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そして夜が来る ◆tHX1a.clL.




  ◇◇◇†◇◇◇


  踊るように軽やかに。
  刻むように鮮やかに。
  楽しげに、道を跳ねるヒールの音。
  奏でる音色は昼の高い空に響き渡り、帰宅途中の学生の、買い物途中の主婦の、追い込みに入ったサラリーマンの間をすり抜けていく。
  愉快な音色。喜色の音色。誰にも聞こえぬ嘲りの音色。

  音色が止まる。
  電気店のショーウィンドウの前で止まる。
  ショーウィンドウの向こう側、客引き用のテレビで流れているのは新都の怪事件。
  狂った女が狂った笑顔で狂ったことを叫ぶ映像。
  音色の奏者はその映像を見て、大いに笑った。笑いながら囃し立てた。

「wwwwwwwwwwwwwね、見て、見て見てwwwwwwwwジナコさんめっちゃニュースになっとるぅwwwwwww
 怖いでェすねぇwwwwwwwwwwこんなん居たら安心して生活できませんねぇwwwwwwwwwwwwwガクブルですねぇっ!wwwww」

  笑いながら指を差し、周りのNPCに語りかける。
  NPCは気味悪そうに彼を避けていく。
  男はさらに得意げになり、囃し立てた。

「こういう怖い人はどぉんどん、しまっちゃわないとですよねぇwwwwwwwwwww
 あれ、でもでも? この人なんか右手に赤い痣ありませぇん? えっ、もしかして、えっあれ、マスターなんすか?wwwwwwww」

  誰にも分からない単語で、誰にも分かるはずのない考察を垂れ流す。
  彼の考察に耳を貸すものは居ない。ただ一人を除いては。

「これさあ、マスターが捕まっちゃったらどうなっちゃうのーん?wwwwwwwww
 そんで死刑とかなっちゃったらさあ、めんどくさーいこと、なっちゃいますよねぇwwwwwwwww」

  彼を見つめる女性が一人。
  見目麗しい、年のころも若い女性。
  ただ、普通の女性と違っているところがあるとすれば、彼女はNPCではないということと、男の言葉の意味を理解していたということ。
  愉快なステップの代わりに響く、荘厳な足音。

  男が振り向き、女性に問いかける。

「そうは思わない、ルーラーちゃぁん?」

「アサシン……なにをしてるのですか、こんなところで」

  汚濁に塗れた一方的な片思い。
  恙ない進行のための障害排除。
  見知らぬ人物であるが、最も互いとの出会いを求めていた二人。
  二人の心の底からの望みが引き寄せた偶然か。
  あるいは二人が互いを探していた故の必然か。

  新都の怪事件の真犯人たるアサシン、ベルク・カッツェ。
  月の聖杯戦争の裁定者たるルーラー、ジャンヌ・ダルク。
  この広い街で、聖杯戦争の舞台で、初めて互いの憎ましいばかりの思い人と逢えたのはその二人だった。

「え? え? 何ってホラ、なんだっけ、あれ、通達? あったっしょ? あれ聞いてさ、ミィも遊びに来ちゃった♪ ウフっ☆」

  2mを超える大男が可愛らしく指で唇を押さえながらそう言う。正直言って気味が悪い光景だ。
  しかし、ルーラーは動じずに会話を続ける。

「……つまり、貴方もB-4地区の参加者と接触を図りに来た、と?」
「んー、接触っつーかー、楽しみに来たっつーか? ま、そんなとこっすかねぇwwwwwwwww
 いやwwwwwwマジ急いで来たのになんも起こってないじゃないすかwwwww電車乗ってwwwバス乗ってwwwwwぴゅんって飛んでwwwwww急いで来たのにwwwwwww」

  要領を得ない。
  問いかけに対してわざと煙に巻くような言い回しで答えられているようだ。
  なんと問いかけるべきか。
  それとも問いかけずに去るべきか。
  ルーラーが考えをまとめるよりも早く、今度はアサシンのほうがルーラーへと問いを放った。

