登場人物 アルスラーン戦記@ウィキ

本項では、田中芳樹の小説『アルスラーン戦記』に登場する人物の解説をまとめる。

追加の登場人物はルシタニアを参照

パルス

主人公

アルスラーン
[第1部]
当作品の主人公。はじめ14歳、作中で15歳となる。パルスの国王(シャーオ)アンドラゴラス三世の子で、パルス国の若き王太子。晴れ渡った夜空のような深い色の瞳を持つ。初陣を飾るはずだった第一次アトロパテネ会戦において、パルス軍はルシタニア軍に大敗を喫し、ダリューンただ1騎に護られて戦場を離脱する。その後、ダリューンの親友ナルサスを軍師に迎え、多士済々たる部下とともに王都奪還を目指す。温厚な性格であり、部下の手柄を妬む事がないという、王として重要な素質を持つ。出生に重大な秘密がある。
人柄の良さだけが取り柄と評される事もあるが、ナルサスを宮廷画家として招き入れるという「奇策」で幕下に招聘する事に成功したり、倒した敵将の処遇が的確であるなど、相手の気持ちを察する感性に優れている。これが数々の「人の心をつかむ才覚」につながっている。優秀な部下達の影に隠れがちだが、武芸の腕前も人並み以上に優れる。
[第2部]
パルス国の第19代国王。18歳。ルシタニア軍から王都エクバターナを解放し、パルスの奴隷制度を廃止したことから「解放王(サーシュヤント / 「サリューシャント」とルビが振られている箇所もある)」と呼ばれる。質素な生活、巨大な武勲、気さくな性格などから国民に絶大な人気を誇る。第一部の終盤で明らかとなった出生の秘密は自ら公にしたが、国民からの支持は不動だった。ルシタニアによる侵攻以降毒舌家ぞろいの臣下に囲まれていたこともあって、ギーヴをして「陛下は悪知恵がたくましくなられた」と評される。身長も伸び、獅子狩人(シールギール)の称号も得て、為政者として着実に成長している。エラムただ1人を伴って、お忍びで城下を散策する事を趣味としており、最近ではその途上で重大事件に遭遇する事も多い。「解放王」の由来はゾロアスター教の「救済者(サオシュヤント)」より。

十六翼将

アルスラーンの主な臣下たちを「解放王アルスラーンの十六翼将」と呼ぶ。これはパルスの軍事制度に正式に存在した役職ではなく、アルスラーンと共に王都を奪還し、その後も彼の治める王朝を支えて活躍したとされる伝説的な英雄たちに対する、作品世界における後世の人々からの称賛を込めた呼び名である。吟遊詩人がアルスラーンの事跡を物語る時、聴衆に向かって「十六翼将の名を知るや?」と問い、聴衆は指折り数えてこれに応じるという。最後の一人であるパラフーダが加わった直後にザラーヴァントが戦死したため、16人全員がアルスラーンの前に揃ったのは一度だけである。

