黄昏オーヴァードライプ ◆y0PHxpnZqw




青空が茜色へと変わる最中、テンカワ・アキトは昔の夢を見た。
彼の始まりともいえる炎の残骸が降り注ぐ絶望が、脳裏へと絡みつく。
故郷が戦火に包まれ、人々の怒号が聞こえる――災厄の景色。
親しい友達も、いつも走り回っていた公園も、見慣れた遊歩道も、愛情をたっぷりと注いでくれた両親も血溜まりに沈んでいった。
テンカワ・アキトを構成していた全てが、燃え尽きていく。
醒めたら戻る悪夢ならどれだけよかったことか。ひどく現実感に乏しく、蔓延した死が彼を追い詰める。
そしてひどく熱く、冷たい景色が、見渡す限りに広がっていた。
滅びの赫炎に静められた世界に、一人残された幼き自分。生死の境を綱渡りする恐怖と興奮を糧に、彼は駆ける。
こんな所で、死ねない。生への渇望が悲鳴を上げた。

夢が切り替わる。

自分の転機とも言えるナデシコでの日々が瞬く間に流れていく。
初恋の相手との再開、戦友との別れ、故郷をテロで滅ぼした仇達との邂逅。
幾つもの出会いと別れがテンカワ・アキトの世界に彩りを添える。
苦しんで、悩んで、怒って、笑って。
納得出来ないこともあったけれど、どれもが欠かすことができない思い出“だった”。
彼女達がいたから、自分は最後まで戦えた。夢を追う原動力へと変換できた。
大きな夢ではないけれど、幸せが詰まっていた。
小さな屋台で家族三人が一緒になってラーメンを作るささやかなものだ。
ああ、なんて温かで心が休まる日々だっただろう。

そして、最後の夢が映る。

黒衣の衣装に身を包む自分の姿が、見えた。
銃を取り、血を吐き、それでも足掻くと決めた瞬間だった。
テンカワ・アキトだった復讐鬼が憤怒の表情を浮かべている。前の自分では想像もつかない残忍な笑みを浮かべ、血霞に嗤っている。
それは、不条理に抗う漆黒の意志。狂ってしまいそうな絶望を味わって尚、無くさなかった想いが、彼を動かしていた。
夢も、最愛も此処にはない。たった一人取り残された無力な男が其処にいる。
過去の残滓が、彼が漸く掴んだ大切なモノ全てを奪い去っていく。
憎かった。大切なモノをいとも簡単に奪い去った理不尽を拭い切れない自分に、頭を悩ました。
強くなろうと、決めた。誰が相手になろうとも、絶対に止まらないと自身に誓った。
だから、アキトは――――。


夢は、此処で終わった。

仄かな微睡みから醒めた世界は、少し暗くなっている。
薄い闇と光が交じり合ったこの夕焼けは、感受性の高い人なら綺麗と評せるだろう。
だが、アキトからするとどうでもいいといった感想しか浮かばない。
どれだけ綺麗な景色でも、人は理不尽に吹き飛ばす。
戦火の炎を灯し、大切だった日常を何の感慨もなくゴミへと変えるのが人だから。
この方舟も直に幾つもの戦いを経て崩壊していくだろう。
模倣されたプログラム染みたものとはいえ、生きている人達を巻き込んで終わっていく。
それは何て身勝手なものか。彼らにとって、この世界が何にも替え難い日常であるというのに。
夢見が良くなかったせいか、どうも色々と考えてしまう。目的以外は捨て置け。振り返る暇があるなら、前を向け。
他者に対して思いを馳せる余裕を持てる程、アキトは強くはない。
それでも、最低限は戦えるように、弱った五感を鬼のような修練で跳ね除け、改悪された身体を鍛え上げた。
全てはただ一人、彼女の為に。災難辛苦を踏み越えたその先で、彼女が助けを待っているから。
ただその思いだけを抱えてテンカワ・アキトは地獄から舞い戻った。
喪失したモノをもう一度。護れなかった罪科を雪ぎ、贖いを果たす。
培った想いでは護れない。抱いた正義では救えない。必要なのは目的以外を削ぎ落とす力のみ。
ならば、自身も外道に落ちて力を得る他はなかった。
彼の美点であった甘さは薄れ、家族であった少女に背を向けた自分はもはや救われることはない。
これから先、後悔と苦痛に苛まれて、永遠に苦しみ続けるだろう。
けれど、それでいい。
彼女が笑ってくれるなら、自分以外の誰かの横を歩いていても幸せでいてくれるなら――――アキトは満足だ。

