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狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y




 ◇◇◇


 遠くからでも伝わってくる殺気が、急激に縮まっていく。
 闘いは終わったのだと、アンデルセンは直感で理解した。
 どちらが勝ったにせよ、勝者の姿をこの目で確かめる必要がある。

 二人の決着がついた以上、最早この場に留まる理由はない。
 踵を返し、戦場跡へと向かおうとするアンデルセン。
 そんな彼の脚に、あの男の声が掴みかかった。

「……待て、よ」

 ジョンス・リーの、掠れた声だった。
 声の方向に目を向ければ、倒れ伏した彼の姿を認知できる。
 つい先程まで、この男は地面に突っ伏したままだった。

 何故彼が斃れているか。理由は簡単、魔力の過剰消費である。
 アーカードが発動した死の河は、発動に膨大な魔力を必要としている。
 たかだか令呪一画を使った程度では、その量は到底賄えない。
 そして、大量の魔力消費の代価は、肉体への負担となって現れるのだ。

「まだ、俺との勝負、は……ついてねえ、だろ」
「その身で何が出来る。立っているのもやっとだろう」

 アンデルセンの言う通り、ジョンスは満身創痍であった。
 彼の身体に少しでも触れれば、たちまち無様に地を転がる羽目になるだろう。
 こんな有様では、もう闘争を繰り広げる以前の問題であった。

「知るか、んなもん。俺はな……戦いに、来たんだ」

 そう言って構えを取ろうとして、また大きくよろける。
 彼の眼は虚ろで、アンデルセンを見据えているのかすら定かではない。
 顔色も死人の様に真っ青で、次に目を閉じた時が最期ではないかと疑ってしまう。

「どう、した?死に、かけに……敗ける、の、が……怖いの、かよ」
「ほざけ。これは死期を早めるだけの闘争だ。ただ死にに行くだけの特攻だ」
「……だろう、な。でもな、ここで逃げたら……それこそ、恥だろ?」

 そう言って、ジョンスは力なく笑ってみせた。
 誰がどう見たって、それが強がりである事が分かってしまえる。
 死に体の身体に鞭打って、男は無理くり言葉を吐き出す。

「安い、プライド……こいつが、残ってるなら……俺は、戦える」

 己の中にプライドが残っているのなら、それを支えにして立ち上がる。
 例えどれだけ安っぽいものだろうが、両の脚で立つには上々だ。
 そして、地面に立てるのであれば、後は拳を構えるだけである。

 例え、どれだけ絶望的な状況に身を置かれていようとも。
 その身に安いプライドがあるのなら、立ち向かわねばならない。

「……一撃で、終わるんだ……長くは、かからねえ……」

 ゆっくりと、僅かな力を振り絞って、ジョンスは構えをとる。
 右足を相手に真っ直ぐ向け、左足は斜め左後ろにずらす。
 腰を落とす事で重心を移動させ、両の手は腰に移動させる。


 ジョンスはこの構えしかした事がないし、これからするつもりもない。
 彼にあるのは八極拳だけ。一撃で敵を屠る必殺の拳法が、彼の唯一の武器。
 これより最強の八極拳士が、最後の花火(ばくはつ)を披露する。

 息を深く吸い、そして大きく吐き。
 虚ろな眼を大きく見開き、そして。

「――――行くぜ、神父」

 瞬間、ジョンスの全身がアンデルセンに肉薄する。
 足元のコンクリートが罅割れ、空気が大きく振動する。

 ジョンスの動きは、これまでに一度も無い位に滅茶苦茶で。
 元気だった頃の彼が見れば、なんだそりゃと失笑する位に下手糞で。
 けれども、そこに込められたプライドは、どの闘いよりも剥き出しで。

 故に、その一撃はアンデルセンに届くのだった。
 技を打ち込まれた彼の身体は、そのまま真後ろに吹っ飛んでいく。
 バチカン最強の異端狩りに、己の全力を知らしめるには十分だった。

 されど、アンデルセンがこれで斃れたかと言えば、それは別問題だ。
 アーカードが好敵手と認めていた男が、この程度でくたばる訳が無い。
 何より、他ならぬジョンスのコンディションがあまりに悪すぎる。

 何事もなかったかのように立ち上がる神父を見て、もう一度構えをとろうとして。
 その途端に、ジョンスの口元から真紅の液体が吐き出された。
 いや、口からだけではない。鮮血は心臓からも流れ出ている。

