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報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw


「以上が、昨日から今日にかけてこの街であった噂話です……
 まあ、尾ひれが明らかについてるゴシップばっかりでしょうけどね?」


市街地からやや外れた、一通りが少ない朝の公園。
その一角で、ゴルゴ13は大木に背を預けたまま、隣に立つ男―――新聞記者のNPCの言葉に無言で耳を傾けていた。


ジナコと契約を果たしてから今に至るまでの数日間、ゴルゴは情報収集の為に出来る限りのあらゆる手を尽くしていた。
その内の一つが、こうしたNPCとの接触だ。
ゴルゴはその生前、依頼を果たすに当たって、必要に応じて世界各国にいる情報屋の協力を得る事が多々あった。
如何に狙撃手として優れた能力があっても、彼一人でこなせる事にはやはり限界がある。
己の視点からでは得られない貴重な情報を得られたからこそ、果たせた依頼も決して少なくはなかった。

故に、この場においてもゴルゴは、信頼できると判断したNPCに情報提供を依頼していたのだ。
他の参加者と比較して日時のアドバンテージを得られていた点が、ここで大きく活きていた。
己を裏切らないであろう口が堅い人間を、日数があったおかげで僅かとはいえ見極める事が出来ていたのだ。


「分かった……情報料は後日、振り込ませてもらおう」

「へへっ……すいませんね、旦那。
 では、私はこれで……また何かありましたら、報告しますよ」


また、依頼者であるジナコの資産が豊富である事も大きかった。
当然ではあるが、NPCも無償でゴルゴに情報を提供しているわけではない。
時には危ない橋を渡りかねない役目なのだ。
だからこそ、ゴルゴは惜しむ事無く報酬として高い金銭―――もっとも中には、一夜の情事を求めてきた者もいたが―――をNPCに提示している。
高額な報酬金があるならば、多少の無茶を承知で動くだろうと踏んでいるからである。
実際、そのおかげかそれなりに有力な情報は幾らか得られている。


(……やはり、本格的に動き出している者達が他にも現れ始めたか)


その中でも、ゴルゴが特に興味を引かれた話がひとつあった。


橋を越えた先にある、病院の近隣に作られた森林公園。
そこで、妙な臭い―――強い精臭が感じられたという噂が、公園を訪れた一部の者達の間にあるのだ。
加えて……その公園には時々野犬や野良猫の類が徘徊しているというのだが、そういった動物達の交尾姿が明け方にかけてから少々散見されているという。
つまり、常識的に考えればありえない話にはなるが……森林公園を訪れた者は、何かしらの影響を受けて発情・欲情したという事になるのだ。


(房中術、ハニートラップ……その手の類に長けたマスターか、或いはサーヴァントがいるとみるのが妥当だろうな)


もっとも、ゴルゴはそんなありえない話を平然と受け入れていた。
何せ生前、己が性を武器とする相手とは多々対峙してきたのだ。
マスターか或いはサーヴァントの中にも、その分野に長けた敵がいると見てもいいだろう。


しかし……ここで重要なのは『その様な相手がいる』という点ではない。
その様な相手が、『その様な手段を用いた』という点だ。


既に参加者同士で激しいぶつかり合いが生じている事は、倉庫火災の一件から想像は出来ていた。
だが、この公園の事案は少々事情が異なる。
倉庫火災が切った張ったの直接的なぶつかり合いであるだろうのに対し、こちらは言わば知略策略を用いた戦いに近い匂いがある。
房中術にせよハニートラップにせよ、相手を懐に入れなければ発動はさせられない。
それを成したという事は、相手を騙し柔和させるだけの手腕を持つ者がいるという事だ。
もっとも、強制的な強姦という可能性も捨てきれない―――事実、それが正解である―――が、そうでない場合を考えると、やはり厄介だ。
戦争が始まって間もないにも関わらず、その様な策を打てる切れ者がいるとなれば……敵対する際には、強敵となりうるかもしれない。


(……どの様なマスターとサーヴァントが集まっているかを、早急に把握する必要がある)


