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Gのレコンギスタ ◆Ee.E0P6Y2U



みすぼらしい造りの山小屋は夜を迎え、闇に沈み込んでいる。
電灯は消している。夜の山で意味もなく目立つような真似はしたくない。
とはいえ蟲が辺りを徘徊させているし、この小屋に何も知らずに迷い込んでくるような者はいないだろうが。

「…………」

月のささやかな光だけが差し込む中、そこは静寂だけがあった。
桜は壁にもたれかけ、そっと目を閉じている。シアンはその隣に佇んでいる。
互いに会話はなかった。必要もない。闇に慣れた彼女らに明かりが必要ないのと同じように。

――眠ってはいないな。

シアンは無言のまま桜の様子を窺う。
しばらくは雌伏――その方針を彼女は了解した。
今日一日彼女はほとんど外に出ていない。それはマスターを秘匿する為であり、サーヴァントとしてのシアンの性能を最大限発揮する為でもあった。
蟲との感覚共有でで外の情報を得られるとはいえ、ただ過ぎ行く時間を待つ身だ。
だが彼女は何も言わなかった。外に出たいとも、娯楽物を持ってこいとも、一切言わなかった。
この分では明日も同じ布陣で良さそうだ。学園には多くの敵がいる。
多くの生徒が隠れ蓑になるだろうとはいえ――やはり危険だ。

――慣れているのだろうな。

桜の姿を視界に入れながら、シアンは思う。
闇にただ沈むことに、きっと桜は慣れている。
故に彼女は文句を言うどころか、どこか涼やかに方針を受け入れた。
眠ることもなく、話すことももなく、ただ闇に呑まれながらじっと待つ。
それは如何な想いを抱えながらのものなのか。

――私が触れるべきことではない。

それは一つの線引きだった。
あるマスターの脱落を伝えて以降、彼女の調子が僅かに変わっていようとも、向こうが言いださないのならばそれまでだ。
故にただ黙したまま、シアンは桜の側で佇む。同時に夜の闇に蟲を這わせながら……

――情報、戦力、魔力、根回し……

今は表舞台に立つ時ではない。
次なる局面に進む為に、やるべきことをやる。
その点では今日は悪くない成果だった。

多くのサーヴァントの情報を手に入れた上、マナラインの構築にも成功。
霊脈に通した路が魔力を吸い上げてくれる。“浮遊城”が使えるようになるのもそう遠くはないだろう。
最も使えるようになったからといってすぐさま攻勢に出ることはしないが。

――さて、あとは。

日付が変わるまでは動くつもりない。
蟲を使って辺りを監視するくらいだ。
日中は桜に任せていたが、学園に集中していたシアンの“理性”が帰ってきた以上より機敏に動くことができる。

そしてシアンはその理性をここではない別の蟲に集中する。
感覚が流れるように推移していく。切り替わるのではなく、あくまで意識する部分が変るだけだ。
耳をそばだてることとやっていることは同じことで、元から感じていたものに理性の焦点が当てるというべきか。

そうしてシアンは街を監視する蟲となった。
各々の家で過ごす市井の人ら、街にあふれかえる雑多な声、日常の影に蟲がひっそりと翅を広げる。
まずは夜の街全体を漠然としたイメージでとらえていく。
そして掴んだイメージの中から、必要な情報をそっとすくい上げる。

――視るべきは。

今日一日手に入れた情報で、まだ触れていなかった名が一つある。
ミカサとの接触以降学園に注力してきた為後回しにしてきたが、余裕ができた今こそ視てみるべきだろう。
彼がどこにいるのかを知るのは容易だった。その地位故、どこに彼がいるのかは常に外部へと流れている。

そうして蟲が赴いたのは、街に鎮座する巨大なホテル。

――シャア・アズナブルを名乗る政治家がそこにはいる。






「ン……」

その時点においてシャアは正式に同盟を結んだ少女、正純と共にいた。
ホテルの一室にて、今後の方針について取り決めていたのである。
候補としての彼は多忙な身であったが、その務めはこの場において優先すべきことではなかった。

