関係あるとみられるもの

博麗霊夢(主人公)、龍神(東方求聞史紀)

住所

白竜湖 山形県南陽市赤湯地内 JR奥羽本線「赤湯駅」下車 徒歩50分

白竜湖

※田園風景の中にぽっかりと口をあける白竜湖

山形県南陽市の水田地帯にぽっかりと口をあける、全周3.5km程度の湖。南北およそ24kmの菱形をなす置賜盆地(おいたまぼんち)の北東部に位置し、かつては置賜盆地一帯に広がる巨大な湖だったのではないかとも考えられているが、現在までに湖面の減少が進み、その面影は少ない。また、全方位を田園やブドウ園に囲まれているため、その景観は限りなく農業用のため池に近い。

白竜湖の湖岸一帯は、吉野川から運ばれてきた泥炭が堆積した湿地帯である。大谷地とも呼ばれ、その広さはおよそ1000ヘクタールにも及ぶ。こうした地勢ゆえに、かつて白竜湖の周辺には80科251種の湿地植物からなる独特な植物群落が形成されていた。しかしながら、20世紀の間に施工された水田区画整備事業や昭和44年(西暦1969年)の農業水利改良事業(白竜湖底の土砂の除去)によって、土地と湖水の性質は大きく変わり、かつての原生的な自然植生はほとんど消滅した。現代では、アシ、マコモ、イヌビエなどあまりありがたみの無い感じの植物が湿地植物にとって代わっており、よりいっそう白竜湖のため池感を増大させている。

※『東方風神録』で河城にとりさんが手に持ってたアレ

龍神伝説

白竜湖には、その名の由来について次のような龍神伝説が残されている。

むかしむかし、置賜平野の村々に何日も日照りが続いたことがあった。MURABITO達が火を焚いて雨ごいの儀式を行ったが、一てきの雨すら降らなかった。
困り果てた庄屋(しょうや)さんが巫女(みこ)の所へ出かけていき、神おろしで水神(すいじん)さまを呼び、雨を降らせるようお願いしてほしいと依頼した。
そこで巫女は湖へおもむき、水神さまのほこらの前でお祈りをした。すると、巫女の体に水神さまと思わしき龍が降りてきて、言った。

「湖に住む龍だけど、そろそろ嫁が欲しい。三日以内に村から嫁をくれれば雨を降らすよ!」

雨が降らなければ全滅してしまうMURABITO達は、仕方なく龍の要求を飲むことにした。庄屋さんの屋敷へと集まり、どの娘を嫁に出すのかを話しあった。
ところが自分の娘を嫁に出そうという者は一人も現れず、いつまでたっても話はまとまらなかった。

話が行き詰まったかに見えたその時、庄屋さんの娘が動いた。おもむろに一同の前に進み出ると、「村のためなら、私が龍神の嫁になりましょう」と申し出た。
これにはMURABITO達も庄屋さんも仰天したが、他に何の手だても無かった。こうして、庄屋さんの娘が龍神に嫁ぐことになった。

いよいよ嫁入りの日。あまりに急な話で嫁入道具もそろわない中、庄屋さんは嫁ぎゆく娘に純白の着物を着せ、娘が大切にしてきた琴(こと)を持たせてやった。
庄屋さんとMURABITOたちは、娘を湖の岸まで見送った。そして、娘が湖の中へと消えたのを見届けると、村へと引き返して来た。みな一様に泣いていた。
するとその時、空に雷鳴(らいめい)がとどろき、ザワザワと風が吹き、湖から水柱が立ちのぼり、二匹の竜が姿を現したかと思うと、一気に天へと駆け登った。
この二匹の龍のうちの一匹は純白で、着物を着た娘そのもののごとき美しさであった。二匹の竜が登った天からは、まもなく大つぶの雨が降りだし、村を救った。
これ以降、湖は白竜湖と呼ばれるようになった。そして霧雨(きりさめ)の降る日には、湖の底から美しい琴の音がきこえてくると伝えられている。

