夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

前川みく抹殺計画

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匿名ユーザー

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 へぇ、と竜ヶ峰帝人は今日一日に起こった事件を見て素直に驚嘆した。
昨日の通達通り、聖杯戦争は確かに始まった。各地で小規模な戦火の炎が上がり、誰かがいなくなっている。
このダラーズを模したサイトだけでも様々な情報が舞い込んできている。
それは大きなものから小さなものまで。
非日常という世界が自分の傍で展開されたことを肌で感じている。

(僕が望んだのはもう一度、正臣や園原さんと仲良く過ごすことなのか。
 それとも、非日常が蔓延る世界で生きることなのか)

 聖杯戦争という世界の裏側を知って数日経っても、帝人の胸中は晴れることがなかった。
むしろ、日が経つごとに曇りがかり、何が正しいのか、正しくないのかがわからなくなってきている。
戦わなくては生き残れないとわかっていながら、帝人は動くことができていない。
幸いなことに、サーヴァントであるクレアは特に気にした様子ではないからいいものの。
このままではいけない。期限である一週間が終わる前に、自分は決めなくてはならないのだ。

(動くか、動かないか)

 自分が平常通りの日常を過ごしている間、クレアは既に一組を潰してきた、と報告してくれた。
加えて、他のマスター、サーヴァントとの会合のチャンスまで持ってきてくれたのだ。
凡庸な自分にあてがわれたサーヴァントとしては出来過ぎた成果だ。
彼が放つ自信は確かな実力に裏付けされている。

(いつだって、僕は蚊帳の外だった。街に置き去りにされたのは僕だけだった)

 さぁどうすると投げつけられた非日常。
これより先待っているのは非日常の塊である人間達との会合であり、自分は場違いなのかもしれない。

(……もう、何もしないままは嫌だ)

 口元に自然と浮かぶ笑みは何を意味しているのか。
凡庸な自分が本当に望んでいたことは何であるのか。
内なる欲望の矛先は未だ知らず。
流れるままに今を生きる自分の行く末を、どう変えていくのか。
立たされた岐路。提示された選択肢。
今日、この瞬間――選び取る。

「ところで、アサシンさん」
「何だ?」
「その、言い難いことなんですけど」

 だが、帝人は、その前に背後で鼻歌交じりにカチャカチャと音を立ててるアサシン――クレアへと物申さなければならない。
最初は気にするまいと目をそらしていた。次に意識せぬよう、視界に入れぬようにしていた。
最後に、聞きたくないと言わんばかりに耳栓をして完全シャットアウト。
しかし、どうしても気になってしまうのだ。否、あそこまで《広げられてしまっては》もうどうにもなりやしない。

「――――床に広げている拳銃とか、手榴弾的な何か、どうしたんですか?」
「ああ、そういうことか。要するに、バレるようなヘマは打ってないか、そうだろう、マスター。
 だが、その心配は無用だ、安心しろ。これらの品々は極めて友好的に《譲って》もらった」
「……絶対、友好的じゃないですよね」

 拳銃、手榴弾、ナイフ。見るからに物騒な代物のオンパレードだ。
これからどこかへとカチコミにでも行くのだろうか。
人生で一度も持つことはないであろうと考えていた武器の数々が所狭しと並べられている。

「こういうものは、備えておいて損はない。サーヴァント相手ならともかく、マスターなら十分に有用だ。
 これは戦争だからな。どんな手を使ってでも勝ち上がってやるんだから、まああって損はないよな。
 ああ、俺はこんな武器なんてなくても最強だから心配はいらない。何せ俺は――――」
「――――世界の中心にいるから」
「理解が早くて嬉しいね」

 それらの物品は、平和的な世界で生きてきた帝人とは縁遠き血生臭さを漂わせる。
自分達は今、《戦争》をしているのだ。
朧げな日常に微睡んでいる暇なんて、どこにもない。
いつ、いかなる時、今の日常が崩れてしまうかわからない以上、決断は早い方がいい。

