平山周吉&ランサー ◆CKro7V0jEc




平山周吉(東京物語)……明治生まれの老人。ランサーのマスター。

神崎すみれ(サクラ大戦)……同じく明治生まれだが、少女。太正時代に活躍した帝国歌劇団のトップスタァ。ランサーのサーヴァント。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 東京の街が映る。
 夜中にも関わらず、空から見ればネオンの光に包まれている。
 近づいてみると、まだ車のクラクションの音やバイクの排気音が聞こえる。
 特に、渋谷や池袋は騒がしい。そこら中が落ち着きを喪っている。
 それは、周吉やすみれが生きた時代よりも激しく進化した平成の街の姿であった。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 東京のとあるアパートの一室。畳みに布団が敷かれており、蚊取り線香が火をともしている。
 布団は一人分であり、部屋の大きさには不相応である。もう一人寝られるスペースが開いてあるが、そこにはちゃぶ台がどけられている。

 平山周吉は、布団に入りながらも、半身を起こして自分のサーヴァント・ランサーの方を向いている。
 ランサーは、布団の右横で姿勢よく正座している。きちんと着物を着ている。

 周吉は、のんびりと、自分のサーヴァントの若い女性と世間話を楽しんでいた。
 サーヴァントの方からすれば、こんな老人が何故自分のマスターなのか理解できないだろう。
 およそ戦闘とは無縁で、むしろ落ち着いた静かな老人である。普段から、にこにことした表情で、生来のやさしさがにじみ出ていた。

 彼が何故聖杯戦争に巻き込まれたのかといえば、それは単に、ほとんど事故のように赤い月を見てしまったからだ。
 妻・とみを亡くし、義理の娘・京子と少し会話をして、それから団扇を仰ぎながら、軒先で何の気なしに空を見上げていた。
 葬儀の時の慌ただしさは嘘のように静かになった我が家で、奇妙な落ち着きを感じながらぼーっとしていた。

 心が空虚になったわけでも何でもなく、身近な人が死んだ日常や、変わっていく子供たちを、「こんなものだ」と受け入れていた。
 老いるまでの人生に喪った物は少なくない。祖父、祖母、父、母、息子も……。そして、今度は妻。
 それでも、やはり寂しい心もあって、満点の星空を見上げようとした。
 尾道の夏の夜はまだ虫が鳴いていて、空が明るかった。そこに唐突に現れたのが赤い満月だったのだ。



周吉……「聖杯戦争かぁ……」

ランサー……「お嫌いですか?」

周吉……「戦争はもうこりごりでなぁ。広島にでっかい原爆が落ちてなぁ、それで、日本もぱぁっと、目が覚めたんだ」



 無理のない事だと思うた。
 ランサーこと神崎すみれが生きた時代からすれば、第二次世界大戦も未来の事であろう。
 平山周吉は、広島県尾道市に居を構える明治生まれの老人だ。今日の今日まで、これといって他人と変わった人生を送った事はない。
 しかし、この時代の人間のほとんどがもう忘れかけている「戦争」をいくつも経験した世代である。それは、神崎すみれも同様である。
 一度は戦争の始まりを喜んだかもしれないが、今はもう、戦争、と聞くだけで眩暈だってするだろう。




周吉……「この東京もな、大戦で焼野原になった」


 蚊取り線香が煙を伸ばしている。
 ランサーの鼻に少しかかった。


周吉……「それが、いつの間にか、また少し騒がしくなった。良い事だよ」

ランサー……「そういうものではないですか? この帝都の美しさは、何度でも蘇ります。散っては咲く桜のように……」

周吉……「ああ、そんなもんだよ」



 周吉は非常に落ち着いた口ぶりで言った。
 悲しい話をしているようでありながら、やはり表情はにこにことした表情のまま変わらなかった。
 ランサーは、蚊取り線香の煙が気になって、少し奥に手でどけた。



周吉……「でも、やっぱり戦争はしたくないなぁ。昔の戦争でな、息子が死んで、あんなに良い嫁さんを未亡人にしてなぁ」

ランサー……「……」(言葉を発しない)

周吉……「あんたもな、ええ人だ。誰かのお嫁さんになると良い。でも、戦争で死んじまうかもしれない軍人さんはいかんよ」



 神崎すみれの想い人は、まさしくその軍人であった。
 いや、もっと言えば、すみれ自身も軍人に近い。「帝国華撃団」という特殊部隊の一員として働いていたのである。
 すみれ自身、何度とない窮地を超えて今を生きている。
 ゆえに、すみれが同じ職場で出会った人間を好きになるのもまた仕方のない事であったかもしれない。
 大神一郎。──海軍中尉にして、帝国華撃団の隊長である。



