読子・リードマン&ランサー



「本当に人を殺さないといけないんでしょうかぁ……?」
「ふふ、手を下すのはわたしなんだからそう心配することはないわよう」
「いえいえ、それでもマ、マスターとしての監督責任というものがありますし……」
「ん~、困ったわねぇ。どうせおっ始まっちゃえばそんなの関係なくなっちゃうと思うけど……」

とある古書店に二人の女性の姿があった。
手入れが行き届いていないのか、通路にまで本が積み上げられほとんど足を置く場所もない店内はひどく誇りっぽく、古紙の匂いが充満している。
天井から吊られた電灯はこれも古いものなのか光は暗く時折息切れしたようにチカチカと点滅している。
そんな中で言葉を交わしながら片方は下を向き熱心に本を読んでおり、もう一人は適当に本を取ってはそれをまた棚に戻すのを繰り返していた。

「私はこうやって本を読めていればそれで幸せなんですけれどぉ……」

そう言ったのはずっと本を覗き込んでいる方だ。
ちゃんと梳いてない黒髪は所々で跳ね、顔には大きな黒いボストンタイプの眼鏡。ずっと着たままの司書服とコートはよれよれで汚れが染み付いている。
彼女の名前は読子・リードマン。
稀代の愛書狂(ビブリオマニア)であり、同時に大英図書館が誇る最強のエージェント『ザ・ペーパー』でもあり、この聖杯戦争のマスターの一人であった。
本を読むことを悦楽とし、本の為には命を顧みず、本に人生を尽くし、だからこそ本に愛される本の申し子である。

「……あ、本。本ね。紙に書かれた書物ってことか」

彼女の言葉にもう片方の女性は少し言葉を戸惑わせた。
同じく豊かな黒髪は雑に流され、美人ではあるが顔にはそばかすが目立つ。兎のアップリケのついた白シャツと黒いズボンには色気の欠片もない。
彼女の名前はハミュッツ=メセタ。
神立バントーラ図書館の館長代理であり、武装司書を束ね日夜、違法な『本』の取引きを監視し、平和を乱す者らとの戦いを指揮している。
『本』を収集することを職務とし、『本』の為に我が身を危険に曝し、『本』の為の人生を強いられ、故に最強の『本』となる者であった。

「他に本ってありましたっけ? そりゃあもちろん、紙でないものに書かれた本というのも存在はしますけど……」
「ううん、わたしがいた世界じゃね。紙に書かれた書物とは別に『本』と呼ぶものがあった。それだけのことよう。気にしないで」
「そう言われると気になってしまうのですが……」
「だったら、その分もあなたの願いに上乗せするのね。なんだったら館長代理であるあたしが約束してもいいわよ。勝ち抜けば『本』を読ませるって」

二人はよく似た存在だった。
二人はよい素材を(特に胸については)持ちながらもお洒落も化粧っ気もなくその宝を持ち腐れにしており、そしてもう少女とは呼べない齢の女で。
本に執着し、本から多大なものを得て、本によりそれ以上のものを失い、むしろ本に縛られ呪われていると言っても過言ではない存在で。
そして二人ともが“戦う司書”であり、その世界においてそれぞれ最強の称号を持っていることである。
だからこそ導かれたのであろう。当然の帰結として、読子・リードマンはハミュッツ=メセタをサーヴァントとして召喚することになったのだ。

「そんなこと言って私をのせようったってそうはいかないんですからねっ」
「あら、そう言う割にはもう身体が疼いちゃっているみたいよう?」
「でもでも、自分の欲望の為に罪もない人を殺すだなんて私、とても……」
「罪も、ない……ねぇ」

ハミュッツは軽く鼻を鳴らす。
読子・リードマンが善良な人間であることは疑いようがない。だが彼女からは“死”の匂いもする。その業の為に何者かの命を奪ったことがあるのだ。

「あの、ハミュッツさん……?」
「……あぁ、そこんところ思い込まないほうがいいと思ったのよ。読子がここに来たのは偶然かも知れないけど、だからって他がそうとは限らないでしょう?」

読子がこの聖杯戦争に参加してしまったのは偶然だ。ある稀覯本に挟まれていた栞代わりの木片。それが『ゴフェルの木片』だったにすぎない。

「つまり、お宝目当てで参加してる人も、……悪い人もいるかもしれないと?」
「むしろ、ほとんどがそうだったと考えるべきじゃないかしら? だって、偶然に呼ばれるにはちょっと条件が厳しすぎるわ」

ハミュッツに言われた読子は読んでいた本をパタンと閉じるとう~んと唸った。

「確かにそうかもしれません。でも、……でもですよ? 例えここにいるのが悪人ばっかりでも、おいそれと命を奪うのはちょっとですし、
 それにこういう願い事を叶える話って本だとほとんどが欲望にそって行動した人は手痛いしっぺ返しをですね……」

