カイロスの前髪は掴むべきか? ◆7DVSWG.5BE
夕焼けで赤く染め上げられていた校舎の色が薄くなり始めた夕暮れ時。
普段であれば吹奏楽部の演奏、運動部の掛け声で学校周辺はある程度賑やかだ。
しかしそれらは聞こえない。
耳をすませば代わりに集団下校をする生徒達の話し声が聞こえる。
「しかし爆発って化学室かどこかで何か実験でもしてたのかよ。なんかマンガみたいだな」
「でも爆発したのは中等部の3-Dの教室らしいぜ」
「マジかよ。じゃあテロか何か?それってヤバくね」
「でもここまで大事になったから二三日は休校かもよ?」
「そうなったらいいけどな」
紫髪の女性はすれ違った男子生徒ふたりの雑談に聞き耳を立てるが特に有益な情報を含んでいるわけでもないので、二人の会話を聞くのはやめ下校する別の生徒へ観察の意識を向ける。
視覚で、聴覚で、嗅覚で、それらを総動員させる。
目当ての人物を捕捉するために。
武智乙哉は校門から十数メートル離れた先で待ち構えていた。
◆
『私は第一案を推す』
『あたしは第二案でいきたいな』
お互い念話で自分の意見を主張する。
喫茶店内は緩やかな空気に包まれていた。
普段はもう少し客入りも良く店内は活気があるが集団下校のせいで客は疎らだ。
そして客入りが少ないせいか店員が気を緩めておりそれも店内の緩やかな空気の形成に一因になっている。
しかし二人の表情は少しだけ険しく周りの空気は店内の空気と違い少しだけピリピリとしていた。
お互いの主張は対立する。
二人は話し合いで今後取る行動三案を決めた。
1.寺の調査、
2.ほむら襲撃犯と春紀の出待ちと尾行
3.帰宅
吉良は寺の調査を優先すべきと主張し。
乙哉はほむら襲撃犯、春紀を発見尾行するために学校で待ち伏せすることを提案する。
二人ともお互いが主張する案の利点も理解していたが、乙哉は自分の案を譲るつもりはなかった。
2案を主張したのはほむらを襲撃した犯人を捜したい。
それももちろん有る。
それと寒河江春紀を早急に始末しておきたかったからである。
理由としては自分をマスターと認知している。
そして自分の本性を知っている可能性があるからである。
武智乙哉のアサシンとしての最大の長所はコミュニケーション能力といえる。
快楽殺人者である自分の本性を欠片も見せることなくターゲットに接近。
友好的に接し、相手に好感を持たせ警戒心を解かせてから後ろから襲い切り刻む。
その社交的で明るい性格は他人が見れば多くの人間が好感を抱くだろう。
だが快楽殺人者という本性が知られていたら?
聖杯戦争に参加しているマスターにも殺人をおこなったことがある人物は複数人いる。
ある者は金のため、ある者は自分の目的のために。
そして武智乙哉は自分の快楽のために殺人をおこなう。
そこに必要性も理念も信念も何もない。ただ自分の快楽のために殺す。
人間の社会において最も忌むべき行為を快楽のために平然と実行する。
そんな人間の心情を誰が理解できようか。
理解できるとしたら同じ快楽殺人鬼だけである。
乙哉の本性を知ったマスターがいたら間違いなく嫌悪感を示し警戒し関わりを持たないだろう。
相手が最初から関わり合いを持つ気がなければコミュニケーション能力が高い乙哉といえど取りつく島もない
それは武智乙哉の最大の長所が封じられることになる。
そして寒河江春紀が存在することによりその可能性は常につきまとう。
春紀が他のマスターと対峙した際に春紀がそのマスターを殺せば別に問題ない。
ただ仮に春紀が他のマスターと同盟関係を結び、情報交換をするときは自分の存在を知られた今ならこう言うだろう。
「武智乙哉は快楽殺人者だ。気をつけろ」
もしそれを知ったマスターが別のマスターに自分の本性を伝えられたら、情報は拡散される。
それがこの聖杯戦争において後々大きな傷になるかもしれない。
乙哉はそれを危惧していた。
『あたしがマスターと知っているのもそうだけど、本性を知っているかもしれない人は早めに始末しておいたほうがいいと思うんだよね。
何かとめんどくさそうなことになりそうだし』
乙哉の意見を聞いた後吉良はコーヒーカップを皿に置き、数秒間考え。
『マスターの本性を知っているか……
そうだな、あの女は早めに始末したほうがいい。
マスターの案を受け入れよう』
乙哉の案を受け入れることにした
『あれ?寺の調査はいいの?』
もう少し食い下がると思っていたが、自分の案にすんなり応じたことを意外に感じていた。
『確かにあの甲冑のサーヴァントは要注意だが、私がサーヴァントと知られたわけでは無い。
あの主従の容姿と所在地らしき場所を確認できただけで良しとしよう。
寺に行くにしても今日の夜や明日でも行ける。
ただ君の本性を知りマスターと認識している人間を始末するほうが重要と考え直しただけだ』
乙哉はふ~んと言いながらコーヒーを口につける。
本音を言えば吉良は今すぐにでも寺に向い聖白蓮の手を頂きたかった。
だが自分の案を通せば乙哉の案を棄却することになる。
自分の案を棄却されたからといって明らかに気分を害する人物ではないのは短い付き合いではあるがわかっている。
だがこれをきっかけに関係に亀裂が走るかもしれない。
別に仲良しこよしでいたいというわけではないが聖杯戦争で意思疎通がとれなくなるのは明らかに不利になる。
それに乙哉の不安は同じ殺人鬼としては分からなくもないとは思っていた。
