フー・キルド・ニンジャスレイヤー? ◆7DVSWG.5BE


屋上から身を躍らせたニンジャスレイヤーを確認した足立は大きなため息をつき、仰向けになり夜空を見上げる。
そして改めて今日一日のことを振り返っていた。

ニンジャスレイヤーが自宅へ襲撃。
NPC250人の魂喰い敢行によるバーンパレス建造。
ベルカッツェと共同しての野原しんのすけ殺害。
ランサー二騎、アサシン一騎、バーサーカー一騎によるバーンパレス襲撃。
バーンとの契約を破棄し、ニンジャスレイヤーとの再契約。

まさに激動の一日と言ってもよいだろう。
今こうして生きているだけでも儲けものと思うべきか、そう考えているうちに眠気が足立を襲い、それに負けて目を閉じる。
徹夜明けから碌に寝ておらず、緊張状態から解放されたからだろう。
眠気に身を預ける心地良さを覚えながらウトウトと微睡むがそれは遮られた。

「足立=サン、物資を買うので金を出せ」

ビルの屋上から身を躍らせたと思ったら、いつの間に足立の目の前に立っていた。
そして戻り威圧的な態度で金銭を要求する。
足立の生存に必要な物資を買おうにもニンジャスレイヤーは一切金銭を所持していないのである。

「は?」

一方足立はまさかサーヴァントからカツアゲめいた提案をされるとは思っていなかったのか思わず素っ頓狂な返事を返してしまう。

「金っていっても財布や手帳なんて部屋の中だし、そんなもん無いよ……」

微睡みから起こされたのが不快だったのか、不機嫌そうに答える。
足立の部屋、いや足立が住んでいたマンションはバーンの宝具発動の影響で跡形もなく崩れた。
跡地の瓦礫の中から財布等を探すのは不可能に近い。

「でもこれが使えるか」

そう言うと皺のついたスーツの内ポケットから何かを取りだす。携帯電話だ。
足立は携帯電話を操作するとそれをニンジャスレイヤーに投げ渡す。

「それをレジの横についている機械にかざせ」

足立が持っている携帯電話にはおサイフ携帯機能がついており、これがあれば現金がなくとも買い物は可能だ。
携帯電話を投げるように渡し、ニンジャスレイヤーは特に感謝の意を述べることもなく無言で受け取る。

「サーヴァントなんだから金なんか払わずそこらへんで盗んでくればいいのに」
「それではアシが付く」

足立の警察官としてあるまじき提案をニンジャスレイヤーは一蹴する。
実際に店を襲って金銭を奪うなり、必要物資を奪うことはニンジャスレイヤーにとってはベイビー・サブミッション。
しかし痕跡は何かしら残る。痕跡からニンジャスレイヤーや足立の存在を探知される可能性はゼロとは言えない。
その可能性を考慮して足立から金をもらって普通に買い物をしたいと考えていた。
最悪、足立が提案した通り盗むこともやぶさかではなかったが、金に代わるものを持っていたのでこれで普通に買い物をすることができる。
ニンジャスレイヤーは物資を求めビルから跳びだそうとしたが。

「しかし自分のマスターは殺すくせに盗みは気にするんだ」

足立の一言でニンジャスレイヤーの足は止まった。

「あんなか弱い幼女を殺すんだもんな。いや~凄い凄い!」

足立は体を起こし、パチパチと拍手をしながら挑発的な言葉をなげつける。
バーンの体内に取り込まれながらも意識はあり、凛を魂喰いして自分の糧にしたニンジャスレイヤーの姿を確認していたのだ。

「しかし、しんちゃんも草葉の陰で泣いているだろうな~自分のサーヴァントが血も涙もない悪魔みたいなやつだったなんて」

大魔王バーンは間違いなく当たりのサーヴァントだった。
250人の魂喰いを行ったことによりルーラーに目をつけられるなど問題もあったが、あのままいけば強固な陣地を形成してこの聖杯戦争を勝ち抜けたかもしれない。
ただそれは阻まれた。ニンジャスレイヤーが起こした行動によりランサー二騎とバーサーカー一騎がバーンを討ちにくるという圧倒的な不利な状況に追い込まれた。
あの状況で勝てるサーヴァントなどこの聖杯戦争では居ないと言えるかもしれない。
そして最後はニンジャスレイヤーにバーンは討たれ、足立は過酷なインタビューを受けることになった。

足立がマッポーめいた状況に置かれているのは紛れもなくニンジャスレイヤーのせいである。
本当ならペルソナ能力でいたぶってやりたいところだが、相手はサーヴァントでは無理な話。ならばせめて相手に恨み言や誹謗中傷の言葉をなげなければ気がすまない!
その思いで足立はニンジャスレイヤーを罵倒する。

不興を買えば死ぬかもしれないが足立は自分がそうそうに殺されることは無いと確信めいたものがあった。
足立が死ねばニンジャスレイヤーはまたマスターがいない虚弱な状態に戻ってしまう。
その状態で百戦錬磨のサーヴァント達をスレイし、他のマスターと契約することは不可能に近いと考える。
だがマスターを失ったニンジャスレイヤーは遠坂凛と契約を結ぶことに成功する。
しかしそれは岸野白野とパスを通したことにより、クー・フーリンが死んでも凛が消えることがないという特殊な状況であったがゆえだ。
ニンジャスレイヤーにとってはまさに僥倖であったが、再びそのような状況が訪れるとは限らない。
足立の罵倒はさらに続く。

「お前はしんのすけの復讐でキャスターを殺したけど、お前もキャスターやアサシンと同じ穴のムジナだよ。目的のために平気で他者を踏みにじる」

ニンジャスレイヤーは足立の言葉を聞いて足立のほうに顔を向けて少しだけ睨みつける。
それを見た足立は「ヒィ」と情けない声をあげてしまう。
マズイ調子に乗り過ぎたか?
  またあの折檻を受けるのか?
ニンジャスレイヤーによるインタビューの痛みを思い出し身震いさせる。
しかしニンジャスレイヤーは足立に敵意をむけた目を向けた後、特に言い返すこともなく屋上から跳びだし街中に消えて行く。


