――18時32分。 家の前に雑草が生えている。





「オオ、スバラシイ!私ノ成スベキ正義ガ予知サレテイク!」

黒い全身タイツに変身ベルト、そして膨れ上がった風船なのかてるてる坊主なのか分からない膨れ上がったマスク。
マスクにある赤い模様に真ん中にある黒い点は目玉を彷彿させる。
まるで特撮の戦闘員のような容姿の男が夕日の下、自宅の前で草むしりをしていた。

「倒スベキ悪ヲ見ツケテクレルコノ『正義日記』、アノ人カラ50円デ買ッテ正解ダッタ――ム?」

『正義日記』。この男、平坂黄泉が先ほど時空王デウス・エクス・マキナの使い「ムルムル」から50円で買った、
未来で起こる事象が映し出される『未来日記』。
「倒すべき悪事、守るべき弱者」が記録されているという。
黄泉は全盲で目が見えないため、ボイスレコーダーで予知を聞くという形を取っている。
買ったばかりのこの日記の便利さに有頂天になっていた男だったが、そこに誰かが近づいてくるのを優れた聴覚で感じた。
この間隔の短く、軽い足音は子供のそれだ。
黄泉はそれから瞬時にその正体を見抜いた。

「オカエリナサイ。先ホドハアリガトウゴザイマシタ。マダ私ニ御用デモ?」

この家に来る子供はムルムルくらいしかいない。黄泉は、「正義日記」を売ってくれた感謝も交えつつ応対する。

「済まぬ!お主にもう一つ、売り物があるのを忘れておった!さっきの『正義日記』より断然安い超特別特価、10円だがどうだ!?」

ムルムルは、懐から何やら怪しげなモノを出すと、10円で売ると言ってきた。
それは小さな人形で、ツタンカーメンを連想させるエジプト文明の道具のようだった。

「これを持っていれば、必ず悪を倒すことができると言われているお守りじゃ!あと10円、出す気にはならんか!?」
「買イマス、買イマス!モチロン、キャッシュデ!」

無論、負ける者はすべて悪、正義とは勝ち続けることを至上としている黄泉に10円を出し渋る理由はなかった。
『正義日記』が本物だったことでムルムルに対する信頼があったのも大きい。

「よし、これで60円のアイスを買うことができるぞ!」

そう言って黄泉から10円を受け取ると、ムルムルは走り去っていった。
このお守りこそ、黄泉が未来日記を使うデスゲームではなく、聖杯戦争の地・ゴッサムへ行く切欠となるシャブティであった。


◆ ◆ ◆


衆愚の街と呼ばれるほどに汚い街、ゴッサムシティ。
そこかしこで犯罪が起きており、非常に治安が悪い。
そして今日も、警察に1本の電話がかかってくる。

「○○で、女の人が男の人にからまれています」

その電話を受け持った警官は適当に相槌を打ち、対応しておくとだけ返すと電話を切った。
強盗だとかレイプ事件ならまだしも、女が男に言い寄られているだけでいちいち警察を頼るな、と心の中で愚痴をこぼし、煙草を一本取り出した。
犯罪が起こるとそこに警察が駆けつけるのが筋だが、警官の人手は無限ではない。
痴話喧嘩や小競り合いごときにパトカーや人を割く余裕など、ゴッサム市警にないのだ。
5分経った頃には、煙草の煙と共に通報のことは既に警官の記憶から消えていた。




――いやあああああああああああっ!

