花村紅緒&ランサー ◆CKro7V0jEc



 時は大正、浪漫の時代──。

(少尉は死んでしまったんだわ……)

 溢れる浪漫と共に、闘争と権力と、まだ誰も知らない災害の萌芽が芽生え始めていた激動の時代──。

(シベリアで、部下を庇って……)

 東京。男勝りで、「はいからさん」と呼ばれた一人の少女は──。

(少尉にもう一度会いたい、そのためなら私は……)

 婚約者の死に、誰よりも純真な願いを抱いた──。


 ……そう、花村紅緒は悲劇の物語のヒロインである。
 今も、まるでジュリエットのように、両手を重ねて目には涙を浮かべている。
 シベリア出兵で部下の為に体を張って、寒い大地でひとり朽ちて死んでしまった愛しい人に想いを馳せて。
 その人の命がもう一度この世界に蘇るならばどんな事だってすると、紅緒はその時心に誓った。
 だから、天国のあの人に、せめて夢に出てくれるように。
 そして、できるのならその夢の中に自分も連れていってくれるように……。

 これで三日ほど、大喰らいでつくねが大好きな彼女もほとんど食事を取らず、翌日まで眠れない夜を過ごしている。

 ……今は、思いっきり昼間だが。

 どこかの公園の湖の辺で、そんな風にしてアヒルの行進を見ている紅緒であった。
 ぼけーっと、アヒルの数を数えながら、もう殆ど呆けて生気も失っている。
 着付け、髪型、化粧、何もかもが微妙。しかし、万が一、何かの間違いで伊集院少尉が目の前に現れてもいいのに、本人なりの努力をした結果だった。
 幽霊でもいい。それならば、一緒に連れていってくれたっていいのに……。

 聞こえてくる民衆の声。どこかの金持ちの婦人たち。
 ああ、どうせこの私の悲しみも知らずに、どうでもいい話に花を咲かせているのだろうな……。



「ねえ、紅い満月の話って知っていらっしゃる?」

「願いが叶えてくれるんですって?」

「そうですわ。滅多に見る事ができないという話ですけど……」

「一度でいいから、そんな綺麗な物、見てみたいですわね」



 花村紅緒は、大好物のつくねでも見かけたように目を見開き、落ち込んでいたシリアス顔を思いっきり崩して、歯をとがらせて婦人たちに訊いた。

「そのハナシ、詳しくお聞かせ願いたい!!」

 この時代、誰よりも強い願いを持ったハイカラさんが、翌の夜に紅い満月を見る事になるというのは必然だったかもしれない。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆





 ────花村紅緒が紅い満月を見てから暫く。


 彼女の経っている場所は、大正の町並みから、いつの間にか、異常な発展を遂げた東京の姿に変わっていた。
 まるで、江戸川端散歩先生の少年小説の世界である。
 木製でも煉瓦作りでもない材質で作られた背の高い建物を見上げ、次に一面に敷き詰められた灰色の固い石を見下げる。
 金持ちの家を渡り歩いてきた彼女ですら、それが町中ともなると見た事がない。

 夜中、真っ暗なはずの道には街灯。どんな家にも必ず電気がある。
 紅緒が軽く叩いても割れない頑丈な窓ガラス。
 なんと、この地面の下を走っているという地下鉄なる電車とトンネル。

 ここがどうやって出来ているのか、彼女は現代の最低限の知識を使って知っていたし、この場所での自分の役割も悟っていた。
 しかし、それでもやはりはしゃがずにはいられない。
 あの東洋の小国に過ぎないはずの故国が、100年後には驚くべき科学都市に!
 それこそ、自分が知っている全ての人を連れてきたいほどの衝撃であった。

「ねえ、ランサー。見て見て! あの巨大な建物! 有名なビルティングなのかしら!」

 彼女が召喚したサーヴァント、ランサーも紅緒の奔放ぶりに驚きを隠せない様子である。
 早速だが、ランサーの額には脂汗が浮かんでいる。

 流石は激動の時代に「はいからさん」と呼ばれたマスターである。
 女の身でありながら、その元気は尽きる事がまるでない。
 ましてや、大正時代なんていう大昔の人間がこんなにも元気な人間だったとは……