――もうすぐ夜が来る。

皆の為に戦う正義の味方よりも、たった一人の為に戦う正義の味方を選んだアキトが今更いい人を気取る訳もなく。
夜闇に紛れて、敵を討つ。大切なモノの為に誰かの大切なモノをこの手で壊す。
それを、悪と言わず何と言う。エゴの塊で他者を排斥するなど憎いあいつらと同じようなものではないか。
そうすることでしか彼女を救えない自分の弱さを理解していながらも取らざるを得ないこの理不尽。
バカだ。きっと、彼女には散々に貶され、殴られ、そして――泣かせることになる。
もっと、強ければ。横に佇む狂戦士のようにその身一つで全てを切り拓ける力があれば、こんな所まで追い詰められなかったのかもしれない。
考えた所で意味は無いけれど、自分の中にあるテンカワ・アキトだったモノはどうも甘さを捨て切れないらしい。
帰ろう。これ以上此処にいて得るものはない。
墓地への移動手段として乗ってきたバイクに跨がり、アキトは大切だった“偽り”から離れていく。
もう二度と来ることはないだろう弱さを置き去りに、戦場へと発つ。

「感傷を捨て切れないのも、俺らしいかもな……。バーサーカー、周囲の様子は」
「■■■■――――!!!」
「くっ、この反応は敵か!?」

そして、黒衣の復讐鬼に安寧はない。
アキトの宣誓を待たず、顕現したガッツが駆け出した。
刹那、鈍い金属音が鳴り響き、金属同士が擦れ合う音が耳に入り込んでくる。
夕闇の向こうに現れたのは自分と同じく黒衣を身にまとった仮面の剣士だ。
黒刀を携え、凶悪な殺意を振り撒いている。
どうやら、バーサーカーの殺意を感知して此処まで来たらしい。

「見た所、同じ狂戦士のクラスらしい…………君が、マスターなのか」
「そういう貴方も、同じく選ばれた人。そして、聖杯を目指すなら――取るべき手段は一つ」
「違いない。悪いけど、君の命運は此処で鎖す」

黒衣の剣士の傍らには小さな黒髪の少女が心配そうな表情で見つめている。
まさか、このような年若い少女まで参加しているとは考えていなかった故にアキトの表情にも曇りが生まれていた。
しかし、此処は戦場。聖杯戦争に参加したからには、誰であろうと関係ない。
願いの障害となるなら、戦う。全てを打ち壊すだけだ。

今、アキト達がいる場所は戦うに適した町外れの田園地帯だ。
邪魔な障害物もなく、バーサーカーの身体能力を思う存分に活かすことが出来る広々とした戦場である。
周囲への被害を考えること無く戦えるなら十全。未明以来、体力を温存してきたおかげか体調も戻っている。
なればこそ、この機会は逃さない。同じ狂戦士、長所も短所も理解している。
焦点となるのは、互いのマスターの判断力だ。
唇の端を不器用に釣り上げて、アキトは小さく声を震わせた。

「殺ろう、バーサーカー」

撃滅のオーダーを受けたガッツは狂気を纏いて、敵へと向かう。






▲ ▼ ▲






美遊達がその男と遭遇したのはある種必然だったのかもしれない。
狂戦士のクラスを充てがわれたマスター。運命に惹かれたのか、奇しくもこんな早期に出会ってしまうなんて。
もっとも、美遊としては与えられた力で戦い、勝ち残るだけなのだから深く考える必要性は見受けられない。
奇跡を。聖杯を。縋ることでしか獲れない幸せが、待っている。
掴むことを夢見て戦うしかない世界で、美遊はもう決めたのだから。

