ジーク@Fate/Apocrypha&セイバー ◆z9JH9su20Q



 ――幸福な夢を、視た。



「――おい、帰るぞ。我々が遅くなるとゴルドがうるさい」
 放課後を迎えたジークが級友と語り合っていると、トゥールが帰宅を促しに来た。
 名残惜しさを感じながらも、ジークは「また明日」と別れを告げ、トゥールに従う。

「ふん、遅いぞこの不良どもめ。さっさと飯の準備を手伝わんか!」

 彼女と共にムジーク孤児院に戻れば、ちょび髭に丸々飛び出た太鼓腹のゴルド院長が早々に憎まれ口を叩きながら、弱火で温めている鍋の様子を伺っていた。
 食欲を掻き立てる匂いが、ジークの鼻腔を仄かにくすぐる。
「その腹の脂肪を削ぎ落せば、一人でも楽になるんじゃないのか?」
 ゴルドに辛辣な言葉を浴びせながらも、トゥールもそそくさとエプロンを取り出して彼の手伝いに加わる。ジークはゲームや漫画の話をしたがる年少の男子達の妨害を受けた分遅れたが、二人は互いの悪口に夢中でジークに興味はないようだった。
「喧嘩するほど何とやら……とは言うが」
 嘆息しながら野菜を刻み、テキパキと己の役割を進めて行く。続いて洗濯物の取り込みに向かう。
 院の中でも年長者として、何年もゴルドやトゥールと共に家事を担当しているのだ。淀みのない連携は、見事なものだと言えた。
 やがて、大きな食卓に並ぶ今夜の夕食。孤児院の兄弟達が集まって、共に食卓を囲む。
 相変わらずゴルドとトゥールは悪態を飛ばし合うが、血が繋がっていないとはいえ、あれなら反抗期の父娘の関係としては微笑ましいものだろうとジークは無視を決め込んだ。
 食事が終わって、風呂を済ませて。年少の子達を寝かしつけた後、自分もゴルドの下に就寝の挨拶に向かうと、まだトゥールと嫌味を言い合っていた。

「そろそろ飽きたらどうだ」
 思わず仲裁したジークだったが、ゴルドの対応は鼻を鳴らすだけだった。
「もう遅い。明日も学校があるんだから、俺は寝るぞ」
 ジークの言葉にトゥールもゴルドから離れ、それぞれの寝室に向かうことにする。
「――おい!」
 その時になって、ゴルドが背後から呼びかけてきた。
「……今日も、その、何だ。助かったぞ。まぁこの私が面倒見てやっているんだから、あのぐらいは当然のことだがな」
 このツンデレ院長め、とトゥールが苦笑していた。
 釣られて笑ってから、ジークは部屋に向かった。

 そうして、自室のベッドに身を預けながら、ジークは今日という日を反芻する。
 何も変わったことのない、平凡な、ありふれた幸せな一日だった。
 両親はいないが、親代わりにはあのちょび髭がいるし、この孤児院には血こそ繋がらなくともトゥールをはじめとする兄弟達がいる。
 何の代価もなく、自分は幸せだ。

 ――そんな風に思考してしまうことに、違和感の一つも覚えることなく。
 額から下ろした左手の甲が透けるように白いことにも。眠り就く前の心が、“奴”との邂逅を疑うこともなく、こんなにも穏やかであることにも。何の齟齬も感じられないでいる。
 やがてはそんなことも風化してしまうほどに、その日々は繰り返された。

 もし、ある日の偶然がなければ――少年はその無垢さ故、埋没したまま、消え去ってしまっていたことだろう。



   ◆



 偶然というのは、特に大きな出来事ではなかった。 
 ただ、今日は洗濯物を取り込む当番がゴルドで――数えてみると、タオルが一枚足りないことに気づいただけだった。
 だから夕食の後、そのタオルを探しにジークは外出して、庭の中、すぐに端っこの木に引っかかっているのを見つけることができた。
 回収した以上、後は戻って風呂に入り、ゴルドに文句の一つでも言ってから眠るだけで、今日もまた、いつも通りの一日として終了する。

 そう考えていたジークは、ふと、孤児院の前の道を誰かが歩いていることに気がついた。
 こんな時間に、珍しい、と――ジークはほんの少しだけ、書き割りを確認する程度の興味で以て、視線を足音のした方に巡らせた。