「あ、そだ!! ねぇルーラーちゃぁん、ミィすーっごい気になってることあるんですけどぉー」
「なんでしょう」
「例えば、ァ例えばでぇすよぉ? 例えばマスターがNPCにころころされちゃったらぁ、そのマスターってどうなっちゃうんですかねぇ?」

  「ころころ」とはつまりアサシンなりの『殺害』の隠語だろう。
  先ほどの一人でのバカ騒ぎといい、妙な言い回しで話を分かりにくくするのはきっと彼の癖のようなものだ。

「NPCがマスターを『参加者である』と認識して殺害に及ぶことはまずありえません。
 NPCの日常生活には殺人という行動は含まれていませんから」

  当然の返答だった。
  この街は聖杯戦争のために用意された舞台だが、この街にとっては聖杯戦争こそが異物。
  聖杯戦争がなければ、いつまでも、どこまでも変わらぬ日常が続いていく。
  安寧という泥に沈んでいくような、悲しくなるほど幸せな日常が続いていく。
  その世界には犯罪はなく、その世界には外敵は居ない。
  男が居る。女も居る。
  大人が居る。子どもも居る。
  生まれてくる者が居る。死にゆく者も居る。
  善人が居る。悪人も居る。
  おおよそ全ての人間がいる。だが、聖杯の示した世界には唯一、『他人を殺す人間』は居ない。
  NPCがNPCを超えないための枷。それこそが『他殺禁止』の大原則。
  通常はこの原則が覆ることはない。ただ、彼らのルーチンを乱す『異物』が紛れ込まなければ。

「んもう! 例えばの話っつってるじゃないっすかぁ!! 例えば、ほらね?
 戦闘に家が巻き込まれたNPCが居て、そのNPCが異常なほど怒り狂い復讐のためにそのマスターを殺しまーしたっ!! はい、どうしますかっ!」

「通常の脱落者として扱います。仮想電脳空間である方舟内ではまずありえないでしょうが不慮の事故、寿命、流行病、そういった外的要因による死亡全てが同様です」

「え、ちょっwwwwwメッチャ即答ですやんwwwwwwそれならそうと最初っから答えてくれればいいのにぃ~wwwwwwww」

  聖杯戦争という異物が、多かれ少なかれNPCの思考・行動パターンに悪影響を及ぼす可能性がある。
  それが彼らの日常生活(ルーチンワーク)を破壊して、予想外の行動を生む可能性がある。
  会社を壊されたNPCが出社できなくなり、新たな行動を迫られるように。
  愛娘が死んでしまったNPCが悲しみ嘆き、新たな行動を迫られるように。
  異物の介入が安寧を破り、混沌を齎した場合起こりうる事故。
  それは当然、予測も対応も追いつかないイレギュラー。『起こればそれまで』と割り切るしかない。

「でも、だとすると怖いですねぇ」

  悪魔が笑う。言霊得たりと喜色を浮かべ。

「だって、もし全てのNPCがマスターに恨み抱いちゃったら……マスター、逃げ場なくなっちゃいますよね?
 ここに何人のNPCが居るかは知らないけど、そうなっちゃったらもうオワタァァァァァアアアア!!!!! ……ですねw」

「そうならないために、私が居ます」

  そういったイレギュラーが起こらないように、参加者にも原則が設けられる。
  大規模なNPCの殺害の禁止。NPCの生活に支障をきたす行為の禁止。
  もしそれを進んで行う参加者が現れたとしたら、NPCにイレギュラーが生まれ続け、聖杯戦争がその意味を失いかねない。
  そのため、NPCに代わって裁定者たる『ルーラー』が裁く。
  それがこの聖杯戦争の運営側であるジャンヌ・ダルクの存在する意味。

「あ、じゃあもう一ついっすかー?」

  ついでとばかりに付け加え、有無も言わさず問いかける。

「えっとぉ、例えばぁー……た、と、え、ばぁ」
「例えばルーラーちゃんがNPCに殺されちゃったりすると、この聖杯戦争どうなっちゃうんですかねぇ?」

  アサシンの目が妖しく光る。
  それ一つならば、意図の分からない質問。
  ただ、その前の問いを合わせれば、裏側に隠された『悪意』は察しきれる質問。
  そんな質問でも、ルーラーの姿勢は変わらない。
  他の参加者と同等のものと扱い、その質問にもちゃんと答える。