「バーサーカー」

その道を創ってくれるのは本物の『兄』ではないけれど。
今は、彼でいい。黒衣の狂戦士――黒崎一護が、きっと最後まで連れて行ってくれる。

「戦おう、こんなはずじゃなかった世界をやり直す為に」

だから、戦う。息が切れて、へたり込みそうになっても、それでも前へ。
この小さな身体に内包された想いを方舟の深淵と届け、奇跡へと昇華する。
迷いや後悔は全くないとは言えない。しかし、選んだ決意に恥じぬ想いを以って未来を成す。
それだけは正しいと信じている。

「貴方に恨みはありません。私のことを恨んでくれて構いません」
「奇遇だな。俺も君に対して、恨みはないよ」
「けれど」
「ああ、けれどだ」

簡単には譲れないし、負けるつもりはない。
不屈の願いはこの胸に。滾る炎を狂気に変え、剣を振るう。
夕焼けを背に、二人の狂戦士がけたたましく咆哮した。
我こそは最強だと、今此処に主の前で証明する為にも、退けるはずもなく。
押し通る願いがある両者に、炎が灯る。


――負けられないんだ、絶対にッ!

願いに焦がれた二人のマスターが、開戦の狼煙を上げた。
先に動いたのは黒衣の死神――黒崎一護だった。
手に持つ黒刀を携え、加速。黒の影が、夕闇を切り裂いていく。
衝突。対する黒鎧の復讐鬼、ガッツはドラゴンころしで黒刀を難なく受け止め、逆に弾き返した。
次いで、横薙ぎに一閃。身の丈以上の鉄塊が大地を削り取る。
だが、その一撃は一護に紙一重で届かない。
響転。破面の使う高速移動術を用いた一護は、ガッツの背後に回り込み接敵。
突然の背後の気配にガッツも飛び退るも遅かった。振るわれた黒刀が脇腹へと吸い込まれていく。
取った。美遊は勝利への確信を込めた眼差しを送る。

――微温い一撃だ。

そんな甘さを一笑するかのように、黒刀は黒鎧に阻まれる。
軋み、火花を散らした斬撃は一向にガッツへと食い込まない。
仮面の双眸にほんの少しだけ、苛立ちが混じるのと同時にガッツが動く。
手に小型の何かを握りしめ、一護の口元へと押し込んで数瞬。
甲高い破裂音と絶叫が田園に響き渡った。

「バーサーカー!?」
「これで、終いだ」

口へと無理矢理ぶち込んだ炸裂弾はきちんと発動し、頭部破裂といった致命傷を負わせることに成功した。
飛び散った肉塊と仮面の欠片は霧散し、頭部の半分を失った一護はへたり込んでそのまま消滅していく。
思っていたよりも楽な戦いだった。アキトは一瞬でもそう思い、張り詰めた空気を緩めようとしたその時。

「……何だ、これは」

ギチギチと肉が擦れる音が聴こえてきた。
聴く者の神経をヤスリで擂り潰す様な狂気の怨嗟が、耳への暴虐となって襲いかかる。
五感が鈍いアキトでさえ感じる圧迫感、肌を這い上がってくる冷気が身体を硬直させた。
拙い。このまま放置していると、きっと碌でもないことが待っているに違いない。

「バーサーカーッ! 油断するな、完全に敵を撃滅しろ! 一片たりとも残さず、押し潰せぇ!」

アキトの声に呼応して、ガッツが再びドラゴンころしを掲げ、叩き切ろうとするが一歩遅かった。
その時には一護の身体は元の健康体へと戻り、高揚した戦意が黒刃へと灯る。
振り下ろしを受け止め、即座に美遊の元へと馳せ参ず一護にアキトは舌を打つ。

……これは、骨が折れるな。

あの再生能力に加えて、愚直にマスターを護る忠誠心。
先程から隙あらば、マスターを討とうと拳銃を向けているがまるで見当たらない。
ガッツと戦っているにも関わらず、一護は美遊から少しも意識を逸らしていなかったのだ。
どうやら、あのバーサーカーは理性を奪われていながらも護るべき対象を違えてないらしい。
それは此方のバーサーカーにも一応は言える話だが、アイツは別格だ。
どこまでも主を護り抜く様は、理性があるなら騎士と称せたかもしれない。
滑稽だ、とアキトは笑う。
地獄に堕ち、狂気へとその身を染め上げても未だ護る事を忘れないサーヴァント。
それは、ある種自分が到達したかった境地とも言える。


