少女時代「Not Alone」 ◆HOMU.DM5Ns








―――今さらになって思うが。

わたしが一人きりでいた時間は、実はそう多いものではないのだった。






      ◇          ◇          ◇




サーヴァントの肉体ひいては存在の維持は、マスターからの魔力供給によって賄われる。
強力なサーヴァントや宝具であるほど必要とされる魔力量は上限なしで増していく。
故にマスターは、自分で発動できる魔術に制限が加わることになる。
マスターとサーヴァントが共に一流でも、その主従が噛み合うかは保証できない。

美遊・エーデルフェルトのサーヴァントはバーサーカー。狂戦士のクラスは、理性の喪失を対価とし能力を引き上げる特性を持つ。
当然の帰結として、狂化されたサーヴァントは通常時より更に割増された魔力を支払う羽目を負うことになる、扱いに不利なクラスだ。
補足を加えるなら、美遊のサーヴァントはわざわざ狂化の補正を与えるまでもなく一線級に通じる戦歴の英霊である。
狂気に至る逸話を持つその英霊が、更に力を底上げされる。もたらす力が絶大なら、要求される魔力も膨大だ。
まっとうな魔術師なら数分も保たず枯渇する。一流の魔術師でも自身の魔術の行使は不可能となる。
数多の聖杯戦争で、バーサーカーのマスターはみな自滅の憂き目に遭っている
星空に散らばる戦いの歴史が、狂戦士のクラスが勝ち抜く道がどれだけ困難かを克明に記録している。

だが、美遊・エーデルフェルトに限ってはその不利は解消される。
元から一級品の魔術回路はそれ単体でバーサーカーの使役に耐え得るシロモノ。そこに付加される礼装の特性との組み合わせが、この主従を単一最大の戦力に押し上げていた。
カレイドステッキ・カレイドサファイア。『第二』の魔法使いの制作した偏在する宇宙に二振りのみの希少品。
使用者の許される最大量の魔力を無限に連なる平行世界から抽出し、半永続的に供給させるという反則間際の礼装だ。
恐るべきは、その機能もこれの一端に過ぎないことだ。
使用者に様々な防護を重ねた戦闘形態に変える転身機能。使う者が使えば、それは英霊の身にも届く刃を象る。

魔力の保持は、聖杯戦争で基本かつ最重要に挙げられる命題となる。
サーヴァントの一挙手一投足が魔力を消費して行われる以上、これは避けては通れない。
如何にして多くの魔力を確保するか。如何にして魔力の消費を抑えるか。
土地の霊脈に陣取り大地のマナを汲み上げる、魔術行使を補助するブースター過給機の作成、供給システム自体への干渉、魂喰い、同盟による役割分担、戦闘行為を回避する。
これを怠る者に聖杯の光が照らす道に入れる資格はない。”月を望む聖杯戦争”は他陣営入り乱れる混沌戦局。連戦を強いられる未来を想定しないのは愚鈍の誹りは免れない。
血を吐き続けながら走り続けるざを得なくなり、そこで力尽きる。非情と嘆くだけの理不尽さはない。

その、前提条件ともいえる課題を破壊した場合。生まれてくるのは怪物である。
常識外。規格外。通常の仕様、一般論の壁を破った先に出現する例外。
基本状態から一流だった能力が倍加された、魔力切れの存在しないバーサーカー。驚異の程など、説明するのも無駄だろう。
聖杯の歴史にも、その実例はある。馬鹿馬鹿しいほど最強で、下らないほど最凶の狂戦士。それを率いる銀色の少女。
その符号に意味はない。少なくとも、この場では。




故に相対したサーヴァントよ。勝利を目指すマスターよ。
悪いことは言わない。狙うならマスターを優先しろ。それなら勝ちの目は残っている。
ただし許されるのは一撃のみ。その一打さえも命を綱に乗せる覚悟と仕留める算段を備えろ。
でなくば猛り狂う死神が、英雄らしい散り様など微塵もない仕方で魂を成仏させるだろう。


それともうひとつ。マスターを注視しろ。
礼装の過剰性能に惑わされるな。戦闘経験の偏りを侮るな。
単なる一流の魔術師以外の視点で彼女を図れ。
言うまでもなく、それは黒の箱。秘め持たれるべき禁猟乙女領域。
気安く覗き見などしようものなら、言うまでもなく絶望が降りかかる。
少女の機微を掴めぬ不埒者には、潰されるなり、溶かされるなりが相応の報いだろう。






(投棄されていたダストデータより抜粋)