そして乙哉の案に従ったのは最大の要因は生前の失敗を考えてのことだった。
川尻浩作に成り代わっている時に欲望に耐えきれず衝動にまかせ殺人をした。
だが吉良を疑っていた川尻早人に殺人現場を目撃され、それが命を落とした原因の一つになってしまう。
自分の欲望のままに生きていけるのは強者の証しである。
スタンド能力で犯行の証拠を消し、自分の欲望のままに15年間女性を殺し続けた吉良は杜王町では間違いなく強者だった。
だがこの聖杯戦争では吉良は弱者に分類されていると自覚している。
故に自分の欲望を抑え込む。
『じゃあ校門で待ち伏せするからアサシンは霊体化してあたしの傍にいて』
『……ところでマスター、バス停は北側と南側に二つあるのだったな』
『そうだけど、それがどうしたの?』
『私はバス停付近でその春紀とかいう女を待ち伏せしようと思う。マスターは校門で待ち伏せしてくれ』
『まあ、二人が一か所で待ち伏せするより二人が二か所で待ち伏せしたほうが見つけやすいか』
学校周辺の塀は全長4Mほどの高さがある。
乙哉普通の人間はそこをよじ登ることは困難であり、学園から出るには校門から出るしかないと思い込んでいた。
だが吉良は違った。
だがサーヴァントは普通でもなければ人間でもない英霊である。
その英霊にとってマスターを抱えて4Mの塀ぐらい難なく飛び越えられることを知っていた
ならば出口は校門だけではない。
そして学園から出た後はどう行動するか。
すぐにでも学園から離れたいと考えれば高速で移動でき人ごみに紛れやすいバスを使うと睨んでいた。
『じゃああたし行くから、アサシンは少し遅れて出てね。一緒に出るとこ見られたらまずいし』
『わかった。危なくなったら令呪で……』
『令呪で呼べでしょ。そっちもドジして見つからないようにね。おとうさん』
乙哉は吉良に人をからかうような笑みを見せ店から出て行った。
(さて、どちらのバス停に張り込むか)
◆
店を出た乙哉は校門前付近に陣取り学校周辺を包む外壁に背をもたれながら立つ。
友達を待っている暇つぶしに携帯電話をいじっていますというような体を装いながら出てくる生徒達を観察していた。
本来ならばより正確に観察するために校門のすぐそばに居たかったが、
集団下校中にいつまでも校門近く居たら教師たちに注意されるかもしれないので校門から十数メートル離れたところにいた。
集団下校のピークであるこの時間は人通りが多い。
数多くの生徒をある程度正確に観察することは集中力を擁する。
その結果。
(張り込みって地味でめんどくさ~い)
開始十数分で乙哉は張り込みの作業に飽きはじめていた。
自分好みの女性を待つのであれば数時間は集中力が持続できるかもしれないが。
大して興味もない生徒たちに注意を向け来るかどうかもわからない春紀やほむらを倒した相手を待つのは正直苦痛に感じていた。
(あたし好み娘でも通りかかってくれたらテンション上がるんだけどな。ん?)
乙哉の耳にガラスが割れたような音が届いた。
それは気のせいと言われたらそうであると納得してしまいそうな小さな音だった。
どうせ誰かがふざけてガラスを割ったのだろうと考え、下校する生徒たちに意識を向ける。
そして数十秒後に野太い大声が聞こえてきた。
どうやら生徒にたいして何か言っているようである。
その直後に校門を勢いよく駆け抜ける黒髪の少女が乙哉の目に飛び込んできた。
おそらく中学生ぐらい、何をそんなに急いでいるのかと考えながらその黒髪の少女に注意をむける。
ぱっと見の印象は結構美人で黒髪が綺麗だな程度だった。
少女は乙哉のほうに向ってきており目を合わせない様に携帯に視線を向けているふりをしながら観察する。
そして少女は乙哉の傍を勢いよく通り過ぎた。
その瞬間乙哉は即座に勢いよくその黒髪の少女に首を向けるというあからさまな反応を取ってしまう。
幸いその少女には乙哉の姿は見られていないが、もし見られていたら明らかに怪しまれていただろう。
少女のほうを思わず向いてしまった理由。
それは漂ってきた血の匂いだった。
一般人なら気づくこともない匂いだっただろう。
だが武智乙哉は多くの人間を切り刻んできた。そしてその切り刻まれた人間からでる血の匂いも嗅いできた。
血の匂いを何回も嗅いできた乙哉だからこそ感じ取れたのかもしれない。
そして近くにいたといえど漂ってきた血の匂い。
これはカッターで指を斬った程度での怪我の血の匂いではない。
それ相応の怪我と出血量だろう。
NPCがそのような怪我をするような行動をとるのか?
―――怪しい――――
断定はできない。だが聖杯戦争に参加しているマスター、そして暁美ほむらを倒したマスターである可能性は十分にある。
黒髪の少女は信号に捕まって足を止めている。
今なら尾行することは可能だがどうする……
【C-3 /月海原学園周辺/一日目 夕方】
【武智乙哉@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:月海原学園の制服、通学鞄、指ぬきグローブ
[道具]:勉強道具、ハサミ一本(いずれも通学鞄に収納)、携帯電話
[所持金]:普通の学生程度(少なくとも通学には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。
1.あの黒髪の女の子(ミカサ)を追う?
