「えっ! 新作ゲームの発表会!?」
「そうだ紗南。先方からの願いで、ゲストとして是非に、ということらしい」

 たくさんのアイドルが所属する大手アイドル事務所、モバイルプロ。
 その本拠地たるビルの3Fにある第3休憩室は通称ゲーム部屋と呼ばれており、
 ゲーム好きなアイドルが休憩中やオフの日に集まっている。
 この日も例に漏れず3人のアイドルが中心でスマブラをしていた。そしてそのうちの1人、
 1Pコンを操るゲーマーアイドル三好紗南(みよし・さな)が、突然プロデューサーに仕事を告げられたのだ。

「お前がアイドルを初めたばかりのときにも一回やったが、今回のはもう少し大手だ。
 この前の仕事での格ゲープレイ風景が目に留まったらしい。会場でテストプレイもしてもらう」
「新作の格ゲー? しかもアケゲーをやれるの!? どこのやつ?」
「それはサプライズだ。アーケードの格闘ゲームなのは当たりだが、
 向こうの意向で、製作会社やゲーム内容は本番まで伏せる約束でな」
「サプライズ! そりゃまた面白い仕事だね。ゲーマーへの対応が分かってるっていうか」
「……なにそれ。クソゲーなんじゃないの?」

 と、ソファーに寝転びながらB連打で遠くからレーザー光線を打っていたニートアイドル、
 2Pコンを操る双葉杏(ふたば・あんず)がプロデューサーの仕事説明にツッコミを入れる。

「内容伏せるって、紗南が知らないゲームの続編とかだったら呼んだ意味ないじゃん」
「一応あたし、ひと通りのアケゲーは触ったことあるけど……」
「いや、クソゲーじゃないぞ杏。俺も少し触らせてもらったがバランス調整もいい感じだ」
「ほんとにー? 素人目線じゃそうかもしんないけどさー」
「いいえ杏さん。プロデューサーがそう言うなら、かなり信頼できますよ」

 ぐだぐだ絡んでくる杏に反論したのは、
 3Pコンを操ってシステマチックにCPUをスマッシュしたプチ理論系アイドル、橘(たちばな)ありすだ。
 適当に連打される杏のレーザー光線をバリアで吸収しつつ紗南もありすの言葉に頷く。

「だね。引きこもってたのを連れ出された杏さんはともかく、 
 あたしとありすちゃんは元々ゲーセンでスカウトされたわけだし。Pさんけっこう強いんだよ?」
「私は正確には応募面接です。偶然ゲームセンターで遊んでいた時に名刺を渡されて、
 それをお母さんに見せたら本気にしてしまって……けしてゲーセン通いだったわけでは」
「そんなに強いなら4P入ってみてよプロデューサー。杏は直に見るまでは納得しない派だよ」

 結局タイムアップとなって試合は終了。紗南1位ありす2位杏3位。
 キャラ選択に戻った画面を前に、
 ゲームキューブに繋がれながらも誰も操作していない4Pコンを杏が指差す。
 指差すだけで渡したりはしないのが、さすがはものぐさな杏といったところだろうか。
 ドアのそばに立っていた彼女らのプロデューサーは「そこまで言うならストック5で、一戦だけな」
 と言いながら床に散らばる雑誌やお菓子の空き袋を避けつつ、画面の前にやってくる。

「じゃー仕切り直してっと。あたしはやっぱりゲームアンドウォッチ!」
「おっ、なかなか渋いな紗南。じゃあ俺はトゥーンリンクとしゃれ込むかな」
「舐めてんの? 悪いけど私、今回は本気だよ」
「ほう杏の本気はマルスか。なるほどな。でありすは……」
「橘です」
「ありすはさっきと同じくピーチか。かわいいじゃないか」
「だから、橘です。それにピーチは可愛いだけじゃなくて、強キャラでもあるんですよ」
「よーしみんなキャラは決まったね? じゃストック制に変えて……ステージはどうする?」

