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クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6



     05.5/ interlude『影の助力/ つーか、俺ちゃんのバトルパート手抜きじゃね? 加筆を要求する! (無理です)』


「は―――、は―――、っ、は………!」

 その頃ウェイバーは、一人夜の街を駆けずり回っていた。
 それはいまだに岸波白野たちが見つけられないから、ではない。
 それどころか彼らの居場所なら、すでに大方の見当がついていた。
 でありながらウェイバーが駆けずり回っているのは、ランサーとアサシンの戦いへの対処に追われてのことだった。

 本来魔術師の戦いというものは、一般人には隠匿するものだ。
 もし発見された場合、最悪その人物を文字通り“消す”ことだって有り得る。
 それはたとえ、サーヴァント同士の戦いであっても変わりはない。
 もっとも、この町はすべてが聖杯戦争のために用意された仮想世界だ。さほど重要視する必要はないかもしれない。
 しかし、だからと言って等閑にし過ぎれば、ルーラーの裁定対象となる可能性がある。
 となればやはり、戦いの痕跡は極力隠すべきなのだ。……というのに―――。

「ちくしょう、あいつら、無茶苦茶、しやがって……ッ」
 おそらくランサーの宝具であろう、大音響攻撃による周辺への被害に始まり、そこらかしこに破壊された車やら看板やらビルの瓦礫やらが散見している。
 一目見ればすぐにわかる戦いの痕跡。事態の隠蔽など全く考慮されていない。
 これでは、是非とも自分たちの戦いを見つけてください、と言っているようなものだ。
 故にウェイバーは、せめて戦いの中心地点が露見しないよう、周囲のNPCたちに暗示をかけて回っていたのだ。

 幸いというべきか、代わりとなる目印はいくらでも散らかっていた。
 NPCたちの注目を岸波白野とアサシンの現マスターがいるだろうビルから逸らすことは、そう難しいことではなかった。
 もっともウェイバーからしてみれば、そもそもこんな目立つような戦いをするな、と声を大にして言いたいところだろうが。

 ――――だがしかし、ウェイバーのそんな涙ぐましい努力を、たった一瞬で無為にするような事態が発生した。

 それは暗示による人払いがあらかた終わり、そろそろ岸波白野たちがいるはずのビルに向かおうとした、まさにその瞬間のことだった。
 騒動によってNPCの増えてきた夜の町に、またも爆音が響き渡ったのだ。
 しかもその発生源は、岸波白野たちがいるはずの……つまり懸命に注目されないようにしてきたビルの屋上からだった。

「な……ななな、な―――!」
 当然、NPCたちの注目はそのビルに集まる。
 注目が集まるということは、そこで起きている戦いが露見する可能性に繋がる。
 そしてNPCたちの注目を再び逸らしていくような余力は、ウェイバーには残っていなかった。

「何をやってくれやがりますかあいつらは――――っ!!」

 激情のままに叫びながらそのビルへと駆け着ければ、ビルの周囲には複数人の警官の姿があった。
 おそらくはNPCたちの鎮圧・陽動と、そして先ほど発生した事態の調査のためだろう。
 数人の警官たちが、恐る恐るビルへと入っていく姿が遠目に見えた。
 明らかにまずい状況だった。

「……ああもう、どうなっても僕は知らないからな!」
 半ば自棄になりながら、警官の目を誤魔化してどうにかビルの内部へと侵入する。
 爆発の影響か、エレベーターは停止していた。
 そのためウェイバーは、ビル内部の警官に見つからないよう慎重に階段を上って行った。
 ……可能な限り息を潜め、やっぱり一人でも帰っていればよかったと、ほとんど本気で後悔をしながら。


      †


 同じころ、ウェイバーのサーヴァントであるバーサーカーもまた、もう一騎のアサシンとの戦いを続けていた。

「BangBang! BaBaBaBang! BangBaBang!」
 バーサーカーは子供のように銃声を口にしながら、アサシンへと向けた銃の引き金を引く。
 たとえバーサーカーの銃声は真似事でも、同時に鳴り響く銃声や、放たれる弾丸は本物だ。
 当たり所によっては、十分にアサシンを殺し得る。

「――――――――」
 対するアサシンは、放たれた弾丸を回避、または刀で切り払うことで、バーサーカーの銃撃に対処している。
 確かにアサシンの武器である忍者刀は、遠距離かつ連続での攻撃が可能なバーサーカーの銃に対して不利だ。
 だが闇雲に放たれるだけの弾丸では、アサシンを捉えることはできない。
 故にこの二騎の戦いは、次第に膠着状態へと入り始めていた。
 ………だが。

「っ………………」
 バーサーカーの銃撃を的確に捌きながらも、アサシンはこのままではまずい、と判断していた。
 確かにバーサーカーの銃撃は、未だにアサシンには届いていない。
 がしかし、アサシンの攻撃もまた同様に、バーサーカーに対して有効とは言えなかったからだ。

 アサシンが頼みとする武器は、その身に培ってきた忍術と、そして切り札である“瞳術”のみだ。
 そしてこの“瞳術”は、相手の害意を相手自身に返すという性質上、こと戦闘においては強力無比な忍法だった。

 ……だがこのバーサーカーは、非常に強力な回復・蘇生能力を有していた。
 たとえ刀で切ってもすぐに癒え、“瞳術”によって自害させても蘇る。
 即ち、アサシンの攻撃ではバーサーカーを殺し切れないのだ。

 無論、それほど強力な能力であるなら、相応の代償ないし制約があるはずだ。
 それが回数制限か消費魔力か、それ以外の条件なのかはわからないが、殺し続けていればいつかは殺し切れるだろう。
 が、しかし。皮肉なことに、そこにも問題が生じていた。
 如何なる理由からか、なんとバーサーカーは“瞳術”の影響を受けなくなっていたのだ。

