そう鳥のように ◆Ee.E0P6Y2U


宮内れんげとベルク・カッツェは親友である。
れんげはカッツェのことを本当にそう思っているし、カッツェだって――れんげのそれとは少し意味合いが違うかもしれないが――尋ねられれば肯定するだろう。
二人で逃げ出した彼らは、だからか、とても楽しそうだった。

「バァァァドwwwwwwゴォwwwwwwwwwwwwwwww」
「おお高いのん、やっぱうちエアマスターやってん」

Gスーツに身を包み、カッツェは夜の街を飛ぶ。
その腕の中にはれんげの姿がある。紆余曲折を経た二人はようやく出会えたのだ。
れんげはそのことを純粋に喜んでいたし、カッツェだってそれは同じだった。

「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」

カッツェは嗤っていた。
嗤いながら跳んで、飛んでいた。
電柱を蹴り、ビルに上り、誰かの頭上を飛び抜けていく。
笑わないれんげの代わりを補うかのように、カッツェは嗤い続ける。

「れんちょーんwwwwwちょっとお願いwwwwwww」

夜を行くカッツェはれんげに話しかける。
「んー?」とれんげが聞き返す。

「さっきみたいにィその手のアレ、使ってくれないですかぁ?」

カッツェはその耳元で囁く。
令呪を使ってくれ、と。
言うまでもなくルーラーからの令呪を打ち消す為である。

「またお願いすればいいのん?」
「そうですwwwwwwこう手を上げてwwwww真面目な顔していえば大丈夫wwwww」

大親友の頼みを断る訳にはいかない。
そうれんげが考えたかまではカッツェには分からなかった。
しかしれんげは迷うことなく、カッツェの言葉通りに言ってくれた。

――かっちゃんを自由にして

と。
手の甲の令呪が光り、最後の一角を残して消えていく。
その代わり、カッツェの身体を縛る戒めが消え去っていった。
そうして壊された籠から、災いの鳥が飛び立っていった。

「うはwwwwwwww」

自分を縛ったルーラーの顔を思い出される。これで彼女に更なる苦痛を持って報いることができるのだ。

「メ・メ・メ・メシウマァwwwwwwwwwwwwwww」

そう言わずして何と言う。
れんげも回収し、令呪の縛りも消え失せた。
嗤う。嗤う。嗤う。どこまでもカッツェは嗤う。
まだまだ聖杯戦争を楽しむことができると――

「かっちゃん……なんか楽しそう」

それを見たれんげはぼそりと呟いた。

眼下には新都の街がある。
明かりのついた民家がある。そびえ立つ摩天楼が見える。
家庭から漏れ出す声もあれば、飲みに行く若者たちの騒がしい声だって聞こえた。
日が沈み、みなの日常がそれぞれ終わる時間。
夜。
安息な時間の流れを跳び越える。
籠から解き放たれた鳥のように、自由にカッツェとれんげは空を飛んでいる。
二人だけで……






「追うぞ」

剣を拾い直したアンデルセンは短く言った。

「アレをあのまま野放しにする訳にはいかん。場合によっては王の闘争の邪魔になりかねん。
 あのサーヴァントが明確に我々を脅かした以上、もはや“大人”も“子ども”も関係ない」

それはカッツェと――れんげへの明確なる敵対宣言だった。
眼下には倒れ伏す男女がいる。白目を剥き、ぴくぴくとその身を震わせている。
情報に依れば彼らはNPCだ。孤児院を襲撃した彼らにアンデルセンは容赦しなかった。
そしてそれを率いていたのはカッツェだ。

「……分かっています。私もあのサーヴァントを無視することはできません。
 ただ私は――あくまでれんちょんさんを保護する方向でいきます」
「“子ども”だからか?」

いいえ、とルリは首を振った。

「彼女はこの聖杯戦争において明確なイレギュラーなんです。
 そのイレギュラーを調べていけば、方舟について何か掴めるかもしれません。
 なので出来得る限り保護していく方向でいきます」

あくまで任務の為に必要だから助けるのだと、ルリは言った。
彼女にとって、まずなさねばならないことはこの方舟の情報を持った上での脱出だ。
軍人としての彼女にとってはそれが変わることはない。
その為にもれんげの存在は重要なのだった。