汚らしい男の笑い声の中から飛び切り高い悲鳴が響く。
その女はただ単に通りがかったところをゴロツキにからまれ、
人気のない場所に連れ去られて今にもゴロツキ達から暴行を受けようとしていた。
偶然言い寄られている場面を遠目に見かけた市民が警察に通報したが、相手にされなかった。
場所を人通りのない場所へ移したので無関係な誰かが見かけて助けに入るなんてあり得ない。
もはや、その女を救う者はいないかのように思われた。

「誰か、助けて…!」

男の手が女の服を破かんと触れた、その時―――

「待テェェ――――イ!!」

1人の男の声がそこに木霊した。

「天ガ呼ブ、ゴッサムガ呼ブ、人ガ呼ブ!悪ヲ倒セト、私ヲ呼ブ!聞ケ!暴漢ドモ!!私ハ正義ノ味方!12th!」

高らかに名乗りを上げて塀の上に現れたのは黒い全身タイツにお馴染みの膨れ上がったマスクを被った黄泉であった。
それを見て女を襲おうとしていた男達も、当の被害者の女までもがその姿を見てポカンと口を開けている。

「ソコマデダ、暴漢ドモ!ソノ女性カラ汚イ手ヲ放セ!」
「なんだてめぇは!!?」

ゴロツキグループの1人が声を荒げる。
ゴロツキ達は各々の武器を構え、臨戦態勢に突入した……のだが。



しばらく黄泉を睨み付けていると、突如全員がげんなりした顔になった。

「――ってお前、最近噂になってる変質者かよ。いい年して漫画のヒーローにでもなったつもりか?ごっこ遊びもそろそろ卒業しろよ」

本来、ゴッサムシティにはバットマンというヒーローがいたはずなのだが、
電脳空間として再現されたゴッサムにはバットマンの姿は未だない。
バットマンさえいれば、黄泉のような自警活動を行う者も(どんな変態であろうと少しは)警戒されよう。
しかしこのゴッサムにおいて自警活動をする者はいないか、知名度が"まだ"低いかのどちらかで、
黄泉のようなコスチュームを纏って戦う者は、下手にゴロツキの前に姿を現しても基本的に『ヒーローの真似事』と馬鹿にされる立場なのだ。

「何ヲ言ウ!私ハ正義ノ味方ダ!」
「いや変態だろ」
「スーパーマンじゃああるまいし」
「今俺らが警察に通報したら逮捕されるの間違いなくお前だぞ変質者」

ゴロツキ全員の緊張した雰囲気が崩れ、脱力感が漂っている。
これを好機と見るや、女は黄泉に礼も言わず全速力で走って逃げていった。
ゴロツキ達は黄泉の登場に先ほどまで元気だった一物も萎えてしまったのか、誰も女を追うことはなかった。
女が黄泉に見向きもしなかった理由は単純、猛烈に黄泉に関わりたくなかったからだ。

「あーもうめちゃくちゃだよ。女まで逃げちゃったし」
「あのバカのせいですっかり萎えちまった。帰ろうぜ」

ゴロツキ達はすっかりやる気をなくしてしまい、黄泉と戦おうともせずに去っていった。
その場には塀の上で寂しくポーズを決めている黄泉だけが取り残された。

「フゥゥ~……」

何かをやり切ったような達成感を含むため息と共に、黄泉はグローブで汗を拭った。
なぜマスクの上に汗を掻いているのかは敢えて言及しないでおく。

「正義日記デ何トカ女ヲ助ケルコトガデキタナ。暴漢ドモモ逃ゲテ行ッタシ、一件落着トイッタトコロカ」

片手に『正義日記』を持ち、黄泉は満足げに塀から「トォウ!!』と高くジャンプして飛び降りた。
黄泉がこの場所を突き止めることができたのは、正義日記が予知したからに他ならない。
黄泉はゴッサムシティに足を降ろした後も、正義日記を使い、こうして自警活動に励んでいるのだ。




『…されどれどれど――』




黄泉が着地した瞬間、謎の声が響いたと思えば、黄泉の視線の先には虚空から巨大な棺桶が降り立った。
その金色の棺桶の頭部にはツタンカーメンのような顔が描かれており、
まるでムルムルから10円で買ったシャブティのよう……いや、シャブティそのものだった。
たった今、その棺桶を蹴破って出てきた筋肉質なミイラ男こそが黄泉のサーヴァント――復活のファラオ、アナカリスなのだから。