 胸に突き立つ二本の刀によって、己は自害し続けていると判断しているのか。
 それともその狂気によって、“瞳術”の暗示そのものを無効化しているのか。
 あるいはその両方か。
 いずれにせよこのバーサーカーに対しては、アサシンの切り札たる“瞳術”は大きな効果を与えられない。
 つまりアサシンがバーサーカーを倒すには、通常攻撃のみで相手を殺し続けなければならないのだ。
 それもいつ尽きるとも知れぬ治癒能力と、相性的に不利である銃を相手に。

 故にアサシンは、己がとるべき行動を迷うことなく決定した。
 そしてその時は、意外に早く訪れた。

「うっひょー。あいつらホント派手にやってるなぁ。俺ちゃんも一発花火を上げてみてぇぜ」
 唐突に起きたマスターたちが戦っていたビルの屋上での爆発に、バーサーカーの気が逸れた。
 その瞬間、アサシンは即座にその場から撤退した。
 このバーサーカーは完全に己の天敵だ。故に、戦うのであれば万全を期す必要がある、と判断したのだ。

「あらら、あいつ逃げやがった。
 ……まいいや。俺ちゃんはあいつらの戦いでも観賞してよーっと」

 取り残されたバーサーカーはアサシンを追おうともせず、銃や胸に突き刺さったままだった刀を納め、無造作にその場に座り込んだ。
 いつの間にか入手したらしいチミチャンガを取り出しているあたり、岸波白野たちに加勢する気はまったくないらしい。

「ん? はくのんたちの加勢にいかないのかって?
 無茶言うなよ。今のバトルで俺ちゃんの残機(MP)はとっくに/ZEROよ。俺ちゃんがこれ以上戦ったら、ウェイバーたんがナルホド君になっちまうだろ。
 しかも相手は忍殺おじさんだろ? 今の状態じゃちょっとばかし相手が悪いぜ。映画放映もまだ先だってのに、こんな早々に脱落できるかっつ~の。
 まあもっとも、ウェイバーたんもこっち来てるだろうし、はくのんたち死なせてウェイバーたんが危ない目に合っちまったら本末転倒だから、ほどほどでエントリーするけどね。
 それにほら、よく言うだろ? ヒーローは遅れてやってくるってさ。俺ちゃんこれでもヒーローだから、多少遅れて登場しても全然OKなのだー!
 つ~訳で、次のパートよろしく。たのしみにしてるぜー!」

 バーサーカーはそう口にすると、チミチャンガを片手に鼻歌を歌いだしたのだった。


     06/ VSアサシン(bonds)


 視界が明滅する中、どうにか立ち上がる。
 落下の衝撃で全身が痛むが、どうやら大きな怪我はないようだ。
 慎重に周囲を見渡せば、幾つもの瓦礫が散乱している。見上げれば天井はなく、粉塵の合間に夜空に浮かぶ月が見える。
 もはや屋内の体をなしていない。屋上の崩落に巻き込まれた結果、生じた瓦礫によって内装が破壊されたのだ。

 自分と同様に崩落に巻き込まれたのか、足立透や彼のペルソナの姿は見えない。
 彼は重傷を負っていて、ろくに身動きが取れなかったはずだ。もしかしたら瓦礫の下敷きになっているのかもしれない。
 ……そのまま気絶してくれればいいのだが、とどこか他人事のように思った。
 そうして崩壊の中心地点へと目を向ければ、

「――――ッああ!!」
「――――Wasshoi!」
 その瞬間、舞い上がる土煙の中から、二つの赤い影が飛び出してきた。
 ランサーとアサシンだ。屋上へと激突した影の正体は、彼女たち二人だったのだ。

「ッ……!」
 ランサーはこちら側へと着地すると、苦悶の声を漏らして片膝をついた。
 その様子に慌てて彼女へと駆け寄り、大丈夫かと声をかける。

「ごめん……なさい……。あいつを、倒せなかったわ……」
 ランサーは本当に申し訳なさそうな様子で、悔しげにそう口にする。
 そんな彼女を労りながらも礼装を換装し、『人魚の羽織り(heal(32); )』と『破戒の警策(mp_heal(32); )』によって回復させる。

 明らかにダメージを受けているランサーと違い、アサシンの様子はあまり変わっていない。
 あれだけ有利な条件を以てなお、単騎ではランサーよりもアサシンが上なのだ。
 ならばこの戦いに勝利するには、マスターである自分がどうにかするしかない。

「どうにかするって、逆転の秘策はあるの、マスター?」
 ランサーの問いに頷く。
 秘策と呼べるほど上等なものではないが、この劣勢から逆転することは可能なはずだ。
 そのためにも、ランサーがからアサシンとの戦いで開示した手札を知る必要がある。
 それを聞いたランサーは頷いて、アサシンを警戒しつつ、先ほどの戦いを振り返り始めた――――。



「スゥーッ! ハァーッ!」
 一方アサシンは、そんな様子のランサーたちを警戒しながら、チャドー呼吸とともに自身の状態を確認していた。

 ランサーの攻撃で受けた大きなダメージは、最初の宝具攻撃によるもののみ。
 だがそのダメージによって傷が開き、出血したことによって血中カラテを消耗している。
 チャドー呼吸によって回復させているが、次に大きなダメージを受ければ、イクサを続けることは困難だろう。
 幸いなことにランサーのジツは、アラバマオトシを放った時点ですでに解けていたようだ。反射されたダメージはない。
 ここから先のイクサにおいて、攻撃を躊躇う必要がないというのは実際大きい。
 ………だが。

(ランサー=サンめ。まさかあのような方法でアラバマオトシを防ぐとは)
 アサシンは改めてランサーへと視線を向ける。
 マスターのジツによるものだろう。ランサーの傷は目に見えて癒えている。