ダリューン
[第1部]
パルス国の万騎長(マルズバーン・1万の騎兵を指揮する将)の1人。初登場時27歳。大将軍(エーラーン)ヴァフリーズの甥。黒い甲冑と真紅の裏地の黒マントを身に纏い、黒毛の愛馬・黒影号(シャブラング)を駆る黒衣の騎士として大陸公路有数の戦士として名を馳せている。過去に大陸公路最強と謳われたトゥラーンの王弟を馬上から切り伏せたこともあり、本作品開始後においてはヒルメスと並ぶ最強の武人である。「戦士の中の戦士」(マルダーンフ・マルダーン)や「猛虎将軍」(ショラ・セーナニー/シンドゥラでの呼び名)など数々の異名を持つ。12人の万騎長の中では最も若年。第一次アトロパテネの戦いの敗北の際、アルスラーンを連れ、親友ナルサスを頼る。生前の伯父の頼みでアルスラーン「個人」に絶対の忠誠を誓った。アルスラーンの王者たる成長を喜び、日々その忠誠心を固くする。謹厳実直・質実剛健の人だが、ユーモアや人の心情を解する感性はむしろ豊かでアルスラーンの精神的支えを引き受ける一方、ナルサスおよび彼の画業に絡むと微妙に口の悪さが滲み出る。
[第2部]
パルス国の万騎長。31歳。先のルシタニア戦やシンドゥラでの戦い、対トゥラーン戦においてパルス軍随一の武勲を上げ、大陸公路最強の戦士としてその名を轟かせている。その技量はますます磨き上げられ、第一部では互角だったヒルメスをも凌駕し、作中の武人で比肩する者は存在しない。ルシタニア侵攻時の戦功第一と呼ばれたが、前線での戦いを望んで大将軍の地位をキシュワードに譲った。クバードと共に「大将軍格」(エル・エーラーン)と呼ばれる。アルスラーンへの忠誠は篤く、またその武勇はミスル、チュルクの兵らにも刻み込まれた。グラーゼ、ジムサを失ったキシュワードが責任を取り大将軍の任を解かれた後に、アルスラーンからの要請により大将軍に就任する。
ナルサス
[第1部]
パルス国のダルバンド内海沿岸に広がるダイラム地方の旧領主。初登場時26歳。アルスラーン軍の軍師にしてアルスラーンの政治・軍事の師匠。政戦両略に長けており、かつてチュルク・トゥラーン・シンドゥラの3国による連合軍が攻めて来た際、流言を巧みに用いて連合軍内に内紛を引き起こし、見事撃退した。その功により、アンドラゴラス3世によって宮廷書記官(ディビール)として抜擢される。しかし、度重なる諫言をアンドラゴラスに忌避され、さらには役人の不正を暴いたことから命を狙われたため、宮廷書記官の座と領地を返上してバシュル山に隠棲していた。アトロパテネの戦いに敗れて落ち延びたアルスラーンとダリューンを匿った際にアルスラーンの「説得」を受けて再び世に出る。シンドゥラ語を始めとする各国語を解し、政務・軍略双方に深く通じる。シンドゥラ王位継承戦役の後は、中書令(サトライプ)に一時的に就任するが、その地位をルーシャンに譲り軍師の役職である軍機卿(フォッサート)の地位につく。文弱の貴公子と思われがちだが、剣の腕前も達人級。アルスラーンにパルス国の旧体制や奴隷制の誤りを説き、後のアルスラーン政権の礎を作る。優しげな容姿に似合わない毒舌家でもある。趣味の画才は知勇とは遠くかけ離れたもので、親友のダリューンにことあるごとにけなされている。陣営に加わる際にアルスラーンより「宮廷画家」の地位を約束されており、エクバターナ奪還後にはキシュワードやクバードからも論功行賞の行方を不安視された。
[第2部]
パルス国の「副宰相(フラマート)であり宮廷画家」とされるが、本人曰く「宮廷画家であり一時は副宰相」。30歳。東のチュルク・西のミスルの侵攻を防ぐなど、新生パルス政権でも政戦両略で活躍する。一方で芸術方面では、「好きこそものの上手なれ」という教育文化をたった1人で破壊した人物としても知られている。ルーシャンがナルサスへと宰相の座を渡そうとしているが、彼自身は宮廷画家の地位に執着している為、一向に承諾しようとしない。13巻で、アルスラーンの王としての成長に際し、改めて忠誠を誓った。
ギーヴ
[第1部]
流浪の楽士を自称する美青年。頭髪は赤紫色の23歳。の扱いから楽器、果ては女性の扱いにまでも優れる。特に弓の扱いに関しては神業的な腕前を誇り、エクバターナがルシタニアに包囲された際には囚われの万騎長シャプールの意を受けて遠矢で射殺している。自らをアシ女神の僕とし、ファランギースをアシ女神の化身と呼んでいる。彼女との出会いを経てなりゆきでアルスラーン陣営に加わる。飄々とした性格でどこか人を食った発言も多いが、アルスラーンが王城の外で育ったことを見抜くなど、洞察力は鋭い。デマヴァント山ではヒルメスが宝剣ルクナバードを掘り返さんとしているところに出くわし、蛇王の封印が解けることを防いだ。アルスラーンの異称である「解放王」の名を最初に称したのはギーヴだとされている。第二次アトロパテネの戦いにおいてルシタニア軍で最も高潔な騎士と謳われたモンフェラート将軍を討ち取り、パルス王室の財宝が暴兵に奪われることを防いだ。本人曰く、2枚の舌に加え、10以上の”色のない舌”を持つ。ギーヴならぬ悪鬼(デーヴ)の尻尾を苦労して隠しているらしい。ファランギースに対して好意を持っているのは確かだが、彼女にあしらわれることも楽しんでいるそぶりも見られる。
[第2部]
パルス国の宮廷楽士にして巡検使(アムル)。26歳。飄々とした性格は相変わらずで「不逞・不遜・不敵と三拍子揃った男」「火を消す代わりに洪水を起こす」と言われる。国王直属としてパルス国内を自由に旅して得た情報をアルスラーンに報告する任務を帯びており、ナルサスの意を受けて遊軍的役割を担うこともある。アルスラーンに仕えてはいるが「パルス随一の色事師」振りは健在である。チュルクへの大使となったり、オクサスに向かったファランギースとアルフリードを助けた後、道に迷って旧バダフシャーン公領で一騒動起こすことになる。
ファランギース
[第1部]
ミスラ神を信仰する女神官(カーヒーナ)。22歳。ミスラ神殿がアルスラーン生誕時にその名で寄進されたものであることから、神殿よりアルスラーンを守護するべく派遣された。弓の扱いに優れ、精霊ジン)の声を聞き、水晶の横笛を奏でることで彼らを使役することもできる。黒絹の髪・緑玉の瞳・白珠の肌・糸杉の身体を持ち、「銀色の月のような」と称される、「自他共に認める」絶世の美女。ギーヴやクバード、ラジェンドラらから言い寄られるが本人はあっさりと拒絶している。相当な酒豪であり、ギーヴやラジェンドラが束になっても敵わなかった。
[第2部]
大戦後はフゼスターン地方の神殿に戻るが、改めてアルスラーンに呼び出されて巡検使と宮廷顧問官(ブラフマン)に任じられる。25歳。その美しさと強さは変わらないが、男性との噂は全く無く、ギーヴやクバードに思いを寄せられている件については「どっちが先にふられるか」というのが周囲の評である。湖上祭でかつての恋人の弟と再会することとなる。オクサス地方の変事にアルフリードと共に調査に向かい、蛇王復活の兆候を目の当たりにする。
キシュワード
[第1部]
パルス国の万騎長。パルス歴代の武門の出で、二つの剣を使うことから「双刀将軍」(ターヒール)と呼ばれる。美髯を蓄えている。アルスラーンとは2羽のが縁で個人的な親交もあった。アトロパテネの敗戦時は、僚友である万騎長バフマンとともに東方国境のペシャワール城塞の守護の任についており、難を逃れた。かつては西方国境の守護に当たっていたが、「生ける城壁」「双刀将軍キシュワードあるかぎりミスル軍はディジレ河を越えるあたわず」と呼ばれるほどの豪勇から、ミスル国が講和の条件として城砦を譲る代わりに彼を東方国境への異動をするよう要望したという逸話がある。戦場を離脱しペシャワール城塞に辿り着いたアルスラーンらを迎え入れ、ルシタニア軍追討に邁進する。アンドラゴラス三世復帰後は謹厳実直な性格から、主君への忠誠とアルスラーンへの好意の板ばさみとなり苦悩する。対ルシタニア戦ではルシタニア軍の双璧の1人ボードワン将軍を討ち取るなどの武勲を上げる。
[第2部]
ダリューン、クバードと並び、大将軍(エーラーン)の候補とされたが、両者が固辞し、またキシュワードも大将軍はダリューンにと三者の「譲り合い」(実際は押し付け合い)になった為、アルスラーンの裁定で大将軍に任じられる。第一次アトロパテネ会戦で戦死した万騎長マヌーチュルフの娘・ナスリーンと結婚し、息子アイヤールを授かる。大将軍になってからは前線で戦う機会が減ったが、エクバターナ地下に設けられた蛇王ザッハーク一党の神殿調査の際はダリューンを差し置いて調査に赴いた。その際、「大将軍命令である、これが権限を得るということだ」とダリューンを憤激させ、アルスラーンを大笑いさせた。
ギランへの軍資金調達の際に、ギランで総督代理のグラーゼ、ギランからエクバターナへの帰路で発生した魔軍との戦闘でジムサの二人の将軍を失った責任を負い、ナルサスの進言を受けてアルスラーンにより大将軍の任を解かれる。
クバード
[第1部]
パルス国の万騎長の一人。31歳。左眼が一文字に潰れている。通称「ほら吹きクバード」。かなりの酒豪で、彼をしのぐ者はファランギースくらいであろうと言われる。豪放磊落かつ陽気な性格で、部下や弱者に対しては気配りもよく、部下たちからの信頼も厚い。遠慮しない性格のため、アトロパテネ会戦時国王アンドラゴラス三世が戦場から離脱したのを見て「兵士を見捨てて逃げるような王に従う義理はない」と放言し、一時与力したヒルメスに対しては素顔を仮面で隠すことを痛烈に批判している。アトロパテネの敗戦後は軍を離脱し各地を放浪しており、紆余曲折を経てアルスラーン陣営に加わる。アンドラゴラス三世復帰後は主君に距離を置きつつも離脱したダリューンに代わり万騎長として王都奪還戦に参戦している。片目の傷は伝説上の怪物である「三頭竜(アジダハーカ)」と戦ったときの傷と言っている。
[第2部]
パルス国の万騎長。34歳。アトロパテネの敗戦から王都奪還までに生き残った万騎長の中では最年長だったが、候補だった大将軍の職を「柄じゃない」とあっさりキシュワードに譲った。ダリューンと共に大将軍格とされ、東方のペシャワール城に常駐する。ファランギースにも好意を示している事から、何かとギーヴと比較されるが、「ギーヴ卿は美女好き、クバード卿は女好き」との事。「クバードの車輪戦法」と呼ばれる波状攻撃を得意とし、ペシャワールにおける魔軍襲来に際しては眷属をなぎ倒し、狂戦士イルテリシュに対して「ペシャワールは未来永劫渡さない」と宣言した。トゥースの死後に二代続けて殉職となったエクバターナ城司の任を引き受ける。
トゥース
[第1部]
パルス国の武将。20代後半で銀貨(ドラフム)のような瞳を持つ。南方ザラの守備隊長の任に就いていたが、アルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じる。寡黙な男だが後方撹乱や護衛等の地味な任務も忠実にこなし、アルスラーンからも高い評価を受ける。ナバタイに伝わる鉄鎖術の達人で、多くの敵をこの鉄鎖で討ち取る。
