<カトリック系孤児院 フェルディナントルークス院>



「一日の働きを終えたわたしに、やすらかな憩いの時を与えてくださる神よ。
 あなたに祈り、感謝します。今日一日、わたしを支えてくれた多くの人たちにたくさんの恵みをお与えください。
 わたしの思い、言葉、行い、怠りによって、あなたを悲しませたことがあれば、どうかお赦しください。
 明日はもっと良く生きることができますように。悲しみや苦しみの中にある人たちを、お助けください。
 わたしが幸福の中にあっても、困っている人たちを忘れることがありませんように――」

 いくつもの布団が敷かれた孤児院の大部屋に、寝間着へと着替えた子どもたちの聖なる唱和が広がる。
 その中心にいるのは漆黒の修道服を着た少女。
 歳は10をいくつか過ぎた頃、髪は赤みの強い茶髪……いわゆる赤毛で、エンピツぐらいの三つ編みがたくさんある髪型だった。

「――さぁ、寝る前のお祈りの時間は終わりです。みんな早く寝やがってください。
 でないと私が見回りや、明日の朝食の下準備ができませんから」

 粗雑な口調だが、その言葉は子どもたちへの慈しみに満ちている。
 だが「まだ眠くない、まだ起きていたいよ」と、遊び足りない一部の子どもたちはそうグズる。

「ダメですよ、ワガママ言っちゃ。『神父様』が帰ってきたら、怒られちまいますよ?」

 子どもたちに向け修道女――アニェーゼ・サンクティスは、口元に人差し指を立てそう告げた。
 効果は覿面。優しいが説法が長すぎる神父を恐れて、駄々っ子たちはすぐに布団をかぶる。
 夜に起きて遊んでいられる時間と、神父様から説法を受ける時間を差し引けば、とてもじゃないが採算が合わないと察したからだ。

 子どもたちを寝かしつけると、アニェーゼは戸締まりの確認のため孤児院を見回りはじめる。

「戸締まりの確認が終わったら、朝食の下準備をして、それから礼拝堂の掃除。それも済んだら湯浴みをして、あとそれからそれから……」

 木造の廊下に、パカパカと馬のような足音が鳴る。
 その先を辿ると、少女の足には30センチもの高さのコルクの厚底サンダルが履かされていた。
 17世紀のイタリアで流行したチョピンと呼ばれる代物だ。

 アニェーゼが思惑をしながら歩いていると―――板張りの廊下が、「ぎぃぃ」と鳴る。
 老朽化し、経済的にも恵まれているとは言えないこの孤児院ではそう珍しくないことだ。
 自分以外が鳴らしたその音に、修道服を着た赤毛の少女は振り向き―――

「……今、戻りましたよ。シスター・アニェーゼ」
「神父様! 戻っていたんですか!?」

 黒い法衣を着た、背の高い筋骨隆々とした男だった。その首には神の信徒であることを示す、十字架がかけられている。
 反射的に背を正すアニェーゼに「そう畏まる必要はない」と神父はいつも糺すのだが、この神父の前では否応にも彼女は緊張してしまう。

「……なにか、収穫があったんですか?」
「はい、『アサシン』と『マスター』一名の脱落を確認しました。それに今回の監督役……そしてルーラーも傍目でチラリと」

 直に接触はしていませんがね、と神父は付け加える。
 ルーラー、統治者のサーヴァント。監督役であるNPCが従える英霊であり、聖杯戦争を円滑に進めることを目的とする。
 ルーラーは各サーヴァントへ二回まで使用可能な令呪を保持し、場合によってはその場で各種ペナルティの付与、討伐令の発令、自害命令までも行使可能な存在だ。
 神父はつい先程ルーラー、そしてアサシンの脱落を確認している。

「私の見たところ、かなり高位の英霊のようです。
 あの清廉な闘気――恐らくは騎士、もしくは聖人の類。
 監督役であるNPCが修道女であることから、十字教由来の英霊の可能性も高い……」
「十字教由来の騎士というと、『シャルルマーニュ十二勇士』や『十四救難聖人』の一人、“聖ゲオルギウス”ですかね。
 どっちにしろ、破格の英霊ってことには違いなさそうです」

 サーヴァントの真名考察に、性別や姿形などというものは当てにならない。
 サーヴァントは基本的に最盛期の姿で召喚されるため、例え肖像画が残っていたとしても年代としてズレる可能性はあるし、最悪肖像画に書かれている人物が別人という可能性まである。
 伝承に脚色が加えられ、英霊本来の姿とまったく異なってしまっているのは歴史上でもそう珍しいことでもない。
 男性と伝えられる英雄が女性であったり、矮躯と伝えられる英雄が巨漢だったりと、その例は多分にもれない。

「後ほど教会に出向き、監督役に挨拶しに行くのも良いですね。同じ“主”を信仰するものであるならば、知古になっておくのも悪くない」
「だからって私達ローマ正教<カトリック>に協力してくれるとは思えませんがね。
 あいつらはあくまで“監督役”。聖杯戦争の進行を司る存在であり、特定の陣営に肩入れなんて出来るはずねぇーです」

