何処までも暗い闇の中 ◆OSPfO9RMfA


「行くぞ。
 森に潜むにせよNPCの家を乗っ取るにせよ、日が昇る前には拠点を確保したい」






「――などと言ったが、既にこんな時間か」

 キャスター、シアン・シンジョーネは実体化して空を仰いだ。
 夜は明け、日が昇り始めていた。

「すみません……」

 マスターである間桐桜は息を切らしながら言った。
 今、彼女たちが居るのはC-1。山の奥である。
 桜は弓道部に所属し、体力はある方である。
 だが、それなりに標高がある山となれば別だ。
 登山用の装備無しに、夜の山を、休憩も取らずに強行軍。
 魔術的に特異体質である事を除けば、桜は一般人だ。よくやったと褒めても良いだろう。

「別にマスターを責めているわけではない。地脈やマナライン、既に罠や工房が仕掛けられている可能性を考慮して探りながらの行軍だ。どうしてもこの程度の足並みになる」

 シアンが桜を背負って進む、と言う手段が無かったわけでも無い。
 けれども、桜からの進言が無かったため、空気を読んで言わなかった。

「だが、もう少し頑張って欲しい。あの山小屋を拠点としたい」

 桜はシアンの目線を追う。そこには小さな木造の家があった。






 山奥にぽつんとあった小さな山小屋。
 それは避難所のような場所だった。
 扉を開くと、わずか畳の敷かれた六畳一間に、かび臭い毛布が二枚あるだけ。
 乾電池式のランプが用意されており、電気も通ってないらしい。
 それでも雨風しのげる屋根と壁があるだけマシと言ったところか。

「よく頑張ってくれた。あまりゆっくりは出来ないかも知れないが、休んでくれ」
「そうします」

 桜は中に入るとすぐさま座り込んだ。
 今までろくに休んでいなかったのだ、無理もない。
 棒のようになった足を、マッサージするように揉んでほぐす。

「(……筋肉痛にならないと良いけど)」

 そんな場違いな事を思ってしまうのは、聖杯戦争への意識の少なさだろうか。
 桜の口元に自嘲的な小さな笑みが浮んだ。

「ここに工房を作る。少々地脈が離れているが、この程度ならマナラインを少し誘導するだけで事足りる。NPCの気配が全くないのが逆に索敵を容易にする。もしNPCがハイキングでもしてきたら、蜂の大群で追い返すなり、魂食いをしてしまえばいい。立ち向かうのであればマスターかサーヴァントとすぐにわかる」

 辺りを調べてきたシアンも山小屋の中に入り、壁にもたれ掛かりながら言葉を立て続けに紡ぐ。

「後は生活面か。一時間ほど歩いたところに湖に隣接した小さな市街地がある。そこで夜を過ごすなり、そこから食料などを補給したりする必要がありそうだな。最終的には浮遊城に籠城することになるだろう」

 食事のいらないシアンはともかく、桜はまだ昼食どころか、朝食も取っていない。
 また歩かなければならないことを思うとおっくうになるが、行かないことにはご飯はない。
 これはダイエットなのだと自分に言い聞かせることにした。

「あとここから先は進めない。斥候としていくつか蟲を飛ばしたが、行けども行けども風景が変わらない。飛んでいるのにまるで足踏みをしているようだ。簡単に言えば『方舟』が用意した『行き止まり』なんだろう」

 要するに歩いて逃げることは出来ない、と言うことだ。
 閉じこめられ、最後の一組になるまで戦わされる。
 まるで蟲毒のようだと心の中で皮肉る。

「学園は今から行くのは無理だな。今日は休め。それから学園の校門に仕掛けた罠の成果だが、あまり芳しくない。今の所、露骨な対応を取る者はいない。マスターが居ないのか、上手くかわされたのか……まぁ、こればかりは仕方ない。もう少し様子見するか。居なければいないで、『餌場』にするだけだ」

 学園が『餌場』となっても、桜には感傷も何も無かった。
 ――一点を除いては。
 不意に、シアンが桜の顔を伺う。

「学園の名簿を見て、顔見知りは居たか?」
「……」

 あからさまな動揺と沈黙。もはや答えたも同然だった。

 ――遠坂凜。実の姉の名前。何故か小等部に書かれていた。同姓同名の赤の他人かもしれないが、単なる偶然じゃないかもしれない。
 それに、真夜中の屋外で、懐中電灯の明かりのみで名簿を漁っただけだ。
 優先して探したが、見落とした中に衛宮士郎や藤村大河、美綴綾子たちが居ないとは限らない。学園外に役割を当てられた可能性だってある。
 仮に、マスターでなくNPCだった場合でも、模造だったとしても、衛宮士郎の形をしたものが食われていくのは、いい気分ではない。

