if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y




【0】





 我々がある人間を憎む場合、我々はただ彼の姿を借りて、我々の内部にある何者かを憎んでいるのである。


 自分自身の中にないものなんか、我々を興奮させはしないものだ。



                              ――――ヘルマン・ヘッセ







【1】


 「お前は私じゃないんだ」と。
 狭間は叫んだその途端、空間が水を打ったように静まり返る。
 すすり泣く少年の嗚咽すら聞こえない、彼自身が急に泣き止んだからだ。

「僕を、認めないんだね」

 狭間と同じ格好をした少年が、ぽつりと呟いた。
 それはまるで、狭間の言葉を待っていたかのようで。
 あるいは、彼がそう叫ぶのを知っていたかのようで。

「それなら僕も、みんなと同じ様に君を否定しよう」

 ゆらりと、その少年が立ち上がる。
 泣きはらした彼の顔は、服装と同様に狭間と瓜二つであった。
 けれども、そこには魔神皇の威厳などまるで感じられない。

 少年の表情が体現するのは、「陰鬱」の二文字だ。
 己の未来をひたすらに悲観し、周囲全てを恐れ続ける子供の顔。
 世界の悪意のただ泣きじゃくる事しかできなかった、醜い弱者の姿。
 狭間の心臓が早鐘を打つ。全知全能の魔神皇の額に、焦燥を示す脂汗が滲む。

「我は、影……真なる、我……」

 涙で濡れた頬が、ニィと釣り上がって。
 直後、何者か――"影(シャドウ)"の姿が一変した。
 ただのちっぽけな人間の姿から、見上げる程に巨大な胎児へと変異する。
 胎児の額からは、あのひ弱な"影"がチョウチンアンコウの触手の様に生えていた。 

 マヨナカテレビを訪れた者の前に現れるもう一人の自分、それが"影"。
 歪な怪物へと変貌するそれの正体は、ひた隠しにしてきた本性の具現化だ。

「神様気取りの弱虫を聖杯は求めない。さあ、仮面を捨ててお家に帰る時間だ」

 サーヴァントの霊基ではないものの、"影"の魔力量はそれに匹敵していた。
 ただの魔物の類と一蹴するには、目前の怪物はあまりに強力すぎる。
 本能的に驚異を感じ取ったライダーが、手鏡片手に臨戦態勢へ移行する。

 だがその一方で、マスターである狭間は何をする訳でもなかった。
 先の焦りは何処に行ったのか、小さな笑いを口から漏らすばかりである。
 一体どうしたのと、ライダーが彼に問いかけようとすると、

「は、はは……は、ははははははッ!!
 何かと思えば、とんだこけおどしじゃないかッ!!」

 先程までの焦りは何処へやら、狭間は勢いよく破顔した。
 彼は顔に手をやりながら、未だ見せた事のない程の大声で笑ってみせた。
 それはまるで、焦燥していた先程の自分をも嗤っている様にも見える。
 自分そっくりの影に怯え、不覚にも狼狽した自分の醜態を。

「……大丈夫なの?さっきは随分焦ってたみたいだけど」
「焦った?この私がか?何を馬鹿な。所詮ただの悪魔一匹、慄く方が馬鹿げている」

 事実として、狭間から見ればどんな存在だろうと弱者同然だった。
 なにしろ彼は、かつて奪い取った神霊の力をその身に秘めているのだから。
 ゾロアスター教の最高神"ズルワーン"、サーヴァント如きが何千騎挑もうが返り討ちにできる神霊そのもの。
 今の狭間はその力をセーブしている状態ではあるが、それでも戦うには十分すぎる。
 少なくとも、並みのサーヴァント数騎と互角以上に張り合う程度は容易いだろう。

 神を取り込んで手にした力を以てして、狭間は"影"を抹殺せんとする。
 例え相手がどれだけの力を持っていようと、難無く滅ぼせる絶対的な自信が彼にはあるからだ。
 皮膚が粟立つような不快感を抱えながら、魔神皇は同じ顔の怪物を排除しにかかる。

「丁度いい。この魔神皇の絶対たる力、その目に焼き付けておくといい」

 そう言って、狭間は右手の掌を前に翳した。
 そういえばライダーは、まだ魔神皇の力のほんの一端にしか触れていなかった。
 せっかくの機会だ、此処でサーヴァントをも超越する神の脅威を見せてやるとしよう。
 一撃で敵を屠る様を見せつければ、彼女も自分への認識を改めざるを得ない筈だ。

「『マハラギダイン』」

 そのたった一言で、霧まみれの世界が炎の色に染まった。
 狭間の掌から放たれた灼熱が、校庭いっぱいに拡散したからだ。
 標的にされた胎児は、為す術なく火炎の濁流に巻き込まれる。
 焔が過ぎ去った後には、消し炭すら残っていなかった。