なお、上述のような身を挺して村を救った娘という話とは真逆に、嫌がる娘を無理やり湖に沈めたと伝えるバージョンの話も存在する(『巫女の習俗Ⅵ』)。
こちらのバージョンでは白竜湖の龍神は嫁が欲しがっているわけではなく、粗相を働いたMURABITOへの天罰として雨を降らせなかったことになっている。
つまり龍神の怒りを沈めるために、娘が生贄にされるのである。併せて、湖の底から聞こえてくるのも琴の音色ではなく、娘の怨嗟の泣声だとされる。恐ろしい。
なお、これらの話を民俗学的な見地に照すならば、いずれも人身御供(ひとみごくう)と呼ばれる儀式に関する伝説の一つに分類されるだろう。

ただ人身御供の伝説が残されている=その地方に人身御供の風習があったと論ずるのは、時期尚早である。色々と。くれぐれも、そこは誤解なきようお願いしたい。
そもそもだね、人身御供の風習自体がすでに伝説めいたものなのである。オカルト方面やゴシップ方面では、時折文化史みたいなノリで書かれることがあるけれど。
人骨が見つかったとか、確定的な文献や資料が見つかったというのでなければ、伝説はあくまで伝説でしかない。あらぬ偏見の種をまいてはいけない(戒め)。

雨を降らせる龍と、龍の声を聞く巫女

かつて大谷地であった置賜平野では、はるかな昔より白竜湖には白龍が住み、雨を降らせると信じられてきた。その白龍は、時おり湖から空中へと立ちのぼり、山の方へと飛んでゆく。するとしばらくして夕立が来ると言われ、白竜湖周辺の農家の方々は、この雨のことを「白龍の恵みの雨」とも呼んでいたという。また、安倍馬之助という御方が、湖を縮小して開田しようとしたところ龍神の怒りにふれて、間もなく死んでしまったなど、祟り神としての逸話も残されている(『巫女の習俗Ⅵ』)。

龍神を水神として信仰する風習は、日本各地に存在する。『古事記』や『日本書紀』に登場し、水を司る神とされる淤加美神(おかみのかみ)は、龗神とも表記され、龗とは龍の古語である(てwiki様が言ってた)。よって水辺に「恵みの雨をもたらす程度の能力」を持つ龍神が棲むと考え、湖岸や川岸で灌漑や慈雨を乞うというのは、恐らく日本人に原始宗教がめばえたころからやってる風習の一つなんじゃないかと編集者は思う。一方で龍の姿形については九頭の龍だったり黒い龍だったりと伝承によってまちまちであり、本記事の伝説において純白の龍の姿だと伝えられているのも、その一だと考えられる(龍の姿は水を生み出す渓谷や、あるいは湖や河川の様相からインスパイアを受けるため、信仰の存在している土地の地形に似た姿で想像されるとする説もある…らしい)。ゆえに白竜湖周辺は、こうした古来の龍神信仰が生き延びた土地の一つであると言えよう。ひょっとしたら、湖から立ちのぼる白い霞や水蒸気が、雨の予兆として知られ、白龍に見立てられたのかも知れない。

東方projectにおいては、書籍『東方求聞史紀』の中で幻想郷の最高神として龍神の存在が挙げられており、人間・妖怪ともに生きとし生けるもの全てが崇拝しているという。山を崩し地震を起こすなど、物理的な破壊と創生に係るすさまじい力を持つとされているが、博麗大結界が形成された時に姿を現して豪雨を振らせたという逸話や、人里に「天気を予報する程度の能力」を持つ龍神像が設置されているという説明から、天候を司る一面について特に強調されていると考えられる。また、幻想郷に住まう妖怪バスターの博麗霊夢さんは、本業である妖怪バスターのお仕事の傍ら、副業として神々を身に降ろし、その声を聞き、時には能力を借りるなど、巫女っぽいこともやってのけている(本業と副業が逆だった気もする)。そんな幻想郷は、日本古来の姿を保持し続ける地であり、外の世界で忘れられたものや存在を疑われたものが、その背理によって存在し続けている地である。ゆえに龍神を崇め、巫女が神の声を聞くという行為は、かつて我が国の本質であったものの一つであり、文明化とともに忘れ去られたものの一つとされていると考えられよう。龍神と巫女の伝説を今に伝える置賜地方は、幻想郷のモチーフたりうる日本の原風景を残す土地の一つと言えるかもしれない。

※美しき里山の風景が広がる
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最終更新:2016年12月23日 21:21