 終点1票、ハイラル神殿3票で神殿になった。

「ちっ神殿か」
「さすがに終点はガチすぎると思うよ杏さん……」
「やるときはガチでが杏の信条なのさ。プロデューサー、賭けしようよ。
 杏が勝ったら来週全部オフにしてもらう。負けたら来週全部仕事に出る」
「大きく出たな。いいぞその勝負乗った!」
「プロデューサーさん、そんな安易に乗っていいんですか? 杏さんはホントに強いですよ」
「俺を信じろ橘!」
「ありすです」
「え?」
「あれ?」
「えっと……グダグダになりそうだからもう始めるよ! それじゃあ――ファイトぉ!」


◆◇◆◇


「見つけましたよプロデューサーさん! どこで油を売っているのかと思えばスマブラだなんて!
 なにやってるんですか! 時は金なり、一分一秒が明日の自分への投資だと思って行動しないと!」
「げっちひろさん」

 ――三十分後。
 白熱のあまり3戦目に突入していたアイドル&プロデューサーのスマブラ大会は
 事務員である千川ちひろの一声によって終わりを告げることとなった。
 もとより十数人のアイドルを一手に引き受けてプロデュースしている身であるプロデューサーに、
 本業ではないゲームにうつつを抜かせるだけの休みの時間は無いのである。
 事務員は非情であった。

「もう早くしてください!
 のあさんが第1休憩室の方で12分も前からスタンバイしてるんですよ!」
「ご、ごめんなさいちひろさん! 今度何か奢るんで許してください」
「じゃあ夏影屋の期間限定1日40人しか買えない噂の金色の水羊羹でお願いします。
 それと謝るのは私ではなくてのあさんにですよ! さあ行きましょう!」
「さりげなく入手難易度Aランクのものを要求された気がしましたが確かにその通りです!」

 掛け合いも早口に、
 蛍光グリーンの事務服が翻ったかと思えばプロデューサーを連れ出してしまった。
 ドアが開いてからおよそ30秒の出来事であった。
 スタートボタンを押してポーズをかける暇もなく、残された3人のアイドルはぽかんと口を開ける。
 神殿の聞きなれたBGMだけが単調に部屋に鳴り響いていた。
 残機はプロデューサーが3。
 杏と紗南が2、ありすは1。ちなみにここまでの戦績は、プロデューサーのほぼ一人勝ち。

「……勝ち逃げしやがった!」
「まさかスマブラが本領だったとはねえ……」
「最後なんて3人で狙いに行ってたのに、まったく歯がたちませんでしたね」

 杏が叫び、紗南が感嘆し、ありすが呆れた。
 ちなみに杏の来週の予定もすべて仕事で埋まってしまった。

「嘘だ~、杏のマルス使いとしての4年間の研究が~」
「あたしもゲームアンドウォッチ自信あったんだけど、久しぶりに触ったPさんに負けるなんてねー。
 アーケードのときは勝てたけど、もしかしたらあれもスタッフの目とか気にしてたんじゃ……」
「動きが完全に動画で見るレベルでしたよ。
 プロデューサーさん、かなりのゲーマーだったのかもしれません」
「くっそー、絶対また今度リベンジしてやる……って言ってもプロデューサー、いつ休みなんだろ」

 ぽつりとつぶやく杏。
 言われて紗南もありすも、はっと気づく。
 例えば今日3人はオフだからこうして集まってスマブラに興じていたが、
 プロデューサーは仕事をしていた。そして来週もずっと仕事をするつもりらしい。
 そしてアイドル活動を始めてからこっち、3人はプロデューサーが休みの日に出くわしたことはない。

「プロデューサーって……休んでるんでしょうか?」
「杏さんは見たことある? あたしたちの中じゃ一番古いけど」
「うんにゃ、ないね。強いて言うなら、
 事務所に設備メンテナンスの人が来る日に半休取ったのを見たくらいかな」
「そういえば栄養ドリンクをよく飲んでますけど、もしかしてそれだけで大丈夫なつもりなんじゃ……」
「ちょっと心配だねぇ」

