巴マミ&アーチャー ◆BL5cVXUqNc


 世界が反転し、剥がれ落ちた色が元通りになってゆく。
 ここは見慣れた見滝原の公園。
 私たちは今日も無事に日課の魔女退治を終えることができた。

「お疲れさま鹿目さん、暁美さん」
「は、はいお疲れさまでした!」
「ほむらちゃんの魔法のタイミングバッチリだったよっ。次もよろしくね!」
「う、うん!」

 幸せな日々。
 ずっとひとりぼっちで戦ってきた私にできた大切な仲間たち。
 まだちょっとばかり危なっかしいところもあるけれど、彼女たちは日に日に力を付けていってるのがわかる。
 うん、私もうかうかしてられない。二人の成長を見守るだけでなく、私自身も鍛錬を怠らないようにしないといけないわ。
 後輩に追い抜かれたら先輩としてかっこ悪いもの。

(マミ――ちょっといいかい?)

 私の足元で毛繕いをしていたキュゥべぇがじっと見つめて私に語りかけてきた。
 鹿目さんと暁美さんは声に気づいていない。どうやらキュゥべぇは私にだけ話しかけているようだ。

(二人はいいの?)
(ああ、少しマミとふたりきりで話したいことがあってね)

 ふうん……私は怪訝な表情でキュゥべぇをちらりと見た。

「はぁ~今日も疲れちゃったよ。ほむらちゃん、マミさん、明日も学校だし早く帰ろっ」
「そうだね。帰ろっか」
「……………」
「マミさん? どうしたの」
「あっ、いや、私はもうちょっと街をパトロールして帰るから二人は先に帰ってて」
「ならわたしたちも――」
「だめよ。今日は疲れてるんでしょう? 明日の授業に響いてしまうわ。後輩の健康管理も先輩の仕事よ」

 二人に嘘を吐くのは忍びないけどいつになくキュゥべぇが真剣な表情(と言ってもいつも無表情だけど)だからここは嘘も方便。ここは大人しく帰ってもらう。

「……はぁい。ほむらちゃん帰ろ」
「あ、うん。巴さん今日もありがとうございました。それじゃあ私たちはこれで――」

 暁美さんは一言お辞儀をすると少し肩を落とした鹿目さんといっしょに去って行った。
 ごめんなさいね。今度おいしい紅茶とスコーンをご馳走するわ。

「人払いご苦労さま。マミ」
「はぁ、それで――私だけに何の用?」
「うん、ちょっとマミに調べ物をお願いしたいことがあってね」
「何かしら」


 キュゥべぇは相変わらず無表情な顔で言った。


「マミ、君に<方舟>の調査をしてもらいたいんだ」
「<方舟>――?」
「この星の周りを回ってるモノは何だと思う?」
「それは月でしょ。後は人工衛星とか宇宙ステーションとかかしら」
「そうだね。でも地球を公転しているものはそれだけじゃない。極端な楕円軌道を描いて数十年に一度地球に接近する構造物があるんだ」

 そんなまさか。
 彗星じゃあるまいしそんなモノが地球を周回してるなんて初めて聞く。

「それはもうすぐ近日点、いやこの場合主星は地球だから近地点か。とにかく近々地球に最も再接近するそれの調査をお願いしたいのさ。ああ、その方舟の特徴は――」

 キュゥべぇは饒舌に方舟とやらの外観、構成されている素材を私に説明する。
 ちょっと待ってそれって――

「ノアの、方舟……」
「おや? よく知ってるねマミ。正直中学生には難しい話だと思ってたんだけど。ああ、そういうお年頃というやつかい?」
「べっ、別に旧約聖書ぐらい一般知識よっ! そ、そんなことよりもどうして私だけなの。鹿目さんと暁美さんも一緒ではダメなのかしら?」
「単純な話さ。そこに行くためのモノを一人分しか確保できなかったからね」

 そう言ってキュゥべぇは一片の木切れを私に見せた。

「今や失われしゴフェルの木、方舟への旅客券。さすがに若輩者のまどかやほむらを一人で行かすわけにはいかないだろう? ベテラン魔法少女の君が調査に打って付けというわけさ」
「そこに……何があるというの?」

 正直言って胡散臭すぎる。あまりにも眉唾物だ。
 それに魔法少女の使命を放ってまですることでは――

「詳しいことはわからない。ただ魔女に関係あるものだと。あるいは魔女の起源――ひいては魔女の発生を止める方法が調査によって明らかになるかもしれない。そう、これも魔女退治の一巻さ」