「邪気が来るな」

そこにあって、シャアはぽつりとそう述べた。
何かが飛んでくる。それもそれが邪悪に属するものであることを、彼はその鋭敏な感覚で知ったのである。

ブウン……ブウン……

奇妙な翅音のイメージに乗って悪がやってくる。
論理的な手続きをジャンプして、彼はその曖昧でありながらも鋭敏な感覚を捉えることができた。

「どうかしたのか?」

少女、正純はそんな彼に対し訝しな顔を浮かべ問いかけた。
今、彼らが話していたことは具体的な行動の手順だった。
方舟に対する方針は決まった。だがそこにはどういった道のりと障害があるのかを、実際的に確かめる必要があった。

「何かが来るな。恐らく……敵に属するものだ」
「敵……」

少女はシャアの言葉を反芻した。
どのような手順でそれを知ったのか、そう問われれば説明できる自信はなかった。
言葉によって説明をすれば得てしてニュータイプは単なるエスパーとして片づけられてしまう。
だがその解り方では駄目なのである。よりもっと曖昧で……深淵なものでなくては……

「アーチャー」

シャアはそこで己に寄り添うように立つ、また別の少女にも声をかけた。
なあに、とあどけない顔で彼女は振り向いた。茶色かかった髪が揺れ、その先に澄んだ瞳が見えた。

「少しホテルの外を見てきてくれないか。何か……妙なものが飛んでいる」

言うと、彼女はエ……? というような顔を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべた。

「分かったわ。私に任せて!」

アーチャー、雷と名を持つ彼女はそう元気よく言ってのけた。
喜色の滲むその笑みにシャアもまた頷き返す。
それを満足げに見届けた彼女はキン! と何か琴楽器に似た音を立て、同時にその姿を露と消していた。

「ふむ何かあったのかね」

アーチャーの霊体化を見届けると、部屋の隅よりまた別の声がした。
丸々と太った軍服の男、ライダーは正純の後ろに椅子を引き、静かに構えていた。
彼は愉しげに口元を釣り上げていたが、それはいささか露悪的だった。

「何か妙なものが近づいてきている。神経をざわりと逆撫でする湿ったものだ」
「敵かね」
「恐らくは、そうだろう」

シャアがそう言うとライダーは隣に立つ正純へと目線を送った。
その意味するところを悟ったのか、正純はこくんと頷いた。

「了解した。ではこちらも戦力を出そう」

そして彼女は毅然とした姿勢でそう言い放った。
その言葉を聞きつつも、シャアはこれから何が始まるのかをはっきりと認識していた。






――風が吹いている。

夜の街では多くの人影が見えた。
若者が通路でたむろをし騒ぎ立て、一方で家族連れがレストランに入っていた。その向こうで背広を着たサラリーマンが帰路についているのが見えた。
雑踏をビルの明かりが照らし出している。時節車のクラクションが雑踏に重なるように響いた。
夜の帳が下り、流石に制服姿の学生は減ったが、街は尚も騒然としていた。

雷は夜の街が持つ特有のカオスを静かに見下ろしていた。
ハイアットホテルを見上げる位置にある、人気のいないビル。
そこは街のきらびやかな明かりに隠れ、薄暗い闇が出来ていた。
がらんとしたビルの屋上は整備されていない。碌に掃除はされておらず、転落防止のフェンスすらなかった。

そこにビュウウウウ、と音を立て風が吹く。
その風は強く、そして冷たいものに感じた。肩まで伸ばした髪ははたはたと揺らめき、少しだけ邪魔っ気だった。

眼下の世界が遠く感じられる。
ある者はゆっくりと、ある者は昂ぶりを隠さず、ある者は疲れに沈むように、雑多に交錯した生活が街の風を作っているのだ。
だが、その混沌とした雑踏のすぐ頭上では別の風が吹いている。

後ろではビルに溜まった塵がどこかに吹き飛ばされ、消えていった……

――この風……

雷はふっとその手に絡んだ銃器の冷たさをそっと感じ取った。
柔らかにはためく水兵服に重なるようにして、艶のない装甲がその存在を訴える。
少女の外見には似つかわしくない、鈍重かつ飾り気のない装備だった。

しかし彼女はそれを重いと思うことは無い。
寧ろ今までが軽すぎたのだ。
階下の混沌とした安寧の風は艦むすには似合わない。
自分たちが身を置くべき場所は、この冷たくも激しい――

――……戦場の、風。

不意に彼女ははっ、として顔を上げた。
長く伸びた砲身を掴みとり、空を見た。
空に何かがいる。かすかながら、それは風に乗るようにして辺りを徘徊している。
意識を集中させ、辺りを索敵する。街の雑踏と、明らかに違う音がある。

ブウン、ブウン……

それは翅音のようだった。
慎重に魔力の欠片を探し、彼女はそれを見つけた。

――蟲?

