夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

ウェカピポ&ランサー

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匿名ユーザー

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 ―― Now! Wake Up People! Yo! ――




 秘めた巨大な力(パワー)がこの灰色の街の至るところで蠕動している気配を肌で感じながら。
 そびえ立った塔(タワー)の一室で、男は生まれて初めてのこの高度からの景色を淡々と見下ろしていた。

 アスファルトに網目状にヒビが入ったような髪型の男である。

「これが『21世紀』……いい時代がやってくると言ったが、『20世紀少年』もその先は想像出来なかったようだな」

 デラウェア河に沈めたかつての相棒のことを僅かに思い出しながら、その男――ウェカピポは独りごちた。

 ウェカピポは19世紀末のネアポリス王国を追われ、アメリカ合衆国で国家の敵となり死んだはずの男である。
 この街で目覚め、自分が百年以上も未来の太平洋の向こう側にいるのだと知った時は少なからず動転したものだが、
 今のウェカピポの精神状態は王族の護衛に臨む時のような緊張感を伴う平静として保たれていた。

 冬木ハイアットホテルの一室に仮の拠点を構えながらも、ウェカピポは思う。

「だが、この仮初の街もまた……オレの居場所ではないのだろうな」

 ウェカピポの人生は――少なくとも、妹を暴力で苦しめた義弟を決闘にて討ち果たし、その結果王国を追われて以降の人生は、
 ただ自分の居場所を、帰るための場所を求めるためのものであった。
 ただのそれだけ……他には何も求めてなどいない。帰る場所のないことこそが、真なる孤独であったからだ。
 しかし、Dioに利用する形で死に、その瞬間に今も何処かで生きているという妹に思いを馳せ、
 その思いが『未練』となって、自分でも自覚していないほど僅かな『やり直しの願い』として聖杯に感知された今も。
 ウェカピポは、この街にとっても自分は異邦人なのだろうと感じている。そして、それは事実なのだろう。

「だから居場所を得るために聖杯を求める……つまらない男ね」

 独り言に対して返ってきた辛辣な言葉にも顔をしかめることなく、ウェカピポはベッドの方へと視線を向けた。

 声の主は、金髪碧眼の美女であった。氷か刃物を思わせる怜悧な魅力が、その無表情な横顔にはあった。
 彼女に、ウェカピポは未だ指一本触れていない。それどころか、ほとんど会話を交わしてすらいなかった。
 ウェカピポにとって彼女は、ただの相棒という言葉では言い表せないほどの繋がりを持つはずなのだが。

「ランサー」

 ウェカピポがサーヴァントとしてのクラス名で呼ぶと、彼女は鉄面皮を崩さずに青い瞳だけをこちらに向けた。
 決して自らと契約しているこの英霊の真名を知らないというわけではない。
 単純にサーヴァントの真名をみだりに呼ぶべきではないと考えたからだし、そういう一線を引くのがウェカピポという男だった。



 槍兵のサーヴァント、『ミリア=レイジ』。

 この仮初の21世紀よりも更に未来、22世紀のロシアに生まれた美貌の暗殺者。
 時の暗殺組織の長の弟子にして恋人という地位にありながら暗殺者としての生き方へ疑問を抱いて組織を裏切り、
 過去に追われながら過去を振り切るために終わりのない戦いを続けていた女性である。
 その美しい金色の髪には禁忌の術式が宿り、その一本一本が変幻自在の『槍』として彼女の武器になるという。

 ウェカピポには、このミリアという美しい女性と親しくなりたい、などという浮ついた考えは欠片もない。
 しかし彼女の人生にはどこか共感めいたものを感じていたし、英霊という存在自体に『敬意』を抱いていた。
 英霊とはすなわち、語り継がれる存在。何かを『成し遂げた』存在であるからだ。

「なにかしら?」

 その英霊の言葉もまた、ウェカピポのそれと大差ないぐらいには素っ気ない。
 ウェカピポがランサーに必要以上の関心を抱いていないのと同様、ミリアにもマスターと慣れ合う気はないようだった。
 それはそれでいい。ウェカピポはコミュニケーション不全がストレスとなるタイプの人間ではない。
 だが、伝えるべきことは伝えておかねばいざという時に齟齬を来たすということは理解している。
 だからこそ、これだけは話しておかなければ。聖杯を求める理由、これだけは。

「君の言う通り、つまらないものだ。オレが求め続けているものはな……。
 オレはただ、家と金と仕事とを手に入れて、ささやかに生きていきたいだけだ。
 必要以上の欲を持っちゃあいない……野心もない。ただ居場所を手にしたいだけだ」