 火炎を放射するアギ系呪文、その最上位に位置するマハラギダイン。
 魔神皇の膨大な魔力が合わされば、校庭を火の海にするなど造作もない。
 無論その直撃を受けてしまえば、例えサーヴァントだろうが灰燼に帰す運命だろう。

 「凄いわね」と感嘆するライダーを尻目に、狭間は踵を返す。
 所詮は低俗な悪魔の一匹、取るに足らない相手でしかなかった。
 不愉快な虫けらを滅ぼした以上、此処に居座っても意味がない。
 いや、意味があるどころか不愉快だ。こんな忌々しい場所で屯する必要など――。

「どうして過去を拒絶するんだい?そんな炎じゃ、アルバムは燃やせても記憶は燃やせないよ」

 歩き出そうとしていた狭間の脚が、止まった。
 弾かれた様に振り返ってみれば、そこにはあの胎児がいるではないか。
 外傷らしい外傷はどこにも見当たらない。何らかの呪文を使った形跡さえ見られない。

 「馬鹿な」という困惑した声が、狭間の口から漏れ出た。
 "真なる影"を名乗る不愉快な悪魔は、マハラギダインの火炎で跡形もなく消滅した筈だ。
 奴が業火に喰われて蒸発していく様を、この目ではっきり見たというのに。
 にも関わらず、どうして奴が五体満足で視界に映っている!?

「鏡を見れば鏡像が写る。日の下に出れば影ができる。
 同じことさ。僕は君なんだから、抱える力も同じもの。その程度の呪文で斃れるわけがないだろう?」
「貴様……ッ」

 胎児の言葉に含まれていた感情は、もう一人の自分に対する憐憫であった。
 その一句一句を耳に入れること自体が、狭間にとってあまりにも不愉快かつ屈辱的で。
 憤怒を孕んだ声色で「メギド」と叫んだのは、半ば反射的な行動だった。

 魔力で形成された核熱の炎が、一斉に胎児を襲う。
 それに対して、彼は動じることなく「マカラカーン」と一言口にする。
 胎児の前方に魔力を反射するバリアが発生し、殺到する魔力を残らず撃ち返した。
 魔神皇が産んだメギドの炎が、勢いを緩めることなく主へ牙を剥く。
 狭間は咄嗟にもう一度メギドを放つ事で、見事それを相殺した。

「他人から奪った力を、上っ面だけの力を振るうのは楽しいかい?
 どれだけ強い呪文を使えたって、心の脆さだけは変えられないのに」
「知った様な口を……私を魔神皇と知っての狼藉か!?」
「知ってるさ。僕は君の何もかもを知っている。
 君が歩んだ物語を、君が歪んだ過去を、君が欲しかったものだって―――」
「黙れェッ!」

 狭間が叫んだ途端、彼の足元から地面に罅が入った。
 周囲の空間が歪み、近くにいたライダーが危うく転びかける。
 暴力的な量の魔力が滲み出て、周囲に影響を与え始めているのだ。
 常人が彼の身体に触れようとすれば、魔力によって指が千切れ飛んでしまいかねない。
 それ故、性技以外は一般人同然のライダーでは、今の狭間に接触すら叶わなかった。

「どうして君は聖杯を獲りに来た?今の君なら、何だって思い通りだろうに」
「私を侮辱した連中への完璧な復讐を遂行する為だ!それ以上に何があるッ!?」
「違うね。君は力ではどうにもならない物が欲しいんだ。例えば――――」

 その言葉を遮るかの様に、狭間は呪文を乱発した。
 火炎が、電撃が、吹雪が、真空波が、核熱が、一斉に胎児を襲う。
 どれだけ強大なサーヴァントであろうと、直撃すれば死に直結する魔力量だ。
 襲い掛かる魔術の群れに嬲られ、再び胎児の肉体は四散した。

「もう一度言うよ。僕は、"狭間偉出夫"はその程度では滅びない。
 人よりずっと頭が良いのに気付けないなんて、よほど動揺しているんだね」

 けれども、その攻撃さえ徒労に過ぎなかった。
 狭間が瞬き一つした頃には、胎児の肉体はすっかり修復されていたからだ。
 傷など最初から受けていなかったと言わんばかりに、彼はその場に居座っている。
 一方の狭間はというと、こめかみに血管が怒張する程に憤怒を露わにしていた。

「く、下らん戯言をほざくなッ!貴様が、貴様が私な訳がないだろうッ!?」

 天才と謳われた少年らしからぬ、貧相な語彙の罵倒だった。
 目に見えて動揺している証拠であり、狭間は今や目の前の"影"で頭がいっぱいな状態にある。
 ライダーが何度も落ち着くように促すが、それを気に留める素振りすら見せない有様だ。
 傍らにいるライダーの匂いはおろか声さえも届かない程、狭間は乱心しているのだった。