「ふう~少しは気が紛れたかな」
赤黒のニンジャを見送った直後足立は誰も居ないビルの屋上でため息をつき独り言をつぶやく。
ニンジャスレイヤーを罵倒することで自分が置かれている理不尽な状況に対する怒りが少しだけ収まっているのを感じていた。
足立がニンジャスレイヤーを罵倒した理由は憂さ晴らしだがそれ以外にも理由があった。

―堂島菜々子―

堂島遼太郎の一人娘。
足立の本性は利己的傲慢な人間であり、その性格ゆえか他人を見下している足立だが上司である堂島にはそれとは違う感情を抱いていた。
そしてその娘の菜々子にも同様の感情を。
また菜々子が身の危険に及んだ際にも自分では助けないものも自称特別捜査隊に菜々子を助けられるよう助言も与えたこともあった。

バーンとのイクサで菜々子とほぼ同じような年齢の少女がニンジャスレイヤーの手によってその命を散らす。
ただ菜々子と同じ年代の別人の少女が死んだだけ。ただそれだけのこと。
しかしその光景に何か思うところがあったのだろう。それが足立を少しだけ感傷的にさせていた。
足立は再び睡眠をとるために仰向けになり目を閉じた。

◆  ◆  ◆

約一時間後ニンジャスレイヤーはビルの屋上に帰還する。
一時間前とは違い背中にはパンパンに膨らんだリュックを背負い、その両手には食料品、防寒具、寝袋など大量の荷物を抱えている。なにより服装が変わっていた。
ハンチング帽にトレンチコートの出で立ち。
ニンジャスレイヤーが変装や普段着としてよく着ていたものである。

いくらスキルの気配遮断が有ると言ってもいつもの出で立ちのまま街中で買い物をすれば怪しまれてしまうかもしれない。
それを恐れ真っ先に自分の衣服を購入した。そして衣服を着た後はC-5地点にあるコンビニやスーパーなどで必要な物資を買ってきたのだ。
勿論、服屋に入店した際にはシノビ装束のニンジャスレイヤー明らかに不審人物であり、店員には訝しまれたのは言うまでもない。

「帰ってきたのか、とりあえず速く何か食べるものくれよ」

ニンジャスレイヤーが荷物を置く音で起きた足立は思い出したかのように食べ物を要求する。
実際に足立は長時間食料を摂取していなかったのでこの要求は妥当と言える。

ニンジャスレイヤーはその要求に答えるべく、屋上の床に寝転んでいる足立に食料を渡す。
スシだ。当然ながらオーガニックスシ。
足立にスシを渡した後ニンジャスレイヤーも座り込みスシパック二個と緑茶入りペットボトルを取り出して食べ始める。
足立も体を起こし膝が痛くない姿勢を模索しながらもスシを食べ始める。
この場には相手を知ろうとする会話もこれからの行動方針について決める話し合いは一切ない。
ただスシを食べる咀嚼音が響き渡り、険悪なアトモスフィアだけがこの場を充満していた。

「オヌシをあそこに連れて行く」

食事を終えるとニンジャスレイヤーはある方向に指を指し足立はその方向に首を向ける。
しかし足立に見えるのは建物だけで具体的に何を指しているのか分からない。

「あそこってどこだよ?」
「森だ」

ニンジャスレイヤーのニンジャ視力でD-5地点周辺に森があることを発見していた。
D-5のどの地点にするかは決めいていないが足立の隠し場所は街から離れた処にしようと考えた。
その考えに至った理由としてはただ単純に街中より森林の方が人に出会う確率が少ないからである。
「森?何でそんな僻地に行かなきゃならないんだよ。それより病院連れってくれない。膝が痛いんだけど」

足立は森林に連れて行かれることに異議を立てる。
魔力を吸い取られ、膝を破壊された最悪のコンディションと言ってもいい今の状態で森林という普段とは違う劣悪な環境に身を置くことは何としても避けたかった。
何より膝の痛みを早急に緩和するために治療を施し欲しかったが。

「病院へは行かぬ」

足立の意志など考慮せぬと言わんばかりに断言されてしまう。
 反論したいところだが足立は口を噤む。そんなことをしても無意味だからだ。
仮に抗議の意味で騒いだとしても、即無力化され米俵めいて森林に運ばれるのが目に見えていた。

今やマスターとサーヴァントの力関係は完全に逆転している。
本来なら圧倒的な力を持つサーヴァントがマスターの言うことを聞かせる為に令呪を三画持っているのだが、足立の令呪は一画。
その令呪もナラクの存在によりニンジャスレイヤーに利くという保証は無い。

「膝が痛いというならこれでも飲んでおけ」

そう言うと足立の目の前に何かが入ったビニール袋を置く。
カシャンと音が鳴ったところから恐らく瓶容器に入った飲み物と足立は判断し中味を確認する。

「バリキ?ただの栄養剤じゃないか?」

バリキとはニンジャスレイヤーが住んでいたネオサイタマにおいて暗黒メガコーポの一つヨロシサン製薬が発売していた商品の一つである。
このムーンセルによって作られたこの地においても存在しており、足立もバリキについて知っていた。

「大量に飲めば痛み止めかわりになるかもしれん」

表向きには只の栄養剤だが、大量に消費すると興奮状態で麻薬めいた効果を発揮するという裏技的使用法があった。
興奮状態になるとアドレナリンが分泌しアドレナリンには痛みを緩和する効果がある。
この効果を知っていたニンジャスレイヤーは痛み止めかわりになると考えバリキを購入して足立に呑ませることにする。
ただしオーバードーズによりバリキ中毒になる恐れもある。
本来なら痛み止め効果があるZBRを渡したかったが、依存性が高いせいかこの地では販売していなかった。
ニンジャスレイヤーも本来なら怪我による魔力提供の低下の可能性を考慮して病院に運びたかったが、両膝が粉砕という通常ではありえない怪我をしていることを知られれば他の主従に怪しまれる。
何より病院には検索装置が置いてある。検索装置を使おうと病院に行って他の主従に鉢合わせる状況は何としても避けたい。
足立にはバリキで痛みを耐えてもらうしかない。
もしも、怪我をしているのがしんのすけであれば病院に連れて行っていただろうが、
足立には気をかけるつもりはない。