[第2部]
パルス国の万騎長。寡黙かつ沈着冷静ながら亡き戦友バニパールの娘3人を妻に迎え、クバードをして「むっつりすけべ(ハーチムマイマイ)」と呆れさせる(殺し合いになってもおかしくない侮蔑語であるらしいが、当人は至って鈍感であった)。ペシャワールにおける魔軍襲来に際して全治1ヶ月以上の深手を負う。3人の妻を娶るまでの話はパルスの説話になったという。ザラーヴァントの死後エクバターナ城司となるが、王宮を襲った地震の際に崩れ落ちた瓦礫から、国王アルスラーンを護り殉死する。
イスファーン
[第1部]
パルス国の武将。20代前半。中背で引き締まった体、瞳は透き通った琥珀色。アトロパテネ会戦で捕虜になり、ルシタニアのエクバターナ攻略戦の際死亡した万騎長シャプールの異母弟で、正妻によって母とともに冬山に捨てられた際に狼たちに守られたことから「狼に育てられた者(ファルハーディン)」と呼ばれる。アルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じる。兄同様の真面目な性格で、本人に乞われてシャプールを射殺したギーヴに剣で斬りかかるなど激しい一面も見せた。
[第2部]
パルス国の統制官(ミフラーン。万騎長と千騎長の間の地位)。二匹の子火星(バハーラム)」「土星(カイヴァーン)」を保護して自ら育てている。クバードとともにデマヴァント山の封鎖に赴く。その途中の魔物退治の逸話は後世に伝わり、俗謡にもなったという。ペシャワールにおける魔軍襲来に際しては狂戦士イルテリシュと刃を合わせ、彼をかばったバハーラムを目の前で斬殺された。エクバターナに戻る途中で、各地で問題を起こしている「旅の楽士」の噂を聞いて旧バダフシャーンの王太后府へと単騎で赴き、イルテリシュと遭遇。ギーヴと協力したものの討ち損じ、そのまま王都に戻った。
ザラーヴァント
[第1部]
パルス国の武将。25歳前後(第二部で29歳という年齢が出る為)。パルスでも有数の名門諸侯、オクサス領主ムンズィルの息子で、アルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じる。膂力に優れた大男。童顔を嫌ってか顎鬚を生やしている。参戦当初はシンドゥラ人であるジャスワントへの偏見も見られたが、一度は剣を交えたトゥラーン人ジムサとの交友を経た後、ジャスワントに詫び、和解する。アンドラゴラス三世とアルスラーンとの確執の際、ジムサとともにペシャワール城より離脱し、アルスラーンに合流している。
[第2部]
29歳。パルス国の王都警備隊長の後にエクバターナ城司となる。王都奪還に武勲を上げ、奪還後はルシタニア軍に破壊された水路の修復を効率的に行なうなど土木事業でも意外な能力を発揮した。エクバターナ都市計画における重要な職務をこなし、作業員らから親しまれ尊敬されている。アルスラーンの指示で無料の施療所を建設する際には実地で指揮を取った。地下神殿の再調査中に、片手のない有翼猿鬼によって背後から襲われ、十六翼将の魔軍による最初の犠牲者となる。
ジャスワント
[第1部]
シンドゥラ国ガーデーヴィ王子派の世襲宰相(ペーシュワー)マヘーンドラの部下。ガーデーヴィが王位継承をラジェンドラと争う中、アルスラーンに3度命を助けられる。ガーデーヴィが敗死したことで行き場を失うが、命の恩人でもあるアルスラーンに誘われて彼の陣営に加わる。以後は侍衛士としてアルスラーンの身辺警護をダリューンから引き継いだ。アンドラゴラス三世によって追放されたアルスラーンを慕い、ダリューンらとともにペシャワールを離脱した。浅黒い肌を持ち、武勇に優れ、その身のこなしは黒豹に例えられ、剣さばきはシンドゥラの太陽のように激烈であると評される。誠実で生真面目で温厚な性質で、妓楼のシンドゥラ女に騙されて金を巻き上げられても、同郷の者の役に立てたと喜ぶ始末である。命の恩人であるアルスラーンに忠誠心を抱いており、褒美をもらってもかえって「水臭い」と思っている。
[第2部]
パルス国の侍従武官で国王に即位したアルスラーンをエラムとともに護衛する。ギーヴ、エラムと共にチュルクへの使者となり、その後クバードとともにデマヴァント山の封鎖に赴くなど、アルスラーンの護衛の割に遠出する例も多い。パルス人ではないため蛇王ザッハークに対する恐怖心がなく、他の諸将が事あるごとに動揺するのを不審がる。
ジムサ
[第1部]
遊牧民族トゥラーン国の若き武将。丸顔で少年の面影が残る20歳前後の若武者で、馬上からの剣戟と毒を塗った吹き矢の名手。ザラーヴァントに瀕死の重傷を負わせた事もある。ナルサスの計略でトゥラーンより追われる立場となり、ペシャワール城に保護される。アンドラゴラス三世の復帰で処刑が決まったが、キシュワードの配慮とザラーヴァントの手引きでペシャワール城を離脱、アルスラーン陣営に合流する。ブルハーンという弟がいる。トゥラーンの国柄のせいか、武より徳に秀でる君主としてのアルスラーンの力量を部分的(人心の把握、論功行賞の巧みさ)に認め、部分的(個人の武勇、手段を選ばぬ非情さがないこと)にはいぶかしむ。アルスラーンが気前よく振る舞う褒美に喜ぶが、シンドゥラ人のジャスワントとは価値観が異なるため、いささか懐疑の目を向けられている。
[第2部]
パルス国の統制官。キシュワードの元でトゥラーン流の騎馬戦術をパルス軍に指導するほか、パルス北方に狼煙台を設置する案を提出するなど、戦略的視点を見せる事がある(このような戦略的視点の発言は、本作の中ではナルサス以外には少ない)。パルス北部国境の調査行に赴いた際、トゥラーンの「親王」イルテリシュが蛇王ザッハーク一派の手により復活したことを突き止め、アルスラーンに報告する。その際保護した少女を王都へ同行するが、名を尋ねようともせず「こまかいの(オフルール)」と呼び続けるほど無頓着な性質。
パルス人ではないため蛇王ザッハークに対する恐怖心がない。ギランでの軍資金調達の後にエクバターナに戻る帰路にて、魔軍の巨大な有翼猿鬼と戦うが相打ちとなり戦死する。
メルレイン
[第1部]
山賊を生業とするゾット族の族長ヘイルターシュの息子。19歳。父がヒルメスに殺害された後、敵討ちと息巻いて消息不明になった妹アルフリードを探してパルスを放浪する。クバードとの出会いやアルフリードとの再会を経てアルスラーン陣営に与することになる。弓の扱いに優れ、「パルスで2番目の弓の名手」と自称する(後にギーヴとファランギースに出会ってこの売り文句を訂正する必要を認めた)。一時はマルヤムの内親王イリーナにヒルメスと会うための旅の助力を依頼され、行動を共にしていた。王都奪還においては、アルスラーンから授かった「ゾットの黒旗」を掲げるゾット族を率いて勇戦し、エクバターナに入城する。秀麗な顔立ちながら常に不機嫌な表情をしている(ように見える)ため誤解されやすく、「愛嬌を落っことして生まれてきた」などと評される。ひよわいほどしとやかな女性が好み。
[第2部]
ゾット族の族長代理。22歳。父が妹であるアルフリードを族長に指名していたため、あくまでも自分は妹が戻るまでの代理というスタンスを崩さない。また自分の理想の女性を探すも見つからず、失望と失恋を繰り返している。ナルサスの命でゾット族を率いてチュルクに潜入するなど、遊撃部隊として正規軍にはできない活動を担う。クバードと行動を共にすることが多い。デマヴァント山捜索隊に参加したときには、飛行する怪物たちの中にある籠に唯一気がつくなど、その視力のよさを見せる一面があった。
アルフリード
[第1部]
ゾット族の族長ヘイルターシュの娘でメルレインの妹。初登場時16歳。ナルサスに助けられたことが縁でアルスラーン陣営に参加、ナルサスに惚れ、妻になることを目標としている。騎馬民族であるパルス人らしく馬や弓の扱いにも長け、料理より弓が得意なほど(ただし、「あたしの矢はときどき近眼に」なり、味方を射落としてしまう、とは本人の言)。陽気で気は強いが、同年代のルシタニア人エステルの面倒を見るなど情に厚い性格。ナルサスを挟んでエラムとは口喧嘩が絶えない仲である。
[第2部]
ゾット族の女族長(のはず)でパルス国の巡検使。20歳。ナルサスとは未婚のままであり、そのナルサスの態度もはっきりとしないが、パルスの現状と副宰相としてのナルサスの立場を慮り、許容している。幾分女性らしさを身につけたが、剣技や弓の腕も向上している。ファランギースと行動を共にする事が多く、オクサス地方への調査行にも同行する。
グラーゼ
[第1部]
パルス国の海上商人。30歳。日に焼けて逞しい容貌の海の男。南方ギランで武装商船「勝利(ピールズィー)号」を統率する実力者でパルス語、絹の国(セリカ)語を始めとして多言語(自称「挨拶ぐらいなら20ヶ国語でできる」)を話す。弁舌、情報分析にも優れる。海賊討伐が縁でアルスラーン陣営に参加し、王都奪還の際にはメルレインやザラーヴァントとともに大量の物資をエクバターナへ運び込み、飢えた民を保護した。
[第2部]
ギランの総督代理。33歳。パルス水軍を率いる武将でもあり「光の天使」(マレケ・ヌール)を旗艦としている。ナルサスの指示によって芸香(ヘンルーダ)をシンドゥラから大量に輸入し、半分をエクバターナ、残りをペシャワールに送り届ける任務に就いていたが、折しもペシャワールでは魔軍の攻撃を受けて必死の防戦中であり、彼と彼の部下たちはまたとない援軍となってたちまち形勢を逆転し、魔軍を撃退する。ギランでの魔軍との戦いで鐘楼から転落し戦死する。
エラム
[第1部]
解放奴隷だった両親の遺言でナルサスの侍童(レータク)となり、アルスラーンの請いでナルサスが山を降りる際も行動を共にする。13歳。ペシャワールへの逃走やシンドゥラ遠征、アルスラーンの追放、王都奪還に至る道程でアルスラーンと身分を越えた親交を深めていく。その知性(毒舌含む)は発展途上で、鋭さはナルサス譲り。ナルサスを挟んでアルフリードとは口喧嘩が絶えない仲である。
[第2部]
パルス国の侍衛長(ケシュタク)。17歳。ナルサスを師と仰ぎ、アルスラーンとは兄弟弟子となる。アルスラーンの側近として行動を共にし、お忍びにも同行する。ギーヴ、ジャスワントと共に使者としてチュルクへと赴く。「指図振りがナルサスに似てきた」とはダリューンの評。十六翼将中最年少。
パラフーダ
[第1部]
ドン・リカルドを参照。
[第2部]
記憶喪失の青年で、騎士エステルの従者。33歳。ボダンに勝利してマルヤム国王となったギスカールにルシタニアへの帰国を促す陳情団にエステルと共に参加し、イラクリオンにて旧友オラベリアと再会する。彼の邸宅に滞在中、襲ってきた盗賊と乱闘になり、頭を殴られたことで記憶を取り戻すが、ギスカールの策略によってエステルやオラベリア邸に居合わせたパリザードと共にパルスへ逃亡する。ある人物の死に接し、過去の自分を捨ててルシタニア系パルス人パラフーダとして生きよとのアルスラーンの命に応え、陣営に加わる。

