レイ・ラングレン&アサシン ◆FFa.GfzI16




――――その瞬間、レイ・ラングレンがまず覚えたものは強烈な怒りと哀しみであった。


全てが突然の事だった。
レイ・ラングレンが記憶を取り戻したのも。
レイ・ラングレンの目の前にアサシンのサーヴァントが現れたのも。
レイ・ラングレンへとアサシンのサーヴァントが襲いかかったのも。
レイ・ラングレンに降りかかった凶刃をルーラーのサーヴァントが防いだのも。
レイ・ラングレンへの刃を瞬時に収めてアサシンのサーヴァントが撤退を始めたのも。
レイ・ラングレンの前に現れた管理者が聖杯戦争の名を口にしたのも。

全てが、突然の事だった。
嵐のように現れたアサシンのサーヴァントと管理者達はすぐに消え去り。

レイ・ラングレンの前には、血に濡れた偽りの伴侶だけが残されていた。

虚ろな表情のまま、レイは書斎へと向かう。
そこには自身と同じく、科学者として『設定』されていた妻の成果も眠っている。
地熱エネルギーの活用、及び、光学機の発明。
続いて、レイは妻の遺体を見つめる。
何の因果、いや、悪意か。
それはまさしく妻であるシノと全く同じものだった。

ぬるま湯に浸かりきったレイの心が、ふつふつと沸き立ってくる。
長らく忘れていた。
なぜ、忘れることが出来たのだろうか。
忘れてはいけないことを、なぜ、忘れてしまったのだろうか。
悪意に満ちた生活を提供した願望器ではなく、それを受け入れた自分自身へと強い憎悪を抱く。
その憎悪が引き金となり、一つの光が現れた。

「初めまして、アサシンのクラスにて今回の聖杯戦争に参加させていただきました」

レイ・ラングレンの身体に令呪が浮かび上がり。
その憎悪は当然のようにサーヴァントを召喚させた。

「コードネームは『バッドエンド』、あるいは『ナンバー3』。
 聖杯をその手に収めることにご尽力させていただきましょう。
 ……っと、おやおや」

長い黒髪。
白い民族衣装。
女のように見えるほどの細身。
男が当然感じさせるはずの雄臭とも呼べる気配の一切を断ち切っていた。
ただでさえ細い目を更に細めている。
アサシンのサーヴァント。
その真名は『巫紅虎(ウ・ホンフー)』
仲間と愛する人を、幸福の全てを失ったことで、世界に悲惨な終焉を課せることで自らを慰めていた男。

レイ・ラングレンが召喚したサーヴァントは、そんな男だった。




レイ・ラングレンは一つの木片を握りしめていた。


――――それは全ての元凶であり、全ての希望である『ゴフェルの木片』。


かつて、囚人惑星エンドレスイリュージョンにて、星の真ん中に一つの空間があった。
そこは奇妙な空間であった。
まるで裏返ったかのように木々が生い茂、水たまりが存在し、生命が息づいていた。
目を疑う光景の中、人型の地中兵器であるヴォルケインの観測機を確かめる。
酸素は当然存在し、大気は地上のそれとなんら変わりがない。
地中の中でありつつ、そこは確かに地上そのものの空間だった。

レイ・ラングレンは己の気が触れたのかと想いながら、半ば衝動的に愛機ヴォルケインから降りる。
しつこくなるが、そこは確かに地上そのものであった。
水をすくい、臭いをかぐ。
奇妙なものはない。
ヴォルケインが放つ光源に照らされた光景は、この世の常識を塗り替えるものだった。

レイはゆっくりと歩を進め、奇妙な光景を眼にした。
『木棺』が存在した。
自然物にあふれたその空間に、たった一つだけ人工物が存在した。
レイはゆっくりと木棺に触れ、その棺の蓋を開けた。
まるで全ての災厄が詰まっているかのような棺の中には、たった一つの木片しか存在しなかった。
レイは確認をしなかったが、恐らくその比率は『300・50・30』を示しただろう。

レイは『希望』そのものである木片を、恐る恐る手に取る。
憎しみを抱いたレイは、しかし、だからこそその木片に希望を感じ取っていた。
レイの内部に潜めた見せかけの狂気と純粋な憎しみに反応し。
その木片自体が一つの『方舟』とも呼べるゴフェルの木片は、伴侶を失ったレイをノアの方舟へと導いた。