 ―――あの瞬間。
 屋上へと激突する寸前に、ランサーはなんと、屋上へと向けて“竜鳴雷声”を放ったのだ。
 身動きを封じられ、唯一自由だった“声”を用いたヤバレカバレとも思えるその行動は、結果として実際にランサーの命を救った。
 それまでの戦闘によってダメージを蓄積させていた屋上は、ランサーの一撃によってさらに大きく損傷。
 そこへ叩き付けられたアラバマオトシの衝撃によって崩落し、結果としてランサーへのダメージが半減されたのだ。

 だが、この一撃でランサーを倒せなかったのは実際痛い。
 何故ならここから先のイクサでは、ランサーはマスターの助力を得ることになるからだ。
 対するアサシンは、マスターである足立の助力など期待できない。つまり実質的には二対一だ。
 先ほどの自己分析の通り、カラテを大きく消耗している今の状況では実際アブナイだ。
 ――――しかし。

「スゥーッ! ハァーッ!」
 チャドー呼吸によってニンジャ回復力を高め、傷を塞ぐと同時にカラテを高める。
 彼らはマスターとサーヴァント。どちらか一方を倒せば、もう一人もムーンセルによって消される。アブハチトラズだ。
 それにたとえ相手が何人であろうと、いずれ倒す敵であることに変わりはない。その時が今であったというだけのこと。

「Wasshoi!」
 アサシンは自身のカラテが高まりきると同時に、ランサーへと決断的に跳躍した。



「いい指示をよろしくね、マスター? 頼りにしてるわよ!」
 アサシンが跳躍すると同時に、ランサーも槍を構えて勢いよく踏み出した。

 ランサーからはすでに話を聞き終えている。逆転のための策も整った。
 だが逆転の秘策があろうと、アサシンが強敵であることに変わりはない。
 しかしこの状況からアサシンに勝つことは、決して不可能なことではない。
 ならば自分が、やるべきことは決まっている。
 即ち、岸波白野にできる最善を尽くすことだけだ――――!


      †


「イヤーッ!」
 跳躍したアサシンはランサーの接近に合わせ、側面回転。その上半身めがけカマキリ・トビゲリを繰り出す。
「ハアッ!」
 対するランサーは、アサシンの攻撃を迎撃。繰り出された蹴りを、槍を打ち付けて弾く。
「イヤーッ!」
 攻撃を弾かれたアサシンはその反動を利用し、宙返りしながら二連続の逆さ蹴りを繰り出す。連撃のカマキリケンだ。
「そーれっ!」
 だがランサーはすばやく飛び退きこれを回避。再度踏み込みアサシンへと高速の槍を突き出す。
 だがアサシンは左手を槍の柄に添えるように当て、最小限の動作でランサーの槍を逸らす。

「まだまだ!」
 攻撃を受け流されたランサーは、即座に槍を引き戻し、更なる刺突を繰り出す。
 マシンガンめいて繰り出される槍は、「沢山撃つと実際当たりやすい」という江戸時代の有名なレベリオン・ハイクを思い出させる。
 だが現実は――特にサーヴァントのイクサにおいては、そう上手くはいかないものだ。
 アサシンはサークルガードによって、ランサーの攻撃をすべて受け流す。アサシンのジュー・ジツは、既にランサーの攻撃に適応し始めていたのだ……!

「っ! だったら……!」
 自身の攻撃が受け流されることに焦れたランサーは、攻撃を付きから薙ぎ払いへと変更する。
 アサシンはその一撃をブリッジ回避。大気を唸らせる一撃が、上半身のあった場所を通り過ぎる。
 だがアサシンの回避行動を読んでいたランサーは、振り抜いた勢いのまま体を高速で回転させ、アサシンが反撃するよりも早くさらに槍を振り抜く。
 アサシンはブリッジ状態からそのままバック転。古代カラテ技、マカーコよって、ランサーの連撃を回避する。

「これで、どうっ!?」
 そこへ槍を大きく振りかぶったランサーが、アサシンへと一気に接近してくる。
 その瞬間アサシンは小刻みなステップ――コバシリによって、一呼吸の内にランサーの懐へ飛び込む。
 ランサーの攻撃を、完全に予測していたのだ!

「イヤーッ!」
 ランサーの懐へと踏み込んだアサシンは、その心臓めがけて致命的なチョップ突きを放ち、
  ―――GUARD!
 咄嗟に引き下げられた槍によって、その一撃を阻まれた。
 その瞬間、ランサーが反撃のために、即座に槍を振りかぶる。

「ぬっ!?」
 渾身の一撃を防がれたアサシンは、ランサーの反撃に対処すべく、咄嗟に飛び退いた。
  ―――BREAK!
 瞬間、ランサーの後方から響いた声に応じ、ランサーは“タメ”の一拍を作り、結果アサシンの回避に対応した一撃を放つ。

「無礼者にはお仕置きってねっ!」
「グワーッ!」
 回避動作直後の硬直を突かれたアサシンにこれを回避する術はなく、咄嗟にドウグ社製ブレーサーで防御する。
 だが十分に力の込められた一撃を防ぎきることはできず、アサシンはその衝撃に弾き飛ばされた。
 ―――“竜鱗は絶壁の如く(スカーラ・サカーニィ)”。
 ランサーの一撃はただ力が込められただけではなく、スキルによって防御(GUARD)からの反撃の威力も強化されていたのだ。

(ヌウ……っ! 白野=サン、なんと的確な指示だ……!)
 迫りくるランサーの追撃を受け流しながら、アサシンは内心でそう感嘆した。

 アサシンのジュー・ジツはランサーの攻撃に適応し始めている。ランサーの技量では、もはや通常攻撃でアサシンを傷つけることは難しい。
 ……だがそれは、ランサーの攻撃がアサシンの予測通りであればの話だ。
 いかにジュー・ジツがランサーの攻撃に適応していようと、その読みが外れてしまえば、的確な対処はできない。
 そして岸波白野は、アサシンの行動を逆に予測し、それに対応した指示をランサーへと出しているのだ。
 つまりアサシンは、ランサーのみならず、岸波白野の繰り出す指示さえも予測しなければならないのだ。