「深夜になったらオヌシを森林に運ぶ」

今すぐに足立を連れてD-5地点の森林に行きたいところだが、ニンジャスレイヤーのニンジャ視力で辺りを見渡すと人の存在が確認できた。
それならばNPCが外出しない深夜に足立を運ぶことが安全である。

「はいはいわかりましたよ」

足立はハァとため息をつきながら返事をする。自分に拒否権は無いのはわかりきっている。
返事をした後に足立はニンジャスレイヤーの目の前に手を指し延ばす。

「携帯電話返せよ」
「これは別の場所に隠した。オヌシが何かをして逆探知されるともかもしれないからな。私が管理する」

ニンジャスレイヤーは一度自分が持っている電子機器の信号から逆探知され居場所をつきとめられたことがあった。
 そして買い物している最中に何件かの着信があった。
恐らくニュースで足立が住んでいるマンションが倒壊したことを知った警察の同僚が電話したのだろう。
それを見て携帯電話の破壊を思案するが、買い物をしなければならない状況が訪れることを考慮し、どこかに隠すことにする。
スーパーから足立の元へ帰る道中に携帯電話を隠す場所がないかと探していると森林公園を発見した。
そこはかつて遠坂凛ランサー組と狭間ライダー組が合いまみえた森林公園である。
森林公園なら敷地は広く、探すのは容易ではないと判断したニンジャスレイヤーはとある金木犀の木の下に携帯電話をビニール袋に包んで地中に埋めていた。

「そうかよ……」

身体には多数の裂傷、両ひざは破壊され、今後は森林の中で不慣れなアウトドア生活。ダメ押しとばかり自分の所有物が勝手に隠される。
声を荒げて叫びたいところだが心身ともに疲れ切っていた足立にその気力すら無い。
ニンジャスレイヤーは足立の様子を一瞥した後、着ていたトレンチコートを几帳面に畳んで地面におき、その上にハンチング帽を置いた。
そして足立に目的地を告げることもなく屋上から跳びだし冬木の闇の中に消えた。



【C-5 /ビルの屋上/1日目 夜】

【足立透@ペルソナ4 THE ANIMATION】
[状態]魔力消費(大)、両膝破壊、身体の至る所に裂傷
[令呪]残り一画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]刑事としての給金(総額は不明) 買い物によりそれなりに消費
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。死にたくない。
0 世の中クソにもほどがあるだろ……もうどうにでもなれ
1 森で生活するとか勘弁しろよ…… 
[備考]
※アサシン(ニンジャスレイヤー)と再契約しました。
C-5のビルの屋上に数日分の食糧。防寒具、寝袋が置いてあります。
足立の携帯電話はC-5の森林公園に隠されました。警察から安否確認の電話がありました。


◆  ◆  ◆

ブブブブーン、ブブブーン、ブブブブーン、ブンブンブブブーン
街灯の光りに誘われた羽虫が群がり、その羽音がベース音めいた音が響き渡る。
しかしその音以外は何一つない夜の住宅街の街路。
街路には住民はいない。
住民は家の中で家族と過ごし、食事を摂って今日の疲れを癒し、明日への活力を養っているからだ。
そんな閑静な街路だが今の静けさが嘘のような狂乱の騒ぎが夕方におこっていた。
その騒動がおこった通りに赤黒のシノビ装束を着た人物が当たりを見渡している。
その人物はNPCでは無くサーヴァント、そしてニンジャ。
ニンジャスレイヤーだ。
ニンジャスレイヤーはある目的のためにこのB-4の住宅街に居た。
今居るこの場所は野原みさえに化けたベルク・カッツェと対面した場所でもある。

アサシン=サン殺すべし!

だがニンジャスレイヤーは現時点でベルク・カッツェの所在に関する情報を一切得ていない。
この地にはヤバイ級のハッカーであるナンシー・リーも。
ネオサイタマでニンジャの情報を得るために構築した暗黒非合法システムも存在しない。
たった一人でベルクカッツェに関する情報を得なければならないのだ。
そのためにまずニンジャスレイヤーはベルクカッツェと対面した現場に訪れる。

警察が捜査を行うにあたってこのような言葉がある。
『現場百篇』
 現場にこそ解決の糸口が隠されており、百回でも現場に赴いて現場を調査するべきという格言である。
 この格言に基づいて行動したか分からないが、ニンジャスレイヤーはベルクカッツェの足取りを掴む情報は現場に潜んでいると判断し、この地に赴く。
 そしてニンジャソウルを探知するように、ベルク・カッツェのソウルの残滓が残っていないかを期待していた。
 ソウルの残滓からカッツェの居場所を辿れれば最良。
 それができなくても現場からカッツェに関する情報を入手して、検索機で検索する際に絞り込める要素を見つけられればと考えていた。
 ニンジャスレイヤーはベルク・カッツェとカラテを繰り広げながら動いた道筋を一部の狂いもなく辿っていく。
 どこに痕跡が隠れているかわからない。
ニンジャスレイヤーは自分のニンジャ五感を最大限に駆使し手がかりを探し出す。カッツェが壊した壁の破壊跡、現場の匂い、そのアトモスフィアを。
そしてニンジャスレイヤーは探索を開始してから、スキル『気配遮断』を常に使用していた。
B-4はバーンとのイクサがあった激戦区。さらに鬼眼王になったバーンの姿は多くの参加者に見られているだろう。
その様子を見ようとB-4に参加者が集まっている可能性は十分にある。
ベルク・カッツェの調査に夢中になるあまり、警戒を怠り他の主従に見つかってはウカツどころではない。
周囲にも気を配りつつ探索をするが、カッツェに繋がる情報やソウルの残滓は感知できない。
そして気づけばニンジャスレイヤーの調査の道のりは終点にたどり着いていた。
 ここはニンジャスレイヤーがしんのすけを守るためにベルク・カッツェから身を翻した地点。
そのことを思い出すとニューロンの奥底から笑い声が響き渡る。