 

主な王族

アンドラゴラス三世
[第1部]
第1部が始まった時点での第18代国王。王太子アルスラーンの父親で王妃はタハミーネ。44歳。剛勇無双の持ち主で歴戦の勇者。王位に就く前の大将軍時代にバダフシャーン公国を併合する。剣だけでなく鉄鎖術も巧みである。剛腹だがやや狭量な性格で、為政者としては武に偏り、内政面ではナルサスらの諫言を聞き入れず不正・腐敗を許すなど、君主としてあまり優秀とは言えない面もある。海上交易にもあまり興味を示さず、後にナルサスに乗じられる事となった。ルシタニアとの戦い「第一次アトロパテネの戦い」において、ルシタニアに敗北し虜囚となる。エクバターナ解放戦の折にイノケンティス七世とともに死亡。
[第2部]
修復された王墓に新たに埋葬されていたが、地行術(ガーダック)により遺体が盗まれる。
タハミーネ
[第1部]
アンドラゴラス三世の王妃。36歳。年齢不詳の妖しい美貌を持ち、その美貌によって幾人もの男から求愛を受けた。元バダフシャーン公国(パルスとの戦いに敗れて滅亡)の公王カユーマルスの公妃。その前は同国の宰相の婚約者であったが、カユーマルスに奪われ、宰相は自殺した。パルスによるバダフシャーン併合後にアンドラゴラス三世が妃として迎える。ルシタニアによるエクバターナ占領時には、ルシタニアの国王イノケンティス七世より求愛を受ける。アンドラゴラス三世との間に子供がいる。
[第2部]
パルスの王太后。39歳。大戦後は王都エクバターナを離れ、故郷である旧バダフシャーン公国の首府ヘルマンドスで、公国の離宮であった館に王太后府を設けて隠棲中である。一貫してアルスラーンに対して冷ややかな態度を取っている。
オスロエス五世
[第1部]
パルス第17代国王。アンドラゴラス三世の兄でヒルメスの父。第1部開始時点ですでに故人。
ゴタルゼス二世
[第1部]
パルス第16代国王。オスロエス五世とアンドラゴラス三世の父。第1部開始時点ですでに故人。内政・外交ともに優れた手腕を示し、「大王」と呼ばれたが、とにかく迷信深いという欠点もあった。彼が若かりし頃にある予言を受け、それを盲信してしまった事がパルス混乱のきっかけとなった。

