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     01/ 不可視の戸惑い


 キャスター――シアン・シンジョーネが学園に侵入したころ、間桐桜はある場所を調べていた。
 桜が山小屋から移動した、という訳ではない。彼女はキャスターから蟲を数匹借り受け、使い魔のようにして視覚を飛ばしたのだ。
 そして桜が蟲たちを使って調べている場所は、三ヶ所。その内の一つ目は、裁定者のいる教会だった。

 桜が教会を調べようと思った理由は単純だ。
 本来の冬木市においてその場所は、街を管理するセカンドオーナー――遠坂の魔術師が居を構えていた場所だからだ。
 冬木市にはもともと、新都側に教会がある。それも、聖堂教会から派遣された監督役の住まう教会だ。普通に考えれば、裁定者たちの拠点としては相応だろう。
 ……だが裁定者たちは、態々遠坂邸の在った場所に割り込むように新たな教会を立て、拠点としている。

 ――――その理由は何なのか。
 自分たちが聖杯戦争の管理者であると印象付けるためか。新都の教会と同じ霊地であり、また聖杯戦争の舞台である冬木の街の中央に近いからか。それとも他に何か理由があるのか…………。
 その思考を、桜はすぐに放棄した。自身の役割はあくまで情報を集めることで、集めた情報を扱うのはキャスターだと判断しているからだ。
 ……だからたとえ、得た情報に自分と深い因縁があったとしても、自分とは何の関係もないのだ。
 桜はそう自身に言い聞かせ、蟲たちの感覚を共有しながら、慎重に教会を調査していた。


 ――――そうして特に何かを得ることもなく、教会の調査は終わった。
 蟲の感覚は鈍い。共有しているためか、比較的マシな視覚を含めてみても、それほど異常な点は見当たらなかった。
 ただ、魔に属する蟲たちが、聖に属する教会に対して感じているのだろう“嫌な感覚”が伝わってくるだけだ。
 内部に侵入すればもう少し詳しく調べられるだろうが、さすがにそこまでする理由はない。
 桜は蟲たちの内の一匹を監視用に配置し、そうそうに次の場所へ向かうことに決めた。

 その時だった。
 街の方角から二つの人影が現れ、教会へと入っていった。
 自分と同じ高校生ぐらいと思われる緑髪の少女と、少女よりは年上に見える精悍な青年。
 マスターとそのサーヴァントだろう、と予想を付ける。
 少女が高校生だとしたら、今の時間はまだ授業中のはずだし、青年からは強い魔力……サーヴァントの気配を感じられたからだ。
 ただ、サーヴァントのクラスは判らなかった。キャスターの補助を得るか、直接視認すれば判別できたかもしれないが、蟲の眼だけからでは難しい。

 少しして、少女たちは教会から出てきた。
 何の目的で裁定者を訪ねたのかはわからないが、その様子からしてあまり芳しくはなかったようだ。
 彼女たちは少し会話をすると、早々に教会を離れていった。
 会話の内容はよく聞こえなかったが、特に興味は惹かれなかった。今必要なのは、彼女たちが教会を訪れたという事実だけだ。
 また彼女たちを蟲に追跡させることもしなかった。調べるところは他にもあるし、そもそもキャスターの蟲は長距離の追跡には向いていない。
 半日かけて工房に集められた魔力で、制御可能な範囲も多少は広がったが、それもこの教会までが精々だ。自分の意識が離れれば、すぐに制御が効かなくなるだろう。
 なので今は、二つ目の場所の調査を優先する。



 ――――そうして蟲を飛ばした二つ目の調査地点には、“何もなかった”。

「――――――――」
 桜は自分の心が、重く冷え固まっていくのを実感した。
 キャスターの事も、聖杯戦争の事も、自分自身の事さえも、何もかもがどうでもよくなってくる。
 それをどうにか堪え、“その場所”を調査する。



 一見では、誰も住んでいない、古びた廃屋。
 そして実際に、ここは何の魔術的価値もない、ただの武家屋敷だった。

 自身の記憶との齟齬に、僅かな目眩と吐き気を覚える。
 間桐桜にとってここは、温かく開かれた、自分みたい人間でも迎え入れてくれる、日だまりの様な場所だった。
 だがここには何もない―――誰もいない。ただ寂しげな、空しい隙間風が吹き抜けるだけだ。