「だが、勝つのは俺達だ」

一息もしない内に、ガッツは地面を強く蹴り上げて、一護へと鉄塊の暴風を繰り出した。
必殺でもない、何の変哲も無い一振り。されど、無心に生き残る事を考え、鍛え上げた剣閃は必殺にも勝る。
鉄塊と黒刀が再度ぶつかり合う。
一護は鉄塊の側面に黒刀を滑らせ、首元へと誘おうとするが、歴戦の勇士であるガッツはそんな緩い小細工を許さない。
首元へと到達する前に、力のままに振り抜いた鉄塊が一護ごと吹き飛ばす。
瞬刻、一護が空中で身動きが取れないと判断し、ボウガンを数発打ち込むが一護は空中で静止。
黒刀を自由自在に振り回し、矢を弾き飛ばしつつ、空中を足場にして響転。
黒影となってガッツの懐へと入った一護は、黒刀に持てる力の全てを注ぎ、袈裟に下ろす。
だが、黒刀は黒鎧に傷一つ付けられず、火花だけを生む。
幾ら刻んでも、黒刀以上の強度と神秘性を誇る黒鎧は貫けない。
一護も狂気に蝕まれた頭をフル動員してあらゆる斬撃をガッツへと放つが、どれもが鈍い金属音を鳴らすのみ。

「このまま、押し込め!」
「まだだよ!」

交錯と離脱を繰り返しながら、二人の狂戦士は鎬を削り合う。
主へと勝利を捧げ、湧き上がる渇望を満たす為、剣を取る。
一進一退の攻防を広げながらも、戦況は徐々にガッツへと傾いていった。
超速再生によって肉体的には傷一つ負わない一護であったが、それも美遊の豊富な魔力があってこそだ。
こうもひっきりなしに再生をしていては潤沢な魔力でも、不安視してしまう。

「……ッ! 足りない!」

無論、その危惧を美遊はわかっている。わかっているからこそ、滴り落ちる汗を拭う手にも震えがはしっていた。
このままだと押し切られて負けることは確実。身体能力では互角、だが培った技術に差が見られる。
それは黒崎一護が弱い訳ではない。ガッツが強すぎるだけなのだ。
圧倒的なパラメータに完全とも言える技術。正面から渡り合って、アレを打ち倒すなど無謀である。

「でも、ここで終われないし、負けれないんだ」

振るった袈裟は弾き返され、神速の突きは軽く首を撚ることで回避。
相手の強大な一撃に肉体が崩れながらも、超速再生によって食らいつく一護は、今苦境に立たされている。
魔力があるからこそできる戦法だ。常人の魔術師であったら、とっくに終わっていた。
相手の技術は格上。狂気に浸して尚、洗練された無窮の武練を誇る。
無骨に見えてその実、丁寧な斬撃は一護の黒刀を通さない。
後退して、再度接敵。響転による連続加速をしながら、ガッツへと迫るがドラゴンころしの壁は厚く険しい。
振るった黒刀ごと叩き潰され、肉体を損壊させながら吹き飛ぶ一護を見て、美遊は焦りが生まれ始める。
勝てない。これは、無理だ。よもや、此処まで自分のサーヴァントを埋没させる程の腕前だとは考えていなかった。


「――っ!」

だが、ここで退くことはできない。
これは長期戦。体力と魔力の許容範囲が超えない内に厄介な敵を打ち倒さなければ、困るのは自分の方だ。
加えて、相手のバーサーカーが安々と逃してくれる保証は何処にもない。
様子見をしていた神父と違い、戦意が高揚した彼らに背を向けるのは悪手。
ならば、前へと進むだけだ。今ある全ての力で敵を打ち倒し、後のことはそれから考えればいい。

「貴方の力、存分に発揮してもらう」

美遊の体内に残った魔力が一護へと吸い込まれていく。
魔力面では、他の魔術師と比べようにならないぐらい潤沢なサポートができる。
美遊がマスターとして優れている長所の一つだ。これがあるからこそ、一護も再生をしながら戦える。
だが、今回は少し違う。再生時に送られる魔力よりも格段に量が多い。
使うしかなかった。眼前のサーヴァントを撃ち破れるだけの必殺を――!