――非日常は目と鼻の先にある。

 その貪欲な黒き欲望は、言葉にはまだ出なかった。
されど、彼の内面は既に、非日常に芯まで溶け込んでいる。
日常と非日常。矛盾を抱えたまま、彼は均衡を保っているが、この先、彼を劇的に変える出来事次第では容易く崩れてしまう。
彼の中に生まれた焦燥感は、この聖杯戦争に呼ばれる前ですら、臨界点を迎えていたのだから。
そうして、生まれた《怪物》はきっと、戦争を更に混沌とさせていく。
平凡なまま、表面上は何も変わらず。竜ヶ峰帝人は、焦燥と渇望を糧に馬鹿騒ぎの彩りを鮮やかにしていくだろう。













 重い溜息をつき、瑞鶴は項垂れていた。
着ているキャミソールは紐が垂れ下がっているし、ショートパンツは半分ずり下がり、パンツが見えている有様だ。
洗い物をしているスタンが時より「服装はちゃんとしとけよ……」、と呆れたように声をかけるが、上の空である瑞鶴の耳には全く届いていない。
時よりぐわんぐわんと頭を揺らし、パソコンの画面をじっと見ることの繰り返し。
それはもう見ている側がぎょっとするぐらいに今の彼女はねっとりとした空気で包まれている。
実際、スタンはもう見てられないと言わんばかりに洗い物へと集中していた。

(情けないなあ、私。アウトレンジで完敗するなんて、どうしようもないじゃん)

 このような表情では近くにいるマスターにも今の彼女は呆れられてもしかたがない。
それは絶対の勝利と信頼を掲げる瑞鶴にとって、よろしくないことである。
しかし、そんな簡単なことにも気づかないぐらい、今の自分は追い詰められていた。
あの流星が如き一撃は今後の不安を表すのには十分過ぎるものである。
敗走した。即座に撤退を打ち出していなければ、自分はきっと討ち取られていたはずだ。

「くーやーしーいーっっっ!!!」
「お前が負けて逃げ帰ってきたことは全然気にしてねえって言ってるだろ。ったく、いつまで引きずるんだよ」
「マスターさんが気にしなくても、私は気にするのっ! 私はマスターさんにとって最優のサーヴァントでいたいのっ!」

 マスターである彼は、敗走した自分を咎めはしなかった。
今も何にも気にしていない風を装っているが、内心は落胆でいっぱいかもしれない。
もちろん、マスターがそんな人間ではないことも、自分のことを頼りにしていることもわかっている。
彼は信頼の言葉をしっかりと口に出してくれている。
特段に、引きずることではないと理屈でも言葉でも証明されているのに。

(……一つでも選択肢を間違えていたら、絶対死んでた。それがわかるから、ムカつく。ほんっっとうに、ムカつく!)

 余計な欲を見せずに偵察に徹していたからこそ、自分はまだ生き残れている。
もしも、果敢に攻めの姿勢を崩していなければ、と。
後々振り返っても、寒気がする。
慢心はなかった。ただ、力が足りなかっただけ。
幾多もの戦を乗り越えた経験など、他のサーヴァントも持っている。
単純に、自分には力が足りないのだ。聖杯戦争を決定的に勝ち抜ける力が、ない。
だからこそ、取れる手段を選ぶ余裕は全くもって存在しない。
あの気持ち悪いサーヴァントの誘いにだって乗らざるを得なかった。
戦力も、情報も。得なくてはならないものはたくさんある。
今もパソコン前で待機してるのだって、勝ちたいが故である。
黄金の奇跡を掴む為なら、このような細々としたことも進んでやってやる。

(もうこんな思いをするのは嫌。マスターさんに心配させないように、戦う)

 改めて、自分とマスターに誓う。
勝利という幸運を必ずや引き寄せてみせる。
決意を新たに、瑞鶴はギュッと手を握り締めた。

「おい、瑞鶴。落ち着いたんなら、さっさと着替えを洗濯カゴに入れておけよ。
 と言うか、なんで俺がお前の衣服まで洗ってるんだよ……」
「いいじゃんいいじゃん、別に減るもんじゃなし~。私が洗うより家事万能のマスターさんがするべきよねぇ~。
 ほら、適材適所ってやつよ。うんうん、私ってばちゃんと考えてるんだからね」
「女性モノの服や下着を洗うハメになってる俺の羞恥心とかその他色々含めて考えてくれよ……まあ、いいけどさぁ」