 アンデルセンがジョンスの一瞬の隙を突き、手刀を以て彼の身体を抉ったのだ。
 例え素手だろうが杭だろうが、心臓を貫かれてしまえば最後、絶命は避けられない。
 満身創痍で叩き込んだ一撃、その代償はあまりに重かった。

「イケると思ったんだが、な」

 そんな言葉を残して、ジョンスはいよいよ地に伏せた。
 どこか満足げな笑みを浮かべながら、膝から崩れ落ちていく。
 それが、誰よりも闘争も求めた男の終焉だった。

「……そうか」

 既に事切れた男を見つめ、アンデルセンは気付く。
 彼もまた、どうしようもない程に"人間"だったのだ、と。
 その人間性こそが、あの吸血鬼を召喚する"呼び水"となったのだろう。

「褒めてやろう眷属め。お前もやはり、"人間"だったとな」


 ◇◇◇


 薄れゆく意識の中、ジョンスは一人思う。

 勝ち目はないだろうな、とは思っていた。
 何しろこちらの体力は限界で、相手はほぼ健康体そのものなのだ。
 そんな状態では、死合の結果など目に見えてしまっている。

 勝敗が分かり切った試合に臨むなど、愚策と言う他ない。
 されど、そこから尻尾を巻いて逃げ出すなど、それこそ自身のプライドが許さない。
 自分の命が潰えるより、ちっぽけなプライドを捨てる方が、堪らなく恐ろしかった。

(まあ、楽に死ねるなんて思っちゃいなかったしな)

 戦い続ける人生を選んだのは、他でもない自分自身だ。
 ベッドの上で眠る様に息を引き取るなど、元より想像もしていない。
 いずれこういう日が訪れるのだろうな、という覚悟だってできていた。

 勿論、この聖杯戦争だって勝ち残る気でいたし、最後にはアーカードと闘う予定だった。
 その上で願いを叶え、かつて敗れた相手――深道に挑むのが、ジョンスにとっての最上だ。
 けれど、その予定が丸ごと潰えてしまった以上は、仕方ないと考えるしかない。

 志半ばではあるが、通すべき信念(プライド)は通せたのだ。
 やり残した事は数あれど、悔いは無い人生だった。
 そう自分を納得させながら、残り僅かな意識をも手放そうとして、

『じゃあうち、カレー食べたいん!』
『なんだそりゃ。そんなんでいいのか』
『うん!八極拳とあっちゃんと一緒に食べるん!』

 ジョンスの脳裏に、小さな子供との会話が浮かび上がってきた。
 あの無垢な少女はきっと、今もアーカードと自分を待ち続けているのだろう。
 二人が二度と帰らないなんて、露とも思ってないに違いない。

 アーカードが消滅すれば、きっとれんげも消えてしまうだろう。
 あの無知な子供は、聖杯戦争の事も、自分達の顛末も知る事もなく、その生涯を終えるのだ。
 自分が消滅するだなんて、それさえ理解する事も出来ないまま。

 ――ああ、くそ。

 結局、カレーを食べる約束をすっぽかしてしまった。
 死に際にそんな事を考えていた己に気付き、思わず自嘲する。
 どうやら自分は、知らぬ間にれんげの毒にやられてしまっていたらしい。
 日常という名の『意外の毒』は、いつの間にやら全身に回っていたようだ。

 こうしてジョンスは、納得のいく人生に小さな後悔を一つだけ残して。
 この聖杯戦争、引いてはこの世界そのものから、独り静かに降りていく。

 ――約束なんか、するもんじゃねえな。

 あれだけ闘争を求めていた癖に、最期に考えるのがこれか。
 未練はないと言ったが、なんて締まりのない末期だろうか――――。


 ◇◇◇


 廃教会の跡地にいたのは、仰向けで倒れているヴラド一人だった。
 誰の目から見ても、彼が瀕死の状態にあるのは明らかである。
 光の粒子となって消える時が来るのも、そう遠くはない。

 そこに訪れたのは、彼のマスターであるアンデルセンだった。
 周囲を見回し、その場にヴラド独りしかいない事を確認する。

「私は、成し遂げたぞ」

 息も絶え絶えの状態で、それでもヴラドは言葉を紡ぐ。
 彼の言葉通り、見事人間は吸血鬼を打ち倒した。
 アーカードは自身の望み通り、ただの人間に滅ぼされたのである。