「私の魔力、持って行って……バーサーカーッ!」

そして、次の瞬間。アキトの顔を歪ませる“何か”が徐々に広がっていく。
一護は左手で剣身を叩くと、そのままこすりつけるかのように掌を剣身に滑らせ、魔力を滾らせる。
続いて乱雑に刀を旋回させ、切っ先から黒の斬撃を生み出した。

「穿てッ!」
「■■■■――!」

――届くものかよ、届いてなるものかよ。

剣尖から生まれた黒の斬撃は寸分違わずガッツへと向かい、巨体諸共飲み込もうとするが、大きく横薙ぎに振るわれたドラゴンころしが掻き消す。
美遊が願った決死の一撃さえも黒鎧の戦士は安々と打ち砕いた。
怖気を感じた割には造作も無い、盤石に防げたならこの先は獲れる。
余裕を持って、ガッツが次の攻撃へと移行しようとしたその時。

「令呪を以て命じる! バーサーカー! 宝具を解放し、敵を討て!」

一護の周りに漂う魔力の濃度が瞬く間に濃くなっていった。
令呪によるブーストで力が格段に増したのだろう、数倍増しの狂声が辺りへと木霊する。
同時に、二つの角から生まれた光球へと一帯の魔力が吸い込まれていく。
その密度、正しく一撃必殺。先程の斬撃とは比べるのがおこがましい。
当たると、死ぬ。これまでの戦闘経験が、アレを唯一無比の宝具と判断する。


「クソ、が――――っ!」

アキトは僅かな合間の中で幾つもの思考を重ね、出した結論は撤退だった。
チューリップクリスタルを使おう。後少しで完成するであろうアレは真正面から受けるべきではない。
出し惜しみはしないと数時間前は誓ったじゃないか。虎の子の切り札ではあるが、此処で使わなくていつ使うというのだ。
だけど、ガッツはその意を良しとしなかった。剣を下ろさず、戦闘態勢を依然として解かない。

――まだ殴り返してもいねェのに、逃げるのか。

殺意に淀んだ双眸で、アキトへと問いかける。
彼は眼前の光球を見ていながら、全く戦意を喪失していない。

――オレは、破れる。

打ち勝てると言ってるのだ。言葉を失い、狂気で染まった頭でも忘れなかった復讐という二文字。
それは■■■■■へと抱いた漆黒の決意。
何があっても遮るなら斬る。アキトの中に生まれた弱さを、ガッツの殺意が塗り潰していく。

「……アレを貫けるのか、バーサーカー」
「■■■■■■■■――――!」

その応えで、アキトは彼の想いを全て理解できた。
嗚呼、このどうしようもない黒鎧の剣士は未だ、あの化物を倒す気でいるらしい。
頭にはただ叩き斬ることだけを描いて、獰猛に笑みを浮かべたのだ。
ならば、マスターとして今の自分にできることは何だ?
復讐鬼を充てがわれたバカな男がする戦い方は――?

――それでこそ、オレの横に並ぶ価値がある。

導き出した想いに、彼のパスから歓喜が流れ込む。
どうやらお見通しらしい。
このくだらない頭に過った一つの決意はガッツと一致してしまった。

「ハッ、どうやらヤキが回ったらしいな」

アキトは薄く笑みを浮かべ、凄絶に宣言する。

「令呪を以て命じる! バーサーカー、お前の意志はその程度の光で塗り潰されはしないだろう! その剣で、道を斬り拓けっ!!!」
「■■■■■■■■――――!」

鼓動を鳴らすことすら赦さぬ刹那、光球が迸り、黒の剣士が駆けた。
触れるもの尽くを灰塵へと化す閃光へと、疾走する。
この世ならざる世界の光は、眩く重い。
少しでも気を緩めてしまえば、消し飛んでしまいそうだ。
しかし、今この身は令呪による恩恵で平常よりも数倍強靭な肉体を保ち続けている。
自分を信じ、戦いの天秤を剣に委ねてくれたクソッタレなマスターがこれだけの良条件を揃えてくれたのだ。
踏み越えなきゃ、恥ずかしくて首を掻き毟ってしまうだろう。


