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【4】


 どうやら、令呪の影響でマヨナカテレビの外へ飛ばされてしまったらしい。
 禍津冬木市とは対照的な風景に囲まれ、ライダーは溜息をついた。

「困ったわね」

 早く狭間の元に戻りたい所だが、生憎ライダーの身体能力は極めて低い。
 それこそ一般人同然である彼女の脚力では、移動には相当な時間がかかるだろう。
 第一、ライダー単独では電脳世界に転移することすらままならない。
 出来ることがあるとすれば、自宅でマスターの帰りを待つ事くらいだ。

 とはいえ、ライダーは特に焦燥感を抱いている訳でもなかった。
 マスターがサーヴァント並みの能力を所有している事は、これまでで十分解らされている。
 よほどのハプニングが起こらない限り、彼が斃れる事はないだろう。

 しかし、問題は彼が元の世界に帰還した後である。
 怪物と対峙していた時のマスターは、見るからに多大な精神ダメージを受けていた。
 あの様子から察するに、戦闘後もしばらく引き摺るのは間違いないだろう。
 それこそ、今後の立ち回りに影響を及ぼすおそれさえある。

(……悪い事しちゃったわね、拒むのも無理ないわ)

 狭間がどうしてセックスを拒んでいたのか、今のライダーには理解できた。
 あの反応からして、自分の前に現れた子供は過去の彼自身で間違いないのだろう。
 幼少期に母親と別離したという経験から、彼は心のどこかで愛情に飢えていたのだ。

 実を言うと、狭間を探している最中に目撃してしまったのだ。
 、「ぴちぴちビッチ」越しに、"影"の見せる幻影に怯える自分のマスターの姿を。
 勿論、彼がひた隠しにする過去も知ってしまったし、愛を嫌悪する理由も概ね察しがついた。

 狭間がそれを知ったら、烈火の如く怒り狂うのは容易に想像できる。
 最悪の場合狂乱した彼に殺されかねないし、恐らくそうなるだろう。
 だから、この事実はライダーの胸中に秘蔵されてそれっきりだ。

 けれども、ライダーは解っている。
 狭間偉出夫は、深層心理では愛を求めている。
 愛を求め、愛に裏切られ、愛を憎み、愛を嫌悪し。
 だがそれでも、今もなお心の何処かで愛を欲しているのだ。

 そうと決まれば、今後の立ち振る舞いも考えなければならない。
 狭間は恐ろしく強いのだから、自分が下手を打たない限り敗退はあり得ないだろう。
 時間はたっぷりあるのだ。ゆっくり手間暇かけて彼の心を氷解させればいい。
 セックスは本番だけが重要ではない。しっかり濡らす為の前戯だって同じ位大切なのだから。

「それじゃ、早く帰らないと……」

 そういえば、この街並みは「ぴちぴちビッチ」越しに見た事があったか。
 錯刃大学――以前ライダーは、この大学の生徒を何人か絶頂に導いた事がある。
 あの大学の付近が現在位置という事は、マスターの住居とそれほど離れていない筈だ。
 この程度の距離なら移動にさして時間はかからないだろうと、ライダーは家の方向に振り返って、












 そこでライダーは、はっきりと視た。
 こちらを見据える、暗殺者の英霊を。











 咄嗟に手鏡を手にして、自分の力を行使する。
 「ぴちぴちビッチ」を介した性技の前では、大抵の英霊は無力だ。
 なにせケルトの大英雄すら屈する程なのだから、こと性に関してライダーは無敵だろう。
 性技それ自体を無力化する力を持つ――そのたった1つのケースを除けば。

 手鏡に触れようとした瞬間、ライダーは自分の性欲がかつてなく昂ぶるのを感じた。
 覚えのある感覚だった。最初に行動を起こした時、大学で感じたものと同一のもの。
 つまりそれは、自分の性技自体が反射されているということであり。