「……私は英霊です。NPCの攻撃は通用しません」

  それもまた、当然の回答だった。

「あ、言われてみりゃそっすねwwwwwwwwwwwサーセンwwwwwwwwwサーセンwwwwwwwwwww」

  愉快げに小躍りしながら謝罪の言葉を述べる。
  謝る気などさらさらないのは明白だ。

  そうやってバカ騒ぎをしていたアサシンの喜悦が急にぴたりと止まり、一気に声のトーンが落ちる。

「でも、気をつけといたほうがいいと思いますよぉ? カッツェちゃんは」

  アサシンからの忠告。
  在り得る筈がない現象への警告。
  ルーラーはそれを問い詰めるつもりはなかった。
  アサシンが何を企んでいたとしても、それはもとより実現不可能な作戦だ。
  起こるはずもない事態に気をつける必要もない。

  アサシンが黄色いNOTEを取り出し、姿を消す。
  『気配遮断』。アサシンのクラススキル。
  ぱしゃり、と一回。
  眩い輝きと音に少し驚くが、攻撃ではないようだ。

「それと、最後にもう一つ」

  三度、今度は姿を消したまま、声だけで問いかける。
  上からか、下からか。
  アサシンの声がどこかからルーラーを惑わそうと画策する。

「ルーラーちゃんたちって、実際『公平』なんすか?」

  それは、ルーラーたちの根幹に関わる問いかけ。

「質問の意図が分かりません」

  ルーラーたちは規則に従い行動している。
  そこに一切の私情はない。ない、はずだ。
  誰かを贔屓することも、誰かを蔑視することもない。

  しかしアサシンはこう続けた。

「通達なんて言って実際やったことって一部の参加者の情報晒して炎上狙いとかさあ、それでマジで公平とか言ってんの?
 おかしくない? だって結局、あれこの地区の人不利にしただけでしょ?」

  まだ、分からない。

「……大規模なNPCの殺害がルール違反であることは貴方も知っているはずです。それを咎めるのは」

「そういうこと言ってんじゃなくてええええええええ!!! ……結局ルーラーちゃんたちさあ、気に入んなかっただけっしょ?
 勝手されてイラッときて、通達とか言いながら『あいつ消せよ』ってそれとなーく言っちゃったんでしょ?」

「貴方がどう解釈しようが私の返答は代わりません。彼らはルールを侵した。私たちはそれを咎めた。それだけです」

「ルール破ったなら直接警告に行くだけでいいんじゃないっすかぁ~? なんで皆の前で言うわけ? イジメなの? いくないいくないイジメしてワロスワロスなのぉ?wwwwwwwwwww」

  そこまできて、ようやくルーラーは理解した。
  アサシンは会話をしているのではない。ただ、暴言が吐きたいだけなのだと。
  そこに理屈はない。
  そこに理論はない。
  そこに理由はない。
  ただ、相手をけなしたいだけ。
  相手がどう答えようがアサシンの中ではもう答えは決まっている。
  『ルーラーは不公平な存在だ』と。
  言ってしまえば、相手にするだけ無駄だ。
  ルーラーは当初の目的を達成するために、アサシンの言葉を切り捨てて歩き出す。

「これ以上の会話は不毛ですね」

「あれwwwwwwルーラーちゃんおこなの?wwwwwwwwwwwおこなの、ねぇwwwwwwwwwwwwwwwwww
 今度はミィのことイジメちゃいますん?wwwwwwwwwwww『アサシン、姿を現し土下座で詫びなさい』とか震え声で命令しちゃいます?wwwwwwwwwww
 臨時通達流して『ベルク・カッツェとかいうアサシンにイジめられてムカついたんで場所晒します、ちなみにこれ討伐令です』とか言っちゃいますぅー?wwwwwwwwwwww」

  煽りたて、囃したて、こちらの心に攻撃してくる。
  それが狂ったように笑い続けるアサシンの英霊たる姿なのだろう。
  ただ、そんな彼の言葉でも、ルーラーの心には細波一つ起こすことは出来ない。
  ルーラーは振り返り、彼女を包む喧騒を止めるように静かに告げる。