「■■――――ァ!」

正気じゃこんな一撃、避けてとんずら一択。
けれど、彼は狂気に侵された狂戦士、打って出るにきまっている。
何もかもを穿つ地獄の閃光に対して、ガッツはただ――――ドラゴンころしを振り抜くだけだった。
着弾。光の先端に触れたドラゴンころしが悲鳴を上げながら食い込んでいく。

「貫け、バーサーカーァァァァ!!!!!!!!!!!!」

切っ先が食い込んだ光は喧しい悲鳴を上げながら、霧散していった。
必殺に対し、何の変哲も無い一撃を。幼き頃から幾千、幾万も振るってきた振り下ろし。
ガッツはそれを直情的に実行するだけだった。

「う、嘘……!?」

美遊が驚くのも無理はない。何せ、この男は真正面から死神の光を叩き斬ろうとしているのだから。
最大最高最強の一撃を、一振りで斬り拓く。そんな馬鹿げた話があるものか。
寸での所で保たれていた理性が、沸騰しそうだ。
もしも、この一撃が破れたら――。そんなありもしない結末を考えてしまい、思わず身体が強張ってしまう。

「バーサーカー! 負けないで!」

気づいていれば、口からは勝手に声が漏れ出していた。
理性なき狂戦士に投げかけても、意味は無いのに。
けれど。けれど。その応援を受けたサーヴァントはどこまでいって『兄』なのだ。
妹が涙を目尻に溜めながらも、自分に対して頑張れと叫んでいる。
ならば、その想いに応えずして何がサーヴァントだ。
お前は、妹を護る為に現界した最強の死神であるはずだろう。
それを理解した瞬間、一護の魔力は再び上昇していた。
もう彼女が泣かないように。今度こそ、溜まった涙を拭い落とす為に。
黒崎一護は戦わなければならない。そして、勝ち取らなくてはならない。

「■■――――ァァァァァァ!」
「■■――――ォォォォォォ!」

互いの譲れぬ想いが今此処で雌雄を決する。
光に切れ目が入る。黒鎧に光が滑りこむ。
真っ直ぐに、誰よりも強く在りたいと願う意志を糧に、突き進む。
奇しくもそれはどちらも同じであり――。

「――――!」

――破裂したのもほぼ同刻であった。
光の奔流はドラゴンころしによって引き裂かれた。
死神は急激に喪失した魔力に耐え切れなかったのか動きを止め、黒鎧の剣士は負ったダメージの大きさに膝をつく。
しかし、完全には倒れぬのが狂戦士。両者は五体満足で、まだ生きている。


「負けられ、ないんだ。こんな所で俺は――っ! 死ねないんだ!!!!」
「私だって、死ねない。皆の所に帰るまで! お兄ちゃんを救けるまで!」

失ったモノがある。手に入れたモノがある。取り戻したいモノがある。
聖杯戦争に参加してでも叶えたいと夢見た願いが、胸で燃え上がっている。

「嫌、嫌っ――! やっと、手に入れた居場所だったんです! 温かくて、私がいてもいい場所で!」

断続的に息を吐きながら、美遊は自分の想いをぶち撒ける。
我儘で人を押し退ける行いに、あの人達はきっと自分を叱りつけるだろう。
その後で、優しく抱きしめて頭を撫でてくれるに違いない。
けれど、今はまだその時じゃないのだ。聖杯へと辿り着き、幸せを固定するまでは、振り返ってはいけない。

「幸せになりたいって願うのは罪なんですか? 誰かの屍の上を踏み越えても、叶えたいって思うのは間違いなんですか!?」

人並みの幸せを永遠にしたいという願いすら、理不尽に踏み躙る世界が憎くて。
聖杯である自分は、人並みの幸せを得ることすら敵わない。
兄が護ってくれなければ、イリヤ達がいなければ――きっと、自分は摩耗し、総てを諦めてきた。
そんな自分を救いだしてくれた人達がいる日常へと、もう一度帰りたい。

「間違いと言われても、私は――っ! 大切だった思い出が理不尽に奪われる世界を変えたい!」

誰彼が望むことだからではない。自分が、美遊・エインズワーズが望むたった一つの願いだから。
不足無きハッピーエンドを求めてしまったことに、美遊は自嘲する。
結局、冷静に場を俯瞰していた自分も、一人の人間だった。聖杯と称された美遊も、中身は何てことのない少女だ。
奪われた兄、手に入れた親友。
それら総てを永遠にと焦がれた少女に、罪はあるのか。その想いは、間違いと断罪されるべきなのか。

