───かー、ユカリはポケモンバトルが強いねぇ。
『ふふん、おばあちゃんのためにポケモン達と頑張りましたから』
───もしかしたら、じいさんのハリテヤマに勝てる日もくるかもしれないね。
『そ、そんなことないですよ!おじいちゃんのハリテヤマは物凄く強いですし……』
───大丈夫。いつか勝てるよ、ねえハリテヤマ?じいさんもユカリがハリテヤマに勝ったって聞いたら喜んで化けて出るかもしれないよ。
『そ、そうですか……?』
───ああそうさ。こりゃ私もじいさんの分まで長生きしないとね。ユカリが強くなったの見てから死なないとじいさんにユカリの成長を教えてあげられないから。
『おばあちゃん……じゃあ私、頑張ります!』
───うん、その調子だ。ああ、楽しみだなぁ。おばあちゃん、死ぬ迄にもう一つ楽しみが出来ちゃったよ。


「きんこんしき」と言えば、私の地元では私の祖父と祖母のこと指していると言っても過言ではないくらい、祖父と祖母は有名だった。
どんな相手も蹴散らす祖父のハリテヤマと。
そんな祖父を補佐する祖母のミロカロス。
その完璧なコンビネーションは、向かうところ敵なしだった。
私がポケモンバトルをしたいと言って一番喜んでくれたのも、その祖父と祖母だった。
一緒にポケモンを捕まえ、特訓し、強くなることを教えてくれた───でも。
まもなくして、祖父がこの世を去った。
私にはよくわからなかったけど、重い病気だったらしい。
その頃から祖母はまるで元気がなくなった。
だから、元気になってほしいと私はポケモンと一緒に沢山強くなった。
祖父の攻撃の強さはもう教えて貰えないけど。
祖母のサポートの強さは沢山教えて貰った。
これから私はもっと強くなる。
そうしたら祖母はもっと喜んでくれる。元気を取り戻してくれる。
待っててね、おじいちゃん。
おばあちゃんの元気は、私が絶対に取り戻して見せますから───








───でも、時間は待ってはくれなかった。
祖父が死亡してから数年後、祖母も後を追うように病気で息を引き取った。
私がこのコロシアイに呼ばれたのは、その一週間後のことだった。



◆ ◆ ◆

「……私をこんなところに連れてきて、何がしたいんでしょうね」

支給品の道具とモンスターボールを掌でコロコロ転がしながら、少女───ミニスカートのユカリは思案する。
既にポケモンの二匹はこのポケモンコンバータというらしい機械で調整は済ませている。
ボムッ、と小さな音をたてて一つのモンスターボールからポケモンが飛び出してくる。
黒い艶のある体に金の美しい模様。
げっこうポケモンの、ブラッキーだった。
頭を撫でると気持ちが良いのか、ブラッキーは目を細め体を預けてくる。
おばあちゃんの戦術……防御とサポートを得意とする私には、この子は中々相性が良かった。

「おじいちゃんも亡くなった。おばあちゃんも亡くなった。
───もう私に、強くなる理由なんてないのに」

いっそのことここで死んでおばあちゃんたちのところに行くのも一つの手かもしれない、と可笑しな事を考えてしまう。
薄く漏れた暗い笑いに、嫌な気配を察知したのか。
未だ掌に収まったままのモンスターボールがカタカタと揺れる。

「……」

その揺れるモンスターボールの中のポケモンは、私が扱ったことのないタイプのポケモンだった。
どちらかと言えば、おじいちゃんの戦術寄り───言わば、攻撃で押すタイプのポケモン。
おじいちゃんからポケモンバトルを教わることは叶わなかった私からしたら、そのポケモンは扱いに困るポケモンだった。

「…私がもうちょっと君をよく扱えるトレーナーだったら良かったのですが」

ごめんね、と。
一言謝ってそのポケモンには支給品の一つだったシュカの実を持たせてあげた。
効果抜群の、地面の技の威力を軽減させてくれるきのみ。
きっと、この子の助けになってくれるはず。

「とりあえず、行こうブラッキー。
人を探しましょう」

モンスターボールを一つポケットに仕舞う。
ブラッキーには、支給品の一つだったメンタルハーブを持たせる。
こちらもきっと、ブラッキーの力になってくれるはずだと。
このコロシアイに反対の人もいるかもしれない、だからとりあえず人を探そうと安易な発想の元歩き出す。
でも。