 そして、彼。マスター、スタン。
帰り道、合流してから。前川みくがマスターであったと伝えた頃から。
彼の表情には陰りが見えていた。
願いの為に殺さなくてはならない敵が近くにいた。
会話を交わしたことのあるクラスメイトを、彼はどうするのか。
殺せるのか、それとも見逃すのか。
どっちの決断に傾こうと、瑞鶴は彼を見捨てるつもりはない。
一度幸せを運ぶと決めた以上、彼には何が何でも幸せになってもらう。

(はぁ、全くもう……思っていたよりも、マスターさんに入れ込んでいるのかもね。
 うじうじしてて、ヘタレなのに。そもそも女子力が私より高いとか、生意気なのよ)

 彼の願いはやり直し。そして、自分の願いはやり直し。
共通しているから彼に同情している? 譲れない願い、無くしてしまったモノ。
過去を変えたいと願うのは、よっぽどのことだ。
強く焦がれ、それでもと手を伸ばして、なお。

(それでも、君は戦うって言った。大切な人の幸せを願い、誰かの幸せを奪うことを選んだ)

 自分の願いの為に誰かを殺すなんて、できない。
最初に呼び出した時にそう呟いた彼の横顔は苦悩で塗れていた。
譲れない願いを持っているものの、他者の生命を奪う覚悟を安易に決めれる程、彼は非情に在れなかった。
短い付き合いではあるが、彼のことはそれなりには詳しいつもりだ。
彼が物事を一人で背負いがちなことも、お嬢様と称する彼女のことをとても大切にしていることも。
本来ならば、こんな我欲の戦場に出てくる人間ではないのだ、彼は。

(生命の奪い合いなんて怖くてたまらないって嘆く癖に、肝心な所はきっちり締めるんだから。
 そういう重いものなんて、私に背負わせておけばいい。
 後は何も知らないふりをして、日常を謳歌していたらいいのに)

 瑞鶴は、臆病さというのは一つの感度であると考える。
それは痛みであったり、恐怖であったり、悲しみであったり。
様々な事柄について感度が良好である程、弱いのだろう。
けれど、その弱さはある種、優しさに通じるものでもある。
弱いからこそわかることだってあるし、彼のそういった善良さは瑞鶴としては好ましい。
もっとも、サーヴァントとしては素直に肯定を示せないけれど。
勇敢なる武者であれば、このように悩むことはなかったし、残忍なる魔術師であれば勝利も容易であったかもしれない。
聖杯を以ってして、奇跡を成す。軌跡を消してやり直さなければならない彼女からしてみれば、認められるものではない。

(けれど、ね。今となっては、君が私のマスターで本当に良かった。恥ずかしいから言わないけど、心底嬉しいんだよ)

 見知らぬ誰か、もしくは絆を深めた誰か。
背中合わせで戦う事ができたらいいのにな、と彼は言った。
確かに、そうできたらどんなに良かったことか。
仲間を作れたとしても、いつかは切り捨てなくてはならない仮初のものだ。
信じられるのはマスターだけ。これはたった二人で挑む戦争である。

(君のそのスタンスは好ましいと思うよ。影に隠れてコソコソとしてる男よりは全然いい。
 涙目で震えながらも、自分も戦場に立つってさぁ、そんな有様じゃあ心配しすぎて私の胃が痛くなるっての)

 自分はきっと運が良かったのだろう。
願いにも理解を示し、自分のことをわかってくれようとしてくれる。
どんな有様になっても、チャンスが残っているならやり直したい。
奇跡に縋るみっともない女だと卑下した時、かっこ悪くなんかないと言ってくれた彼がマスターで本当に良かったと再確認したものだ。
やっぱり優しすぎるよ、と。瑞鶴は彼の後ろ姿を見て思う。