「間違い、じゃない」
「えっ……?」
「間違いなんかじゃ、ない! その願いが間違いであってたまるか!!!!」

少なくとも、アキトは間違いじゃないと即答できた。
少女も自分と同じく、理不尽に奪われたモノだ。言葉の端々から感じる焦燥感が、嫌でも想起させる。

「大切な人を取り戻そうとして何が悪い! 理不尽を憎んで何が悪い! 失った夢をもう一度と願ってしまうのが罪なら、俺は永遠に罪人でいい!!!」

奇跡に縋る程に追い詰められ、それに邁進することを東風谷早苗は間違っているといった。
ならば、闇よりも色濃く、行き止まりのない絶望を一生抱えて生きていかなくてはならないことを是としてもいいのか。
そんなの、アキトはゴメンだった。
せめて、もう一度。彼女が笑う姿を見たい。幸せな陽だまりで元気に生きて欲しい。
そう願うことすら罪ならば、罪人と呼ばれてもよかった。
残された夢の欠片すら抱けない人生に、何を執着しろというのか。


「どれだけ頑張っても! どれだけ救っても! どれだけ打ち倒しても! 奪われるなら――――ッ!
 奪い返すしか無いだろう!? 超常の奇跡を以って、大切な人を取り戻すしか……っ!」

奪われ、壊され、喪失してしまったならば、取り返す。
奇跡に頭を垂れて魂を売ってでも、テンカワ・アキトの総てを懸けて、掴み取る。

「たくさん悩んで、苦しんで、好きで取った選択肢ではないけれど。それでも、俺自身の意志で選んだ道なんだ。
 夢を持つことすらできなくなった俺に残された道は、これしかない。後戻りはいらない。いや、必要ない」

それだけの覚悟を抱えて選んだ道を、間違いだなんて簡単な言葉で片付けたくない。
地獄とも言える経験と底なしの絶望を感じてもいない奴等に否定されたくない。
泣き笑いじみた表情で叫ぶアキトの言葉に、総てが込められていた。

「だから、頼むよ。同じ願いを抱いた君が、間違いだなんて言わないでくれ……ッ!」

掠れ混じりの叫び声には、不思議と説得力があった。
それは、今まで出会った参加者達とは違う剥き出しの想いだった。
恥も外聞もない、思いの丈が美遊の胸へと届く。
奇跡に縋りつかなければ生きていけないぐらいに擦り切れた過去が、美遊達にはあった。
ただそれだけ。ほんの少しの共通点が、彼らの動きを止める。
数秒間、沈黙が続く。
湧き出た想いを消化し、受け止めるだけのちょっとした小休止だ。
そして、消化の後、再び言葉は交わされる。

「――――俺達が見ている世界は同じだ。そして、聖杯に焦がれているなら……現状、倒す敵は共通している。
 聖杯を否定をする奴等を討つ。今は雌伏の時だが、数が減るにつれて機会は巡ってくるはずだ。
 その時、願う想いが共通しているなら、少しは背中が楽だろう?」

その言葉が意味することを美遊は即座に理解する。
仮初の握手。一時だけの共闘。
正直、疑心は残っている。一人で戦うしかないという強迫観念は、今も美遊の中で渦巻いている。
けれど、先程のアキトの血を吐くような叫びに、嘘はなかった。
同じく、理不尽に強いられた運命への憎しみ。そして、後悔。
下手に綺麗事を吐いて手を伸ばす人達よりはよっぽど信頼ができると判断してしまった。

「…………条件があります」
「俺に叶えられることなら、だ」
「私に住む場所をください。この世界で用意された偽りの家にはもう帰らないと誓ったので。だから、居場所をください。それが、私が出す条件です」
「敵の襲撃があるかもしれない。何かあったら即座に何処かへと拠点を変えるぞ。それでよければ、家に来たらいい」

結局、最後まで手を取り合おうとはっきり口にすることはなかった。協力したいなら、勝手にしろ。
どこまでも投げやりな態度に思わず、美遊は薄く笑みを浮かべてしまった。
自分の兄とは違うとわかっていても、心の奥底に通ったモノはどこか一緒なのかもしれない。
だが、そのぶっきらぼうな態度が、今は心地よい。