「――我、またまた出番なしなしなし……」

包帯で形成された筋肉質な肉体の頭部に位置する仮面から声が静かに、しかしどこか厳かに漏れ出る。
仮面の中で不気味に光る赤い目が、どこか残念そうにその輝きを鈍らせていた。

「ドウモ、キャスターサン。暴漢ドモト戦ウコトニナッタラ登場シテモラオウト思ッテイタノダガ」
「…この間漫画なる書物を読んだんだんだ。その中にいた者の掛け声声声、いたく気に入ったったった。我の華麗なる技に合わせて言ってみたかったものだのだのだ。『オラオラオラオラオラオラオラ……!』」

アナカリスは独特な残響音を残すように話す。
どこかで読んだ漫画の登場人物の台詞を自分も言ってみたかったと残念がっている。

「漫画ヲ読メルトハ羨マシイ。私ハ全盲ダカラ、キャスターノヨウニ読ムコトガデキナイ」

全盲でも日常の生活に支障はないが、視覚にしか頼れないものは流石の黄泉でも使えない。
そんなアナカリスを羨ましく思いつつ、黄泉は次に自らの正義を振るう場所を探るため、正義日記に耳を傾ける。


――17時10分。 ○○ストリートの路地裏で子供が不良に寄ってたかっていじめられている。


「ムッ!」
「ヌッ! ! !」


未来が予知されたのならば、すぐにでも向かわなければ。
黄泉はすぐにこの場を離れ、表通りに出る。
アナカリスは霊体化し、黄泉に同行する。
歩道を駆ける黄泉を見る者は例外なくその身を凍り付かせるが、黄泉は臆面もなくその道をただ走る。

『聖杯戦争においてもその正義を貫くぬくぬく、その心意気やよしよしよし』
「私ハ聖杯戦争ノ中デアロウトモ正義ヲ全ウスルダケダ!」

平坂黄泉の正義観。それは「倒すべき悪に勝つ」こと。アナカリスも既にそれを承知している。
勝つことこそが正義であり、負ける者はすべて悪。
聖杯戦争においても、自分が悪と見なした者全てに勝つことが黄泉の願いであった。
ゆえに、黄泉は正義日記に従い、こうして自警活動に取り組んでいる。
いつか正義日記に自分の倒すべき巨悪が記録されることを信じて。





(この平坂黄泉という者ものものも、我が国を救った暁にはにはには我が民の1人にしてしんぜようようよう…)

5000年前に栄華を誇った国の王、アナカリスは滅んでしまった自国を復活させるために聖杯を欲していた。
キャスターのクラスで召喚されたアナカリスのマスターは、己の正義に殉ずる正義の味方であった。
このゴッサムシティで死を恐れずに善行を積むその姿は王の尊敬に値する。

(我が国家の国民たる資格を持つ者者者、それ即ち永久の幸なりなりなり…)

アナカリスは黄泉と共に勝ち続けることを決意した。
勝利に勝利を重ねていけば、必ずやその先に見えてくるのは聖杯だからだ。

アナカリスはその黄泉の正義に賭け、今も霊体となって黄泉に付き合っているのだ。





【クラス】
キャスター

【真名】
アナカリス@ヴァンパイアシリーズ

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷E 魔力A 幸運A 宝具B

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターの場合、神殿ではなく“王国”を形成する事が可能。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。
キャスターは棺、包帯などエジプト文明の道具の作成を得意とする。

【保有スキル】
ミイラ:B
ピラミッドにて埋葬されていた死体が復活した姿。マミー。
朽ち果てたミイラ状態の本体を包む、肉体代わりの包帯を自在に操作する能力を持ち、
包帯の伸縮による打撃と道具作成で作り出した棺、呪術を組み合わせることで数々の奇怪な攻撃を行える。
キャスターはミイラ化した脆い死体が弱点だが、その本体を包帯で幾重にも包むことにより耐久力を著しく上げており、耐久のランクはBとなっている。