「――――」

 目にした一瞬で、魂を奪われた。

 驚嘆の息を吐き出すことさえもできず。憂いを帯びながらも凛然とした佇まいの、一人の聖女の姿をジークは見た。
 淡い月の光に照らされ、わずかに揺れる髪は金色の絹糸のよう。遠くを見つめる紫水晶(アメジスト)のような瞳は一切の迷いなくどこまでも清らかで、ただ目にしただけのジークに必要もないはずの罪悪感を抱かせた。
 そう感じてしまうほどに、彼女はひどく現実味が乏しい、幻想的な美しさを持っていた。

 ――この脳が痺れるような感覚を、自分は識っている。

 銀の甲冑に身を包んだその少女に目を奪われたのは、ジークにとって初めての経験ではなかった。

 何故、忘れていたのだろうか。忘れていられたのだろうか。
 少年は少女のことをよく知っている。彼女に導かれた、誇るべき過去を持っている。
 ――そのことを、思い出した。

 知らず、歩み寄ろうとしたジークに気づかぬまま。彼女は見据えていた彼方へと、魔法のような跳躍力で消えて行く。

「ル……ッ!」

 待って欲しい、と。少女に呼びかけようとしたその刹那、灼け付くような強烈な痛みが、ジークの自由を奪い去った。握力が消失し、握り込んでいたタオルが掌からすり落ちる。

 左手の甲に走ったのは、焼き鏝でも押し当てられたような、あの感覚。
 染み一つなかった白皙の甲に、初雪を踏み躙ったように黒が刻まれる。
 その三画の紋様こそが、奇蹟にして呪いを授けられたという契約の証。
 彼だけが持ち得た聖杯への挑戦権にして、類を見ない結晶生命。

 竜告令呪<デッドカウント・シェイプシフター>の発現と共に。何故それを己が獲得したのかを、それで何を成したのかを――ジークは完全に、取り戻した。

(……そうか。俺は――この戦いは――――!)

 そして、何故自分がここにいるのかという理解もまた、方舟<アーク・セル>の補助で成し遂げ。
 その瞬間――彼は月に、自らを望む資格があると選ばれる。
 月<ムーンセル>はデータベースを閲覧し、組み合わせるべきサーヴァントを検索する。結果、とある条件によって弾かれた者を除いた中、一際強く反応したサーヴァントに決定し、方舟へと遣わせた。

 魔力が編まれ、幻想を束ね肉体として構成して行く神秘の儀を、ジークは初めて目撃した。



   ◆



 純粋であるが故に何者にも染まっておらず、故に偽りの色にも染まりやすく。自己の蓄積がない故に、剥奪された自己に齟齬を覚えることもなく。それ故に、何にでもなれてしまえるから。
 ただ幸福に溶かされ、消えていく――NPCとしての埋没を半ば定められていたはずの魂が、ちっぽけなはずの過去を取り戻せたのは――そのちっぽけな彼の生涯に輝きを与えた、一人の聖処女の存在。

 少女(ジャンヌ・ダルク)は自分でも知らぬまま、もう一度だけ、少年(ジーク)の命を救っていた。

 …………全てを取り戻した彼の心を、大きく深く、癒せぬほどに抉ることを代償に。



   ◆



「問おう――――――って、お前がオレのマスターかよ!?」

 全身を鋼で包んだ小柄な騎士は、兜越しに喫驚した声をジークに浴びせた。
 ――その白銀の剣士のことを、ジークもまた、知っていた。

「“赤”の……セイバー?」

 ジークの問いかけに応えるように、重厚な兜が鎧と一体化するように二つに割れ、隠されていたその素顔を顕とする。
 少年とも見紛う、未だ性差が顕著に現れていないほどに若々しい少女の美貌は、やはりジークのよく知る物だった。
 ルーマニアの聖杯大戦に“赤”のセイバーとして参戦し、一度はジークとも剣を交え、後に同じ敵へと共に剣を揮ったサーヴァント。
 キャメロットの円卓に連なりながら、アーサー王伝説を終わらせた叛逆の騎士――モードレッド。

「何でオレのマスターがお前……っていうか、何でお前のサーヴァントがオレなんだ。ジークフリートじゃねえのか?」
「それは……多分彼が、もうここにいるからだろう」
 そうジークは、自らの手の甲を見せるようにしながら、左手で己の胸を指し示す。
 そこで変わらず拍動する心臓(いのち)は、ジーク本来のものではなく――命の恩人である、“黒”のセイバーから譲り受けた物だ。

