読売新聞のコラム「サイエンスサラダ」の元原稿

http://sakuralab.jp/index.php?art=38 より転載した。

2011-07-25 00:04:07
ツイッターで、小学校で教えるかけ算の順序について、「3×5も5×3も正しいと」発言しました。その際、以前書いた『読売新聞』のコラム《サイエンス・サラダ》に言及したところ、川端裕人さんからその原稿は読めないかとの要望があったので、手元にある元原稿を転載します。校正前のものなので、掲載時のものとは多少異なる可能性があります。また、掲載日は不明です。おそらく2006年頃だと思います。

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 小学三年生の娘が、学校から算数のテストの答案を持って帰ってきた。バツがある。「次のうち、答えを求める式が3×6になるものに○をつけなさい」という問題だ。
 問題文の下には、選択肢が五~六個あって、娘もいくつかに丸を付けている。その中でバツをくらったのは、小さい玉の六個入った袋が三個ある図である。
 ああ、またか、と思った。そして、まだこんなことをやっているのか、とも思った。これは、「玉六個入りの袋が三つあるのだから、式は6×3、したがって3×6ではない」という理屈なのだ。
 ぼくが学生のころにも、この問題が世間をにぎわせたことがあった。最近も、同じ話題が新聞の投書欄に投稿されていた。数学的には、6×3を間違いとするのは、誤りであろう。6×3も3×6も、等価である。
 だが、小学校の「算数」では、考えかたの順序なるものを問題にするらしい。「6が3個」と「3が6個」では意味が違うというのだ。
 これも変な話である。少なくともこれは数学の問題ではない(だから算数なのだろうけど)。「3×6と6×3にに違いはない」ということを式で表せるのが数学のすばらしいところではないか。「六個入りの袋が三個」と考えても、「三個の袋に六個ずつ」と考えても、かまわないはずだ。「一袋に玉が六個」というのは、ただの六個ではない。単位を正確に表せば、6個/袋である。
 百歩譲って、「こういう場合は6×3と書きましょう」と指導をするのは良いにしても、3×6をバツにする必要はまったくないはずだ。なんで、こんなおかしな指導がいつまでもまかり通っているのだろうか?
 非・数学的なことを小学生のうちから教えていて、しかもそれが二〇年前から一向に改善されていないとなれば、そりゃあ日本の科学離れも進もうというものだ。嘆かわしい。(東京大学教授=科学技術社会論)
最終更新:2015年09月25日 20:40