2.『友達』を倒した相手を探したい。
3.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。
4.寒河江春紀を警戒。
5.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。
6.可憐な女性を切り刻みたい。
[備考]
※B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。
※バイトと仕送りによって生計を立てています。
※月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
※トオサカトキオミ(衛宮切嗣)の刺客を把握。アサシンが交戦したことも把握。
※暁美ほむらと連絡先を交換しています。
※寒河江春紀をマスターであると認識しました。
◆
「行きましょう学校に」
D-3地区
生い茂る木々に囲まれたこの土地で早苗は力強く自分に言い聞かせるように学校に行くことを宣言した。
「それでいいのかマスター」
「はい。ここで手招いている暇はありません。急ぎましょう」
複数のマスターとサーヴァントがいる激戦区に飛び込む危険性は重々承知している。
しかし早苗は少しでも早く聖杯が誤りであると証明しなければならなかった。
今この時この瞬間。アキトや他のマスターが聖杯を求め殺し合っているかもしれない。
自分が無駄に時間を過ごしている間に命が失うことは避けなければならない。
ならばやることは一つ。
一刻も早く学園にいるかもしれない岸波白野に会い聖杯についての話を聞く。
居なければ白野の所在についての情報を得て白野に会う。
白野に話を聞きそこから聖杯の誤りを証明し、アキトや他のマスターにその誤りを伝える。
それが成すべきこと。
「わかった。向かうとしよう」
「お願いします。アーチャ―」
そう言うとアシタカは早苗を優しく抱きかかえ森林を駆け抜ける。
危険を顧みず目標に向かって突き進むその意志と行動力。改めてその精神力に感心していた。
だが今から向かう複数の主従がいる激戦区。
いつ何時襲撃されるかわからない。
百戦錬磨のサーヴァント達から早苗を守ることができるのか?
アシタカは一抹の不安を抱えながらも主の要望に応えるべく可能な限り速く学園に向かう。
◆
そこは辺り一面に雑草が生い茂っていた。
人の手入れが行き届いていないことが伺える。
さらに校舎が日の光りを遮っているせいか湿度が高い、そのせいか土は柔らかく所々には苔が生えている。
そんな環境のせいかここには生徒が立ち寄ることはそうそう無い。
ここは月原学園校舎裏。
早苗とアシタカは山を下り校舎裏まで移動していた。
本来であれば校門から堂々と入るところだがそれはしなかった。
早苗は今月原学園の制服を着ていない。
皆が制服を着用しているなか私服の人物が堂々と校門から入れば相当目立つだろう。
それを避けたかった早苗は校門を迂回し、学園を取り囲むように設置されている塀を乗り越えて校門とは反対方向にある校舎裏から侵入することを選択する。
「マスター。やはり学園内には依然複数のサーヴァントがいる」
「どこらへんに居るとかはわかりますか?」
「周辺数十メートルには居ないが詳細な位置まではわからない。すまない」
謝罪を述べた後、アシタカは霊体化し着ていた白い長袖のシャツに紺の長ズボンが落ちた。
サーヴァントの詳細は把握できないが学園内に居ることはわかっている。
このまま霊体化せず早苗と一緒にいればより詳細な位置が把握できるかもしれない。
だがそれは敵にも自分を発見させる可能性を高めることになる。
何より自分の服装は学校で目立ってしまうと判断して霊体化した。
『マスター。私の服をどこかに隠して置いておいてくれないか』
『え?』
アシタカの念話での意外な要望に早苗は思わず聞き返してしまう。
『白野殿のことを調べ終わったら衣服を回収したい。折角マスターに選んでもらった服をここで捨てるのはしのびない』
『わかりました。どこかに隠しておきましょう』
アシタカが自分の選んだ服をそこまで大切に思っていることを少し嬉しく感じながら、衣服を綺麗に畳み草むらの陰に隠した。
衣服を隠した後は人に目撃されない様に注意を払いながら校舎に侵入し職員室を目指す。
白野がこの学園にいることも考えられるが、クラスメイトだったかもしれないというあやふやな記憶しかない状態で広い学園内で探すのは難しい。
ならば当初の予定通り職員室に向い生徒名簿を見させてもらうことにする。
早苗は職員室に向っているなかある違和感を感じていた。
『どうしたマスター?』
『何か変なんですよ。何と言うか静かすぎるというか』
放課後といえどNPC時代の記憶ならばもう少し人の気配を感じ取れた。
たが今はそれが感じ取れない。
ただの偶然なのか、それとも聖杯戦争に関することなのか。
そのことは一旦頭の隅に置き、意識を周囲に向けながら教職員室に向かう。
幸運にもサーヴァントやマスター、それどころかNPCの生徒に出会うこともなく教職員室の入口扉から十数メートルの付近まで近づくと中から声が聞こえてきた。
ここから声が聞こえるという事はそれなりの人数の教師が教職員室にいると予想される。
この時間に教師が大勢いることは珍しかった。
