籠を出た鳥の行方は? ◆QyqHxdxfPY



『春紀ちゃん?』
『もしもし。皆、元気か?』


過去の記憶が脳裏に蘇る。
そこにいたのは、家族に電話を掛ける自分だ。
一番上の妹の声がスピーカー越しに耳に入ってくる。


『姉ちゃんいないからみんな寂しいだろ?なんちゃって』


そんな風に軽く戯けてみる。
直後にスピーカーから聞こえてきたのは弟や妹達の賑やかな声。


『おーい!』
『姉ちゃん、学校楽しい?』
『はーちゃん!はーちゃん!』
『オレもしゃべりたい!』


電話相手に気付いて皆すぐさま飛びついてきたらしい。
スピーカー越しに姉ちゃん、姉ちゃんと何度も元気な声が聞こえてくる。
元気そうな家族の様子が解っただけで、自然と口元が綻んでしまう。


『はは、うるせーよ。おまえら落ち着けって』


憎まれ口を叩きつつも、満更ではなかった。
自分の身を案じてくれる病弱な母。
自分に懐いてくれる弟や妹達。
そんな家族が大事で、大好きだったから。

だからこそ自分は戦っていた。
この手を血に染めてでも、金を手に入れてきた。
暗殺者に身を落として、汚いやり方で家族を養ってきた。


――――――自分を犠牲にしてでも、皆を守らなくちゃいけないって思っていたから。


◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆




深山町の公道を月海原学園行きのバスが走る。
寒河江春紀は窓辺の座席に座り、ぼんやりとした表情で流れ行く町並みを眺めていた。
今は目的地に到着するまで待つだけの時間だ。
何もすることが無いからこそ、心境や思考の整理に使える。
杏子のこと。れんげのこと。ルリ達のこと。今後の方針のこと。
そして、自分の願いのこと―――――――家族のこと。
胸の内の様々な思いを少しずつ整理していく。


(家族、か)


れんげと妹、弟達の姿が脳裏に浮かび、小さく溜め息を吐く。
本気で聖杯戦争に勝ち抜きたいのなら、あの場でれんげを殺せばよかった。
だけど、出来なかった。
れんげはまだ子供だったから。
自分を慕ってくれるれんげが、自分の妹と重なって見えたから。

寒河江春紀は暗殺者だ。だが、子供を手に掛けたことは無い。
標的となるのは大抵、裏社会との繋がりを持つ曰く付きの人物だ。
ただの子供が標的になることなんて有り得ない。
いや、なっていたとしても――――――そんな仕事は引き受けられない。

それを引き受けたら、きっと自分は家族と向き合えなくなる。
母さんと幼い弟、妹達を養う為にこの手を血に染めてきたのだから。
そんな中で、家族と標的の姿を重ねてしまったら。
標的“かぞく”を殺してしまったら。
きっと生きて帰ってこれても、姿の見えない何かに死ぬまで苛まれ続けることになる。


(―――――くそ)


心中で渦巻く感情を咄嗟に振り払う。
こんな所で迷ってどうする。
中途半端な情で失敗しては駄目だ。待っている家族はどうなる。
今回は黒組とは違う。
勝てば願いが叶い、負ければ死ぬだけだ。
自分が負ければ、家族はどうなる?
そう、絶対に勝たなくてはいけない。

それでも。
それでも春紀は、れんげを死なせたくないと感じている。

自分は伊介サマのように割り切ることは、出来ない。
故に脱出方法を探っているホシノ・ルリには微かな期待を寄せていた。
あいつがいれば、れんげも此処から生きて帰れるのではないか。
そんな淡い希望を抱いていた。
―――――――尤も、実際はそう易々と会場から抜け出せるなんて思ってもいない。
都合の良い結末に縋る、半ば現実逃避のような感情だった。

そもそも、れんげにだってサーヴァントがいるはずだ。
聖杯戦争を放棄して会場から脱出する。
それに対し、サーヴァントはどう思うのか。


(…そういえば、)


思考の最中、春紀はあることに気付く。
宮内れんげは聖杯戦争の参加者、マスターだ。
マスターは必ず一騎のサーヴァントを従える。
ならば、れんげのサーヴァントは?