「言いません。何度も行っているように、私は公平なる裁定者です。私情で令呪を使うことはありません……ただし」

  そこでわざと一度言葉を区切り、アサシンの躍る心を切り捨てるようにこう続ける。

「ただし、貴方が『新都の犯罪』に関与しているのであれば別です」
「は?」
「通達でも言われていましたが、新都の犯罪についても十分に警告対象たりえます。
 もし貴方が一連の事件に関与していると分かった場合、今回のやり取りからルールを守る気がないと判断し再警告なしでペナルティを下します」

  沈黙が続く。
  彼が関与しているという確たる証拠はない。
  言ってしまえばこれもただの警告の一部。
  しかし存外、アサシンには効果があったようで、彼は一度押し黙ると。

「こっわwwwwwww怖すぎて反吐が出るわwwwwwwwwwwwwぺっwwwwwwwwww
 じゃ、ミィ行きますんでwwwwwwwwwwwwwルーラーちゃんも、夜道とか気をつけてwwwwwwwwwwwwwwwwww」

  と、狂ったように笑った後で、捨て台詞を吐いて気配を消した。
  それを確認すると、ルーラーはその場から離れながらポケットの中身を取り出した。

  『それ』を覗き込み、慣れない手つきでボタンを押す。
  新都とは別の、もう一つの事件。それに関わろうとしている人物への返答を行うために。

    †


「先の件の回答です」

  ルーラー、ジャンヌ・ダルクが電話の相手、遠坂凛にそう語りかける。
  先の件、とは昼前に遠坂凛からあった願い出のことだ。
  『B-4地区のキャスターと戦う際に、戦いを見届けてほしい』という要望。
  それに対してルーラーは、返答を求められ、後で連絡するということで答えを先延ばしにしていた。

「残念ながら、私は貴方達の戦闘を見届けることは出来ません。
 サーヴァントの戦いを見守るにしろ、貴方達の傍にいるにしろ、やはりそれは一方の参加者への肩入れとみなされてしまうかもしれませんから」

  笑うアサシンの声が蘇る。
  が、関係ない。これは公平なる立場から、彼に会うよりも前に下していた判断だ。

「ただし、貴方達がキャスターの違反の証拠を持ち帰ったのならば相応の礼をいたします。
 キャスターへの懲罰としての令呪の使用、どちらか一人への令呪一画の譲渡、もしくは別のなにか……聖杯戦争のバランスを著しく崩さない物であれば許可します」

  この時点ではまだ、ルーラーの中ではキャスターは灰色だ。
  黒にいくら近いからといっても、疑わしきだけで罰することは出来ない。

  ただし、証拠が見つかれば違う。
  そうなるとキャスターたちは重大違反者になり、討伐令を下すべき対象となる。
  それを打倒したのであれば相応の礼をする必要がある。
  打倒できないにしても、他者の不正を暴いたのであればそれなりの褒章は送る必要がある。

「それが、私達にできる最大限の心配りです」

  そう言ってルーラーは電話越しに頭を下げた。
  彼女の心にあるのは一つ。
  この時点で事態について彼女が確信を持てていたら、という無念だけ。
  違反者をのさばらせ、それを罰せられず、参加者に無謀な突撃を願うことになるという無念だけ。

  ←――――――→


「ありがとう、『ルーラー』。その言葉が聞けただけで満足よ」
「本当のことを言うと、少しだけ残念だけど。でも、これ以上言うと迷惑をかけるだけだもんね」

  遠坂凛は笑う。
  目の前の敵、目の前の死におびえてもいい年頃だろうに。
  その微笑みは、とても優しく、強さに溢れていた。

{では、これで……この端末は、捨てていただいてもかまいません}

「いえ、持っておくわ。この先必要になるかも……」

  そこまで言いかけて、口をつぐむ。
  勝てるか分からないのに勝って帰った時の予定を立てるなんて慢心でしかない。
  まず全力を持って戦い。
  乾坤一擲に全てを賭け。
  勝ちを奪い取りに行く。