早苗は不審に感じたがとりあえず様子を見ようと考え教職員室の扉の前にしゃがみ込み扉を数センチ開けて中の様子を覗き見ると。
「生徒の帰宅状況の把握はどうなっている!?」
「大半が帰宅しました!」
「大半じゃない!もっと正確な情報を報告してください!」
「校長先生!警察の方からお電話です!」
「教頭先生!警察の電話対応お願いします!」
そこは修羅場だった。
電話のベル音が鳴り響き。教師たちが忙しなく動き回る。
ある者は生徒の両親からの電話対応に追われ。
ある者は欠席している生徒の両親に確認の電話をかける。
教師誰一人とても声をかけられる状況ではなかった。
(う~んどうしよう)
早苗の当初の予定では教師から岸波白野の連絡先を聞き出す予定だったがこれでは到底無理だ。
かといってこのような状況な教職員室に侵入し名簿を探し出すのは相当目立つ。
これだったら夜まで待ってから侵入したほうがよかったという考えが頭を過るがすぐさまその考えをかき消す。
どのように白野の情報を得るかを教職員室の様子を見ながら思案するが。
『マスター人が来る』
それはアシタカの声で中断される。
周りを見渡すと教職員室に近づいてくる人影を発見する。
背格好からして教師だろう。20代と思われる女性だった。
盗み見るように教職員室を見ている姿を見咎められたら厄介なことになる。
その教師から離れるように歩き出そうとするが声を聞いて足が止まった。
「あれ東風谷さん?」
自分の名前を知っている?だが記憶にはこの教師についての情報は全くない。
思い出そうと脳内で記憶を検索するがその間に教師はどんどん近づいてくる。
そして顔が判別できる距離まで近づいてくると思い出した。
「藤村先生?」
――――藤村大河―――――
彼女は早苗のクラスの担任教師。
明るく親しみ易い性格の人物で生徒からもそれなりに慕われている。
大河を見たことでNPCだった頃の記憶が少し蘇っていた。
笑い声が絶えない和やかな朝のホームルームの時間。
急遽代理で授業を受け持った大河が英語の小テストをやらせ生徒達から非難を受けそれを一蹴する姿。
そして同じ教室にいた白野。
記憶があやふやで容姿や声などは明確には思い出せない。
だが白野とはクラスメイトだったという確信はあった。
白野のクラスの担任ということは連絡先を知っている可能性が高い。
今上手く聞き出せば教職員室に忍び込み名簿を見る必要性が無くなる。
早苗は白野の連絡先を訪ねようとしたが大河の質問により遮られた。
「どうしたのこんな時間に?連絡が来ないから今日は休みだと思ったわ。それに制服は?」
「え~とこれはその……」
大河の質問に答えが詰まる。
――白野の連絡先を知るために学校に来ました。制服は急いでいて着る暇がありませんでした――
と正直に答えたいところだがそれだとまず怪しまれる。
学園内にマスターがいる状況で極力怪しまれることは控えたい。
この場はそれなりに説得力がある嘘をついて誤魔化し、自然な流れで白野の連絡先を聞くために脳をフル稼働させる。
「実は朝寝坊してしまって……昼過ぎぐらいに学校に登校するつもりだったんですが登校中にペンキ塗りたてのベンチに座ってしまって、そんな格好で学校に行くのは恥ずかしくて一旦家に帰ろうとしたんです。
その帰り道の途中で岸波君の財布を拾って、財布が無いと岸波君も困っていると思いまして、一旦私服に着替えて学校に来たところです」
「ふ~ん。まあ寝坊したこととか注意しなきゃいけない点があるけど、わざわざ財布を届けに学校に来たのは感心ね」
即興で考えた嘘だがとりあえず信じてもらったようで内心胸をなで下ろす。
「でも折角来たのに悪いけど今日岸波君は休みよ。あと色々有ったから早く帰ったほうがいいわ」
「岸波君は休みなんですか?あと何かあったんですか?」
「あれ知らない?中等部の教室で爆発事故がおこって念のために集団下校中。今日は残業ね~」
これから処理しなければならない雑務の量を想像したのか深いため息をついていた。
『マスター、どうやら戦いはすでにおこっていたようだ』
『そうなんですか?』
『その爆破というのはサーヴァント同士の戦いの結果だろう』
大河の情報から今の人気の少なさは集団下校によるものだと分かった。
そして爆発事故。
たんなる爆発事故である可能性は完全に否定できないが、アシタカはサーヴァント同士の戦闘の結果と考えていた。
サーヴァントが戦えば爆発事故程度の規模の破壊はおこるだろう。
お互いの宝具を出していたら校舎そのものが吹き飛んでいたかもしれない。
早苗も学校という平和の象徴といえる場所で命のやりとりが行われているのを知り、ショックを受けるとともに聖杯戦争は着々と進行していることを実感していた。
今すぐ学園内の戦闘をおこなったマスターを探し、戦いをやめるように呼びかけたい。
しかし自分の言葉を聞いて戦いを止めようとする主従はいないだろう。
今の自分の言葉には力がない。自分の言葉はただ相手に自分の願望を一方的に押し付けているようなもの。
そんな言葉には誰も耳を貸さない。
聖杯は穢れている。聖杯が正しいやり方で願いを叶えてくれない。
それを証明することで初めて言葉に力が宿る。
それができて初めてアキトのような強い願いを持って聖杯戦争に参加している者を止められる可能性が出てくる。
そのためには何としても白野と会い聖杯について聞かなければならない。