「方舟は俺の持ち込んだ全てを返却しなければならない。この心臓と令呪もまた、NPCではない俺自身を成り立たせるために不可欠である以上、例外ではない。
 知っての通り、俺は“黒”のセイバーに変身することができる。その時のために、ムーンセルはセイバーとしてのジークフリートを保管しておかなければならないのだろう」
「だったら他のクラスで呼べるんじゃねえのか? あいつならライダーとか……というかライダーっていえば、お前にはあのバカもいるだろうに」
 彼らを差し置いて自分が宛てがわれたのが納得いかない、という様子の“赤”のセイバーに対し、少し考えてからジークは自己の見解を述べる。
「おそらくはそれもまた、俺が“黒”のセイバーとの繋がりを持つためだろう。俺という存在そのものがセイバーというクラスへの、触媒になっているのかもしれない」
 故に、ジークフリート以外のセイバーに該当する英霊が優先的に宛てがわれるのではないか、とジークは推測した。

 ――それでも、触媒があるのはジークが腰に帯びた剣の持ち主だった、“黒”のライダー(アストルフォ)も同じはずだ。
 にも関わらず、一度契約したという縁(えにし)もある彼に優先して、“赤”のセイバーが呼ばれた理由までは、ジークにも特定できない。
 少なくとも、何かジークと“赤”のセイバーを強固に結びつける要因がもう一つほど存在しなければ、確かにライダーとしてのジークフリートやアストルフォを差し置いた彼女の召喚は些か不可解にも思えた。

 だが意外なことに――この剣の由来を知らないからかもしれないが、ジークよりも先に“赤”のセイバーが納得の色を示す。
「それなら……確かに、お前と直接対面したセイバーで……」
 何かを言葉にしかけて、それに気づいた“赤”のセイバーが口を噤むのが見て取れた。
「――とにかく、オレが一番に呼ばれるのが自然ってわけか」
「不満か?」
 言い直す寸前、眉根を寄せていた“赤”のセイバーに、ジークはそう問いかける。
 対し彼女は、獰猛な笑顔で答えてみせた。
「いいや? 前のマスターには絶っ対に負けるが、お前もマスターとしちゃアタリの部類だろ。性格も能力も……向こう見ずなところが心配だけどな」
「……」
“赤”のセイバーに言われたくはない、とも思ったが――口にはしない方が賢明だろうと思える程度には、ジークは向こう見ずではなかった。
 確かに、あの獅子劫界離に比べ、自分がこの“赤”のセイバーの手綱を握れるかと問われれば返答に窮するところではあるが――

「――待て、“赤”のセイバー。今更だが、貴女には聖杯大戦の記憶があるのか?」

 本来、サーヴァントとは英霊本体の一部の情報を再現したものに過ぎず、厳密に言えば英霊その人ではない。
 サーヴァントが聖杯戦争において召喚され、新たに体験した出来事の記憶も、英霊本体の物にはなり得ないはずだ。
 正しく言えば、サーヴァントが敗れ座に帰った時に、その記憶は記録として英霊に蓄積され、次回の召喚時にも知識として保有してはいる、はずだが……

「まさか。俺が方舟にいる間に……貴女やルーラー達は、シロウ・コトミネに敗れたのか?」
「それについては知らねえよ。どうやらお前が方舟にアクセスした時点の観測結果までしか、こっちのオレにはあの世界の情報が還元されていないらしい」
 どういう意味かと尋ねると、“赤”のセイバーはムーンセルから与えられた知識をそのままジークに口伝する。

 ルーマニアと方舟で呼ばれた英霊モードレッド本体の情報が保管されていたのは、厳密には別の場所となる。聖杯大戦に“赤”のセイバーとして召喚された彼女の大元は、地球意志に内包される英霊の座。そして今ジークの前にいる彼女は、ムーンセルが観測し蓄積したデータベースから再現された存在だ。
 もちろん、保管されている英霊モードレッドの情報に差異はなく、どちらのセイバーも紛れもない彼女本人を完全に再現する。しかし、サーヴァントとしての体験を英霊本体の情報に還元するシステムが座と異なったために、聖杯大戦で“赤”のセイバーが健在でも、ムーンセルの英霊モードレッドは一時的に先んじてそこでの体験を知識として獲得できていたのだ。
 そしてそこまでの情報を反映して召喚されたのが、このセイバー・モードレッド。