この聖杯戦争を勝ち抜くには、他の参加者が具体的にどの様な者達であるかをどこまで早く知り得るかが鍵になる。
ただ闇雲に怪しき相手を狙撃するだけでは、到底勝ち目はない戦いだ。
対峙する相手の能力を最低限把握しない限り、返り討ちになる可能性が大なり小なり生じてしまう。
その様なギャンブルに出られる程、ゴルゴは自信の腕を過信していない。
ゴルゴ13が達成不可能と呼ばれた数多くの依頼を達成してこれたのは、外見からは想像がつかないかもしれないが、彼が臆病なくらいに慎重だったからこそなのだ。

故にこの場でも、ゴルゴは極力敵の情報を集めた上で戦いに臨もうとしていた。
その為に、例え些細な情報でも信じがたい嘘の様なゴシップでも、兎に角ありとあらゆる情報を彼は集めようとしていたのである。
敵を撃てという依頼者のオーダーを、確実にこなす為に。


(……時間か)


公園の時計に目を向け、現在時刻を確認する。
ジナコが購入して来いと告げてきたケーキ屋の開店時刻まで、もうそろそろだ。
戦争が本格的に動き出した現状、あまり長い時間彼女を一人にするのは、これまで以上にリスクが伴う。
速やかに要求を果たし、一度帰投するのが良いだろう。

もっとも……彼女の性格上、簡単に家の外に出る事はないだろう。
そう考えれば、そこまでの危険性はないのかもしれないが……




◇◆◇




(……念話が通じない。
何かしらの理由で、受け付けられない状況に陥っているのか……)


厄介な事に、事態は悪い方向へと向かってしまっていた。
ケーキを購入して帰宅したゴルゴを待ち受けていたのは、家主不在となった住宅であった。
あろうことか、ジナコはゴルゴに何も告げる事なく家の外に出てしまっていたのである。
いや、それだけならばまだいい。
問題は、念話による呼びかけが一切通じないことだ。
つまり今、ジナコはゴルゴの声に応答できない状況に陥っている可能性が高い。


(……この拠点に踏み込まれたわけではない。
依頼者が自信の意思で出て行ったのは間違いない)


この家に何者かが侵入し、ジナコを拉致したという可能性は低い。
根拠は、特に家の中に人同士の争った形跡がない事だ。
如何に引き籠もりでろくでなしとはいえど、流石に襲われればジナコとてそれなりに抵抗はする筈。
そうなれば勿論、家屋にはその痕跡が残るわけだが……
見た限り、何者かが暴れた様な荒れ具合はまるでない。

いや……それどころか、寧ろその逆だ。


(…… ゴミの処理を行う為、外に出たのか)


家屋内のゴミの数が、ケーキを購入しに出た時よりも減っている。
そして減少したゴミの内容物は、全て可燃物だ。
ゴルゴは諜報活動を行うにあたり、周辺地帯で行われるイベントや集会等のスケジュールは全て把握しているが、今日は燃えるゴミの日である。
ならば、ジナコがゴミ処理のために出かけたであろうことは容易に推測できる。

そして……その最中に、何かが起きた事も。


(パソコンはスリープモードに移行している。
依頼者の性格上、でかける直前にモードの切り替えを行ったのだろうが……
底部にはまだ、比較的熱が残っている。
排熱具合からして、恐らく出かけたのは十数分程前か)


依頼者愛用のパソコンに手を当て、その熱の具合から大凡の時間を推測する。


電源が切れた依頼者愛用のパソコンに手を当て、その熱の具合から大凡の時間を推測する。
燃えるゴミの捨て場に指定されていたのは、近隣にある公園のすぐ側だった。
時間的にも、然程掛からずに済む距離だ。
ならば……依頼者の身に何かが起きたのは、恐らくホンの数分程前。
つい今しがたという事になるだろう。


(……依頼者の性格上、危険に巻き込まれたならばまず令呪に頼る筈だ。
だが、それがないとなると……)