  凛も、隣に控える白野も決して安全ではないのだ。
  防護の陣が敷かれているとはいえ、他のマスター・サーヴァントが襲ってくる可能性だって十分にありえる。

「……持っておくわ。これからの戦いの、お守り代わりにね」

  隣に座る白野が微笑むのが見えた。
  少しだけ、凛の頬が朱に染まる。

{それでは、御武運を祈ります}

  そういうと、ルーラーは電話を切ってしまった。

  ←―――――→


『そういうことだから、最悪証拠を掴んで帰ってくるだけでもいいわ』

「まるで、最初から負けて帰ってくるって思ってるような言い草だな」

  念話に対して嫌味をぶつけるのは、既に高層マンション付近に陣取っていた青のランサー、クー・フーリン。
  紅のランサー、エリザベート・バートリーがその任を遂行できるよう、哨戒をしていたところだった。

『……気を悪くしないで。あくまで、どうしても勝てないと判断したときの、最後の手段だから』

「出来れば最期まで使いたくない切札だ」

  隣で歌い続ける紅のランサーを見る。
  身体を揺らしながら珍妙な歌声を周囲一体に響かせ続けている。
  かれこれ一時間ほどこのままだが、そろそろこのライブも一区切りが付きそうだ。

  周囲には既に人の気配はない。
  感じられるのは、陣地が作られているにしてはささやか過ぎるほどの魔力の反応のみ。

「それよりも、だ。何度も言ってるが、陣からは絶対に出るなよ。
 何がうろついてるのか知らねぇが、なにかが付きまとってるのは確実だ。そいつらに、あえて姿を晒す必要もない」

『分かってるわ。絶対に陣から出たりしない』

「そしてもう一つ。令呪は迷わず使え。俺の解呪がどうとか考えるな。危なくなったら、なんだろうとかまわない、呼べ」

『了解。そんな事態こそ、なければいいけど』

  凛の言葉に、クー・フーリンはあえて何も答えなかった。

  * * *

  無人の高層マンションに乗り込んで十数分。
  二人はようやく、陣地と思わしき場所を見つけた。
  部屋の奥が、『ずれて』いる。
  まるでそこから先が異世界であるかのように、『不自然な空間』になっている。
  そして、強大な魔力によって『壁』が作ってある。
  まさに侵入者を防ぐための『鉄壁の扉』『堅牢な檻』。その奥には得体の知れぬ魔力で満ちている『陣地』。
  この強靭さでは、さしものクー・フーリンの宝具でも、破壊には数を要するだろう。
  それも、十や二十を下らないほどの。
  そんなものに、一発二発打ち込んで、効果があるのか。それを試すか。
  無駄な足掻きだ。魔力を下手に減らすより、決戦に取っておいた方が賢い。

「……まさか、最悪の展開だとはな」

「……じゃあ、入り込むの? アウェイでのライブはアンチが多いから嫌なんだけど」

「それしかなさそうだ」

  ぷりぷりと不満を述べるエリザベートに向かって、少しだけ忠告をする。
  気を張りすぎないのは大事だ。だが気を抜きすぎるのはただの阿呆だ。

「いいか、嬢ちゃん、気を抜くなよ。こっから先は……」

  ルール違反をしてまで溜め込んだ魔力。それによって作られた陣地。
  その環境を例えるなら、それはアウェイなんて生易しいものではなく。

「地獄だと思え」

  ◎ ◎ ◎

  歌が聞こえる。
  聞くに堪えない歌声が。
  遥か遠く、大魔宮の外から。
  歌と呼ぶには激しすぎるそれは、まるで地鳴りのように大魔宮に響く。

「客か」

「みたいだね。人払いをして、陣地破壊する気かな? 無駄なのに、よくやるよ」

  大魔宮、玉座の間。
  玉座に控えるキャスターの問いに、玉座の隣に座って携帯を弄っていた足立透が答える。
  この架空の街にも事件は耐えない。
  起こっている事件の全ては無理でも目立った事件くらいは見ておく必要がある。
  警察としての使命感などではなく、聖杯戦争に関する情報収集のためだ。
  この舞台、案外面白い事件が起こっている。
  廃ビルが崩壊しただとか、ホームレスが集団でファイトクラブを始めただとか、デブが笑いながら暴れ始めただとか。