れんげが“子ども”だから助けるのではなく、
あくまで“大人”としての理屈だった。

「ふん」

そのことを汲んだのかアンデルセンはそれ以上何も言わなかった。
剣を構えたまま、カッツェを追うべく駆け出す。
夜の街を飛ぶ彼らを討つべく。

「……ライダーさん、私たちも追いましょう」

とにかくカッツェを追う。
それはここにいた全ての陣営が下した判断だった。






「殺す……」

ジナコは言う。

「殺す……」

もう一度、言う。

「殺す……」

ただその胸に精一杯の殺意を充満させて、言葉をひねり出す。。
ありとあらゆる災厄を、もうどうにもならないという苦しみを、全て一つの想いに集約させることでジナコは殺意を保っている。
ごちゃごちゃで、どす黒く沈殿してて、訳の分からない想いを

――殺す

その一言に押し込んでいるのだ。

「もう一人のアタシ……“ジナコ・カリギリ”を殺す」

今この社会において“ジナコ・カリギリ”は犯罪者だ。
野蛮で反社会的な、意味不明なことを漏らしながら暴れ回る恐ろしい犯罪者。
これから先、ずっとこの名前にはそれが付いて回る。

そんなことは厭だった。
確かに碌でもない生き方をしてきた。
褒められるようなことなんてロクにない。将来の展望なんてまるでない、親の遺産を食いつぶすだけの社会の寄生虫。
ゲームスコアだって莫大なプレイ時間があったからだ。別にスキルが優れていた訳じゃない。

だけど――だからこそそんな風に終わってしまうのは厭だった。
だってそもそも自分が聖杯に臨んだのは……

――普通の、ただの凡人としての生きたかった

最初に親が死んだ。
ニートになって、それを勝ち組なんて適当なこと言って、
みんながどんどん変わっていく中、自分だけ何一つ変わらないまま十五年も過ごして、
そのままみんなに置いていかれて、何時しかひとりぼっちになって、

――勝ち組。勝ち組だって、本気で思ってる訳ないじゃない。

みんな嘘。嘘。嘘。
……でも、そんな嘘すら言えなくなったら、引きこもることさえできない。
やり直したかった人生を、勝手に取られて終わるだなんて、そんなの絶対に厭だ。
こんなカツラをずっと被って名前を誤魔化して生きていくなんて、とてもできはしない。

だから、殺すしかないのだ。
“ジナコ・カリギリ”を。
殺して、取り戻す。
取り戻して、やり直す。
それがジナコの願いだった。

カッツェを殺したあとの展望など、ジナコにはない。
ただもう一人の自分を殺しただけでは、人生を取り戻すことにはならない。
そのことに薄々と気づいていながらも、敢えて先を見ず目的を単純化することで、彼女は強い殺意を保っていた。
自分を騙す嘘は得意だ。何しろ彼女は十五年も付き続けてきた。

「……ゴルゴさん」

ジナコはだから依頼する。
自身の従者に。
ゴルゴ13――13番目の男に。

「アタシを――殺して」
「…………」

ゴルゴは何も言わない。
ジナコを抱きかかえながらもカッツェを追っている。
気配遮断によって孤児院を離脱したあと、彼は一先ずジナコの言う通りにしている。

今はまだ――






寒河江春紀が学園を出たとき、既に日は沈んでいた。
あの一瞬の三つ巴を経て、一通り手早く情報を洗い出すことには成功した。
情報は大体にして揃った。
あとは行動だけだ。

「分かった。なるほど」

学園から離脱し、街を歩きながら春紀は会話していた。
街の中、道路はひっきりなしに車が行きかう。廃棄ガスの臭いが漂ってきて、少し不快だった。

「“かっちゃん”――ベルク・カッツェがこっちに来てる訳か。
 分かった、アタシらも行くよ、ルリ」

携帯電話を片手に彼女は行く。
騒々しく汚い街を切りぬけ、戦場へと向かう。
赤みかかった髪が風に吹かれ、彼女の目元を隠した。

ルリからあった突然の電話。
話によると、カッツェの姿が確認され――れんげがさらわれたらしい。
いやさらわれた、というのもおかしいか。元々カッツェは彼女のサーヴァントだ。