ランサー……「ねぇ、平山周吉さん」

周吉……「何だね」

ランサー……「聖杯は、どんな願いでも叶えてくれるそうです」



 周吉は、それを聞いても特に目の色を変える事はなかった。
 そんな物があるのか、と思う事もない。自分が知らないだけで、世の中には色んな物が溢れ、いつの間にか色んな物が出てくる。



ランサー……「もしかすれば、あなたの妻も、あなたの息子も……生き返るのではないですか?」

周吉……「いやぁ……」

ランサー……「……」(言葉を発しない)

周吉……「どんなもんだか……」




 周吉は、蚊取り線香の煙がまたランサーの方に向いたのを気にして、団扇で壁に向けて仰いだ。



ランサー……「マスターとともに聖杯を手に入れるのがサーヴァントの務めです」

周吉……「……そんな事、せんでもええよ」

ランサー……「どうしてです」

周吉……「生き返った人間だって、どうせまた、死ぬよ。それで、だんだん死んだ人の事も忘れてしまう。そういうものだよ」

ランサー……「……それは、そうでしょうけど。一時の幸せの為に何かをしようとは思わないのですか」



 若いランサーには不思議な事だが、老いた周吉には特別気になる事ではなかった。
 生きている人間は、身近な人間が死んだばかりの時には悲しくて仕方がなくなる。
 しかし、やがてその人間の事を時折思い出さなくなって、普通に毎日を過ごしてしまう。
 だが、それは悪い事ではない。
 周吉も、もう妻が亡くなっても、寂しさが湧いても、大泣きする事がなくなった。



周吉……「ああー」

ランサー……「……」



 周吉は、団扇を体の左側に置いた。



周吉……「……思った事がないと言うたら嘘になる。でも、ええんよ」

ランサー……「どうしてですか」



 ランサーが聴くが、周吉はしばらくにこにことした表情をする。
 ランサーの顔、十二秒。
 周吉の顔、十二秒。



周吉……「人間っていうのは、そんなもんだよ。電気、消してくれんかな」

ランサー……「電気、消していいんですか」

周吉……「ああ、ええよ。早う消してくれんかね」

ランサー……「おやすみなさい」

周吉……「ああ、おやすみ」



 画面が暗転する。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ランサー、アパートのドアを閉めて外に出る。
 ランサーは、紫色の長い着物を着ていた(いつものように肩を露出させて着ていたら、周吉に怒られたので、こうして外ではだけたのである)。
 一息つくように、溜息をついて、外の景色を見る。
 そこは、かつて彼女がいた帝都とは全く異なる場所だった。



ランサー……「……」



 ランサーは、今日までの芝居を思い出す。
 人が死ねば深く悲しみ、嘆き、まるでそれを周囲にアピールするかのように大きな声で叩きつけるように話す。
 しかし、周吉のように、妻を喪ったばかりの老人は非常に落ち着いていた。
 悲しんでいないわけでも嘆いていないわけでもないが、それを封じ込め、忘れていくだけの強さと冷淡さが人間にはある。
 冷淡でありながら、どこか落ち着く、優しい感情。それをランサーは己の中に感じていた。
 トップスタァ、神崎すみれが好む派手で華美な物とは正反対であるが、それでもれっきとした一つの演技の形式。



ランサー……「ふぅ」



 だが、あの老人は戦わなければ元の場所に帰る事ができない。それは、ランサーも同じである。
 敵が悪人ならば、勿論、ランサーは切りつける事ができるが、そうでなければ精神的に難しい。
 クラクションの音がランサーの耳に入る。



ランサー……「うるさい」



 小さく呟いた。





◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 周吉は、目を開けて天井を見ていた。
 とみの姿が電気に浮かぶ。
 一人の夜になると、やはりとみの姿が浮かんでしまう。



周吉……「聖杯かぁ」



 とみを生き返らせたいという思いは、明日の朝には消えてしまうだろう。
 左隣を見る。そこに、とみは寝ていない。
 もし、生きていたなら、もっといくらでも優しくしてやる事ができたのだなぁ、と感じる。
 しかし、聖杯を使って甦らせても、おそらく、とみへの態度は変わらないだろう。
 人間とはそういうものである。