(((アwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwアヒャヒャヒャwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwしんちゃん\(^o^)/wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww)))

ニンジャスレイヤーは奥歯を噛みしめ、拳を握りしめ怒気を発する。
もしこの場にNPCが居たらニンジャ・リアリティ・ショックで重篤な障害を生じていただろう。
 ニンジャスレイヤーの現場調査は何も収穫を得ることもできず空振りに終わった。
 手がかりが何一つ無い今の状況で、この広大な冬木市を再現された地でベルクカッツェを探し出すのは至難の技だ。
 だが必ず探し出す!しんのすけの無念を晴らすために!
どのようにカッツェの居場所を見つけるか思案しながらもニンジャスレイヤーは走り出す。

もう一つやらなければいけないことを成すために。


◆  ◆  ◆

アスファルトが蜘蛛の巣状にひび割れ、割れたアスファルトが散乱する街路。
ニンジャスレイヤーは小石程度の大きさに破壊されたアスファルトを拾い上げる。
その小石を道路の端に積み重ねていく。
一つ、二つ、三つ。

石を積み重ねたオブジェめいたモノを三つ作ったニンジャスレイヤーは正座し祈りを捧げる。
ここはしんのすけがこの聖杯戦争で命を散らせた場所。
そしてこのオブジェめいたものはオブツダンである。
 ニンジャスレイヤーの目的はしんのすけへそして亡き妻子に祈りを捧げることであった。
 この行為は聖杯戦争を勝つ為には何の意味もないと言えよう。
 そんなことをしている暇があれば他の行動を取るべきと他の主従は嗤うかもしれない。
 だがニンジャスレイヤーにとっては重要な行為なのだ。

ニンジャスレイヤーが戦う動機は復讐である。
 ニンジャスレイヤーにとっての復讐とはなくなった大切な人物に捧げる厳粛な行為であり、祈りであり、人々を理不尽に虐げる理不尽な邪悪な者への、体制への怒りである。
 祈る気持ちを失って仇を討っても意味がない。
 故にニンジャスレイヤーは即席のオブツダンを作り祈るのだ。
 ニンジャスレイヤーは正座し、一番左の即席のオブツダンに祈り捧げる。

{(((しんのすけよ、キャスター=サンはスレイした。残りはアサシン=サンだ!
必ずスレイするのでもう暫く待っておいてくれ……)))}

本来であればバーンの首をセンコ代わりにしたかったがそれはかなわなかった。
そして残りの二つのオブツダンに祈りを捧げる。

(((フユコ、トチノキ。私はお前達の復讐以外にもう一人の復讐の為に今戦っている。それを許してくれ……)))

 このオブツダンはフユコとトチノキのモノであった。
本来なら亡き妻子に祈りに捧げる場所はマルノウチ・スゴイタカイビルである。
だがこの地には再現されてはいない。
それどころかどの方向にマルノウチ・スゴイタカイビルが有るのかもわからない。
そして妻子の写真が入っているオマモリ・タリスマンも手元にはない。
ならばせめてもと思い仮初の祭壇としてしんのすけのオブツダンの隣に妻子のオブツダンを作り、祈りを捧げていた。
しんのすけ、そして亡き妻子への祈りが終わる。
もうこの場に留まる理由はないので立ち去ろうとするが、ふと足立が発した言葉を思い出していた。

(((お前はしんのすけの復讐でキャスターを殺したけど、お前もキャスターやアサシンと同じ穴のムジナだよ。目的のために平気で他者を踏みにじる)))

頭にある考えが過る。

―自分はすでに妻子を殺した邪悪な存在になっているのではないのか?――

しんのすけの仇を討つためにニンジャスレイヤーは遠坂凛の魂を喰らった。
遠坂凛の魂を喰らった時はナラク・ニンジャに意識の主導権が握られており、ニンジャスレイヤーの意志ではなかった。
しかしモータルを殺したのは紛れもない事実である。
自分の目的の為にモータルを踏みにじる行為。
まさに妻子を奪ったニンジャの邪悪そのもの。
そんな邪悪であるニンジャの自分はセプクすべきなのか?

 生前のニンジャスレイヤーは無限に等しいほどの自責と自問自答をおこなってきた。
そしてサーヴァントとして現界した今も自責と自問自答は終わることはない。

自問自答を続けるなか、突如ニンジャスレイヤーは走り出した。


◆  ◆  ◆

『今日の夕方にB-4にある高層ビルが倒壊しました。
原因は不明ですが、警察はテロ行為の可能性も考慮して捜査を続けています。
周辺の住民の中に巨大な怪物を見たという証言もあり、幻覚作用を促すガス兵器が投入された可能性もあります。周囲の方は近づかないようお願いします』

ある一軒家のリビングのテレビから流れるニュースは聞いた誰もが思わず振り返ってしまうようなショッキングなものだった。
この家はB-4にあり、関心度も他の地区の住民とは桁違いに違うはずだ。
しかしこの家に住む住人は耳をかすこともなく、ただのBGMのように聞き流す。

そしてリビングを見渡すと床にビールの空き缶が散乱しているのが見て取れる。
その数は一つ二つではなく大量と言っていいほどの数だった。
空き缶が散乱するリビングの中心にある机の上に一人の男が項垂れている。
その目は虚ろでまるで生気を感じられない。
その男の名前は野原ひろし。

ニンジャスレイヤーとウェイバーとデッドプールがキャスター討伐に向って野原家周辺の地点から離れた数分後。
野原ひろしは意識を取り戻す。
完全に覚醒していない意識のなか周りを見渡すとそこは異様な光景が広がっていた。
泡を吹いて倒れている人物。
「アイエエ」と呟きながら虚ろな目をしている人物。
その光景を見たひろしは言いようのない悪寒感じていた。
妻のみさえに呼び戻されたことを思い出し、この異様な空間から脱するために急ぎ足で家に向かう。

