雨のように注ぐ文字列を、順を追って把握していく。
 情報コードの奔流の中、それらを的確に認識し、最適解を打ち込んでいく。
 犬童雅人――オーヴァンにとっては、朝飯前の芸当だ。
 「The World」の裏側で、凄腕のハッカーとして名を馳せた彼には、この程度のプロテクトなど無いに等しい。
(いや)
 あるいは、そうではないのかと。
 最初から外部の人間が、ある程度侵入しやすいよう、セキュリティを緩めているのではないかと。
 手応えの乏しいハッキングに、雅人はそう仮説する。
 自分だからできるのではない。
 もちろん複雑なセキュリティなのは確かだが、いくらか腕前で劣るハッカーであっても、何とか侵入することはできるはずだ。
 条理の裏側に巣食う魔術師達が、秘密裏に開催した宴にしては、少しばかり不用心だ。
「試されるのはいい心地がしないな」
 要は予め用意した穴を、見抜いてくぐり抜けられるか。
 これもまた参加適性を見るテストなのだと、そういう主催者の意図を察して、雅人は苦笑しながら呟いた。
 人を試して利用するのは、元よりこのオーヴァンのキャラだ。自分が試されるのは面白くない。
(とはいえ)
 必要な過程はこれで満たした。
 天才ハッカーたる雅人の意識は、目的のデータへと向けられる。
 無数に名前を連ねたリストは、この聖杯戦争の参加者名簿。
 そこには参加者の名前と、参加に至る経緯が書かれていた。
 「アクセス」と書かれている者は、恐らく自分と同じように、ハッキングによって侵入したのだろう。
 そしてそれが、主催者達にバレている。どうやら自分のように、ここまで素通りできた者は、そう多くはなかったらしい。
(それ以上に目を引くのが……)
 「アクセス」以上に目につくのが、「ゴフェル」と書かれた者達だ。
 情報を呼び出す。名簿に記された単語を、適当な検索エンジンにかける。
 ゴフェル――かのノアの方舟の材料として用いられた樹木だ。
 しかし創世記において、それ以外の項目で語られてはいない。世間一般の知名度としては、かなりマイナーな部類に当たる。
 雑学好きな雅人でさえ覚えていなかったのだから、見落とされる率としては相当なものだろう。
(であれば)
 ならばこれは外部ではなく、内部で用いるためのアイテムだ。
 わざわざ特記したということは、聖杯戦争で使用するために、そういう名前のアイテムを用意したということだ。
 再度ムーン・セルのデータを漁り、必要な情報を呼び出す。
 呼び出された結果は、ゴフェルの木――聖杯戦争の舞台たる、「方舟」と呼ばれるスペースへ、参加者を召喚するためのもの。
 同時に、これを参加者に持たせるために、あらゆる土地や空間に、ばら撒いたことが判明した。
(随分な大盤振る舞いだ)
 そしてこの「ゴフェル」だが、その比率が異常に高い。
 ざっと目算しただけでも、ゴフェルの木に触れた参加者は、優に200を超えている。
 こうなると、たまたまそうとは知らずに、道端に転がっていた棒切れに触れていた――なんてこともあり得そうだ。
「あるいは、それが……?」
 しかし、逆に考えればどうか。
 あるいはそうした偶然性こそを、主催者が優先していたのならどうだ。
 彼らの求める本懐は、予め聖杯戦争の存在を知り、願望器に釣られておびき寄せられた者ではなく。
 何も知らぬままに木片に触れ、偶然聖杯戦争に呼び出されてしまった、その運命性を求めているのではないか。
 当人には不幸かもしれないが、偶然幸運を手繰り寄せた、その力こそを欲しているのではないだろうか。
(だとしたら、ロマンチストな魔術師サマだ)
 魔法がロマンの産物だというのは、それが常識とされた世界においても、案外変わらないのかもしれない。
 そんなことを思いながら、雅人は名簿に手を伸ばす。
 新たに書き込んだ名前は、自らのPC名・オーヴァンだ。これで雅人は参加者として、この聖杯戦争に潜り込める。
 万能の願望器の力をもって、妹・愛奈の命を救う――その可能性に迫ることができる。
(入り込めるのはここまでか)
 残念ながら、それ以上の権限は、彼には行使できなかった。
 欲を言えば、自分の手駒も、使いやすいものを設定したかったのだが、そこには高度なプロテクトがかけられている。
 やはりここまでの道筋は、敢えて入り込みやすいよう、戸を緩めておかれたものだったらしい。
 まぁいい。そこは当人の腕で、何とかカバーするだけだ。
 できないことには手を出さない。無理にアクセスしようとすれば、セキュリティに弾かれる可能性もある。
 雅人はそう判断し、そのまま方舟の入り口へと、方向を転換していった。