      ◇          ◇          ◇






暗い夜。

道では電灯が点き始め、建物内の明かりが目立ち始める。
街を彩る為の飾りも、そうでない家庭の光も、地を照らすイルミネーションに変わる。
それでも、夜は暗かった。

路地の裏は光も届くことはなく。そこでは今も蠢くモノがいる。
それはそこでしか生きていけない、とは違う。そんな場所でも生きていけるように作り変える、適応だ。
血の色。傷跡。叫び声。暗闇からでしか出来ない行為。
今は暖かい部屋でくるまっていても、自分はその側の一員でしかない。


敵も従者も去り、全てに取り残されて、這う這うの体で朧げに考えたのはとにかく休める場所に行くことだった。
田畑や公園にいつまでもいては体を冷やす。狼狽から立ち直れずにいてもそんな合理性だけは離れないでいた。
緩慢に体を立ち上がらせ、警官や大人に目をつけられないよう最新の注意を払って街に入る。
宿泊先は前もって決めていた。ラブホテルという、受付が機械じかけになっている所は身をくらますには都合がいい。
名前の由来はわからない。聞いた人には知らないほうがいいとそれきり口を閉ざしてしまった。
……知ったきっかけが、主人とその使用人による仁義なき争奪戦の過程でこぼれた情報だったのは、感謝すべきなのか少し考えてしまう。
汚された体をシャワーで流し、一人用には広いベッドに体を横たえる。
そこまで努めて時間をかけて思考を冷却させてから記憶を回想する。
数時間前の出来事、敗北の記憶。



言ってしまえば、敗因はことのほか単調だ。
相手には逆転の手を持ち合わせており、自分はそれに見事に嵌まった。
こちらが下手を打ち、むこうが上を行った。それだけの話だ。
考えるのは、その後にあったことの方だ。

首筋に突き付けられた熱。うなじをさすれば肌の爛れを感じる。
全てが終わり思考を動かせる段になってから、そこが不思議で仕方がなかった。
痛みはもう知っている。慣れることはないが痛みという体の反応は前から覚えていた。
だがあの時の痛みは、そういうものとは別種のものだった。

幻痛とはいえ身を内側から引き裂かれる感覚を幾度も体験しているのに。
原始的で、命を直接喰らわれる感覚を肌に与える剣を身に受けたこともあるというのに。
本物の生死のかかった戦いを潜り抜けてきたのに。
あの安っぽい硝煙と火薬の匂いと熱が、どうしてあれほど恐ろしかったのが。



乱雑になっていた頭を無理やりに冷まして、ようやく問題と向き合える。
……簡単な話だ。易々と命を手放せることができるほど、背負ってるのは軽い荷物ではなくなっていた。

たくさんの人がくれた幸福は麻薬のように、身も心も解きほぐしていく。
暖かで心地よい居場所はとても替え難いもので。もうそこに帰れないと悟った瞬間、例えようもなく恐怖した。
ほんの少し前にあった決意が、まったく別人の記憶にすり替えられてしまったかのように。





生まれた頃には、兄がいた。
共にいられた時間は、ただの兄妹として過ごせた時間はもう思い出せないほどに短い。
神の恩寵か。悪魔の戯言か。
生まれ持った奇跡は人間が享受していた生活を圧迫し揉み消してしまった。
でも幸せだった。その当たり前に共にいられた日々は間違いなく幸福だった。
妹を護る。世界のどこにでも有り触れた、戦う理由。
それだけを原動力にして、この世での最悪を成し、許されない大罪を犯した。
自分の総て、世界の総てを秤に乗せて、なおこちらを選び取ってくれた、罪深くも愛しいひと。


周りには、常に正義が囲っていた。
ボタンをかけ間違えたような些細な違いから、瞬く間に滅びの孔に突き落とされた世界。
潰えていく人類を救う、それは紛れのない大義。偽りない偉業。
その贄として祭壇に捧げられたのに、選択肢など最初から介在していない。
主導する大人。従う人形達。付き添う歪んだ娘。
幸福ではなかったし、苛む苦痛は計り知れなかったけれど。
少なくとも、あの時も独りではなかった。


時を超え、面を隔てた未知に着いた先であっても孤独とは無縁だった。
むしろ―――短い人生でこれほど賑やかな時間は今までに無かったものだろう。
替え難い無二の友人から、どうでもいい知人まで。
過去とは比べ物にならないくらいの多くに関わってきた。
慌ただしく、せわしなく、突拍子もなく起こるトラブルに頭を悩ませる。
それが自分が求めていた充足で、彼が望んでいた夢なのだと、思いを馳せる暇もないぐらいに。