「まったく!またしんのすけが何かやらかしたのか!」

ひろしは舌打ちをして苛立ちを露わにする。
会社の仕事を切り上げて早退するということは想像以上に気まずいことである。
子供がトラブルをおこしたということで『仕方がない』と快く送り出してくれた人が大半だったが、一部は快く思っておらずひろしに不快感をしめしていた。
ベルク・カッツェが植え付けた悪意の影響か、いつも以上にイラついていた。
自宅の玄関の前に到着するが、急ぎ足だったせいか息は乱れていた。
しかし息を整えぬまま勢いよく扉を開ける。

「しんのすけ!みさえ!居るか!」

少しだけ語気を強めた口調で家族に帰宅したことを告げる。
しかし返事は返ってくることはない。
家の雰囲気がいつもと違うことを感じ取り漠然ながらも嫌な予感を感じていた。

「みさえ!しんのすけ!」

我が子と妻の名前を呼びながら家を探索するが、一向に姿が見えない。
ひろしの苛立ちはいつの間にかに治まっており、代わりに不安が押し寄せていた。
家の中を一通り捜索するが、居たのは赤子用のベッドでスヤスヤと寝ている娘のひまわりだけだった。

「ったく、みさえはひまわりを放っといて何しているんだ」

口では悪態をついているが、みさえへの怒りより不安が心を満たしていた。
赤子のひまわりを放置する。
目を離せば何をしでかすかわからない赤子から目を離すことは非常に危険だ。
今ひまわりはみさえの監視もなく一人で寝ている。
普段のみさえならあり得ない行動。
それにしんのすけの姿も帰ってきた様子もない。

「……まあ、そのうち帰ってくるだろう」

不安で心が載り潰されないように、根拠のない希望的推測を自分に言い聞かせる。

午後7時を回っても二人は一向に帰ってこなかった。
ひろしが家に帰ってから数時間は経ったが連絡の一つも来る気配がなく、さすがに楽観的な考えもできなくなってくる。
警察に相談することも視野に入れ始めた矢先にそれは起きてしまった。

「ああああああ!嘘だ!嘘だ!」

突如ひろしは自分の頭を机に叩きつける!何が起こったというのか!?
ひろしの頭の中に全く記憶にない光景がよみがえる。
普段ではありえないほどの力で殴りつける自分。
誰を?
その相手を見てみるとKO負けしたボクサーめいて腫れ上がった顔。
しかしよく見ると見知った顔。
誰?
それは我が子しんのすけ。

「違う!違う!違う!違う!違う!」

ひろしは口では否定の言葉を口に出す。
だが。
しんのすけを殴った時の頬の肉の柔らかさ。
全力に殴った際に生じる拳の痛さ。
何よりわが子が向ける。驚きと絶望に塗りつぶされた瞳。
まるで自分がしたような、あまりにもリアリティがある記憶が次々と蘇る。

ベルク・カッツェの悪意がそうさせたのか?
ウェイバーが暗示をかけた影響か?
NPC野原ひろしの再現された息子への愛情のせいか?
それとも他の要因があったのか?

原因はわからないが、野原ひろしはしんのすけに暴行を振るったことを完全に思い出し、息子が死んだことを悲しむというNPCではバグと言えるような感情を見せていた。

「うっ!」
突如胃液が逆流する予兆を感じ、口を押えトイレに駆け込み。
「オゴーッ!」
便器に向って吐瀉物を吐きだし、胃の中で消化されていないモノはすべて便器の中に入っていく。

「くそ……本当に俺がやったのか……」

涙目になりながら口を拭う。
今ひろしの脳内では自分はやっていないという否定の感情と自分がやったと認める感情がせめぎ合っていた。
しかし次々と思い出す記憶が否定の感情を打ち砕いていく。

そしてひろしが考えたのはしんのすけの所在だった。
思いたくはないが自分の記憶が本当ならしんのすけは相当の重傷だ。
もしその状態のしんのすけを発見すれば誰が119番の連絡し、救急車に運ばれているかもしれない。
それならばしんのすけが家にいない理由も納得できる。
しかしもし救急車で病院に運ばれていたら、自分が暴力を振るったことは決定的だ。
そのことを認めるのは恐ろしい。
だがそれを確かめなければならない!

ひろしはふらつきながらも電話機に向かい受話器をとり、冬木市で一番規模が大きい錯刃大学附属病院に電話をかける。

プルルル、プルルル

「もしもし錯刃大学附属病院です」
「あの……すみません。そちらに五歳ぐらい男の子が救急車で運ばれてきませんでしたか?
私の息子の行方がわからなくて……もしかしたら怪我で運ばれていないかと思いまして……」
「……少々お待ちください……」

ひろしはこの時処刑台に立たされた死刑囚めいた気分を味わっていた。
時間にしては一分ぐらいだったがひろしにとってはこの待ち時間は何十倍にも感じていただろう。

「もしもし、確認をとったところ緊急の患者として此方には運ばれていないようです」
「そうですか……ありがとうございます……」

その後ひろしは他の救急病院に電話をしたが、しんのすけが搬送されたという答えは返ってこなかった。
病院に運ばれていないということは自分が暴力を振るっていない可能性も僅かに出てきたと思い始めるが、同時に疑問も思い浮かびあがる。
救急車に運ばれていないのなら、しんのすけはどこに居るのか?
そして仮に自分がしんのすけに暴力を振るったのなら、どこで?