ハイアットホテルの入り口近くで、奇妙な翅蟲が徘徊している。
それも、複数。ホテルを行き来する人々の上をぐるぐると飛び回っている。
巧妙に雑踏に溶け込んでいたが、そこに魔力の臭いが漂っていた。

あれがマスターの言っていた妙なものという奴だろうか。
それを見極めるため、更なる索敵を――そう思った時、

ブウン、と音がした。

はっとして辺りを振り返る。
がらんとしたビルの屋上。夜の街の頭上に広がる闇の中。

そこに、一匹の蟲が飛んでいた。




“気付かれたか”

どこか別の闇で、その蟲を統括する理性は呟いた。
斥候として放った蟲が魔力を感知した。雷がそれを感知したように、蟲もまた雷の出現を感じ取っていた。
シャア・アズナブルを監視したかったのだが、かなり早い段階で向こうはそれを察知されてしまったことを知る。

“さて”

蟲は、しかし、そのことに何ら焦りはしない。
寧ろ見つけて貰った方が好都合でさえあった。

“手の内を見せて貰おう”






まっすぐと飛んできた蟲を雷は難なく射ち落した。
連装砲がボン、と火を吹く。大した火力ではないが、しかし蟲一匹を相手取るには十分すぎる威力であった。
砲撃が一発だけ鳴り響いた。その音はビルの静寂を切り裂いたが、夜の街に届くことはなく、雑踏に呑み込まれていった。

――これで終わり?

そんな筈がない。
彼女は集中を解くことはない。
少女の姿をした彼女だが、しかし兵士であり兵器であった。
蓄積された経験が囁く。すぐにまた来るぞ、と。

ブウン……ブウン……

そして夜のビルにまた翅音が響いた。
多い。数匹――あるいは数十匹の蟲が夜の闇に潜むように現れていた。

――こんな奴ら

やっちゃうんだから、と雷はその砲を蟲へと向けた。
いくら現れようとも、この程度の敵にやられる自分ではない。
乾いた砲撃が響き、蟲はちりぢりになって消えていった。

そこに再び風が吹いた。
ビュウウウウ、と音を立て街とは違う夜の世界を風は駆けていく。
戦場の風だった。

ブウン……ブウン……ブウン……

はっとして雷は後ろを振り返った。
そこには更なる蟲がいた。翅音を立てながら、尖った針を雷へと向けている。

――さっきのは陽動だったのね。

逆方向からの攻撃に、雷はそう分析する。
単純だが無駄のない行動をする。見た目こそ蟲だが、その行動は狡猾で、昆虫的なものとは寧ろ真逆であるように思えた。
どうやらこの蟲には統括する司令官がどこかにいるようだ。

とはいえこの程度に後れを取る雷ではない。
転身し、すぐに砲塔を向け撃とうとした――その瞬間。

ダン、とどこかで別の音がした。
と思うと、次の瞬間には蟲たちは纏めて吹き飛んでいた。
その身を砲弾に焼かれ、爆散していく。雷は驚きつつも後ろへ下がる。
飛び散る砲弾に触れる訳にはいかなかった。

新手か、と思い辺りを窺うと――

――あれは?