生きていく上で余分な知識ばかり増えていくのに。
その度に、胸に空いた穴を塞がれる気持ちになっていった。

だから、戸惑っていた。
望む望まざるに関わらず、自分は誰かに求められ続けてきた。
好きなものも嫌いなものも、目を配らせれば隣にあった。
自分を動かし、育ませ、培ってきた周囲のもの―――いうなれば「世界」が、ここではすっぱりと切り分けられたのに。




聖杯(わたし)を利用しようとする魔術師はいない。

友人(わたし)を気遣ってくれる友達はいない。

家族(わたし)を愛してくれる家族はいない。



誰も、美遊(わたし)を知らない/必要としない世界。

脅かされない代償に、手を差し伸べられることもない。
善意も悪意も他者との結びつき。それが消えることは、世界と自分との断絶に等しい。
それは、かつて一度知ったはずの孤独。
あの時の位置にまで、自分は戻ってきたのか。



「……ううん、違う」

今とあの時とは、異なる部分が多すぎる。
今の美遊と過去の美遊は、もう大きく違うものだ。

「戻ったんじゃない。行き違ったんだね、わたしは」

これまでの戦いの中で、カレイドサファイアの転身機能は切っていた。
身体能力増強、物理保護、魔術障壁、自動治癒、魔力砲撃。これらの様々な機能を起こすにも当然魔力が要る。
自分のサーヴァントは生粋の魔力喰らいのクラスであるバーサーカー。サファイアがあれば稼働させる魔力は際限なく引き出せる。
井戸に貯まった水という魔力を幾ら汲み上げても、別の水路、次元を隔てた先から止めどなく水は溢れてくるから枯渇とは無縁だ。
だが、井戸から溢れるほどの水を一度に生み出すことはできない。引き出せる魔力は使い手の魔力の上限まで。
バーサーカーが戦闘に消費する魔力とサファイアの転身にかけられる魔力。このふたつの兼ね合いは困難だと想定していた。
供給機能以外をカットし、全魔力をバーサーカーに集中させる。
狂戦士は何の制約なく持てる力を振り払い、こちらの損耗は実質ゼロに抑える。聖杯戦争を戦い抜く上で理想的ですらある。
当初は、そう思っていたのだ。

馬鹿げている。
1人で戦うと決めておいて、そんな安楽論を通そうとしたことがそもそもの間違いだった。
言い訳しようのない、前回の一番の敗因だ。


「なら、今度はちゃんと進まないと」


恐怖を捨てろ。
前を見ろ。
進め、決して立ち止まるな。
退けば老いるぞ。
臆せば死ぬぞ。


聞いた事もない、懐かしい言葉を思い出す。
どれだけ先行きが見えなくても。
報われないと分かっていても。
……例え辿り着く結末が、何もかもが手に残らない荒野の丘だとしても。
見据える瞳は、ただ前に。



背中を見るだけの時間、何も出来ない少女の時間はもうおしまい。
そろそろ、走り始める時間だ。
護られる自分じゃなくて護れる自分に。そうして消える背中を追いかける。
はじめて自分が抱いた願いは、きっとそうだったから。


材料は既に揃っている。
2度の戦闘で消費(つか)う魔力の平均量は十分図れた。
そして転身時に用いる各機能への魔力配分を算出。ふたつを掛け合わせて双方に充てる魔力を振り分けさせる。

自分の魔力の最大保有量を10とすれば、バーサーカーが全力稼働するのに必要とされる供給量は、7から8。
宝具発動は試す機会がないが、予測するに2倍から3倍はまず超える。
残りの浮いた3の余力は、全て防御機能に回す。攻撃機能は捨てていい。どの道サーヴァント戦においては付け焼刃でしかない。
それでも正常に動くのは7割が限度。物理保護を何より優先させ、魔術障壁や治癒を出来るだけ削ぐ。基本設定はこれでいい。

後はこれを、状況に応じて切り替えていく。
防護に回した分を魔力弾精製や筋力増加に使えば、魔術師相手ならばそれなりに有効だ。
実体より魔術による攻撃があれば魔術障壁、負傷が大きければ治癒機能を重点と、逐一フレキシブルに回していくのだ。