「だが、許せ、神父。お前の願いは、叶えられそうも、ない」

 総身から光が舞うヴラドの肉体は、崩壊を始めている。
 如何なる治癒を施したとしても、それを止めるのは不可能だろう。
 そして、サーヴァントの消滅はマスターの消滅と同義だ。
 ヴラドが消えたら最後、アンデルセンもまた消える運命にある。

「王として、臣下の望み、叶えるべき、だったが……」

 名残惜しそうに話すヴラドに対し、アンデルセンは首を横に振った。

「いいのだ、王よ。例え道半ばであろうと、それに見合うだけの物を見せてもらった」

 ただの人間の王が奮起し、分身たる不死の王を滅ぼさんとする戦い。
 その結果を見届けただけで、この場に来た意味はあった。

「もういいのだ、王よ。お前はただ、誇りを抱いて眠ればいい」

 それを耳にしたヴラドは、小さく笑ってみせた。
 さながら、それは誤りだと言わんばかりであった。

「……眠る、だと……?違うな……違うとも……。
 夢ならもう……見せて、もらった……では、ないか……」

 そう答えるヴラドに、アンデルセンは僅かに困惑した様な顔を見せる。
 そんな家臣の様子を尻目に、王は聖杯戦争の記憶を回想する。

 誰よりも吸血鬼(アーカード)を知る男に召喚され、
 それ故に忌々しき吸血鬼の伝承から解放され、
 ひたすらに憎み続けた吸血鬼との一騎打ちの機会を得て、
 そしてその末に、ただの人間として勝利を獲得したのだ。

「お前が……見せたのだ……余に……この一夜の夢を…………」

 このヴラド三世の物語は、きっと誰にも知られる事はない。
 ムーンセルの記憶として保管され、幾億もの結果の一つとして処理されるのだろう。
 だからきっと、これは夢なのだ。アンデルセンがヴラド三世に見せた、短くも尊い――――。

「…………ああ…………良い夢、だった…………」

 至上の幸福を携えながら、王の肉体は静かに消滅していった。
 アンデルセンという家臣に見守られながら、彼はその物語にピリオドを打ったのだ。

 ヴラド・ツェペシはきっと、この世界で息をする誰よりも、満たされながら消えていった。



 ◇◇◇


「……調停者の身分で覗き見か」

 ヴラドが去った後、ぐるりと振り返ってアンデルセンが嘯いた。
 そのドスの利いた声に反応して、一騎のサーヴァントが実体化する。
 ルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクである。

「申し訳ありません。戦闘の介入は避けるべきと静観していたのですが」
「構わん。全て終わったのだ、何もかもがな」

 そう、この場で行われるべき闘争は、残らず終わってしまった。
 今更ルーラーが出てきた所で、何かする事がある訳でもない。

「貴方のサーヴァントから話は聞いています。アーチャーと決着をつけたい、と」
「それがどうしたというのだ。咎があれば俺が受けるが」

 「いえ、そうではなく」と、ジャンヌが否定の言葉を口にした。
 未だ威圧感を放つアンデルセンに対し、彼女は一切気圧される気配を見せない。
 万物を平等に統治する調停者の英霊、それに相応しい気力と言えた。

「アーチャーは処罰を受けるべきサーヴァントを匿っていました」
「ベルク・カッツェか」
「そうです。当初は彼等への警告と罰則を行う為に此処に来たのですが……」

 そこで何かを予測したのか、アンデルセンの殺意が膨れ上がった。
 並みのサーヴァントでさえ怖気づきかねないそれを浴びても、ルーラーは顔色一つ変えていない。

「まさか課したのか、奴等に足枷を」
「いえ。ランサーがそれだけは止めろ、と」

 それを始まりに、ルーラーはランサーとの話を述べ始めた。
 必ずあの吸血鬼を違反者諸共に滅ぼしてみせると、ランサーが宣言し、
 それを聞きいれたルーラーも、決着が着くまで静観すると判断したのだ。

「……感謝する。王の戦いを穢さず、見守ったその判断に」

 話を聞き終えたアンデルセンから、殺意が霧消した後。
 彼は深々と頭を下げ、ジャンヌへの感謝の言葉を口にしたではないか。
 これにはジャンヌも予想外だったのか、頭を上げてくださいと思わずせがむ。
 頭を上げたアンデルセンは、ジャンヌの瞳を真っ直ぐ見据えながら、