 この場所は【A-3】に位置する、本来の冬木市では衛宮邸があった場所だ。

 この場所を調査しようと思った時点で覚悟はしていた。
 そもそも自分が予選を突破できた理由が、その欠落故だったのだから。
 それは予選の時。いつものように予選の日常を演じて(ロールして)いた最中に、ふと思い至ってしまったのだ。
 ―――最近、先輩の家に行っていないなぁ、と。
 それどころか、ここしばらく彼と顔を合わせた記憶すらなかった。
 間桐桜にとっての光の不明。その空白こそが、自分が予選の違和感に気付くきっかけだった。
 だからきっと、衛宮士郎はこの聖杯戦争には参加していない。
 その事に安堵こそしたが、その不在を実際に目の当たりにすると、胸が張り裂けそうに痛んだ。

 ……だから、早く帰らなきゃ。
 桜はそう、より強く想った。
 たとえそこが地獄であろうと、衛宮士郎がいるというただそれだけで、ここよりも何倍もマシに思えるのだから。
 ――――たとえそれが、些細なきっかけで、あっけなく崩れるものだったとしても。



 そうして最後に、三つ目の調査地点へと蟲を飛ばす。
 その場所はキャスターの制御可能範囲から離れており、自分の意識が乱れれば蟲たちはすぐに制御を失うだろう。
 実際こうしている今も、蟲たちからはキャスターの元に戻ろうとする本能のようなものが感じられた。
 この状態では、教会の時以上に詳しい調査はできないだろうと桜は判断していた。
 だがそこは、教会の建つ場所に本来あるべきものを知るのであれば、必ず調べるべき場所だ。
 何しろこの街のセカンドオーナー――遠坂の魔術師が住む家なのだから。


 蟲たちが【B-4】にある遠坂邸へと辿り着いた時には、時刻はもう夕暮れへと差し掛かっていた。
 キャスターもそろそろ、学園のマスターと接触している頃だろう。となると、そう遅くない時間で戻ってくるはずだ。手早く調査を進めるとしよう。

 遠坂の家には、やはりと言うべきか魔術的な守りが敷かれていた。
 つまり、ここにマスターがいる、ということになる。……おそらくは、間桐桜の実の■である“彼女”が。

 外部から様子を見る限りでは、屋敷の内部に人の気配は感じられない。とは言っても、蟲の感覚では信用しきれないのだが。
 試しに蟲を一匹飛ばしてみたが、屋敷の内部に侵入する前に弾かれてしまった。内部の調査は不可能だろう。
 その事だけを確認して、蟲たちを帰還させようとした、その時だった。
 強大な魔力の波長とともに、巨大な人影が姿を現したのだ。

 夕闇の中に現れたそれは、まず間違いなくサーヴァント。それも宝具のような何かだろう。
 少し迷ってから、その巨大な人影に蟲たちを向かわせる。
 少しでも情報を、と考えたのだ。
 そうして蟲たちが辿り着いた先で見えた光景は、

「――――――――え?」

 赤黒い衣装に身を包んだ、おそらくは自らのサーヴァントに殺された、幼い遠坂凛の姿だった。

 理解が追い付かなかった。
 なぜ、遠坂凛が幼い姿をしているのか。
 なぜ、自らからのサーヴァントに殺されているのか。
 そしてなぜ、自分はこんなにも―――その事に衝撃を受けているのか。

 その、一瞬の意識の空白の間に、蟲たちの制御は離れ、間桐桜の意識は【C-1】の山小屋にある自分の身体へと弾き戻された。
 唐突な変化に眩んだ視界に映るのは、古びた木造の屋内だ。もうあの場所の光景は見えない。
 だが桜の意識はその事を捉えておらず、あの一瞬の光景を脳裏に移したまま、ただ放心していた。


「桜」

「へ? キャスター、さん……?」
 そこに投げかけられた声に、ふと我に返る。
 気が付けばキャスターが、目の前で座っていた。

「戻ってきていたんですか。……学園の方はどうでしたか?」
「ああ。首尾はそれなりに上々だ」
 そう口にして、キャスターは侵入の結果を報告してくる。
 それとこれまでの情報を纏めると、こうなる。