(彼女の幸せを願うと言った。その想いは素晴らしいけど、そこに自分の居場所はいらないなんて、落第点もいいとこよ。
 勝手に諦めて、誰かを代わりにすげ替えるなんて、許さない。君が、君自身が救われなきゃ、そのお嬢様も喜ばない。
 頑張って、頑張って、怯えながらも勇気を見せた君は、幸せになるべきなんだ)

 だから、そんな彼が幸せを掴めないまま、やり直しに消えることを瑞鶴は良しとしない。
切に、願う。この聖杯戦争の果てで、彼が自分の幸せを見つけてくれることを。
代替品なんかで、君の価値を下げないで、と。

(勇気ある行動の結末が悲劇であっていいはずがない。黄金の奇跡で、君は――お嬢様をちゃんと正しい形で救うべきなんだよ。
 どうにもならない不条理も覆して、君には笑っていて欲しいよ)

 きっと、瑞鶴の心情は、今の彼に伝えてもわからないことだろう。
瑞鶴以上に自分を卑下して、大切な人にとって、必要ない存在だと認識している彼がいつか気づいてくれるならば。
そして、自分自身のことに価値を見出さない限り、彼と瑞鶴は平行線のままだ。

(その為には、私が気張らなくちゃね)

けれど、いつか伝わるなら。彼が自分の幸せを見つけてくれるなら。
瑞鶴は笑って、彼と別れることができるから。
そんな、幸せな夢を望んでしまった。
自分達の終わりが、どうか幸福であることを。












加賀岬『それで、張本人が来ないっていうのはどういったことでしょうか?』

田中太郎『その、言いにくいことなんですけど、すっぽかしたのでは?』

田中太郎『閲覧者にもいませんし、完全に自分達しかいませんよ?』

加賀岬『あの場にいる全員をわざわざ呼び出しておいて、気に食わないですね』

ロマンチスト『まあ、かれこれ数時間待ってますしね』

田中太郎『どうしましょうか、このまま解散にします?』

加賀岬『それこそ無駄な時間になります、何か時間を潰す案はありませんか』

ロマンチスト『ふむ、そう言われても困りますね』

内緒モード ロマンチスト『なら、こうするのはどうでしょう』

内緒モード ロマンチスト『場所を移して親睦でも深めるというのは』

内緒モード ロマンチスト『情報の共有。特に、あの純黒のサーヴァントについて』

ロマンチスト『各々、少し時間を置いて考えてみましょうか』













 攻めるならここしかないと思った。
あのサーヴァントは危険だ。醸し出す雰囲気は最悪、手品のように場の総てを平らにしてしまう宝具。
木々を消し、宝具を消し、そして敵意すら霧散させてしまう異質な何か。
鈴音からすると、百害あって一利なしの最悪の存在である。
このチャットだって、どうにかしてそのカラクリを解きたいから参加しただけであり、できることなら彼とは一秒も関わり合いたくなかった。
チャンスが有れば、即座に武器を向けて殺したいぐらいには嫌悪感を覚える存在だ。
そもそも、鈴音が掲げる世界平和とは遠く離れた悪質さを持つであろう彼を、長々と生かすつもりはない。

内緒モード ロマンチスト『どうかな。良い提案だと思うんだけど』

 もっとも、あのサーヴァントのことだ、名前を偽ってこのメンツの中に紛れ込んでいるかもしれない。
そして、何食わぬ顔で此方側へと擦り寄って、嘘八百な情報で踊らされることも考慮はしている。
そうなった場合、剣呑な敵意がバレてしまい、これからの行動にも乱れが生じるかもしれないが、もちろん、鈴音も承知の上でいる。
あのサーヴァントが、牽制により動きが鈍くなることを願ってはいるけれど、確率としてはそこまで高くはないだろう。
それでも、鈴音には動かなくてはならない理由があった。