 ミリアは興味なさそうにこちらを睥睨している。
 ウェカピポはそれに苛立ったりはしなかった。視線を向けてくれるだけで十分だった。

「オレは憂いのない生き方がしたい。過去に追い立てられるのでも、未来に押し潰されるのでもなく。
 必要なのは『ささやかな幸せ』だ。そして願わくば、祖国の妹にもそれを与えてやりたいと思っている」

 この聖杯戦争に全力を懸けて挑んでいるマスター達にとっては、それは鼻で笑い飛ばされるような『願い』だろう。
 そんな下らない願いのために殺人儀式に挑もうとするウェカピポの姿は、滑稽に映るのかもしれない。
 だが、少なくとも目の前の彼女は、ミリア=レイジはそれを笑ったりはしなかった。 

「――『ささやかな幸せ』には『生命を賭す価値』がある。オレはそう考えている」

 ならばこそ。
 ウェカピポは、彼女とともに、このささやかな願いを抱いて、聖杯戦争へ挑むのだ。
 対するランサーの表情には、相変わらず何の感情も伺えない。
 しかし、僅かに気配が軟化しているように感じられるのは、ウェカピポの気のせいではないはずだ。

「……つまらない男は言い過ぎたわ。でも、カタいだけでは女を満足させられないことは覚えておくべきね」

 その美しい金髪を波打たせながら、ランサーはベッドの上で身を起こした。
 一切男を惑わすような素振りを見せないにも関わらず、時折ひどく男を惹きつける仕草を見せるところが彼女にはある。
 しかしそれに対して目立った動揺を見せるわけでもなく、ウェカピポは答えた。
 つまらない男というのはある意味では事実なのだろう、と考えながら。



「……オレはこういう男にしかなれない。そういうサガに生まれついた。君にとって魅力を感じる男にはなれないだろう」
「そう? 少なくとも、令呪をチラつかせれば女を好きに出来ると思う男よりはマシなんじゃないかしら」

 ミリアはその金髪を掻き上げ、どこか遠くを見るような目をした。

「私が聖杯に託す願いは、ある男を英霊の座から永久に消し去ることだけ。
 結局、英霊になっても私は過去から完全に解き放たれることはなかったから」

 英霊の抹殺という物騒な願いを口にしながらも、その瞳には僅かに親愛のようなものが浮かんでいるように思えた。
 だからといってウェカピポはそれを問いはしなかった。踏み込んではいけない世界だ。自分の過去がそうであるように。

「だから、そうね……理解は示すわ。あなたの、そのささやかな願いに」

 彼女はそう言い、ウェカピポは思う。
 彼女と共に歩み、共に聖杯戦争を戦うのは、少なくとも不可能な道程ではないと。
 ならば。その戦争が真に始まりを告げる前に、自分にはやらなければならないことがある。

「感謝する、ランサー。おかげで覚悟が決まった」

 ウェカピポは、視線だけでミリアに出立を促した。

「行きたいところがある。オレの、居場所になるかもしれないところだ」



   ▼  ▼  ▼



 古くからの邸宅が並ぶ深山町の一角に、その洋館はあった。
 この地域では決して目立つほどの大きさではない、しかし確かな歴史を感じさせる造りの館。
 その中の一室、館に相応しい上品な調度品に囲まれながら、彼女はウェカピポを迎えた。

「お久しぶりです、お兄様。お元気そうで何よりです」
「お前も壮健そうだな。亭主は良くしてくれているか」
「ええ、それはもう。妻として可愛がっていただいております」

 妹の穏やかな笑みに、ウェカピポは内心の澱が溶けていくような心持ちになった。
 それは自然な微笑みであった。幸せに嫁いだ娘が、幸せな妻として浮かべるような微笑み。
 取り立てて特別なものではなく、だがそれゆえに、ウェカピポの胸を突く。

「あの人もじきに戻ってくるでしょう。喜びますよ、お兄様にお会いできたら」
「いや、長居するつもりはない。最後に、お前の顔を見たかっただけだ」
「最後に? 変なことを言うのですね」



 お茶を勧めようとする妹を押し留めようとして、ウェカピポが腕を動かしたその時。
 手がテーブルの上の花瓶に触れ、それは運悪く転がって床に落ち、砕け散ってしまった。
 妹はそれを自然に目で追い、やれやれ仕方のない人ね、という呆れ半分の微笑みを浮かべた。