アンドラゴラス三世の武将

アルスラーンが国王に即位する以前の武将を挙げる。

ヴァフリーズ
[第1部]
第一次アトロパテネ会戦時点での大将軍(エーラーン)。ダリューンの伯父。アンドラゴラス三世の腹臣中の腹臣でありながら、アルスラーン、ダリューン、ナルサスにも理解を示す、懐の深い老将。アトロパテネ会戦に先立ち、甥のダリューンに対してアルスラーン個人への忠誠を誓わせる。第一次アトロパテネ会戦後に敗走するアンドラゴラス三世を庇うため手傷を負ったままに、ルシタニア軍の銀仮面(ヒルメス)に討たれる。
バフマン
[第1部]
アンドラゴラス三世の下での万騎長。大将軍ヴァフリーズとは戦友であり親友の間柄で歴戦の老将で、62歳の年齢は万騎長の中で最年長。髪も髭も灰色ではあるが、身体は老人とは思えないほどたくましい。かつてはヒルメスの教育係でもあったらしい。ルシタニアの侵攻時にはペシャワールにいたため、第一次アトロパテネ会戦には不参加。ヴァフリーズよりアルスラーン出生の秘密を知らされ思い悩む。ペシャワールに単身潜入したヒルメスが発見され危機に陥った時、バフマンが思わず叫んだ言葉は結果としてヒルメスを救い、アルスラーンに衝撃を与える事になる。この後アルスラーンに従いシンドゥラの王位継承戦役介入に参戦したが、ガーデーヴィの投げ槍に貫かれ異国の地にて戦死。
歴戦の最古参将軍であり、戦場での駆け引きや兵団の士気統率にかけては右に出るものが居ない。その手腕はアルスラーン麾下の多士済々皆が兜を脱ぐ程であり、その死は惜しまれた。彼が率いた兵士はダリューンが引き継いだ。
シャプール
[第1部]
アンドラゴラス三世の下での万騎長。イスファーンの異母兄。儀礼や形式、騎士道を重んじる人物。同じ万騎長のクバードとの不仲は有名で、列に並ぶ時には必ず両端に離れて立つと言われるほど。第一次アトロパテネ会戦でルシタニアの捕虜となる。エクバターナの城門前にて、ボダンによる拷問の最中にパルス軍によって殺されることを望み、ギーヴの放った矢によって射殺された。36歳。
ガルシャースフ
[第1部]
アンドラゴラス三世の下での万騎長。第一次アトロパテネ会戦には参加せず、王都エクバターナの守備の任についた。優れた武将だったが、同僚のサームと比べると即戦即決派で、また奴隷に対しては冷淡な態度をとった。エクバターナ防衛戦で勇戦するも戦死する。
マヌーチュルフ
[第1部]
アンドラゴラス三世の下での万騎長。第一次アトロパテネ会戦に参加し戦死する。50歳。馬術や刀術、弓術に優れ、攻城戦や野戦の指揮を得意とした。書の名人でもあり朗々たる美声の持ち主であった。ナスリーンという娘がいる。
ハイル、クルプ、クシャエータ
[第1部]
アンドラゴラス三世の下での万騎長。第一次アトロパテネ会戦に参加する。
ハイル(及びマヌーチュルフ)に関しては、ダリューンが戦場で出会ったシャプール配下の千騎長から戦死の証言を得たが、残る両名については消息が得られず、限りなく戦死に近い行方不明の扱いである。

十六翼将以外の武将

解放王アルスラーンの十六翼将」には含まれないが、国王アルスラーンに仕える武将を挙げる。

(赤鬚)シャガード
[第1部]
アルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じる。歩兵一万五千を率いる将軍となる。ギランのシャガードとは同名の別人。
[第2部]
バダフシャーン総督。宰相ルーシャンの旧知の人物で、年齢は50近くで赤い鬚をたくわえているため「赤鬚シャガード」と呼ばれる。名家の出ではあるが、実務に通じており穏健で人望も厚い。ルシタニアとの大戦での傷病兵を総督府で雇用するなど、執政官としてなかなかの手腕を誇る。パルスの民としてはめずらしく乗馬が下手な為、輿に乗って移動する。
ルッハーム
[第1部]
パルスの将軍。アルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じる。グラーゼの腹心であるルッハームとは同名の別人。
[第2部]
老齢ではなかったが、心臓の病で死去した。
バルハイ
[第1部]
当初はバフマン配下の千騎長。ルシタニアのパルス侵攻後は短期間に複数の万騎長に仕えることになる。バフマンの死後はダリューンの配下となるが、アンドラゴラス三世が復帰して兵権を握るとクバードの配下になり、彼のいい加減さに不平を洩らす。
[第2部]
クバード配下の千騎長として、魔軍との戦闘にも参加する。
シェーロエス
[第1部]
キシュワード配下の千騎長。
[第2部]
キシュワード配下の千騎長。10年もの間キシュワードの靡下におり、大将軍不在時には大将軍府を預かるほど上官からの信頼が厚い。第二次アトロパテネ会戦で受けた刀痕が右のこめかみから頬にかけて残る。エクバターナでお忍び中のアルスラーンらの危機にかけつけるが、持ち前の機転と思慮深さで気づかぬふりをし、ダリューンから事後処理を任される。
モフタセブ
[第2部]
クバード配下の年輩の千騎長。クバードからの信頼も厚い。ペシャワールにて魔将軍イルテリシュの手にかかり、アルスラーン即位後、千騎長では初の戦死者となる。
パラザータ
[第1部]
パルスの騎士。ペシャワール城がトゥラーン軍の侵攻を受けた際に、大陸公路をエクバターナに向かって進軍中のアルスラーンへの急使として選ばれた。途中、酷使された馬が斃れてしまい、偶然通りかかったクバードから馬を借り受ける。
[第2部]
大戦後にキシュワード配下の千騎長に昇進した。オクサス地方の変事に五百騎を率いて急行する。
バニパール
[第2部]
パルスの勇敢な騎士。トゥースより10歳ほど年長の戦友。ルシタニアとの戦いの中で、重症を追い故郷に戻るが死去。3人の娘がいるが揃ってトゥースの妻となった。
バッツァーニ
[第2部]
ザラーヴァント靡下の仕官で、エクバターナの様々な土木工事に従事し五百騎長の称号を持つ。元はバダフシャーン地方で銀山の坑夫頭をしていたが、アルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じる。
バーヌ
[東方巡歴]
絹の国(セリカ)へ赴くパルス使節団を守る護衛隊副隊長。隊長のダリューンよりも年長の騎士。