言い返されたハミュッツはペラペラとめくっていた古い雑誌を置くと、顎に手を当てう~んと唸った。

「まぁ、それはそうよね。こういったうまい話には裏があるのが当然。私たちは何者かに体よく利用されているか、あるいはただの悪意に曝されているか」

くすりと笑うとハミュッツは立ち上がりお尻についた埃を叩いて払う。そして読子の手を引いて彼女も立ち上がらせると店の出口へと向かった。

「ちょ、ちょ、ちょっと、どこ行くんですか~? 私、まだここで読みたい本があったんですけどぉ」
「何事も動いてみないと始まらないわ。それに――」

外に出ると夜空には満天の星とぽっかりと白く浮かんだ月が浮かんでいる。それを見上げ、ハミュッツは顔に獰猛な笑みを浮かべた。


――まずは、この世界という『本』を読んでみましょうよ。




【クラス】 ランサー
【真名】 ハミュッツ=メセタ
【属性】 混沌・悪

【ステータス】
 筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C

【クラススキル】
 対魔力:C 第二節以下の詠唱による魔術を完全に無効化。大魔術、儀礼呪方等の大掛かりな魔術及びそれに匹敵するものは防げない。

【保有スキル】
 被殺願望:EX
  誰かに殺されることに悦びを得るという生命体として矛盾した願望。
  外科的、神秘的施術により本能を書き換えられたハミュッツは、自らよりも強大な者に殺害されたいという欲望を常に抱えている。
  その為実力者相手には非常に好戦的であり、自らを殺し得る相手を見れば可能な限りぎりぎりの状況を作ってからそれに挑むよう動く。
  敗北に近づくほどマスターの制御を離れ、無謀な闘いであるほど嬉々として挑み、死ぬ為の闘いを続行する。
  なお、あくまで強者によって殺されることが重要であり、自殺を試みたり、弱者相手にわざと負けるように動くなどということはない。

 戦闘続行:A+++
  往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
  通常はAだが、被殺願望が発揮される相手だと死に近づくにつれ、その効果は倍増してゆく。

 軍略:B
  軍団の長として戦略を練り実行する能力がある。また実力が同程度以下であれば相手側の戦略を看過することができる。

 身体能力強化:A
  付与魔法による身体的能力の強化。これは常時発動しており、筋力、耐久、敏捷に+がつく。

 投擲:A
  独自の魔法権利によりなにかを投げる場合においてのみ異常な怪力が発揮される。これにより投擲攻撃の際、筋力はAとみなされる。

【宝具】
 『追憶の戦器・常笑いの魔刀シュラムッフェン』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~25 最大捕捉:100
 (ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~60 最大捕捉:使い手が認識できる限りにおいて無限大)
 持ち手が蜘蛛の形を模した細剣。
 この剣は振られてから対象が切られる間の過程を無視する「因果抹消攻撃」であり、
 斬りたいと思った場所を念じながら振れば剣が触れておらずとも、例えその対象がどれだけ頑丈なものであろうと問答無用に斬れたという結果だけを生じさせる。
 ただしあくまでも対象は空間であるため、剣が振られてから効果が現れる一瞬のタイムラグの間に移動すれば回避することは可能。
 また自動防御機能があり、剣を抜いて持っている状態ならば至近距離の攻撃は全て剣自体が自動で迎撃してくれる。
 空間の断裂が発生する際の風切り音から常笑いの魔刀という名がついた。

 しかし今回はランサーのクラスでの召喚なので、剣であるシュラムッフェンの性能は本来のものより1ランク落ちている。()内が本来の性能。

 『触覚糸』
 ランク:C 種別:対城宝具 レンジ:1~500000 最大捕捉:百億超
 ハミュッツから伸ばされる不可視不接触の魔法の糸。
 糸一本がそれぞれ視覚、聴覚、触覚を持ち、触れたものの情報をハミュッツ自身に送る。ようはレーダーのようなもの。
 射程は最大50km。展開できる本数は最大で百億超。一都市を飲み込みその全ての様子を手に取るように知ることも可能だが欠点も多い。
 第一に非常に脳を酷使するため長時間の展開ができない。長く、多く伸ばすほど時間は短くなる。逆に短く少なければほとんど負担はない。
 第二に不接触ではあるが、風には流されるという特性がある。なので強い風の吹いている場所では使用できない。

【weapon】
 『投石器』
 見た目はなんの変哲もない皮のスリング。
 だが、その素材は神銅(文字通り神が作った金属)に古代竜の皮膚などであり、人造ではあるが神器に匹敵する頑丈さを持っている。
 ハミュッツはこれを用いて投石することを基本の攻撃とする。
 用いるのは専用の石から、その場に落ちている小石、岩、煉瓦から人、車、砲台と物も重さも選ばない。
 射出される物体の最高速度はマッハ5。最大射程距離は30km。静物必中距離は25km。雨霰のように連射することも可能。