(どうにかして、アレは早期に落としたい所ネ。戦場が混沌としている序盤にこそ、どさくさ紛れに消したい。
 終盤にまで生き残られると、厄介この上ないヨ)

 彼女の経験からして、ああいったトリックスターは場を掻き乱す前に消すに限る。
今、出した提案はかなり強引ではあったが、このままズルズルと流されていてはあちらの思うツボだ。
特定される可能性に関しても、全員が口調を変えて、チャットをしている以上、即座に正体を看破するには至るまい。
それよりも、今は場を掌握して、少しでもあのサーヴァントに向ける刃を増やしたい。何なら、殺せずとも、敵意を向けることができるなら御の字だ。

(長谷川サン辺りがパートナーであったら、危ないかもネ。電脳に関しては彼女に軍配が上がるし、私の特定だってしてみせるだろう。
 もっとも、それはありえないカ。彼女はこういった荒事を忌避しているし、私の知る限りでは一番日常に焦がれている。
 このような戦争に奮って参加をするような人間ではない)

この世界でも長谷川千雨はクラスからは距離をおいている。
ダルそうに授業を受け、最近は学校に通うのがめんどくさくなったのか不登校気味だ。
これが通常であるなら、マスターであるか疑った。
しかし、対象は、魔法や非日常を、ノーセンキューの一言で済ます厭世的な思考を持つ長谷川千雨である。
聖杯戦争というとびっきりの非日常に加え、生命の奪い合いに願いを携えて参加してくるとは到底思えない。

(まあ、そんな低い確率を危ぶむよりは、少しでも包囲網を狭めるのが安定ヨ)

 限りなく低い確率に怯えるよりは、あのサーヴァントの不利益になることをした方がいい。
相対した時、思考、五感、感情――その全てを、鮮明に覚えている。
こいつは殺さなくてはならない。相容れることなど、絶対にありえないと超鈴音の総てが理解した。

内緒モード 加賀岬『わかりました、その提案に乗りましょう』

内緒モード 田中太郎『話を聞くぐらいなら……』

 そら、釣れた。厄介この上ない難敵をどうにかする機会だ、彼らからすると乗ってこない理由がない。
慎重に、かつ迅速に。表ではとりとめのない解散の意を伝え、裏では新しいチャットURLを貼り付ける。
彼に悟られないよう、ログも全部消して、まっさらにして痕跡もなくしておこう。
かたかたとキーボードを打ち鳴らし、鈴音は場の環境を自分が望む方向へと引き寄せていく。
パソコンの画面を新しいチャットに移し、改めて、決意を確認する。
何とかして、あのサーヴァントを排除しなければならない。
清濁の境界線すらも塗り潰す、純黒のサーヴァント。
けらけらと何の中身もない笑みで『なかったことにする』所業をこれ以上、見過ごしてなるものか。

ロマンチスト『諸君らの賢明なる決断に感謝を』

 問題はここからだ。
何とかしてあの場にいた二人のサーヴァントを此方側へと引きずり込む。
その為なら、幾らかの譲歩も構わない。
あの厄介なサーヴァントを潰せるなら、十分にお釣りが来る。

ロマンチスト『では、早速、私から提案がある。何、簡単な話だ』

ロマンチスト『あの純黒のサーヴァントを、殺す為の同盟を組まないだろうか』

 この局面を乗り切り、必ずや願いを叶えてみせる。
それが神楽坂明日菜の為でもあり、自分の為にもなるはずだ。












「同盟……!?」
「成程。俺は全く気にも留めなかったが、あの黒いサーヴァント、よっぽどの不評を買ったな」

 提示された言葉は簡素ながらも、思惑がはっきりと分かるものだった。
帝人もクレアも、表情は対象的であるが、思考に浸る。
さて、どうする。この提案を受けるか、受けないか。どちらをとっても、メリットデメリットは存在する。

「……どうするべきでしょうか」
「どうもしない。俺の仕事は初めから最後まで変わらない。お前の聖杯までの道を切り開くこと、それが与えられた依頼だからな。
 この提案を受けようが受けまいが、勝つのは俺だと決まっている。その過程で一時的に同じ標的を狙うのだってそれなりにはあることだろう。
 まあ、つまりだ。どっちでもいいさ、こんな些末なことで選択を間違えても、辿り着く道は途切れない」