 私の思いを見透かしたようにこれも魔法少女の仕事だと説くキュゥべぇ。

「まあ無理強いはしないよ。マミが駄目なら他のベテラン魔法少女に頼んでみるさ。そうだね、佐倉杏子とか適任かな」
「――っ!」

 嫌な名前を聞いてしまった。
 かつて私とコンビを組んでいた魔法少女。
 そして彼女に遭った悲劇と、その件を機とした意見の相違から半ばケンカ別れで私たちはコンビ解消となった。



 ――甘ちゃんマミはそうやってお友達ごっこしてなって。あたしは方舟に行ってくっから、じゃあなマ・ミ・セ・ン・パ・イ



 そんな私を嘲笑う佐倉杏子の声がしたような気がして――

「……私、やるわ。だからその木片を私に頂戴」
「さすがマミだね。ならば受け取るがいい。万能の願望器たる月<ムーンセル>に至る鍵を、方舟<アークセル>の良き航海を――」


 え、今何て――?


 ゴフェルの木片に触れた瞬間、私の意識はそこで闇に落ちた。






 ◆





「――というわけなの」
「あはは……それって見事に相手の思うツボでしたね」

 無人の駅のベンチで私は前に立つ女の子に事に至った顛末を説明した。
 あー、私のバカバカバカ! どうしてあんな安請け合いをしてしまったの!?
 佐倉さんの名前を出された途端ムキになっちゃうなんて……ほんと私って馬鹿。

 よくわからないまま<聖杯戦争>とやらに参加して、気がついたら<予選>を突破して契約した<サーヴァント>と共に聖杯戦争を勝ち抜く。
 私にあてがわれたサーヴァント――目の前の女の子はアーチャーのクラスだった。

 アーチャー。つまり弓兵。
 もっともこの方舟で行われる聖杯戦争ではアーチャーと呼ばれるクラスは別に弓を装備しているとは限らない。
 要は何か遠距離攻撃できる武器をメインとしているならばアーチャー扱いになるのだという。
 この聖杯戦争の管理者は融通が利くというかクラス分けがこじつけというべきか。
 私のパートナーたる彼女も弓を装備した正しい意味のアーチャーではなかった。

 腰より長く伸ばした綺麗な黒髪をポニーテールにまとめ、白と赤を基調としたセーラー服に身を包み、菊の紋章が刻まれた大きなチョーカーをした少女。
 歳の見た目は私よりも少し年上だろうか。赤い奇妙な番傘をさしたその立ち振る舞いの優雅さは黒髪と相まって大和撫子という表現に相応しい。

 そしてスタイルも。私もそれなりに自信はあったつもりだけど彼女には及ばない。悔しい。
 っと彼女のスタイルの良さは置いておいて、もっとも奇異なものがある。

 腰に装着された金具から背中に向かって背負うような形で担いでいる異様な大きさの鉄塊。
 鉄塊にはへばりつくように大小無数の大砲が装着されている。正直ちょっとかっこいいかも今度新しい必殺技の参考にしてみようかな。

 ……じゃなくて、何よりも驚きだったのが彼女の名前だった。






 大日本帝国海軍大和型戦艦一番艦――大和




 それが私のパートナー。
 アーチャーの真の名前。



『あの、大和ってあの大和……なんですよね?』
『はいっ、野球選手でもなく運送会社でもなく宇宙戦艦でもなく、正真正銘先の大戦で建造された世界最大の戦艦、大和です』

 つい先ほど契約したばかりの私が大和と交わした言葉。
 まさか軍艦が人の姿を取って現れるなんて思いもしないのだから当然。
 本人(艦?)曰く、自分は戦場に散った将兵の無念や戦後の日本人がその悲劇的な結末に馳せた想いがカタチとなった付喪神のようなものだと言う。

「ねえ、大和さん。あなたも何か聖杯に願いがあってここにいるの?」
「さあ、どうでしょうか。こうしてヒトのカタチとココロを得てしまったのなら、争いの無い平和な時代で普通の女の子として暮らすのも良いのかもしれません。でも、それと同時に――」

 ほんの僅かな間。大和の視線が空の向こうを見据える。

「巴さん、私が辿った結末を知っていますか?」
「……一般的な知識程度には」

 にっこりと寂しく微笑む彼女。


「戦うために造られながらもまともに戦う機会も与えられず、最後の最後で敗軍の意地とプライドのために出撃し沈んだ。いえ――光に向こうに消えた長門さんと比べたら戦いで沈めた分、恵まれたのかもしれません。それでも私は軍艦として――史上最大の戦艦として思う存分に戦いたい。そんな想いもあります」