(……だが、そんなことは元より承知している)
 これは初めから二対一のイクサ。それが明確な形で浮き彫りになったに過ぎない。
「イヤーッ!」
 アサシンは気迫を込めたカラテ・シャウトとともに、ランサーへとその拳を繰り出した。

「そーれっ!」
 対するランサーはその一撃を、体を回転させると同時に槍の柄で受け流し、そのままの勢いでアサシンの胴を狙い打つ。
 攻撃を受け流されたアサシンは左手で槍を外へと打ち払うと同時に、さらにランサーへと踏み込み体当たりを行う。
 強烈な踏み込みから、肩から背中にかけてを用いて放たれる一撃――ボディチェックだ!

「っ、は……っ」
 胴体を打つ強烈な一撃に、ランサーは肺の中の空気を吐き出しながら弾き飛ばされる。
 アサシンはさらなる追撃を行うために、コバシリによってランサーへと迫る。
  ―――ランサー!
 そこに放たれる彼女のマスターの声。
「ッアア……ッ!」
 ランサーは即座に気を取り戻し、地面へと槍を穿つ。
 そして突き立てた槍を支点に、弾かれた勢いを利用して体を回転させ、その尻尾を振り被る。

「!」
 その行動を見たアサシンは、即座に慎重の三倍の高さでジャンプ!
 ランサーの見せた初動作から放たれる攻撃。即ち振り被られた尻尾による薙ぎ払い。その予測回避だ!
 アサシンはコバシリによる勢いのまま、ランサーの頭上を飛び越え着地。再度ランサーへと接近する―――その瞬間。
「何ッ!?」
 ランサーは尻尾を振り抜かず、さらにもう半回転。同時に槍を引き抜きつつ振り上げ、一気に振り下ろし股下を滑走させた……!

「作戦、通りねっ!」
「グワーッ!」
 ―――“不可避不可視の兎狩り(ラートハタトラン)”。
 ウカツ! ランサーたちはアサシンの行動を完全に読み切っていたのだ!
 アサシンはアンブッシュの如き一撃を咄嗟に回避するも、失敗。ダメージを受ける!

「あはっ! まだまだ行くわよ!」
 即座にランサーが、更なる一撃を加えんとアサシンへと飛び掛かる。
 アサシンはその追撃に対処すべくジュー・ジツを構え直すが、
「ヌウ……ッ! これは麻痺か!」
 全身が痺れ、明らかに動作が鈍くなっている。
 先ほどの一撃によって、アサシンはマヒ・ジツに掛かってしまったのだ!

「ネズミみたいに潰してあげるッ!」
 そこへ今度こそ振り落される竜尾の鉄槌。
 ナムサン! 麻痺によって回避動作は間に合わない!
 アサシンはならばと、両腕を頭上でクロスさせ、防御の姿勢をとる。
「ヌウーッ!」
 直後、ランサーの竜尾による一撃が、アサシンへと防御の上から叩き付けられた……!

 ―――その瞬間。アサシンは己が失策を悟った。
 竜尾の一撃による衝撃ゆえか、アサシンの体はカナシバリ・ジツを受けたかのように動けない!
 この一手、この一瞬に限り、アサシンはあらゆる動作が不可能となってしまったのだ……!

  ―――聖杯の誓約に従い、令呪を以て我がサーヴァントに命じる!

 直後、そこへ発せられる、岸波白野の力ある言葉。
 発動を命じられたその手の令呪が、一際赤い輝きを放つ。


 ―――この戦いの最中、ずっと考えていた。
 なぜ自分たちは、アサシンの存在を感じることができたのか、と。

 自分たちとアサシンの関係など、キャスターとの戦いで起きたことが全てだ。
 アサシンの存在を感じ取れる理由にはなりえない。
 ならば考えるべきは別のこと。
 即ち、自分とランサー、そしてアサシンとを繋ぐ共通点だ。

 その答えに思い至った時、アサシンを追ってきたことは、そしてこうして戦っていることは、間違いではないのだと確信した。
 そして同時に、まだ僅かにでも救いがあるかもしれないことに、嬉しくて泣きそうになった。
 何故なら――――

  ―――“凛の魂を奪い返せ”、ランサー!!

 彼女はきっと、まだそこに存在しているのだから――――!!


「了解したわ、マイマスター―――ッ!」
 岸波白野の令呪を受けたランサーが、膨大な魔力とともにその手の槍を投擲する。
「グワーッ!」
 ―――“拷問は血税の如く(アドー・キーンザース)”。
 生き血を啜る吸血の一撃が、身動き一つ出来ぬアサシンの胴体に突き刺さり――その瞬間、岸波白野の令呪の効果が発現した。

 “拷問は血税の如く”は本来、敵へと与えたダメージをそのまま自身の生命力へと還元するスキルだ。
 だが令呪の影響を受けたこのスキルは、通常とは異なる効果を発揮した。
 即ち、アサシンの全身を巡る血液、そこに宿る魔力から、遠坂凛の残滓を全て吸い上げたのだ。
 その結果がどうなるか。

 ――――血とは魂の通貨。命の貨幣。命の取引の媒介物に過ぎない。
 そして血を吸う事は、命の全存在を自らのものとするということだ。

 吸い上げられた残滓は一つの結晶となり、槍が突き刺さったアサシンの傷口から、吹き出る血に弾かれるように、赤い輝きを放って飛び出した。
 令呪によって吸い上げられ、血によって製錬された赤い結晶。それは即ち、遠坂凛の魂に他ならない……!