 ランサーこと、宇宙の騎士テッカマン──南城二も思ってもみなかっただろう。

(……ただのビルだろ)

 彼のいる未来の地球はとうに、生物が長く住めないほど汚染され、人類は宇宙へとその住処を映そうとしていた。
 このビル群も、ランサーが生きる時代には既に色褪せ、苔が蒸し、くたびれたように傾いている頃である。
 だから、ある意味では珍しかったが、紅緒が指差すビルが特別有名な物ではない事も知っていたし、内心では嘆息している。
 ビルさえない時代の紅緒と、ビルが滅んだ時代のランサー……。

 そうだ、数年後、地球は滅んでしまう……。
 人類の故郷を救う最後の一手、「クリーン・アース計画」も失敗に終わってしまった。
 宇宙進出を目指した人類には、強敵・悪党星団ワルダスターが立ちふさがった。
 彼らの蛮行が、常に地球人の発展を妨害する。彼らは、地球を得る為に地球人を皆殺しにしようとしているのだ。

 そんな背景があってか、彼にとっても、このビルの群れは物珍しいし、感慨深い物でもあるが、ここまではしゃぐ事ではないだろうと思っている。

「あのビルをゴジラがブッ壊して、モスラが子供産んで、ラドンと戦って、キングギドラが……」

「ああ、全く! もっと静かにできないのか! 気が散る!」

 そんな英霊の頭を悩ませる、このハイカラ少女。……この女、果たして女か?
 こんな人間の願いが、「婚約者の命を甦らせる」なのだから、ランサーも不可解でならない。
 今のところ、ランサーも全く、この女を「女」として見ようと思えないのである。
 婚約者とやらは、果たして現実の存在か? 最初からこの世に存在しないのではないか? もしいたとして、それはおそらく悪趣味な異星人に違いない。

「なーんだ、みんな大好きカッツェ様じゃなくてガッチャマンのくせに。失礼な事考えてる」

「ガッチャマンじゃない、俺はテッカマンだ!」

 怒りそうになるランサーであった。
 何故、大正時代の人間がガッチャマンを知っているのかは全く謎である。
 とにかく、何度も訂正しつつ、「鉄火巻き」だとかまた間違いが起きて、この少女との会話が徒労になる理由を増やしていた。

「あのですね。少尉は、異星人なんかじゃありません! もっともーっと、ステキな人なんだから……」

 ランサーの考えをここまで読んでいるのもまた謎だ。もしかすれば、ランサーの方が独り言のようにぶつぶつ呟いていたのかもしれない。
 紅緒が幸せに浸る姿を眺めていたが、すぐに彼女の表情は暗い面持ちに変わった。
 のろけ話をしようにも、相手はもう死んでしまっているというのだ。彼女自身、それを忘れかけていたのだろう。
 涙が出るより前に、話題を逸らそうとしたのか、紅緒はランサーに訊いた。

「……ねえ、ランサーさん、あなたってどうして、そんなに何でも異星人だって疑ってかかるの?」

 先ほどから、紅緒の事も「異星人」扱いしており、今度は伊集院だ。
 ランサーが「南城二」という名前である事や、更に未来の人間である事、テッカマンなる存在で悪党星団ワルダスターなる悪そうな名前の悪役と戦っているスーパーヒーローである事は訊かされている。
 異星人が実在していた事は驚くべきビッグニュースだ。これまた、紅緒が元の世界に持ち帰りたい話である。

 しかし、だからといって疑いすぎではないだろうか。
 もはや、異星人に対する憎しみさえ感じる次元の話であった。

「……」

 そこまで訊かれて、ランサーの方も、理由を答える事にした。
 隠し立てする必要はない。ランサーの願いに関わる話だが、紅緒がこれまで婚約者の話を聞かせてくれたのだから、サーヴァントの方も語っておくに越した事はない。

「……俺は、悪党星団ワルダスターに父を殺されたんだ」

「えっ?」

「だが、勘違いはしないでほしい。俺も、もう別に異星人だからって全てを疑うつもりはないし、地球人を異星人扱いするつもりもないんだ。
 俺があまり異星人を疑ってしまったせいで殺してしまった心優しい異星人たちもいる……それで気づいたんだ……」