 クレアは帝人の困惑を打ち消すかのように、淡々と言葉を返す。
彼からすると、心底どうでもいいことだ。
この世界は偽りであろうが正しくあろうが、自分が中心である。
どう動いても、世界を回すのはクレア・スタンフィールドだ。
サーヴァントになっても、その過剰なまでの自己中心的な考え方は揺らぎはしない。

「決めるのはマスターだ。どちらに傾こうが、俺という存在が味方であることに変わりはない」

 マスターである帝人はこれでいて賢い。
非日常という単語に異常なまで焦がれ、どこまでも突き進む根源の思いを除けば、冷静に物事を考える事ができるだろう。
やがて、結論を出す意を決したのか帝人はキーボードを打ち始めた。

田中太郎『即決はできません』

田中太郎『ですが、情報の共有についてなら、賛成します』

 当然、同盟を組むことで何事もなく、と済むはずがない。
背後から攻撃なんて、この聖杯戦争ではよくあることだろう。
表面上ははっきりしているが、内面の思惑はもっと混濁しているかもしれない。
ここで、何の考えもなしに答えを返すことは愚の骨頂だ。
とはいえ、クレア自身、ここで帝人が選択肢を間違えようとも、護れる自負がある。

田中太郎『ひとまずはその純黒のサーヴァントについて、知っている情報をまとめて見ませんか』

 純黒のサーヴァントが何であろうと、情報さえあれば、対処だって容易である。
クレア自身、経験上から殺し方、終わらせ方なんて幾らでも知っている。

ロマンチスト『そうですね。まずあの場にいた私達が知っていることについて』

ロマンチスト『何処からともなく、螺子を呼び寄せること』

ロマンチスト『そして、木々や宝具をなかったことにする力。まあ、時間が経てば元に戻るだけ、優しいものですね』

加賀岬『この能力の範囲がどれだけ通用するのか。もし、自分の手傷すらもなかったことにするなら』

田中太郎『倒すのは難しいのでは?』

ロマンチスト『不死身で攻撃すらもなかったことにする。これもまた、冗談のようですね』

 話をまとめて、改めて感じるのは、純黒のサーヴァントはまるで、不死者である。
身体がバラバラになろうとも、平然と生き返る《怪物》。
もしも、純黒のサーヴァントが本物の不死者であるならば、殺すには骨が折れるであろう。

ロマンチスト『そうなってくると、話は必然とこの考えになる。サーヴァントが殺せないなら、マスターを殺せばいい』

ロマンチスト『あの厄介さを相手取るより、マスターを狙った方が確実に殺せるはずだ』

 だが、サーヴァントである以上、穴は存在するはずだ。
そもそも、厄介で倒せない敵とは、真正面からぶつかる必要なんてない。
クレアからするとそんな考えなど蹴飛ばして、その純黒のサーヴァントを殺し切る自信はあるが、楽なやり方があるならそちらを選ぶ方がずっといい。
余計な手間をかけず、サクッと殺せるならそれに越したことはないのだから。
どれだけ厄介であろうと、マスターさえ殺してしまえば、あのサーヴァントも目立った動きは取れないはずだ。

加賀岬『それなら、私は有力な情報を持っています』

加賀岬『あのサーヴァントのマスターは名前も容姿も把握しているので、お二方にも伝えておきましょう』

 そして、お誂え向きにその情報を持っている奴がいる。
画面上でマスターと見受けられる少女の名前、特徴が並び連ねられていく。
前川みく。それが、あのサーヴァントのマスターであるらしい。
隣にいる帝人は呆然とした顔でキーボードを打っていた指を止めている。
知り合いか、と問いかけると、同じクラスメイトだと小さな声で返ってきた。
どうやら、それなりに喋る仲であるらしい。見知った人を平然と殺すには、帝人はまだ狂いきれていない。
もっと鮮烈で、犠牲をねじ伏せてでも進ませる熱意を。