「――思ったよりもかかったな」
 穂群原学園の英語教師・オーヴァン。
 似合わない学問を教えていたのは、西洋風の名前で登録していたからだろうか。
 ともかくも彼が、夜の職員室で目覚めたのは、方舟に侵入してから2日後のことだった。
 持ち物を確認してみると、彼の机の引き出しには、木でできた杭が入っている。
 ここに侵入する過程で、ダミーとして作ったゴフェルの杭だ。
 正常に機能していれば、自分の不正アクセスは、主催者にもバレていないことになるだろう。
(もっとも、それも怪しいものだが)
 色眼鏡の下で、自嘲気味に笑った。
 そもそも記憶を改ざんされた時点で、自分は主催者に存在を感知され、干渉を受けていることになるのだ。
 その時点でアクセスがバレ、今はそれでも構わないからと、敢えて黙認されているのかもしれない。
 多くのハッカー達が、監視を誤魔化せなかった理由を、身を持って理解させられた気がした。
「さて」
 ぱちん、と右の指を鳴らす。
 それが起動条件だった。スーツを着ていたオーヴァンの容姿は、見る間にその姿を変えた。
 白を基調とした衣装に、青白く異様に長いマフラー。
 それは彼のプレイしていたゲーム――「The World R:2」における、PC・オーヴァンの服装だった。
 方舟内部で戦うための姿として、事前にPCデータのコピーを作成し、この場に持ち込んでいたのだ。
 AIDAサーバー事件を考えれば、キーボード操作ができない状況も考えられたため、
 こうした身体的なアクションのみで、直ちに起動できるようにプログラムしてある。
(なくなると心細くなるものだな)
 しかし、全てを再現できているわけではない。
 「The World」固有のシステム――モルガナ碑文とAIDAだけは、コピーすることができなかった。
 そのためAIDAを封印していた、左腕の巨大な拘束具も、このPCには存在しない。
 忌まわしい仇敵ではあったが、戦う上で便利だったのは確かだ。それが持ち込めないというのは、残念ではあった。
(それにしても、少し目立つか)
 だがその特徴がなくなったとしても、地味とは言えない服装なのは確かだ。
 もう一度指をぱちんと鳴らし、元の教師の服装へと戻る。
 この状態のオーヴァンは、一介の英語教師でしかなかった。「The World」のパラメーターも、一切機能していない。
 平時はこの服装でやり過ごし、いざ戦いが始まった時には、姿を切り替えることにしよう。
 そう考え、杭を引き出しへと戻し、廊下へ出ようとした瞬間。
「……驚いたな。もう来ていたのか」
 既に職員室の出入口に、他の人間の姿があった。
 それが自身に与えられた駒――サーヴァントであるのだということも、オーヴァンは直感的に理解していた。
 犬の尻尾か何かのように、長髪を後ろで縛った少年だ。
 背は高く、丸眼鏡の向こうの瞳は、鋭くこちらを見据えている。
 見た目通りの人間ではない。英霊として語られるに足る、優れた実力を有している。
「アサシンのサーヴァント――狼座(ウルフ)の栄斗だ。あんたが俺のマスターだな」
 気配遮断のスキルを持つ、暗殺に特化したサーヴァント。
 音もなく忍び寄ったのは、そのクラスの力の賜物か。
 どうやら当たりを引いたようだと、名を名乗る少年を前にして、オーヴァンは笑みを浮かべていた。