文官

ルーシャン
[第1部]
レイの領主。アルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じる。落ち着いた態度と貫禄のある体格で、髪も鬚も濃い灰色をしている。人望が厚く公正な人柄で貴族にも顔が広い。王太子アルスラーンによって中書令(サトライプ/パルスにおいて、王子が国王に代わって政治を執る際の、宰相的役職)に任命された。アンドラゴラス三世復権の際は立場が無くなり周囲から同情を受けるが、最終的にはアルスラーンの即位に伴い宰相に就任する。
[第2部]
パルス国の宰相(フラマータール)で堅実に国王アルスラーンを支える。ただし、事あるごとに縁談を持ちかけるため、アルスラーンは閉口気味である。レイの領主時代に破綻しかけていた財政を安定化させ、相続争いを解決する。ギーヴの不真面目な行動にも寛容であり、「自分の若い頃を思い出す」と発言しているが、実際には若い頃から生真面目一途な人生を送ってきた人物であり、これはギーヴのような生き方への憧れではないかと他人からは推測されている。
パティアス
[第1部]
南方のザラで会計担当の書記官をしていたが、アルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じる。ナルサスの推薦で会計監になり、財務監理など後方支援作業を行った。
[第2部]
王国会計総監(スパンデイヤード)を努める。必要な時、必要な所に、必要なだけの予算を回す名人。かなり有能で実務に精通しており、「平時であればパルスの宰相として十分」という評判が立っている(ただし宰相の座を受けたくないナルサスが、意図的に流した評判だという疑惑がある)。
フスラブ
[第1部]
アンドラゴラス三世の下での宰相を務める。武芸には全く素養の無い老人。エクバターナ落城の際に落ち延びようとするがルシタニア兵の馬蹄に踏み潰されて殺される。
ペラギウス
[第1部]
アンドラゴラス三世の下でのギラン総督。40歳の貫禄のある人物。ギランへ戦火が及ばないことをいいことに私腹を肥やしていたが、アルスラーンらによって不正を暴かれ、追放される。
フィルダス
[第2部]
王墓管理官(ニザル・ハラーフル)を努める宰相ルーシャンの縁者。アンドラゴラス三世に絡んだ奇怪な事件に巻き込まれる。
カーセム
[第2部]
ルージ・キルセの役人(ダールーゲ)で、宰相ルーシャンの遠い親戚らしい。王都での栄達を夢見ている。小人物だが悪人ではない。
ファラクル
[第2部]
大陸公路の要衝であるソレイマニエの役人。
マーカーン
[東方巡歴]
絹の国(セリカ)へ赴くパルス使節団の団長。パルスにも正式な家族があるが、絹の国にもまた別の家族を持つ。

諸候

武将や文官の中にも諸候はいるが、そのどちらとも言えない者を挙げる。

ホディール
[第1部]
パルスの諸侯(シャフルダーラーン)の一人。ニームルーズ山中にあるカシャーンの城砦で、逃亡中のアルスラーン一行を迎え入れる。アルスラーンを傀儡とすることを企み彼の仲間を排疎しようとするも失敗し、ダリューンに返り討ちにされる。死後、奴隷たちの間では彼に対して信望があった事が判明する。
テオス
[第1部]
ナルサスの父でアンドラゴラス三世の旧友。ダイラム地方を領有していたパルスの諸侯。トゥラーン・チュルク・シンドゥラ連合軍がパルスへ侵攻した際の王命に応じて出兵する直前に、階段から足を滑らせて死亡した。
ムンズィル
[第1部]
オクサス地方を領有するパルスの諸侯。病のためアルスラーンの檄を受けてペシャワール城に馳せ参じることができないため、かわりに息子であるザラーヴァントをペシャワールへ遣わした。
[第2部]
甥であるナーマルドを溺愛し甘やかす。実は彼には秘密があり、ファランギース、アルフリードとギーヴの活躍で暴かれる事になる。
ケルマイン
[第2部]
パルスの諸侯であるムンズィルの異母兄。母親違いだが容姿が弟のムンズィルに似ていたと言われる。故人。ムンズィルと遠乗りに出かけ、馬とともに谷に墜ちて死に、遺体は獅子に食われたとされる。
ナーマルド
[第2部]
ケルマインの息子でムンズィルにとっては甥にあたる。ザラーヴァントの従兄弟。