周吉……「ええ人だよ、蘭さん(ランサー)は本当に」



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 東京の街が映る。
 夜中にも関わらず、空から見ればネオンの光が点々としている。
 近づいてみると、まだ車のクラクションの音やバイクの排気音が微かに聞こえる。
 特に、渋谷や池袋は騒がしい。そこら中が落ち着きを喪っている。
 それは、周吉やすみれが生きた時代よりも激しく進化した平成の街の姿であった。





【クラス】
ランサー

【真名】
神崎すみれ@サクラ大戦シリーズ

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力C 幸運B 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の魔術は無効化する。大魔術や儀式呪法などを防ぐことはできない。

【保有スキル】
歌劇:B
 帝国歌劇団のトップスタァとしての歌唱力と演技力。
 娯楽好きな人間の心を震わし、感動を与えるレベル。
神崎風塵流:A
 神崎家のなぎなたの戦術。自分の周囲の相手に有効な手。
 すみれは免許皆伝レベルの腕前を誇る。
財閥の娘:C
 高い財力を持つ財閥の娘である為、金銭が自動的に舞い込んでくる体質である。
 しかし、一方で金遣いも荒く、趣味の買い物で結構派手に金を使ってしまう金銭感覚も併せ持っており、スキルの弱体化が始まると危険性が高まる。

【宝具】
『霊子甲冑』
ランク:A~D 種別:対人、対獣、対機 レンジ:1~5 最大補足:1
 所有者の霊力を引きだすシルスウス鋼製の甲冑。現代ではパワードスーツ、あるいは巨大ロボットの中間にあたる(サイズは3米ほど)。
 すみれ機は紫色。なぎなたを装備している。
 光武、光武改、神武、天武など、あらゆる機体を繰った伝説が残っているが、いずれの霊子甲冑が宝具として召喚されるのかは不明。
 この宝具によってランサーのパラメーターは一時的に底上げされる。

『世界の中心』
ランク:C 種別:対人 レンジ:1~5 最大補足:1
 コペルニクスもガリレオも、彼女の前では天動説(意味不明)。
 この世界は彼女を中心に回っている。

【Wepon】
 なぎなた(折り畳み)

【人物背景】
 太正十二年から太正十六年にかけて帝都の銀座帝国劇場・帝国歌劇団のトップスタァとして活躍した少女。明治四十年一月八日生。
 日本有数の財閥である神崎財閥の一人娘であるが、家出した後に上京し、帝国歌劇団に所属したとされる。母が銀幕スタアである冴木ひな(神崎雛子)であった事から、特に引き留められた様子はない模様。
 高い演技力と歌唱力から主役を多数張るものの、後に引退する。長刀の達人で、神崎風塵流の免許皆伝レベルであったと言われる。
 当時の記録では、学力は学院トップ。日本舞踊、華道、茶道、洋風ダンス、どれも皆伝の腕を持っていたとされる。
(公的な記録で残っているのはここまで)

 実は大帝国劇場が普通の劇場であったのは表向きの話。
 大帝国劇場は、秘密防衛組織『帝国華撃団』の拠点であり、舞台で踊る帝国歌劇団のスタアは全員、霊力を有している「花組」の戦士なのである。
 神崎すみれは、その一員として、活躍。霊子甲冑を動かして降魔らと戦ったが、「4」以降は霊力の低下が原因で引退。ちなみに、蜘蛛が苦手である。

【願い】
 不明。





【マスター】
平山周吉@東京物語

【マスターとしての願い】
 なし。

【能力・技能】
 なし。

【人物背景】
 小津安二郎監督の世間一般的な代表作であり、世界的にも評価が高い「東京物語」の主人公の老人。
 広島県尾道市に住んでおり、妻のとみと一緒に東京の息子夫婦のところに行くが、騒がしい東京で居場所をなくす。
 しかし、特に悲観的になる事もなく落ち着いており、息子や町が変わっていく姿を目にしながらも、にこにことした表情を崩す事はない。
 作中、妻のとみを亡くし、尾道で葬儀を行う事になる。息子の妻であった京子と会話し、彼女に自分の人生経験から些細な助言をして物語は終わる。
 とりあえず、参戦するかは置いといて、「東京物語」は日本人として見ておかなければならない名作映画の一本であるのは間違いない。

【方針】
 不明。

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最終更新:2015年01月25日 07:12