くだらぬ三文劇 ◆OSPfO9RMfA




「あんた、聖杯戦争について知ってるか?」






 言峰綺礼は食堂にて麻婆豆腐を注文し、食べる。
 甘い。
 正確には甘辛いのだが、辛さが足りない。

 不味いわけではない。これはこれで美味だ。
 だが、地獄の業火のような、舌が焼かれるほど花椒が効いた麻婆豆腐が食べたい。
 晩ご飯は『紅州宴歳館 泰山』の麻婆豆腐にするか。
 そんなことを考えていた。

「で、願いを叶えてくれる聖杯があるわけだ!」
「……そうか」

 対面に座る真玉橋孝一の言葉に、綺礼は生返事で返した。

 ことの始まりは、綺礼のサーヴァントであるセイバー、オルステッドがNPCならざる感情を感知したことである。
 オルステッドは宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』を使用することにより、強い負の感情を感知することができる。
 そして負の感情である『悲しみ』を探り当てた。綺礼は是非その悲しみの持ち主の顔を拝んでおこうと思い、足を運んだ。

『少年よ。君はなにやら悩みを抱えているようだ。私で良かったら話を聞こう』

 ――して、そんな甘言を用いて相談に乗った矢先、冒頭の台詞を言われたのであった。

 場所を食堂に変えた後も、真玉橋は丁寧に聖杯戦争について説明してくれた。
 当然、よく知っている。綺礼もまた、聖杯戦争のマスターなのだから。
 何も知らないNPCの振りをして返事をするのが、些か苦痛である。

「俺は! おっぱいの為に聖杯戦争を勝ち抜くと決意したのだ!!」

 授業中なので食堂にいる人の数自体は少ないが、声が大きい。幾人かはこちらを見てひそひそ話をし、または見て見ぬふりをしている。
 体面を気にするわけではないが、できることなら、他人のままで居たかった。

「……ところで、真玉橋だったか」

 綺礼は名札を確認しながら喋る。彼もまた、綺礼のエプロンに付いた名札を見て己の名を知ったはずだ。

「なんだ、おっさん」
「私はまだ、30に至らないのだが……まぁ、いい」

 おっさん扱いされるのが意外に堪えるとは思わなかった。
 咳払いをして、改めて言葉を紡ぐ。


「その、おっぱいが無いという女生徒だが……仮に、彼女がマスターであった場合、君はどうするのかね? おっぱいの為に、彼女を殺めるのかね?」



「なん……だと……」

 その問いに、真玉橋は『そんなこと考えていなかった』と言わんばかりの愕然とした表情をした。



 実際に考えてなかったに違いない。
 綺礼は彼の人となりを見て、そう思った。

「うおおおおおおおおおおおあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! なんてことだぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「いや、あくまで例え話だが」

 綺礼が言葉を付け足すが、聞こえていないようだ。
 名も顔も知らぬそのおっぱいの無い女生徒が誰かは、綺礼にはわからない。
 まさか、その女生徒が本当にマスターだとは知る由もない。

「あんまりだ、あんまりすぎる!!!」

 椅子から立ち上がり頭を抱え、地面に伏して苦悩する真玉橋。
 綺礼は不覚にも、その様に愉悦を覚え――

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」

 愉悦を覚――

「運命はなんて、なんて残酷な、酷いことを!!!」

 愉悦を――

「俺におっぱいと命を天秤のはかりにかけろと言うのかぁぁぁぁ!!!」

 ――うーん。
 何かこう、違う。
 彼は本気で嘆き、慟哭し、絶望に打ちひしがれている。遠くから見れば、それは悲劇であろう。
 だが、その内容を聞くと、非常に共感を得にくい。近くから見ると、喜劇にしか見えない。

 ――いや、そもそも他者の辛苦に愉悦を感じるなど、悪徳の極みだ。罪人の魂だ。
 神に仕える身として、そのような事があってはならない。
 綺礼は自戒し、反省する。

 感情は引き起こされるもの。
 つまり、受動的なものだ。能動的に生むものでも無ければ、作るものでもない。
 感情を制御したり、押し殺したりすることは可能であっても、引き起こすことそれ自体を無くすことはできない。

 故に、綺礼は悩み苦しむ。
 綺礼は他者の辛苦に愉悦を感じ、感じる自身に失望しているのだから。
 如何に良識や良心で愉悦を悪と見なし、その感情を押し殺そうとも、それは次から次へと己の内から沸いてしまう。

 一時はそんな己に絶望し、いっそ悪に染まるぐらいならと、自殺をも考えたほどだ。
 こうして自身を戒めようとも、いつ悪に染まるかわからない。
 事実、並行世界には英雄王の流言に従い、己の悪性を受け入れた綺礼も存在する。
 今ここに居る綺礼も、何かの弾みで悪に堕ちる可能性は、いくらでも存在するのだ。

