夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

そして、彼らは手を取った

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匿名ユーザー

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 夏の夜は蒸し暑い。空気が全体的に、じんわりとした湿り気を帯びている。
加藤鳴海はひとまず、腰を落ち着けそうなビルの屋上に二人を降ろし、ルーザーが帰ってくるのを待つことにした。
それにしても、今夜の熱は夏という一文字がよく主張している。
サーヴァントであるこの身は、本来の肉体ではないが、暑いものは暑い。
小さくため息をつき、なかなか乾いてくれない汗を、服の袖で拭う。

「あー、その、アンタ、名前は」
「……前川みくです。あなたは、あっ、サーヴァントの真名は安易に教えられないんでしたね」
「お、おう。すまねぇな、前川。本来なら教えてやりてえ所なんだが」

 二人の口調はたどたどしく、漏れ出す声も音量が小さい。
全ての感情が凪いでいるように。だがその内側に、様々な感情が溶け合っている。
両者共に、相手へとどう接していいかわからないのだ。
鳴海の気性からみくへと危害を加えるつもりはさらさらなかったが、それでも二人は敵であった。
今もまだ、二人は味方ではない。敵同士である。
加藤鳴海が信念を曲げて、本田未央を裏切らない限り、二人の手が本当の意味で繋がることはない。

(……親友なんだよな。二人は、マスターと前川は同じ世界から来た、親友で。
 生き残れるのは一人だけ。どうにか二人一緒に帰してやりてぇけど、俺の椅子を明け渡すなんて裏技、通用しねぇよなぁ)

 彼女達は親友だった。そして、これからも親友であれるはずだ。
聖杯戦争という概念さえなければ、何も問題なんてなかった。

『――生き残るの一組だけ。困っちゃうよね~』
「……お前か」
『やあ。無事にうちのマスターちゃん共々運んでくれてありがとう。感謝のあまり、僕愛用の螺子をプレゼント』
「いらねぇよ。それよりもあの娘は……」
『当然、始末をつけてきたよ。もう見えない刺客に悩まされることはないはずさ』

 敵であっても、殺さなくてはならない。
そんな当たり前のことが、今の鳴海にはとてつもなく重い。
あのサーヴァントは子供だった。加藤鳴海が忌避する子供殺しの対象であった。
どうしようもない。この聖杯戦争は徹底的に自分の信念を折りに来ている。

『不服かな? あの娘はどうあっても生き残ってはいけなかった。いるだけで災禍を齎すとびっきりの過負荷さ』
「……っ、それでも」
『救えないよ。君がどれだけ強かろうと、救えないものは救えない。
 例え、選択肢を全て正しく掴み取ろうが無理だよ。まあ、気に病むと面倒くさいから言うけど、あの娘が死んだのは断じて君のせいじゃないよ。
 ああ、慰めてる訳じゃないからね、勘違いしないで欲しいな。僕は純然たる事実をただ述べているだけなんだから』

 こんなはずじゃなかった。そんなことを言うつもりはない。
自分も、このサーヴァントもできる限りは尽くした。最善とは言えずとも、その場で取れる最良は選び取ってきた。
それでも、救えないものは救えない。誰一人失うことのない結末はありえない。

「わかってる。ああ、わかってる」

 全部、理解していたはずだ。
この世界は奪うことでしか生きていけないことも。
当人の意志に関わらず、それがルールであり、覆せない運命なのだから。

『まあ、そんな終わってしまった話はどうだっていいんだ。幾ら繰り返そうとも、戯言だ。
 生き残った僕らには、まだ戦争を続ける権利がある』
「殺る気か? そのつもりならこっちだって」
『まっさかぁ! いやー、これだから脳みそまで筋肉詰まってるサーヴァントは困っちゃうなあ。
 君はこんな有様のマスター達を差し置いて戦うなんてできるかい?』

 自分達にはもう、後戻りをする資格なんてない。
されど、ほんの少しの間だけでも安らかなる時を過ごしてもらいたいというぐらい、願ってもいいはずだ。
手を震わせるみくに、未だ目を覚まさない未央。
笑顔はなく、疲弊したその表情は灰色にくすんでいた。

『――――それに、僕が、僕達が戦うべき相手は…………』
「はぁ?」
『こっちの事情さ。まあ、君は泥臭く足掻いていたらいい』

 結局、ルーザーは戦闘態勢すら取らなかった。
鳴海がどれだけ戦意を高揚させようが、相手にその気がないのでは意味がない。
彼の目は自分の後ろ――その先にある何かを見ているようだ。

『僕から言えるのは、諦めたらそこで試合終了だぜ? タイムリミットまで相互理解をせずに殺し合う思考放棄は諦めさ』

 理解ができなかった。
この聖杯戦争には何が隠されているのか。
鳴海の拙い頭で考えるには、どうしようもなさすぎた。

『なーんて、連載誌が違うキャラに言っても無駄か』

けれど。けれど、と鳴海は口ずさむ。

「んなこと……言われずとも、だ。足掻いてやるさ。最後までな」

 難しく考える必要なんてなかった。
今まで通り、鳴海は未央を護るだけだ。
その方針が変わることはこれからもない。

「約束しちまったからな、マスターの笑顔を取り戻すって。
 だから、死なせる訳にはいかねぇんだ。例え、マスター以外が死んじまうとしても、俺は最後までマスターの味方だ。
 その邪魔になるっていうなら、お前でも容赦はしねぇ」
『泣かせる言葉だねぇ。僕が言ったら絶対、気持ち悪っの一言で片付けられるのに』
「ルーザー気持ち悪い」
『おっと、横槍はやめてほしいな。僕の心は硝子のように脆いんだから』