向かいの側の、少しだけこちらより高く伸びた摩天楼に、誰かがいた。
女だ。





夜空を背景にして、その女は座り込んでいる。
闇に溶けるような黒く長い髪をした、そばかすの目立つ女だった
その手にはすらりと長く伸びた筒のようなものがある。
銃だ。
マスケット銃という、古めかしくも威圧感のある長銃を抱えながら、何かを口ずさんでいる。


森々の獣ども
牧場の畜生ども
空を駆ける荒鷲どもにいたるまで
勝ち鬨は我らが物なるぞ
角笛よ高々と鳴れ
角笛よ森々にひびけ


……歌ってる?
雷は同盟国の言葉で響き渡ったその歌に聞き覚えがあった。
……確かこの歌って。

また蟲が来た。
歌に気を捉えている最中だった。
身構え、砲身を構えたが、しかし向かいの女の方が早い。
女は眼鏡ごしに愉しげな視線ををこちらへと送っていた。
その手にはマスケット銃が構えられている。
撃たれた。


猟人たる人なにを恐れる事がある
猟人た者の心に恐れなぞあるものか


すると蟲が三度爆散し、砲弾と共に闇へと消えていった。
雷よりも早くその女が蟲を撃ったのだ。
……私を助けてくれているの?
ならば味方なのだろうか。そう思い、確認を取ろうとしたが

『アーチャー、聞こえるか』

割り込むようにマスターより念話が入った。

『えと、あの人は……』
『彼女は我々への援軍だそうだ。ライダーは中尉とだけ呼んでいたが』
『中尉……』

愉しげに歌いながら銃を撃つ彼女を思わず見返した。
同盟相手となったライダーが送り込んできた彼女は明らかにサーヴァントのようだった。
今は自軍の援軍として現れ、味方となっている。

……たしかに頼もしいけど、
彼女は歌いつつも蟲を射ち落してくれた。
が、あの蟲程度なら雷一人でも何とかなっただろう。
別にこの場で戦場のMVPがどうのこうの言う気はないのだが、

……蟲よりあっちの流れ弾の方がこわいのよ。
そう思わずにはいられなかった。
彼女が持っているのはのはただのマスケット銃で、単なる火力では自分の備える12.7cm連装砲の方が上の筈なのだが。

『彼女と協力して対処してくれ』

中尉の調子はずれの歌が響く中、マスターの念話が飛んでくる。
わ、分かったわと、向こうが自分に頼ってくれることが嬉しく、精一杯毅然として言った。

すると、また銃撃が放たれた
雷はわっ、と思わず声を漏らし、飛び退いて急いで着弾点から離れた。
見ると後ろから蟲が近づいていたらしく、その死骸が転がっていた。
狙いは正確無比で、その腕が確かであることを示していた。
とはいえあの銃撃に当たってしまえば損傷はさけられないだろう。

……敵より味方の方がずっと危ないじゃない。
そう思いはしたが、とにかく作戦行動に当たる。
見ると、蟲は中尉の方にも群がっている。


私は夜の深淵に現れ出でる
あらゆる恐怖をものともしない
樫の木が嵐の中にうねる時でも
あらゆる恐怖をものともしない
鳥どもが鳴きわめく時でも


それを彼女はやはり歌いながら蹴散らしていく。
小さな銃声が連続して響き渡った。
……あ、この歌って。
そこで彼女はようやく思い出すことができた。
……確かカール・マリ何とかとかって人の、

同盟国の艦むすが教えてくれた気がする、その歌の名前は、

……「魔弾の射手」だったかしら?






「言葉通り本当に敵がいたじゃないか。彼女を呼んだ甲斐があったというものだ。
 これで何にもなかったら君のなけなしの魔力を無駄にしてしまうところだった。
 いや本当に戦争ができてよかった」

……簡単に言ってくれるなぁ。
愉しげに笑うライダーの姿を見ながら、正純は頭を抑えた。
残っていた内燃拝気ほぼ全て注ぎ込んでライダーは自身の尖兵を呼び出すことには成功した。
が、無理が祟ったかマスターである正純は多大な疲労感と、おまけにきつい目眩がやってきた。
……ないところを無理して出した感じがする。
これで無駄になったら笑い話ではない。

……しかしやらない訳にはいかないよなぁ。
同盟相手となったシャアは、何も言わずこちらの陣営のやり取りを眺めている。
彼が感じ取った邪気とやらに自身の戦力を向かわせた。
仮にそこに敵がいたとして、戦闘になった場合、同盟相手である自分が何もしない訳にはいかない。
街中だし早々本気でかかってくるとも思えないが、実際の敵の強さは、この場合あまり関係がない。