「藤村先生、岸波君の住所と連絡先を教えてくれませんか?私が岸波君と連絡を取って財布を届けますので」
財布を届けるという目的で白野の連絡先と住所を聞く。
これなら自然な流れで情報を入手できるはず。
早苗は二つ返事で教えてくれるだろうと予想していたがそれは外れる。
「今の世の中個人情報をはいそうですかと教えるわけにはいかないのよね。
それに新都の方は騒ぎがあって物騒だし。あなた一人で向かわせるのもね……」
そう言うと大河はう~んと唸りながら考え込む仕草を見せる。
NPCは所謂現代と呼ばれる倫理観や常識をインプットされている。
現代では振り込め詐欺など個人情報を悪用した犯罪が流行しておりNPCの大河も個人情報の扱いには慎重になっていた。
だが早苗が住む幻想郷は振り込め詐欺などという小賢しい犯罪とは無縁の場所。
現代の個人情報に対する価値観が違うのは当然かもしれない。
「そうだ!私が岸波君の財布を届けてあげるわ」
「え!?でも先生も一応女性ですしそんな物騒なところに行くのも危ないんじゃ……」
「ちょっと『一応女性』なんて失礼な娘ね!まあいいわ。これでも腕には覚えがあるのよ。心配いらないわ」
(ちょっとこの流れはマズイです)
早苗は大河が白野の家まで財布を届ける段取りになっていることに焦りを感じていた。
このままだと白野の連絡先を聞く必要性がなくなる。
そうなれば一旦学園を出て夜間に教職員室に忍び込み大河の机から名簿を探すことも視野に入れなければならない。
完全に二度手間だ。
それでは危険を冒して学校に来た意味がなくなってしまう。
何より貴重な時間をただ無駄に浪費したことになる。
何としても自分が白野の家に財布を届けるように説得しなければならない。
だが大河が財布を届けるという話の流れは筋が通っており、これを覆すにはそれ相応の納得がいる理由が必要となってくる。
「大丈夫です私が届けます」
「そうは言ってもね、そんなに岸波君に直接届けたいの?」
「えっと……えっと……」
「実は私……岸波君のことが気になっていて……これをきっかけに岸波君と話せないかなと思って……この機会を逃したらもうダメなような気がして……だから岸波君の家に直接財布を届けたいんです……」
早苗は喋り終えると両掌で紅潮した顔を覆いしゃがみこんだ。
(何言っているの私!?)
早苗自身何でこのような嘘を喋ったのかわからなかった。
大河に納得してもらえるような嘘を思案している最中で、気付いたらあのようなことを口走っていた。
(よりによって何で恋愛ネタ!?こんなウソで藤村先生も信じるわけが……あれ?)
指と指の間から恐る恐る見てみると目に飛び込んできたのは腕を組み先ほどよりも悩ましげな様子の大河だった。
(う~ん。どうしようかしら)
生徒の安全を考えれば教師である自分が届けるのが良いはず。
しかしあの様子からすると早苗は白野に恋心を抱いている。
その手の機微に鈍い自分でもわかるぐらいだ。
そして勇気を振り絞って自分に言ったのだろう。
ならばその思いを無下にせず早苗に行かせて後押しするのもまた教師の務めか。
生徒の安全と生徒の想い、教師としてはどちらを尊重すべきか。
藤村大河は大いに悩んでいた。
数十秒経っただろうか。
大河はその間微動だにせず腕を組んで立ち続けていた。
「少し待っていてね。東風谷さん」
そう言うと勢いよく扉を開けて教職員室に入室し、十数秒で早苗の元に戻り手に何かを握りこませる。
手を開けて中味を確認すると四つ折りにされたメモ用紙で開くと住所と二種類の電話番号が書かれていた。
「それが岸波君の住所と電話番号だから。あとその下の数字が私のケイタイの電話番号。
岸波君と会ったときと自宅に帰った時にはその番号に電話をかけて」
「はい……」
「このことは秘密にしておくわ。がんばりなさい女の子」
「はい……」
予想外の事態に軽く動揺しつつ早苗はお辞儀した後小走りで駆けてゆく。
大河はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
「青春してるわね~」
◆
「マスター、あの教師は何をがんばれと言っていたのだ?」
「それはあれですよ……」
早苗はアシタカの質問に答えようとするが、顔が紅潮しゴニョゴニョと言いよどむ。
大河から白野の連絡先を聞いた二人は校舎に向いアシタカの服を回収した後塀を飛び越え学園から出ていた。
「藤村先生は私が岸波さんのことを好きと思って……それについてガンバレと言ったんですよ……」
「好きとは色恋の好きということか?」
「そうですけど、あの話は私のは出まかせです!岸波さんのことは全然好きじゃありません!」
「そうなのか?」
「そうです!あ~さっきの姿を神奈子様と諏訪子様が見たら笑われるかも」
二人に笑われる姿を想像しているのか早苗はさらに顔を紅潮させる。
一方アシタカは何故早苗が恥ずかしがっているまるで分からなかった。
「そういえば岸波さんの住所はどこかな~?」
これ以上大河についた嘘のことを聞かれるのは恥ずかしいので強引に話題を変えるべく、早苗は唐突に一人ごとのようにしゃべりながら大河からもらった四つ折りのメモ用紙を開ける。
「C-8の地区ですか」
「この場所から白野殿の家までは一里、二里程度ではすまないな。ならばバスを利用したほうが良さそうだな」