 彼女の笑顔を取り戻す。
鳴海はまだ、未央が綺麗に笑う姿を一度も見ていない。
笑いたくないのに、無理矢理に笑って。心配をされたくないのか、笑顔を取り繕って。
自分が見たい笑顔は、そんなものではないというのに。

「ただ、てめえには借りがある。うちのマスターを助けてもらった借りを返すまでは襲いやしねぇよ」
『大助かりだね。僕みたいなか弱いサーヴァントからすると、君は天敵だからさ。
 まあ、大抵のサーヴァントは天敵みたいなものなんだけど』

 認めたくはなかったが、眼前の彼らはその笑顔を取り戻す為に、必要だ。
未央の友人にそのサーヴァント。彼らをここで蹴落とすことはできない。
加えて、借りを返さずに刃を向けるのはどうにも気が引ける。

『それに、未央ちゃんだっけ? その娘が起きるまではうちのみくにゃちゃんが絶対離れそうにないし』
「と、なると」
『そういうことになる。今夜ばかりは行動を共にしないといけないね。いやぁ、カンフー君が美少女だったら僕も大喜びだったのになー』

 しかし、この気持ちが悪いサーヴァントとの付き合いを継続するのは正直御免である。
本来ならば、病院、もしくは未央の自宅へと帰る所だが、みくの存在が邪魔をする。
未央程ではないにしても、彼女もまた精神に疲弊を見せ、いつ均衡が崩れてもおかしくはない状態だ。

「…………ままならねぇな」

 目に映る景色すら偽りであるこの世界で、均衡などあってないものではないか。
何もかもが不確かで、生き残った先に待っているのは――本当に光指すものであるか。
けれど、一つだけ、確かなこととして胸に刻もう。
これ以上、少女に辛い思いを強いる世界を止める。その過程で幾つもの悲しみが生まれるとしても、未央の表情を曇らせない。
そんな簡単なことでさえ、確約できない自分が嫌になった。



【C-9/ビル屋上/二日目・深夜】

【本田未央@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ)】
[状態]失血(中)、魔力消費(小)、失神
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[金銭状況]着の身着のままで病院に搬送されたので0
[思考・状況]
基本行動方針:疲れたし、もう笑えない。けれど、アイドルはやめたくない。
1.いつか、心の底から笑えるようになりたい。
2.加藤鳴海に対して僅かながらの信頼。
[備考]
前川みくと同じクラスです。
前川みくと同じ事務所に所属しています、デビューはまだしていません。
気絶していたのでアサシン(あやめ)を認識してません。なので『感染』もしていません。
自室が割と酷いことになってます。
C-8に存在する総合病院に担ぎ込まれました。現在は脱走中の身です。
家族が全滅したことをまだ知りません。

【しろがね(加藤鳴海)@からくりサーカス】
[状態]精神疲労(中)
[装備]拳法着
[道具]なし。
[思考・状況]
基本行動方針:本田未央の笑顔を取り戻す。
1.全てのサーヴァントを打倒する。しかしマスターは決して殺さない。
2.この聖杯戦争の裏側を突き止める。
3.本田未央の傍にいる。

[備考]
ネギ・スプリングフィールド及びそのサーヴァント(金木研)を確認しました。ネギのことを初等部の生徒だと思っています。
前川みくをマスターと認識しました。
アサシン(あやめ)をぎりぎり見てません。

【ルーザー(球磨川禊)@めだかボックス】
[状態]『とりあえず、休憩するよ』
[装備]『いつもの学生服だよ、新品だからピカピカさ』
[道具]『螺子がたくさんあるよ、お望みとあらば裸エプロンも取り出せるよ!』
[思考・状況]
基本行動方針:『聖杯、ゲットだぜ!』
1.『みくにゃちゃんに惚れちまったぜ、いやぁ見事にやられちゃったよ』
2.『裸エプロンとか言ってられる状況でも無くなってきたみたいだ。でも僕は自分を曲げないよ!』
3.『道化師(ジョーカー)はみんな僕の友達―――だと思ってたんだけどね』
4.『ぬるい友情を深めようぜ、サーヴァントもマスターも関係なくさ。その為にも色々とちょっかいをかけないとね』
5.『そういえばチャットの約束、すっかり忘れてたよ。でも、別にいっかぁ』
[備考]
瑞鶴、鈴音、クレア、テスラへとチャットルームの誘いをかけました。
帝人と加蓮が使っていた場所です。
本田未央、音無結弦をマスターと認識しました。
アサシン(あやめ)を認識しました。彼女の消滅により感染は解除されました。
※音無主従、南条主従、未央主従、超、クレア、瑞鶴を把握。

【前川みく@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ)】
[状態]魔力消費(中)、決意
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]学生服、ネコミミ(しまってある)
[金銭状況]普通。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取るのかどうか、分からない。けれど、何も知らないまま動くのはもうやめる。
1.人を殺すからには、ちゃんと相手のことを知らなくちゃいけない。無知のままではいない。
2.音無結弦に会う。未央は生きていたが、それとこれとは話が別。
[備考]
本田未央と同じクラスです。学級委員長です。
本田未央と同じ事務所に所属しています、デビューはまだしていません。
事務所の女子寮に住んでいます。他のアイドルもいますが、詳細は後続の書き手に任せます。
本田未央、音無結弦をマスターと認識しました。
アサシン(あやめ)を認識しました。




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しろがね(加藤鳴海)
前川みく
ルーザー(球磨川禊)

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