「なぁ! おっさん!! あんたもそう思うだろ!!」

 ――もっとも、仮に悪に堕ちることがあったとしても、この弾みでは悪に堕ちたくはない。
 そんな綺礼の心情も知らずか、彼は矢庭に立ち上がると、強く拳を握りしめる。

「だが、俺はこんな苦難を乗り越えてみせる!!!」

 根拠のない言葉で己を奮い立たせる。
 いや、おそらく彼は、今までもこうして何とかしてきたのだろう。
 たぶん、きっとそうなのだろう。
 そう言う意味では、根拠があるとも言える。

「ありがとう、おっさん!! 俺、頑張るぜ!!」
「あぁ……頑張ってくれたまえ。あと、おっさんはできれば止めて欲しい」

 真玉橋は綺礼の言葉を最後まで聞かず、駆けてその場を立ち去ってしまった。







『行かせて良かったのか?』

 真玉橋の背中が見えなくなってから、セイバーが念話で話し掛ける。

『と言うよりも、行かせるより他はなかったと言うべきか。セイバー、お前にも証拠を残さずに暗殺はできまい』
『確かにな』

 綺礼と真玉橋は一つの机に対面して座っていた。
 机の下で黒鍵で突き殺したり、オルステッドを実体化させて殺させたりすることは、可能だったかもしれない。
 だが、成功したとしても、どうしても証拠が残る。人が少ない食堂で、相席していた綺礼が疑われるのは必至だ。
 彼を暗殺できたとて、まだ残り26人も居る。それはリスクが大きいと判断した。

『相手のサーヴァントも分からなかった。主に従わないアサシンなどであれば厄介だが……』
『特に何らかの攻撃的な反応は見受けられなかった』

 サーヴァントは矛であり盾であり、だが意志を持つ。主の望まぬ術を用いる場合も多々あり得る。
 オルステッドは綺礼への暗殺を防ぐため、霊体化したまま気を配っていた。相手がまともなサーヴァントであれば、あちらも同じ事を考えていたであろう。
 暗殺を行ったとて、防がれる可能性も十分にあったし、こちらも暗殺される可能性もあった。

『ともあれ、マスターは掴めた。夜になり次第、襲撃という手もありだろう。もっとも、住所の入手が困難だろうが』

 綺礼は学園関係者ではある。が、ただの売店の店員でしかない。生徒名簿を入手できる立場にあるはずもない。
 また、生徒や教員にコネがあるわけでもない。人伝で住所を得る手段も、また難しいだろう。
 尾行しようにも気配遮断スキルが無く、気付かれる可能性も高い。

『セイバー。夜でも彼を索敵できるか?』
『その時彼が強い感情を抱いていれば分かるが、感情の発露無くば難しい』
『そうか』

 そうそう都合良くは行かないものか。
 結局、泳がすと言うより見逃すだが、そうするしかない。

『彼については住所を突き止め次第、夜襲を考えよう。だが、どうしても私が倒さなければならないわけではない。住所の入手でボロがでないよう、慎重に流動的に行う』
『分かった』

 綺礼はオルステッドの承諾の言葉で、会話を打ち切った。
 食べ終えた食器トレイを手にすると、立ち上がろうとする。

『――キレイ』
『どうした、セイバー』

 再度、念話で話し掛けるオルステッドに、綺礼は片付けの動作を止めぬまま答えた。

『ここから北方に270mほど。校舎とフェンスの間の空間か。朝に見つけた蟲の“憎悪”が集まるのを感じる。一つや二つではない、万はいるだろう……ほう、実体化し、人の形を為すか。そこから静止したままだ。動きは見えない』