「またそうやって自分を騙すんだ。それなら、僕にも考えがある」

 瞬間、目の前の赤子が急激にその姿を変えていく。
 ごぽごぽと肉を増やしていき、その身体を更なる異形に変えていく。
 今にも砕けそうな張りぼての翼を付けた、宙に浮かぶ芋虫であった。
 けれども、顔だけは泣きはらす人間の赤ん坊そのもので、それが余計に悍ましさを演出していた。

「ふざけるな……こんな醜い芋虫が、私だとでも言うのか……ッ!」

 僕は立派な蝶なんだと、成虫なんだと必死に主張する幼虫。
 自分を嘲笑うかの様な"影"の変化は、狭間の憤怒をより燃え上がらせるガソリンも同然だった。
 近づけないライダーが言葉で何度も呼びかけるが、今の彼にはまるで聞こえていない。

「教えてあげるよ。虚飾の剣では、這い寄る影には打ち勝てない事をね」

 刹那、胎児から影が放射状に広がり、驚くほどの速度で世界を黒色に塗り潰す。
 瞬き一つした瞬間には視界が埋め尽くされる程の勢いだ、呪文を唱える余裕すらない。
 マカラカーンを詠唱するより早く、影は狭間とライダーを飲み込んだ。


【2】


 視界が開けた時、狭間は人気のない廊下で立ち尽くしていた。
 傍らにライダーの姿はなく、どうやらこの空間に居るのは自分独りだけらしい。
 今自分の身に何が起こったか、聡明な狭間はすぐに察知する事ができた。
 如何なる方法を用いたかは知る由もないが、幻影に引きずり込まれたようだ。

 マヨナカテレビに出現した"影"の中には、相手に幻影を見せる個体もあった。
 例えば、とある少年は「仲間との絆を失う」という幻影を見せられ窮地に陥った事がある。
 狭間と対峙する"影"も、そういった能力を有していたのだった。 

「目を逸らす罪には、相応の罰を与えないといけない」

 どこかからか、あの"影"の声が聞こえてきた。
 自身は姿を見せる事無く、幻影だけで自分を苦しめる魂胆らしい。

「な、何かと思えば、低俗な幻覚で私を陥れるつもりか?」

 そう挑発する様に言い放つ狭間であったが、内心は穏やかでない。
 何しろ、今自分が立っている廊下には、良い思い出が全くと言っていいほど無かったからだ。

 知らない筈がない、記憶に焼き付くほどに目にし続けた光景だ。
 この場所は、忌々しいあの高校の――軽子坂高校の廊下そのものなのだから。

 全身の肌という肌が粟立ち、胃液が喉までこみ上げてくる。
 どうしてこの化物は、自分の忌々しい過去を知っているのか。
 まさか本当に、あれこそが"もう一人の自分"だとでも言いたいのか。
 在り得ない――あんな醜い芋虫が、魔界を統べる魔神皇の分身であっていい訳がない。

『……おい、聞いたか……』

 そんな時、背中越しに聞き覚えのある男の声が耳に入り込んできた。
 あのせせら笑う様な声色を、忘れたことなど一度としてあるものか。
 心臓を掴まれたような息苦しさを伴いながら、ゆっくりと振り返ってみれば、

『ハザマの奴、実は……だってよ』
『……ええっ、ホント!?』
『バカッ、聞こえるじゃねえかよ』

 身の覚えのない噂を囁き合うクラスメイト達の姿が、そこにはあった。
 張本人が近くにいるのも関わらず、彼等は侮蔑同然の噂話を止めようとはしない。
 それどころか、狭間にも聞こえるかのように声量を上げている節すらあった。

『……だとは思ってたけど……まさか……だとはね……』
『……いや、俺は……じゃないかと思ってたよ……』

 時折こちらの様子を伺いながら、陰口を叩き続ける少年たち。
 狭間に向けられる瞳の中にあるのは、おおよそ人に向けるべきではない嘲笑ばかりであった。
 彼等は分かっているのだ。例え大っぴらに暴言を吐いた所で、あの根暗は反撃などしない事に。
 だから少年達は、あの高校に通う生徒達は、狭間という弱者を嘲笑い続けて――――。

「――――――ッ!!」

 狭間が衝動的に放ったのは、マハラギダインの業火だった。
 少年達は消し炭さえ残さず消え去ったが、廊下には傷ひとつ付いていない。
 牢獄も同然だった軽井坂高校は、変わらず狭間を軟禁し続けていた。

「こ、こんな、こんなものを見せて、動揺を誘う気か……ッ?」

 狭間の顔色には先ほど以上に青くなっており、呼吸もより荒くなっている。
 さも気にしていないような言葉を吐いているが、冷静を装えてはいないのは明らかだった。

「辛いわけがないよね?過去は捨てたんだろう?」
「衆愚の営みなど、わっ、私には悉く汚物に等しいッ!」

 虚空から聞こえてきた"影"の声に、感情的になって言い返す。
 程度の低い罵倒を受けた彼は何に落胆したのか、深いため息をついた。
 案の定憐憫がたっぷり籠った吐息に、狭間のこめかみに静脈が青く浮き出る。