 友好的な異星人の集団を憎しみから撃墜し、その生き残りに憎まれ、銃を向けられた痛み。
 それをランサーは忘れない。
 テッカマンは、決して今まで、正しい事だけをしてきたわけではなかった……。

 父を殺された憎しみは、全ての異星人の方へと向いた。
 地球人を思いやるサンノー星人、あのアンドロー梅田にも、何度ランサーは怒りを向けた事かわからない。
 だが、戦っていくうちに気づいたのだ。
 地球人が優れているわけではないし、異星人が悪なのでもない。異星人たちを侵略していくワルダスターこそが悪なのだ。
 テッカマンがすべきは、異星人全てを殺し尽くす事ではなく、ワルダスターを滅ぼし、異星人たちを含めた宇宙を救いだす事だ。

「俺が本当に憎むべきはワルダスターだった……! だが、俺はまだ、本心から異星人を完全に信用しきれていないのかもしれない。
 俺はこの手で罪もない異星人たちの命を奪っておきながら、俺の父を殺したワルダスターを今も憎み続け、それを異星人という枠に当てはめて考えているんだ……!!
 俺が本当に異星人たちと手を取り合って生きていくには、ワルダスターを滅ぼさなきゃならないんだ!!」

「……」

「ワルダスターの存在がなければ、まだ生きていられた命がいくつもある……!
 ワルダスターさえなければ、ワルダスターさえこの世にいなければ……」

 悪党星団ワルダスターによる被害は甚大だという。
 地球が滅びたのは自業自得による物だから、まだ収まりがつく。
 しかし、ワルダスターによって奪われていく命は、ただ理不尽であり続ける。
 それは、テッカマンが誤って奪ったあの宇宙船の人々の命のように……。

 紅緒は、白目を剥いてショックを受けていた。
 白目というよりは、長い睫に囲われている中に、目が全く描きこまれていないような表情だった。

 それからすぐに、元の紅緒のシリアスな潤んだ瞳になった。

「ランサー、あなたって、可哀想な人……」

「……そう思うかい?」

「ええ……。とっても……。それだけ未来の人でも、悲しみって消えないのね……」

 ふと、そう言う紅緒の姿に、ランサーは確かに「女」を感じた。
 まるで、一人の可憐で優しい乙女のように見えた。
 これこそが、紅緒に幾人かの男が惹かれていく理由だったのかもしれない。

(……しかし、俺はまた、あの時のような罪を犯そうとしている。宇宙をワルダスターから救いだす為に、俺は……)

 聖杯を得るには、勿論、他のサーヴァントたちを殺していかなければならない。
 しかし、それはワルダスターの侵略に比べれば微々たる物でもある。
 聖杯が願いを叶える器だというのなら、ワルダスターをこの世から消し去ってみせよう。

「そう考えると、私の願い、本当にこれでいいのかって……。考えてみれば、ごくごく、個人的な悩みだし……」

「いいんだよ。俺はあんたのささやかな願いを叶えてやりたい。俺はあんたのサーヴァントだからね。
 ……それに、この男のような女の子に、婚約者なんて、もう二度とできないと思ってね。そう思うと一生嫁の貰い手がなくて可哀想だ」

「な、何をーっ!! 折角シリアスな話をしていたところなのにーっ!!」

 ぺちっ、と平手打ちをしようとするのを、ランサーは上手くかわした。
 これを避けられる人間は、軍人たれども数少ない。

「ははははははははは」

 からかうようにランサーは笑う。
 空元気のような冗談だが、それを少しでも心安らぐものとするのは、他ならぬマスター、紅緒であった。
 彼女は周囲を明るくさせる達人である。
 自由奔放で、時代を輝かせた麗しい人。



 21世紀の東京にも、はいからさんが通る────。




【クラス】
ランサー

【真名】
南城二@宇宙の騎士テッカマン

【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運D

【属性】
混沌・中立

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【保有スキル】
騎乗:B
 乗り物を乗りこなす能力。
 魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなす。
守護騎士:B
 他者を守る時、一時的に防御力を上昇させる。
 但し、異星人が対象の場合、このスキルはDランクまで落ちる。
戦闘続行:C
 名称通り戦闘を続行する為の能力。
 決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