 言いながら紗南はゲームキューブの電源を切る。
 画面は消えて真っ黒になる。

「見た感じ、Pさんは楽しんでるみたいだからまだいいけど……」

 楽しい時間だってずっと続けていたらオーバーヒートする。
 ゲームは時間を守ってやるからこそ楽しい。というのが紗南の持論だ。
 ――休み無しでぶっつづけプレイしてでも自分たちを育てようとしてくれるのは嬉しいけど、
 それでオーバーヒートしてめのまえがまっくらに! なんてENDじゃ洒落にならない。
 大人だから、紗南のプロデューサーもきっと分かっているとは思う。
 でも、ゲーマーってのは本質的に無茶が大好きな生きものでもある。

「……電池が切れる前に、ちゃんと休みを取らせてあげたいなあ」
「そうですね」
「って紗南。もう止めるのー? 杏まだ疲れてないよ」
「杏さん。来週ずっと仕事なら今日は休んどいたほうがいいんじゃない?」
「む、一理あるな」

 大人気なく抗議する杏をたしなめつつ、
 紗南はきちんとディスクを外してパッケージに入れ、TVの横のソフト棚に戻していく。
 ここにあるだいたいのソフトとゲーム機は杏と紗南が家から持ってきたものだ。
 アーケード格ゲーの移植もかなり揃っている。
 今日はもう終わりだが、明日からちょこちょこと色んな作品をプレイして
 「慣れ」を作っておかないとな、と紗南は思った。

「さて。Pさんは心配だけど、せっかく取ってきてくれた仕事だし頑張んなくちゃね。
 どんな新作がきてもいいように――久しぶりに格ゲー100本抜きといこっかな!」
「おー。さすがゲーマーアイドル」
「……心配と言えば。紗南さんも杏さんも、ニュース見ましたか?」
「?」
「なんかあったの?」

 と、どこから取り出したのかiPadをいじっていたありすが新たな話題を出す。
 諜報系アイドルの八神マキノほどではないものの、ありすもニュースには敏感なたちだ。
 ありすはちょっと操作して、iPadの画面にいま話題のあるニュースを写した。

「それがですね……“月に黒点が出た”って話なんですけど……」


◆◇◆◇ 


「――遅れてすいませんのあさん!」

 勢いよく扉を開けて中に入る。
 事務所の1階にある第1休憩室は仕事前のスタンバイをするアイドルのための場所だ。
 基本的には移動待機のアイドルのみが居るため人は少なく、
 実際、千川ちひろに背中を押されながらプロデューサーが部屋に入ったときも、そこには2人しかいなかった。

「のあさん……と、芳乃?」
「……遅いわよ」
「おやおやー、お急ぎでしてー?」

 ただ、珍しい取り合わせと珍しい位置取りだったので、プロデューサーは驚いた。
 我が道を行くミステリアスアイドル高峯(たかみね)のあはこれから仕事があるので居るのは当然だが、
 その隣に、依田芳乃という新人アイドルが居て、しかも二人で暮れ時の空を見上げていたのだ。
 依田芳乃(よりたよしの)――神様系アイドル。と人は言う。
 どこか超然としたゆったりさを持つ少女。
 プロデューサーがスカウトをすることを読んで自分からスカウトされにきたという謎の能力を持っている。
 いまいち本性がつかめないという点では確かに高峯のあと似通っているが……。

「二人とも、なんで空を?」
「のあさんが天体観測が趣味とおっしゃってたのでー。わたくしにもご教授願おうかとー」
「あー、そうでしたね……でもまだ夜には早いですけど……」

 どうやら芳乃が天体観測に興味を持ち、のあさんの所に来ていたのだと知り、
 プロデューサーはとりあえず謎が解けたような気分になった。それでも、星を見るにはまだ早い。

「月をー。見ていたのですよー」

 見ていたのは、薄く見え始めた、月だと言う。

「……月の黒点。知っているわよね」
「ニュースになってたやつですか? あれもあれで不思議な話ですよね……。
 月にとつぜん黒点が観測されて、学者が騒いでるって。
 太陽に黒点が出来るのは原理が分かってますけど、月に出来るもんなんですかね?」
「あれは黒点ではないわ」

 高峯のあが断定的に言った。

「……あれは、方舟よ」
「方舟?」
「のあさんの話ではー、その見えない船が光を遮っているから、黒点に見えるらしくー」
「芳乃も……月に悪いものを感じていたから。……話していたわけ」
「なんだかいつにも増してよく分からない話ですね」