「……すまない。高価な品だったか」
「いえ、お怪我がなくてよかった。珍しいですね、お兄様がこんな」

 自然な会話。自然な反応。

 花瓶が落ちたことに妹が気付かない、などということは起こらなかった。
 当たり前だ。それこそが、本来あるべき形であるはずなのだから。

 自分に背を向けて屈み込み、破片を集める妹に向かって、ウェカピポは静かに一歩踏み出した。
 その手には、見つからぬよう隠して持ち込んだ、短剣の柄が握られていた。
 妹は掃除に夢中で、背後で兄が何をしようとしているかなど気にもしていない。
 ウェカピポはもう一歩を踏み出した。
 そして短剣を彼女の背に向け、僅かに振り上げた。



 それから――妹が初めて海を見た日のことを、その幸せそうな姿を、思い出した。



 ウェカピポは、短剣を構えたまま身を震わせた。
 唇を噛み締め、目を見開き、金縛りに遭ったようにその身を硬直させた。
 そして、最後には目を伏せ、短剣を持った腕をゆっくりと降ろし、小さく呟いた。

「済まない、ランサー……苦しませないで、やってくれ」

 それだけ言い残し、ウェカピポは妹に背を向けた。
 背後で霊体化を解いたミリアが、その髪の槍で妹を貫くのが、気配で分かった。
 悲鳴はなかった。きっと痛みも感じずに逝ったのだろう。
 そしてその気配もすぐに……ミリアの髪に溶け込み、消えた。

 玄関のほうでガタリと音がしたのに気付き、ウェカピポは目を上げた。
 そういえばそろそろ戻ると言っていた……妹の夫が、死んだような目でこちらを見ていた。
 見られたか。自分でも意外なほど冷静さを保ったまま、腰のホルスターの留め具を外す。

「貴様ッ! ウェカピポ! 我が妻に何をしたァァァーーーーーッ!!」

 激昂した義弟の頭蓋に抜き打ちの鉄球を叩き込んで黙らせ、ミリアを促す。
 ミリアが髪針を瀕死の義弟に撃ち込むと、義弟の体は分解されてその髪へと吸い込まれた。
 魂食い……僅か二人でも、魔術師でないウェカピポにとっては馬鹿にならない魔力になるだろう。

「……良かったの?」

 ミリアが案ずるような言葉を掛けた。
 ああ、と言おうとしたもののすぐには声が出ず、数回深呼吸して、ようやく返事をする。

「この街の人間は幻だ。俺達マスターを除いてはな……。だが紛れもなく、あれは妹そのものに見えた。
 それでもオレの帰るべき居場所は、ここじゃあない。ここに安心してしまえば、きっと聖杯には届かない」

 この仮初の街の幸せな妹ではなく、故郷の目の見えない妹のために戦わねばならない。
 その決意をこんな救いのないやり方でしか示せないのが、ウェカピポという男の持つ掟の複雑さであった。
 ミリアは彫像のように堅い表情のウェカピポに視線を向け、それからいつもの鉄面皮で言った。

「勝ちましょう、マスター。ささやかな願いが、聖杯を動かすに足ると証明するために」

 ウェカピポは、ああ、とだけ答えた。不思議と、今度は自然と声が出た。
 妹の映し身は消した。もはや完全に、この冬木にウェカピポの居場所は無くなってしまった。
 だが、これで良かったのだろう。その証拠に、覚悟は完全に定まっている。
 まだ見ぬマスターに『敬意』を払え。己の実力を過信せず『謙虚』に振る舞うことを忘れるな。 

 偽りの居場所で見る夢は終わりだ。さあ、目を覚ませ(Wake Up People)――。



【クラス】
 ランサー

【真名】
 ミリア=レイジ@GUILTY GEAR

【パラメーター】
 筋力C 耐久E 敏捷A+ 魔力C 幸運E 宝具B

【属性】
 中立・中庸


【クラススキル】
対魔力:C
 魔術に対する守り。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。完全に気配を断てば発見する事は難しい。
 アサシンのクラスではないのにこのスキルを保有しているのは、暗殺者であったかつての自分を捨て切れていないからか。

追撃の女王:A+
 戦いの中で生じた隙を狙って一気呵成に攻め立てる戦闘技術。
 体勢を崩した状態の相手に対して、追撃の成功率および与ダメージが上昇する。
 当然追撃中に相手が再度崩れれば更なる追撃が可能となる、一方的に攻め続けることに特化したスキル。

縮地:C
 瞬時に相手との間合いを詰める技術。暗殺術として身につけた歩法の極み。
 単純に地上での機動力を高めるだけでなく、中空を蹴って加速や方向転換を行うことすら可能。