【宝具】
『宇宙の騎士(テッカマン)』
ランク:A+ 種別:対人 レンジ:- 最大補足:-
 宇宙開発用の身体強化システム「テックシステム」によって、ランサーが変身する超人。
 テックサンサーと呼ばれる武器を所持し、ボルテッカと呼ばれるエネルギー砲を放つ。
 変身できる時間は僅か37分33秒だが、多彩な武器と強化されたパワーで並のサーヴァントは圧倒可能。
 使用の際にパラメーターが筋力A、耐久B、敏捷B、魔力D、幸運Dに底上げされる。

『宇宙の騎馬(ペガス)』
ランク:B 種別:対人 レンジ:- 最大補足:-
 ランサーの相棒となるロボット。人工知能を持ち、言葉も話すことができる。
 テックシステムが内蔵されており、ランサーは『宇宙の騎馬(ペガス)』の内部で『宇宙の騎士(テッカマン)』へと変身する事になる。
 誰でもテックシステムを利用する事ができるが、適合しなかった場合は、内部の人間は黒焦げになって死亡してしまう。

【weapon】
 ビームガン

【人物背景】
 悪党星団ワルダスターと戦う「スペーツナイツ」に所属する青年。
 常人ならば適合できずに死亡する「テックシステム」に適合し、テッカマンへと変身する事ができる。
 しかし、父親をワルダスターに殺害された憎しみが異星人全てに向いており、仲間であるサンノー星人のアンドロー梅田などにも辛く当たる事が多かった。
 その最たるものは、地球外の宇宙船というだけで、友好的な船を撃墜し、両親や仲間を殺された異星人マリアンに命を狙われた事だろう。
 当初から性格の悪さや単純すぎる性格、異星人への理不尽なまでの風当りなど、到底ヒーローとは思えない行動ばかりが目立ったが、アンドローとの出会いで宇宙人を認め始め、強い友情を結びながら異星人たちと共にワルダスターと戦う決意を固めた。
 打ち切りにより、作品は物凄く中途半端なところで終わったため、現時点までワルダスターとの決着はついていない。
 本来ならば、ワルダスターによって悪のテッカマンへと改造された父親と戦う予定もあったとか…。

【サーヴァントとしての願い】
 悪党星団ワルダスターの存在を消滅させる。

【方針】
 どんな犠牲を払っても聖杯を手に入れる。



【マスター】
花村紅緒@はいからさんが通る

【マスターとしての願い】
 伊集院少尉を甦らせる。

【weapon】
 木刀

【能力・技能】
 男顔負けの身体能力を持ち、特に剣道が得意。
 また、その自由奔放な性格で、女囚や警官、軍人すらも振り回す事ができる。

【人物背景】
 陸軍少佐の一人娘で、跳ねっ返りのじゃじゃ娘。学校の成績は英語以外極めて悪く、酒乱でつくねが好き。
 男顔負けの剣道の達人であり、下手をすれば軍人にも勝ってしまうほど。そのため、作中キャラには女として見てもらえない事がほとんど。
 女学生時代に陸軍少尉・伊集院忍と許嫁となる事を命じられ、当初は強く反発するも、だんだんと惹かれあっていく。
 しかし、婚約まで決まった時、伊集院少尉は上官の嫌がらせでシベリアに出兵する事になり、二人は引き裂かれる。
 やがて、伊集院少尉の死を聞かされた紅緒は、失意の内に自殺未遂さえ図るのであった。

 …という説明を聞くと、悲劇のヒロインだが、実際にはかなりギャグタッチの漫画で、どちらかというと現代でも楽しく見られる話である。
 また、実際は伊集院少尉の生死を巡ってはこの後もドラマがあり、現段階ではちょっとした勘違いをしている状態。
 何故か、多くの男性にモテモテでもあるが、容姿は際立って美しいほどでもないらしい。
 これまたどういうわけか、大正時代当時になかったサブカルチャーや技術にも詳しい時がある(ガッチャマン、ヤマトなど)。

【方針】
 聖杯を手に入れる。

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最終更新:2014年12月29日 14:22