夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

八神はやて&キャスター

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 夕焼けが空を満たす。カーテン越しにゆるりと差す赤い光と共に、かの都市とは違う歪みのない烏たちの鳴き声が響いている。
 そんなとある民家の一室に、ひとりの男がいた。年若い痩せた男だ。表情には憂いを湛え、手にした本を見つめている。
 見つめる目は、しかし右目だけは尋常なものではなかった。右目の前に発光する幾何学模様が浮いている。見る者が見れば、それは現象数式のクラッキング光であると理解できるだろう
 PiPiPiと幾何学模様から音を立てながら、男は手にした本に右目と意識を向けていた。

「……やはり駄目か」

 ほのかに灯るクラッキング光を消し去り、男はそう声を出した。
 呟く声は淡々と、しかし若干のやりきれない思いが滲んでいる。
 彼―――キャスターのサーヴァント・ギーの"解析"の現象数式により見通せた情報は少ない。この本の正式名称は夜天の魔導書であるということ、魔力蒐集を機能と目的としているということ、転生機能があるということ。
 そして、この本こそがマスターたる少女の体を蝕んでいるということ。
 だがしかし、彼にはこの現状をどうすることもできない。この本の形をした機関は外部からのアクセスを徹底的に禁じている。無理にこじ開けようものなら宿主を呑みこんで強制転生してしまう危険性が存在するのだ。
 そもそも技術者でも魔術師でもない彼に、この魔導書をどうこうできる道理などない。その事実を受け入れると、彼は書を本棚へと戻した。

「どうにも慣れないな、これは」

 無意識に口に出てしまう。それはどうしようもない無力感だ。
 どれほど手を尽くしても、どれほど力を手に入れても。全ての人間を救うことはできず零れる命は無数にあった。これだけは、どうしても慣れない。
 まさか、こんな時になってまでそんなことを痛感させられるとは思ってもみなかったが。

 部屋のドアを開け廊下に出る。ふと、鼻腔に漂ってくる香りがあった。音と、食事の香り。
 油で何かを焼く音。香ばしい匂いがここまで来ている。
 脳内器官の発達と共に味覚と食欲を失った身には不明だが。きっとインガノックが異形都市となる前なら腹の虫が鳴っていたことだろうと思う。

 リビングに降りてみれば、やけに堂の入った動きで料理をする少女の姿が目に入った。
 見事なものだ、と素直に感心する。未だ幼い身でありながら、マスターたる少女はフライパンを巧く使っていた。

「あ、待っててなギー。もうすぐ出来上がるで!」

 ギーの気配に気付いたのか、料理をしていた少女が顔だけ振り返り元気よく声をかけてくる。
 少女は車椅子に乗っていた。まだ十にも満たない年でありながら下半身に重い障害を持っていて、それでも持ち前の明るさは失わない。
 思わず、ギーは目を細めてしまう。何故か、雲の向こうの陽光を思わせる。少女にはそんな雰囲気があった。
 しかしその姿がどこか痛々しいとも感じるのは、決して気のせいではないだろう。

「今日はいつもより腕によりをかけて作ったんや。量も少ないし、今度こそ完食してもらうでー」
「ああ。ありがとう、はやて」

 食べきれるとは口にしない。ギーはできないことを口にしない。コーヒーの他には、卵の炒め物を少し。それが、少女―――八神はやてとの妥協点だった。

「そやけど、ギーったら今日もずっと部屋に閉じこもってどないしたん?
 せっかくのいい天気やったんやし、外に出れば良かったんとちゃう?」
「……そうだね」

 いい天気。確かにその通りだとギーは思う。ギーの住んでいた都市とは違い、ここにはいつまでも変わらない青空が広がっている。

 ―――変わらない。ここはいつも同じ空だ。
 ―――空の色は青だけど。全ては偽りのもの。

 はやての代わりに何枚かの皿を持ち、リビングのテーブルに配置する。
 それが終わると車椅子から椅子へと移し、自分もまた対面の椅子に座った。

「では、いただきます」
「たくさん食べてなー」

 自分もいただきますと言いつつ、はやてはニコニコとこちらを見つめてくる。
 どうにも落ち着かないが、三日もずっと続けられてはいい加減に慣れるというもの。コーヒーカップを僅かに傾けながら、ギーはそう思う。