――案外、それはすぐに来るのかもな。

 双眸は炯々とした光を放ちながら、視線の行方は判然としない。
いつしか。それとも、このままか。
確証こそ無いが、クレアは更なる淘汰がやってくることを肌で感じた。












 わかっていたはずだった。
スタンという少年は気づかざるを得なかった。日常の内側にあるものが偽りばかりだということを。
前川みくはクラスメイトだった。一見して何の異質さもない少女。アイドルを目指し、夢を追う一般人。誰が見たって彼女は普通であった。
それが、たった数秒で塗り変わっていった。此処は、非日常の世界だ。異質なる世界で、戦争をしているのだと改めて気づかされる。
この世界にはタイムリミットがある。戦わなければ生き残れない理由もある。
どれだけ抗おうとも、殺し合うに足るもの。願いという根源がある限り、自分達は殺し合うしかない。
八神はやても。前川みくも。そして、自分も。

「……終わったよ、チャット」
「知ってる。途中から見てたからわかるっての」

 譲れないのは誰だって一緒だ。奇跡に縋るしかない、もうどうしようもない。
そんな不条理を覆したいと願って此処にいる。聖杯戦争とは、そういうものだ。
願いがあるからこそ、戦えるんだ。マスターも、サーヴァントも。
戦う理由が其処に待っているから。

「平気だよ。知り合いが敵でも、大丈夫。そうでなくちゃ、な」

 スタンは声のトーンを変えず、静かな口調のまま答える。
雨音のように平坦な声が出たことに自分でも驚いた。
眼球が小刻みに揺れて、顔もそれにつられて微動する。少し、心の中にある澱みが表に出たような気がした。
たった一人。その幸せを願うことで、他の総てを犠牲にすると決めた。その中には、自分自身も含まれている。

「悪い、みっともないとこを見せちまったな、忘れてくれ。
 心配しなくてもわかってるさ、もう後戻りはできないってことも」

 パソコンの画面上では前川みくを殺す手筈、その意を示した文面が書き連ねられていた。
無力な女子高校生。剣を振り下ろせば、安々と殺せるであろう女の子。
けれど、そんな女の子であっても、蹴落とすべき敵なのだ。
彼女を護ろうという書き込みなど当然あるはずもない。
彼女を助けることに何の利益が生まれる?
この閉塞された世界――タイムリミットも設けられているのに、見逃すなんて選択肢はありえない。

「マスターの素性が割れた。いいことじゃないかよ、なぁ。
 明確な弱点を狙わないなんて、ありえないだろ? 瑞鶴も、そうだって言ってくれよ」

聖杯を取ると決めた以上、他の参加者は殺さなくてはならない。
一時的な協力も難しいであろうサーヴァントのマスター。
取れる手段など、限られていた。早期に殺して、勢いをつける。

――あの時交わした言葉を、思い出す。

 風邪を引いたと嘘をついた自分を心配してくれた彼女。
あの時かけてくれた言葉は、まだ自分の中に残っている。
彼女の態度は全部、嘘だった。朝のやり取りは、聖杯戦争を勝ち抜く為の狡猾な内面を隠しただけ。
そんなこと、思えるはずがないだろう。
例え、学園生活での前川みくが嘘であったとしても。
彼女の笑みは、彼女の前向きな意志は、彼女の声は――――本物だったはずだ!

『スタンっ』

 やめろ、と漏れた声は恐怖で彩られている。
彼女は似ている。前川みくは、アリーザと似ている。
ひたむきにまっすぐと夢へと邁進する所も、楽しそうにクラスメイトと話す声も。
全部、全部、救いたい少女を想起させる。
そんな彼女を、自分は殺さなくてはならない。
殺して、救うのだ。この過酷な淘汰を乗り越えて、必ず君を笑顔にする。
だから、笑って欲しい。振り向きもせず、こんな情けない自分のことなんて忘れてしまってくれ。