「――――ッ!?」

 全てを悟った瞬間、手鏡を持つ腕が宙を舞った。
 こちらへ肉薄したアサシンに、忍者刀で腕を刎ねられたのである。
 残された片腕でどうにか相手に触れようとするが、彼の刃はそれより速い。
 ライダーの胸に一文字の傷が走り、血飛沫が吹き上がった。

 地面に立つ力を喪い、ライダーは膝から崩れ落ちる。
 白む空に血しぶきが上がり、自分の身体はおろか刺客の服すら赤く濡らしていく。
 致死量の血液が流れ出ているのは、誰の目から見ても明らかだった。

「見事な性技、だからこそ生かす訳にはいかぬ」

 血濡れの刺客が、再度忍者刀を構える。
 次の一太刀を以て、ライダーの首を撥ね飛ばす気でいるのだ。
 目下の脅威を決して仕損じる事なく、確実に息の根を止めるために。

 死が確定したこの瞬間になって、ライダーは思い出す。
 あらゆる技を反射するあの魔眼は、以前自分を撃退したアサシンのものではないか。
 彼のスキルか宝具の影響だろう。この瞬間に至るまで、その能力はおろか外見すら忘却してしまっていた。

 『ピロートークもせずに本番だけで帰っていく謎めいた男』。
 以前アサシンをそう評したが、こうして直接対峙すると言い得て妙だと自画自賛したくなる。
 己を殺し、常に影の中に潜む忍者の様であり、嗚呼、こういう男は本当に――――。

「相変わらず、クサい男ね」

 刃が振り下ろされ、舞台は鮮血に染まる。
 一瞬の果し合いは、こうして幕を閉じた。


 ■ □ ■



 まさか、二度目の生でも首を刎ねられるとは思わなかった。
 忍者刀が振り下ろされるその瞬間、鏡子は過去を振り返って自嘲した。
 一度目の死の時は知覚する時間さえなかったのだから、それよりかはまだマシなのだろうが。

 「死の瞬間は周囲の景色がスローモーションになる」という噂を聞いたが、あれはどうやら本当らしい。
 事実として、自分の首元に迫る日本刀の速度が酷くゆっくりに感じられるのだ。
 最期にこれまでを振り返る位は許してやろうという、神様の傍迷惑な思いやりなのかもしれない。

 後悔があると言えば、それはもう山ほどある。
 何しろほとんどセックスをし足りないのだ、欲求不満が全く解消されていない。
 "本番"は最初のランサー戦だけで後は前戯だけとは。"魔人"の名も涙を流すというものだ。

 けれど、中でも一番の後悔は。
 狭間偉出夫という少年を、あの世界に独りにさせてしまう事だった。

 本当の彼は孤独を恐れていて、誰よりも愛を求めていて。
 それなのに、恐怖から愛を遠ざけてしまっていて、そのせいで誰も近寄る事ができなくて。
 追いすがる誰かがいないと、きっと彼は本当に独りになってしまう。
 この聖杯戦争の舞台で、それが出来るのはきっと自分だけだったのに。

(ごめんなさい、マスター――――)

 無意識の内に、残された方の腕を伸ばす。性を貪る為でなく、孤独の皇の手を掴むために。
 一人だけではセックスはできない。"つがい"でなければ不可能な愛の証明だ。
 だから、孤独なあの手を掴んであげたくて、愛してあげたくて、

(――――抱いて、あげたかったのに)

 首元に冷たい感触が刺さり、そこで視界は暗転する。
 宙に伸ばした腕は、空を切るだけに終わる。 

【5】


 首を刎ねられたライダーの消滅を確認し、アサシンは忍者刀を鞘へと収める。
 周囲に殺気は感じられず、どうやらこの場にいたのは彼女独りだけだったようだ。
 いや、そもそも人の気配を感じていれば、こんな大胆な行動には出ていない。

 マスターであるHALからの情報で、性技を扱うサーヴァントの特徴は把握していた。
 眼鏡を掛けた平凡な女子高生で、一見すれば性に卓越したとは到底思えぬ少女。
 だが実物を目にすると、瞬時に察知する事ができた。あれは紛れもなく毒婦であると。