カリスマ:A+
大軍団を指揮・統率する才能。
A+ランクともなると人望ではなく魔力、呪いの類である。
民より崇められたキャスターの力は国が滅んで5000年経ってもまったく衰えることはなかった。

使い魔:B
地縛霊の一種、「カイビト」を複数使役することができる。

呪術:A
キャスターは6000万人の労働力を動員し、3133人の人柱を捧げたピラミッドから復活したことにより呪術を扱える。
キャスターの場合、空間転移や一定時間の浮遊、時空などが使える。
敵の飛び道具を跳ね返す『言霊返し』に連続して呪術による攻撃を浴びせる『ファラオマジック』という技もある。

神性:B
死後、自らが神となり復活して国を守ることを予言した上、
民からは神同様に崇められていたためこのスキルを持つ。

【宝具】
『王家の裁き(われをあがめよめよめよ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:3
口から呪文と共に煙を吐き出し、それを浴びた相手は一定時間(最大で10ターン)無力な姿に変えられてしまう。
この状態に陥ると、宝具を含めた全ての能力を封印され、逃げる以外の抵抗手段を失ってしまう。
しかもこの煙はキャスターの呪術によるものであるため、対魔力では無効化できない。

が、この宝具の変身の正体はただの幻影で、無力な姿だと相手と周囲の人物が思い込まされているだけである。
そのため、このことを看破された相手には能力封印含めて効かなくなるので注意。

『黄金の絶対神(ファラオイリュージョン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:30
キャスターの国の民が思い描いた唯一神としてのアナカリス一世の姿の具現。
巨大化し、筋力と耐久を著しく上昇させる。
巨大化している間は上半身と顔と分離した両手だけになって浮遊している姿となる。
この2つの手は遠隔操作が可能で、巨大な手による強烈な打撃で敵を一方的に追い詰めることができる。
キャスターはこの状態からいつでも元に戻ることが可能。

【weapon】
  • 生前の肉体を再現した包帯、棺、呪術を組み合わせた変則的な攻撃

【サーヴァントとしての願い】
自分の王国を復活させる。
ついでに黄泉もその国の一員に加えてあげるつもり。

【人物背景】
古代エジプト出身のミイラ男。残響音のある口調が特徴。
一見すると大柄かつ肉付きの良いミイラらしからぬ体格であるが、
これは彼の遺体を覆う包帯が生前の体格を再現しているためであり、その中身は一般的なミイラ化状態にある。
漫画『魂の迷い子』では中身の脆い本体を突かれてリリスに敗れたように、基本的にこの本体が弱点となる。

5000年前に栄華を誇った古代エジプト王朝のファラオ。
生前に自身の復活を予言しており、数千年後、地球外生命体の接近を受けて復活。
しかし、アナカリスが目覚めた現代では、既に自国は滅亡していた。



【マスター】
平坂黄泉@未来日記

【マスターとしての願い】
自分の正義を全うする。
倒すべき悪に勝つ。

【weapon】
  • 『正義日記』
未来で起こる事象が映し出される『未来日記』の一つ。
未来の「倒すべき悪事、守るべき弱者」を記録したものである。
しかし、あくまでもこの日記に予知される正義と悪は、彼の主観によるもの。
『ゴミが落ちてる』や『迷子情報』程度のことでも知らせてくる。
また、全盲故にこの日記は携帯電話ではなくボイスレコーダーである。
日記に反した行動を起こすことで自身に不利な状況を回避することもできる。
その際、本来体験するはずだった日記の内容がノイズと共に書き換えられる。

【能力・技能】
  • 優れた聴覚
全盲であるが、聴覚でそれを補っている。

  • 催眠術
他者の操作、集団の撹乱、記憶の消却すらできる。

【参戦方法】
『正義日記』を買った後、戻ってきたムルムルから10円でシャブティを買った。

【方針】
倒すべき悪が正義日記に記録されるまで、日記に従い自警活動を続ける。



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最終更新:2015年05月18日 03:29