同盟を組んだ以上は、今度は肩を並べて戦ったという事実が欲しい。
特に今は同盟結成直後。この同盟を確かなものにする為にも、率先して自陣営を戦場に立たせなければならない。

……だからまぁ、頑張ろう。うん、なくなったものはまた明日貯めればいいさ。
でもそう言って溜ったら苦労しないんだよなぁ、と頭を抱えつつも、正純はライダーに向き直り、

「ただライダー。あまり事を荒立てないでくれ。必要以上に戦闘して目立つ訳にはいかない」
「分かっている、マインマスター。中尉なら大丈夫だ。暴走することもないし、ほどほどに収めてくれるだろう。
 敵の強さに滾って命令違反を犯してやたらめったら殺しまくるなんてことはない」

……不安だなぁ。
やはり愉しげに笑うライダーを見ながら、正純はそう思わずにはいられなかった。
何というか、少佐を慕ってわざわざ召喚されにくるという時点で人格はお察しな気がする。

とはいえ、自分のサーヴァント信じない訳にはいかない。
ライダーが大丈夫だと言うのなら大丈夫なのだろう、きっと。

「……この邪気」

不意にシャアが漏らした。
気になるといえば、敵を察知した彼の言動も気になる。
邪気、というが一体彼は何を感じただろう。

「ばらばらに散っていく筈のものを、強引に一つまとめ上げる、強い願いがある。
 ただこれは……妄執あるいは怨念とでも表現すべきものだ」

シャアの言葉を正純は神妙に受け止めた。
……怨念、か。
シャアが如何にしてそれを感じ取ったかは一先ず置いておき、その意味を考えた。
この敵は、彼の言葉通りならば強い願いによって戦いに赴いている。
それは何もおかしなことではなかった。
元々聖杯戦争は文字通り聖杯を巡って争う場だ。
自分たちのように聖杯そのものに戦争を挑もうなどというのはほとんど、というかまずいないだろう。

マスターと、そしてサーヴァントの多くは強い願いを持った上で聖杯を、月を望んでいる。
そんな彼らを説得ないし交渉することは、

……まず無理だよなぁ。
普通にやったら、無理だろう。
怨念染みた願いを持っているからこそ、こんな場所まで戦争しにくるのだ。
特にサーヴァントの方は聖杯こそが唯一の道と信じている筈だ。
それくらいは分かっていた。これからも強い願いを持ったサーヴァントが立ちふさがるだろう。
他の陣営も場合によっては打ち倒すことになるかもしれない。
どうしても相容れないのならば、彼らとも戦争することになる。

しかし、

「だからこそ、私は訴えなくてはらなない」

聖杯に対し戦争するという、その解釈を他の陣営に伝える必要がある。
それでなくては、この戦争の“大義”が喪われる。

必要なのは言葉だ。
たとえ退けられるのだとしても、誠心誠意訴えなければならない。
故にこの陣営にとってのこの戦争をただ一言で表すのならば、

「レコンギスタだ」

正純は言った。






人々が行きかう夜の街。
その頭上で――戦場の風が吹くもう一つの世界で、女たちが戦っていた。
蟲が来る。撃つ。別のところからまた来る。撃つ。
それの繰り返しだった。


あなたの手に与えよう
あなたの白い手に
さようなら 私の恋人よ さようなら
戦の中に破れ去り
私が潮の中に眠ったと知らせを聞いても


女の歌が響く。
軽快に、楽しげに。
少女もまた可憐に戦場を舞った。

“流石に強いな”

正確無比な、無駄のない砲撃を前にシアンはそろそろ撤退を視野に入れ始めた。
元より初見の敵を打破する気はない。

少女のサーヴァントを援護するように現れた別のサーヴァント。
見たところ、彼女らは同盟関係にあるようだった。
別に不思議ではないだろう。
自分たちもまたミカサ・アッカーマンと同盟を組んでいる。

“状況から考えてどちらかがシャア・アズナブルのサーヴァントと見て間違いない。
 少なくともニ騎のサーヴァントがシャア・アズナブルの下に集っている。手強いな”