『――――やったじゃんアキコ!』

 背後から聞こえた女性の声に思わず振り返り、そして深く後悔した。
 狭間の視線の先にいたのは、辛苦ばかりの記憶の中で最も深く突き刺さった痛み。
 かつての彼が憧れていた女生徒が、明確に自分を拒絶した瞬間だった。

『ラブレターなんて、やるぅ』
『冗談じゃないわよ。ネクラなハザマの手紙なんて読むわけないじゃない』

 ちっぽけな勇気を振り絞って、意中の人に震えながら渡したラブレター。
 きっと想いが伝わる筈だと信じていた。嗤われる筈がないと思い込んでいた。
 けれど、手紙の形をした願いの結晶は、にやつきながら破り捨てられて、

『あーっ、ヒッドーイ!何も破り捨てなくったっていいじゃ――――』

 言い終わる前に、少女たちはマハラギダインの炎に呑まれていた。
 手書きのラブレター諸共、過去の痛みが灰燼に帰していく。
 狭間は燃え尽きるのを確認すらせずに踵を返し、そのまま逃げるように走り出した。

「人の世界に未練があった、だから神になれなかった。
 それなのに"皇"を名乗って王様気取り、虚しくならないのかい?」

 延々と続く廊下を走り続ける最中も、"影"は語り掛けるのを止めなかった。
 心の底から忌々しいが、彼の言っている事は間違っていない。
 無限の塔に鎮座するズルワーンを打ち倒し、神にも等しい力を得たまでは良かった。
 しかし、人への未練を理由に神に至る事が出来ず、神より劣る"皇"を名乗ったのである。

「人の世界に取り残しがあった。だけど背伸びしたって手に届かなかった。
 だから世界を滅ぼすなんて短絡的な思想に走るし、必要のない聖杯まで求め始めた」
「違うッ!私の未練は怨念だ、復讐を完遂してようやく人間と決別を――――」
「"独りで有る者に非ず"と言われたじゃないか。天才の癖にその意味がまだ解らないのかい?
 ……いや、違うんだろうね。解っていても認めたくないんだ、その言葉が何を指しているのかを」
「下らん事を……それなら貴様が答えてみればいいッ!」

 ズルワーンの力を取り込んだ時、内なる声は自分に「"独りで有る者に非ず"」と忠告した。
 あの頃は馬鹿げた言葉だと鼻で嗤いたい気分だった――この身が他人を必要としているものか、と。
 頂点は常に一人なのだ、そこに他者が介入する余地などある訳がない。

「いいよ、君の言葉通りにしてあげよう。ほら、君の目の前に、欲しかったものがあるよ」

 瞬間、空間がぐにゃりと捻じ曲がる。
 出口の見えない廊下から、かつて幾度も通った保健室に。
 これから何が起こるのか、聡明な狭間にはものの数秒で理解できてしまった。

『先生、僕は、僕は……もうだめだ……誰も僕なんか愛してくれないんだ……』

 保健室に居たのは、保険医の女性に情けなく縋り付く狭間その人だった。
 情けなく泣きじゃくる少年を、保険医は母親の様に宥めているではないか。
 狭間が小さく「やめろ」と零すが、彼は女性の寛大さに甘えるのを止めなかった。

『せっ、先生!僕を……抱いてくれよ!慰めてくれよ!お願いだ!』
『やっ、やめなさい!!ハザマ君やめて!!』

 そして少年は、狭間が見ているにも関わらず保険医に抱きかかった。
  唯一の理解者だった香山先生なら、自分を受け入れてくれるのではないか。少年はそう思い込んでいたのだ。
 だから自棄を起こしたように彼女に迫って、しかし拒絶されたのである。

『……聞いて、ハザマ君。あなたは生徒、私は教師よ。こんな事しちゃいけないわ……』

 生徒と教師という関係、たったそれだけの理由で、最初で最後の理解者に拒まれた。
 この人ならきっと自分を■してくれると思いこんで、けれどもそれは思い違いでしかなくて。
 欲しかった■にはもう手が届かない事に、そこでようやく気付いてしまって。

「あ――――あぁ――――!!」

 嗚咽しながら再演された過去へ手を翳し、しかし唇は呪文を紡ぐ事が出来ず。
 先程の様に焼き払う事もしないで、狭間はすぐさま保健室を飛び出した。
 けれども、この世界は"影"の作り出した裁きの世界。逃げた先に安息などありはしない。

『……貴方が恐れたのは、私の力ではない』

 保健室を抜けた廊下で待っていたのは、かつて契約していた「アモン」という悪魔だった。
 絶大な力が手に入るという「無限の塔」を訪れた狭間が、最初に出会った存在。
 ズルワーンを倒し神に等しい力を得た後、用済みとして封印していたのだ。