「つまり、当分は戦うつもりはないと?」
「そうだ。魔力の供給に戻る必要もない。単独行動スキルのギリギリまで、外回りに従事してもらう」
 合理的な判断ではあるが、回りくどい手を使う奴だ。
 狼座の青銅聖闘士(ブロンズセイント)・栄斗は、目の前の色眼鏡の男に対して、そんな感想を抱いてた。
 驚くべきことにこの男は、自分のスキルを確認した後、「しばらく元通りに過ごす」と宣言したのだ。
 まずは単独行動スキルの下に、栄斗を偵察要員として放ち、他のマスターの様子を探る。
 そうしてひと通りの準備が揃った上で、改めて行動を開始し、聖杯戦争に参加する。
 逆に準備が整うまでは、己の令呪もひた隠しにし、マスターとしての行動は何もしないと言ってのけたのだ。
「おれの身なりは見ての通りだ。令呪さえ隠していられれば、正体がバレることもない」
「確かに、さっきの服装よりは自然だろうな」
「そこへお前の持つスキル……気配遮断と単独行動だ。このアドバンテージを使わない手はない」
 今後どんな強敵と当たるか、分かったものじゃないからなと。
 だからこそそれらの情報を、事前に集めておく必要があると。
 そのための安全策として、敢えて何もしないのだと、オーヴァンは栄斗へと言った。
 戦の常套策には間違いない。彼を知り己を知れば百戦して殆うからず、という孫子の文は、日本においても知られている。
 だとしても、他に何もしないというのは、どうにも悠長が過ぎるように感じた。
 生前付き合ってきた聖闘士達には、いなかったタイプの人間だ。
(それに、どうにも胡散臭い)
 回りくどい手口もそうだが、こいつの放つ気配には、どこか腹黒さを感じる。
 薄笑いの貼り付いた顔の下で、何かろくでもない考えを、ひっそりと企んでいるような気がする。
 理屈ではない。直感だ。
 ただそういう気配がするのは確かだと、栄斗はそう感じていた。
「……いいだろう。では、行ってくる」
 警戒しておく必要がある。
 もしも邪心の持ち主であれば、聖杯が彼の手に渡らないよう、何か手を打たなければならない。
 そう考えつつも、栄斗はマスターの言を了承し、自らの身を霊体へと転じた。
 透過した体で壁をすり抜け、夜の冬木市へと飛び出す。
 風の感触を感じない、奇妙な体験を味わいながらも、栄斗は宵闇を駆けていく。
 果たしてこのマスターに呼ばれたことが、吉と出るか凶と出るか。
 ビルの合間を縫いながら、極限まで薄れた栄斗の気配は、街灯の奥へと消えていった。

【マスター】オーヴァン
【出典】.hack//G.U.
【性別】男性

【参加方法】
外部からのハッキング

【マスターとしての願い】
「The World R:2」からAIDAを一掃し、アイナを救う

【能力・技能】
銃剣士(スチームガンナー)
 ネットゲーム「The World R:2」における、オーヴァンのジョブ。
 銃剣型の武器を扱うジョブであり、この聖杯戦争においても、銃器の扱いに長ける。
 このスキルはPCボディの持ち込みによって実現したものであり、
 右の指を鳴らすことで、「The World R:2」における装束を纏ったPCボディと、
 一般人としての服装を纏った方舟支給のボディとを切り替えることができる。
 後者の姿では、銃剣士としての力を使うことはできない。

ハッキング
 天才的なプログラムスキル。この聖杯戦争にも、ハッキング技術を駆使して侵入した。

話術
 言論にて人を動かせる才。
 交渉から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。
 相手を煙に巻き自らを大きく見せる語り口は、相手に自身がカリスマ性の持ち主であると錯覚させられる。

【weapon】
冥銃剣・逢魔ヶ刻
 「The World R:2」から唯一持ち込めた、闇属性の銃剣。
 ゲーム中における銃剣には弾数制限という概念がなく、この聖杯戦争においては、本人の魔力を銃弾化して使用される。

【人物背景】
ユーザー数1200万人以上を誇る巨大ネットゲーム「The World R:2」のプレイヤー。
かつては「黄昏の旅団」という名前のギルドを率いていたが、解散して以降は、単独行動を取っている。
作中で主人公・ハセヲの前に現れては、謎めいた言葉を投げかけてくる存在。

その正体は彼の宿敵「三爪痕(トライエッジ)」。
知性を持ったウィルス・AIDAを使いこなし、物語が後半に差し掛かる頃に、ハセヲの前に立ちはだかる。
彼の真の目的は、ハセヲらが持つ「碑文」全てを集めることで、ゲームの初期化プログラム「再誕」を起動、
自身の妹・アイナを蝕んだAIDAを、「The World R:2」のデータごとまとめて消し去ることにあった。
目的は真っ当な人助けだが、そのためには卑劣な手段を取ることも辞さない、冷酷さの持ち主でもある。

本名は犬童雅人(いんどうまさと)。26歳で、NAB(日本民間放送連盟)の調査員。
妹の愛奈は難病に冒され、ドイツの病院に入院しており、「The World R:2」は彼女と交流するための場だった。

本来のPC・オーヴァンは、AIDAに感染した左腕を、巨大な拘束具によって隠していたのだが、
この場に用意された仮初のPCは、そのAIDAに感染していないため、拘束具もなくなっている。
また、彼自身の持つ碑文因子・コルベニクも、方舟の中には持ち込めていない。
とはいえそれらの力を得る以前から、かなりの廃プレイヤーとして鳴らしていたため、戦闘能力は高い。