 そう、三日。ギーが召喚されてから、既に三日が経過していた。

◇ ◇ ◇


 さる6月3日、海鳴市。八神はやては誕生日を明日に控えベッドで本を読んでいた。
 本来ならば、本来の正しい歴史であったならば。12時に闇の書が起動してヴォルケンリッターが現れ、魔法少女たちと共に闇の書を巡る物語が幕を開けるはずであった。
 だがここではそうはならない。12時に秒針が重なると同時、はやては"世界が変質した"のを感じ取った。見た目には何も変わらない、しかし何かが決定的に変わったのだと何故か確信を持って感じたのだ。

 通常の参加者ならば、冬木に招かれると同時に記憶を奪われ、それを取り戻すことが本戦への参加条件となる。
 しかしはやては偶然か、生まれ持った資質か、それとも何者かの作為か。理由は判然としないが、一切の記憶を無くさないまま冬木へと足を踏み入れることに成功していた。
 そして―――

「―――君が、僕のマスターかな」

 そして、少女は運命と邂逅した。

 それからは(少なくともはやての視点では)とんとん拍子に話が進んだ。
 サーヴァント・キャスターの召喚に伴い聖杯戦争に関する知識が流れ込み、とりあえず目の前の外套を羽織った優男が自分のサーヴァントであると認識すると、はやては「マスターとして衣食住の面倒みないとなー」などと暢気なことを言い出した。
 これに面食らったのはキャスターのほうだ。サーヴァントに食事は必要ないとか、霊体化できるから服も自前のもの以外はいらないとか、既にはやても知っていることを慌てて説明するも全て笑顔で却下された。
 そして極めつけはこれだ。

「あ、そや。これから私のことは"はやて"って呼んでな、ギー」
「……は?」

 互いの呼び名に関して、はやては衣食住以上に頑なだった。キャスターではなくギー、マスターではなくはやて。真名を知られてはいけないというセオリーに真っ向から反した行動に、さしものギーも呆けるしかできなかった。
 最初は幼すぎて判断がついていないのだと考えた。少し経って少女が家族というものに強く執着しているのではないかと考えた。最終的には、家族に憧れつつも聖杯戦争そのものを考えないようにしているのだと考えた。
 結局のところは現実逃避なのだろう。キャスターとかマスターとか、そういう聖杯戦争を想起させるような単語を避けることで必死に現実から目を背けているのだ。
 そうして擬似的な"家族"として、実に3日を彼らは過ごした。

「……けれど」

 けれど、それももう終わりだろう。モラトリアムは終わり、遂に聖杯戦争が開始される。
 冬木に足を踏み入れたと同時に記憶を取り戻すというイレギュラー故の破格のモラトリアムだったが、決して永遠のものではない。
 否が応でも、はやては戦いに巻き込まれる。

 終わりは、すぐそこまで迫っていた。

◇ ◇ ◇


「これはそっちの棚に入れといてなー」
「ああ、分かった」

 食事が終わり、二人は食器の片付けに入っていた。
 ギーが口にしたのは、結局は二口程度だった。しかしそんなギーにはやては怒るでもなく、「最初に比べたら大きな進歩や」とどこか嬉しそうにしていた。
 ギーも、そんなはやてのことを憎からず思っている。インガノックでは失われて久しい"笑顔"を持つ彼女は、ただそれだけで眩しい存在だ。
 だが、それでも。現実は非情であり、彼らを待ってくれることはない。