『…なあ、杏子』

春紀は念話で自身のサーヴァントであるランサー―――佐倉杏子に話し掛ける。
彼女は霊体化した状態でバスに乗車している。
その存在は春紀以外の誰にも気付かれていない。
何も言わずに黙っていた杏子は念話に気付き、『うん?』と声を返す。


『れんげのサーヴァント――――――“かっちゃん”ってのは、何してるんだろうな』


『……んなもん知るかよ、って言いたい所だけどさ。
 あたしもアイツのサーヴァントに関してはちょっと妙だと思ってたよ』
『ああ。サーヴァントとマスターは一心同体だろ?だから尚更引っ掛かるんだ』

春紀が疑問を抱いていたこと。
それは宮内れんげのサーヴァントの件。
春紀達がその目で見た通り、宮内れんげは余りにも無力だ。
一度好戦的な主従に目を付けられれば最後、いとも容易く殺されてしまうだろう。
そう断言出来る程に彼女は弱く、そして幼い。

『れんげは弱いけど、同時にNPCとしての役割も持っていない。
 つまり、適当な隠れ家用意してずっと身を潜めさせても問題ないってことになるよな』
『ま、アンタみたいに学校やらに行く必要もないだろーしな』

宮内れんげはNPCとしての役割を持たない。
冬木市の住人としての役割、記憶を持つ春紀やルリとは違う。
所謂イレギュラーな存在――――――――いるはずのない住人だ。
つまりそれは、誰からも知られていない存在ということになる。
身を隠し続けた所で誰に気付かれず、誰にも気に留められることは無い。
元々『この街に存在していない人物』なのだから。

『なのに、れんげのサーヴァントはれんげを放置していた』
『それもアイツが複数の主従と遭遇している状況で、だろ?』
『ああ。…何かおかしいんだよな』

マスターを適当な主従、言わば“八極拳”と“あっちゃん”に守護させて、後は放置。
サーヴァントとして考えれば不可解とすら言える行動。
言うなれば敵対者となる人物に自分の命綱を預けているようなものだ。
更にれんげは他の主従から女性にたらい回しの形で預けられている。
結果として、れんげが女性から攻撃されそうになる事態を招くことになったという。

『自分のマスターを預けるとしたら余程信用出来る奴じゃないと無理だろ。
 マスターが何も知らない子供なら尚更だ。選択ミスが命取りになるって奴さ』

考えれば考える程、れんげのサーヴァントの行動は軽率に思えてくる。
宮内れんげは“八極拳”と“あっちゃん”に一度預けられている。
その後二人は「後々れんげへ攻撃してきた女性」にれんげを預けた。
れんげの話を聞く限り、“八極拳”達と一緒にいたのは夜中から朝方までの何時間か程度だったらしい。
彼らとれんげのサーヴァントに同盟や信頼関係があるのなら、預かったマスターをものの数時間でたらい回しにするだろうか。
そもそも、大した信用の無い相手に“かっちゃん”は自分のマスターを預けるのだろうか。
ルリ達とは話が違う。彼女達とは目的の合致、情報交換による信用があったからこそれんげを一時的に預けられた。

“八極拳”達は“かっちゃん”から直接れんげを預けられたのではなく。
成り行きでれんげを預かる羽目になっただけではないのか。
偶々れんげを保護した自分達のように。


『“かっちゃん”ってのは一体どんな奴なんだろうな?
 単純に頭の回らないだけの間抜けなサーヴァントか、或いはマスターを放置した所で問題にならないサーヴァントか』
『まぁ、概ねその辺が妥当だろうけどさ。なーんか、変な予感がするんだよな…アイツのサーヴァントってさ』
『どういう意味だよ、それ?』


“かっちゃん”はマスターの身の安全を考えられない間抜けなのか。
或いは放置した所で監視の手段や駆けつける手段があるサーヴァントなのか。
そんな中で杏子の言う「変な予感」という言葉が引っ掛かり、春紀が問いかける。
そして、杏子はすぐに念話で返答した。



『―――――――――アイツが死のうが生きようが、どうでもいいと思ってるんじゃないのか?』


『…そんなサーヴァント、いるのか?』
『聖杯に何の願いも無いのに召還されてくるサーヴァントだっているじゃないか。
 例えばあたしさ。逆を言えば、そういう奴は戦いに負けようが損にはならない。
 ま、あたしはやれる所まで付き合うつもりだけどね』

念話の中で驚いた様子を浮かべる春紀に対し、杏子はそうきっぱり言ってのける。

『それに、この聖杯戦争が妙だってことはとっくに解ってるだろ?
 どんな奴がいてもおかしくないと思うんだよ。
 墜ちる所まで墜ちた奴がサーヴァントになってたって、あたしは驚かねえ』

杏子は再びきっぱりとそう言う。
墜ちる所まで墜ちた者――――言わば正真正銘の外道。
マスターに一欠片の興味も持たず、マスターの生死を気にも留めない英霊。
共闘の意思さえ備えていない、最悪そのものの従者。
果たしてそんなサーヴァントがいるというのだろうか。