 オルステッドが宝具で感じた情景を実況する。
 綺礼はそれを一つ一つ聞きながら、話を組み立てていく。

『つまり、サーヴァントらしき存在が、学園に侵入したと言うことか』
『そう言うことだ。だが、動かない。まるで誘っているようだ。対峙するのも一つの手だが』

 綺礼は食器トレイを返却口に返し、時計を見る。

『休憩に割り当てられた時間は、もう余り無いな』

 業務に遅れる覚悟で行くか、次の休憩を待つか、それともオルステッドのみに行かせるか。
 どれもリスクは存在する。
 行かないというのも手段の一つだ。

『セイバーはあの蟲にいたく興味を抱いていたな』
『確かに、興味はある。だが、私は私情より、あなたの目的を優先する。キレイ、あなたの指示に従おう』
『ふむ』

 さて、どうするか――




【C-3 /月海原学園食堂/一日目 午後】

【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵、エプロン
[道具]特に無し。
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.憎悪の蟲に対し、どう対処するか――
1.店員役を努める。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
3.学園内の施設を使って、サーヴァントの情報を得たい。
4.トオサカトキオミと接触する手段を考える。
5.真玉橋の住所を突き止め、可能なら夜襲するが、無理はしない。
6.この聖杯戦争に自分が招かれた意味とは、何か―――?
[備考]
※設定された役割は『月海原学園内の購買部の店員』。
※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(ロト)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。
※『月を望む聖杯戦争』が『冬木の聖杯戦争』を何らかの参考にした可能性を考えています。
※聖陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
 聖側からは霊地や戦力の提供も提示されてるが突っぱねてます。
※学園の校門に設置された蟲がサーヴァントであるという推論を聞きました。
 彼自身は蟲を目視していません。
※トオサカトキオミが暗示を掛けた男達の携帯電話の番号を入手しています。
※真玉橋がマスターだと認識しました。

【セイバー(オルステッド)@LIVE A LIVE】
[状態]通常戦闘に支障なし
[装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』
[道具]特になし。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。
1.綺礼の指示に従う。
2.「勇者の典型であり極地の者」のセイバー(ロト)に強い興味。
3.憎悪を抱く蟲(シアン)に強い興味。
[備考]
※半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。
※アキト、シアンの『憎悪』を特定済み。
※勇者にして魔王という出自から、ロトの正体をほぼ把握しています。
※生前に起きた出来事、自身が行った行為は、自身の中で全て決着を付けています。その為、『過去を改修する』『アリシア姫の汚名を雪ぐ』『真実を探求する』『ルクレチアの民を蘇らせる』などの願いを聖杯に望む気はありません。
※B-4におけるルール違反の犯人はキャスターかアサシンだと予想しています。が、単なる予想なので他のクラスの可能性も十分に考えています。
※真玉橋の救われぬ乳への『悲しみ』を感知しました。
※学園に侵入したシアンを感知しました。







 廊下をひたすら駆け抜ける真玉橋に、彼のサーヴァントが念話で語りかける。

『マスター。一応申し上げますが、“副会長がマスターだったら”と言うのは、あの男の例え話です』
『な、なにぃ!?』
『あの男もそう言っていましたが……やはり、聞いておられませんでしたか』

 セイバー、神裂火織は霊体化のまま、溜息をつく。

『ですが、ちょうど良い機会です。改めて、尋ねさせていただきます』


 マスターと出会ってから、その言動に些か矛盾を抱いていた。

『あの男が言うとおり、貧乳の女性がマスターやサーヴァントという場合も有り得ます。幼い子供が相手と言うことも可能性としてはあります。聖杯を手にすると言うことは、それらを屠る必要があると言うことです。マスター、それでもよろしいでしょうか?』

 マスターにはその咎を受け入れ、踏み越える覚悟があるのか。
 それをもう一度、問いただした。
 真玉橋はそれに、こう答えた。

『まぁ、そこは何とかする』
『何とか、ですか』

 その“何とか”が何であるか、具体的には問わない。
 ただ、その“何とか”が何であれ、“何とか”するのであれば、それはルールに則った正攻法ではない。

 だが、方法は一つではない。
 生前、一つの方法に囚われて状況を打開できなかった時、あの男がそのふざけた幻想をぶち壊してくれた。
 例えばここに彼が居たのなら、きっと何とかしてくれるだろう。
 ならば、私もそれに倣おう。

『分かりました。その方向で考えます』
『おう、頼むぜ』

 神裂は苦笑する。
 だが、満更でもない笑みだった。



【C-3/月海原学園/一日目 午後】
【真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー】
[状態]健康、乳のためとやる気出た
[令呪]残り2画
[装備]学生服(月海原学園の制服に手を加えたもの、旧制服に酷似しているらしい)
[道具]学生鞄、エロ本等のエロ目的のもの
[所持金]通学に困らない程度(仕送りによる生計)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝狙い。救われぬ乳に救いの手を
1.敵マスターを探すなり、ウェイバーたちと合流して話し合ってみるなりとにかく動かずにはいられない。
2.貧乳が相手の場合、何とかする。
[備考]
※バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。正純がマスターだとは気づいていません。

【セイバー(神裂火織)@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝狙い
1.マスター(考一)の指示に従い行動する。
2.バーサーカー(デッドプール)に関してはあまり信用しない。
3.他のマスターやサーヴァントを生かしたまま聖杯を入手する術はないか、模索する。
[備考]
※バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。正純がマスターだとは気づいていません。



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