『私が貴方の心を知ってしまった事に怯えているのだ。私が貴方を哀れんだことに』
「お、思い上がるな!貴様らが、あ、足手まといだから、私は、お前たちを……!!」

 言い切る前に、狭間は衝動的に『ザンマ』の呪文でアモンの五体を引き裂いた。
 バラバラになった肉体が血液と共に廊下中に散らばるが、唇は動くのを止めようとしない。

『心を開かなければ、求める物が手に入る事はない……それさえ知らないとは、なんと哀れな……』

 その言葉を最後に、アモンの肉片は消滅する。
 狭間の顔はこれまで以上に蒼白になり、その色は今や死人めいていた。

「パトラ!パトラッ!パトラッ!!パトラッ!!!パトラッッ!!!!
 ……何故だッ!!何故消えない、こんな状態異常ひとつ、打ち消せない筈が……ッ!?」

 状態異常を治癒する「パトラ」の呪文を唱えても、世界は何も変わりはしない。
 そもそもこの幻覚は"影"の力であり、狭間は現在も健康体そのものだ。
 普段の彼であれば気付ける簡単な事実であるが、動揺しきった今の状態ではそれも叶わない。

「そんな事したって無駄さ。自分の力なら何でも出来ると驕っているのかい?」
「何が……何がしたいんだ……貴様は……ッ!?」
「まだしらばっくれるのかい?正直に言えばいいじゃないか」

 その時、顔は見えないというのに、"影"はニヤリと嗤った気がした。


「きみはただ、"愛"が欲しいだけなんだろ?」


 "愛"が欲しいと、影は嘯いて。
 その瞬間、狭間の脳裏に覚えのある情景が映し出される。


――――……僕は、この世に一人……。


 フラッシュバックしたのは、自分自身の過去だった。
 人間だった頃の忌まわしい思い出が、蓋をしていた筈の記憶がまざまざと蘇る。
 惨めだった自分、教室で独りぼっちの自分、ただ泣いてばかりいた自分。
 捨て去った日々の残滓が、否応なしに再生される。


――――僕はいつも一人だ……誰も僕を愛さない……僕は誰も愛さない……。


 違う、こんなものは魔神皇ハザマが持つべきものではない。
 こんな記憶はあり得ない、こんな過去はあってはいけない。
 思い出すな、蘇るな、現れるな消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ――――。

「違う――――違う違う違う違う違うッッ!!
 こんなものを私に見せるなッ!魔神皇の記憶に、こんな穢れがあるものかッ!」

 怒り狂った狭間が、我武者羅に呪文を乱打する。 
 最早彼自身ですら、どんな術を使っているのか分かっていない有様だった。
 魔神皇が持つあらゆる呪文が、虚像の世界を破壊せんとする。
 けれど、それでも校舎の窓は割れないし、廊下は罅割れすらしない。
 魔法の様な力を手にしたって、現実(せかい)は変わりはしなかった。

「僕は孤独だった、誰も僕を理解しないどころか、いつも僕を否定していた。
 どう他人に接すれば分からなかったんだ。どうすれば僕は愛されるんだろうって」
「奴等は私を理解しない馬鹿共だったッ!取るに足らない屑共だッ!」

 マハラギダインは最上級の火炎呪文。
 それにより生み出される業火は、あらゆる生命を灰に帰す。
 けれど、そんな力では過去を焼き切る事は出来なくて。

「香山先生は僕を受け入れてくれると信じていた。でもあの人は僕を拒絶した。
 当然だよね、教え子の僕とセックスしてくれなんて、到底受け入れられるものじゃない。
 見栄を張らずにいい子いい子してもらえれば、それだけで十分だったのに」
「これ以上口を開くなッ!貴様如きが、私を知り尽くした様な口を利くなッ!」

 マハブフダインは最上級の凍結呪文。
 それにより生み出される冷気は、あらゆる生命を停止させる。
 けれど、そんな力では過去を凍らせる事は出来なくて。

「お母さんがいれば、僕を愛してくれる人がいれば、僕はそれだけでよかったんだ。
 神様の力があればそれが叶うと信じたかい?そんな都合のいい話があるとでも?
 悪魔達は"魔神皇"の力にひれ伏しただけで、狭間偉出夫になんて見向きもしていないさ」
「愛など不要だッ!神聖なるこの身に、私という真理に!そんなものが必要あるものかッ!」

 ジオダインは上級の電撃呪文。
 それにより生み出される電流は、あらゆる生命を黒焦げにする。
 けれど、そんな力では過去を消し炭にする事は出来なくて。

「君のやるべき事は復讐なんかじゃない。ましてや聖杯なんて無用の長物だ。
 愛に飢えた君は、母に抱かれて眠るべきだったんだ。」
「貴様に……貴様に私の何が分かる!?全能たる魔神皇が、そんな子供の様な……ッ!」
「事実子供じゃないか、君は」