遭遇したサーヴァントはどちらも銃火器を使っていた。
学園で遭い見えた暁美ほむらのサーヴァントと同じタイプらしい。
ある程度文明が進んだ時代のサーヴァントであることは掴めた。

できれば桜と視覚を共有して、ステータスを確認したいところだが……

“無理だな”

ただでさえ蟲一匹一匹の感覚は鈍い。
それも戦闘中、飛び回りながらの蟲に感覚を共有させたところで桜に無駄な負担を強いるだけだろう。
故に今回はおおまかな情報を得るのみで満足しておく。

“退くか”

そう思い、シアンは蟲を摩天楼より撤退させ始める。
後追われないよう、最低限の蟲を目晦ましに残しながら。


恋人よどうか泣かないで
我らは進撃する
イギリスへ向かって! イギリスへ向かって!


女の歌が続く。同時に銃弾が放たれる。
あの歌はもしかしたら真名を探るのに役に立つか、そう思った矢先――


我らは進撃する。
我らは進撃する。
我らは進撃する。
我らは進撃する。


――残っていた蟲が銃弾を受け、殲滅された。
ぷつり、意識が途切れる中、シアンは敵のことを思った。

“この陣営は、一体如何なる願いを持っているのだろうか”

と。
自分は言うまでもなく、ミカサも、そして倒したほむらもまた願いを持っているようだった。
きっと皆、譲れるものがあるのだろう。

“だが――”

それを踏みにじることに何の躊躇いがあろうか。
たとえ世界を破壊する兵器の引金も、必要ならば躊躇いもなく引いてみせよう。
その強き意志、怨念と化した想いこそがシアンを一つの存在足らしめている。
折れることは、ない。








「邪気が引いたか」

虚空を見上げながらシャアが言った。
どうやら敵が去ったようだった。そのことを、やってきた時と同じように彼は察知したのだ。
やはり彼には何かがあるようだ。人にはない感覚が。

……ただの変な人じゃないよな?
一瞬過ったよこしまな考えを正純は振り払った。
いかんいかん何を考えているんだ。政治家とは立派な人間がなるものだ。それを志す人間がアレな人な訳ないだろう。
どっかのオタクとは違うんだから、唐突に“邪気が来たか……!”とか言っても何か理由があるに違いない、うん。

「帰投したわ!」

音を立てアーチャーが帰ってきた。
戦闘は問題なく終わったらしい。役に立てたことが嬉しいのか、彼女はえっへん、と胸を張っている。

「ン……よくやってくれた、アーチャー」
「いいのよ、これくらい。もっと私に頼っていいのよ?」

……そしてロリコンな訳がない。
どこぞの外道衆と違い、シャア候補は生命礼賛など唄いはしない、筈だ。

はぁ、と息を吐く。先に見せたカリスマといい、シャア候補は一言では言い表せない人物なようだ。
ライダーを見る。彼は彼で何を考えているのか。実に愉しげだった。
ライダーが呼び出した中尉――リップヴァ―ンというらしい――には既に帰ってもらっている。
とにかく魔力がないのだ。出戻りみたいで英霊的には少し不満かもしれないが、そこはしょうがないのだ。

「それでレコンギスタ、とは」

少女と戯れていたシャアが不意に顔を上げ、正純の方を見た。
……来るか。
その視線を正純は怯むことなく受けた。

「先程の強烈な怨念。あれらに対して打ち立てるという、その大義は一体どんなものだ?
 全てが全て私たちのように自分の納得する訳ではない筈だ。曲げない、曲がることのできない人間もいるだろう。
 彼らを納得させる、君の大義とは何だ」
「……取り戻す、ということだ」

それはこれから相対していくだろう、幾多の陣営に対し告げるべき言葉だった。

「私たちには確かに“願い”があった。どれもみな決して譲れぬものであろう。
 それは今や聖杯に握られている。人類史全土を握る方舟が、私たちの願いが叶うかどうかを決めているのだ。
 しかし――その願いは元々私たちの物であった筈だ。
 願いは“他に道はない”と聖杯に囚われ、私たちは戦争している。それは聖杯が私たちの願いを一方的に握っているからだ。
 故に私たちは聖杯に従うまま相争わなければならない。しかしそれは本来無用の血だ。
 流す必要のない血を流す方舟を私は糾弾し、交渉し、受け入れられなければ――」