───生き残る気力なんて無いくせに。

心の中で、不穏な声が囁き続ける。

───死ぬ勇気も無いくせに。

そんな心の中から滲み出る負の感情に、ねっとりと心を蝕まれながら。

そんな負の感情が私に巻きついていたからなのだろうか。
私は───背後から忍び寄る、大男の姿に気づくことが出来なかった。

「ルンパッパちゃんッ!『エナジーボール』よッ!」

響く、野太い声。
振り返った時には、もう遅かった。
エナジーボールは、既に放たれていた。
防げない。
直撃する。
私では避けられない───だからこそ、私はブラッキーに頼った。

「ブラッキー!お願い!」

その言葉を受け、月光のポケモンは始動する。
エナジーボールの正面に立ち、指示を待つ。
今か今かと指令を待つブラッキーに、命を飛ばす。

「『まもる』!」

そして現れるは守護の防壁。
エナジーボールを完全に防ぎ切り、衝撃の余波すら通さない。
防ぎきったことを確認した後、私は襲撃者に抗議する。
筋肉に包まれた身体。如何にも暴力を得意としていそうなこわいかお。そしてその独特の構え。
───カラテおうと呼ばれる存在だ。

「危ないじゃないですか、当たったらどうするんですか!」

少しの恐怖を抑えながら、声をあげる。
怒鳴られたら怯むのは多分私だけど、そんなことは考えていなかった。
しかし。
帰って来たのは、私の想像を遥かに凌駕する言葉だった。

「あら、さっきまで死にそうな顔してたのに……まさかこんな機転が利く子だとは思わなかったわ!」

……言葉というか、言葉遣い?

「強くて度胸もある……そんな子、嫌いじゃないわ」

後何かナヨナヨしてる。
でも声は野太い。

「男の子だったら私のスーパーカラテホールドをサービスしてあげちゃってたわ」

御断りしたい。
オネエなのだろうか、言葉のイントネーションが、その、とても失礼なんだけど、気持ちが悪かった。
相手のペースに呑まれないように───ある程度の距離を取って、会話に臨む。

「何なんですかあなた、いきなり」
「言っておくけど、私だってコロシアイに乗った訳じゃないのよ?
こんなところに閉じ込めて殺し合えなんて、レディーに対してあまりにも礼儀が無さ過ぎるわ。ノー礼儀よ」

そう飄々と語るカラテおうが繰り出したルンパッパを、ブラッキーはまだ威嚇し続けていた。
それでも構わず、そのカラテオウは続ける。

「私だってこのコロシアイを打破する作戦があるのよ?
さ・く・せ・ん*」
「作戦……?」

警戒は解かない。
ブラッキーを目の前に配置したまま、いつでも対処できるように。

「名付けて……『ふるい落とし作戦よ!」
「ふるい、落とし……?」

そう、と人差し指を空に突き立て、彼は話続ける。

「雑魚が幾ら集まっても使えないじゃない?なら私の初撃を防げたらクリア、仲間にしてあげる。
そうすれば強い仲間が集まるわ!」
「……防げなかったら?」
「初撃を食らって動けないその子に追撃してポケモンを貰うわ。雑魚が使うぐらいなら私が使った方が強いでしょ?」
「……」

思わず、声が出なかった。
このカラテおうは弱い人を殺し、強い者だけ生かし生還しようとしているのだ。
弱い者をふるい落とし。
助かった強者だけで生き残ろうと。
ゾクリと、背筋が寒気立つような感覚。
この感覚は恐怖か、危機を察した己の心か。
どちらかはわからなかったが───こちらが行動する前に、カラテおうが動いた。

「でも私ね、一つ問題があるの」
「……?」

カラテおうは掌に収まったモンスターボールをお手玉のように放り投げては受け止め、放り投げては受け止め、私を品定めするような眼で見ていた。

「うーん……男の子だったのなら完全に合格あげちゃうところなんだけど───」

そして、一言。
目を細め、狙いを定めるように、カラテおうは言い放つ。

「───私、『女』には厳しいの』
「ッ!?『ふるいたてる』!」

膨れ上がったカラテおうの殺気に、体が自然に反応する。
ブラッキーに命じた技は『ふるいたてる』。
こうげきととくこうを上昇させる技。
これでパワーアップさせた一撃を食らわせてその隙に逃げる、というのが私の作戦だった。
先程の殺気で理解した。
いや、理解させられてしまった。
この人には勝てない───ならば、逃げるしかない!
しかし。ブラッキーの『ふるいたてる』を目の前にしても、カラテおうは一切怯まない。
ゆっくりとこちらを指差し、一言だけ呟いた。