「調停者よ、最後に一つ、俺の頼みを聞いてくれるか」


 ◇◇◇


 れんげは待っていた。自分と一緒にいてくれる大人達を。
 あっちゃん達が何をしに行くかは知らないが、時間はかからないと言っていた。
 それならきっと、そんなに大それた事でもないのだろう。

 二人が帰ってきたら、ひとまず睡眠をとりたかった。
 いくら昼寝をしていたとしても、深夜まで起きるのは流石に辛いものがある。
 留守番のご褒美のカレーは、そうして休みを挟んでからだ。

 どんなお店に連れてってくれるのだろうか。
 都会のカレーはどんな味がするのだろうか。
 おかわりやトッピングは自由なのだろうか。
 そんな事ばかりを考えて、早くも涎が垂れてきそうになってしまう。

 もし二人が自分の町に来たら、なんて事を想像してみる。
 都会暮らしらしい八極拳は、村の空気にどんな反応を示すのか。
 どう見ても外国生まれなあっちゃんは、村を気に入ってくれるだろうか。

 そこで、大事な友達を忘れている事に気付いた。
 かっちゃんもまた、あっちゃんと一緒に森の向こうに行っているのだった。
 こっそりあっちゃん達について行けるなんて、羨ましささえ覚えてしまう。

 早く帰ってこないかな、と何度も何度も思えども、二人は帰って来ない。
 もしかしてまた置いてかれたのではと、どんどん不安になってきて。
 本当に置いてけぼりにされたらどうしようと、何だか泣きたくなってきて。

「……本当にこんな所にいたのですね」

 二人が入って行った道から、見た事もない綺麗な人が出てきて。、
 出かけていたれんげの涙が、一気に引っ込んでしまった。




 アーカードは、少々どころかかなり特異なサーヴァントである。
 何しろこの吸血鬼は、座からではなく現世から召喚されているのだ。
 しかも、丁度自分の中の魂を殺し続けている真っ最中に、だ。

 その時点でのアーカードは、"生きてもないし死んでもいない"虚数でしかない。
 言ってしまえば、この世界に漂う大気と大差ない状態にあるのだ。
 生者として存在を視認する事も出来ず、死者として座に登録する事さえままならない。

 だがアークセルは、この問題を簡単に解決する手段を有していた。
 予めアーカードの零基を造っておき、その中にアーカードという名の虚数を流し込んだのだ。
 即ち、零基で存在を固定させる事で、サーヴァントとして現界したように見せかけたのである。

 零基という器を以てして、ありもしないモノを無理やり召喚した存在。
 それこそが、弓兵のサーヴァント・アーカードの正体だった。

 そして、アーカードの零基が消滅した現在、彼は"生きてもないし死んでもいない"状態に戻っている。
 確かに彼は敗退して生きていないが、しかし決して死んでいるという訳ではない。
 生と死が曖昧になっている今、契約も曖昧ながら継続されているのだ。

 つまり、宮内れんげとアーカードの間で繋がっているパスは、未だ生きている。
 そしてそれ故に、この少女はアークセルからの排除を免れているのだった。

 本人であるれんげはおろか、ルーラーであるジャンヌさえ知らない事実。
 この奇怪な奇跡を目にして、ジャンヌも疑問符を浮かべずにはいられなかった。

「お姉さん誰?」

 だがそれよりも、無垢な瞳で語り掛ける少女に対応すべきだろう。
 なるべく優しい声色を心掛けながら、ジャンヌは口を開いた。

「私はこの聖杯戦争を取り仕切るルーラー、ジャンヌ・ダルクと言います」
「せいはいせんそう……あ、ふぇすてぃばるの事なん?」
「ふぇすてぃばる、ですか?」
「うん、あっちゃんが言ってたのん。わしょーいってお祭りをみんなでやるん!」

 聖杯戦争をお祭りと思い込んでいるれんげを見て、ジャンヌは衝撃を受ける。
 まさかこの子供は、ベルク・カッツェの違反はおろか聖杯戦争自体を知らないのか。
 そんな何一つ理解していない者が、どうしてこの殺し合いに巻き込まれているのだ。