「え?バスを使うんですか?」
身の安全を守るためにバスを使うのは控えた方がよい。
そう言ったアーチャ―自らがバスを使用することを進言した。
早苗にはアシタカの発言の意図が読めなかった。
「さすがに白野殿の家まで徒歩で行くのは遠すぎる。かといって私がマスターを抱きかかえて街中を走るのは目立つ。
バスを利用したほうがよいだろう」
本当ならば早苗を守るためには乗り物にのることは控えたかった。
ただ仮に白野の家に徒歩で向かえば早苗の疲労は計り知れないだろう。
何より時間がかかりすぎる。
今から出発しても恐らく日を跨ぐ。
それだけの時間が経てば状況は劇的に変化しているだろう。
白野が死亡している可能性もありえる。
もしそうなれば早苗の聖杯の間違いを証明するという目的を達成することは難しくなる。
「わかりました。では北側のバス停に向いましょう。あそこには確か公衆電話もありましたし岸波さんには一度連絡を入れた方がいいかと」
アシタカは与えられた記憶から電話についての記憶を掘り起こす。
遠くの相手に自分の声を届けることができ会話できる道具。
もし自分が住んでいる世界に電話があれば山の中で生活することになったサンとも気軽に会話できたかもしれない。
そんなあり得ない光景を思い浮かべながらバス停に向かった。
学園北側のバス停に着いた二人の目に映ったのは長蛇の列だった。
集団下校により普段は学校に残っている生徒がこの時間に帰ることによりいつも以上にバス停は混雑していた。
「これは空くのを待った方が良さそうですね」
バスに乗ってスシ詰め状態にされるのを回避したいということもあるが、身動きが取りづらい状態で敵に襲撃されたら致命的であることは早苗にも充分理解できていた。
早く白野から話を聞きたいと焦る気持ちもあるが、満員バスに乗って襲撃されたら多くのNPCが傷つくだろう。それは本意ではない。
この長蛇の列が無くなるのに一時間はかかるだろう。
それならば先に白野への連絡を済ませたほうがいいと早苗は公衆電話ボックスに向かう。
「マスターが白野殿の家に出向くのか」
「はい、合流先を決めてそこで会うことも考えましたが、話を聞くならば私から岸波さんの家に出向くのが礼儀と思いまして。
あと私が来る時間を電話で伝えていればすれ違うこともありませんし」
公衆電話ボックスに着いた早苗は中に入り受話器を取り、メモに書かれている電話番号を押していく。
岸波白野という人物はどのような人物なのか?
自分と会ってくれるだろうか?聖杯の話をしてくれるだろうか?
アキトのように聖杯で願いを叶える為に手を汚す覚悟を持った人物なら?
期待、不安、恐怖。様々な感情が早苗の胸中を駆け巡る。
―――プルルル、プルルル―――
緊張しているのか、いつもより心臓の鼓動が速い気がする。
―――プルルル、プルルル―――
出だしは何と喋ろう?自分の話を聞いてくれるだろうか?
―――プルルル、プルルル、プルルル、プルルル―――
コール音の規則的な音が何度も早苗の耳に届く。
この音はいつまで続くのか、家に居るなら早く出てほしいと思っているなかコール音は唐突に終わる。
「こちらは留守番電話サービスです。ピーという音の後に用件を伝えてください」
抑揚の無い機械的な声が早苗に次の行動をとるように促す。
「ふぅ~」
緊張から解放されたのか思わず息を吐いた。
直後に精神を落ち着かせるために大きな深呼吸を一つする。
まだ伝言を残していない。
ここで白野に用件と自分の想いを伝えなければならない。
「もしもし、私は東風谷早苗と申します。この聖杯戦争に参加しているマスターの一人です。
けど私は願いをかなえるために他の参加者を殺そうとは思っていません。
嘘に聞こえるかもしれませんが、これは本心です。
私は27人の命を犠牲にして1人の願いを叶えるこの聖杯戦争は間違っている。
そんな聖杯は穢れている。そんな聖杯がまともに願いを叶えるわけがないと考えています。
ですがあるマスターは願いを叶える為に他のマスターを殺そうとしています。
他のマスターも願いのために人を殺そうと考えている人はいると思います。
私は殺し合いを止めたい!
そのためには聖杯の穢れを証明し、この戦いが無意味だと証明しなければなりません。
穢れを証明するには聖杯のことを知る必要があると考えています。
それには岸波白野さん。あなたの知識が私には必要です。
あなたに話を聞いた方がよいと裁定者のカレンから教えられました。
今日の21時、お話を聞くために岸波さんのお宅に伺います」
受話器を下したガチャリという音が電話ボックス内に響く。
電話ボックスを出た後身体が新鮮な空気を欲しているかのように深く深呼吸をした。
よほど緊張していたのかもう一度深く深呼吸をする。
用件と自分の考えは伝えた。
後は白野がこの伝言を聞いて聖杯について話してくれることを祈るのみ。
電話ボックスから出てきた早苗をアシタカは少し微笑みを見せながら出迎える。
「実にマスターらしい言葉だった」
「聞こえていたんですか?何だか恥ずかしいです」
用件だけを伝えればよかったものを敢えて自分の考え、自分の想いを伝言に残す。
自分のすべてをさらけ出すその実直さが実に早苗らしいと思っていた。
だが岸波白野は聖杯戦争のセオリーとは違うイレギュラーの行動をとる早苗のことをどう見るのか?