 性に関する技――つまりは房中術の脅威を、アサシンは十分すぎる程に知っていた。
 彼が率いた甲賀の忍の中には、発情する事で猛毒を分泌する女忍者がいる位だ。
 人間の三大欲求に訴えかける戦術は決して侮れない。事実として、その女忍者が猛毒を以て敵を仕留めた場面もある。

 故に、卓越した性技を持つライダーは確実に始末しなければならなかった。
 しかし、彼女のマスターがサーヴァントを超える超人であるのが問題だった。
 あの魔神の如き力を持つ少年を相手にするのは、アサシンの魔眼を以てしても困難を極めただろう。
 だがどういう事情があってか、ライダーはマスターを伴わずアサシンの視界に姿を現した。
 周囲を注意深く確認したが、罠の気配もない。これを好機と見ずに何と言うのか。
 こうした判断の元、アサシンはライダーを襲撃し、呆気なく打ち取ったのであった。

 しばし周囲に気を配るが、それでもなおマスターが姿を見せようとしない。
 これは一体どういう事かと疑問が浮かぶが、程なくして理由を推測できた。
 恐らく彼女は、マスターに一方的に縁を切られてしまったのだろう。
 あの魔神の如き少年の事だ、複数のサーヴァントを従える魔力量を有していても不思議ではない。
 何らかの事情でライダーを不要と見なしたマスターは、彼女との縁を切って追放したのだ。

(哀れな)

 片手で合掌の形を取り、今しがた葬ったサーヴァントを弔う。
 偽善ではある事は承知の上だが、しかし憐れまずにはいられなかった。

 それにしても。
 あの女が最期に向けた腕は、果たして自分へと向けられたものだったのだろうか。
 何らかの攻撃ではないかと一瞬肝を冷やしたが、どうやらそういう訳でもないようだった。
 もしや、彼女の差し伸べた先には、そこにはいない何かの影があったのではないか。

「……いや、知る必要もあるまい」

 これ以上他者の感情に踏み入る事は、無意味というものだろう。
 第一、女を殺したのは他ならぬ自分なのだから、それを知ろうなどとはおこがましい話だ。

 ただ、ひとつだけ言える事があるとすれば。
 伸ばした手は、もう何も掴めはしないという事だ。

【C-6/錯刃大学周辺/二日目・早朝】

【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク ~甲賀忍法帖~】
[状態]:健康
[装備]:忍者刀
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:勝利し、聖杯を得る。
 1.HALの戦略に従う。
 2.自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。
 3.狂想のバーサーカー(デッドプール)への警戒。
 4.戦争を起こす者への嫌悪感と怒り。
 5.魔神皇には引き続き警戒。
[備考]
※紅のランサーたち(岸波白野、エリザベート)と赤黒のアサシンたち(足立透、ニンジャスレイヤー)の戦いの前半戦を確認しました。
※狂想のバーサーカー(デッドプール)と交戦し、その能力を確認しました。またそれにより、狂想のバーサーカーを自身の天敵であると判断しました。
※アーチャー(エミヤ)の外見、戦闘を確認済み。

【6】


 比喩でもなんでもなく、全てが終わっていた。
 禍津冬木市の一角で、魔神皇はぼんやりと立ち尽くしていた。

 いつからは解らないが、ライダーとの魔力パスは既に消えていた。
 激情で正気を失っていた手前、その異変に気付けなかったのだ。
 この事実が何を意味していたかなど、最早説明する必要すらないだろう。

 手の甲に目を向けると、使用した令呪の痕跡が跡形もなく消えていくのが分かる。
 どうやら、令呪の所有数によって消滅までの速度が変わっていく仕組みになっているらしい。
 三画しっかり温存していればある程度の猶予があるだろうが、生憎自分は令呪を全て消費してしまっている。
 このままでは、ものの数分程度で自分の肉体は消滅してしまうだろう。