【人物背景】
 出展は「戦う司書」
 バントーラ過去神によって建てられた神立バントーラ図書館の現代館長代行。
 バントーラ図書館で扱う『本』及び、彼女の世界で言う『本』とは人間が死後、その記憶を化石として残したもので一般的な本(書物)とは別物である。
 『本』は触れることで簡単に当人の記憶を読むことができる為、その発掘、取引き、収集と保管は厳重に管理されており、
 それを取り締まるのがバントーラ図書館とそこに所属する武装司書である。
 ハミュッツは世界最強の武装司書であり、歴代館長代行の中でももっとも好戦的と言われ、実際に敵と見たものには容赦がなく作戦は皆殺しを常とする。
 だが、反面、机仕事も得意であり、戦闘に関わらない仕事の間は物静かで、刺繍を趣味とする一面もあったりする。

 今回の聖杯戦争では生前の最盛期と言える姿で、また狙撃を攻撃の主とする為ランサーのクラスで召喚された。

【サーヴァントとしての願い】
 自分を圧倒的な実力で簡単に殺害できるような強者と出会わせてくれること。

【基本戦術、方針、運用法】
 マスターの命に無理矢理逆らおうとはしないが、基本戦術は皆殺し。読子のことはなんとか言いくるめようと考えている。
 この場において自分を殺害できるような相手と見えるかもしれないことに期待感はあるが、加えて『月』という彼女からすれば巨大な『本』にも興味を持っている。

 戦闘スタイルは投石器を使った相手の射程外からの一方的な攻撃を基本とする。
 被殺願望がある為に、相手が強者と見れば一旦目の前まで近づくこともあるが、その場合でもそこからまた離れ狙撃で倒そうとする。
 いざ戦闘が始まれば自分が不利になるような行動をわざと取ることはない。
 シュラムッフェンの因果抹消攻撃は言うに及ばず、肉弾による近接戦闘も強力であり、投石器の紐による首絞め(首折り)を得意とする。


【マスター】 読子・リードマン

【参加方法】
 とある稀覯本(非常に珍しい本)に挟まれていた栞が『ゴフェルの木片』でできていたため、偶然に召喚された。

【マスターとしての願い】
 この世の全ての本を読むこと。

【weapon】
 『戦闘用紙』
 大英図書館特殊工作部より支給された戦闘用の紙。
 通常の紙よりも硬度があるもの、耐水性があるもの、火薬を染みこませて発火するもの、粘着性のあるものなど、用紙の種類は様々。

【能力・技能】
 『ザ・ペーパー』
 紙使いの能力。
 戦闘用紙だけでなくありとあらゆる紙を自由自在に操れる能力であり、紙であれば本であろうと紙製のなにかであればなんでも操ることができる。
 またそれは直に触れなくともある程度近くにあれば可能であり、紙同士を連結させより多くの紙を操作することも可能である。
 読子が触れた紙は一枚で銃弾を止めるほどの硬度を持ち、鉄すら切り裂く刃にもなる。紙を大量に使用すれば数千トンの重さを支えることも可能。
 その他、紙飛行機に乗って空を滑空したり、紙を擬態させる能力でビル一棟そのものを紙で作り上げ相手を騙すなどの芸当も見せる。

 『言語学』
 本を読むために身につけたありとあらゆる言語を理解する力。
 現在使用されている言語はもちろん、すでに遺失された古代言語なども習得しており、更には初めて見る言語であろうとすぐに解読することができる。

【人物背景】
 出展は「R.O.D(READ OR DIE)」
 全世界の英知と本を管理しようとする大英図書館特殊工作部のエージェント。コードネームは「ザ・ペーパー」。
 普段は非常勤講師をしており、非常にのんびりとしていて色いろと抜けた性格であるが、一度本が関われば人間が変わったように目を輝かせる。
 文字通り、三度の飯より本が好きという人間で、自宅であるビルは買い溜めた本で埋まっているほどであり、読みきれる数を超えても蒐集は止まらない。
 とにかく本が好きで本を愛し本に強く、故に本が弱点になる。本に助けられることも多いが、同じかそれ以上読書狂の性分のせいで余計な危機に陥っている。

 温和であるが、正義感も強く、なにより本を傷つける者には容赦がない。殺人に対する禁忌感は人並みに持つが相手を殺害してしまうことも多い。
 先代ザ・ペーパーであり師匠兼恋人であったドニー・ナカジマも彼女は本の為に殺害してしまっており、それはトラウマのひとつになっている。

【方針】
 聖杯戦争そのものに疑心がある。なので降りかかる火の粉を払う以上に誰かと争うつもりはない。
 だが、願望に対する火は読子の内で燻っており、無意識に、あるいはなにかの切欠(本)で優勝を目指し邁進し始めるかもしれない。

 戦闘スタイルは、まず相手に降伏勧告を送りながらひたすら耐えしのぐというパターンが多い。
 だが、それが通じないと判断すれば紙使いの能力を十全に発揮し、相手の意表を突いたり、あるいは圧倒的な暴力でもって撃破する。