 ハマオンは上級の破魔呪文。
 それにより生み出される極光は、あらゆる生命を天に帰す。
 けれど、そんな力では過去を清算する事は出来なくて。

「愛など必要ないッ!!貴様が私である訳がないッ!!」
「ならどうして、君は性愛の化身を召喚したんだい?」
「そんなもの私が知るかッ!アークセルの嫌がらせに決まっている!」
「違うよ。君が望んだから彼女は来たんだ。君が彼女を求めたんだ」

 メギドは核熱呪文。
 それにより生み出される灼熱は、あらゆる生命を消滅させる。
 けれど、そんな力では過去を無かった事にすら出来なくて。

「彼女のセックスは正真正銘愛の証明だ。自分も相手も快楽に溺れる交わり、それを愛と呼ばずに何と言うんだい?」
「都合よく解釈するなッ!あんな誰彼構わず、せ、セックスする女などッ!」
「それなら香山先生に"抱いてくれ"なんて懇願しなければ良かったのに。
 セックスが愛に由来する行為だって、そう知ってたからあんな事言ったんじゃないのかい?」

 どれだけ呪文を撃ち続けたところで、"影"は姿を見せる事はない。
 勿論、廊下の様子も一切変わることはない。全ては徒労に終わっていた。
 魔神皇ハザマの暴力では、精神を揺さぶる"影"にまるで太刀打ちできなかった。

「もういいじゃないのか。駄々をこねた所で何も変わらないよ」
「黙れ……私は……わたしは…………――――」

 その時だった、狭間の付近の虚空から、少女のものと思しき腕が出現したのは。
 腕は狭間の股間にまっすぐ伸びていき、か細い指がズボン越しに男性器へ触れる。
 すると、彼は素っ頓狂な声を挙げて痙攣し、へなへなと跪いたではないか。
 真っ白なズボンは白濁液で濡れている。端的に言うと、射精したのである。


【3】


 糸の切れた人形めいた状態の狭間に、ライダーが駆け寄ってくる。
 言うまでもなく、彼が射精したのは彼女の仕業である。
 宝具である「ぴちぴちビッチ」で右手を股間に転移させ、一瞬の隙を突いて指で触れる。
 卓越しすぎた性技を持つライダーであれば、それだけで男を絶頂させる事が出来た。

「…………ライダー…………」
「大丈夫……とは流石に言えないわね」

 狭間の表情は、素人目でも一目で判断できる程に憔悴していた。
 ライダーの手で射精されたというのに、嫌悪がまるで見られない。
 そういった感情すら出せない位、彼の精神は損傷しているのだった。

 通常、ライダーによって絶頂した者には「賢者モードver鏡子」という宝具が発動する。
 この宝具の影響を受ければ、脳の処理能力が上がるなどの恩恵を長時間受けられるのだ。
 しかし、それでもなお狭間の意識は混濁したままである。要はそれほどのダメージなのだろう。

「ごめんなさいマスター、もっと早く見つけるべきだったのに……」

 ライダーはへたり込む狭間に肩を貸し、どうにか彼を立ち上がらせる。
 性技ひとつで英霊に至ったこの英霊は、性欲を調整するのも思いのままだ。
 そのため、今は肌を密着させてはいるものの、狭間が絶頂する事はなかった。

――――ごめんね、イデオ。あなた1人、寂しい思いさせて……。

 放心状態の狭間の脳裏に、ライダーのものとは異なる女性の声が響き渡る。
 確か以前にも、同じような言葉を掛けられた覚えがあった筈なのだが。
 それを思い出そうとする暇もなく、"影"による攻撃は再開される。

『ごめんね、イデオ……』

 狭間とライダーの目の前に、またしても幻影が現れた。
 母親と思しき女性が赤子を抱えながら、まだ十歳にも満たないであろう小さな子供を置いていく光景だ。
 少年は泣き叫びながら母の名を呼ぶが、当の母親は振り返りもせずに歩き去っていく。

『かあさん!行っちゃやだ!!なんで、ぼくをおいてくの!!行っちゃやだ!!』

 まだ小さな子供ではあるが、声色や容姿からして幼少期の狭間である事は明らかだった。
 そして、母を追い求めるその光景が何を意味しているのか、ライダーにだって理解できた。
 狭間が幼い頃に母親と別離し、それがトラウマになってしまっている事が。

「マスター、あなた……」

 何かを悟ったライダーが、こちらに視線を向けている。
 彼女の瞳に込められていたのは、いつもの淫靡な感情ではなく。
 孤独な少年を励ましたいと言わんばかりの、強い同情の念が浮かんでいて、