「すっごいことになってるねぇ。ほら見てよこのデブ」

「……あまりにあからさま過ぎるな」

「そうそう。わざとらしいけど、凄い効果的じゃない、これ」

  暴れるデブの手に刻まれた令呪。携帯の粗悪な画質でもしっかりと確認できる。
  あからさますぎて逆に本人なのではないかとすら思えてくるほどに、『マスターの犯行の瞬間』がしっかりと写された写真。

「……それよりも、『それ』は何処だ。何故『それ』に映像が入ってくる」
「新都側の昼頃の映像だってさ。そういえばキャスターの世界には科学ってなかったんだっけか。便利になってんだよぉ、現代はさぁ。色々と。
 キャスターの重用してる『あくまのめだま』だけど、それに近いもんならそこかしこに出回って皆使ってるし……あ、怒んないでよ? 馬鹿にしてるわけじゃないからさ」

「分かっている。むしろ、『あくまのめだま』では得られぬ情報を補えるのであれば、進んで使っていくべきだろう」
「そうそう、そうこなくっちゃ! さすがキャスター、分かってるねぇ」

  わざとらしくパチンと音を立てて携帯を折りたたむと、隣に控えるキャスターに、今度は足立の方から問いかけた。

「『これ』に関してはまた後で詳しく話すよ。んで、どーすんの? お客様は」
「決まっている……来るというならば、迎え撃つまで。何者だろうとな。それが大魔王だ」
「すごいすごい。それが大魔王! 一度は言ってみたいもんだ」

  へらへらと笑いながら席を立つ。
  歌がやんだ。つまり、今から望まぬ客人による襲撃が始まる。

「じゃ、僕も行くよ。大魔王。なんかあったらよろしくね」
「案ずるな」

  いつもの安物スーツを着て、くたびれたシャツを着て。
  ゆるめにネクタイを巻いて、警察手帳をポケットに。

「さぁて、僕もお仕事開始だ」

  傍に控えていたモンスターが呪文を唱えると、足立の姿がその場から消え去った。

  ←――――――→

  まるで作りかけの王宮を野ざらしにしたような。
  入り口の堅牢さからは考えられないほど粗末な内装。
  それが陣地に一歩踏み込んだランサーたちの感想だった。

「外部からの破壊に備えて防御に全部回してた、ってわけか」

「ヒキコモリって奴でしょ。知ってるわ。見たことあるの」

  打ちっ放しのような壁に、ところどころ岩が露出している床。
  ごろごろとした1mほどの岩石まで転がっていて、景観を損ねることこの上ない。
  もし、実際に大量の魂喰いを行ったとして、ここまでのものしか作れないとしたら。
  よほどキャスターに陣地構成の能力がないのか。
  それとも、よほど広大な建物を同時進行で作り上げているのか。

「どちらにしても……今のうちならなんとかなる、のかしら」

「もしかしたら、別のものに魔力ソースを割いてるのかもしれねぇ。
 例えば、現界自体に魔力を相当消費するとか、城よりも使い魔量産を優先してるとか」

「それにしてもこれはありえないでしょ! なによこの岩! これくらい片付けなさいよ」

  エリザベートが近寄って、岩を槍で叩く。
  鈍い音を立てて岩が転がり、その裏側があらわになる。

「えっ」

「なっ」

  裏側には、顔が付いていた。目つきも歯並びも悪い、醜悪な顔が。
  エリザベートと岩の目が合う。
  岩は大声で笑うと、こう叫んだ。


             『メ・ガ・ン・テ』


  瞬間、岩が爆発四散する。
  その衝撃を受けて別の岩が爆発四散する。その衝撃を受けて別の岩が、その衝撃を受けて別の岩が。
  まるで雪崩のように、波浪のように、爆発はすぐにフロア内に伝染し、二人を中心に全ての岩が爆発四散した。