「リンを、返してもらうわよ!」
 ランサーは赤い結晶をその手に掴み、槍を引き抜くと同時に大きく飛び退く。
 同時に岸波白野もまた、堪え切れないとランサーの下へと駆け出した。

「ハクノ!」
 ランサーはその手の赤い結晶を岸波白野へと向けて差し出し、
 岸波白野もまた、その左手を赤い結晶へと懸命に伸ばし、

 指先が結晶へと触れた瞬間、岸波白野の意識は、白い世界に飲み込まれた――――


      / 無垢心理領域 ~メモリー・オブ・シー~


 ――――気が付けば、いつか見た海を漂っていた。
 上も下もない。空も大地もない。静かに完結した、碧い天球に浮かんでいる。
 それは、彼女の心象、彼女の魂のカタチが表れた世界だ。
 その世界の異物として/その世界の主として、岸波白野はソコにいた。

『Gid dem wandernden Vogel das Trinkwasser, der vom langen Weg kommt.
 Benutz den Vogelrahmen, in dem der Schlussel nicht angewendet wird.』

 詠唱(うたごえ)が聞こえる。
 まるで“海”そのものが歌っているかのように、岸波白野の外側から/内側から、碧い海に響き渡っている。
 ………その歌はまるで、何かに/誰かに別れを告げるように感じた。

『lch spinne den Regenbogen in neuem selbst.
 Heites Wetter, Regen, Wind, Schnee, Krieg, Ende ununterbrochen.』

 その歌に紛れて、幻影を見る。
 倒錯する。岸波白野のものではない、秘められた過去が流れ込む。
 ある日。見覚えのある面影の少女を、もう手を繋ぐ事はないと、自らの嘆きに蓋をして、見送った。

『Nimm an, ohne anderer Meinung zu sein, ohne zu fallen.
 Es nimmt an, ohne zu fütchten. ohne zu zweifeln.
 Sieg im Freund, der auf eine Reise entfernt geht.』

 歌が終わる。
 外側と内側が入れ替わる。
 曖昧だった自己は確かなカタチを取り戻し、

  ―――凛。

 この世界の本来の主が現れた。
 こうして彼女とまた会えたことに、堪らず泣きそうになった。

「よかった、どうにか間に合ったみたいで」
 凛はそう言って、本当に安心したように息を吐いた。

 そんな彼女に、どうして自分を呼んだ、いや、“呼べた”のかと尋ねる。
 あの時、彼女が自分たちを呼ばなければ、自分たちはきっとアサシンに気付くことはできなかったはずだ。
 けど彼女はアサシンに殺され、その魂を喰われた。岸波白野を呼ぶことなどできなかったはずだ。

「さあ。それは私にもわからない……いえ、何となくならわかるけど、説明できるほどじゃないわ。
 まあ理由なんてどうでもいいけどね。とにかく、アサシンに殺された後も、ぼんやりとではあったけど、私には意識があったの。
 というより、私があいつの一部になっていたって感じかな? まあ実際、あいつに喰われちゃったわけだしね」

 そう語る凛の体は、まるで何かに食い荒らされたかのようにあちこちが欠け、すでに半分以上が失われていた。
 間違いなく、アサシンの魂喰い……それによって得た魔力が消費された影響だろう。

「あの時の私にできたことは、ラインを通じて白野へと呼びかけることだけだった。
 もっとも、意識を向けるのが精一杯で、『言葉』なんて明確なカタチはとれなかったけどね」

 そう。それが、岸波白野たちがアサシンを……より正確にいえば、その中にいた遠坂凛を感じ取ることができた理由だった。

 遠坂凛と岸波白野、そしてランサーは、互いの魔術回路を結ぶパスを結んでいた。
 そして魔術回路は肉体ではなく魂に宿るモノだ。遠坂凛が遠坂凛としてのカタチを失わない限り、それが失われることはない。
 そしてランサーは、令呪の後押しによってその僅かな繋がりを辿ることで、アサシンの内から遠坂凛を救い出せたのだ。

 ……だがそれは、彼女の生存を意味するものではない。
 たとえこうして話し合うことができようと、遠坂凛は間違いなく死んでいるのだ。
 その事実を覆すことは、岸波白野には決してできない。

「……そんな顔しないでよ。
 そりゃすごく悔しかったし、やり返してもやりたいけど、もうどうしようもないことよ。
 それにアサシンを信用するって決めたのは私。白野は、そんな私を信じてくれただけでしょ?」

 わかっている。
 けど……それでも自分は、凛のことを守りたかった。
 凛と、そしてランサーと交わした約束を、守りたかったのだ。

「…………………っ!
 じゃあ命令! 約束を破った罰よ!
 私の分までこの聖杯戦争を戦って、そして絶対に勝ち残りなさい!」

 ……凛。

「前に言ったわよね。聖杯戦争優勝者の実力を見せてもらうって。
 私はまだ満足してない。あなたの力を、全然見せてもらっていない。
 それに、白野もわかってるんでしょう? 私は消えるんじゃなくて、あなたの一部になるんだって」

 ―――そう。遠坂凛はムーンセルには消されない。
 何故なら、岸波白野が遠坂凛の魂に触れた時点で、彼女の魂は岸波白野の“構成情報(からだ)”に取り込まれたからだ。
 ゆえにこれから先、遠坂凛が消えるとすれば、それは岸波白野が敗北した時だけ。
 それが、岸波白野が遠坂凛のためにできる、最後の救い――約束の守り方だった。