「ねえお姉さん、あっちゃんと八極拳どこ行ったか知らないのん?」
「その、あっちゃんというのは一体……」
「あっちゃん、神父にアーカードって名乗ってたん」


 それを聞いて、ただ絶句する他なかった。
 この子供は、アーカードが帰ってくると信じ込んでいるのだ。
 その男は、もうこの冬木から消え去ってしまったというのに。

「あっちゃん達、ここで待ってたらカレー食べさせてくれるって言ってたのん。
 だからうちここで待ってるん……ねえお姉さん、あっちゃんいつ戻ってくるん?」

 もう戻らない男達を待ち続ける少女に、何と答えればいいのか。
 彼等はもういないのだとありのままに伝えるのは簡単だ、しかしそれはあまりに残酷すぎる。
 聖処女は嘆きを心中に押し込み、いつもと変わらぬ優しい顔で、

「彼等は皆、少しばかりこの街を後にするようです。
 数日後にまた戻ってくるから、その時まで待っていてほしいと」

 ジャンヌは、この聖杯戦争で初めての嘘をついた。
 それは人を傷つけない為の、優しくて悲しい嘘。

「……それほんとなん?」
「ええ、本人達がそう伝えてほしいと」

 それを聞いたれんげは、不機嫌そうに俯いた。
 確かに不服だろうが、今はそれを信じてもらう他ない。

「"あっちゃん"でしたか。彼がしばらくは私と行動してほしい、と」
「分かったのん。でもうち、どこで寝ればいいのん?」
「それなら教会へ行きましょう。あの場にいれば安全です」

 ひとまずは、彼女を教会に連れていくとしよう。
 あの場所であれば、この子が他者に襲われる心配もない筈だ。
 カレンが何か言うだろうが、子供を外に放り出す程冷酷ではないと信じたい。

「ねえ、お姉さん」
「なんでしょうか?」
「うちな、あっちゃん達とカレー食べに行く約束してるん。
 だから、カレーはみんなが帰って来た時まで我慢するのん」

 歩き出そうとした時に、れんげがそんな事を言ってきた。
 彼女はあくまで、この街で最初にできた友達との約束を守る気であったのだ。
 それを聞いたジャンヌは、隣で歩こうとするれんげの手を、しっかりと繋いだ。



【D-9/森林付近/二日目 未明】

【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の恙ない進行。
 0.れんげを教会で保護する。
 1.???
 2.その他タスクも並行してこなしていく。
 3.聖杯を知る―――ですか。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。
※カッツェに対するペナルティとして令呪の剥奪を決定しました。後に何らかの形でれんげに対して執行します。
※バーンに対するペナルティとして令呪を使いました。足立へのペナルティは一旦保留という扱いにしています。
※令呪使用→エリザベート(一画)・デッドプール(一画)・ニンジャスレイヤー(一画)・カッツェ(一画)
※カッツェはアーカードに食われているが厳密には脱落していない扱いです。
 サーヴァントとしての反応はアーカードと重複しています。

【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]ルリへの不信感、擦り傷
[令呪]残り1画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]十円
[思考・状況]
基本:かっちゃん!
 1.かっちゃんに友達できてよかったん……。
 2.るりりん、どうして嘘つくん?
 3.はるるんにもあいたい
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※昼寝したので今日の夜は少し眠れないかもしれません。
※ジナコを危険人物と判断しています。
※アンデルセンはいい人だと思っていますが、同時に薄々ながらアーカードへの敵意を感じ取っています。
※ルリとアンデルセンはアーカードが吸血鬼であることに嫌悪していると思っています。
※サーヴァントは脱落しましたが、アーカードがカッツェを取り込んだことにより擬似的なパスが繋がり生存しています
 アーカードは脱落しましたが、彼は"生きてもいないし死んでもいない"状態に還ったので、かろうじてパスも生きています。



 ◇◇◇


『この森を抜けた先に、恐らく子供が独りで待っている』
『狂信者の俺には最早叶わんが、どうかあの子に寄り添ってはくれないか』

 アンデルセンは、最期にルーラーにそう頼んでいた。
 あの生真面目な少女の事だ、きっと頼みを聞き入れてくれるだろう。

 アーカードという真祖が消えた今、宮内れんげはただの少女に過ぎない。
 そして主を喪った今、彼女は数時間の内に消滅する運命にある。
 つい昨日までか弱い子供に過ぎなかったれんげに、孤独な最期はあまりに酷であろう。
 かつて彼女を拒絶した自分には無理でも、ルーラーならば寄り添える筈だ。

 アレクサンド・アンデルセンは、異端狩りの狂信者だ。
 けれども同時に、子供達の善き父親代わりでもあった。

 ヴラドを喪った今、アンデルセンの死はもう避けられない。
 他のサーヴァントと再契約を結べば生き長らえれるが、もう聖杯戦争に関わる気もない。
 かつて廃教会があったこの廃墟で、最期の時を過ごすとしよう。