「はやて。恐らく明日、戦いが始まる」
「……」

 拭き終わった食器を棚に戻しつつ、ギーは話を切り出す。はやては向こうを向いており、表情を伺うことはできない。

「モラトリアムは終わる。無論、戦いは全て僕が請け負うさ。でも覚悟はしてほしい」
「……嫌や」

 押し殺すように、はやての声。

「そんなの嫌や。私は殺すのも、殺されるのも絶対に嫌。なあギー、一緒にいよう? 聖杯戦争なんて怖いもん放っておいて、それで、それで……」
「はやて」

 びくり、とはやての肩が震えて、次いで両目からは大粒の涙が零れ落ちた。
 直視すべき現実は、やはり9歳の少女にとっては大きすぎたか。けれど。

「君が殺す必要はない。殺される心配もない。君は僕が絶対に守りぬく。
 だけど、戦いはとても怖いから。君はその怖さだけを我慢してほしい」

 そう言って、ギーははやての目元をぬぐう。声音は穏やかに、決して心配させないように。

「私、私は……」

 声にならない。はやては、ギーの外套に頭を預けると、そのまま泣きじゃくり始めた。
 見た目相応の子供のように。戦いを知らぬ子供であるが故に。


 そしてギーは、泣き付くはやての背をさすり、思う。

 何としても、はやてを元の場所へと帰す。それが僕のやるべきことだ。例えそこにはやての帰りを待つ者がいなくとも、それでもこんな薄汚れた戦いに彼女は似合わないから。
 はやてを帰して―――そして、僕は消えるだろう。それは当たり前のことであり、マスターなくして存在できないサーヴァントの摂理だ。故に、僕ははやての"家族"になることはできない。
 なれるはずがない。なれると少しでも考えたなら、それは思いあがりというものだろう。

『こんにちは、ギー』

 ―――ああ
 ―――視界の端で道化師が踊っている

 いつもは見ないようにしている。道化師は、何故だか過去を思い起こさせる。
 過去の記憶。切れ切れで思い出せない。
 記憶。この手で助けられると驕っていた。差し伸べれば、必ず救えるのだと。
 記憶。次々と手の中をすり抜けていく命。
 けれど、けれど。それでも今度こそ、この小さなマスターの命だけは助けてみせると。
 そう、ギーは固く誓った。

◇ ◇ ◇

 泣き疲れて、宥められて、寝室へと運ばれて。気持ちが落ち着いたはやては眠りにつこうとしていた。
 覚悟は、まだできていない。ギーの言葉の意味も、半分だって理解できていないと思う。
 それでも、ギーが言ってくれた「守る」という誓いだけは、信じてみようと思えた。

『こんにちは、はやて』

 ……また、今日も。
 幻が語りかける。はやてにだけ見える幻。
 視界の端にちらつく道化師。焦点を合わせようとすると、フッと姿を消してしまう。この幻は、はやてが偽りの冬木市に来てからの3日間、ずっと彼女の視界に在った。
 これを誰かに話したことはない。勿論、ギーにも。言葉に出せば途端に不安になるし、そもそも聖杯戦争のことなんて考えたくもなかったから。

「……うっさい、消えて」

 投げやりな、意味のない返答。道化師は嘲笑を残して消え去った。いつもこうだ。あの幻はただ話しかけてくるだけで何もしようとはしてこない。

 幻のことを意識から消し、はやては自らのサーヴァントのことを考える。
 ギー、キャスターのサーヴァント。強いのか弱いのかは分からないけど、そんなこと関係なくはやてにとっては大事な存在だ。
 無口で無表情だと思っていたが、この3日で随分と笑顔を見せるようになった。ギーは多分、そのことを自覚していないのだろうけど。
 幼い頃に亡くなった両親を除けば、ギーははやてにとって初めて「身内」と呼べる存在だ。その感情は盲目であり、すれ違いがあるということを彼女に気付かせない。

 ―――こんな怖いことになったけどな、私は"家族"ができてとっても幸せなんよ

 幸せな夢を抱いたまま、少女は穏やかに眠りについた。


【クラス】
キャスター

【真名】
ギー@赫炎のインガノック-what a beautiful people-

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運E 宝具A(EX)

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
陣地作成:E
自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターは魔術師ではないためランクは最低のものとなっている。

道具作成:C(E)
道具を作成する技能。
キャスターは魔術師ではないためランクは最低のものとなっているが、医療品の類に限定してCランクの道具作成スキルを有する。

【保有スキル】
精神汚染:E-
視界の端に映る道化師の幻。キャスターが自らの狂気と認識しているもの。
精神干渉のシャットダウンはできないが、代わりに意思疎通に問題はない。