現実を見ない理想論者、人を殺す覚悟もない弱い参加者。
アキトと同じように肯定的にはとらえないかもしれない。
ただ早苗の言葉には贔屓目かもしれないが人の心に訴える何かを感じた。
可能性はかぎり無く低い。
けれども白野が早苗の言葉に影響を受けその方針に賛同してくれることを期待していた。
人を説得できた言う実績は早苗にとって自信になる。
なにより早苗と共に歩む同士が増えることになる。
早苗が歩む道はある意味この聖杯戦争で最後の一人になることより困難な道だ。
自分も全力で早苗を支えるがその孤独さ、その過酷さに心が挫けるかもしれない。
だが仲間がいれば挫けずにいられるかもしれない。
「どこかベンチに座りましょう」
早苗は緊張して疲れたこともあってアシタカにベンチに座らすように提案する。
どうせあと一時間は混雑が続く。
それならばどこかに腰かけて雑談や今後のことについて話して時間を潰そうと考えた。
アシタカをベンチに誘導するために顔を見た瞬間思わず鳥肌が立った。
その顔は今までアシタカが見せたことのない険しい顔をしていた。
『マスター、サーヴァントが居る。しかもかなり近くにだ』
アシタカは念話で早苗に忠告する。
『近くにいるってアーチャ―の気配察知でも感知できないサーヴァントがいるんですか!?』
アサシンの気配遮断すら感知できるアシタカの気配感知を掻い潜って接近できるサーヴァントがいる。
その事実に早苗は動揺していた。
『近くにいることは感知できているか詳細な位置がわからない。
マスター、私の目を使って周りを見てみてくれないか』
『は、はい』
アシタカは不自然にならないようにゆっくりと自分周辺360度を見渡す。
このバス停は遮蔽物が少なく、身を潜めるような場所も少ない。
自分の視界の範囲にサーヴァントがいればアキトのバーサーカーや学園の屋上に居たサーヴァントのようにスタータスが表示されすぐに見つけられるはず。
辺りを見渡すと多くの学生、通勤帰りらしきサラリーマンはいたが、サーヴァント、正確にはパラメーターが表示されている人物は一人もいなかった。
『どうだ?』
『それらしいサーヴァントは一人もいません』
その報告を聞いてアシタカも早苗ほどではないにせよ動揺していた。
自分の感覚が正しければ謎のサーヴァントは今現体化しており、近くにいる。
恐らく半径数十メートル以内だろう。
それならば気配感知のスキルで詳細な位置も判別でき、早苗の目にもステータスが表示される人物がいるはずだ。
ならば何故その存在を感知できない?
ならば何故早苗の目でサーヴァントを見つけられない?
気配遮断のスキルを使用しているアサシンが近くにいるのか?
それは無い。
自分の気配感知のランクはB。
それより高い気配遮断のスキルを持つサーヴァントがいるのならば気配を感じることができない。
そしてランクが低ければ気配遮断を使用していたとしても気配を感じることができる。
ならばそのサーヴァントは霊体化しているのか?
それもない。
霊体化していても気配はわかる。
学園の屋上で霊体化したシオンのサーヴァントを発見できたように視界に入ればすぐに発見できる。
アシタカも自分の目で周りを見渡してみたが霊体化したサーヴァントはいなかった。
――――何が起こっている?――――
◆
正直見つけられるとは思っていなかったが、これはツキが回ってきたというべきか。
私は南側のバス停と北側のバス停のどちらに張り込んで春紀とかいう女とほむらとか言う女を襲ったマスター達を探そうかと迷った結果北側のバスを選んだ。
何でと聞かれれば勘としか言いようがない。
そして北側バス停についた直後に電話ボックスに傍に立っているサーヴァントを発見した。
私のスキルならサーヴァントとバレることはないが念のため凝視しないように視線をそらし数十メートル距離をとりながら観察する。
あの甲冑のサーヴァントのように『私は勇者ですよ』といういかにもな恰好をしていないのでクラスがしぼり難いがある程度は見当がつく
まずは実体化している時点でアサシンの可能性は除外だ
隠密が得意なアサシンが姿を現してどうする。
だとしたらよほどの自信家かマヌケだろう。
まあ現体化している私が言えた義理ではないがね
次にバーサーカーである可能性も除外だ。
あのサーヴァントは服を着ている。理性を失った奴が現代の服を着こなす知能はないだろう
次にキャスターである可能性だがこれも低いと予想できる。
クラスの性質上待ちの戦法が得意なキャスターがマスターと一緒に現体化して外出するなど悪手だ。
だが例外があるので断定はできない
ということは三騎士かライダーのクラスの可能性が高いか。相性が悪いな。
アサシンを除く6クラスの内4クラスが対魔力を持っているとはつくづく理不尽な戦いだ
そんな愚痴を考えている間に中の電話ボックスから緑髪の女性が出てきた。
あのサーヴァントと話していることからマスターがあの女性だろう。
近づいてみなければわからないが中々の美貌と持ち主だな。
肌も瑞々しそうで美しい手の持ち主かもしれない。
余裕があれば手を保管したいところだが、あのマスターを消すのが最優先だ。
手は二の次だ。
様子を観察しているとあのサーヴァントが見渡し始めその際に目が合ってしまった気がする。
少し軽率だったな。
私の正体がバレているとは思わないがこれからは気をつけなければ。
さてこれからどうするか?
あの主従を尾行して隙があれば暗殺すべきか。
ただトオサカトキオミのように暗殺に失敗したらあの時と同じように正面きっての戦闘を強いられる可能性は高い。
そうなれば分が悪い。
そして三騎士やライダーのクラス相手に前回のように逃げ切れるかはわからない。
リスクを回避のためにあの主従を見過ごして、春紀とかいう女を探すための張り込みを開始するべきか。
◆
アシタカは何故吉良の存在を正確に感知できなかったか?