 月に方舟? のあさんだけにノアの方舟だって?
 ファンタジーすぎてプロデューサーは頭が痛くなりそうになったが、
 この二人は不思議な話が不思議と様になってしまっているので笑い飛ばすこともできない。
 ので、話題を変えることにした。

「えーっと。月がなんだか大変なのは分かりましたけど、それと仕事とは別です。行きますよのあさん」
「……」
「のあさん?」
「……関係しているわ。P」

 しかし失敗した。二人とも深刻な顔でプロデューサーの方を見る。

「この事務所のアイドルがー、“月に引かれている”のですよー」
「月は願いを吸い上げ、事変の光を降らせようとしている。アイドルの願いも、きっと餌」
「……???」
「ゴフェル……“木製のもの”に不用意に触らないこと。……私から言えるのは、これだけ」

 そこまで言うとのあさんは芳乃に手を振って、プロデューサーの方に歩いてきた。

「話は終わり。知ったわね。ならば、行きましょう」

 どうやら仕事に行く気になったらしかった。切り替えの早いのあさんだった。
 だけど、高峯のあ言葉に慣れてきていたつもりのプロデューサーもさすがに困惑した。
 木製のものに気を付けろ、って。紙ですら木からできてるのに、気を付けろったって無理な話だ。

「えっと……のあさんが言うなら、俺も気をつけますし、みんなにも言っときますけど。
 その、もし……不用意にその、木製のものに触ったりしたら――」

 どうなるんですか?
 その問いに答えたのは、のあさんではなく芳乃のほうであった。
 部屋から出ていく二人を追うような声で、ぽつりと呟く。

「神隠し――で、済めばいいのですけどー……」


◇◆◇◆


 それから。
 アイドルたちと彼女たちのプロデューサーは、助言になるべく従った。
 とくにプロデューサーは気を使った。
 木製のものをどうしても触らなければいけないときには、率先して手袋をして彼が触りに行った。

 道端に謎の木片が落ちていたといった報告が何件かあった。
 その都度回収しにいき、マッチで燃やそうと試みたが燃えなかった。
 いよいよもってオカルトじみてきた。
 巫女アイドルの道明寺歌鈴(どうみょうじかりん)に頼んで、彼女の実家の神倉に厳重に封じることにしたが、
 封じてもらってから一日経つと箱の中から消えているという現象が繰り返された。
 そして、同じような木片がまた別のアイドルに発見されるのである。プロデューサーは頭を抱えた。

「オカルトアイテムだって言ってオークションに出したら売れませんかね?」
「勘弁してくださいよちひろさん……」

 冗談だか冗談じゃないんだか分からない千川ちひろの言葉にも軽口で返せない。
 仕方なくvs厄災の最終兵器たる幸運アイドル、鷹富士茄子(たかふじかこ)の力を借りることにした。
 彼女の一筆を込めたお札を事務所の周囲の四方に貼り、結界を張ったのである。

「私の書いたお札で効果があるかは分かりませんけど……」

 効果はてきめんだった。事務所の周囲に関しては謎の木片の襲撃は止んだ。
 札をアイドルたちにも一枚ずつ、肌身離さず持っておくように言い聞かせて、ようやく安心かと思われた。
 その間にも三好紗南は格ゲーを色んな方面から順に遊んだ。
 鉄拳から、ブレイブルー。ストリートファイターに閃乱カグラ、メルブラ。P4U、ギルティ、サムスピ、etc...
 およそ格ゲーと言われれば想像されるタイトルを総なめするのに、本番までの全日を費やした。

 そして――新作発表会当日。

「衣装はOKか。紗南、お札は持ったな?」
「うん! オッケーだって、Pさん。心配性だなー」

 三好紗南は舞台袖で待機している。衣装はゲームを意識した彩りあるポップなものだ。
 段取りとしては、指示に応じて舞台に上がり、筐体に座ってゲームをする。
 筐体はサプライズのためにプレーンなもの。リアクションはアドリブで。簡単ゆえに難しい仕事だ。
 だがプロデューサーは、紗南が格ゲー順遊をしてこの仕事に備えていたことを知っている。
 それだけの強い想いを以って望んでくれたことを知っている。
 だから心配はしていない。心配しているのは、未だ消えない月の黒点についてだけだ。