混乱する頭であらゆる可能性を考えると、ひろしのニューロンはとんでもない答えを導き出した。


――まさか自分がしんのすけを殺して?自分がどこかに隠した?――

普段では考えもつかないあまりにも突拍子のない発想。
天変地異が起ころうと自分の息子を殺すことはありえない!
数十時間前ならばそう断言できていた。
しかし、しんのすけに暴力を振るったということを事実と認識し始めているひろしの思考はこの飛躍した考えに現実味を帯びさせていた。

確かに野原ひろしはしんのすけに暴力を振るった。
しかしあれはベルカッツェに悪意を植え付けられて強制的にやらされたもの。
そしてしんのすけの死因はまおうのかげの即死魔法『ザギ』
しんのすけの死に関してひろしに非は無いと言える。
しかしNPCである野原ひろしがその真実にたどり着くことはありえない。
間違った答えを事実と認識したひろしは夢遊病の患者めいた足取りで玄関から外に出ていく。
決して目を離してはならない娘のひまわりを置いて。

間違った事実を真実と認識してしまったひろしがこの後とった行動は現実逃避だった。
家から出たひろしは夢遊病の患者めいた足取りで向かった先はコンビニ。
そこで大量のビールを買い込み帰宅する。
それをリビングの机に置き、浴びるようにビールを飲み続けた。
野原ひろしのニューロンがしんのすけを殺したことをこのまま事実として受け止めれば精神が崩壊すると判断し、防衛機構として現実逃避することを選択する。
飲んでは吐き、飲んでは吐き。それを繰り返しながらも飲み続けた。

――仕事終わりのビール――

本来なら好物のはずのビールがこの世のものと思えないような不味さだった。
それでも飲み続ける。
我が息子を死においやったという偽りの事実を忘却の彼方に追いやるために。
だが、
しんのすけの腫れ上がった顔が。
しんのすけのうめき声が、困惑の声が。
しんのすけの鼻から出る血の匂いが。
しんのすけを殴った感触が。
しんのすけの飛び散った返り血の味が。
五感のすべてが鮮明に正確に場面を強制的に再現させる。

「くそ!くそ!くそ!」

ひろしはビールだけでは記憶を消し去ることはできないと判断し、冷蔵庫からバリキ1ダースを取り出し机の上に置いた。
以前会社の先輩から聞いたバリキの大量摂取によりバリキ中毒になった人物がいることを思い出していた。
バリキ中毒になればすべてを忘れて楽になれる。
ひろしはバリキドリンクを手に取り、それを一気に飲み干し、飲み干したビンの底を机に叩きつける!
二本目のバリキドリンクを手に取り、それを一気に飲み干し、飲み干したビンの底を机に叩きつける!
三本目のバリキドリンクを手に取り、それを一気に飲み干し、飲み干したビンの底を机に叩きつける……ことはできなかった。
何者かが後ろからひろしの手首を握り、バリキドリンクを飲むことを阻止していた。
その人物は赤黒のシノビ装束を身に纏い、装着しているメンポには「忍」「殺」と刻み込まれている。
野原家の家に赤黒の殺戮者がしめやかにエントリーしていた。

◆  ◆  ◆

自問自答を続けるなか、ニンジャスレイヤーはしんのすけの父親、野原ひろしのことについて考え始める。
息子のしんのすけを失い。そして妻であるあの女性も恐らくは生きていないだろう……
 フジキド・ケンジと同じく邪悪な存在に理不尽に妻子を奪われた。
 あまりにも同じ境遇に置かれた存在。
 フジキド・ケンジは妻子を殺したニンジャの邪悪をすべて滅ぼす存在。ニンジャスレイヤーとなった。
 そして野原ひろしはどうなるのか?
 ウェイバーの暗示でしんのすけへ暴力を振るったことを忘れているかもしれない。
 だが思い出していたら?
息子を失った悲しみを乗り越えて生きていくのか?
それとも悲しみに押しつぶされるのか?
それとも復讐に身を焦がすのか?
この地においてニンジャスレイヤーだけが野原ひろしの気持ちを誰よりも理解できる。
そして誰よりも同情の念を感じていた。

ニンジャスレイヤーは気が付くと野原家に向って走っていた。
家にいない可能性もある、居たとしてもただ一目様子を見るだけのつもりだった。
一目見てその場から立ち去るつもりだった。
ニンジャスレイヤーが野原家の前にたどり着くと、そこで男性の叫び声が聞こえてきた。

何か様子がおかしい。
ニンジャスレイヤーは無断で野原家に侵入し、リビングに入ると大量のバリキを飲み干そうとするひろしが見えた。
それを見た瞬間。ニンジャスレイヤーはひろしの手首を握りしめていた。

「何だあんた?」

ひろしは自分の手を掴みバリキを飲むことを阻止した謎の人物を探るために後ろを振り返る。焦点が定まらないその目でかろうじて赤黒の何かが居ることを判別する。

「その量のバリキを飲めば下手したら死ぬぞ」

ひろしと目があったニンジャスレイヤーは端的に伝える。
実際死ぬかはわからないが、ただその量のバリキを飲めば体に重大な支障をきたすのは確実であった。

「うっせえな!」

ひろしは掴まれた手首を振り払おうとするが、振り払えない。
何回か力を込めるが自分の手は一ミリも動かない。
突如手首は解放され、手首を見るとうっすら跡がついている。
その筋力から自分と同じ人間ではないと判断する。
ひろしは泥酔状態でバリキドリンクを飲んだことにより一種のトランス状態になっており、現実と妄想の区別がつかない状態だった。
そしてトランス状態のひろしはニンジャスレイヤーのことを。

「さてはあんた死神だな!」

死神と判別した。
ひろしにとってニンジャスレイヤーは死が人の形をしている何かのように感じ取っていた。
だが恐怖は不思議と感じなかった。

「いいぜ死神!早く俺を裁いてくれよ!俺は息子を殴り殺した畜生以下の極悪人なんだよ!」
ひろしはニンジャスレイヤーの襟首をつかみ、唾を飛ばしながら勢いよくまくしたてる。

「だから速く殺せよ!もうあの記憶を思い出したくないんだよ……」

今度は涙を流しながらニンジャスレイヤーに懇願する。
一方ひろしの独白を黙って聞いていたニンジャスレイヤーは魂を鑢掛けされたような痛みを味わっていた。
ひろしの独白一つ一つがひろしの視線が魂に突き刺さる。
自分のウカツが自分の不甲斐なさがこの父親をここまで苦しめている。
もしバーンを裏切るタイミングをもう少し慎重に吟味していれば。
ベルク・カッツェを即撃退して、しんのすけの元へ駆けつけていれば。
しんのすけの命を優先し、聖杯戦争の仕組みを伝えて、どこかに身を隠させていれば。
しんのすけは今も生きていたかもしれない。

