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スペアリブ

 鼻歌を歌いながら、焼き上がりを待つ。
 オーブンの中でうっすら肉の乗った肋骨――スペアリブが赤く熱され、脂が滴り落ちている。
 ……良い肉質だ。
 豚肉でも牛肉でも鶏肉でもどんな肉でも、食用に適しているのはなべて若い雌の肉だ。
 柔らかく、適度に脂肪が乗っている。やはり、若い女の子は良い。
 この家はオーブンも良い。最新型で、最高温度が高いのが気に入った。
 最後に高温で炙って、焼き色を付ける。ちょっと焦げるくらいでちょうどいい。
 表面がぱりっと焼き上がったスペアリブの、べりべりと肉が骨から剥がれるあの感触がたまらなく好きだ。
「ありがとう、最高の夕食になりそうだ」
 テーブルの上で寝っ転がってる彼女に感謝の意を捧げる。
 彼女は何も答えない。腹を切り開かれ、肋骨を切り取られ、とうに死んでいる。
 テーブルも椅子も床も、なにもかも彼女の血で赤く染まっている。
 露わになった臓物から、異臭が漂っている――が、これも慣れれば雰囲気作りに一役買ってくれる。
 彼女の部屋。彼女の血。彼女の匂い。
 高尚な趣味とは言えないかもしれないが、低俗とも言い切れないはずだ。
 彼女の死が、この部屋に充満している。その中で彼女の肉を食べる……生と死の融合だ。
 オーブンから、電子メロディが流れる。調理完了の合図だ。
 オーブンの前蓋を開けると、むわっとタレの焼けた匂いが広がる。
 ……完璧だ。
 うむ、と自分で自分に頷く。
 大皿に装うべく、食器棚に手を伸ばした、その時――
 ピンポーン。
 と、チャイムが鳴る。
 居留守を使えばやり過ごせるだろう。じっと息を潜める。
 もう一度、ピンポーン。そして、ガチガチとドアノブを弄る音が聞こえ始め――
 ガチャン。
 鍵が開いて、玄関のドアが開く。
「あ、いい匂い。間に合ったようですね」
 若い男の声を聞いた瞬間、私は愕然とした。
 ここは彼女の部屋だ。間違いない。彼は合い鍵を使ったということだ。
 合い鍵を渡すような異性――彼氏以外、考えられない! なんということだ!
“一人暮らしを始めたばかりの真面目な女子大生”を食べる気分だったのに、ブチ壊しだ。
 処女に拘るつもりはないが、合い鍵を渡すなんて、あばずれじゃないか……台無しだ。なんということだ……
 玄関から廊下、足音が近付いてくる。
 彼女の解体に使用したのこぎりを握り締め、相手が姿を現す、その瞬間を待つ。とりあえず、殺そう。
 足音が近付いてくる。まだ、まだ……もうすぐ、もうすぐ……三、二、一……
「どうも、こんばんは」
 ――今だ!
 挨拶と同時、若い男が出てきた。
 のこぎりを振りかぶる。殺す直前、相手の顔を見る。
 若い――が、学生というほどではない。社会人か。笑顔を浮かべているが、目は笑っていない。営業職のような。
 サラリーマンのような、自己主張の控えめなスーツを着ている。何の為に持ってきているのか、スーツケースを携えている。
「おっと」
 男の反応は予想に反して俊敏だった。初めてのケースだ。
 振り下ろしたのこぎりを、なんと受け止められた。
「なっ!?」
 スーツケースの影に隠れて見えなかったが、この男ものこぎりを持っていたのだ。
 私の持っているものと似たような型ののこぎりだ。
「せっかちだなぁ、同業者ですよ、僕」
 と。
 鍔迫り合いを維持したまま、逆の手で彼はスーツケースを開いた。
 中から、ごろんと若い女の死体が出ている。
「……ほう」
 同業者――この男も殺人鬼、いや食人鬼。
 私はのこぎりを下ろした。
 彼は美味そうに見えないし、私も美味そうに見えないだろう。
 同業者であれば、互いに互いを殺すメリットは、ない。
 だが――
「何しにきた? どうやってここを?」
「苦労したんですよ」
「ほう、苦労ね……」
「ええ、そう……どうしても、勝負したくなって、ですね……」
「勝負だと?」
「はい。料理勝負です。どちらの人肉料理のほうが美味いか……勝負してみませんか?」
「条件次第だが、いいだろう。料理勝負なんてやったことないから、面白そうだ」
 人肉料理勝負。当然初めてだが、負けるつもりはない。
 スペアリブだけでは足りないな、今夜はフルコースだ。
 彼女の美味を残さず引き出そう、彼女の両親に誓って。