気がかりなのは、この状況でゴルゴに令呪での呼び出しが無い事だ。
戦闘にはどう考えても向かない、恐らくはこの聖杯戦争でも最弱の部類に入る依頼者が、危機的状況に陥りながらも令呪を使わないというのは解せない。
令呪を使う隙すら与えられず、襲われたのか……否。
それなら、自分がこうして変わらず現界出来ている理由に説明がつかない。
当たり前の話だが、ジナコが死ねばサーヴァントである己もまた消滅するのだ。
それがないという事は……少なくとも、ジナコは命の危機には晒されていない。
明確な敵対意思のある相手と遭遇していない可能性が高い。

では、今のジナコの身には一体何が起きているというのか?
念話が通じない事からして、意識を失っているのは十中八九間違いないだろうが……


(依頼者に利用価値を見出した……故に生かされているという事か)


考えられる可能性はひとつ。
ジナコが遭遇してしまった相手は、彼女に何かしらの利用価値を見出し、わざと生かしているのだ。
だが、一見して魔術師とは程遠く、腕っ節もまるで無さそうな駄目人間である彼女にどんな利用価値があるというのか?
そんなものはない。
ジナコ・カリギリに、他者に誇れる様な利点など何ら見受けられない筈だ。


ただ二点―――彼女が聖杯戦争に参加しているマスターという点を除いて。
サーヴァントという、強力な味方と共にあるという点を除いてだ。


(……俺の存在を感知出来るサーヴァントがいたか。
或いは、どんなサーヴァントのマスターであっても関係無しという考えか……)


そうなると真っ先に考えられるケースが、ジナコを襲い且つ恐らく拉致している相手の目的が『ジナコのサーヴァントを味方に付ける』事だ。
マスターとサーヴァントは一蓮托生、どちらが欠けてもいられなくなる。
ならば、マスターを人質にして強制的にサーヴァントを働かせるという手は決して悪くない妙手なのだ。


(だが、その方法にはリスクがある。
それを考えられない程の相手でない限り……取る方法は別にある)


しかし、この方法には一つ欠点がある。
隙あらば寝首をかかれるという、大きなリスクを背負う事になるのだ。
いくら強力なサーヴァントを手中に収めたとしても、人質を用いての策とあれば、当然ではあるが反感を抱かれる。
もし主従の間に確固とした信頼関係があったならば、なおの事だ。
それに……サーヴァントが聖杯に託す願望次第では、人質を意に介さずという展開すらありうるだろう。

では仮に、ジナコを拉致した相手が、そのリスクを正確に理解しているとしよう。
その場合に取れる、最も効果的な手段とは何か?


(マインドコントロール……催眠の類を使い友好的な関係を違和感なく作れたならば、最善手と言えるだろう)


それは、ジナコを傀儡にする事だ。
そうすれば、人質とは違いマスター自身の意思でサーヴァントを動かす点に変化はない。
サーヴァントがマスターが操られているという点に気づかない限り、何のリスクも生じることがない。
そして魔術師としての能力が皆無であるジナコは、その手の魔術を使われればあっさりと陥落してしまうだろう。

ただし……この場合には、ジナコが引き籠もりニートであるという点が思わぬ方向で活きてくる。
何せ彼女には、現実世界での他者との交流というものは皆無だ。
それがもし唐突に、誰かと協力したいと言ってきたら……いや、それどころか誰か他人と友好的に一緒にいるだけでも、怪しいことこの上ない。
その相手がジナコを陥れた敵、或いはそれに近しい存在である事は、高い確率で間違いないだろう。


(もっとも……それは、聖杯戦争に勝つ事を目的としている相手である事が前提の話にはなる。
愉快犯やサイコパスの類には、また事情が変わってくる)


しかし、相手が必ずしも聖杯を目指す存在であるとは限らない。
それこそ、ジナコが聖杯の入手自体に然程強い望みを抱いていない事が良い例だ。
その場合……ジナコを拉致した相手というのは、俗に言う狂人の可能性とてありえるかもしれない。
英霊の中にも、例えば青髭ことジル・ド・レエの様に、錯乱した精神の持ち主だという伝説が残された者は多くいる。
その様な者の手に落ちた場合……どの様な目に遭うかの想像など、容易にはできない。
ジナコを嬲りものとして陵辱するか、或いはジナコに罪の片棒を強制的に担がせるか……あらゆるケースが考えられてしまう。