市民・その他

ヘイルターシュ
[第1部]
ゾット族の族長。メルレインとアルフリードの父親。酒癖が悪く、何故かメルレインに辛く当たる事が多かった。剣の腕も相当であったとされるが、ヒルメス一行を襲った際に返り討ちにあう。
パトナ
[第2部]
パルスの騎士バニパールの長女で、トゥースの妻のひとり。18歳。
クーラ
[第2部]
パルスの騎士バニパールの次女で、トゥースの妻のひとり。17歳。ナルサスよりも絵がうまいとの評がある。
ユーリン
[第2部]
パルスの騎士バニパールの三女で、トゥースの妻のひとり。15歳。
レイラ
[第2部]
オクサス地方ハッラールの谷にあるアシ女神の神殿で、女神官見習いをしている背の高い若い娘。19歳。棒術の達人で領主の甥であるナーマルドとは因縁がある様子。孤児だが、王族または高位の貴族にのみ許される意匠の銀の腕輪を所有している。
パリザード
[第2部]
パルス出身の背が高く豊満な美女。非常にしたたかで生活力がある。しばらくザンデとともに旅をしていた。ミスルでザンデが殺害されるとマルヤムにわたり、さらにエステルらと同行してパルスへ向かう。レイラと同じ銀の腕輪を所有する。
イグリーラス
[第2部]
ファランギースのかつての恋人で故人。黒い髪で褐色の瞳を持ち、背が高く立派な容姿をしていた。学業も優秀で、弁舌もさわやかで巧みであり神官としては優秀であった。しかし自尊心と出世欲が強く、出世できないのを身分制度のためとして、堕落してしまう。やがて冤罪に問われ、護送途中に逃亡を計るが、断崖から転落し死亡。弟がいる。
アイーシャ
[第2部]
ヘルマンドスの生まれで、タハミーネの侍女として王太后府に勤めていたが、ある事件で職を失い、イスファーンの世話とルーシャンの裁量によって王宮に勤める事になる。17歳。笑い出すと止まらない。女神官見習いとして修行を積んだ経験から、緑玉に魔除けの効果がある事を知っており、「蛇王の眷属」の正体を暴く役に立った。イスファーンいわく「よくころがる娘」。
(ギラン出身の)ルッハーム
[第1部]
グラーゼの腹心の部下。パルスには同名の将軍がいる。
[第2部]
グラーゼの部下の中で、重要事の使者や、グラーゼの代理として交渉役を任されることが多い。多言語に通じている。同名のルッハーム将軍が病死し、名を名乗る際に「ギラン出身の…」をつけなくて良くなったと喜んでいる。
ヨーファネス
[第2部]
グラーゼの部下でマルヤム人の母を持ち、一応グラーゼの親戚筋にあたる。12歳からグラーゼの弟分になる。商才はあまりないが、勇敢で前線での戦闘指揮には才能を示し、武勇にも優れる。
ハリム
[第2部]
エクバターナにある公衆浴場(ハンマーム)の腕の良い浴場世話係(ダッラーク)。蒸気風呂で行われていた法官らの会話を盗み聞きしてしまい、役人に追われることとなる。ちょうどお忍びで城下に出ていたアルスラーンに聖庇(アジール)を求め、その後ザラーヴァントの屋敷で保護されることとなる。
カトルネアス
[第2部]
ヘルマンドスにある王太后府の執事長。70歳近い白髪の老人で、旧バダフシャーン公国時代から館の管理をしている。タハミーネとは30年近い付き合いがある。
告死天使(アズライール)
[第1部]
万騎長キシュワードが飼っている鷹(シャヒーン)の名で、双刀と同じ程に有名と言われた。アルスラーンのペシャワール入城後には彼と行動を共にする。伝令役はもとより、ギスカールやシャガードの逃亡をいち早く防ぎ、ガーデーヴィの不埒な振る舞いにしたたかな報復を加えるなど、「翼ある勇者」としても名高い。告命天使(スルーシ)という兄弟がおり、エクバターナに潜入したキシュワードの部下が伝令役として連れていたが、ヒルメスによって殺害された。この2羽の兄弟を通じて、キシュワードとアルスラーンの2人には以前から交流があった。
[第2部]
アルスラーンの飼っている鷹(「暗黒神殿」では”鷹の形をしたアルスラーンの臣下”とある)。空飛ぶ使者として重用される。ペシャワールに魔軍が来襲し、撃退されたとの報をいち早く王都にもたらしたのも彼であった。
コージャ、バラワー、ベナスカー、ホーラム
[第1部]
ギランを代表する海上商人で、アルスラーン一党による海賊退治の後にアルスラーンの協力者となり多額の軍資金の提供を行う。
ナスリーン
[第2部]
万騎長マヌーチュルフの娘で、大将軍キシュワードの妻。アイヤールという小さな息子がいる。
オフルール(こまかいの)
[第2部]
パルス北方国境の調査中であったジムサによって救われた少女。魔物によって壊滅した村の唯一の生き残りで、村が襲われたショックでしゃべることができなくなっている。エクバターナでキシュワード家に引き取られ、アイヤールの子守役となっている。

ヒルメス一党

ヒルメス、およびヒルメスを真のパルスの国王と仰ぐ者たち。

ヒルメス
[第1部]
第17代国王オスロエス五世の子。武勇に優れ、その技量はダリューンと互角で、作品中に登場する武人としては最上位にある。本来ならオスロエス五世の後を継いで即位するはずだったが、子供の頃に叔父のアンドラゴラスによって火事に見せかけた暗殺に遭い、公式には死亡とされた。未遂には終わったものの、顔の右半面に大火傷を負い、無意識に火を恐れるなど後の人生に影を落とした。自らを正当な王位継承者と信じており、王位を奪ったアンドラゴラスへの復讐のために銀色の仮面をかぶって戦火に身を投じる。身分を偽ってルシタニアを利用し、パルスを侵略させた。ルシタニア人に対しては銀仮面卿と名乗る。火事から生き延びた後はマルヤムへ逃れてしばらく滞在したらしく、その際にマルヤムの内親王イリーナと交流し、互いに惹かれあう。実は彼の出生にも秘密が隠されていた。
[第2部]
アルスラーンに敗れた後チュルクへ流れ、しばし滞在する間にカルハナの謀臣として彼の即位に功績を立てた。この地で妻のイリーナを失う。カルハナ王の命によりトゥラーン人を組織して仮面兵団を組織、シンドゥラを劫略するもアルスラーンにより撃破され、残兵を率いて海路ミスルへ逃れる。ミスルではクシャーフル卿と名乗り、ミスルを手中とするために暗躍を開始する。国王の寵姫となった「孔雀姫」フィトナの協力を得て、首尾よく南方軍都督(キャランタル)に就任する事となるが、任地に赴く直前、自分の偽物である「黄金仮面」シャガードの叛意による国王弑逆事件が起こる。ヒルメスはこの事件を利用し、腹心ザンデの仇であるマシニッサを国王殺害の共犯者に仕立て上げ、これを討ち果たすと同時に、幼少の新国王を擁立して権勢を握る。
苛烈な人為こそ変わってはいないものの、自身の野心を正当化する事もなく、自身の器量がアルスラーンより劣る事を自覚するなど、以前に比べ幾分か思考は軟化してきている。ミスルを手中に納める謀略についても、悪事と自覚して楽しんでいる節がある。民衆のための政治を行わなければ支配も長続きしないと自覚したり、元貴族という身分だけを理由に尊大に振る舞うクオレインを「自分の能力に自慢できることはないのか」と嘲笑したあげく斬り捨てたり、ナルサスへの復讐に固執するあまり視野狭窄を起こしている黄金仮面の姿にかつての自分のようだと自嘲するなど、視野も遥かに広くなっている。一方で武人としての技量は以前と変わらず、ますます技量を高めたダリューンの後塵を拝するようになってしまった。
著者の田中芳樹によると、中国の南北朝時代の人物である蕭宝寅中国語版が、まさしくヒルメスにそっくりの人物であるとの事。しかし田中がこの人物を知ったのはアルスラーン戦記執筆後であり、モデルではない。しかし蕭宝寅は田中が評する所では内政面でも優れた才能を示した人物であり、その後の作中においてはその影響もあってか、ヒルメスが内政に関心を持つ場面が描かれた。
ザンデ
[第1部]
万騎長カーラーンの子。父カーラーンの死後はヒルメスの側近として活躍する。年齢は20歳くらいの剛力を誇る巨漢で、剣よりも棍棒や槌鋒(メイス)をよく使う。ヒルメスの正統性を心から信じ、絶対の忠誠を誓っている。斥候を用いて情報にも通じ、単なる膂力だけの男ではない事はヒルメスも認めている。
[第2部]
ヒルメスを探してミスルにたどり着き、黄金仮面の下で反アルスラーン派のパルス人を束ねてパルス人部隊の指揮官となる。しかし、黄金仮面がヒルメスの名を騙る偽者であると見破ったため、ミスル国王の命を受けた将軍マシニッサに追われる。最期はマシニッサに騙し打ち同然に討ち取られる。
カーラーン
[第1部]
アンドラゴラス三世の下での万騎長であったが、先王オスロエス五世の遺児であるヒルメスの正統性を信じてアンドラゴラス三世を裏切り、ルシタニアの侵略に協力した。ヒルメスの下で大将軍(エーラーン)を称するが、ナルサスの策略によっておびき出され、ダリューンと戦って落命する。ザンデの父親。
サーム
[第1部]
アンドラゴラス三世の下での万騎長。怜悧で思慮深い人物。城砦の攻防に優れた手腕を有することから第一次アトロパテネ会戦には参加せず、王都エクバターナの守備の任についた。エクバターナ防衛戦で敗れて捕らえられた後、ヒルメスの配下となり参謀として活躍する。アルスラーンがエクバターナ入城を果たした直後、ザッハーク一党の手から宝剣ルクナバードを守る為に命を落とす。