「『しめつける』」
「ブラッキー!『バークアウ……ッ!?」

そこから先の言葉は、紡がれることはなかった。
ブラッキーは指示が飛ばないことに困惑しているのか、その場でオロオロとしていた。
声が出ない。息が苦しい。
───首に何かが巻きついている。
そのことに私が気づくまで、そう時間はかからなかった。

「ぁ……な、ん……で、どこっ……」

『何で』『どこから』。
その二つの単語を発するまで、私はたっぷりと十秒ほどの時間を要した。

「あなたが律儀に私の話に付き合ってくれている間にね、そーっと私のポケモン───モジャンボをあなたの背後に回り込ませてもらったわ。
どう、私のモジャンボの触手っ!
くねくねしてぬるぬるしてるでしょ」

気持ち悪い。苦しい。
私の思考は最早そんな単純な単語に支配されていて、話を聞く力もない。
首を絞めているモジャンボの触手をパンパン、と叩く。
緩む気配は、ない。

「モジャンボはね、普段は茂みにじーっと隠れて獲物を見つけたらその触手で絡め取る習性を持つのよ。
どう、実際に味わった感覚は」

カラテおうは私のお腹を指の腹で撫でながら、嫌な笑みを浮かべる。
あらウエストは結構細いのね、嫌いよなんて言いながら。

「さて、ルンパッパ!後はその邪魔なブラッキーちゃんを片付けてあげなさーい。
『みだれひっかき』よ、たっぷりといたぶってあげちゃって」

ガリッ、ガリッと音がする。
ルンパッパの鋭い爪に、ブラッキーが傷つけられている音だった。
ブラッキーは命令がない以上好きに動くことができず───ブラッキーの体力が、少しずつ減っていく。
それと同じように、私の意識も少しずつ遠ざかっていく。
視界が暗くなる。

死というイメージが明確に認識できる。
暗闇はが死そのもののように感じられた私は、避けようのない無力感に囚われる。

(……ごめんなさい、おじいちゃんおばあちゃん、私もそっち、に、逝く、かもしれません)

怖くないと言えば、嘘になる。
死ぬのは怖い。まだ生きていたい。
だがそれと同じくらい───もうダメだと。
諦めに近い感情が大きくなっていた。

(ごめんなさい、ブラッキー。私の力不足で痛い目に合わせて)

瞳から涙が溢れる。
怖い。死ぬのは怖い。
悔しい。何も出来ないのが悔しい。
ごめんなさい、ブラッキー。
私がもっと周りを警戒していれば、こんなことにはならなかったのに。
私がもっと強ければこんなことにはならなかったのに。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめん、なさ、い───











カタカタ、と。
その時、私のポケットの中で何かが動く。

(ぁ……?)

そのモンスターボールは、熱を発していた。
素手ではとても握られないぐらい、熱く。
その温度に比例して、更にモンスターボールは揺れ動く。
───俺を使え、と。
───俺を出せ、と。
そのモンスターボールは、その意思を熱として伝えている。

「い、いの……?」

絞められた喉から微かに漏れたその言葉は、ブラッキーが聴き取った。
未だ主人の命を待ち、暴力に晒され続けているブラッキーが、唸り声にて反応する。
───諦めるな、と。
───私がここで耐え切ってみせるから、と。
本当にそう言っているのかはわからない。
でも、私にはそう言っているように感じたのだ。

(───ぁ)

その姿を見て、私は二度目の涙を零した。
ありがとう、と。
こんな私を信じてくれてありがとう、と。
だが、今の私にはもう命令をする体力は残っていない。
だから。
だから、最後の力を振り絞って一言だけ。
一言だけ、言葉を捻り出した。

「ブラッ……キー……!
…………『バト、ン……タッチ』」

その言葉を最後に、私の意識はそこで途絶えた。

◆ ◆ ◆

「Gaaaaaaaaaaaaaaaa───!!!!!」
「え、何これ私聞いてないわよッ!さっきまでブラッキーちゃんじゃったじゃない!
まさか……これがメガシンカ……?」

月光のポケモンが吸い込まれるようにモンスターボールへと帰還し───噴火のポケモン、バクフーンが降臨する。
あらぬ方向の勘違いを勘違いを炸裂させながら、男もといオカマ───カラテおうのキョウスイは驚愕する。
それも当たり前だ。
ユカリの『バトンタッチ』の命令は消え入るほどの小さな声でしか行われてなく───そして、その声を聴き取ったのは主の命令を待ち耐え続けたブラッキーにしか届いてなかったのだから。

