ジョン・マクレーン&アーチャー ◆CKro7V0jEc





 あまりにも酒に溺れすぎて人間をやめる一歩手前まで来ると、つい昨日まで毛ほどもわからなかった日本の言葉がわかるようになるらしい。
 全く読めなかった日本語の看板の意味が、今の俺には分かっている。
 これは一体、どういう事だ。

『エロイモノナラナンデモソロウ』

 最低な看板が目の前にどでかく構えられているのがわかる。
 町中にディズニー以外のアニメの絵とタイトルが掲げられている事もわかる。
 飯屋の名前も、交通看板も、ここが左車線の道路である事も、何故か今の俺にはよくわかる。
 ……そう、きっと、ここはポルノの街だ。看板を見る限りだと、漫画の絵で描かれたポルノ・コミックが売ってそうな店が山ほどある。この街に来る奴は全員逮捕してやりたくなる。
 世界にはこんなに堂々と下品な看板を拵えておける場所があるって事だ。治安の良い日本でも、裏にはこんな街が存在するらしい。
 書き入れ時のこのド深夜にしては全く活気がないのはどういうわけだかわからない。
 俺も誤解されないようにさっさと出ていきたいが、しかし、その前に、俺は何故こんな所にいるのか考え直すべきだろう。

 ……そうだ、今の内に頭の中を整理し直そう。
 今朝方、──別れた女房の愛しさのあまりに酒をたらふく飲んで、外の空気を吸おうと思ってそのまま寝ちまった翌日だ──気づけばこの日本の東京に俺は立っていた。
 ジェット機にも、船にも乗った覚えはない。なのに、いつの間にか俺の体と心はニューヨークから東京までトリップしている。

 酒の中に危ない薬でも入っている可能性をまず最初に考えた。つまり、心だけ東京にトリップしてる可能性だ。本当の俺は今ニューヨークの俺の部屋にいるとする。
 よりにもよって、俺は刑事だ。もし、検査に引っかかればクビ間違いなし。明日からバッジを捨てて辛い職探し……それもおそらく希望はゼロだ。完全に人間をやめる事になる。

 だが、二日酔いにしては妙に頭が冴えてるし、よりにもよって、学んだ覚えのない日本語がすらすらと頭に浮かぶ。
 どこかのバカが気まぐれで酒に混ぜた薬物にはそんな副作用まであるってのか。……そんなはずがない。

 それから、なんでも聖杯戦争だとか、サーヴァントだとかマスターだとか、そんなゲームのルールが俺の頭の中に入っている。こいつも不思議だ。
 俺は戦争屋でもなければ、ゲームのプレイヤーでもない。そんな状況に向いてる人間じゃない。
 今日までもテロリストや犯罪者にはいくらでも縁はあったが、「聖杯の為に戦争をしろ」なんて言われるような覚えはない。
 だいたい、聖杯戦争だと? どこの宗教戦争だ。
 何がどうして、俺がこんな所にいる。



 ……ああ、それから、俺がいる場所も高い語学力も信じられないが、もう一つくらい信じたくない事実があった。
 そいつは俺の後ろにいる。

「よう、マスター。あんた、映画で見た事があるぜ」

 見覚えのある戦争屋が、俺のその──パートナー、≪サーヴァント≫らしいって事だ。そいつが俺になれなれしく声をかけてくる。
 シルヴェスター・スタローンにそっくりな──いや、もっと言えば、そいつが演じたあのランボーそのものな奴が俺の前にいやがるんだ。
 コスチュームプレイにしては、異様にクオリティが高い。間違いない、シルヴェスター・スタローンが演じたランボー本人だ。
 ランボーが俺の事を映画で見てくれてるとは光栄だね。

「それはこっちの台詞ですぜ、シルヴェスター・スタローンさんよぉ。だが、残念ながら俺はブルース・ウィリスじゃない。
 あんなに禿げた覚えはねえんだ。言っておくが、俺の使ってる育毛剤は信用できる。あのハリウッド俳優に贈ってやりたいくらいだね。
 ……なあ、こいつは一体どういうわけだ? なんで俺はこんな所にいる? 一体何がどう間違って戦争なんかに参加させられてる!
 あんた俺のサーヴァントだろ、俺を今すぐ一人きりのマイホームに帰してくれ」