『…………』

何も応えずに、春紀は黙り込む。
疑念を抱きつつも、杏子の言葉には不思議な説得力を感じられた。
それは杏子が正真正銘の英霊だったから、かもしれない。


(マスターがどうでもいいサーヴァント、か。文字通り最悪の従者…って奴なんだろうね。
 現にそいつはれんげを敢えて放置している可能性が高い。れんげの命だって、そいつにとっては…)


思考の最中で、春紀の中に一つの疑問が生まれる。


(…いや、待てよ)


もしれんげのサーヴァントが、マスターのことを気にも留めないような奴だったら。
もしれんげのサーヴァントが、れんげに何の興味も持っていないとしたら。
そうだとすれば、れんげのサーヴァントが彼女を放置していたことにも合点が着く。
ならば。


(何でそいつは、れんげの村にまで現れて―――――――)


『―――――おーい、着いたぞ春紀さんよー』


思考を遮る様に、杏子の念話の声が頭の中で響く。
ハッとしたように扉の方へと視線を向ける。
気がつけば、既に目的地の停留所まで辿り着いていたのだ。
急いで通学鞄を背負い直し、春紀は立ち上がる。


(…この件はもう少し後で、か)


春紀は一先ず考察を打ち止めとする。
まだまだ気になる件は数多く存在する。
だが、今は学園へ向かうことが先だ。
学園の関係者にもマスターが居るかもしれない。
決して油断は出来ないだろう。

春紀は霊体化したままの杏子と共に停留所へと降り、少しだけ空を見上げる。
そのまま時刻を確認して足早に学園へと向かった。



【C-3/深山町 バス停留所/1日目 夕方】

【寒河江春紀@悪魔のリドル】
[状態]健康、満腹
[令呪]残り3画
[装備]ガントレット&ナックルガード、仕込みワイヤー付きシュシュ
[道具]携帯電話(木片ストラップ付き)、マニキュア、Rocky、うんまい棒、ケーキ、ペットボトル(水道水)
   筆記用具、れんちょん作の絵(春紀の似顔絵、カッツェ・アーカード・ジョンスの人物画)
[所持金]貧困レベル
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く。一人ずつ着実に落としていく。
1.月海原学園(定時制校舎)へ行く。
2.授業終了後、ホシノ・ルリ、宮内れんげと連絡を取り合流する。
3.杏子の過去が気になる。
4.食料調達をする。
5.れんげのサーヴァントへの疑念。
[備考]
※ライダー(キリコ・キュービィー)のパラメーター及び宝具『棺たる鉄騎兵(スコープドッグ)』を確認済。ホシノ・ルリをマスターだと認識しました。
※テンカワ・アキトとはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
※春紀の住むアパートは天河食堂の横です。
※定時制の高校(月海原学園定時制校舎)に通っています。
※昼はB-10のケーキ屋でバイトをしています。アサシン(カッツェ)の襲撃により当分の開業はありません。
※ジナコ(カッツェ)が起こした事件を把握しました。事件は罠と判断し、無視するつもりです。
※ジョンスとアーチャー(アーカード)の情報を入手しました。
 ただし本名は把握していません。二人に戦意がないと判断しています。
 ジョンス・アーカードの外見を宮内れんげの絵によって確認しています。
※アサシン(カッツェ)の情報を入手しました。
 尻尾や変身能力などれんげの知る限りの能力を把握しています。
 変身前のカッツェの外見を宮内れんげの絵によって確認しています。
※ホシノ・ルリ・ライダー組と共闘関係を結び、携帯電話番号を交換しました。


【ランサー(佐倉杏子)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、魔力貯蓄(中) 、霊体化
[装備]ソウルジェムの指輪
[道具]Rocky、ポテチ、チョコビ、ペットボトル(中身は水、半分ほど消費)、ケーキ、れんちょん作の絵(杏子の似顔絵)
[思考・状況]
基本行動方針:寒河江春紀を守りつつ、色々たべものを食う。
1.春紀の護衛。彼女の甘さに辟易。
2.ライダー(キリコ)と共闘しつつ、弱点を探る。
3.食料調達をする。
4.妹、か……。
5.れんげのサーヴァントへの疑念。
[備考]
※ジナコ(カッツェ)が起こした事件を把握しました。
※ジョンスとアーチャー(アーカード)の情報を入手しました。
 ただし本名は把握していません。二人に戦意がないと判断しています。
 ジョンス・アーカードの外見を宮内れんげの絵によって確認しています。
※アサシン(カッツェ)の情報を入手しました。
 尻尾や変身能力などれんげの知る限りの能力を把握しています。
 変身前のカッツェの外見を宮内れんげの絵によって確認しています。
※れんげの証言から彼女とそのサーヴァントの存在に違和感を覚えています。
 れんげをルーラーがどのように判断しているかは後の書き手様に任せます。


※現在の時刻は少なくともB-4での鬼眼王出現前です。



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