。遮ることができても、過去は消えやしない。
毎晩見る夢は夜を越えるごとに己を苛んで果てが見えなかった。

「私が、何も見えてなかったから」

これも罰だというなら、歓喜と共に受け入れよう。
それを成すことで胸の凝りが取り除かれるなら何度だって罰を飲み込もう。
しかし、何度振り返っても、胸に残る重苦しい感触は歓喜と呼ぶには程遠い。
シャワーから吐き出される冷水を浴びて尚、未央の身体に残る熱は今も精神を蝕んでいる。
チャンスは来たが、すっきりとした爽快感は来なかった。

自分が何を求めて、何を成せるのか。

冷水は悪夢の残滓を洗い流すが、それだけだ。
汗と同じく悪夢は夜になるたびに湧いて尽きることがない。
お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで。
なにせ、未央が此処に呼ばれた大元の原因だ。
自分の失敗のせいで他の人達に迷惑をかけ、大切な初ライブを台無しにしてしまった。
ラブライカの二人も、ニュージェネレーションズの二人も置き去りにして、自分は何がしたいのだろう。

アイドルを――――。

その先の言葉は口が裂けても言えなかった。
願うことさえ罪であるとわかっていながらも、願わずにいられない。
穢れきった奇跡だ、積み上がった屍を乗り越えることでしか叶えられない歪んだものに縋ったのは、正しかったのか。

「わかんない、もう、何もわかんないよ」

自然と溢れだした涙が、タイルの床へと零れ落ちる。
救いの不在を日々証明するかのような現実の中にあって、それでもなおと呟ける程未央は強くない。
神はいない。偽りの街で信じられるのは、自分だけだ。
この刻まれた令呪はその証。
令呪の輝きは未央に現実の何たるかを示してみせた。

聖杯への道標。その過程で喪われていく生命。

膨大な屍の前に、多寡の知れた贖罪などどれほどの意味があろう。
背負わなくてはならない重みを考えるだけでも胸の痛みは強くなっていく。
思わずへたり込み、頭を抱える現状に未央は乾いた笑みを浮かべる他なかった。

「…………私は、どうしたら」
「未央! 無事か!!!」

そして、ぼそりとつぶやいた弱音は乱雑に開け放たれたドアの開閉音と喧しい大声にかき消された。

「――――――なっ」
「…………」

突然の来襲にきょとんとした顔で固まる未央。
深刻な表情を貼り付けて激しく息を吐いている鳴海。
時間が、凍りついたかのように止まる。

「その、なんだ。部屋にいなかったから誰かにさらわれたんじゃないかって。そうだ、だから」
「言いたいことは色々あるけどさ……とりあえず、出てけーーーーーーっ!!!!」

未央の悲鳴と共に、鳴海が慌てて入浴場から飛び出すといったなんとも間抜けな結末に陥った。










「…………」
「…………」

そして、数十分後。
シャワーから出てきた未央と渋い顔をした鳴海がリビングで沈黙を貫いている。
図らずしも、乙女の柔肌を見たこともあってか、鳴海の表情にもいつものような力強さが見受けられない。
女心に疎い鳴海ではあるが、これは明らかに自分の非であると自覚している。

「……未央、悪かったな」
「別にいいよ、見られて減るものじゃないし」

ぷいっとそっぽを向く彼女の顔はこんな時でなければ可愛いの一言で済ませられるが、今は聖杯戦争の真っ只中だ。
できることならば、言葉を交わす程度の仲になっておきたい。
膝を抱えて蹲っているこの少女を護る為に、自分は拳を振るうと決めたのだから。

「話はそれだけ?」
「あ、ああ」
「じゃあ、私部屋に戻るから」

しかし、彼女の態度はサーヴァントとして呼ばれた当初と変わらなかった。
表情は依然として固く、信頼を掴み取れていない。
澱んだ瞳は何も映さず。
未だ笑顔を見せない彼女に、これ以上何を強いろというのか。

(仕方ねぇよな、これから先も俺が一人で――)

加藤鳴海にとって、本田未央は可哀想な少女で護るべき存在だ。
とてもじゃないが戦場に連れていける強さを持っていない。
だから、鳴海は一人で戦うことを決意した。
この少女に血の一滴も付着させぬように。
余計な心配をかけて、彼女をこれ以上追い詰めないように。

ただ、それが正しいのか。頭に疑問が過った。

少し前相対した名前も知らぬ主従は、相互理解を怠っていなかった。
一人で戦う選択を取った自分とは違い、彼らは対等であろうとしていた。
だが、それはネギが戦う手段を持っていたからであり未央を護ろうとすることに間違いはないはずだ。
自分達と彼らは違う。けれど、彼らの有り様から見直すこともある。
今のままで、この先やっていけるのか。
お互いに背を向けあって、正面を見ないままで本当にいいのか。
未央にとって辛い事になっても、いつまでも目を背けさせていいはずがない。

(――――あぁ。そうだ)

どうやら自分は思いの外、背負い込みすぎていたようだ。
力が入りすぎて、肝心なことを忘れていた自分を強く戒める。

「なぁ、未央。ちょっと待てよ」
「…………何?」

呼び止め、振り返った彼女の顔は酷く憔悴し、虚ろだった。
その姿を見ているだけで護らなくてはならないと決意を駆り立てられる。
【肉体的】だけではなく、【精神的】にも。
どちらも欠けてはならないものだと知っていたはずなのに。

「思えばさ。俺ら、今までちゃんと向き合ってなかったな。
 お互いのこと、何も話してないもんな、そんな奴に護るって言われても、信用できねぇのも仕方ないって改めて思ってよ」