出来ないはずはない、実例はある。
先達者が戦いながらも微調整を可能としたのは、この目で見ている。

サーヴァントとの同時運用となれば、間違いなく供給が追い付かなくなる。負担は残留する。
そもそも魔術回路は人体にとって異物であり、その行使は毒に相当する。
常時全開で回すことは、車のエンジンをフルスロットルで維持するのと同じ。行き着く先は回路が焼け付き廃人化、最悪死に至る。



、、、、、、、
その程度で済むのだから、使わない手なんてない。
痛みがある。苦しみがある。辛い思い出が走り抜ける。
それを、耐える。鉄の味を飲み干して、歯を食いしばって坂を駆け上がる。
自分はもう、我慢できないから。

地上から月まで離れているような手の届かない距離なら諦めていた。
けど今なら、命を懸ければ、そこに届くのだ。
ならきっと、動く手足はその為にあって。
心臓は止まらずに脈動している。





ステッキの運用については、手元にない今はこれ以上考えても詮方ない。早く取り返しさなければいけない。
先刻の取決めを律儀に守る必要はない。正直、一秒だってあのままにはしておけない。
機を掴む為の選択を作るのがこれからの始めの段階。

サファイアは、まず間違いなく全ての機能を意図的に閉じている。
かの元帥の制作した特級の魔術礼装だ。あの程度の衝撃で破損したことはあり得ない。
自律行動も魔力探知も全てカットし、外からの問いかけには一切応じようとしないだろう。
正式な使用者以外には使い道のない専用礼装と思わせておいた方が情報の漏洩は防げるからだ。
発言を一切しなかったのが今になって功を奏することになる。あの形で独自の意思があり会話が出来るなどと思うのは色々と無茶だ。
再びカレイドステッキとして起動する瞬間はただ一点、マスターである美遊の声に応じたタイミングに限られる。
この思考はサファイアも行き着いているだろう。人でない礼装故の合理性は最も自分と合流できる可能性の高い選択を取ってくれている。
……そんな信頼を疑いなく持てていられるのが、妙に嬉しく感じる。



締め切った室内に、その時一陣の風が凪ぐ。
背筋を通る冷たさと、それを超える信頼感。
―――ああ、やはり。
ひとりきりでいる時間は、ここでも短いものらしい。

「おかえり、バーサーカー」

返事の代わりには現界で応えた。
虚無の白面が閑に自分を見下ろしている。
無駄打ちさせた令呪の命令を下してしまった死神は、変わりのない姿で帰ってきてくれた。


「ごめんなさい。私は、あなたに甘えていた」

謝罪する。
狂戦士に意が通らずとも、筋は通さなければならない。
誰かと勝手に重ね見て、知らず依りかかっていたこと。
護るという意思だけを激しく強く感じていたから、それに頼り切ってしまっていた。

「気づけたの。あなたが私を護ってくれたみたいに、私が守りたいと願えるくらい、強く望めるものがあったことに」

白い肌、真空に繋がっているような穴が空いた胸に手を当てる。
血の通わないと思える冷たさ。流れる圧は掌に伝わってくる。

「だからもう、大丈夫。
 行こう、今度は一緒に。二人で―――ううん、皆で戦おう」
「――――――――――――」

理性のない英霊は否定も肯定も返さない。
答えた言葉は誰にも聞きとめられずそのまま自分に向けられる。
だからこれは意思を確かめる儀式。胸に痛みを感じても進み続けられる鉄の心を持てるのか。
忘れないよう、刻み付ける。




これがきっと、本当の意味で契約が交わされた瞬間。
聖杯を望むマスターが、サーヴァントを連れて戦いに挑む、本来の聖杯戦争の形。
剣のように硬い道を往くと誓った、運命の夜だった。







     ◇          ◇          ◇








さあ、あり得ぬ未来を取り戻そう。









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【B-9/ラブホテル/一日目 夜間】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]魔力消耗(小)、他者に対しての過剰な不信感
[令呪]残り二画
[装備]普段着
[道具]バッグ(衣類、非常食一式)
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟の聖杯』を求める。
1.全員で戦う。どれだけ傷つこうともう迷わない。
2.サファイアを取り戻す。
3.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。
4.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
[備考]
※アンデルセン陣営を危険と判断しました。
※ライダー、バーサーカーのパラメータを確認しました。
※テンカワ・アキトの名前を「ガイ」だと認識しています。

【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態]魔力消耗(中)
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を護る
0.美遊を護る。
[備考]
※エミヤの霊圧を認識しました
※ルーラーの提案を拒否したため、令呪による回復を受けていません。



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121:selector infected N.A.R.A.K.U バーサーカー(黒崎一護