「……だから、さよならは言わない。ここから先は、あなたの中から見せてもらうわ。
 いい? 約束だからね。途中で負けるなんて、絶対に許さないんだから!」

 彼女はそう言って、岸波白野にその指先を突き付けてくる。
 その言葉は、今の岸波白野にとって、何にも勝る励ましだった。

  >1.……ああ、約束だ。

 湧き上がる感情を堪え、力の限りに頷く。
 たとえ自分が死んだとしても、その約束だけは決して破るまいと、自分自身に誓うように。

「うん、ギリギリ及第点ってところね。さっきよりは十分ましな顔をしてるわ。
 ……それじゃあ、約束の証に、白野にこれを渡しておくわね」

 凛は安心したように微笑むと、岸波白野へと右手を差し出した。
 同時に岸波白野の左手が、小さな熱を帯びる。そこには一画にまで欠けた令呪がある。
 その令呪が、三画全てが揃った完全な形へと戻っていた。
 これは……。

「使い損ねてた、私の令呪。私は体ごと喰われたから、令呪も一緒に取り込まれたみたい。
 令呪って要は魔力の塊でしょ? これだけはアサシンに使われないようにって、がんばったんだから」

 ……渡された令呪は、ずしりと重かった。
 それは物質的な重さではなく、令呪に込められた誓いの重さだ。
 だからだろう。その重さが、ひどく尊いものに想えてならなかった。

「それから最後に」
 凛はそう言うと、不意打ちのように岸波白野へと唇を重ね、
「ありがとう、出会ったばかりの私に協力してくれて。本当に、嬉しかったわ」
 この碧い海に融けるように、儚く消えていった。

 そうして海には、岸波白野だけが残された。
 だがそれは、離別を意味するものではない。
 この海はすでに、岸波白野の一部だ。そしてこの海には、遠坂凛が融けている。
 これから先の未来。岸波白野と遠坂凛は、決して別たれることはない。
 ただ………もう二度と、言葉を交わすことができないだけだ。

 ……だから自分も、ありがとう、と、彼女へ言葉を返した。
 ありがとう。こんな自分を、今もまだ、信じていてくれて――――


     07/ VS真・アサシン ~Ninjaslayer Abnormal Reaction Against Karate Urgency~


 ―――そうして、泡沫が弾ける様に、岸波白野は意識を取り戻した。

 海での出来事は、時間にして一瞬の出来事だったのだろう。
 周囲に大きな変化は見られない。
 ともすれば、あの出来事が夢だったのではないか、とさえ思えてしまう。

 だが、左手には、完全な形を取り戻した令呪がある。
 あの出来事は夢ではないのだと、その重みが告げている。
 自分は間違いなく、凛と最後の約束を交わしたのだ。

「……ハクノ」
 ランサーの声に、わかっている、と頷く。
 そう。岸波白野は確かに、遠坂凛と約束を交わした。―――必ず聖杯戦争を勝ち残ると。
 その決意とともに、今も床に倒れ伏すアサシンへと視線を向けた、その時だった。

「――――――――」
 岸波白野の戦意に反応してか、アサシンの体が、痙攣するように小さく跳ねた。
 同時にアサシンの纏う気配が禍々しく変質していき、その傷口から赤黒い色の炎が熾り始め、
 直後、アサシンはまるで解放された発条のように飛び上がった!
 そのままアサシンはランサーめがけてダイブ! そして暗黒の炎を纏ったケリ・キックを繰り出した!

「ッ……!」
 ランサーとともに咄嗟に飛び退き、その一撃を回避する。
 アサシンは一撃とともに着地した位置から全く動かず、直立不動の姿勢だ。
 そしてそのまま静かに両手を合わせると、小さくオジギをした。

「ドーモ、ナラク・ニンジャです」

 そう名乗るアサシンの貌は、先ほどまでとは明らかに変わっていた。
 両の瞳は小さく収縮しセンコめいて赤く光り、瞳孔は邪悪に見開かれている。
 そのメンポも牙のような禍々しい形状に変化し、その隙間から硫黄の蒸気めいた吐息が吐き出されている。

「フジキドめ。なんたる堕落。なんと情けない男よ。ついにここまでフヌケたか。
 くだらぬセンチメントに流され要らぬイクサを行い、揚句このザマ。これでは話にならんぞ」
 アサシンはまるで、先ほどまで戦っていた自分を己とは別人のように侮蔑する。
 そのどこか矛盾した言葉に思考を巡らせ、その答えに思い至る。
 二重人格。
 それが、アサシン――ニンジャスレイヤーの、最後のマトリクスなのだと。

 ……そして同時に理解する。
 凛との契約を求めたアサシンは、自分たちが先ほどまで戦っていた、フジキドと呼ばれる人格であり、
 そしてナラク・ニンジャと名乗った、今目の前に立っている人格こそが、凛を殺した存在なのだと……!

「だがよい。フートンで寝ておれフジキド。オヌシは実際限界であろう。
 代わりにワシが、あのトカゲどもに真のカラテを見せてやろうではないか。このワシが!」
 自らに語りかけるようにそう呟いていたナラクは、ランサーたちを見据え、愉快気にその貌を歪めた。
 否応なしに緊張が高まる。
 キャスターとの戦いで見せたナラクの戦闘能力。その暴威が、今度こそ自分たちに向けられるのだ。
 そう戦慄した―――その瞬間。

「アイエエエエ!?」
「ニ、ニンジャ!?」
「ニンジャナンデ!?」

 崩壊したこの階層の奥から、唐突にそんな悲鳴が聞こえてきた。
 驚きとともにそちらへと視線を送れば、そこには数人の警官。
 いかなる理由からか、彼らはナラクに対し、異常なまでの驚愕した様子を見せていた。

「グググ……」
 そんな彼らを見たナラクは、その異形の相貌をさらに愉快そうに歪め、
「サツバツ!」
 唐突に体を高速回転させ、自身の周囲全方位へと無数のスリケンを投げ放った!
「マスター!」
 ランサーは咄嗟に自分の前へと躍り出ると、槍を高速回転させスリケンを弾き飛ばす。
 ……だが、NPCの警官たちにナラクの凶行から守ってくれるような存在がいるはずもなく、
「「「アバーッ!?」」」
 彼らはあまりにもあっけなく、無数のスリケンに貫かれて即死した。

「ショッギョ・ムッジョ。詮索好きの犬は警棒で殴られるとよく言うであろう。
 ニンジャのイクサに顔を出したことが、オヌシらの運の尽きよ」
 いつの間に跳躍したのか。ナラクが警官たちの死体がある場所に着地した。
 するとなんと、警官たちの死体が粒子のように分解され、奈落のメンポへと吸い込まれていった。
 魂喰いだ。凛のときと同じように、ナラクは警官たちの魂を喰らったのだ!