「借りは、必ず返します」
「期待しないで待っているさ。待つことには、慣れているから」

互いのサーヴァントを霊体化し、二人は横並びになった。
近くとも遠くとも言えない微妙な距離。それが、今の二人を示すものだった。

「……もしも、私達だけが最後に生き残った時は」
「ああ、戦おう。己の総てを燃やして」

バイクに二人で跨がり、戦闘痕が残る田園地帯から離れていく。
最後には瓦解してしまう関係であるが、今は一緒だ。いつかは来る対立を胸に、美遊達は戦闘を終えた。

「それじゃあ、早く此処から離れよう。これだけの戦闘をしたんだ、誰かが寄ってくる前に帰らなくちゃ。
 消耗した身体を休めて、万全にしないといけないからね」
「はい。そ、その。名前は何て呼んだら」
「テンカワ・アキト。好きに呼んでいいよ。君の名前は?」
「……美遊・エーデルフェルトです。私の方も好きに呼んでくれて構いません」

結局、どちらの頭にあったのは感傷なのだろう。
特に、アキトには小さな子供にはどうも弱いという欠点がある。
もしも、東風谷早苗にでも見られたらニヤニヤとされてしまうだろう。
よくもいけしゃあしゃあと口が回るとアキトは自嘲する。
美遊を殺さなかったのはただの甘さだ。いずれは殺さなくてはならない相手に優しさをかける必要性はなかった。
何の躊躇もなく、殺していれば、自分は覚悟を更に研ぎ澄ませることが出来たのに。

「わかった。じゃあ、美遊ちゃん。これでいいかな?」
「それじゃあ、私は『アキトさん』って呼びます」
「………………ああ、いいよ」

たどたどしく声をかけてくる少女はまるで――置き去りにしたはずだった銀髪の少女のようで。
その響きまでも、かつての自分を想起させるものだったことに思わず笑みを浮かべてしまう。

――そうか、俺は……。

美遊にホシノ・ルリを重ねてしまったことは、これから何度も後悔し、自分の中にいる冷酷な悪魔は否定するだろう。
だが、この選択肢を間違えにしたくないと叫んでいる自分も中にはいるのだ。
それはあのナデシコにいた時のテンカワ・アキトのようで。
復讐に焦がれる前に戻ったと錯覚してしまうくらいに、懐かしいものだった。




【C-9/田園地帯/一日目 夕方】


【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、強い憎しみ、魔力消費(中)
[令呪]残り二画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発) 、バイク
[道具]チューリップクリスタル2つ 、春紀からもらったRocky
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
0.天河食堂に戻る。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備えるが、慎重に行動。長期戦を考え、不利と判断したら即座に撤退。
2.下見したヤクザの事務所などから銃弾や武器を入手しておきたい。
3.五感の以上及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
4.できるだけ早苗(勝手にしろ)やアンデルセンとの同盟は維持。同盟を組める相手がいるならば、組みたい。自分達だけで、全てを殺せるといった慢心はなくす。
5.ガッツのダメージ、魔力消費から夜は大人しくする。
6.最後まで生き残り、美遊との決着をつける。
[備考]
※セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
※演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
 ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
※ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
※割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
※寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
※D-9墓地にミスマル・ユリカの墓があります。
※アンデルセン、早苗陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。
※バーサーカー(黒崎一護)のパラメータ、宝具を確認しました。

【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]ダメージ(中)
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。


【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]魔力消費(大)、ポニーテール 、他者に対しての過剰な不信感、神父への恐怖感
[令呪]残り二画
[装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装
[道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟の聖杯』を求める。
1.他者との交流は避けたい。誰とも話したくない。信用できるのは、サーヴァントとサファイア、アキト(一応)のみ。
2.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。
3.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
4.最後まで生き残り、アキトとの決着をつける。
[備考]
※アンデルセン陣営を危険と判断しました。
※ライダーのパラメータを確認しました。
※バーサーカー(ガッツ)のパラメータ、宝具を確認しました。

【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態]ダメージ(中)
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を守る
1.???????
[備考]
※エミヤの霊圧を認識しました。