そして言えることはひとつ。
どの様な事が彼女に起きたとしても、それは決して彼女の得にはならないであろうという事だ。


(…………)


ならば、ゴルゴが選ぶ道はただ一つ。
早急に依頼者を発見し、且つ依頼者を襲った相手を抹殺することだ。
幸い、大凡ではあるが依頼者が消えた時間と場所には目処が立っている。
その近辺を捜索すれば、何かしらの痕跡を確実に見つけられるだろう。

ゴルゴは足早に家の玄関先に向かうと同時に、携帯電話―――諜報活動に当たる上で事前入手をしておいた―――を取り出す。
連絡先は今朝に出会った者と同様、情報屋として活用しているNPCだ。


「至急、情報を集めて欲しい。
現在より大凡十数分前に、B-10地点の公園近辺にあるゴミ捨て場に一人、メガネをかけた女が向かっている筈だ。
容姿は、着古したTシャツとカーディガン、ジーンズを着込んだ二十代後半の、やや太めの体型をしている。
どんな些細なものでも構わない、急ぎ連絡を頼む」


簡潔に要件を伝え終わり電源を切ると、ゴルゴは再び家屋の外へと足を運ぶ。
情報屋からの情報をただ待つだけでいられる程、状況は悠長ではない。
こちらからも集められる情報を集め、敵を見つけ出し……排除に移らねばならない。

依頼者を襲った相手は……己を、その手で敵に回したのだから。


(どのような理由があれど……この相手には、明確な敵意がある。
ならば、生かしておく理由はない……俺を利用しようという意思があるならば、尚更だ)


ジナコを襲撃した敵―――ベルク・カッツェは、この時、ある一つのミスを犯していた。
それは、彼女のサーヴァントであるゴルゴ13がどの様な人物であるかを、把握出来ていなかった事だ。


彼は己を利用しようとする相手を、決して許しはしない。
どの様な目的があろうとも、どのような相手であったとしても、己を手駒にしようとした相手には必ず死の制裁を与えている。


そして……例え相手がどれだけ逃げようとも、ゴルゴ13は執拗なまでに追いかけ追い詰めている。
遠く離れた異国の地だろうと、脱出不可能な刑務所だろうと、厳重な核シェルターの内部であろうとも。
己のルールに触れ、報復を下すと決めた相手は確実に始末しているのだ。


そんな伝承に基づき考えれば、対象の追跡という点ではゴルゴ13の右に並ぶ英霊は恐らく他にいないだろう。


そんな男を、ベルク・カッツェは敵に回してしまったのだ。


もし、その存在を彼に把握されてしまったならば……果たしてその時、両者の間には如何なる事態が起きるのか。


【B-10/屋外/1日目 早朝】

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]健康
[装備]通常装備一式
[道具]ケーキ屋のチラシ、携帯電話
[思考・状況]
1.ジナコを拉致したであろう相手を早急に発見、依頼者を保護すると同時に敵を抹殺する。
2.ジナコが友好的に接している人物がいた場合、その者は敵の息がかかった者として扱う。
[備考]
※一日目・未明の出来事で騒ぎになったことは大体知ってます。
※町全体の地理を大体把握しています。
※ジナコの資金を使い、NPCの情報屋を数名雇っています。
※C-5の森林公園で、何者かによる異常な性行為があった事を把握しました。
 それを房中術・ハニートラップを得意とする者の仕業ではないかと推測しています。
※ジナコはB-10公園付近のゴミ捨て場で拉致されたと推測しています。
 また彼女を拉致した者は、何かしらの理由でジナコに利用価値を見出したとも考えています。
 その相手を見つけた場合、特に己を利用する考えがあった時は、容赦なく報復を下すつもりでいます。
※購入したケーキは、B-10の拠点においております。



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