 ッ――――――――!
 蘇る怒りに、強く拳を握りしめる。
「マスター、指示を頂戴。アナタの期待に応えるわ」
 だがランサーのその言葉に、どうにか冷静さを取り戻す。
 ……相手は、ニンジャスレイヤー以上の強敵……ナラク・ニンジャ。冷静さを欠いた頭で勝てる相手ではない。

「グググ………実際情けない。これだけおって、小娘一人分にも満たぬカラテ量とはな。
 だが不足したカラテも、これで多少は補えたわ。足りぬ分は、そこの小僧を喰らって得るとしよう」
 ナラクがその禍々しい戦意……いや殺意を、自分たちへと向けてくる。
 それを受け、最後の戦いに備えて礼装を換装し、湧き上がる戦意とともに精神を集中させる。

「全ニンジャ……否、全サーヴァント殺すべし!」
「これでフィナーレ、全力で飛ばしていくわっ!」
 そうして、ランサーとアサシン、異なる赤色の二騎は、今宵最後の決戦を開始した。


 ……極限まで研ぎ澄ませ。
 一手一手が致命。一瞬一瞬が必死。
 油断はするな。慢心は捨てろ。余分な思考は殺せ。
 岸波白野にできることは、ただ考え、己がサーヴァントを信じることのみ。

 イメージしろ。生と死の境界を見極めろ。
 全てを読み切れ。未知の未来を予測しろ。
 そして……勝ち取れ――――五秒後の生存を!!


      †


「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
 禍々しいカラテ・シャウトとともに、暗黒の炎を纏ったナラクが高速の三連撃を繰り出す。
「ッ……、このっ!」
 ランサーは放たれたマネキネコパンチを槍で弾き、受け流し、飛び退いて回避する。
「イヤーッ!」
 そこへ繰り出される伝説の暗黒カラテ技、サマーソルト・キック。
 ランサーは咄嗟に槍でガードするが、その威力に槍が撥ね上げられる。
「イヤーッ!」
 その瞬間、ナラクは更なる伝説のカラテ技、ローリングソバットを繰り出した。
「ッああ……!」
 ナムサン! 回避も防御もできず、ランサーはワイヤーアクションめいて蹴り飛ばされた。


 ランサーとナラク・ニンジャとの戦いは、圧倒的にナラクが押していた。
 ナラク・ニンジャと化したアサシンのステータスは、筋力、耐久、俊敏の全てがランサーを上回っている。
 さらに戦闘技術という面においても、ランサーではナラクに及ぶべくもない。
 加えて最も厄介なのが、ナラクの纏う禍々しく赤黒い炎――“不浄の炎”だ。これによりナラクの攻撃は、その脅威性が倍増していた。
 岸波白野の高い戦術眼による指示なくば、ランサーはすでに死んでいたことは間違いない。

 そしてもう一つ。ナラクを相手にして、ランサーが生き延びていられた理由があった。
 ナラクが覚醒する前に掛けた、“不可避不可視の兎狩り”による麻痺だ。
 たとえ人格が二つあろうと、体は一つしかない。フジキドが受けたダメージ・状態異常は、そのままナラクにも引き継がれるのだ。
 今ならばまだ、麻痺の影響で反撃する余裕がある。故に、その麻痺が解ける前に、逆転の一手を打つ必要があった。
 その一手を掴むために、岸波白野は高速で思考を巡らせていた―――。


「この、痛いじゃないっ!」
「イヤーッ!」
 どうにか床へと着地したランサーは、追撃に迫るナラクへと自分から接近する。
 防御に回っていては“不浄の炎”によって焼き殺される。そう判断したが故の攻勢だ。

 だがそれでお互いの実力差が覆るわけではない。
 ランサーの攻撃はそのこと如くがジュー・ジツによって無効化される。
「イヤーッ!」
 そして放たれる低空ジャンプパンチ。深く腰を沈めたナラクに、ランサーは咄嗟に防御姿勢をとる。
 しかしそれはフェイク! ナラクは跳躍すると見せかけ、ジュー・ジツの踏み込みによってランサーへと接近し、ポン・パンチを繰り出す――直前!
  ―――ATTACK!
 ナラクの欺瞞を見切った岸波白野が、咄嗟に攻撃指示を出す。
 ランサーは防御姿勢から即座に槍を繰り出し、ポン・パンチを迎撃する。
 そしてそのまま体を縦回転させ、ナラクへとその竜尾を振り下ろした。

「これでも、食らいなさい!」
 三度放たれる“徹頭徹尾の竜頭蛇尾”。
 攻撃を迎撃されたナラクは回避に移れない。そしてこの一撃を防御するのは非常にアブナイ――だが。
「なッ―――!?」
 防御が危険ならば、防御しなければいい。
 なんとナラクは、シラハドリ・アーツによってランサーの尻尾を挟み止めたのだ!

「イヤーッ!」
 そのままランサーの尻尾を掴み取ったナラクは、その怪力を以てランサーを投げ飛ばす。
 ランサーはウケミをとることもままならず、瓦礫の山に激突する。ポイント倍点!
「サツバツ!」
 そこへ止めを刺すべく、ナラクがランサーへと跳躍接近した―――その瞬間!