 判明した学園内のマスター――暁美ほむら、シオン・エルトナム・アトラシア、ミカサ・アッカーマン、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、以上四名。
 同じく学園内のサーヴァント――アーチャー(?)、ランサー、不明、セイバー、キャスター、以上五騎。
 それらの内、ミカサ・アッカーマンとランサーとは同盟を結んだ。
 暁美ほむらとそのサーヴァントであるアーチャーらしき少女は、ミカサたちが倒したため数から外す。
 ケイネスはセイバーかキャスターどちらかのマスターだと思われるが、違う可能性も十分にある。
 つまり最低でもあと一人、多くて二人以上、計四人以上のマスターが学園にいる事になる。
 キャスターの予想通り、学園には多くのマスターがいたわけだ。

 そしてそれらの内、最も警戒すべきはセイバーだとキャスターは言った。
 何故ならあの黄金のセイバーは、キャスターの正体を一目で見抜いたからだ。真名までには至っていないようだが、十分警戒に値する。
 最悪の場合、こちらの位置を感知され、拠点を攻められることもあり得るだろう。
 『待ち』を主体としている自分たちからすれば、それは避けるべき事態だ。

「あのセイバーとの接触は可能な限り避けるべきだろう。少なくとも、浮遊城が完成するまでは敵対するべきではない」
「そう、ですか……」
 桜からすれば、実際にそのサーヴァントを見たわけではないため、キャスターが警戒する理由は実感できない。
 だが彼女がここまで言うということは、おそらく自分たちにとって天敵になり得るという事なのだろう。
 まあもっとも、学園に行くつもりがない以上、桜がそのセイバーに接触することはそうそうないと思われるのだが。


「次に、並行して進めていた命蓮寺の偵察だが、地下に通じる洞窟らしきものを発見した。魔力の流れからすると、おそらくそちらが霊脈の大本だろう」
「……他のマスターの工房でしょうか」
「いや、現状そのようには見えないが、詳しくはこれから調査しだいだろう。場合によっては、その洞窟で浮遊城を作成することもあり得る。
 魔力を集めるだけならこの山小屋でも十分だが、浮遊城を作成するのであれば、ちゃんとした霊地の方が効率的だからな。
 もっとも、その場合は浮上の際に、地上の命蓮寺も崩壊することになるだろうが」
「……………………」

 キャスターのその言葉に、桜は沈黙で答える。
 命蓮寺――本来の柳洞寺には、衛宮士郎の友人である柳洞一成ほか多くの住職たちが住んでいた。
 こちらの命蓮寺ではどうかは知らないが、柳洞一成が穂群原学園と同様に生徒会長を務めている以上、同じである可能性は高い。
 それが崩壊するとなると、当然彼等にも危険が及ぶことになり得るだろう。
 桜はその事を少し考え――やはりすぐに放棄した。
 間桐桜にとって大切なのは、あくまでも衛宮士郎や藤村大河など、自分と関わりのある人間だ。
 そして衛宮士郎がこの聖杯戦争に関わっていない以上、たとえ彼の友人であっても、自分とはあまり関わりのない人間への関心は薄い。
 柳洞一成が本人であれNPCであれ、生き残れるのが一人だけならなおさらだ。

「わかりました。ならその時まで、私は情報収集を続けますね」
「……いいのか?」
「ええ、かまいません」
「そうか……。では桜、そちらの首尾を報告してくれ」
「…………。はい」
 僅かに考えを巡らせ、桜は蟲たちを使って得た情報を報告する。

 教会に訪れたマスターがいたこと。現実で監視していた魔術師の家は廃屋だったこと。セカンドオーナーである遠坂の家に結界が張られていたこと。……そのセカンドオーナーが、既に敗退したこと。
 加えてあの場に他にもマスター達がいたことは思い出せたが、遠坂凛の事に気を取られていたため、その姿や人数は覚えていなかった。
 なので強い魔力の影響で蟲から意識が弾かれたため、把握できなかったと話した。
 対して監視していた魔術師である衛宮士郎と遠坂凛の、自分との関係。そして遠坂凛が自分の記憶にあるよりもが幼かった事は話さなかった。


 そう。落ち着いて考えてみれば、学園の名簿で初等部に記載されていた時点で、彼女が幼いことは予想できたのだ。
 既に高校生である自分がここにいるのに、小学生の頃の遠坂凛が聖杯戦争に参加していたのかはわからない。
 しかし彼女はすでに死んで、そして消えた。ならこれ以上、遠坂凛の事を考える必要はないだろう。
 桜はそう自分に言い聞かせ、その事を頭の隅へと追いやった。――――胸の内に残る違和感から、目を背けたまま。