「……何にせよ、元々ここはお前が居たのとは別の並行世界だ。時空を越えて連れて来られたなら、帰る時にも同じことぐらいできるんじゃねぇか? 今は気にしたって仕方ないだろ」
 そう知らされても、仲間達の安否を案じずには居られなかったのが顔に出ていたのか。モードレッドの言葉に、ジークは今は不安を閉まって頷いた。

 とにかく――存在を構成する情報から見れば、たった今気遣ってくれた彼女は紛れもなくジークの知るモードレッドであり……同時に全くの別人であるという、ややこしい存在であるらしい。

 だが――その秘めたる力と、胸に抱いた願いは、おそらくジークの知る彼女と何ら違うまい。
 ならば。

「……では、今俺の前にいる貴女に、“赤”という呼び名は不要だな」
 そうしてジークは、改めて自らの“セイバー”との対話に望む。
「セイバー。頼みがある」
「応、言ってみろ」

「貴女には……この月を望む聖杯戦争における、俺の剣となって欲しい」

 ジークの申し出に、セイバーは凶暴な――そして不敵な表情を浮かべる。
「良いぜ――ただし、一つ条件がある」
「……何だろうか」
 彼女の要求する内容の開示を、ジークは一瞬の逡巡の後に促す。セイバーはこちらの緊張を見て取ったのか、解すようにして笑った。

「簡単なことだ。お前の剣としてオレを選ぶんなら、そっちの剣は使うなってことさ」
 そうしてセイバーは、ジークの令呪を――ジークフリートの力を指し示す。
「お前の令呪は、お前のサーヴァントであるオレのために使え。オレ達の勝利のために――その誓いが条件だ」

「――――了承した」
 返答するまでに要した躊躇いの時間は、先程までより長かった。
「よし! それじゃあ改めて契約成立だな、マスター。よろしく頼むぜ」
「ああ――この聖杯戦争を止めるために、よろしく頼む」

「――――は?」

 数秒、セイバーが時の凍ったようにして硬直した。
「……おいマスター。笑えない冗談が聞こえたぞ?」
「冗談のつもりはない」
 答えた瞬間、セイバーの白銀の剣が額に触れていた。
 皮膚を切っ先が押すものの、破れてしまう寸前で止められているということ自体が、まずその冴え渡る技倆を知らしめる。
 加えてジークの動体視力を上回り、過程の欠落した魔法めいた早業。この身を以て体感していたことだが、改めて剣の英霊に相応しい剣捌きだ。
 そう思いながら、きっと彼の心臓でなければ既に停止していたのだろうと確信できるほどの圧迫感が、華奢な少女からの殺気として浴びせられる。

「――てめぇ、俺の願いを知っているはずだろ?」
「知っている。だからこそ、頼んでいる」

 一度己を殺した相手から浴びせられる、本気の激怒。
 だが、その殺意にも揺らがぬ心臓を賜っている以上――ジークはモードレッドのためにも、臆するわけにはいかないと決意していた。

「俺は空中庭園を追跡する日の朝――知らないうちに『ゴフェルの木片』に触れてここへ来た。殺し合いへの強制参加を承知していたわけではない」
「それで命が惜しいかっ!? とんだ臆病者、恥知らずのマスターだな!」
「――違う。同じようなマスターが、他にもいると思ったんだ」
 激昂し、いつ斬りかかってくるやも知れぬセイバーに、ジークは必死に言葉を掛ける。
「だがこの聖杯戦争は、最後の勝者以外は全員が消去される。ただ巻き込まれただけの者達まで、降りることも許されず、この聖杯戦争というシステムの犠牲者となってしまう。
 ――俺にはそれが、赦せない」

 人間が善か悪か、ジークにはまだわからない。アストルフォのように人間を好きになれるか、ルーラーのように人間を信じられるのかは、わからない。
 それでも、何の罪もない者に犠牲を強いるという不条理を、ジークは嫌悪した。し続けてきた。ユグドミレニアのホムンクルスの扱いを、人間の総体が作る地獄を。
 ならば、この月を望む聖杯戦争のことも、ジークは決して赦せない。
 かつてルーラーが、自分や同胞達を救おうとしてくれたのと同じように。ジークもまた、巻き込まれただけの被害者を見捨てたくないのだ。