  ―――今だ、ランサー!
「無敵モード――オン!!」
 岸波白野の指示を受け、瓦礫の中からランサーが飛び出してきた!
「イヤーッ!」
 ナラクは構わず、ランサーへとアイアンクロー・ツメを繰り出す―――だが。
「ヌウッ!?」
 いかなる理由からか、ランサーをスレイするはずの一撃は、完璧な形で受け止められた。

「ハア――ッ!」
 そこに迫りくる、ランサーの渾身の連撃。
 ナラクは当然のようにジュー・ジツを持って対応しようとし、
「グワーッ!? グワーッ!? グワーッ!?」
 その悉くが、ナラクの体へと直撃した。
 何故。という疑問が、ナラクの脳裏を埋め尽くす。
 自身のカラテは実際ランサーを上回っている。防げぬ道理はない。なのになぜ攻撃を防げぬのか、と。

 ―――“恋愛夢想の現実逃避(セレレム・アルモディック)”。
 それがランサーの使用したスキル。彼女に対処可能な手である限り、三手分全てに対して勝利するという逆転の切り札だ。

 ナムアミダブツ! それを知る由もないナラクは致命的に混乱した。混乱し、致命的な隙を晒してしまった。
 そこへ放たれるランサーの致命的な一撃。ナラクには回避も防御もできない――しかし。
 ランサーの槍がナラクを穿つ、その瞬間。ナラクの全身から、赤黒い炎が放たれた!
「っ――――!?」
 ランサーは構わず槍を穿つが、そこにナラクの姿はない。全身から“不浄の炎”を放射し、目晦ましにしたのだ。
 そしてランサーがナラクを見失ったその間に、ナラクは行動を起こしていた。
「トカゲ如きに付き合う必要無し。貴様を殺せば、それで終わりよ!」
 ナラクを見失ったランサーは間に合わない。
 その一瞬の間に岸波白野へと接近し、ナラクは致命的なチョップを放った!

 マスターを殺せば、実際サーヴァントは消える。例外は単独行動スキルを持つ者のみ。
 そしてランサーに単独行動スキルはない。岸波白野を殺せば、それだけでナラクの勝利は決定する。
 ……そう。
 岸波白野を、殺すことができれば。

「バカな……!」
 ナラクが今度こそ、驚愕にその貌を歪める。
 まともに受ければサーヴァントでさえ殺し得る致命的なチョップは、しかし。
 岸波白野の周囲に張られた障壁によって、完全に防がれていた。

 ――『アトラスの悪魔』。そのコードキャストの名は、《add_invalid(); 》。
 未来予測によりほんの一瞬、僅か一手分だけ、あらゆる攻撃を無効化する絶対防壁を展開する礼装だ。

 そう。岸波白野は、ナラクの行動を完全に読み切っていたのだ。
 追い詰められれば、ナラクは必ず自分を殺しに来ると……!
 何しろ仮にも自らのマスターを殺し糧とするようなサーヴァントだ。その手段をとらないわけがない! タツジン!

「これで終わりよ!」
 そうして、攻撃を防がれたことで生じた隙に、今度はランサーが行動を起こす。
 ナラクへと向けて跳躍し、ランサーは渾身の力を込めて槍を投げ放つ。
 チョップを防がれ隙を晒すナラクには、この一撃に対処できない。
 ……だが、ランサーの槍がナラクを穿つことは叶わなかった。

「―――なっ!?」
「僕もいるってこと、忘れてない?」
 放たれた槍を弾き飛ばす、一振りの剣。
 インターラプト! いつの間にかナラクの背後に現れた足立が、マガツイザナギの矛剣を投擲したのだ!

「イヤーッ!」
 それによって生じた間に、ナラクが再び致命的なチョップを放つ。
 『アトラスの悪魔(add_invalid(); )』による守りは僅か一手分。そしてナラク相手に、再度使用できる余裕はない。
 放たれたナラクのチョップは、今度こそ岸波白野の首を刎ね飛ばす―――!
 ………その、直前だった。

『――――Anfang(セット)!』
 岸波白野の脳裏に、もう二度と聞くことのできないはずの声が響き渡った。

 時間が止まる。
 秒に満たぬ空白、渦巻く魔力に碧い海が胎動する。
 声に導かれるように、ナラクへと向けて左手の指先を突き付ける。

  《call_》―――
 左手首が熱い。
 詠唱している時間はない。
 ゼロ秒後の死が見えている。

 駆け巡る物理情報・魔術理論。
 詠唱する必要はない。
 受け継いだものは、全てこの瞬間のために―――

  ―――《gandor(32); 》―――!

 指先から放たれる呪詛の弾丸。
「グワーッ!?」
 岸波白野を惨殺せんとしていたナラクは、この一撃に対処することができず直撃!
 同時に弾丸に込められた呪詛が発現し、その行動を強制的に停止させられる!
 直後、ランサーがドラゴンの翼を駆使し、岸波白野とナラクの間に割り込むように着地し、

「“Ah――――――――――――ッッッ!!!!!!”」

 ゴウランガ! 自身が傷つくことも構わず、 “竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)”がゼロ・インチ距離から放たれた!
「グワーッ!」
 ナムサン! 呪詛により身動き一つ出来ないナラクは、怒れる竜の咆哮をまともに受ける!

「ヤ! ラ! レ! ターッ!」
 音速のドラゴンブレスによって吹き飛ばされたナラクは、瓦礫を弾き飛ばして床を転がり、そして己が選んだマスターである足立の下でようやく停止した。
 その体からはすでに、ナラクの象徴ともいえる“不浄の炎”は消え去っていた。
 これまでの戦闘によって蓄積したダメージと、カラテを全ての消耗し尽くしたことによって、その能力を発現できなくなったのだ。

 こうして厄災の如きだったサーヴァント――ナラク・ニンジャは、ここに敗北したのだった――――。


後半「Heaven's Fall Blank moon」に続く




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