――――■■■とは久しぶりよね。そうよ、あなたの妹の■■■よ。









 だから、ライダーの瞳が重なった。








――――ずいぶん久しぶりだから、すっかり見違えたでしょう?
――――……■■■、さあ、兄さんに挨拶なさい。








 母との記憶の中にあった、あの少女の瞳が。









「や、やめろ」

 知っている瞳だった。

「そんな目で、私を見るな!」

 いつか見た瞳、子供の頃に目にしたあの瞳。
 母親の隣にいた少女の瞳が、まじまじと自分を見つめる様で。
 その視線が痛くて、辛くて、嫌で、たまらなく怖くて。

「こんなもの違う!私は、魔神皇たる私が、こんな……!!」

 瞬間、狭間は両の腕でライダーを突き飛ばす。
 腕に込められた力はあんまりに非力で、魔神皇とは思えぬほど貧弱だった。
 ただの女子高生程度の筋力しかないライダーとの距離は、ほんの僅かしか開かない。
 だから、彼女の■■■そっくりの瞳は一切曇る事がなくて。

「ちょ、待ってマスター!落ち着いて――――」
「う、うるさいッ!"黙れ黙れ黙れッ!"」

 狂乱状態の狭間により、二画目の令呪が発動する。
 「黙れ」という命令を強制され、ライダーは閉口せざるを得なくなる。
 それだけでは終わらず、狭間の所持していた最後の令呪が紅い輝きを見せると、

「私の、"私のッ!目の前から、消えろォォォォッ"!」

 その命令が意味するのは、明確な拒絶の意志であった。
 想定外の言葉に衝撃を受けたライダーが、狭間に向けて手を伸ばす。
 「そんなつもりじゃなかった」と弁明しようにも、口を開く事は出来ず。
 だから今は、彼の手を掴んで意志を伝える事しか方法が無くて。

「――――――触るなッ!」

 その伸ばした手を、狭間は腕を払って弾き飛ばした。
 怯えと恐怖が入り混じった、今にも泣き出しそうな表情をライダーに見せながら。
 彼女の想いを、彼女の優しさを、彼女の愛を、再度拒絶したのだった。

 狭間が最後の命令は正しく行使され、ライダーの姿がその場から掻き消える。
 令呪の強制力により、彼女はこの空間から無理やり弾き飛ばされたのだった。

 ライダーが行方を晦まし、再現された軽子坂高校には狭間一人だけが残る。
 それを好機と見たのだろうか、荒い呼吸音を立てる彼の前方の空間が歪み始める。
 その歪みから這い出てきたのは、狭間を陥れたあの芋虫、もとい"影"だった。

「どうして拒むんだい?彼女ならきっと、君を受け入れてくれたのに」
「……セックスに耽る女など、此方から願い下げだ」
「そうか。君にはそうとしか見えなかったんだね」

 やはり憐れむ様な口ぶりだったが、もう狭間は何の反応も示さなかった。
 視線を下に向けて座り込む彼は、黙り込んだままで口を開こうともしない。
 ほんの少し前であれば、ムキになって反論していた筈だというのに。

「でも構わない。僕は君を赦してあげる」

 弱り切った狭間を尻目に、"影"の顔つきが変異する。
 まるで粘土を捏ねたみたいに、顔がぐにゃぐにゃと歪んでいき、

「貴方はただ愛してほしかっただけ。抱きしめてほしかっただけなのよ」

 不細工な赤ん坊だった"影"の顔は、顔立ちの整った美人になっていた。
 声色さえ変わってしまっている。当初は狭間と同じだったのに、今では女性のそれだ。
 顔を上げてそれを目にした狭間の瞳が、大きく見開かれる。
 彼が見紛う事はない、その美人の顔とは、保険医の香山そのものだったのだから。

「だからね、イデオ。もう全てやめてしまいましょう?
 あの時は駄目だったけど、今ならいいわ。貴方を抱いてあげる」

 唯一の理解者と同じ顔と声で、"影"は狭間に諦観を促す。
 疲弊しきった彼を、快楽の道へと引きずり込まんとする。
 きっとこれこそが、"影"の最終目的だったのだろう。
 精神を徹底的に凌辱した末に、抱擁という形でトドメを刺すつもりでいたのだ。

 狭間はしばらくの間、彼女を見つめて。
 そして、小さく口を開いた。

「もういい」

 狭間の口から出てきたのは、先程とは打って変わって底冷えするような声だった。
 この世の一切に対する興味を失ったような、どこか空虚さすら感じさせる声色。
 その声に色を付けるのだとしたら、きっと今の彼の瞳と同じ、光をも飲み込むような黒色なのだろう。

「お前が、私の影を名乗るなら。"狭間偉出夫"の影を名乗るのなら」

 立ち上がった狭間は、虚ろな瞳で再度"影"を見据える。
 じっくりと目の前の怪物を観察していき、やがて彼は一つの結論を出す。
 やはり、あり得ない。こんな醜い姿が本来の自分などと。
 あんなものは所詮、自分を陥れる為に作られた虚偽の産物でしかないのだ。
 ならば証明してやろう。あの芋虫などではなく、"魔神皇"こそが真の自分だという事実を。