現象数式:A
変異した大脳に特殊な数式理論を刻む事によって御伽噺じみた異能が行使可能となる、異形の技術。
火器や爆薬を超える破壊や、欠損した肉体の修復が可能。
キャスターのそれは解析による看破と肉体置換による治療に特化されている。

自己改造:E
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適正。
このランクが上がる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
現象数式を用いる為、変異した大脳にアステア理論を修得させている。

守護:A+
《奇械》ポルシオンによる加護。宝具『赫炎切り裂く無垢なる声』が発動している間に限定してキャスターにA+ランク相当の対魔力・透化スキルを付与し、耐久ステータスをポルシオンと同等のものとする。

【宝具】
『赫炎切り裂く無垢なる声(《奇械》ポルシオン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:31
キャスターの背後に降り立つ、人の形をした鋼の影。
ポルシオンは筋力:A 耐久:B 敏捷:A+のステータスを持ち、胸部の門から熱死を司る「切り裂く炎の右手」と圧死を司る「打ち砕く王の右手」を召喚して攻撃する。
発動にかかる魔力消費量は多いが、維持・攻撃にかかる魔力はポルシオン自身が負担するため実質的な魔力消費は顕現時にかかるもののみとなっている(顕現のみでも莫大な魔力消費が必要となるが、ある程度のインターバルを置けば余裕を持って再発動できるだろう)。

『悪なる右手』
ランク:-(EX) 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
ポルシオンを顕現させている状態でのみ発動可能。ポルシオンの形態を変容させステータスに上昇補正をかけ、変容した右手で薙ぎ払うことで対象の《現在》を奪い去る。
マスターに関しては聖杯戦争中における全ての記憶と変化が奪われ、全てが聖杯戦争前の状態にまで戻される。聖杯戦争参加前に死亡していたマスターは消滅するか死体に戻る。
サーヴァントに関してはその霊核そのものを取り込み消滅させる。
ただしこの宝具は現在全く機能しておらず、また仮に使用できたとしても上記の宝具以上の魔力消費を必要とするため一度の使用ですらはやての身に致死の危険を及ぼすことは想像に難くない。
仮にこの宝具を使うのならば、令呪の補助が必須となるだろう。

【weapon】
なし

【人物背景】
何もかもが崩れ去った異形都市インガノックにて、弱者の生存を認めない都市法に抗ってまで無償の巡回医療を続ける数式医。
例え明日には死せる相手であろうと関係なく手を差し伸べ続ける。昨日も、今日も、明日も。両手からこぼれ落ちていく無数の命を見つめて。
謎の少女・キーアとの出会い、都市に残された最後の希望・奇械の顕現、その他いくつもの事件に巻き込まれながらも、彼は決して自分の生き方を曲げることはなかった。

【サーヴァントとしての願い】
ない。はやてを守り、元の世界へと帰すことを目指す。



【マスター】
八神はやて@魔法少女リリカルなのはA's

【マスターとしての願い】
家族が欲しいという願いは、歪ながらも既に叶った―――そう少女は思いこんでいる。

【weapon】
闇の書(夜天の書)。ただし現在は大半の機能が停止している。

【能力・技能】
料理をはじめとした家事全般が得意。ただし足が不自由で車椅子に乗っている。
保有魔力は規格外に高いが、現状彼女にそれを有効利用する術はない。

【人物背景】
海鳴市に居を構える9歳の少女。下半身に原因不明の障害を負っており、身寄りもなく一人暮らしを余儀なくされている。
実は闇の書(夜天の書)のマスターであり、その身に宿した魔力は膨大。不遇な境遇にもめげず明るく優しい少女であるが、辛いことを一人で抱え込んでしまう悪癖がある。
また、その前向きさは自身の境遇から来るある種の投げやりなものではないかと周囲の人々に推測されていた。
正しい未来においては魔法少女となるも、今回はそれ以前からの参戦である。

【方針】
日常を過ごす。聖杯戦争のことはあまり考えたくない。



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