レイは握りしめた木片のことを想いながら、ゆっくりと目を開いた。
そこには一度だけ眼にした二人の女性が居た。
この聖杯戦争を管理する者達だ。
場所は喫茶店。
内容は、事務報告。

「端的に言いますと、全ては終わりました」
「……」

レイはコーヒーを口に運ぶ。
カップの中の水面が揺れた、いや、正確に言えば視界が揺れた。
視力が落ちている、いずれ、近い未来に世界を失う可能性を承知する。

「サーヴァントは令呪により自害し、サーヴァントを失ったマスターの消滅も確認しました。
 予選を勝ち抜いた貴方は本戦への挑戦権を得ました。
 どうか、がんばってくださいね」

事務的に応える管理者――――カレンと、応えずに顔を凍らせ続けるレイ・ラングレン。
そのレイを見るカレンのサーヴァントであるルーラーと、そのルーラーを見て笑みを深めるアサシン。
アサシンはスプーンを手に取ると、同時にルーラーへと問いかけた。

「ルーラーという立場も大変ですね」

目の前のパフェをつつきながら、アサシンはルーラーを見据える。
その瞳に嘲りや侮蔑と言った感情はなく、純粋にルーラーの立場を労っているように見えた。

「ルールを守るだけじゃなく他人にも守らせるために動くなんて、私にはとてもとても……
 性に合わない、なんて話じゃありませんね」
「アサシンのサーヴァント、それは言外に我らと敵対する意思を示しているのですか?」
「いえいえ、決してそのようなことは。
 まあ、悪いことは楽しいからやりたいですけど、貴方の善行と違って『しなければいけない』わけではないので。
 善はルールを破っちゃいけないから悪いことをしてはいけません。
 ですが、悪はルールを破っていいから善行をしても良いのですからねぇ」

ニコニコと笑いながら、アサシンはルーラーの問いに応える。
レイは表情を固めたまま、修道女を見据える。
彼女達は強い、いかなる英霊をも従えることが出来る。
令呪とはすなわちルールそのもの。
その令呪を無条件に行使できる目の前の管理者に従うことで初めて聖杯戦争が成立する。

「なぜ、殺した……」

レイはコーヒーをテーブルにゆっくりと落とすと、カレンへと向かって非難の眼を向けた。
怒りと憎しみの籠もった、復讐鬼の眼。
全てを取り戻し、全てを零した彼の眼に柔らかなものは宿っていなかった。
本来ならば、レイ自身が殺さなければいけなかった相手。
たとえ偽りのものが殺されたのだとしても、レイが抱いた感情は偽りではない。
ならば、その感情から基づく衝動はレイ自身が終わらさなければいけなかった。
そうでなければ、レイは――――。

「……」

そんな眼を向けられてもカレンは動揺せず、その問に答えない。
ついで、レイは隣に座るパートナーへと眼を向けた。
その眼には、やはり深い憎悪。

「なぜ、殺さなかった」
「まだ召喚されてなかったんですもの、私を責めるのはお門違いというものですよ。
 なんなら、あんなぬるま湯に浸かって記憶を取り戻せないままだった貴方が一番悪い」

呑気にパフェを突きながら、チャイニーズの服をまとったアサシンが細い目をさらに細めながら応える。
事実、アサシンが召喚されたのは全てが終わった後。
レイの妻が殺害され、管理者達が訪れ、襲撃者は逃げ、管理者が追い、レイは呆然と立ちすくんでいた。
その折に、アサシンは現れた。
徒手空拳、しかし、目に移らぬところにあらゆる凶器を隠し持った暗殺者。
雄臭を感じさせない、空虚な男。
真名を『巫紅虎(ウ・ホンフー)』といった。

「ここは私が払っておきます」
「これはどうも、お世話になります。
 領収書って書かれるんですか?」

伝票を持って立ち去ろうとするカレンへ、無言のレイに変わってアサシンが応える。
カレンは応えず、背中を見せる。
その背中を守るようにルーラーが立ち上がり、アサシンに一瞥をくれる。
警戒と警告を多分に含んだ視線。
アサシンは大げさに肩を竦めてみせた。