いくらこの拳に貫く力が宿ろうとも。
泣いている少女の涙を拭えぬ掌では、鳴海にとっては意味が無い。

「だから、まずは腹を割って話そうぜ。なァに、気負うことはねぇよ。
 遠慮無くお互いが思っていることをぶつけ合おうぜ。そんで、朝飯でも食おうや」

加藤鳴海は不器用だ。
同じしろがねであったギイ・クリストフ・レッシュのように女性の扱いが長けている訳ではない。
女性の口説き方など、彼と比べたら拙いにも程がある。

「な、何で……? そこまでする理由なんて」
「俺がそうしたいから。訳なんてそれだけで十分だろ」

それでも、この両手を伸ばすことが間に合うならば。

「俺はその、さ。口がうまくねぇから、未央が望んでる言葉に応えられないと思う。
 そんな俺には、未央が落ち着くまでずっと一緒にいてやることしかできねぇけど」

加藤鳴海は迷わず本田未央へと手を伸ばすだろう。
今までも、そしてこれからもそうしていく。

「もう一度、誓うぜ。俺が絶対、お前を護る。未央が忘れた笑顔も全部、取り戻してやる」

改めて、未央と対話する。
敵を倒すよりも先に、自らが助けたいと願った少女との対話を考えた。

「だから、ほんの少しでも信じられるって思ってくれたら……俺の手を、取ってくれないか?」

それが今取れる選択肢の中で最善であると信じて、鳴海は未央の答えを待ち続ける。

「…………バカじゃないの」
「自覚してる」
「バカ。自覚してるならもっとバカ、バカ、バカッ、バーカッ」

返ってきた言葉はたどたどしく、癇癪のようなもので会話にすらなっていない。
けれど、こんな悪態でも、今までの未央からすると格段に明るさが伴ったものだった。

「ねぇ、聞いてくれる?」
「おう。どんと来い」
「…………………私さ、プロデューサーにアイドルやめるって言ったんだ」
「そっか」
「一生懸命、私達の為に頑張ってくれた人に、酷いこと言っちゃった」
「なら、謝らねぇとな。なぁに、未央ならしっかりとけじめをつけられる」
「ちゃんと、伝えたい。ごめんなさいって。私の事、いつも見ていてくれてありがとうって……」
「おうよ。俺も応援する。しっかりと真っ直ぐに立って向かっていけ、そうすりゃあきっと、道も見えてくる」

まだ完全には元通りとはいかないけれど。
少しずつ、本田未央の笑顔を取り戻していこう。

「それと、それとね? 私が本当に望んでいたのは、アイドルをやめることじゃなくて。
 あの失敗したステージをなかったことにしたいってことで……っ。だから、だから……っ」

絶対、絶対だ。

「アイドル、やめたくないよぉ……っ! しぶりんや、しまむーと一緒に、アイドル、やりたい……っ!」

この少女の願いは誰にも穢させない。
そうするだけの価値が、彼女の願いには秘められているから。
一人ではなく二人で、足を進めよう。



――その光景を第三者に見られているとも知らずに、彼らは夢を追うだろう。



【B-2/本田未央の家/1日目 午前】

【本田未央@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[金銭状況]イマドキの女子高校生が自由に使える程度。
[思考・状況]
基本行動方針:疲れたし、もう笑えない。けれど、アイドルはやめたくない。
1.いつか、心の底から笑えるようになりたい。
2.加藤鳴海に対して僅かながらの信頼。
[備考]
前川みくと同じクラスです。
前川みくと同じ事務所に所属しています、デビューはまだしていません。


【しろがね(加藤鳴海)@からくりサーカス】
[状態]全身に強いダメージ(再生中)
[装備]拳法着
[道具]なし。
[思考・状況]
基本行動方針:本田未央の笑顔を取り戻す。
1.全てのサーヴァントを打倒する。しかしマスターは決して殺さない。
2.今は本田未央の傍にいる。
[備考]
ネギ・スプリングフィールド及びそのサーヴァント(金木研)を確認しました。ネギのことを初等部の生徒だと思っています。


【アサシン(あやめ)@missing】
[状態]霊体化
[装備]臙脂色の服
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:ますたー(音無)に従う。
1.ますたーに全てを捧げる。
2.正午までには学園まで戻り音無に知り得たことを報告する。
[備考]
音無に絵本を買ってもらいました。今は家に置いています。
サーヴァント(加藤鳴海)を尾行中です。気配を辿りつつちょっと離れながらついて行ってます。
ネギ・スプリングフィールド及びそのサーヴァント(金木研)を確認しました。ネギがマスターであると確信しています。
本田未央及びサーヴァント(加藤鳴海)、拠点を確認しました。
彼女が音無から受けた命令の詳細は以下の通りです。
1:サーヴァント同士の戦闘を偵察、ただし目視できる程度以上は近づかない。
2:戦闘が終わってもマスターを捕捉できなかった場合、敵サーヴァントを追跡し拠点やマスターを特定する。ただし少しでも危険そうであれば即座に撤退する。
3:結果に関わらず、正午までには帰還すること。



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016:鉄心と水銀 交わらない宿命 投下順 018:One man's fault is another's lesson.(人の振り見て我が振り直せ)
016:鉄心と水銀 交わらない宿命 時系列順 018:One man's fault is another's lesson.(人の振り見て我が振り直せ)

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013:白銀の凶鳥、飛翔せり しろがね(加藤鳴海)
アサシン(あやめ) 029:願い潰しの銀幕

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