「……善か悪かなんてうじうじ疑ってやがったくせに、お優しいこった……まぁ、お前がそういう奴だってことはわかっていたさ。だが、それでオレが願いを諦めなくちゃいけない理由がどこにある?」
「――俺の知っている貴女は、善き王になりたいと言った」
 セイバーの顔が、微かに歪んだ。
「覚悟を決め、戦場に立った騎士に全力で応じるは礼節だろう。だがただ巻き込まれた民草までを我欲のために屠るとしたら、それは貴女の望んだ王の所業ではない」
「――――っ!」
 言葉に詰まり、さらに数秒顔を歪ませた後――セイバーは、その剣先をジークから逸らした。

「はぁ……あーいいぜ、乗せられてやるよ。お前の言う通りだ。叛乱に討たれるような悪しき王になるのはオレの願いじゃねぇ」
「それでは……よろしく頼む」
「ああ……とはいえ、願いを叶えることだって諦めたわけじゃねえからな」
「それは、俺の世界の貴女に任せれば良い。聖杯大戦には、もう巻き込まれただけの被害者などいないし……何よりあちらの貴女には、俺よりずっと優れたマスターがついている」
「――ったく。言うじゃねえか、てめぇ。こりゃ確かに、いよいよここのオレはお前の剣になる他ない……だが、良いのか?」

 ガシガシと頭を掻いた後――今度はセイバーが尋ねて来た。
「この聖杯戦争に叛逆するってことは――あのルーラーとも敵対するってことだぞ」
「――――――――わかっている」

 ルーラーとは、聖杯戦争そのものに召喚されるエキストラクラスのサーヴァント。聖杯戦争そのものを守るために動く裁定者。
 聖杯戦争への叛逆は、その守護者である彼女との敵対を避けられない決断だ。

「それでも、俺の知っている彼女なら……こうすると、信じたい」
 令呪を得たところで、変わらずジークを被害者であると庇護し、導いてくれたルーラーなら……これが聖杯による定めなのだとしても、きっと、自分と同じ選択をするはずだと。

 さっき自分が見たのは、ジークが知るのとは別のジャンヌ・ダルク。おそらくはルーマニアの聖杯大戦についての知識もないはずの、限りなく近く、決定的に遠い別人なのだ。
 この聖杯戦争のルーラーは――“赤”のアーチャーの立ち位置から見た、聖杯大戦のルーラーと同じく。今のジークの立ち位置から見れば、敵対の避けられない『悪』、なのだ。

「そうか――なら、良い」

“あちら”を信じると決めて、“こちら”を討つと決めた。
“選別”という間違いではない、だが“選択”という罪を背負うという覚悟を聞いて、セイバーはジークとの問答を終えた。

「行くぞマスター。このクソッタレた聖杯戦争を止めにな」
「ああ。ただその前に――彼らに別れを告げさせて欲しい」

 勇ましく呼びかけるセイバーに合わせつつも、ジークはそう言って、ムジーク孤児院を振り返った。

「別れって……おいおい、そいつら別に本人じゃなくて、ただのNPCだろ?」
「それでも、俺にとっては――これまでの人生と同じぐらいの時間を過ごした、大切な人々だ。このタオルも、返しておかねばならない」

 頑として譲らぬジークに、セイバーはまた暫しの睨み合いの末根負けし、「早くしろよ」と促してくれた。
 ありがとう、と礼を告げ――今度は彼女と歩むために、ジークは幸せだった偽りの生活(ユメ)との決別に向かった。



   ◆



 まさか彼のサーヴァントになる日が来ようとは、全く以て予想外だった。
 そんな不思議な感慨とともにセイバー――モードレッドは孤児院に吸い込まれて行く背中を静かに、半ば呆れながら見守っていた。
 あの生真面目で、頑固で、無鉄砲なマスターには今後も手を焼かされることだろう。

 だが、それを面倒だとは思っても――不思議と疎ましく感じないのは、多分気のせいではないと、彼女は思う。

 おそらくは聖杯大戦での縁やセイバーのクラスという触媒の他に、ジークと自分を結びつけた要素――彼に伝えはしないが、同族(ホムンクルス)であるという事実がその一因だ。
 そして、だからこそつい先輩風を吹かせたあの会食がきっかけで、彼と同じような悩みを抱え始めたことも。そんな感情と、此度の召喚を呼んだのだろうと考える。