「……なるほどな。つまりこれで、さらに二組の敵が脱落してくれたわけだな」
「二組、ですか?」
「ああ。桜の言った巨大な人影だが、それほどの大きさならここからでも確認できるはずだが、今はもう何も見えん。
 場所が裁定者から通達のあった【B-4】であることを考えれば、おそらく既に倒されたのだろう。
 このままの調子で、もっと数を減らしてくれると助かるのだがな」
 そんな桜の様子に気付いているのかいないのか。キャスターは事務的に、しかしどこか気安くそう口にする。
 生存能力ならばともかく、戦闘能力の低い自分たちからすれば、他のサーヴァントたちが勝手に殺し合ってくれるのは助かるからだ。

「協会に訪れたマスター達については、現状放置でいいだろう。教会にも監視用の蟲が付いたことだしな。
 それに黄金のセイバーの事もある。今夜十二時まで、このまま休息を取ろう」
「はい、わかりました」

 キャスターの言葉に従い、桜は再び眠るように目を閉じた。
 全てをキャスターに任せている以上、彼女がそうしようといったのであれば、そうするべきだからだ。
 ただその際、今はもういない、幼い姿だった実の姉の事が、再び脳裏を過ぎっていた――――。


【C-1 山小屋/1日目 夜間】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:健康
[令呪]:残り三角
[装備]:学生服
[道具]:懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物、緊急災害用グッズ(食料、水、ラジオ、ライト、ろうそく、マッチなど)
[所持金]:持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
0. ――――――――。
1. キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2. 直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
3. キャスターの誠意には、ある程度答えたいと思っている。
4. 遠坂凛の事は、もう関係ない――――。
[備考]
※間桐家の財産が彼女の所持金として再現されているかは不明です。
※キャスターから強い聖杯への執着と、目的のために手段を選ばない覚悟を感じています。そして、その為に桜に誠意を尽くそうとしていることも理解しました。
 その上で、大切な人について、キャスターにどの程度話すか、もしくは話さないかを検討中です。子細は次の書き手に任せます。
※学校を休んでいますが、一応学校へ連絡しています。
※命蓮寺が霊脈にあること、その地下に洞窟があることを聞きました。
※キャスター(シアン)の蟲を、許可があれば使い魔のようにすることが出来ます。ただし、キャスターの制御可能範囲から離れるほど制御が難しくなります。
※遠坂凛の死に対し、違和感のようなものを覚えていますが、その事を考えないようにしています。


【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]:健康、残り総数:約261万匹(山小屋:260万匹、学園:1万匹)
[装備]:橙衣
[道具]:学生服
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
1. 学園を中心に暗躍する。
2. 桜に対して誠意ある行動を取り、優勝の妨げにならないよう信頼関係を築く。
3. 今夜十二時にもう一度学園の校舎裏に行く。
4. 黄金のセイバー(オルステッド)を警戒。
5. 発見した洞窟の状態次第では、浮遊城の作成は洞窟内部の霊脈で行う。
[備考]
※工房をC-1に作成しました。用途は魔力を集めるだけです。
※工房にある程度魔力が溜まったため、蟲の制御可能範囲が広がりました。
※『方舟』の『行き止まり』を確認しました。
※命蓮寺に偵察用の蟲を放ちました。現在は発見した洞窟を調査中です。
※命蓮寺周辺の山中に、地下へと通じる洞窟を発見しました。
※学園のマスターとして、ほむら、ミカサ、シオン、ケイネスの情報を得ました。
 また関係するサーヴァントとして、アーチャー?(悪魔ほむら)、ランサー(セルベリア)、シオンのサーヴァント(ジョセフ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(ヴォルデモート)を確認しました。
※ミカサとランサー(セルベリア)と同盟を結びました。
※ランサー(セルべリア)の戦いを監視していました。
※シャア・アズナブルがマスターである可能性を聞きました。
※間桐桜から、教会に訪れたマスター達の事を聞きました。
※学園の蟲の一匹に、シオンのエーテライトが刺さっています。その事にシアンは気付いていません。
※【D-5】教会に監視用の蟲が配置されました。
※C-1の山小屋にいる約二百六十万の蟲に、現在は意識を置いています。
※C-3の学園に潜伏していた十万の蟲の内、九万匹は焼かれ、残りの一万匹は学園から一先ず撤退しています。



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