しかしそれは仮定の話。
裏切るタイミングを遅らせても、バーンの陣地が完成すれば遅かれ早かれ攻撃されていたかもしれない。
しんのすけに聖杯戦争のことを伝えれば、その幼い精神ではその事実に耐えきれず心が壊れていたかもしれない。
それ依然にどんな行動を取ったとしてもしんのすけが死ぬという結果はムーンセルに定められたものかもしれない。
しかし自分が取った行動の結果。しんのすけは死に、その父親はこんなにも苦しんでいる事実が現実だった。
ニンジャスレイヤーはひろしの嘆きの声を、嘆きの視線を心に刻み込み自分を責めたてる。
それが自分のインガオホー。

「私にオヌシを裁くことはできない」

ニンジャスレイヤーは重い口を開く。

「そしてオヌシの息子、しんのすけに暴力を振るったのはオヌシの意志ではない。
邪悪な存在がそうさせた」

仮にサーヴァントのベルク・カッツェの悪意がそうさせたと言っても与太話だと言っても信じないだろう。
それ以前にNPCがサーヴァントの存在をサーヴァントとして認識することはできない。
故にベルク・カッツェを邪悪な存在と抽象的に表現した。
僅かでも慰めになれば思ったが、ひろしには効果は薄かった。

慰めはいらねえよ死神!俺がやったってことは事実なんだろう!じゃあ速くやれよ!」

ひろしは自分の罪から逃げ出したい。はやくこの重圧から解放されたい。
ただそれだけを求めていた。例え自分の命が無くなろうとも。

「何度も言うがワタシがオヌシを裁くことはない。そしてオヌシが今後どうするか勝手だ」

酷なようだが、この後ひろしがどのような行動を取るかは当人の自由。
思わず大量にバリキを飲み破滅しようとしているひろしを思わず止めていしまったが。
ニンジャスレイヤーは本来人に関わるべきではないと考えていた。
例えひろしが自ら命を絶とうとしても止めはしないだろう。
だが言わずにはいられなかった。

「オヌシが死んだらあの赤子はどうなる」

そう言うとひまわりが寝ている赤子用ベッドを指差す。
「オギャー!オギャー!オギャー!」

ベッドで寝ていたはずのひまわりは今大声で泣いている。
この場に漂う不穏なアトモスフィアを赤子独自の感覚で感じ取っていたのだろう。

「あ……ひまわり……」

ひろしはニンジャスレイヤーの襟首から手を離すと、ふらついた足取りでひまわりの元へ歩みだす。
途中何回も転び、最終的には這いつくばるようにしながら近づく。

(俺は何を考えていたんだ!)

ひろしは自分のことばかり考え、ひまわりのことに気がまわらなかったことを激しく責めた!
親が子供を守らなければ誰が守るというのだ!子供を見捨て命を絶とうとする親が居ていいはずがない!
子供と共に歩む人生こそ自分の夢であったはずなのに、それを自ら放棄しようとしていた!
ひろしはひまわりを泣きながら抱きかかえた。

「ひまわり!ひまわり!ひまわり!」
「オギャー!オギャー!オギャー!」

ひろしは大声で泣きながらわが娘の名を呼び。
ひまわりもひろしに呼応してか、より一層の大声で泣いていた。
ニンジャスレイヤーはその様子を見た後、しめやかに野原家から退出する。

ニンジャスレイヤーはひろしがどのような行動をとろうが関与するつもりはなかったが本心で言えば生きていてほしかった。
自分はマルノウチ・スゴイタカイビルで妻子を守ることができなかった。
だがひろしにはまだ娘が居る。
ならば自分ができなかった代わりにひろしには家族を守ってほしかった。
一人の父親として。
そして自分が思い込んだ偽りの事実で責を感じ破滅する父親をしんのすけも見たくないだろう。
だがそれはフジキド・ケンジの願望であり、ワガママだ。
生きるということはしんのすけに暴力を振るったという十字架を背負うこと。
そんな記憶を抱えて生きるこの世はひろしにとってマッポーそのものかもしれない。

ニンジャスレイヤーは玄関を出た後野原家の庭先で霊体化し。アグラを組みアグラ・メディテーションを始める。
己の今後を。そして決意を再び定めるために。
しんのすけを殺し、さらに父親のひろしを地獄の底に叩き落としたベルク・カッツェは何としても殺す!
そしてすべてのサーヴァントをスレイし……、聖杯を手に入れる。
妻子を殺したニンジャの邪悪を滅ぼす為に。
自分の力のなさで死んでしまったしんのすけの為に。
息子が突然居なくなり嘆き悲しんでいる両親の元へしんのすけを返すために。

そのためにはナラクの力の力が必要不可欠。
しかしナラクが遠坂凛に取った行動に対してのわだかまりが残っているのは事実。
だがこのイクサに勝つ為には不満を飲み込みナラクと折り合いをつけ、力を引き出さなければ勝てない。
トコロザワピラーの屋上でラオモト・カンとの戦いでナラクを受け入れたように。
だがナラクを受け入れるがソウルの手綱を握るのは自分である。
バーンとのイクサでは無様にも手綱を離し、ナラクに手綱を握られてしまう。
その結果遠坂凛、モータルが死んだ。
そして今後また手綱を離せばイクサに関係ないモータルも巻き込み殺していくだろう。それだけは避けなければならない!