正純は毅然と顔を上げる。
……ここからが大事だ。とにかく人を鼓舞しなくてはならない。
これがこの同盟の大義となるのだ。

「――“願い”を取り戻す戦争をする。方舟を再征服することこそ、私たちが真に全てを手に入れる道だ。
 私たちは方舟のものではない。何時から人の歴史はアークセルのものになった。
 これは奪われたものを取り戻す為の戦いだ。
 ゴフェル。方舟。聖杯。この舞台に合わせ、私もTsirhc/ツァークの言葉を使い、これを表現しよう」

正純は言った。

「“レコンギスタ”である、と」





そうして夜の一幕は終わった。
街の空では戦争の風が吹いていた。
銃弾が舞う、戦場の風が。

遥かな高度で行われたその戦闘は、街の雑踏の中に消え去ってしまった。
多くの人間は自分の頭上で如何なる者が殺し合っていたのかを知らない。
ビル上階に居た人々が不穏な音がしたと証言し、噂になったものの、実際に彼女らを見たものは誰も居なかった。
しかし、摩天楼の屋上にて残った銃痕がここで確かに何かがいたことを物語っていた。
正体は闇に消えたまま……

戦争があった。
怨念があった。
大義があった。
混沌とした街は全てを呑み込んだ。



【C-6/冬木ハイアットホテル/一日目 夜間】

【シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:シャア専用オーリスカスタム(防弾加工)
[所持金]:父の莫大な遺産あり。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争によって人類の行方を見極める。
1.本多・正純と今後について話し合う。
2.赤のバーサーカー(デッドプール)を危険視。
3.サーヴァント同士の戦闘での、力不足を痛感。
4.本多・正純と同盟を組み協力し、彼女を見極める。
5.ミカサが気になる。
[備考]
※ミカサをマスターであると認識しました。
※バーサーカー(デッドプール)、『戦鬼の徒(ヴォアウルフ)』(シュレディンガー准尉)、ライダー(少佐)のパラメーターを確認しました。
※目立つ存在のため色々噂になっているようです。
※少佐をナチスの英霊と推測しています。


【アーチャー(雷)@艦隊これくしょん】
[状態]:健康、魔力充実(小)
[装備]:12.7cm連装砲
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる。
1.シャア・アズナブルを守る。
2.バーサーカー(デッドプール)を危険視。
[備考]
※バーサーカー(デッドプール)、『戦鬼の徒(ヴォアウルフ)』(シュレディンガー准尉)、ライダー(少佐)の姿を確認しました。


【本多・正純@境界線上のホライゾン】
[状態]:目眩、とても空腹、倒れそう
[令呪]:残り三画
[装備]:学生服(月見原学園)、ツキノワ
[道具]:学生鞄、各種学業用品
[所持金]:さらに極貧
[思考・状況]
基本行動方針:他参加者と交渉することで聖杯戦争を解釈し、聖杯とも交渉し、場合によっては聖杯と戦争し、失われようとする命を救う。
1. シャアとの今後についての打ち合わせを行う。
2. マスターを捜索し、交渉を行う。その為の情報収集も同時に行う。
3. 遠坂凛の事が気になる。
4. 聖杯戦争についての情報を集める。
5. 可能ならば、魔力不足を解決する方法も探したい。
6. シャアと同盟を組み、協力する。
[備考]
※少佐から送られてきた資料データである程度の目立つ事件は把握しています。
※武蔵住民かつ戦争に関わるものとして、アーチャー(雷)に朧気ながら武蔵(戦艦及び統括する自動人形)に近いものを感じ取っています。
※アーカードがこの『方舟』内に居る可能性が極めて高いと知りました。
※孝一を気になるところのある武蔵寄りのノリの人間と捉えましたがマスターとは断定できていません。
※柳洞一成から岸波白野の住所を聞きました(【B-8】の住宅街)。
※遠坂凛の電話越しの応答に違和感を覚えました。
※岸波白野がまだ生きているならば、マスターである可能性が高いと考えています。
※アーチャー(雷)のパラメータを確認しました。