「そんな幻想は、この"魔神皇"が破壊する」

 狭間の肉体が変容する。痩せこけた少年から、刺々しい冠を被った聖者の如き姿へと。
 信心無きならず者でさえ畏怖すら覚えるこの姿こそが、本来の魔神皇である。
 ズルワーンの力を解放した、正しく神の如き権能を振るう形態であった。
 この形態であれば、この聖杯戦争に存在する全てのサーヴァントを相手取る事さえ出来るだろう。

 そうとも知らず、"影"は幾つもの大魔術を敵に向けて撃ち込み始めた。
 それら最上級クラスの魔術の一切を、魔神皇は躱す素振りすらせず受け止めていく。
 無論、脆弱な"影"の攻撃如きでは、皇の玉体が傷つく筈もなかった。
 いや、例え神が造り上げた兵器だろうと、彼に痛みを与えるのは難しいに違いない。

 魔神皇はゆっくりと"影"に向けて歩き出す。
 彼にとっては、わざわざ歩まずとも「メギド」と一言唱えれば即死する様な雑魚である。
 しかし、あの敵だけはこの手で直接始末しなければならないと、本能が訴えていたのだ。
 その意志を抱いた理由からは、今もなお目を背け続けながら。

「どうして否定し続けるの?」

 答えない。

「愛されたいと望むのは、悪い事なんかじゃないのよ?」

 答えない。

「聖杯なんかいらないの。独りは嫌だって、そう言ってくれるだけでいいのよ?」

 答えない。

「神様の力なんて捨てて、私とひとつに――――」

 問いかけは、頭部を両手で鷲掴みにされた事で中断される。
 最後まで口を開かないまま、魔神皇は"影"の元に辿り着いたのだった。
 "影"は香山と同じ顔を保ったまま、微笑みながら相手を見つめている。
 魔神皇は眉一つ動かさない。そもそも動かすような部位がない。

「消えろ」

 魔神皇は躊躇う事無く、香山の顔を果実の様に握り潰した。


【3】


 "影"を滅ぼした瞬間、景色は最初の校庭に戻っていた。
 魔神皇の肉体も、本来のものから少年のそれへと戻っている。
 焼け焦げた跡さえ見当たらない校舎を見て、魔神皇は全てを理解した。

「……なるほど、全てが幻影だったという訳か」

 恐らくは、"狭間の影"が最初に変異した時点で幻覚に取り込まれていたのだろう。
 だからこそ、どれだけ攻撃を受けてもすぐさま再生する事が出来たのだ。
 冷静さを失っていたせいでそれに気付けないとは、とんだ失態だと自嘲せざるを得ない。

「悲しいね」

 自分の傍らに"狭間の影"が立っているのに、そこでようやく気付いた。
 ほんの少し前であれば顔を顰めただろうが、今の魔神皇はもう何の反応も示さない。
 顔が同じだけの別人が何を言おうが、単に不愉快なだけでしかなかった。

「貴様がどれだけ何を吐こうと、あんなものは私ではない」

 魔神皇は魔界を統べる皇。下賤な愛を求める理由などあるものか。
 魔界を意のままに支配する神の如き力の前では、愛など所詮塵芥も同然なのだから。
 だから、魔神皇たる今の自分が、そんな感情を欲している訳がなくて。

「お前が、私である訳がない」

 その一言は、まるで自分に言い聞かせるようだった。

「それが君の選択なんだね、"魔神皇"」

 それでもなお、"狭間の影"は相変わらず憐憫を止めなかった。
 魔神皇はやはり答えない。これ以上会話を続ける意味を感じなかった。
 断じて、自分の答えが揺らぐのを恐れている訳ではない。

「だけど、この聖杯戦争は"つがい"を求める闘争だ。
 アークセルは独りで戦う君を決して望まないし、求めもしない」

 魔神皇が"狭間の影"に向けて掌を翳す。
 未だ燻り続ける"影"の息の根を、今度こそ止めるために。
 幻覚の中ではものの数秒で蘇生されてしまったが、現実世界なら話は別だ。
 たった一言呪文を唱えるだけで、狭間そっくりな男はこの世界から消え失せる。

「さようなら孤独の皇。君はもう、永遠に独りだ」

 刹那、"狭間の影"を『マハラギダイン』の火炎が包み込む。
 英霊すら焼き焦がす業火に喰われ、影は痕跡すら残さず消滅した。
 まるで最初からそんなもの存在しなかったかの様に、何一つ残りはしなかった。

 全てが終わり、魔神皇はふと校舎の方へと目を向けた。
 学校に備え付けられた窓に、自分の顔がうっすらと映っている。
 目も鼻も口もあるのに、何故だかのっぺらぼうみたいに見えた。


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最終更新:2019年06月14日 01:37