 他のサーヴァントと再契約するという選択肢もあったが、不可能だろうとすぐに切り捨てた。
 ほんの数分ではぐれサーヴァントを見つけるなど非現実的だし、第一令呪を全て失っているマスターに誰が従うというのか。
 別のマスターを殺すという手もあるが、これがより困難な道である事は言うまでもない。

 例え魔神皇であっても、聖杯戦争のルールには逆らえない。
 これまで脱落したマスター達と同じように電脳死するのは、確定事項だった。

(だから、なんだ)

 霧の世界を見つめるのは、どこまでも空虚な瞳。
 表情が削ぎ落された今の魔神皇の顔には、焦りも恐怖も示されなかった。

 自分でも驚く程に、何も感じなかった。
 まるで心臓にぽっかりと穴が開いたようで、そこからびゅうびゅう風が吹いているようだった。

(下らん。此処で消えようが消えまいが、最早どうでもいい話だ)

 未練こそあるが、今更悪あがきする気にもならない。
 元より、この世界の全てを消し去りたいと願っていたのだ。
 誰もいないこの電脳空間で消えるのは、望むところではあった。

 けれども、無言を貫いて消え失せるのはあまりに味気ない。
 例え消滅する運命だろうと、この身は神の力を宿した魔神皇である。
 この世界から消え去る間際、せめて何か一言遺しておくのも悪くない。

 そうだ、この聖杯戦争で戦い続けるマスター達にこう言い残そう。
 お前たちがどれだけ足掻こうが、この魔神皇の足元にも及ばないと。
 ここで消えるのを幸運に思うがいい――こんな台詞を、最期に尊大に吐き出そうとして、





「………………嫌だ」





 吐き出して、嘲笑おうとした、筈だったのに。
 口から出てきたのは、魔神皇の意思とは正反対のひ弱な言葉。
 消え入りそうな程小さなそれは、まだ弱かった頃の自分の声色で。
 まだこんな感情が残っているのかと戦慄するのを尻目に、唇は勝手に動き始める。

「こんなの、嫌だ。独りぼっちで消えるなんて、嫌だ」

 どれだけ止まれと理性(まじんのう)が望もうとも、本心(はざまいでお)は唇を動かし続ける。
 現状への絶望を、迫る死への恐怖、孤独への嘆きを紡いで止まらない。
 瞳からは涙がとめどなく溢れ、鼻からは鼻水が垂れ流され続けている。

「こんなの望んでない。僕は、優しくされたかっただけなのに」

 違う、こんな言葉は大嘘だ。そう叫ぶ"魔神皇"の言葉はもう届かない。
 恐怖する本心が拒絶する理性を圧し潰し、"狭間偉出夫"は独りで泣き叫ぶ。

 聖杯戦争からの脱落という事実は、狭間が纏っていた魔神皇の鎧に風穴を開けた。
 その穴から本来の弱い自分が溢れ出し、精神が決壊を起こしているのである。
 鎧を修復する術を持たない今の狭間は、ただ泣きはらす以外にやれる事など無かった。

 "真なる影"を決して認めるようとせず、力づくで拒絶したとしても意味がない。
 どこまで行っても"影"とはもう一人の自分であり、消え去る事などあり得ない。
 それは神の如き魔神皇とて同じこと。彼の中には、相も変わらず狭間偉出夫が生きていた。

「嫌だ……嫌だよぉ……!誰か、誰かいないの……!」

 辺りを駆けずり回っても、人間どころか生物の気配さえ感じない。
 今の禍津冬木市に生命など、狭間一人を除いて存在するものか。
 マヨナカテレビの世界で、彼は独りぼっちだった。

「誰か、だれか、だれか…………!!」

 走っていた最中に小石に躓き、無様に地面に倒れこむ。
 狭間は立ち上がろうともせず、そのまますすり泣きを始めた。
 そうしている間にも、死へのタイムリミットは迫ってきているというのに。