「さて、マスター、何をしますか?」
「聖杯を手にする」
「それはいい、私はそこそこには強いですよ。
 周囲が英霊ばかりだから、あまり当てにならない発言では有りますが」
「……」
「少なくとも、ここに居る二十五人をマスターがまばたきをしている一瞬で殺すことが出来ます。
 話を聞く限り、マスターの偽りの伴侶を襲った相手も何をされたのかわからぬまま殺すことが出来ます。
 まあ、今となっては何の意味もない話ですがね」
「具体的に、何が出来る」
「なんでも出来ます、私は。いや、これは本当に。
 私の宝具は、そういう、他の人ができることを模倣する宝具ですので。
 あっ、ご馳走様でした」

アサシンはパフェの中に、カラン、と音を立てながらスプーンを投げ入れる。
レイは何も言わずに席を立ち、アサシンはその影を踏まぬように付き従っていく。

その喫茶店から外に出ると、月が嗤っていた。
アサシンは妖かしの光そのものである月の笑みへと、やはり笑みで応える。
そして、その妖しげな笑みのままレイへと向き直った。

「グッドイーブニング、マスター。
 これから楽しい楽しい悪夢のお時間ですよ」

アサシンは、確かに笑っていた。
女性と見間違えるような細身と、雄臭を感じさせない柔らかな雰囲気。
その男性器は自らの手で去勢しており、アサシンの一生よりも遥かに短い生涯であった一人の女性に貞操を捧げている。
アサシンはその気になれば、対城宝具を持つサーヴァントや大魔術を行うサーヴァントと同じように、この街のNPCを一瞬で皆殺しに出来る。
それこそ、瞬きをしている間に、だ。
しかし、多くの英雄にとってそのようなことが意味がないように、アサシンにも何の意味もない。
自らの愛する人を殺した二十五人を一瞬で殺せようとも、レイの0と1で彩られただけの偽りの妻を殺したサーヴァントを瞬殺出来ようとも。
時を戻れぬ以上、何の意味も持たない話なのだ。

「しかし、マスターは聖杯に何を願うのですか?」
「願いなど多すぎる」

レイは語らなかったが、その瞳の奥には激しい怒りと圧倒的な後悔に染まっていた。
鉤爪の男を殺す。
自らの妻、シノを蘇らせる。
あるいは、その二つを同時に叶えるために時を逆戻る。
レイの願いは怒りと後悔に染められて、曖昧なものとなっていた。
憎悪とは希望を求めるものだが、同時にその憎悪は純粋な希望を濁らせる。
希望を奪われたからこそ、生まれるものだからだ。
その希望を純粋なものにするのならば、少なくとも、その憎悪に一つの区切りをつけるしかない。
レイ自身も。
バッドエンドの異名を持つ男も。
それを痛いほどに知っていた。
だからこそ、アサシンは笑ってみせる。

「そんなものですよ、希望なんて、あまりにも残酷なものですから。
 簡単に一つに決まらないものです。
 しかし、そう思いながら全てを捨ててなお残るもの。
 それこそが本当の願いです」
「……」
「マスターの哀しい哀しい悪夢が奇跡という茶番でどのような終わりを迎えるのか、私も楽しみにしていますよ」

バッドエンドの異名を持つ男は、どこか憧憬に満ちた顔でレイへと語りかけた。


【CLASS】
アサシン

【真名】
巫紅虎@パワプロクンポケットシリーズ

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:D 幸運:C 宝具:B

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消す能力であり、完全に気配を断てば発見はほぼ不可能となる。
攻撃態勢に移るとランクが大きく落ちる。

【保有スキル】
中国武術:A++
中華の合理。宇宙と一体となることを目的とした武術をどれだけ極めたかを表す。
修得の難易度が最高レベルのスキルで、他のスキルと違ってAランクでようやく「修得した」と言えるレベル。
ホンフーはその時代における中国武術の無双を誇るほどの腕前。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

【宝具】
『変貌する終焉(ドゥームチェンジ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
『一つの存在が身につけた能力』である限り、スキル・宝具、マスター・サーヴァントの区別なく相手の能力を自らのものにすることが出来る宝具。
ただし、ランクB以上の宝具とランクA以上のスキルは模倣できず、また、模倣した能力はランクを一つ下げる。
能力は一度に一つしか使用できないため、同時併用は不可能である。
元々はホンフーの天賦のものである『他人の動きを模倣する』才能が超能力として開花したもの。
以下、ホンフーが生前にコピーした能力。


  • 『私の影は誰にも追えぬ(ドゥームチェンジ:ブラック)』
高い気配察知のスキルを持たない限り、どのような時でもホンフーの姿を捉えることは出来ない。

  • 『何人たりとも我が言葉には従えない(ドゥームチェンジ:デス・マス)』
ホンフーの言葉には絶対に従えなくなる洗脳能力、ただし、否定形のように漠然とした命令では効き目が薄くなる。
対魔力によって無効化できる。