「心配もする。俺は紗南がいきなり俺の前から消えたりなんかしたら、ぶっちゃけ泣くぞ」
「消えたりなんかしないって! 不思議な木片も最近は見てないし……」

 紗南はお札を張る前、最も多く木片に遭遇している。

「今からあたしが触るのはゲーム。木製のものなんて、これっぽっちもないんだからさ」
「それは分かってるが……」
「三好さーん、出番で―す」
「あ、はーい」

 企画スタッフの声がプロデューサーの心配を遮る。
 返事をして舞台に駆けていくアイドルに対して、プロデューサーにできるのは、見送ることだけだ。
 プロデューサーは紗南に叫ぶように言った。

「――帰ってこいよ、紗南!」
「うんっ!」

 気持ちの良い返事をして、三好紗南はステージへと上がった。
 そして、それが紗南と、紗南のプロデューサーがこの日交わした、最後の言葉となった。

 一瞬だった。

 筐体の前に座ってスタートボタンを押した紗南を、
 “ゲーム画面から飛び出てきた手が、画面の中に連れ去った”。


◆◇◆◇


 ――飛行船が、飛んでいた。
 月を望む舟の中。
 つくられた仮想世界。 
 その空に。飛行船が飛んでいた。その名称にノアの名を含む、航空空母。

「少々手荒な真似をしてしまったな、少女よ」

 内部、広い視野で空を眺める操艦室にて、飛行船の主は少女に謝罪する。
 ゲーム風のポップな衣装を着た少女、三好紗南は、
 何が何だか分からぬまま顔を上げ――たった今自分に声をかけた男の姿を確認すると、
 あまりの驚きに目を点にして、三回ほどまばたきをした。

「……な、に、これ。嘘?」
「嘘ではない。そして現実でもない。ここはゲームの中、君はプレイヤーだ」
「え……?」
「塵となり漂って……およそ二十年経ったか。クハハ、ついに復活ということだよ。
 私は再び、この地にて求め得るのだ。世界を掌握する力。私の望む悪の完成を」

 リアルすぎる質感を持った、目の前のゲーム・キャラクター。
 あまりにも有名なそのキャラクターを、三好紗南は当然知っているし、使ったこともある。
 真ん中分けの金髪。発光する右目。紳士風の口髭。
 鍛えられた肉体を、ワインレッドのスーツで包む。その性質は悪。求めるものは、力。

 ルガール・バーンシュタイン。
 KOF(ザ・キング・オブ・ファイターズ)シリーズ初作のラスボスを担う、最大の悪役。

「これを見たまえ」

 今だ状況把握ができない紗南に向かって、ルガールはスーツの袖をまくった。
 その腕に、紗南の見たことのない刺青が、三画。いや、知っている。これは――。
 Fateシリーズ。聖杯戦争。

「令、呪」
「そう。よく知っている。そして月の聖杯戦争も君は知っているな? ルールはおおむね、それと同じだ。
 ひとつ例外は。私がこの令呪を前のマスターから奪い、従者から主へと変質した存在だということくらいか」
「令呪を……マスターから奪った?」
「オロチの力でさえ取り込んだ私が令呪を取り込めぬ道理はない」
「なら、前のマスターは――」
「死んだよ。私を使役しようなどという不届き者が、生きていられるはずがあるまい?」

 もっともそれによって少々ペナルティを負ったがね、とルガールは笑う。

「ここは……ホントにゲームの中なの?」
「ゲーム機に吸い込まれたのを覚えているだろう?
 それが、ここがゲームの中だと言う何よりの証明ではないかね」
「じゃあ何? あたしのプレイしようとしてたゲームは、KOFとFateのコラボゲーだったって?
 しかもプレイヤーをゲームの中に連れてくるようなハイスペで――って、さすがにありえないでしょ」
「だが、ゲームであることは確かだ。その証拠に、コントローラーもある」

 ルガールは紗南に向かって懐から取り出した物体を投げた。
 それはレバーといくつかのボタンがついた、アーケードゲームの操作盤部分のみのもの。
 いわゆるアケコンと呼ばれるものだ。――そしてこれは、ルガールのペナルティの一つだった。
 マスターを殺し、礼呪を奪ったルガールへの枷は三つ。