「…………大切なものが、たった一つあれば、それでいいんだ。いいはずなんだ。
 だから、俺はこれでいい。いや、これしかないんだ」

彼はやり直す。色々なものを、積み上げてきた絆ごとやり直してみせる。
やり直して、新たな未来が不幸である可能性よりも、それ以上に幸福な未来があると信じて。
自分勝手に。ただ少女に謝る為に、あるいは言い訳をする為に。
アリーザを救うのだ、スタンは。

「アリーザを救う。それだけは、間違いなんかじゃない」

けれど。そう、けれどだ。
どう考えても、どれだけ君の笑顔を想っても、『君』が心から笑ってくれないのは、どうしてだろう。
想像の中でさえ、大切な少女は悲しそうに目を逸らすだけだった。



【B-8/竜ヶ峰帝人のアパート/二日目 深夜】

【竜ヶ峰帝人@デュラララ!!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[金銭状況]割と貧困
[思考・状況]
基本行動方針:不透明。聖杯は欲しいが、人を殺す覚悟はない。
1.――――。
[備考]
※とあるサイトのチャットルームで北条加蓮と知り合っていますが、名前、顔は知りません。
※他の参加者で開示されているのは現状【ちゃんみお】だけです。他にもいるかもしれません。
※チャットのHNは『田中太郎』。
※冬木市で起きた事件のおおよそを知っています。
※部屋には銃火器、手榴弾があります。

【アサシン(クレア・スタンフィールド)@バッカーノ!】
[状態]健康
[装備]
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は俺が奪う。
1.とりあえず、マスターは護る。
2.他参加者、サーヴァントは殺せる隙があるなら、遠慮なく殺す。利用できるものは利用し尽くしてから始末する。
2.純黒のサーヴァントはどうでもいいが、殺せるなら殺す。前川みくは殺せそうなら、さくっと殺す。
[備考]


【B-5/アパート・スタンの部屋/二日目 深夜】

【スタン@グランブルーファンタジー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]竹刀
[道具]教材一式
[金銭状況]学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取る。
1.知り合った人達が敵であっても、戦わなくちゃいけない。
[備考]
装備の剣はアパートに置いてきています。

【アーチャー(瑞鶴)@艦隊これくしょん】
[状態]健康
[装備]
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取る。
1. 球磨川は敵に回したくない。かといって、放置していても困る。前川みくは余裕があれば殺す。
[備考]
※はやて主従、みく主従、超、クレア、ゾル、加蓮を把握。
チャットのHNは『加賀岬』。


【B-6/神楽坂明日菜の家/二日目・深夜】

【キャスター(超鈴音)@魔法先生ネギま!】
[状態]健康
[装備]改良強化服、ステルス迷彩付きコート
[道具]時空跳躍弾(数発)
[思考・状況]
基本行動方針:願いを叶える。
1. 純黒のサーヴァント(球磨川禊)を何とかして排除する。前川みくを殺すことで退場させたい。
2.明日菜が優勝への決意を固めるまで、とりあえず待つ
3.それまでは防衛が中心になるが、出来ることは何でもしておく
[備考]
ある程度の金を元の世界で稼いでいたこともあり、1日目が始まるまでは主に超が稼いでいました
無人偵察機を飛ばしています。どこへ向かったかは後続の方にお任せします
レプリカ(エレクトロゾルダート)と交戦、その正体と実力、攻性防禦の仕組みをある程度理解しています
強化服を改良して電撃を飛び道具として飛ばす機能とシールドを張って敵の攻撃を受け止める機能を追加しました
B-6/神楽坂明日菜の家の真下の地下水道の広場に工房を構えています
工房にT-ANK-α3改が数体待機しています
チャットのHNは『ロマンチスト』。




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053:願い、今は届かなくても 時系列順 055:そして、彼らは手を取った

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029:願い潰しの銀幕 竜ヶ峰帝人 057:戦の真は千の信に顕現する
アサシン(クレア・スタンフィールド)
043:落陽の帰路/岐路 スタン
アーチャー(瑞鶴)
049:閑話休題のアイオライト 超鈴音

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