「……それはできない。この聖杯戦争から脱出するのは、令呪を以ても今すぐには不可能だ」

 映画で見たランボーそのものな寡黙で落ち着いた口調。
 こいつも俺も日本語で話しているらしいが、どういうわけかそうやって話せてしまう。
 まるで、日本人の俳優が声を吹き替えてくれているみたいにだ。こんなのは俺の声じゃない。

「混乱しているようだな。順を追って話そう。まずはマスターがここに来た理由からだ。
 なぁマスター、あんたはここに来る前、赤い月を見なかったか?」

 俺は昨夜の記憶を辿った。
 確かに、そんな物を見た気がする。しかし、それを上塗りするくらいの孤独と寂しさと悲しみとが昨夜の俺の心を占めていた。
 しかし、何故こいつがそんな事を知ってる。

「ああ、見たよ、夢の中でなぁ。俺は寝ちまってたんだ。だから、月が真っ赤だった。
 俺の夢を精神分析してくれるのか? で、赤い月の夢はなんだ? 『酔っぱらって凍死直前』の暗示か?」

「……俺はユングでもフロイトでもない。俺があんたに伝えたいのは、あんたがここにいる理由だ。
 結論から言う。あんたは赤い月を見たツイテない男だからここにいる。間違いでも夢でも何でもない。そして、ここは、あんたが見た月の裏側に再現された東京だ」

 こいつが何を言っているのか、俺には全くわからない。俺は頭を抱えた。
 ただ、こいつが言ってる事が一つだけ正しいのを俺はよく知ってる。

 そう──俺は、ツイてない。
 よりにもよって、女房と子供が出てくる幸せな夢じゃなく、ランボーと一緒に月の裏側に東京そっくりな街を見つける夢を見るくらいにな。

「月を見て月に来た……? そんな理屈が通るんなら、毎晩別れた女房の写真を眺めてる俺は今頃ヨリを戻してアルコールともオサラバして人間を取り戻してるはずだ。
 それだけじゃない。ルーシーとジョンに山ほど弟と妹が出来ている頃だろうさ」

「……明日から寝る前に、写真のほかに避妊具を用意するといい」

「……ああ、そうさせてもらうよ!」

 俺の怒号とは対照的に、ランボーは冷静だった。
 そいつが気に食わない。

 俺だってこれまで大変な目に厭ほど遭って来たプライドがある。
 しかし、ファンタジーの世界に足を踏み入れたのは初めてだ。映画のランボーも同じだろう。
 こいつの話を聞いてると頭がおかしくなりそうだと思った。

 ドッキリカメラってのは絶対にない。一刑事の俺がドッキリカメラに遭う可能性と、ジョン・マクレーンが戦争に巻き込まれる可能性なら、後者の方が断然高い。
 そう、残念な事にだ。俺はそういう人間だ。



 だが、俺は、こいつが現実であるのを受け入れたくなくて、ランボーを無視してすたすたと歩きだした。
 自分の足でこの街を調べていかなければならない。そいつが俺たち刑事のやり方だ。
 しかし、ランボーは俺について来て話しかけてくる。俺は歩きながらこいつの話を一応聞いてやった。

「残り17騎の敵を潰して聖杯を得れば好きな願いを叶えられるんだ。あんたには、願いはないのか」

「その敵ってのは何だ? テロリストか? 犯罪者か? それとも、シュワルツェネッガーか?」

「兵隊かもしれない。あんたみたいに突然巻き込まれた刑事かもしれないし、女子供かもしれない」

「そいつはご免だな。テロリストをブッ殺すのは俺の趣味だが、女子供を傷つけるのは俺にはできない」

「それは……俺も同じだ」

 ランボーは、素朴にそう答える。
 やっぱり、こいつはヒーローには違いないらしい。俺の知ってるランボーだ。
 俺もランボーも、ヒーローになった事で何かを失った犠牲者だ。だからもうヒーローなんて御免だね。俺はヒーローになったから女房に逃げられたんだ。

「俺はおさらばするぜ。戦争なんざ御免だ。お前と会えて光栄だったよ、ランボー」

「おい、この戦争に呼ばれた以上、何処にいようと巻き込まれるぞ。しばらくは俺と一緒にいた方がいい。
 映画なら、この次にあんたは爆発に巻き込まれてこいつが現実の物だと知る羽目になる」