 平和な世界で静かに生きたい願い。
 兵器としての本懐を全うしたい願い。

 相反する願い。
 神代の英雄が歩んだ歴史と違って彼女の歴史は今私が生きている世界への地続きの歴史。
 だからこそ私は何も言えないまま彼女の願いを聞いていた。

「あっ、ごめんなさいっ。別に巴さんが気に病むことはないです! 私はサーヴァントとして巴さんを全力でサポートするだけですから」
「そう……ね。よろしくお願いするわ、大和さん」
「ええ、こちらこそ提督――いえ、マスター」

 私と大和は握手を交わす。
 温かく柔らかい掌の感触は軍艦ではなく人のそれ。
 彼女は凛とした声で開幕の狼煙を上げた。



「大和型戦艦、一番艦、大和。推して参ります!」







 ◆






 闇の中に林立する高層ビルの尖塔にて中天を見上げる小さな白い影。
 インキュベーターは明るく輝く満月に向かって呟いた。


「ムーンセル――僕たちとは種を異とする地球外知的生命体が地球を観測するために設置した量子コンピューター。余所様のモノを勝手に使うのはずっと遠慮してきたけど、そろそろ僕たちもそれを有効活用させてもらうよ」

 かつてアフリカ・オルドヴァイ渓谷にて人類に最初の『処置』を施したインキュベーター。
 それまで地球の環境と生命を記録し続けていたムーンセルはその時初めて地球における知的生命体の発生を記録した。

「万能の願望器たるムーンセル。それが生み出すエネルギーは宇宙の創成に匹敵する莫大なモノ。しかし残念かな僕たちはソレに願いをかける感情を持ち合わせていない。だからこそ僕たちはヒトがムーンセルに望みを託せるだけ文明を発達させるまで待つ必要があった」

 希望と絶望の相転移。
 魔法少女と魔女が織りなすエネルギー環を作り上げる傍らで計画されていたムーンセルの利用。
 400万年の時を経てようやくインキュベーターは実証実験に着手したのだった。

 思春期の少女たちを魔女システムにて活用する一方で、十分な実力を身に付けた魔法少女をムーンセルの端末たる方舟に送り込む。
 そして願望器を手に入れた魔法少女からエネルギーを回収する。
 人類に文明が起こって以来、方舟が地球圏に飛来する度に魔法少女を送りこんできたが未だ成果は上げられていない。

 聖杯を手にすればそれでよし、聖杯戦争の最中絶望して魔女になればそれはそれでよし。
 巴マミ程度の実力者なら世界中に掃いて捨てるほど存在する。弾数の心配する必要はなし。

「しかし人間とはわからないね。佐倉杏子の名前を出した途端、マミはあんなにムキになるなんて」

 今回送り込むのは佐倉杏子でもよかった。
 どちらでもさほど変わりはしないのだが感情の振れ幅が巴マミのほうが大きいため、
 失敗して魔女化したときのエネルギー回収効率を考えて先に声をかけたのだ。

「っと。マミが不在中この街の魔女をまどかとほむらだけに任せるのは少し荷が重いかな」

 せっかく契約してくれた金の卵をみすみす割ってしまうのは勿体ない。
 補充人員を確保しなければ。




「まどかの友達……美樹さやかだったっけ。まずは彼女を魔法少女に勧誘して――ルーキー三人だけではやはり不安だね。ベテランも一人呼んでおこう。もしもし杏子、聞こえるかい?」


【クラス】アーチャー
【真名】大和@艦隊これくしょん
【パラメーター】
 筋力A+ 耐久A++ 敏捷E 魔力E 幸運D 宝具C

【属性】
 秩序・中庸

【クラススキル】
 対魔力:E
 魔力への耐性。無効化はできないものの、自身の持つ装甲の高さにより耐久力は非常に高い。

 単独行動:C
 マスターの魔力供給が無くても一日程度は現界可能。

【保有スキル】
 水上戦闘:A
 軍艦の英霊であるがゆえのスキル。水上では全てのステータスが1ランク上昇する

 大艦巨砲主義:D
 決戦兵器として建造された彼女であったが既に戦艦同士の砲撃戦は時代遅れとなり、空母機動艦隊による航空戦が主流となってしまっていた。
 それを反映して空からの攻撃に対して敏捷が1ランクダウンする。