禁呪:?
 宝具の代償として身に宿すデメリットスキル。
 長時間に渡る戦闘や必要以上の魔力の投入などで宝具を酷使した場合、ランサーは宝具に心身を乗っ取られるリスクを伴う。
 このスキルを外すことは出来ないが、精神力によりある程度の抵抗が可能である。


【宝具】
『卑・泥獄墜法第六法(アングラ)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:30人
 ランサーの髪に施された、法術に許された領域を踏み越えた禁断の術式。
 この禁呪法の力により、ランサーはその美しい金髪を文字通り自由自在に武器として使うことが出来る。
 槍兵のクラスに相応しい黄金の槍だけでなく、剣や翼、花や月に変化させて多彩な攻撃を行う。
 スピードや射程、攻撃手段の豊富さなど多くの強みを持つが、その最大の脅威はスキルと組み合わせての圧倒的な連撃性能である。


【weapon】
投げナイフ。
ただし飛び道具は基本的に髪の槍で事足りるため、意表をついての牽制や迎撃用の一部の技でしか使わない。

【人物背景】
ロシア出身の元暗殺者。金髪碧眼の美女。
機械めいて冷静かつドライな性格であり何事も損得勘定で判断するが、その奥には人間らしい感情が芽生えている。
かつては孤児であり、アサシン組織に拾われて髪に禁呪を施され、以来暗殺者として生きてきた。
アサシンの長ザトー=ONEとは師弟であると同時に愛人関係でもあったが、暗殺者としての生き方に息苦しさを感じたミリアは彼を裏切る。
ザトー捕縛の功によりアサシン時代の罪を許されたミリアは、以来アサシン組織からの刺客に追われながら生きることとなる。
自ら罠にかけたザトーに対しては愛憎入り交じる感情を抱いており、過去を精算するため抹殺を誓いながらも未練を捨て切れていない模様である。
なお、趣味は猫を追い回すこと。一番大切なものは貞操である。

【サーヴァントとしての願い】
ザトーを英霊の座から抹殺し、過去から解き放たれた真の平穏を手に入れる。


【マスター】
ウェカピポ@ジョジョの奇妙な冒険 第七部 スティール・ボール・ラン

【マスターとしての願い】
自分と妹のささやかな幸福。

【weapon】
鉄球。腰のホルスターに収めている。

【能力・技能】
『レッキング・ボール(壊れゆく鉄球)』
ネアポリス王族護衛官が修める鉄球の技術。
14個の小鉄球「衛星」が表面に付いた独自の鉄球を用い、投擲時に衛星が飛び散って相手を攻撃する。
衛星が直撃すれば重傷は免れないが、かすっただけでも衝撃波により十数秒間『左半身失調』の症状に陥る。
この状態では自分の左側にあるものを認識できなくなる(触っても脳が認識できない)という強力な効果である。
スタンドでも超能力でもない純然たる技術にも関わらず、ウェカピポは黒幕である大統領にすら通用させてみせた。

ちなみに王族護衛官の戦闘技術としての回転だけでなく、肉体の硬質化など「ツェペリ一族の回転」も使用可能。
ただしツェペリ一族の奥義である『黄金の回転』は習得していない。


【人物背景】
ジョニィとジャイロの刺客として登場した、元ネアポリス王族護衛官の男。31歳。
刈り込んだ短髪に網目状に剃り込みを入れた独特の髪型をしている。
ジャイロ以外で劇中に直接登場する唯一の鉄球使いで、ジャイロのものとは違う戦闘技術を用いる。

かつては王族護衛官としてネアポリスのために尽くしていたが、よかれと思って同僚と結婚させた妹が暴力を受けていることを知る。
婚姻無効の訴えに逆上した義弟を決闘で討ち果たすが、義弟の父親は王国の重要人物であり、ウェカピポの勝利は初めから許されていなかった。
ジャイロの父グレゴリオにより国外追放の汚名を浴びたウェカピポは自分の居場所、合衆国の永住権を求めてジョニィ達へ挑む。
その鉄球技術と決して慢心しない姿勢で二人を追い詰めるが、最後は偶然が呼んだ奇跡に敗北する。
自決を試みるもジャイロに妹の生存を知らされて思い留まり、以降はジャイロの依頼を受けて行動。
その過程でディエゴ・ブランドーと共闘する形でヴァレンタイン大統領と敵対するが、土壇場でディエゴに利用され死亡した。

【方針】
すべての敵に敬意を払い、謙虚に振る舞いながら聖杯を求める。
自身の魔力の乏しさと、ランサーが奇襲・強襲向きのサーヴァントであることを鑑み、ヒット&アウェイで確実に戦果を上げる。

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