 でなければ“監督役”という立場、“ルーラー”というクラスの意味がない。
 そしてあれらは聖杯戦争を管理する、<方舟>が用意した代理人だ。
 彼女たちが<方舟>本体から、指令や『意思』のようなものを受信しているとしたら、カトリックであるアニェーゼたちにとってその意に逆らうことは神への反抗同然である。
 ルーラーが我らに害を成すとしたら、それは我らが神の意から外れたときのみであろう。

「シスター・アニェーゼ、我々の目的は?」
「はっ! 『聖杯』を回収し、『方舟』を我らローマ正教徒のもとに持ち帰ることです!
 20億の人々の『安寧』と『幸福』のために!」

 修道女の答えに、神父は高らかに謳い上げる。

「そうだッ! 『方舟』だッ! 『創世記』において“神と共に歩んだ正しい人々”を救い給うた、約束の船ッ! 
 主の寛大な御心が良き人を救った、救済の象徴! これは絶対にッ! なんとしてでもッ!
 我ら“カトリック”が手に入れなければならないッッッ!!」

 歯を見せ吠える神父に、赤毛の修道女は大きく頷く。

「これがろくでもない連中の手に渡ってみろ。
 奴らは神の力の残骸を利用し、浅ましい欲望を満たそうとするだろう。
 我々はそれらを悉く鏖殺しなければならないッ!!
 忌々しいプロテスタントどもや、異教徒どもも同様だ! 渡すわけにはいかんッ! 絶対にだッ!
 『方舟』は我々カトリック、ローマ正教が然るべき方法と然るべき対応を持って管理するッ!
 『方舟』が異端の手で穢されることなどあってはならないッ!!」

 そしてアニェーゼは身を正し、彼の(サーヴァント)の真の名を告げる。

「はい、その通りです。“アレクサンド・アンデルセン神父”」

 それこそがランサー……アニェーゼ・サンクティスが召喚したサーヴァントの真名。
『聖堂騎士』、『殺し屋』、『銃剣』、『首斬判事』、『天使の塵』、出身・人種・年齢全てが不明。
 分かっているのはこの数々のアダ名の他二つだけ。

 彼が化物専門の戦闘屋であり、“不死王”との死闘の末に果てたということ。

 尊敬すべき聖職者を戴けたことは、アニェーゼ・サンクティスにとって紛れも無い幸運であろう。
 これこそが神の導き。聖杯戦争という『試練』を乗り越えよという、神の意に他ならない。

 アニェーゼがこの戦いでの必勝を心中で誓う中―――またしても板張りの廊下が、「ぎぃぃ」と鳴る。
 自分以外が鳴らしたその音に、反射的に少女は身を固めるが―――

 そこにいたのは、眠たそうな瞼をこする、子どもの姿だった。
 どうやらアンデルセン神父との会話で起こしてしまったらしい。

「し、神父様……子どもたちが、起きやがってしまったのです」
「……少々騒ぎすぎてしまったようですね。いやはや申し訳ない。では寝物語に巡礼者イグナチオのお話をしてあげましょう。行きましょう、シスター・アニェーゼ」

 そう答える丸眼鏡の大男の顔は、穏やかな聖職者としてのものに戻っていた。
 異教徒を抹殺する狂信者の面を潜め、神父は修道女とともに童子の手を引いていく。
 今宵から繰り広げられる、闘争を予感しながら。



【クラス】ランサー
【真名】アレクサンド・アンデルセン(HELLSING)
【パラメーター】筋力B 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具A+
【属性】秩序・善
【クラススキル】
 ◆対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【固有スキル】
 ◆信仰の加護:A+++
 一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。
 加護とは言うが最高存在からの恩恵はない。
 あるのは信仰から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。
 ……高すぎると人格に異変をきたす。

 ◆洗礼詠唱:B
 キリスト教における“神の教え”を基盤とする魔術。
 その特性上、霊的・魔的なモノに対しては絶大な威力を持つ。
 作中では結界の構築や、聖書のページを利用した空間移動を行った。

 ◆自己再生:C
 リジェネレーション。
 生物工学の粋を凝らした自己再生能力。毎ターンの終了前に小程度HPを回復する。
 回復法術(ヒーリング)との併用により、常軌を逸した肉体の頑強さと再生速度を誇る。


【宝具】
『茨の聖釘(セント・クィリアクス・エレナ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 エレナの聖釘。ヘレナがゴルゴタで見出した、神の子を磔刑に処した釘。
 神の子の成した奇跡の残り香であり、また奇跡の残骸である聖遺物。
 自身に行使することで聖釘を魔術回路として取り込み、奇跡の残滓を習得する。
 これにより、自我を喪失。自己を純粋な一つの概念と化し、それに伴い肉体を再編成する。

 アンデルセンの場合、再編成された姿は神罰を執行する茨の化物である。
 茨から放たれる紅蓮の炎は“心の中の世界”や“心象風景”すらも炎上させる“固有結界殺し”であり、異端共の悉くを焼き滅ぼす。
 再生能力に至っては頭部を完全に破壊されても瞬時に再生する程であり、釘と同化した心臓を完全に破壊しない限りセイバーは現界を続ける。