ザッハーク一党

暗灰色の衣の老人
[第1部]
蛇王ザッハークの復活を願う魔道士弟子からは「尊師」と呼ばれ敬われている。王都エクバターナの地下に潜み、パルスの歴史に様々な形で関与しているとされる謎の老人である。
アンドラゴラス三世はもとより、オスロエス五世、更には「大王」ゴタルゼス二世とも「旧知」であると称する。作中で明言はされていないが、ゴタルゼス二世に「予言」を吹き込んだのも、おそらくはパルス王家の混乱・分裂を目論んだ彼の仕業と思われる。
弟子にグルガーン、グンディー、プーラード、アルザング、ビード、サンジェ、ガズダハムがいる。アルスラーン一党などに弟子が次々と討たれ、自らも第1部終了直前にルクナバードを持つアルスラーンによって討ち取られたため、第2部開始時にはグルガーン、グンディー、ガズダハム、ビードの4名のみとなる。
グルガーン
[第1部]
魔道士。「尊師」の弟子の一人で筆頭的な存在。
[第2部]
湖上祭を妨害し、騒動を起こそうとしたが、思いがけずファランギースと再会し激しく動揺する。ファランギースによって過去が明らかにされた。

かつてはミスラ神の神殿で兄と共に神官見習として修行しており、兄はファランギースと恋仲であった。だが、尊敬する兄が神殿の不公正に絶望して挫折し、冤罪に問われた末に非業の死を遂げたことで神と人を呪い、蛇王の僕に転向した。 ザッハークの再臨後にデマヴァント山にあらわれ、魔軍によるチュルク侵攻後にイルテリシュの監視役をガズダハムから交代し、チュルクにとどまる。

グンディー
[第1部]
魔道士。「尊師」の弟子の一人。
[第2部]
エクバターナにて混乱を引き起こそうとするが、ダリューンに発見され捕縛される。
ガズダハム
[第1部]
魔道士。「尊師」の弟子の一人。
[第2部]
ザッハークの眷族となった魔将軍イルテリシュを管理する。ジムサの吹き矢によって片目を失う。魔軍によるチュルク侵攻後に、魔物を率いて大陸公路の要衝であるソレイマニエを襲撃するが、パルス軍によって返り討ちにあいパラフーダに討ち取られる。
アルザング
[第1部]
魔道士。「尊師」の弟子の一人。地行術(ガーダック)を得意とし、地中から不意を襲ってルシタニアの将軍やパルスの村人を殺害するが、ナルサスによって討ち取られる。
サンジェ
[第1部]
魔道士。「尊師」の弟子の一人。「尊師」よりバフマンが所有するヴァフリーズの密書を奪う命を受け、ペシャワールへ侵入するが、ナルサスの計略にはまって左腕を失う。後日再び現れた際には、右手を「毒手」(爪に毒を仕込み、ひっかいただけで相手を死に至らしめる)に改造していたが、ギーヴによって斬り落とされ、濠に落ちて溺死した。
プーラード
[第1部]
魔道士。「尊師」の弟子の一人。アンドラゴラス三世率いるパルス軍との決戦を前に、野外に陣を張るギスカールを拉致しようとするが、夜襲をかけて本陣まで攻め込んできたイスファーンによって討ち取られる。
ビード
[第1部]
魔道士。「尊師」の弟子の一人。
[第2部]
有翼猿鬼を率いて王宮に侵入し、アルスラーンを襲撃するが、ギーヴの妙技により失敗。自身は庭先に潜んでいるところをファランギースに発見され、ダリューンに討ち取られる。

伝説上の人物

英雄王カイ・ホスロー
およそ300年前に「太陽のかけらを鍛えた」といわれる宝剣ルクナバードを用いて蛇王ザッハークを打ち倒し、新しい王朝を築いたパルス現王朝の開祖。「英雄王」の名で知られる。王位に付いたが家庭的には不遇で、息子が兄弟同士が王位継承権をめぐって争い、さらにその弟の方と王位をめぐって争った。遺体は武装したままで蛇王を封印したデマヴァント山にルクナバードとともに埋葬された。
彼は蛇王に対し挙兵するに当たり、料理人を味方につけ蛇王に喰われる運命の男たちを毎日1人ずつ助け、代わりに羊の脳を蛇王に差し出した。そして1年の後に365人の兵を率いて立ち、長い戦いの末に遂に蛇王を打倒した。この故事に習い、パルスでは羊の脳を食わぬようになったと言われる(当然ながら隣国シンドゥラにはこの禁忌は無く、アルスラーン一行は知らずに食べさせられて後でげんなりした事がある)。
蛇王(へびおう)ザッハーク
1000年もの間パルスを恐怖で支配した王。両肩から蛇が生え、その蛇は人間の脳を喰らい毎日健康な男性が身分の別無く殺された。カイ・ホスローも殺すことはできず、デマヴァント山の地下に封印されたと言われる。その名は現在にあっても全てのパルス人の恐怖の象徴であり、どれほどの剛勇や英知を誇る者も例外ではない。
聖賢王ジャムシード
1000年以上昔にパルスを統治していた、「聖賢王」の名で知られる王。公明正大な王であったとされるが、長い治世の末に人心が荒廃し、蛇王ザッハークによって倒される。その名は後代にあっても正義と英知の象徴とされ、裁判などの際の「ジャムシードの鏡を見よ」という言葉は、真実は必ず明らかにされる、との意味。アルスラーンが即位して出生の秘密を公表した際、巷間にはアルスラーンはジャムシードの末裔であるとの伝説が流布した(無論根拠は全く無い)。
海賊王アハーバック
ギランの街に伝わる財宝伝説の元となった海賊。彼の残した財宝は金貨(デーナール)に換算して1億枚とも言われる。

※英雄王カイ・ホスローのモデルはペルシア伝奇上の英雄フェリドゥーンザッハークアジ・ダハーカ)、ジャムシードはそれぞれ同名の人物がモデルとなっている。詳しくはザッハークの項目を参照のこと。

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最終更新:2014年06月30日 19:04