 彼は人間に、自分は王という在り方に。それぞれ持つべき認識を迷い、足掻いている。

 そんな精神の類似性もまた、ムーンセルにマスターとサーヴァントという『つがい』として選ばれた理由なのかもしれない。

「――だが、言っただろ。お前もアタリだが、前のマスターには負けるって」

 ただ、モードレッドはきっと、ジークの一歩先にいる。
 聖杯大戦でのマスター、獅子劫界離との語らいによって、自分の選ぶべき答えの見当を付けるところまで進んでいる。

 当たり前だ。同じホムンクルスだろうと出来が違う。しかもオレは騎士王の後継者となるべき英霊で、あいつは生まれて間もない赤子に等しいものなのだから。

 だから――

「お前と違って、オレが面倒を見てやる必要なんかなかったからな」

 見えて来た我が王道の実践も兼ねて――年長として、幼い同胞を手助けしてやるのも悪くはないだろう。

 モードレッドは始まりの夜に、そう密かに考えていた。



 それが、答えを求める二人のホムンクルスが。そして竜殺しと英雄殺しの二騎のセイバーが、月を望む聖杯戦争に叛逆した――運命の夜、だった。




【マスター】ジーク@Fate/Apocrypha
【参加方法】ユグドミレニアの隠れ家に施された魔術術式に利用されていた『ゴフェルの木片』への接触
【マスターとしての願い】
 罪もない犠牲者を出さないために、この聖杯戦争を止める。
【weapon】
“黒”のライダー(アストルフォ)の剣
【能力・技能】
ホムンクルス故、生まれた時点で一流と呼ばれる魔術師ですら及ばない一級品の魔術回路を有する。
魔術としては手で触れた物体の組成を瞬時に解析し、魔力を変質・同調させ、最適な破壊を行う『理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)』と呼ばれるアインツベルンの錬金術を元にした強力な攻撃魔術を行使する。なおこの組成解析は一度触れた物なら次からはその工程を飛ばして銃弾に傷をつけられる前に発動できるほどになるが、逆に解析から魔力の変質までの間に組成を変化させることで防がれたこともある。

黒のライダーから譲渡されている剣は曲りなりにもサーヴァントの武装であり神秘を帯びているため、能力面を考慮に入れなければサーヴァントを傷つけることも可能。


  • 『竜告令呪(デッドカウント・シェイプシフター)』
ジークの左手に発現した、全く前例の無い令呪。その全容は謎に包まれている。
その能力は名の通り、余命を削ることを代償に“黒”のセイバーに変身できるというもの。一画につき三分間限定で自らの体に英霊ジークフリートそのものを憑依させ、その身体能力、戦闘経験値、宝具を含む保存能力を完全具現化し、ジークの意志で行使することができる。
通常の令呪は使用する度に消えていくが、『竜告令呪』は使用後も聖痕のような黒い痣が残り、使用者に精神的な影響を与えるなどの異常現象を起こしている。



以下、「竜告令呪(デッドカウント・シェイプシフター)」発動時の“黒”のセイバー(ジークフリート)としての能力。

【パラメーター】

筋力B+ 耐久A 敏捷B 魔力C 幸運E 宝具A

【保有スキル】

対魔力:-
騎乗:B
黄金律:C-

【宝具】

『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具  レンジ:1~50  最大捕捉:500人

竜殺しを為した、黄金の聖剣。その逸話から竜種の血を引く者に対しては追加ダメージを与える効果を持つ。
柄に青い宝玉が埋め込まれており、ここに神代の魔力(真エーテル)が貯蔵・保管されていて、真名を解放することで大剣を中心として半円状に拡散する黄昏の剣気を放つ。
その威力は令呪の補助を受けた『我が麗しき父への叛逆(クラレント・オブ・ブラッドアーサー)』に、距離を詰めていれば打ち勝てるほどである。


『悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 防御対象:1人

悪竜の血を浴びることで得た常時発動型の宝具。
Bランク以下の攻撃を完全に無効化し、更にAランク以上の攻撃でもその威力をBランクの数値分減殺する。正当な英雄による宝具の使用がされた場合はB+分の防御数値を得る。
竜種由来の肉体強度と治癒能力が合わさり、Aランク以上の対軍宝具による一撃を耐えるほどの強固な肉体を誇る。
但し、伝承の通り、背中にある葉の様な形の跡が残っている部分のみその効力は発揮されず、その箇所を隠すこともできないという弱点がある。