 ひとつ、彼が召喚できるサーヴァントはムーンセルからは選べない。
 ふたつ、魔術師ではない彼には正規の手順ではサーヴァントを召喚するすべがない。
 みっつ。ルーラーの令呪によって。
 彼は戦闘時、自らの意志で体を動かすことが、できなくなってしまった。


「令呪を以って命じる。『私を乗りこなせ、ライダー』」


 ゆえに彼は探さなければならなかったのだ。自らを乗りこなせるライダーを。
 自分を動かせる人物をこの地に連れてくる方法を。
 そして見つけた。三好紗南を。そして、方舟に至る鍵をゲーム機のプログラムに紛れさせる方法を。

「ぐ……ああああああっ!!??」
「言っておくが君に選択肢はない。この空母は私の死に連動して爆破される宝具。
 私を使って勝たねば、君に待っているのは死のみだ。もちろん私がマスターである以上勝手には死なせんがな」
「……あ、悪趣味なっ……お仕事だね……っ!」

 令呪による強制の魔力が、紗南にアケコンを掴ませる。
 それを投げ捨てることはもうできない。
 三好紗南はエントリーしてしまったのだ。一切の負けが許されぬ殺戮のロワイアル。
 ひとかけらも望んでいなかった殺し合いのゲーム。
 月を望む、聖杯戦争に。




「さあ、始めよう。ザ・キング・オブ・ファイターズ2014を」

               「ああもう、誰かこの人倒してよ! でも2147+Kで6割ね……!」




 “――――ルガール・バーンシュタイン&ライダー GAME START!!”





【クラス】
 ライダー
【真名】
 三好紗南@アイドルマスターシンデレラガールズ
【パラメーター】
 筋力E- 耐久E- 敏捷E- 魔力E- 幸運E- 宝具E-
(聖杯補正ゼロの一般人。このパラメーターは目安であり、実際はもっと低いと思われる)
【属性】
 秩序・善
【クラススキル】
コントローラー:C
 どんなゲームでも使いこなし、キャラを乗りこなすことができるスキル。
 騎乗スキルの代わり。ランクCの紗南は一般人より上手くゲームを操作できる。
【保有スキル】
ゲーム知識:B
 レトロから最新まで様々なゲームを遊んで得た知識。
 相手がゲームの登場キャラクターであれば、その真名や性質を暴くことは容易い。
アイドル:C
 カリスマに似た人を惹きつける力。
 ランクCであれば2000人規模のステージを1人で湧かせることができる。
【宝具】
 宝具は存在しない。
【weapon】
 三好紗南はゲームスキルとアイドルスキル以外は一般的な女の子である。
【人物背景】
 アイドルマスターシンデレラガールズより参戦。14歳、属性はパッション。
 ゲーマーアイドルとして売り出されている。格ゲーにとどまらずほぼ全ジャンルをやってるようだ。
 ゲームネタを絡めたメタネタもときに繰り出す油断ならない言動をする。
 格ゲーの腕は特別高いわけではないが、一般人よりはもちろん上。
【サーヴァントとしての願い】
 強いて言うなら、プロデューサーに休みをあげたい。
【基本戦術、方針、運用法】
 マスターで呼ばれるはずが、なんとサーヴァントになってしまった。
 正式手順での召喚ではないため、霊体化もできなければステータスも普通の人間。
 とりあえずルガールとの契約をどうにか破棄するのが第一。そのあと帰る方法を探すしかないだろう。
 しかし、ルガールが殺されると空母は爆発し巻き添えで死ぬ。令呪を使いきらせるには……?