宮内れんげ。いたいけな“子ども”
聖杯戦争のイレギュラー。
昼に一度会って、あの時は結局何もしなかった。

「……さて」

歩きながら、ぽり、ぽり、と菓子を頬張る。
チョコレートにくるまれた甘くまろやかな味が彼女の心をすっとさせた。
ああ、気分が良い。良いってことにしておこう。

「いくかい」

その言葉は近くにいる筈のランサーへ向けたものなのか、それとも自分自身へと向けたものなのか、彼女自身分からなかった。






「殺すべし……!」

同時刻、夜の街を駆け抜ける一騎のアサシンがいた。
都心ではクラクションが絶え間ない騒音を撒き散らしている。
疲れた顔を浮かべたサラリマンが帰路に付き、電光看板が味気なくループする下ではヨタモノ達が喚き散らしている。
高層建築に狭く切り取られた夜空の上にはおどろおどろしく光る月。

そのアサシンは元来復讐者であった。
敵を屠り、殺し尽し、復讐する。
その結果がそのまま彼の名となった。

「アサシン=サン殺すべし……!」

そして此度の聖杯戦争でも、彼は復讐者となった。
他でも己のマスターを弄び、死に至らしめたサーヴァント。
その名は――ベルク・カッツェ。






ベルク・カッツェと宮内れんげ。
この陣営はこの聖杯戦争において、普通ならば考えられない存在だった。

マスターはマスターたる自覚がなく、
サーヴァントは非力なマスターを守ることはおろか、放置してどこかに行ってしまう。
結果としてマスターである宮内れんげは他のマスターの下を転々とすることになった。
ジョンス・リー、ジナコ・カリギリ、寒河江春紀、ホシノ・ルリ、アンデルセン……
多くの者に出会い、そして別れていった。
みながみな、彼女を“子ども”であると扱った。

その間にもカッツェはこの聖杯戦争を縦横無尽に駆け抜けていった。
それが結果として多くの死を招いた。野原しんのすけを筆頭に、彼の存在が間接的に多くの混乱と死を呼んだ。

もしも彼らがいなければ、
この聖杯戦争は違った形になっただろうか。

ジナコ・カリギリは未だ引きこもったままで、野原しんのすけはまだ平和に生きていて、
ウェイバー・ベルベットが戦いに加わることもなく、岸波白野と遠坂凛の戦いにはまた別の結末があって、
寒河江春紀は自身の甘さを自覚することなく、ホシノルリは別の糸口を探し調査を続けていて、
アンデルセンやHALは自身の方針にもう少し集中できていて……

多くの波紋が起きた。
彼らの行動が――何一つ計画性のない彼らが、しかしそれ故にこの聖杯戦争に大きな影響を与えた。
状況をかき乱した。
彼らは多くの縁、因果の起点にいる。

「んはwwwwww追ってきてるやんwwwwwwww」

二人だけで空を飛んでいると、不意にカッツェが叫びがを上げた。
その視線の先には彼らを追い街を駆けるアンデルセンの姿があった。
尋常ではない速度で追い上げてきている。サーヴァントではないが、彼もまた歴戦の戦士だ。
最もカッツェが本気を出せば追いつける筈もなかったが――彼はあくまで状況を楽しんでいた。
まくどころか、わざと追わせるような動きをしていた。

アンデルセンだけではない。
多くの者が彼を追っていた。縁が蜘蛛の巣ように幾重にも重っている。
覚悟、憎悪、戸惑、信念……その全てが彼らを指している。
多くの縁が中心にいるカッツェとれんげを追っている。

「かっちゃん……」

その中心で、れんげは言った。

「んwwwwwなんですかぁ?wwwwww」
「かっちゃん、みんなと友だちになって欲しいのん」
「んはwwwww友達申請キターwwwwwwwwww」

カッツェはれんげの言葉を嗤う。
嗤いながら夜を飛ぶ。

不意に――橋が見えてきた。
新都と深山町を繋ぐ、大きな大きな赤い橋。
あれがあるからここの人々は交流できる。簡単に会いにいけるし、話せる。
街と街、人と人を接続する――“繋がり”を象徴するもの。

カッツェはその橋を跳び越えていく。
真っ暗な夜の川にあって、その橋が通る直線だけが光って見えた。

「だぁいじょうぶですよ」
「かっちゃん?」
「だってミィにはほらwwwwwwれんちょんがいますやぁぁんwwwwwww」

そう言って、
二人は橋を越えた。
多くの縁を引きずり回すように、彼らは街から街へと移動する。

その先に――


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宮内れんげ&アサシン(ベルク・カッツェ
アレクサンド・アンデルセン
ジナコ・カリギリ&アサシン(ゴルゴ13
電人HAL&アサシン(甲賀弦之介)
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