 神の力という強固な鎧を纏う事で、狭間はどうにか冬木の街を歩く事が出来た。
 それを取り上げられた以上、最早両の足で地面に立つ事さえままならない。
 鎧の中にいたのは、愛を求め、しかし愛に怯えて涙する赤ん坊だった。

「みんなどうしていないの……どうしてぼくをおいていくんだよ……」

 肉体が崩壊していく、精神が霧散していく。
 たった独りの世界で、誰にも看取られる事なく消えていく。
 不気味がる者も、嘲笑する者も、罵倒する者も、呆れる者も存在しない。
 かつて拒絶した繋がりの外側で、鳥や虫にさえ気付かれずに生涯を終えようとしている。

「いやだ……いやだよぉ…………」

 誰でもいいから、自分の傍にいてほしい。
 そう願ったその途端、思い浮かべたのは自分が召喚した少女の面影で。
 そこに来てようやく気付いた。あの少女は、一度たりとも自分を否定しなかった事に。

「ぼくを…………あいしてよぉ……いやだ……ぼくを…………」

 消滅の間際、虚空に向けて右手を伸ばす。
 こうすれば、ライダーが自分の手を掴んでくれるんじゃないかと思えて。
 けれど、霧の中に伸ばした手は、なんにも掴めなくて――――。 





「ひとりに、しないで――――――――」





 霧の中で、少年の慟哭が木霊して、消えた。





【狭間偉出夫@真・女神転生if... 消去】
【ライダー(鏡子)@戦闘破壊学園ダンゲロス 消滅】
※サーヴァント消滅からマスター死亡までの時間は令呪の数に影響します。
 3画所有していた場合は1,2時間ほど猶予がありますが、全て使用済みの場合は即座に消滅が開始します。









【0】


 自分の名を呼ぶ少女の声で、少年は夢から醒める。

「大丈夫?すごく苦しそうだったけど……」

 彼女の言う通り、少年は寝ている間ずっとうなされていた。
 しかし、少女の柔らかな視線を受けた途端、彼はみるみるうちに落ち着きを取り戻したのである。
 寝汗で濡れた額を手で拭いながら、少年は恐る恐る口を開く。

「怖い夢を見たんだ。僕が何もかも拒んで、独りぼっちで消えていくんだ」

 その夢は、きっと少年がこれまで見た中でも一番の悪夢だった。
 自分の願いを知らないまま戦って、ありもしない尊大な人格を組み立てて。
 身に纏う鎧を護る為に全てを喪って、鎧の中で泣きじゃくりながら死んでいく。
 それはきっと、あり得たかもしれない少年の未来だった。

「ねえ、レイコは此処にいてくれるよね?僕を独りにしないよね?
 怖い、怖いよ。眠っている内に、またいなくなっちゃうかもしれないって……!」

 少年の声色はおろか、痩せた身体さえも小刻みに震えていた。
 彼の体格は高校生のそれだったが、これではまるで小学生の様である。
 しかし、少女は何を言うまでもなく、少年の背中に手を回して、

「大丈夫、私はずっと此処にいるわ。貴方を独りになんてさせない」

 少女はそう言って、少年を優しく抱きしめた。
 何も知らない者がその光景を見れば、彼女を母親だと見紛うことだろう。
 少年を宥める少女の声と仕草は、それくらい温和で母性的だった。
 彼女の容貌は、それこそ抱きしめている少年とさほど変わらない位若々しいというのに。

「……悪い夢だったのよ。そんなの、"もしも"の話でしかないわ」

 少女の愛を受け入れて、少年の震えが止まる。
 それから少しして、彼女の腕の中から小さな寝息が聞こえてきた。
 酷く疲れていたようで、再び眠り込んでしまったらしい。

「……おやすみなさい、イデオ」

 少女は眠りに就いた少年を、ずっと抱きしめていた。
 彼氏を抱きしめる恋人の様に、赤子を抱える母親の様に。

 "if(もしも)"なんてありえない、永久に変わらぬ殻の中。
 少年と少女の"つがい"は、今日も幸せな夢を見続ける。



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最終更新:2019年11月27日 01:00