【マスター】
 ルガール・バーンシュタイン@KOF'95
【パラメーター】
 筋力A 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運B 宝具A
【属性】
 混沌・悪
【クラススキル】
騎乗:E
 もともとは飛行空母を所有していた逸話からライダーのクラスで召喚されていた。
 が、他に特別な逸話もないためランクは低い。
対魔力:B
 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
アビリティハンター:A+
 力を求め、貪欲に様々な能力や技を自分のものにしてしまうスキル。
 倒した相手の技を中確率で取得する。また、倒した相手から魔力を奪い取る。
 その他、外部からのどんな強化も受け入れる強い器がある。
 ただし限界点はあり、ルガールが制御しきれない力を得てしまうと狂化することになる。
単独行動:A
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 自分だけでは制御しきれないオロチの暗黒魔力を現界のコストに使うことで高いランクを得た。
悪の美学:B
 けして改心することのない、ぶれない純粋悪の姿勢。
 Bランク以下の精神干渉を無効化し、また属性「秩序・善」のサーヴァントに対して有利を得る。
【宝具】
『巨大航空母艦ブラックノア』
 ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:49 最大補足:100
 ルガール・バーンシュタインが所有していた巨大な飛行空母を召喚する。
 ステージとしての描写しかなかったので、飛行船として飛ばせるだけで戦闘能力はほぼない。
 ルガールの敗北をフラグとして内部の自爆装置が発動する。魔力消費が著しい。
『隠された操作盤(シークレット・キャラクター)』
 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:0
 ゲームの操作キャラクターであった逸話が再現された宝具。
 アケコンの形を取って、他人に渡して操作させることで格ゲー仕様の動きを取ることができる。
 ただし操作キャラとしてのルガールは本来のステータスより低いダメージしか与えられない。
 ルーラーの令呪によって、ルガールはこの宝具に操作されない限り戦闘が行えない。
『KOF(ザ・キング・オブ・ファイターズ)』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:49 最大補足:100
 格闘大会ゲームの主催者であった逸話が固有結界となった宝具。
 範囲内に居る参加者の動きを著しく制限する代わりに、前述の『隠された操作盤』を配布する。
 また、すべてのサーヴァントとマスターの頭上にHPゲージ・魔力ゲージが可視化する。
 マスターの格ゲー適正が問われる固有結界。魔力消費が大きく長くは使えない。
【weapon】
 ゴッドブレス、ジェノサイドカッターなど多くの必殺技を持つ。
 詳しくはルガール・バーンシュタイン - ニコ百 (ttp://dic.nicovideo.jp/id/297032)
 などの技一覧を参照。94-95年度までの技は確実に使える。
【人物背景】
 ブラックマーケットを牛耳る闇の武器商人。格闘大会KOF'94-95の主催でありラスボス。
 94'では優勝チームを石像これくしょんしようとしていた。負けて空母ブラックノアと共に自爆、
 しかしサイボーグ手術で生き返り、不完全だったオロチの力(すごい暗黒パワー)を完全に手にして
 「オメガ・ルガール」として復活、95'の優勝者と戦う。ここでも敗北し、オロチの力に体が耐えられなくなって
 塵と化して消えた。しかしそのあと塵の状態で世界を漂っていたらしくムーンセルに召喚される。
【ここまでのあらすじ】
‐サーヴァントとして召喚されたものの、使役されることを嫌ったルガールはマスターを殺害。
 アビリティハンターのスキルでマスターの令呪を奪い取ることでマスターの資格を奪い取った。
 サーヴァントの能力を持ったマスターの誕生だ。
 だがそんなことが横行しては聖杯戦争のルールが崩壊してしまう、
 と判断されたルーラーによって、『自発的な戦闘行為の禁止』という命呪を下される。
 また、ムーンセルもマスターと化したルガールにはサーヴァントを宛がわないという裁定を下した。
‐事実上の無力化を宣告され、それでもルガールは諦めなかった。
 自分で戦えないなら誰かに動かしてもらえばよい。それだけの話である。
 図書館の情報からゴフェルの木片を使って方舟に人を呼べると気づいたルガールは、
 自らの出展であるアーケード筐体を媒介にゲーマーを連れ込むことに成功したのだった。
【マスターとしての願い】
 より強い力を手に入れる。
【基本戦術、方針、運用法】
 当然優勝狙い。まずはブラックノアから高みの見物。乗りこんで来た者には応戦。
 なおブラックノア自体が攻撃されたら反撃手段はないので、その場合は潔く飛行船を捨てる。
 サーヴァントは大事な操作者(奴隷)なのでそれなりに大切に扱う。