 自己改造:B
 軍艦であるために様々な装備換装、近代化改修による能力の向上を行うことができる。

 弾着観測射撃:B
 搭載している観測機により目視無しでの正確な砲撃を可能とする。ただし観測機を撃墜されないよう一定の航空優勢を必要とする。

 大和ホテル:A
 大戦当時、他の艦船のほとんどが劣悪な居住性だったのに対し、大和は『大和ホテル』と揶揄されるほど居住性に富んでいた。
 冷暖房完備の士官室、一流の料理店出身のスタッフを備えた厨房、サイダーやアイスクリームも艦内で飲食可能。
 訓練は厳しいものの作戦行動時以外は乗組員にとってリゾート気分であった。
 それらの由来により非戦闘時マスターの魔力が少しずつではあるが回復する。

 正体秘匿:C
 今でこそ日本の戦艦の代名詞と語られる彼女であるが、大戦中は極秘裏に建造され一般人に存在を秘匿されていた。
 その由来により他マスターからステータスや真名を読み取りにくくする。しかし彼女の艤装を見ればわかる人間はすぐにわかるかもしれない。


【宝具】
『零式水上観測機』
 ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:5~100 最大補足:10
 大和に搭載されている弾着観測射撃を行うための観測機。単独でもそれなりの戦闘能力は持つが攻撃手段としては心許ない。
 あくまで観測・偵察用としての使用が望ましい。なおマスターの魔力さえあれば撃墜されても何度でも補充可能

『45口径九四式46cm三連装砲』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:10~80 最大補足200
 大和の代名詞たる主武装。現代となっては再現不可能な技術で制作された一種のロストテクノロジーである。
 三基計九門の一斉射撃の威力は凄まじく都市区画ですら用意に粉砕する。
 弾頭を三式弾へ換装することにより対空迎撃も可能。

【weapon】
 12.7cm連装高角砲
 対空兵装。宝具ではないため魔力消費は抑え目

 15.5cm3連装砲
 副砲。こちらも宝具でないためそれなりの威力とそれなりの魔力消費


【人物背景】
 艦これにおける大和型戦艦一番艦。史実においての活躍はwikipediaや文献を参照。
 ゲーム内においては圧倒的な火力と装甲をもって深海棲艦を粉砕する。
 その火力は凄まじく、強敵であるフラグシップ戦艦ですら一撃で消し飛ばす。
 しかしその性能を差し引いても非常に燃費が悪く、長門型の倍の燃料と弾薬を消費し、
 下手に育成のために被弾しようものなのならその修復に莫大な資源を要するためその運用方法に提督たちは頭を悩ませている。
 ゆえに被弾しても修理費用のかからない演習のみにしか参加させてもらえず「演習番長」と呼ばれることも

【サーヴァントとしての願い】
 平和な時代で静かに暮らしたいが、戦艦として為し得なかった艦隊決戦にて自らの力を示したくもある

【基本戦術、方針、運用法】
 マスターが魔法少女のマミとはいえその劣悪な燃費に使いどころには頭を悩ますだろう。
 現実的な運用としては大和ホテルのスキルでマスターの魔力の回復を待ち、
 観測機を飛ばし相手マスターに気づかれない超アウトレンジから46cm砲をたたき込むことだろうか。
 なお元が鈍重な戦艦のためクロスレンジでは自慢の砲もまともに使えず重装甲を生かした壁役ぐらいにしか使えない。
 近接戦闘はできるだけ避けた方が無難。


【マスター】
 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ

【参加方法】
 ゴフェルの木片による召喚
 キュゥべぇに半ば騙される形で参加

【マスターとしての願い】
 特に無し。方舟からの脱出

【weapon】
 おなじみのマスケット銃

【能力・技能】
 ベテラン魔法少女らしくリボンから生成したマスケット銃を使い多彩な戦闘を可能とする。

【人物背景】
 元々は平凡な中学生であったが両親の運転する車が事故を起こした際瀕死の重傷を負い、そこに居合わせたキュゥべぇに『助けて』と願ったために魔法少女となる。
 性格は優しく正義感に溢れまさに頼れるお姉さん。新米魔法少女のまどかとほむらを指導するよき先輩である。
 だが、その性格は事故でたった一人生き残ったことへの罪悪感と魔法少女としての初陣で魔女に襲われた子どもを救えなかった罪悪感というトラウマの裏返しでもあり、メンタル面で脆い部分も見せる。
 とある時間軸ではそれらの罪悪感に押しつぶされ、自らの魔法少女としてのあり方を見失った末に絶望し魔女化する姿を見ることができる。
 なお今回のマミの参戦した時期はTV版10話、ほむら二周目の時間軸である。

【方針】
 できる限り戦いは避ける。大和の願いを叶えてあげられない後ろめたさはあるが積極的に協力者を募り脱出を目指す。

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最終更新:2014年08月24日 20:39