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地下Ⅱ

 松明を携えた隊長に従って、石を溶かして固めたような不思議な材質の階段を降りていく。
 階段だけでなく、この通路全体――壁も天井も、この素材で出来ている。
 ――通称、地下石。
 降りながら、階段の段数を数える。
 二六段まで数えたところで、開けた空間に出た……地下世界に着いたのだ。
 段数から考えるに、この地下世界は比較的浅いようだ。記録によると、もっと深いところの地下世界もある――らしい。実地はこれが初めてだから、どこまで紙上の知識が役に立つものかどうか、わからない。いわく深いほど広い、浅いほど狭いそうだが……
 左右を見渡す。
 東西に長く伸びる、巨大な通路のような作りの空間だ。
 平屋がすっぽり入りそうな幅と高さで、松明が照らす限り、どこまでも続いている。これで狭い地下世界なのだろうか……こんな広大な空間が狭いなんて、そんなことがあるのだろうか。
 この巨大な通路のような空間も階段と同じ、地下石で出来ている。少なくとも、地下世界の建物の大半は地下石で出来ているという話は本当だったようだ。自分の知識がまず一個通用して、なんとなく安心した。
「ぼーっとすんな、退路の確保始め!」
「あっはい!」
 僕含め四人の隊員全員、初めて見る生の地下世界に圧倒されていたが、隊長の叱咤で我に返った。
 通路には、いくつもの四角い横穴が連なって空いている。
 そこにお宝が眠っているかもしれないし、罠が仕掛けられているかもしれないし、こちらから近付かなくても、なにか危険なものが飛び出してくるかもしれない。もしかしたら天井からなにか降ってくるかもしれない、それとも地面を突き破ってくるかもしれない――経験則を持たない俺達には、なにもわからない。常に死の危険を意識し、万全の体勢を維持しなければ。
 二人が警戒、二人が階段周辺を調べ、この階段が突然使えなくなりそうな仕掛けの有無を確認する。
「周囲に動くものはありません!」
「罠無し! 退路良し!」
 これでいざという時、階段まで後退すれば、地上に戻ることができる。
 隊長は俺達の手順を見て、満足そうに頷く。
「よろしい。では、ここから先は自分達で考えて動け。僕は見ているだけだが、いざという時は助けてやる」
「……え?」隊員四名、顔を見合わせる。お前自信ある? 俺はない……と言うたげな皆、戸惑った表情を浮かべていた。「ヒントとか、こういうものに気を付けろとか、そういうアドバイスとかなにかありませんか……?」と絞り出すとうに言った。
「アドバイスか――ふむ、目を食い縛れ、と言っておこうか」
「目を食い縛る?」
 意味がわからない。歯を食い縛れだったらわかるが、目を……?
「全員、呪い避けは装備しているな?」
「はい!」
「よろしい。呪い避けさえあれば、魔眼持ちのモンスターに遭遇しても問題無い。だが、魅了は別だ。呪い避けは魅了を防いでくれない――こっちの視線がトリガーになっているからな。かといって目を瞑って探索は出来ない。だから目を食い縛って、もし魅了持ちを直視しても耐えられるように気張っておけ。目を食い縛るって言葉の意味がわからないってことは、お前達、魅力をナメてるな? 魅了と即死の魔眼、どちらのほうが危険だと思う?」
 その言い分だと魅了のほうが危険そうだが――実際、俺はこちらと遭遇することを危険視していた。
「即死の魔眼のほうが危険だと思っていました」
「僕は魅了のほうが余程怖いよ。魅了は見た目だけで相手を洗脳する。ここまではお前達も知っているだろうが――具体的にどのような状態に陥るか、だれか答えられるか?」
 ぎくりとする。そういえば知らなかった。
 誰も答えられなかった。
「女であれば海老反り状態になって潮を吹き、絶頂と同時に想像妊娠しする。男でも海老反り状態になって連続写生し、絶頂と同時に想像妊娠する。そして快楽で廃人化、以降主人に従う奴隷と化す。それが洗脳されるということだ」
「ほ、本当ですか……?」
 俺の声は震えていた。
 本当だとしたら、呪い避けも効かないのにそんなえぐい能力だなんて――魅了持ちのモンスターに絶対会いたくない!
「本当だ。そうなったら可哀想だけど殺す他無い。地上に連れ帰って、然るべき治療を受けさせれば回復は可能だが、ここでは敵が増える前に殺す他無い。仲間に殺されたくなければ、目を食い縛っておけ」
「は、はい!」
 その時、東から「んほぉぉぉっ!!」という悲鳴が聞こえてきた。
 隊長が苦虫を噛み潰したような、忌々しい表情を浮かべる――
「言ってる傍から――どうやら先発隊が魅了に引っ掛かったようだ。生き残りの救助に向かうぞ」