【方針】
ひとまずは自身がマスターであることを隠し、情報収集に徹する。
利用できそうなマスターを見つけ次第、懐柔して操り、他のマスターと潰し合わせていく。

【クラス】アサシン
【真名】栄斗
【出典】聖闘士星矢Ω
【性別】男性
【属性】混沌・善

【パラメーター】
筋力:C 耐久:D 敏捷:B 魔力:B(A) 幸運:C 宝具:C+

【クラススキル】
気配遮断:B
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】
セブンセンシズ:A
 人間の六感を超えた第七感。
 聖闘士(セイント)の持つ力・小宇宙(コスモ)の頂点とも言われており、爆発的な力を発揮することができる。
 その感覚に目覚めることは困難を極めており、聖闘士の中でも、限られた者しか目覚めていない。
 栄斗の持つ莫大な魔力の裏付けとなっているスキル。
 あくまで青銅聖闘士に過ぎない栄斗は、土壇場で闘志を燃やした時のみ、この力を発揮できる。

Ω:-(EX)
 宇宙を形作る究極の小宇宙・大宇宙(マクロコスモ)。
 Ωとはその大宇宙の加護を受け、限界を超えた小宇宙を行使できる境地である。
 その絶大なエネルギーは神の力にも匹敵するが、
 小宇宙を持った者同士の強い絆によって導かれる力であるため、この聖杯戦争においては発動できない。

直感:B
 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
 視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
 忍者である栄斗は、偵察任務においても優れた働きを見せていたため、このスキルを保有している。

【宝具】
『狼座の新生青銅聖衣(ウルフクロス)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
 狼座を守護星座に持つ、狼座(ウルフ)の聖闘士に与えられる青銅聖衣(ブロンズクロス)。
 聖衣石(クロストーン)化から解き放たれ、秘められた力を発揮した聖衣(クロス)であり、通常の青銅聖衣よりも優れた強度を発揮する。
 更に脚部の爪パーツを展開することにより、速力を強化することも可能。
 この聖衣を然るべき者が装着することにより、装着者の筋力・耐久・敏捷パラメーターに「+」の補正がつく。

【weapon】
忍具一式
 苦無、火薬玉、巨大凧など、忍者が用いる忍具一式。
 栄斗は聖闘士であると同時に忍者でもあるため、これらの武器も平気で使用する。
 あらゆる意味で異端の聖闘士である、彼の存在の証明。

【人物背景】
富士流忍術を修めた、日本出身の忍者聖闘士。大人びた風貌からは分かりづらいが、13歳当時の姿で現界している。

元々は富士の麓にある里で、忍の腕を磨いていたが、
世界を脅かす邪悪の気配を察知した兄弟子・芳臣の遺志を継ぎ、狼座の聖衣を継承した。
その経緯から、当初は聖闘士の力を、世界を救うための「手段」としてしか捉えていなかった節があり、
聖闘士達が避けている「聖衣以外の武具の使用」も、平然と行っている。
しかし、軍神マルスとの戦いの中で、聖闘士の魂に目覚めていき、同時にアテナを守るという意志も芽生えていった。

クールで口数が少なく、時には斜に構えた言動が飛び出すことも。
しかし友情には厚く、味方の聖闘士が窮地に立たされた時には、躊躇うことなくその身を盾にする。
里育ちで世間ズレしているためか、時折飛び出す忍具や忍者知識は、周囲からシュールな光景として見られることも多い。
余談だが、マルスおよびアプスとの戦いが終わった直後、一時期燃え尽き症候群に陥っており、
その時心を揺さぶったものとして、ロックミュージックに傾倒・バンドのヴォーカルとして活躍していたことがある。

小宇宙の属性は土。
しかし自らの忍法を、小宇宙によって強化することにより、小宇宙攻撃と同等の威力で扱うことが可能。
このため劇中では、火・水・土の3種類の属性攻撃を繰り出している。
栄斗自身の戦闘スタイルは、音もなく忍び寄り敵を討つという、技とスピードを重視したもの。
あまりに多くの技を使うため、ここに列挙するとキリがない。詳しくは下記リンクを参照されたし。
ttp://dic.pixiv.net/a/%E6%A0%84%E6%96%97#h3_1

【サーヴァントとしての願い】
特になし

【基本戦術、方針、運用法】
派手な技が多いこと以外は、正統派のアサシンとして運用できる。
マスターが身を隠しながら行動することを望んでいるため、しばらくは単独行動による情報収集がメインとなるだろう。
勝つためには卑劣な手段も辞さないマスターだが、アサシンは正義の戦士であるため、性格的相性の悪さをどうにかする必要はある。