  • 『かすり傷でも致命傷(ドゥームチェンジ:バジリスク)』
生命であろうと機械であろうと、かすり傷だとしても傷をつけることで殺すことが出来る。
対魔力によって無効化することが出来る。

  • 『我にとりて重力は縛りに非ず(ドゥームチェンジ:ダークスピア)』
自身にかかる重力の方向を変えることが可能である。
また、ホンフーが服のようにそれは自分自身だと認識すれば巨大な軍艦であろうと重力の方向を変えることが出来る。

  • 『七つの虹を見たことがありますか?(ドゥームチェンジ:ストームレイン)』
気象現象を操作することが出来、超局地的に気温を氷点下に下げることや雷を発生させることが出来る。

  • 『我が手に光あれ(ドゥームチェンジ:デイライト)』
光を操作する能力。
遠距離からのビームでビルを溶解させる、光を屈折させることで自身の姿を隠す、光を操ることで遠視を可能とする。

  • 『偏在する兎の穴(ドゥームチェンジ:ワームホール)』
自分自身の身体に、過去に訪れたことがある場所へと続くワームホールを生成することが出来る。

  • 『天網恢恢疎にして漏らさず(ドゥームチェンジ:ピンク)』
自身の視界内である限り、たとえ透明化していようともあらゆる存在を知覚できる。

  • 『私は貴方、貴方は貴方(ドゥームチェンジ:カルマミラー)』
自らにかかる攻撃に対して、攻撃を行ったものへと反射することが出来る。
自爆や攻撃がホンフー自身に届く前に対象が死亡するなど、反射できる相手が居ない場合は使用できない。
対魔力によって無効化することが出来る。

  • 『その手はおもちゃの兵隊(ドゥームチェンジ:グレムリン)』
銃火器も含めたあらゆる機械の機能停止させる。

【weapon】
針や仕込みナイフはもちろん、無数の暗器を隠し持っている。
また中国武術を収めており、素手による戦闘でも16インチ砲を無傷で防ぐ耐久スーツすらも傷つける一撃が撃てる。

【人物背景】
世界を支配する組織であるジャジメントで三番目に強い男。
コードネームは『バッドエンド』、あるいは『ナンバー3』。
若い頃は自分にも他人にも厳しい高潔な拳法家であり、さる流派の後継者にまで上り詰めた。
しかし、虚名を高める処世術の数々が「一子相伝の奥義」として継承されてきた事実を知って憤り、後継者の椅子を蹴って奥義の全容を公表しようとする。
結果、流派の人間たちを全て敵に回すこととなり、夥しい血の流れる惨劇の末、師も仲間も愛する人も全てを失った。
全てを失った後、怨みも怒りもぶつける相手が居ないために胸の内へと溜め込み続けている。

【サーヴァントとしての願い】
『時を戻る能力』を『コピー』、もしくは、聖杯によって今の強さのままで時を戻ること。

【基本戦術、方針、運用法】
宝具はストックの限界が存在せず中国武術の達人であるため、どのような敵にも対応できる。
ただし、能力の関係上、高い対魔力を持つ三騎士とは比較的相性が悪い。



【マスター】
レイ・ラングレン@ガン×ソード

【参加方法】
地中の空間にぽっかりと開いていた空洞内部に見つけたゴフェルの木片を入手。

【マスターとしての願い】
あの日に戻り、鉤爪の男を殺す。

【weapon】
刀のような形をした銃。
鞘に見える部分がマガジンとなっており、短機関銃と似た性能を持っている。

【能力・技能】
銃撃の腕前は群を抜いており、また、機械工学にも深い知識を有している。

【人物背景】
かつては心優しい青年だったが、鉤爪をつけた男に妻を殺されることで復讐の道を歩み始める。
ヴォルケインと呼ばれる妻の形見である巨大ロボットを操り、その腕前は作中でも屈指のもの。
生身でも有数の実力者であり、また、形見のヴォルケインを自爆させるなど復讐のためならば手段を選ばない。
冷徹ではあるが、弟のジョシュア・ラングレンに対しては非情になりきれない一面がある。
ある戦闘で眼に負傷を負い、着実に視力を失いつつある。

【方針】
優勝を目指す。