「そいつは面白い。アメリカ映画の爆薬の50パーセントはあんたが放った弓矢だと思ってたぜ」

「ここは、日本の東京だ」

「ああ、その通り。どういうわけかここは日本だ。日本ってのは戦争をやめた国だな。見ろよ、この平和に恍けたご立派なポルノ街を。こいつが、次の瞬間、ドンと爆発するってのか?」

「なぁ、こいつは警告だ。どっちにしろ、巻き込まれる。この街も戦場になる。あんたと俺は、そういう体質なんだ。運命だと思って、ここらで折れてくれないか?」

 嫌な事を言うが、残念ながら的を射ている。
 俺ことジョン・マクレーンも、ランボーも、どうやら事件や戦争に巻き込まれるタイプなのだ。どう逃れようとしても、事件は襲ってくる。
 爆発が起こっちまう前に、このポルノ街で全てを受け入れなきゃならないらしい。
 俺はランボーの方を向き直った。

「……」

 これだけ空気を吸って、これだけ頭に怒りが湧いて、これだけ歩き疲れるなら、こいつは本当に夢じゃないらしい。
 そして、俺はやっぱりツイテないって事だ。
 俺がまたこの危険から生き残るには、それこそすぐに順応してファンタジーの世界に飛び込むしかないらしい。
 これがドッキリカメラってのは絶対にない。一刑事の俺がドッキリカメラに遭う可能性と、ジョン・マクレーンが戦争に巻き込まれる可能性なら、後者の方が百倍高い。
 そう、残念な事にだ。

「……じゃあ、ジョン・ランボーさんよ。今回、俺は何と戦えばいいんだ?
 ここまで揃ったからには本当にシュワルツェネッガーとでも戦えってぇのか?」

「いや、マスター。戦うのは俺たちサーヴァントの方だ。
 俺のサポートと、それから魔力供給……場合によっては、もしかすればあんたも戦う事になるが、出来る限りはあんたは戦闘に参加しないようにこっちが努力する」

「そうか、そいつはいい。丁度、何もしたくない気分だった。テロリストとの決死の攻防戦も、ヒーローになるのも、もう永久にごめんだね。
 で、映画によると、あんたは自分の戦争を終えたはずだが、戦争をやめた戦争屋ってのはどれくらい役に立つんだ?」

「……」

 ランボーは俺の皮肉に押し黙った。
 こいつも表立って、戦争に乗ろうって言う腹ではないらしい。こいつももう戦争なんざしたくないし、ヒーローになるのはご免なんだ。
 俺と同じ、巻き込まれただけの人間だ。決定的に違うのは、聖杯戦争って奴についてどれほど詳しいか。
 俺はこいつと組まなきゃならない。

「……ああ、すまない。こういう言い方はよくなかったな。俺もあんたの実力は痛いほどよくわかってる。
 弓矢でヘリコプターを落とせるのはこの世中探してもあんただけだろうよ。
 普通なら負ける気がしないね。俺もジェット機もヘリコプターも落とした事はあるが、流石に小石や弓矢じゃ絶対に無理だ。
 だがな、あんたがここにいるって事は、シュワルツェネッガーが出てきても全然おかしくない状況だ。お前は勝てるのか? ターミネーターに。
 あんただけが戦争して、それで二人で生き残れるのか? ……俺だって、伊達に何度も死に損なってない」

「つまり──」

 ああ、俺は、嫌々ながらこの聖杯戦争を受け入れる。
 そう決意したからには、ランボーだけに全てを任せてはおけない。
 深く呼吸をする。俺は、心を落ち着ける。
 いつものように、また派手なドンパチに巻き込まれる前に。

「俺もその聖杯戦争とやらに参加させてもらう。俺が元の仕事に戻る為にな」

「そいつは、何というか……あり難い。だが、無理はするな。あんたが死んだら俺も消えちまう」

 俺は苦笑した。





 こいつは、ダイ・ハード──そう呼ばれている俺が、死んじまうかもしれない状況ってわけか。





 最悪の運命だ。








【クラス】
アーチャー

【真名】
ジョン・ランボー@映画「ランボー」シリーズ

【属性】
中立・中庸

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運D 宝具B

【クラス別スキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
単独行動:A
 マスター不在でも行動できる。
 ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