 だが、それをシアンに言うのも躊躇われる。
 このサーヴァント、シアンは目的のためにはどんなことでもする。
 桜の大切なものを踏みにじることも、意図も容易く。
 そんな気迫と覚悟が感じられたからだ。

「まぁ、いい。もし、被害を出したくない相手が居るならできるだけ早めに教えてくれ。マスターであれ、NPCであれ、その者に危害は加えない」

 そう思ってた矢先、シアンの言葉に桜は驚きを覚えた。

「いいんですか……?」
「良くない」

 即答で返す。

「良くないが……仕方ない。最終的な決定権はマスターにある」
「――令呪」
「そうだ。桜には私の行動にNOと言う権限が、最大3回ある。その権限は絶対だ。私の意志が介入する余地も、抗う術も無い。もし、桜が私に『自害しろ』と命令したら、その通りにせざるを得ない。自殺装置を握られているようなものだ」

 シアンは大げさに溜息をつく。

「じゃあ、もしマスターだったらどうするんですか?」
「20組以上いるんだ。誰かがそいつを倒してくれるよう、祈るだけだ。桜に隠れてこっそり殺害、なんてこともしない。隠し事はいずれバレるものだ。そうなったら、それこそ令呪で殺されても仕方ない」

 先ほどの状況報告とは違ってしっかりと確認する桜の様子に、シアンはもう一枚札を切る。

「そうだな。相手が私達に危害を加えないなら、助けてもいい。ここまでは譲歩する」

 そこまで言うと、静かに息を吸い――

「だが、最終的には私達が聖杯を手にする。それだけは譲れない」

 強い覚悟を秘めた言葉で、断言する。

「正直に言おう。私と桜では、聖杯に対する熱意が違う。私を余り信用していないのも、わかっている。それでいて私の指示に従い、文句を言わないことに十分感謝している」

 シアンは桜を射抜くような瞳で見つめ――懇願する。

「これからもっと桜に苦難を強いることになるだろう。だが、それでも私は――」
「少しだけ」

 桜の声が遮る。シアンは黙り、桜の次の言葉を待った。

「少しだけ、あなたのことが分かった気がします」

 シアンは地獄を味わっている。何処までも暗い闇の中で一人。
 桜も地獄を味わっている。何処までも暗い闇の中で一人。

 だが、桜は見つけてしまった。闇の中に輝く、小さな光を。
 それがあれば耐えられる。それさえあれば、他に何もいらない。

 けど、シアンは違う。
 まだ、見つけられていないのだ。闇の中でも輝く、光を。
 それを、聖杯の力で手に入れようと藻掻いている。

 諦めて受け入れた地獄で偶然にも光を見つけられた桜には、必至に足掻くシアンの気持ちの全ては分からない。
 だけど、少しだけ分かる気がした。

 同情とか、持つ物の余裕とか、そんな邪な気持ちかもしれないけれど――

「だから、少しだけ、待ってください」

 ――同じ闇の中で生きる身として、力を貸してあげたいと思った。

「……ありがとう」

 シアンは深々と、頭を下げた。






【C-1/山小屋/1日目 午前】
【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]健康、疲労(中)
[令呪]残り三角
[装備]学生服
[道具]懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物
[所持金]持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2.直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
3.キャスターの誠意には、ある程度答えたいと思っている。
[備考]
※間桐家の財産が彼女の所持金として再現されているかは不明です。
※キャスターから強い聖杯への執着と、目的のために手段を選ばない覚悟を感じています。
 そして、その為に桜に誠意を尽くそうとしていることも理解しました。
 その上で、大切な人について、キャスターにどの程度話すか、もしくは話さないかを検討中です。子細は次の書き手に任せます。


【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]健康
[装備]学生服
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
1.工房の完成。
2.学園に関する情報収集。
3.桜に対して誠意ある行動を取り、優勝の妨げにならないよう信頼関係を築く。
4.食料などの確保を行う。
[備考]
※工房をC-1に作成しています。
※学園の入り口にはシアンの蟲が隠れており、名簿を見てマスターの可能性があると判断した人物の動向を監視しています。
 日本人らしくない名前の人物に対しては特に注意しています。
 ただし距離の関係から虫に精密な動作はさせる事はできません。
※『方舟』の『行き止まり』を確認しました。




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最終更新:2014年08月22日 20:15