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襲撃

 朝、目が覚めた時、真っ先にやるべきことは襲撃の有無の確認だ。
 朝に限ったことではない。眠りから覚めたら、まず襲撃の有無を確認する。
 殺気や物音で目が覚めた時、眠いからと言って二度寝してしまったら? 当然死ぬ。こんな仕事に就いているんだから寝込みを襲われる可能性は零ではない。高くもないだろうが、たとえばもし寝込みを襲われる可能性が一パーセントだったとしよう。その場合、俺は一〇〇日以内に襲われる計算になる。その時、無様に眠りこけていれば当然死ぬ。可能性の高低に関わらず、ちょっとでも致死性の可能性があったらそれに備えないと最終的に間抜けな死に様を晒すってことだ。
 俺の場合、備えは腰元に置いた44マグナムだ。流石にガンベルトを巻いたまま、寝床に入るような窮屈な真似はしない。かと言って手元から離れたところに置いていたらいざという時、間に合わない。映画を見ていると枕元に拳銃を置くような描写が多々在るが、いざという時、枕元に手を伸ばすのを待ってくれることを暗殺者に期待しているのだろうか、あいつらは。だから俺は腰元。寝相は悪くないから、いざという時、瞬時に拳銃を掴むことができる。
 今、備えが役に立った。
 窓硝子が割れた? 目が覚めて、暗闇の中に気配。一人で眠っていたはず。
 他人様の寝室に勝手に忍び込むような知り合いはいないし、たとえもし知り合いだとしても勝手に忍び込むようなやつが悪い、殺されて当然。俺は瞬時に腰元の拳銃を掴むと、布団の中で引き金を二回引いた。
 銃声――心臓の鼓動が強まり、五感が鋭くなる。暗闇の中で倒れ込む人影が見えた。
 狙い通り頭に一発、腹に一発。撃ち抜いた手応えがある。だがしかし、この手応えってやつは「狙い通りの位置を撃てた気がする」「反響音等、視覚以外の情報で判断するに、標的の破壊を達成した気がする」等々――要するに気のせいだ。無意識下で複合的に判断していると言えば聞こえは良いが、気のせいは気のせいだ。だから、手応えがあったとしても気を抜かない。特に寝起きの無意識の判断なんざ信用出来ない。念の為に、もう一発撃ち込む。
 布団を蹴飛ばし、転がり落ちるように床に着地する。
 標的は動かない。立ち上がり、部屋の電灯を付ける。
 ――窓硝子の破片と、同業者の死体が転がっていた。
 あっけなく撃ち抜かれてる安っぽいボディアーマーとマシンガン。軍隊ではない。どこかの私兵と言った趣でもない。かと言って物取りにしては重々しい。個人で荒事を縄張りにしている類の人間の風体だ。つまり、同業者。俺は溜息を吐いた。
 どこかのだれかが、人を雇って俺を殺そうとしている。
 今日で終わりとは思えない。こいつの身元を洗って、雇い主を暴き出し、落とし前を付けさせるまで俺に安眠の日は来ない。
 クソッタレ、先週布団を新調したばかりなのに、もう穴が空いてしまった。なんせ肉体労働、休息は大事、寝床に出費は惜しまない……言ってみれば数少ない趣味のひとつなのに。とりあえずこいつの武器売り払って布団買おう。セキュリティレベルを上げたいが、そこまで懐に余裕があるかどうか。なにか適当な罠を仕掛けようか……割れた窓も、どうにかしないとな、板打ち付けりゃいいかな……死体を尻目に、とりあえず着替える。
 ズボンを履く。シャツを着る。上着を羽織る。ガンベルトを巻き付け、44マグナムを納める。勿論、装弾済み。ボディアーマーの類は着込まない。安物は簡単に撃ち抜かれる。よっぽど上等な装甲だったら頼りになるんだが、そんな嵩張るものを着込んだら抜き撃ち速度が低下してしまう。だから、このままでいい。
 さぁ、朝飯食ったら仕事だ。
 どこのどいつだか知らないが、人を雇って俺を殺そうとしたんだからきっと金持ちだ。命のついでに金も頂こう。