【weapon】
『幻想大剣・天魔失墜』


【人物背景】

ユグドミレニア一族がアインツベルンの技術を流用して生み出したホムンクルスの一人。
本来サーヴァントへの魔力供給をマスターから肩代わりする消耗品として設計された量産品の一つだったが、奇跡的な偶然で自我に目覚め、“黒”のライダー(アストルフォ)の助力を得て脱走を果たす。
その後、追ってきた魔術師ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアの手にかかり、重傷を負うも、居合わせたアストルフォに糾弾された“黒”のセイバー(ジークフリート)が、自らの心臓を彼へ分け与えたことにより蘇生する。
この時から恩人であるジークフリートにあやかり、ジークと名乗るようになる。
サーヴァントの心臓を持つホムンクルスという歴史上類を見ない存在となった彼は、ただの人としてならば充分に長生きできるだろう生命力を得た。しかし『自由』を得ても自らの願いが分からず思い悩んでいた中、ルーラー(ジャンヌ・ダルク)との邂逅を経て、“黒”のサーヴァント達が自分を助けてくれたように、自分の捜索を命じられながら見逃してくれた同胞達を救う事を決心する。
そのために飛び込んだ戦いの中、“黒”のライダーに助勢しようとした結果“赤”のセイバーの剣に斃れるものの、“黒”のバーサーカーの宝具の余波で二度目の蘇生を遂げる。同時に『竜告令呪(デッドカウント・シェイプシフター)』を発現し、“赤”のセイバーと再戦。能力は万全でも、ジークの精神が追い付いていなかったことに加え令呪の補助を受けた“赤”のセイバーには敗れるが、“黒”のセイバーとしての耐久性に救われ生き残り、同胞の解放を成し遂げる。

その後は聖杯戦争を司る監督役たるルーラー、命の恩人であり無二の友でもあり、自らのサーヴァントとなった“黒”のライダーの助けとなるべく、自らの意志で聖杯大戦に参加。またホムンクルス達と和解したゴルドをはじめとするユグドミレニアの残党とも同盟を結び、共同生活を開始する。
しかし、そこに襲来した“黒”のアサシンにより同胞を殺められ、激しい憎悪から彼女の討伐に精力を注ぐ。
だが余りに無垢であった彼は、“黒”のアサシンが討ち果たされた際、その正体である大量の堕胎された子供達の怨念に見せられた世界の残酷さを知り、人間という存在について悩みを抱えるようになってしまう。

あるいは敵対するシロウ・コトミネの掲げる人類救済は正しいのではないか、と疑問を持ち、直面すれば話をしてみたいと感じながらも、彼らとの最終決戦が始まる朝を迎える。



【方針】聖杯戦争を止め、巻き込まれた被害者を救う。そのためならルーラー(ジャンヌ・ダルク)とも戦う。
※OPでのアサシンの警告に向かう寸前のルーラーを目撃しましたが、自分の知る彼女とは別人だと思いたがっています。ムジーク孤児院のNPC達(ゴルドとユグドミレニアのホムンクルス達)についても、本当にNPCだと思っていますが、真相はお任せします。




【クラス】セイバー
【真名】モードレッド@Fate/Apocrypha

【人物背景】
アーサー王の姉・モルガンが自身の妄執を成し遂げるために造り上げたホムンクルスであり、王と実の姉の不貞・近親相姦によって生まれた子。
当初は自身の出生について知らず、素顔を隠し続ける仮面の騎士として王に仕え、やがては円卓の末席に名を連ねる。
この時期の彼女は野心よりもアーサー王に対する憧れが強く、自らも立派な騎士たろうと努力する純真な人物だった。また、人間ではない自分を恥じてもいた。
しかし、モルガンより自身の出生の秘密を明かされ、これによりモードレッドは自身が人間でない負い目を、人を超越したあの王の息子である証として誇るべき、と考えるようになる。
そして、嬉々として王に自身を後継者にするように進言するも、モードレッドに王の器はないと判断したアーサー王は王位は譲らず、息子としても認めないと拒絶してしまう。
自身が王の宿敵であるモルガンの子供であるが故に拒絶されたと思ったモードレッドは、今までの愛情の反動で王に憎悪を向けるようになる。
こうしてアーサー王に叛旗を翻したモードレッドだったが、その根底にあった思いは、王に認めてもらい、ただ息子と呼んで欲しかった、という想いだけであった。
しかしその願いは遂げられることなく、予言通り父と相討ちとなる形で、アーサー王伝説に終止符を打つ役割を担った。