「る、ルンパッパ!『ハイドロポンプ』!」

オカマの命を受け大量の水流を発射するルンパッパだが、バクフーンには当たらない。
すうっ、と。
ハイドロポンプは、バクフーンをすり抜けて言ったのだ。

「パッ!?」

驚愕するルンパッパ。
これが、バクフーンの能力の一つ。
背中から吹き出す高温により、陽炎を作り出すのだ。
そうして作られた陽炎に放った水流が、本体のバクフーンに当たるはずもなく。
そして、バクフーンの周りで陽炎が揺らめき始めたということは───バクフーンの、戦闘準備が整ったということである。

「モジャッ……!?」

モジャンボ、その子を離すんじゃないわよ、とキョウスイが命令を飛ばそうとした頃には遅かった。
『しめつける』の効果持続時間を終えた上に、『ふるいたてる』でこうげき、とくこう上昇を『バトンタッチ』で引き継いだバクフーンの怒りの炎を目の前にしたのだ。
効果は抜群の炎の前に、モジャンボは驚いてユカリを落としてしまったのだ。

「Baaaaaッ!」

そこからのバクフーンの行動は迅速だった。
まずは首回りから噴出される熱で最大限の威嚇。
怒れば怒るほど燃え上がるその炎は、メラメラと火力を増す。

「熱ーーーーーーーーーい!
熱い、熱、このままじゃ、私、逝ってきまーーーーすっ!

余程熱かったのか、それともただの奇行か。
キョウスイは熱を見てエビのように後方に跳ねていく。
その隙にバクフーンは即座に地面に落とされたユカリを背負い、その強靭な脚力を持ってして───逃げ出したのだ。

「あっ!逃げたわよ、追いなさいモジャンボ、ルンパッパ!」

ルンパッパとモジャンボが必死に走って追いかけるものの、バクフーンには追いつかない。
ようきなリズムと共に戦うルンパッパと茂みの中でじっと獲物を待つモジャンボではバクフーンに比べるとスピードが落ちてしまうのだ。
故に追いつける筈もなく───五分もしない内に、バクフーンを見失ってしまった。

「もうっ!逃しちゃったじゃないのよ!
もういい、戻りなさい!」

阿修羅のように怒り狂うオカマは二匹のポケモンをモンスターボールに戻す。
そしておもむろにポケモンコンバータを取り出し、セットする。

「ったくもう、あなた達は調整し直しよッ!
良い男にしてあげるから覚悟なさいな」

ボールの中でしょぼくれるルンパッパを他所に、オカマは調整を進めていく。
技構成、能力値などをカチカチと変更していくその姿は、とても慣れた手つきだった。
そして暫くポケモンコンバータと睨めっこした後、一言叫ぶ。

「あッ!あなたこんな技覚えられるのね……強いじゃない、嫌いじゃないわ」

───争いが去り、のどかな平原にオカマの奇声が響く。

【B-5(東)/平原/一日目/日中】

【カラテおうのキョウスイ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]対主催過激派
1:弱い子からはポケモンを奪う、強い子は一緒に行動する。
2:でも女には厳しい。

◆【ルンパッパ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♂です
※技、能力値を変更しています

◆【モジャンボ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♂です
※技、能力値を変更しています


ダダッ、ダダッとバクフーンは疾走する。
己が主人を背に乗せて、西へと逃亡する。
今回は、主人の力になった。
悔しさに涙を流す主人を見捨てておけなかったからだ。
でも、それだけではない。

「───」

主人の中から、バクフーンは見たのだ。
この細い身体に宿る、優しい気持ちが。
だからこそ、この主人を助けたいと思った。
だが。

『───…私がもうちょっと君をよく扱えるトレーナーだったら良かったのですが』

私はこの娘と共に戦う『戦友』となれるだろうか、と。
私はこの娘と共に戦う『仲間』となれるだろうか、と。
未だ目を覚まさぬ己が主人を抱え、バクフーンは再び疾走する。

【B-5(西)/平原/一日目/日中】
【ミニスカートのユカリ 生存確認】
[ステータス]:気絶、バクフーンに乗り移動
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:死ぬ気はないけど……
0:気絶中
1:とりあえず他の人を探す
2:キョウスイに恐怖

▽手持ちポケモン
◆【ブラッキー/Lv50】
とくせい:せいしんりょく
もちもの:メンタルハーブ
能力値:HP、特防振り
《もっているわざ》
まもる
ふるいたてる
バークアウト
バトンタッチ

◆【バクフーン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:シュカの実
能力値:???
《もっているわざ》
????

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最終更新:2014年11月19日 00:34