吉良が所有しているスキルが気配遮断のみだったらアシタカは吉良に十数メートルまで近づかれる前に詳細な居場所を察知できていただろう。
だが吉良のスキル『隠蔽』『正体秘匿』によってそれはできなかった。
スキル『隠蔽』
サーヴァントとしての活動によって生じる魔力を隠蔽する。
これにより吉良は実体化中でも一般人程度の魔力しか感知されず、魔力の痕跡を残すこともない。
スキル『正体秘匿』
サーヴァントとしての素性を秘匿するスキル。
契約者以外のマスターから吉良のステータス、スキルを視認出来なくする。
この二つのスキルを所有している吉良が宝具を使わず、戦闘を行おうとせず、ただその場に居るだけであれば、
例え鼻がふれる距離でも吉良をサーヴァントとして認識することはどのサーヴァントでも不可能に近い。
だがアシタカは『気配感知』のスキルの持ち主。
『気配感知』のスキルはサーヴァントの存在を認識することに最も優れたスキルの一つ。
わずかな気配でも察知できるそのスキルは『隠蔽』で抑え込まれているといえどサーヴァントの魔力とNPCの魔力のほんの些細な違いを察知したのかもしれない。
『気配感知』と『正体秘匿』『隠蔽』スキルが効果を発揮し合った結果。
アシタカの感知は『近くに実体化したサーヴァントが半径数十メートル内にいるが詳細な位置はわからない』という曖昧なものになっていた。
吉良吉影
武智乙哉
二人の殺人鬼は奇しくもほぼ同時刻に獲物を発見した。
その獲物は無残にも殺される哀れな子羊なのか。
それとも殺人鬼を返り討ちにする牙を持った狼なのか。
それとも殺人鬼はその牙に恐れをなして逃げるのか。
現時点ではわからない。
【C-3 /月海原学園北側バス停所/一日目 夕方】
【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、聖の手への性的興奮、
[装備]:なし
[道具]:レジから盗んだ金の残り(残りごく僅か)
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
1.あの女(早苗)を攻撃するか否か?
2.甲冑のサーヴァントのマスターの手を頂きたい。そのために情報収集を続けよう。
3.B-4への干渉は避ける。
4.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
※魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
※保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。
※B-6のスーパーのレジから少額ですが現金を抜き取りました。
※スーパーで配送依頼した食品を受け取っています。日持ちする食品を選んだようですが、中身はお任せします。
※切嗣がNPCに暗示をかけ月海原学園に向かわせているのを目撃し、暗示の内容を盗み聞きました。
そのため切嗣のことをトオサカトキオミという魔術師だと思っています。
※衛宮切嗣&アーチャーと交戦、干将・莫邪の外観及び投影による複数使用を視認しました。
切嗣は戦闘に参加しなかったため、ひょっとするとまだ正体秘匿スキルは切嗣に機能するかもしれません。
※B-10で発生した『ジナコ=カリギリ』の事件は変装したサーヴァントによる社会的攻撃と推測しました。
本物のジナコ=カリギリが存在しており、アーカードはそのサーヴァントではないかと予想しています。
※聖白蓮の手に狙いを定めました。
進行方向から彼等の向かう先は寺(命蓮寺)ではないかと考えていますが、根拠はないので確信はしていません。
※サーヴァントなので爪が伸びることはありませんが、いつか『手』への欲求が我慢できなくなるかもしれません。
ですが、今はまだ大丈夫なようです。
※寒河江春紀をマスターであると認識しました。
【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:健康
[令呪]:残り2画
[装備]:なし
[道具]:今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか
[所持金]:一人暮らしには十分な仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺したくはない。誰にも殺し合いをさせたくない。
0.サーヴァントが近くに居るんですか!?
1.岸波白野の家(C-8)へバスで向かう。
2.岸波白野を探し、聖杯について聞く。
3.少女(れんげ)が心配。
4.聖杯が誤りであると証明し、アキトを説得する。
5.そのために、聖杯戦争について正しく知る。
6.白野の事を、アキトに伝えるかはとりあえず保留。
[備考]
※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。
※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが、あくまで外観的情報です。名前は把握していません。
※カレンから岸波白野の名前を聞きました。
岸波白野が自分のクラスメイトであることを思い出しました。容姿などは覚えていません。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※アキト、アンデルセン陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。なお、彼らのスタンスについて、詳しくは知りません。
※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)のパラメータを確認済み。
※アキトの根城、B-9の天河食堂を知りました。
※シオンについては『エジプトからの交換留学生』と言うことと、容姿、ファーストネームしか知らず、面識もありません。
※岸波白野の家の住所(C-8)と家の電話番号を知りました。
※藤村大河の携帯電話の番号を知りました。
【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】
[状態]:健康
[令呪]
1. 『聖杯戦争が誤りであると証明できなかった場合、私を殺してください』
[装備]:現代風の服
[道具]:現代風の着替え
[思考・状況]
基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る。
0.近くにサーヴァントがいる!?
1.早苗を護る。
2.使い魔などの監視者を警戒する。
3.学園に居るサーヴァントを警戒。
[備考]
※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※教会の周辺に、複数の魔力を持つモノの気配を感知しました。
※吉良が半径数十メートル内にいることは分かっていますが詳細な位置は把握していません。吉良がアシタカにさらに接近すればはっきりと吉良をサーヴァントと判別できるかもしれません。
[共通備考]
※キャスター(暁美ほむら)、武智乙哉の姿は見ていません。
※キャスター(ヴォルデモート)の工房である、リドルの館の存在に気付いていません。
※リドルの館付近に使い魔はいません。
※『方舟』の『行き止まり』について、確認していません。
※セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)、シオンとそのサーヴァントの存在を把握しました。また、キャスター(シアン)を攻撃した別のサーヴァントが存在する可能性も念頭に置いています。
※キャスター(シアン)はまだ脱落していない可能性も念頭に置いています。
最終更新:2015年08月27日 23:38