【ライダー(少佐)@HELLSING】
[状態]魔力消費(大)
[装備]拳銃
[道具]不明
[所持金]莫大(ただし、そのほとんどは『最後の大隊(ミレニアム)』の飛行船の中)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯と戦争する。
1.シャアとの打ち合わせを行う。
2.通神帯による情報収集も続ける。
3.シャア及び雷と同盟関係を取る。雷に興味。
※アーカードが『方舟』の中に居る可能性が高いと思っています。
※正純より『アーカードとの交戦は必ず回避せよ』と命じられています。令呪のような強制性はありませんが、遵守するつもりです。
※アーチャー(雷)を日本軍関係の英霊と考えています。


【C-1 山小屋/1日目 夜間】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:健康
[令呪]:残り三角
[装備]:学生服
[道具]:懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物、緊急災害用グッズ(食料、水、ラジオ、ライト、ろうそく、マッチなど)
[所持金]:持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
0. ――――――――。
1. キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2. 直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
3. キャスターの誠意には、ある程度答えたいと思っている。
4. 遠坂凛の事は、もう関係ない――――。
[備考]
※間桐家の財産が彼女の所持金として再現されているかは不明です。
※キャスターから強い聖杯への執着と、目的のために手段を選ばない覚悟を感じています。そして、その為に桜に誠意を尽くそうとしていることも理解しました。
 その上で、大切な人について、キャスターにどの程度話すか、もしくは話さないかを検討中です。子細は次の書き手に任せます。
※学校を休んでいますが、一応学校へ連絡しています。
※命蓮寺が霊脈にあること、その地下に洞窟があることを聞きました。
※キャスター(シアン)の蟲を、許可があれば使い魔のようにすることが出来ます。ただし、キャスターの制御可能範囲から離れるほど制御が難しくなります。
※遠坂凛の死に対し、違和感のようなものを覚えていますが、その事を考えないようにしています。


【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]:健康、残り総数:約261万匹(山小屋:260万匹、学園:1万匹)
[装備]:橙衣
[道具]:学生服
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
1. 学園を中心に暗躍する。
2. 桜に対して誠意ある行動を取り、優勝の妨げにならないよう信頼関係を築く。
3. 今夜十二時にもう一度学園の校舎裏に行く。
4. 黄金のセイバー(オルステッド)を警戒。
5. 発見した洞窟の状態次第では、浮遊城の作成は洞窟内部の霊脈で行う。
[備考]
※工房をC-1に作成しました。用途は魔力を集めるだけです。
※工房にある程度魔力が溜まったため、蟲の制御可能範囲が広がりました。
※『方舟』の『行き止まり』を確認しました。
※命蓮寺に偵察用の蟲を放ちました。現在は発見した洞窟を調査中です。
※命蓮寺周辺の山中に、地下へと通じる洞窟を発見しました。
※学園のマスターとして、ほむら、ミカサ、シオン、ケイネスの情報を得ました。
 また関係するサーヴァントとして、アーチャー?(悪魔ほむら)、ランサー(セルベリア)、シオンのサーヴァント(ジョセフ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(ヴォルデモート)を確認しました。
※ミカサとランサー(セルベリア)と同盟を結びました。
※ランサー(セルべリア)の戦いを監視していました。
※アーチャー(雷)とリップヴァーンの戦闘を監視していました。
※間桐桜から、教会に訪れたマスター達の事を聞きました。
※学園の蟲の一匹に、シオンのエーテライトが刺さっています。その事にシアンは気付いていません。
※【D-5】教会に監視用の蟲が配置されました。
※C-1の山小屋にいる約二百六十万の蟲に、現在は意識を置いています。
※C-3の学園に潜伏していた十万の蟲の内、九万匹は焼かれ、残りの一万匹は学園から一先ず撤退しています。




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133:クラスメイト 投下順 135:このそうびは のろわれていて はずせない! ▽
132:名探偵れんちょん/迷宮の聖杯戦争 時系列順 135:このそうびは のろわれていて はずせない! ▽

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119:会談場の決意者 シャア・アズナブル&アーチャー( 146-c:祭りのあとには
本多・正純&ライダー(少佐
124:interval 間桐桜&キャスター(シアン・シンジョーネ 149:甘い水を運ぶ蟲