だがモータルとは誰を指すのか?
ニンジャスレイヤーは聖杯戦争に参加しているマスターと、この地で生活するNPCと定義した。
当初ニンジャスレイヤーはNPCとはこの聖杯戦争を進行するために必要なただの舞台装置であり、クローンヤクザ程度の存在という認識だった。
 日常生活を送るために必要な思考能力は有しているがただそれだけ。
 感情と言える魂はない人形。

 しかし野原ひろしは違った。
 我が息子に暴力を振るったことで激しく自分を責め立て、その罪の意識から命を絶とうともしていた。
 これはクローンヤグザでは到底考えられない行動。
 NPC全員に魂と呼ぶべき感情を有しているのではと考え始めていた。
 そんなNPCが活動しているこの街は自分たちにとっては虚構であり、箱庭だが、NPCにとっては世界そのもの。
NPCはこの世界のモータルと言えるかもしれない。ニンジャスレイヤーはNPCに魂があると考えた。
だが野原ひろしの模したNPCがバグでそのような感情を持ってしまっただけで、一般のNPCはそのような感情を有していないことをニンジャスレイヤーは知らない。
それどころかムーンセルによって野原ひろしは明日にはその感情が無くなっているかもしれない。
野原ひろしがどうなるかはムーンセルだけしか知らないことだ。

そして足立の言葉を改めて思い出す。

(((お前もキャスターやアサシンと同じ穴のムジナだよ。目的のために平気で他者を踏みにじる)))

ニンジャスレイヤーは数えきれないほどのニンジャをスレイしてきた。
ニンジャの欲望を、生の願いを踏みにじってきた。
その中には世間にとって世界にとって良きニンジャが居たかもしれない。
だが自分の判断でスレイした。
そして今はしんのすけを生き返らせるという自分のエゴのためにすべてのサーヴァントをスレイしようとしている。
この姿はしんのすけが憧れたヒーローとは程遠い邪悪な存在。
しんのすけがこのことを知れば落胆し、軽蔑するだろう。
確かにバーンやカッツェと同じ邪悪な存在になっているかもしれない。
自分は利己的な殺戮者。カトゥーンならヒーローに倒されるべき悪役。
だが感傷を、人間性を捨てたつもりはない!
それを捨てれば今までの、そしてこれからの復讐が無意味になる。
しんのすけが嫌悪する悪役。妻子の命を奪った邪悪なニンジャになってしまう!


そして内に潜むナラク・ニンジャが自分の身体を乗っ取ったら。
人間性を捨て、モータルを無意味に巻き込み殺し、感傷を抱く心すら無くしてしまう化け物になるだろう。
もし再び自分のブザマでナラクに乗っ取られ妻子を殺したニンジャと同類の存在と化してしまったら……本当の意味で化け物となってしまったら。

「セプクする」

ニンジャスレイヤーは自分の手でその命を絶つことを決意した。
己の決意を定め行動を移ろうとしたが、ニューロンの奥底にある疑念が浮かぶ。

しんのすけの仇は本当にバーンとベルク・カッツェだけなのか?

 確かにしのすけを直接的に殺したのはバーンとベルク・カッツェだ。
 バーンは聖杯戦争に勝つため、ニンジャスレイヤーが裏切った見せしめのために。
 ベルク・カッツェは己の愉悦のために。
だが聖杯戦争という舞台での敵マスターと敵サーヴァントでなければどうなっていたか?
しんのすけは死ぬことはなかった。
それ以前に普通ならば出会うことすら無かった者同士。
では誰が出会わせ戦う理由を作らせた?
ニンジャスレイヤーのニューロンは瞬時にその答えを導き出す!

聖杯、ムーンセル

聖杯戦争とはマスターとサーヴァントが自らの願いを掛けて行う殺し合い。
他人を殺してまで願いを叶えたいと思うものが集まったイクサ。
イクサのうえ殺されるのは参加者のインガオホー。
だがしんのすけには無かった。
あの純粋で正義を信じる少年に他人を殺してまで叶えたい願いなどあるはずはない!

だが、ムーンセルはそんな少年を、聖杯戦争を開催するという己の都合のために戦う意志がない無力なモータルをイクサ場に投げ込んだのだ!
己の都合の為にモータルを踏みにじる。
三種の神器を手に入れる為に妻子が亡くなった原因、そして多くの犠牲者を出したマルノウチ抗争を引き起こしたザイバツ・シャドーギルドのように!
 それはニンジャスレイヤーが何度も見て、スレイしてきた邪悪そのもの!
 真の仇は聖杯!ムーンセル!
しかし邪悪だが聖杯の力はナラクが言ったように本物である。
ならばその力は利用する。
しんのすけを生き返らせ、その上で聖杯をスレイする!ムーンセルをスレイする!
生き返らせたとしてもこの舞台に呼び、しんのすけを恐怖のどん底に落とし殺させたことは赦されるものではない!

己がやることへ決まった。
このイクサに勝ち抜きしんのすけを聖杯の力で生き返らせる。
その後に聖杯は殺す!慈悲はない!

「WASSHOI!!」

ニンジャスレイヤーはアグラ・メディテーションを解き走り出す。
それを見下ろす月は髑髏が笑っているような不気味な模様だった。

【B-4/野原家の庭/一日目/夜】
【アサシン(ニンジャスレイヤー)@ニンジャスレイヤー】
[状態]魔力消耗(大)、ダメージ(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:しんのすけを弔うためにアサシン=サン(ベルク・カッツェ)殺すべし。聖杯の力でしんのすけを生き返らせる。
その後聖杯とムーンセルをスレイする!
0.アサシン=サン(ベルク・カッツェ)殺すべし!ナラクに乗っ取られ邪悪な存在になればセプクする。
1.聖杯を手に入れるためにすべてのニンジャ(サーヴァント)をスレイする。
2.深夜になったら足立を安全な場所に運ぶ。(第一候補D-5地点の森林のどこか)
3.ベルク・カッツェに関する情報を入手する。


[備考]
※放送を聞き逃しています。
※ウェイバーから借りていたNPCの携帯電話を破壊しました。
※足立透と再契約しました。
※ナラクに身体を乗っ取られ、マスターやNPCを無意味に殺すような戦いをしたら自害するつもりです。
※深夜になったら足立をD-5地点の森林のどこかに運ぶつもりです。詳しい場所、時間は決めていません。
※トレンチコートとハンチング帽はC-5/足立がいるビルの屋上に畳んで置いてあります

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