 そう、これでよかったのだ。
 死者の舞踏は太陽と共に姿を晦まし、生者の時間が再び始まる。
 地獄へ堕ちる背信者は、ここで役目を終えるべきなのだ。

 けれど、その前にやるべき事がある。
 一介の神父として、誇り高き人間を弔わねばならない。

「慈しみ深い神である父よ、貴方が遣わされたひとり子キリストを信じ、
 永遠の命の希望の内に人生の旅路を終えたヴラド・ツェペシュを、貴方の手に委ねん」

 アンデルセンが紡ぐのは、天へと昇る死者を見送る言葉。
 神の祝福があらん事を祈り、その者を"人"として尊ぶ詩。
 人間として化物を滅ぼした王を、ただの人として弔う。
 それがアレクサンド・アンデルセンという神父に今出来る、唯一の行動だった。

「我らから離れゆくこの兄弟の重荷をすべて取り去り、
 天に備えられた住処に導き、聖人のつどいに加え給え」

 明日になれば、アンデルセンは消えて無くなってしまうだろう。
 念の為、孤児院の従業員には前以て話をつけてある。
 子供達には悲しい思いをさせるだろうが、きっとすぐに立ち直れる筈だ。

「別離の嘆きの内にある我らも、主キリストが約束された復活の希望に支えられ、
 貴方の元に召された兄弟と共に、永遠の喜びを分かち合うことがあらん事を祈って」

 アンデルセンは祈る。闘争に勝利した王の、安らかなる眠りを。
 奇跡の様な巡り合わせで生まれた、無辜の怪物ですらないヴラド三世。
 きっとあの様な事は、これから先万に一つとして在り得ないだろう。
 故に、アンデルセンは弔うのだ。

「わたしたちの主イエス・キリストによって―――」

 そしてもう一つ。聖杯に託そうと考え、しかし諦めていた願い。 
 それは異教徒の消滅でもなく、カトリックの繁栄でもなく。
 孤児院を営むただの人間が抱く、大きくも美しき願望。

「―――Amen」

 どうか、全ての子供達が、幸福でありますように。






【ジョンス・リー@エアマスター 死亡】
【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING 消滅】
【ランサー(ヴラド三世)@Fate/apocrypha 消滅】



……



…………



………………



……………………



…………………………



………………………………



……………………………………



…………………………………………



………………………………………………



……………………………………………………あれから、どれだけ経っただろうか。


 血の一滴も飲まずに、逃げ惑う腰抜けな魂を狩って裂いて千切ってきた。

 逃げ続ける腰抜けの魂を狩るのは、堪らなく退屈だ。
 そして、その退屈しのぎに思い出すのが、かつての記憶だった。

 それは、人として生き続けたヴラド三世との、己の存在を賭けた一騎打ち。
 人間である事を誇り、そしてそれを尊いものとしたあの男の信念は、身震いする程美しくて。
 ただの人間が見せてくれたあの輝きは、しっかりとこの眼に焼き付いている。

 そして、その度に痛感するのだ。
 やはり人間は、化物なんかより遥かに素晴らしいのだ、と。

 やたらと髪の赤い長身の男を仕留めると、自分の中の魂は一人と一匹になった。
 それは即ち、アーカード本人の魂と、生と死の狭間を飛び交う確率世界の猫の魂。
 これでようやく、自分は"どこにでもいれて、どこにもいない"状態になれたのである。

 虚数の塊となったあの日から、きっと数十年は経っている筈だ。
 いつになったら帰ってくるのだと、主はきっと酷く腹を立てているだろう。
 あれから小皺はいくつ増え、どれだけ美しく老いたのか、見物である。

 ああ、それにしても喉が渇いて仕方がない。
 飲まず食わずで数十年は、流石に堪えるものがあるか。
 挨拶を先に済まそうと思ったが、これでは土壇場で血を吸いかねない。
 本人を肉眼で捕えた途端、吸血衝動が膨らまなければいいのだが。

 もう邪魔する者はどこにもいない。
 自分はもう何処にもいないし、何処にだっていれる。
 三十年前に閉じた瞳を、もう一度開く時が来た。

 さあ、目覚めの刻だ。










「おかえり、伯爵」



「ただいま、伯爵」








【アーチャー(アーカード)@HELLSING 帰還】





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