【Weapon】
『無銘:銃剣』
 アンデルセン神父を象徴する武器。洗礼術式が施されており、対魔特攻能力を有する。
 銃剣ではあるが銃に装着せず手に持って使用され、格闘戦のみならず投擲にも用いられる。
 鎖に爆薬と共に括りつけて攻撃する「爆導鎖」などのバリエーションがある。

 マスターであるアニェーゼとの教義的親和性や、マスター適正の高さもありその残弾が尽きることはない。

【人物背景】
 悪魔退治、異教弾圧、異端殲滅を目的とする非公式特務実行部隊、第13課<イスカリオテ>が誇るヴァチカン最強戦力。
 “聖騎士”、“首切り判事”、“天使の塵”といった数々の異名を持つ猛者であり、最強の吸血鬼である“不死王”と互角の戦闘を繰り広げた。
 彼の戦闘スタイルは愛用の銃剣を用いた接近戦及び投擲である。
 並みの吸血鬼ならば一撃で葬る程の筋力を誇っており、銃剣の投擲は銃弾を避ける吸血鬼を捉え通った側にある窓ガラスを粉砕したことから音速を超えていると思われる。
 戦闘力、精神力共に最高クラスの人間であり、かの“不死王”さえも素晴らしいと称賛する程の実力者である。
 激戦の末“不死王”を敗北寸前まで追い詰めるものの、エレナの聖釘を使用した以降の戦いは人間vs化け物ではなく化け物vs化け物の戦いであり、人間に倒されることを望む“不死王”を大いに憤慨させた。
 最後には復活した“不死王”に心臓を粉砕され敗北した。

【サーヴァントの願い】
 聖杯、及び方舟をローマ正教<カトリック>の手により管理する。
 異端、異教徒は死ね。化け物も死ね。
 無宗教者は神の教えを知らぬ無知なる人、可哀想な人なのでまぁ許す。
 全ては20億の人々の安寧と幸福のために。

【基本戦術、方針、運用法】
 異端、異教徒、化物、神の敵に対しては一切の慈悲も与えず排除する。
 アニェーゼは基本援護に徹し、前線はアンデルセンが受け持つ。


【マスター】
 アニェーゼ・サンクティス(とある魔術の禁書目録)

【参加方法】
 ローマ正教から『ゴフェルの木片』を譲渡され、「聖杯、及び方舟」回収の任務に就く。
 ゴフェルの木片は十字架の形に加工されており、アニェーゼが身につけている。

【マスターとしての願い】
 聖杯、及び方舟をローマ正教<カトリック>の手により管理する。
 全ては20億の人々の安寧と幸福のために。

【人物背景】
 十字教旧教三大宗派のひとつで、魔術サイド最大勢力、ローマ正教(カトリック)のシスター。
 幼いながらも252人からなるシスター部隊のリーダーである。年齢は12-14歳。
 異端者扱いされていたシスターを私刑(リンチ)にかけるなど残虐な面が見られ、一度火が点けばトコトン炎上するドSである。
 元々はミラノに住んでいたが、幼い頃に事件で両親を殺され、ローマ正教に拾われるまで路上生活者となっていた。
 そのため信仰心はかなり強く、異教徒を“猿”と呼ぶ友人にすら「寒気を感じさせたほどの信仰心を持つ」と言わしめ、仕事の報酬を聖書の印刷代に当てた上、それを古びた教会に手渡しで配り回っていたほどの敬虔なローマ正教徒である。
 余談であるが、父親は神父であったらしい。

【weapon】
 蓮の杖(ロータスワンド)
 アニェーゼの用いるエーテル(第五物質)の象徴武器。
 エーテルを扱うと同時に、他の四大元素全ての武器としても使用できるという特色がある。

【能力・技能】
 蓮の杖に与えた衝撃を瞬間移動させる攻撃と、杖をナイフで傷つけることで空間を裂く攻撃などを使用する。
 原理としては「偶像の理論」の応用で、杖の象徴するエーテルが万物に似ていると言う特性を生かし、空間そのものに作用しているらしい。
 ようは呪いのわら人形の類で、杖を傷つけることで連動し他のものを同時に傷つけることができる。
 多少のタイムラグがあるものの、攻撃の軌道が見えないため防御は困難。
 また空間を直接叩けるため、鎧のような防具を無視して直接ダメージを与えられるのも強みの一つとなっている。

 Tutto paragone. Il quinto dei elementi.  Ordina la canna che mostra pace ed ordina.
「万物照応。   五大の元素の元の第五。 平和と秩序の象徴『司教杖』を展開」
 Prima.   Segua la legge di Dio ed una croce. Due Cose diverse sono connesse.
「偶像の一。   神の子と十字架の法則に従い、   異なる物と異なる者を接続せよ」

【方針】
 神父様に従う。
 252人の部隊を率いていたとはいえ、バチカン最強戦力であるアンデルセン神父には敵わないと知っているためである。

※アニェーゼたちは「孤児院 フェルディナントルークス院」を拠点としているようです。
※アニェーゼたちの表向きの設定は、孤児院を運営する神父とシスターということになっているようです。