【固有スキル】
破壊工作:A
 戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす才能。
 アーチャーの場合は、トラップの達人。
 ランクAの場合、進軍前の敵軍に六割近い損害を与えることが可能。
 ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格が低下する。
心眼(真):A
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
気配遮断:B
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【宝具】
『一人だけの軍隊(ファースト・ブラッド)』
ランク:EX 種別:対人、対城 レンジ:- 最大捕捉:-
 ランボーシリーズで登場した兵器や自作トラップを任意でその場に召喚する宝具。
 銃器の場合、召喚した時点で弾丸が全て装填されているが、弾数は使用によって減少する。
 また、耐久性は通常と変わらず、魔力を帯びた宝具では容易に破壊できてしまう。
 この聖杯戦争の最中に自作した罠や入手した現代兵器も新たに宝具として扱う事ができるが、ランボーの世界の技術や能力を超越した兵器は使用できない。
 消費される魔力は、武器の規模に比例する。

『帰還兵の故郷(ザ・ジャングル)』
ランク:B 種別:対軍 レンジ:20~99 最大補足:1000人
 固有結界。指定範囲にジャングルの結界を張る。
 アーチャーにとってはもはやここが故郷だと形容されるほどに、その戦闘能力が活かされる戦場である。
 この結界内ではアーチャーの気配が感応しづらくなり、逆にアーチャーの感覚は鋭敏になる。
 また、『一人だけの軍隊(ファースト・ブラッド)』を併用する場合、『一人だけの軍隊(ファースト・ブラッド)』の魔力消費は軽減される。

【Weapon】
 サバイバルナイフ

【人物背景】
 ベトナム戦争の帰還兵。「普段は無口・無表情で愛想もないが、怒りに火がつくと暴れ出す」。
 強靭な肉体・経験・戦術を駆使し、たった一人で軍隊を一つ潰せるだけの能力を持っている怪物のような兵士である。
 ベトナム戦争で捕虜となった際に受けた拷問や、故郷アメリカに帰った際の人々の迫害により、PTSDを起こしており、保安官によった受けた取り調べでトラウマが発動。それが発端となって、自分を追ってくる警察や軍隊を追い返すべく、「戦争」を始めたのが『ランボー』である。
 その後、逮捕されたが、『ランボー/怒りの脱出』で、ベトナムにいるアメリカ人捕虜の救出を行う為に釈放された。
 シリーズを経て、だんだんと超人化が激しくなっていく。

【サーヴァントとしての願い】
 平穏。

【方針】
 聖杯戦争を終える。



【マスター】
ジョン・マクレーン@映画「ダイ・ハード」シリーズ

【マスターとしての願い】
 平穏。

【weapon】
 ベレッタ M92FS
 法執行官記章・証票

【能力・技能】
 世界一ついてない男。
 しかし、諦めずにどんな苦境の中でも機転を効かせてテロや犯罪者を倒すトンデモない能力を持つ。
 格闘でも銃撃でも常人離れしており、どんな目に遭っても何故か死なない異能生存体。

【人物背景】
 ニューヨーク市警の刑事(2ではロサンゼルス市警、3ではまたニューヨーク市警に戻っている)。
 何故かいつも巨大な事件に巻き込まれる「世界一ついてない男」。それでいて、何故かいつも生き残る悪運の持ち主。
 妻ホリー・ジェネロとは離婚と結婚を繰り返しているが、結局最終的に離婚。生まれ持ってのついてない体質に愛想を尽かされた模様。
 ルーシー・ジェネロ=マクレーンと、ジョン・“ジャック”・マクレーン・ジュニアという子供がいる。ジョンにも不幸体質は受け継がれた。
 愚痴をこぼしながらも、なんだかんだで事件を解決するヒーローなのだが、本人はそんな境遇には全く満足していない。

【方針】
 聖杯戦争の「敵」が万が一襲ってくるようならば容赦はしないが、女子供や罪のない人間を相手に戦争をおっ始めるつもりはない。
 むしろ、この聖杯戦争の方に向けて「戦争」を行う。

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最終更新:2014年12月21日 15:47