死後はその伝説から英霊となり、ルーマニアの聖杯大戦で獅子劫界離をマスターに、“赤”のセイバーとして召喚される。

シロウ・コトミネと“赤”のアサシンに危険な匂いを感じ取り、マスターと共に彼らとは別行動を取ることを選択し、単独で“黒”のアサシンやアーチャーとの交戦していた。
後に、黒と赤の総力決戦へと獅子劫を伴い参戦。ジークを一度は殺害するも、“黒”のセイバーとして復活したジークに逆襲を受ける。令呪のバックアップを以て圧倒するも、父の名を冠した宝具で絶命させることができず、また次からは“黒”のセイバーの力をさらに引き出して来るだろう彼に危機感を覚え、この手で殺す相手と定めるものの、戦場の流れで決着は棚上げとなってしまう。
その後は“赤”の陣営と正式に決別、ルーラーとユグドミレニア側のサーヴァント達と共闘し、“黒”のキャスターが造り出した宝具『王冠・叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』の頭部霊核を吹き飛ばして勝利に貢献する。
その後、ルーラーとユグドミレニアが組んだ同盟側と一定の距離感を開けながら共闘関係を結び、彼らと共に持ち去られた大聖杯を追うことに。

そんな中、最終決戦に向けての準備期間中、人間についての認識に悩むジークと偶然にも街中で遭遇。この際、元々彼の事情を知ってその気が失せていたところで、彼が自身に殺されたことを気にしていないと発言したことに譲歩して、自身の宝具で死ななかったことを許すと和解(?)する。
会食しながら、相談を持ちかけてきたジークを相手に人間のことを散々に扱き下ろすも、同席していた“黒”のライダーから自らの願いについて問い詰められたことがきっかけで、王となった後のことについて悩むようになる。
しかし獅子劫と語り合い、相互理解を深めて行く中で、偉大なる父すら超える王として在り方のヒントを掴みかける。



外見は二十歳にも満たぬ少女だが、父と似て女と呼ばれることを極端に嫌っており、やや粗雑で男性的な口調で話す。
性格は自信過剰で好戦的だが、高潔な精神も備えている。
ちなみに霊体化を嫌っており、普段は獅子劫に購入してもらった腹部を晒したチューブトップに真っ赤なレザージャケットを羽織って過ごしていた。



【ステータス】
 筋力B+ 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具A

【属性】
 混沌・中庸

【クラススキル】

対魔力:B
騎乗:B

【保有スキル】
直感:B
魔力放出:A
戦闘続行:B 
カリスマ:C-

【宝具】

『不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)』
ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
母であるモルガンから「決して外してはなりません」という言葉と共に授けられた兜。
ステータス情報の内、固有のスキルや宝具など真名に繋がる情報を覆い隠す。マスターの特権や真名看破のスキルも無効となる。
ただし『燦然と輝く王剣』の全力を解放する時は、兜を外さなければならない。


『燦然と輝く王剣(クラレント)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
アーサー王の武器庫に保管されていた王位継承を示す剣。
本来『勝利すべき黄金の剣』と勝るとも劣らぬ値を持つ白銀の宝剣であるが、モードレッドが了承なくこの剣を強奪したため、ランクが低下している。


『我が麗しき父への叛逆(クラレント・オブ・ブラッドアーサー)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:800人
『燦然と輝く王剣』の全力解放形態。発動に伴って白銀に輝きは赤黒い血に染まり、形も醜く歪む。
荒れ狂う憎悪を刀身に纏わせ、直線状の赤雷として撃ち放つ災厄の魔剣。

【weapon】
『燦然と輝く王剣』


【サーヴァントとしての願い】
選定の剣への挑戦……は聖杯大戦の自分に任せ、ここではマスターの剣として、巻き込まれた無辜の民を救出する。

【基本戦術、方針、運用法】
『剣士』のクラスに相応しい、全ての能力が高く安定感のあるサーヴァントとなっており、正面からの戦いで真価を発揮する。
普段の態度はやや粗雑だが、民草を犠牲にするのを嫌い、魂喰いをせず、それを行うサーヴァントや悪を憎む高潔な騎士であるため、なおさら策を弄するよりも真っ向勝負をさせる運用法が有効になる。
その一方で諸侯を言い包めて反乱を成功させてブリテンを崩壊させた過去から、策略家としての資質自体はあり、また『直感』と合わせて敵対者の秘めた危険性を見抜くこともできる。
そのため本人は危なっかしいジークの代わりに、自分が出会う相手の危険度を推し量り、助言や護衛をして行くつもりである。