「なに、歓迎用のサプライズ!? もしかしてここのキャスターって、意外とロマンチスト!?」

「……あの二人を連れてこなくて正解だったな」

  ―――ただし、高位の対魔力持ちである二人には効果がなかったが。

  ◎ ◎ ◎

  爆音。無音。
  爆音。無音。
  爆音。無音。

  何度繰り返されただろうか。
  『足立』がそれを数えるのをやめた時、侵入者は現れた。

  槍を手に、怒りを露にした侵入者。
  とぐろを巻いた竜の角に、うろこに覆われた竜の尻尾。
  そして、まるでアイドルのステージ衣装のような服に身を包んだ、紅のランサー。
  一切傷は負っていないが、怒りで手を震わせている。

「うわっ、無傷じゃん。どうすんのあれ」

「……手に持った槍から見て、『槍兵』のサーヴァントか。
 成程、高い対魔力を誇る相手には、さすがのばくだんいわも形無しか」

「へーへー。じゃ、僕は隠れてるから、なにかあったら呼んでよ」

  よれよれのスーツを着た、マスターらしき男が消える。
  戦いに巻き込まれて間違えて死なないように、というところか。

「……アンタね……あんなよくわからない爆発物を私の行く先々に仕掛けたのは!!」

「……」

「人気絶頂のアイドルに硫酸掛けるってのは聞いたことあるけど、なんなのよあれ!?
 気持ち悪いし、うるさいし、量だけは多いし!!! 嫌がらせにしては度が過ぎてるでしょ!!」

  どうやら傷一つ付かなかったというのにばくだんいわが気に食わなかったらしい。
  なんとも我侭な英霊だ。

「考えておこう」

「そうよ、考えておきなさい! ま、次回の聖杯戦争に向けて、だけどね」

  ランサーが槍を振り回し、体勢を整える。
  その様子をみて、キャスターは一息、ため息をついた。

「……愚かしいな」

  キャスターが呟く。

「どうして人間なぞのためにそこまで戦える」

「なんで……って、そんなの聞かなきゃ分からないの?」

  ランサーの答えに、バーンは再びため息をついた。

「聖杯戦争だから、か? 違う、そんなことは訊ねてはいない……余は知っておるぞ。竜のランサーよ。この世界には呪文はないが……科学というものが発展し、街は様相を変え、技術は発展した。
 しかし……人間は変わらぬ。変わっておらぬのだ」

「人とは、一人では生きていくことすら出来ぬ、弱くて愚かな生き物だ。
 だというのに、他者を喰らい、お互いを喰らい、すべてを自身のものとせんと生を貪り続ける」
「強者を迫害し、弱者同士で結託し、自分達以外の全てを全力で排除しつづけ、その刃は敵だけでなくいずれは仲間すらも突き刺し殺す」

  再びため息をつき、キャスターはこう締めくくった。

「装いが変わり、術が変わり、しかし、世界はこんなにも傲慢なる弱者で満ちている」
「嘆かわしいものだ」

  エリザベートには何故か、その言葉の真意が瞬時に理解できた。
  このサーヴァントは今、心の底から哀れんでいる。
  互いを憎しみ、悪し様にし、妬み、嫉み、侮り、蔑み、罵り、貶しあう人間を。
  そのくせ誰かの庇護無しでは生きていくことすらままならない人間を。

「貴様も、そうだろう」

  ついとキャスターの視線が動き、ランサーを捉える。

「その姿、その『闘気(オーラ)』……龍の血が混じっている。
 その異形の姿ゆえか、その人ならざる力ゆえか、それともその生来の気性ゆえか、人は貴様を拒み、追い立てた。違うか?」

  ランサーの顔が少しだけ歪む。
  彼女の過去を見透かしたような言葉に。彼女の償おうと決めた過去の傷の痛みに。

「貴様の主も、その仲間も人間だ。いずれ人ならぬ身の貴様に畏怖を抱き、こう呼ぶぞ。『バケモノ』と」

  ランサーの槍を持つ手に力が篭る。

「さて……竜のランサーよ。一度だけ問おう」
「人を捨て、余につかぬか」

  キャスターから放たれた言葉。それは勧誘だった。
  侵入者であるランサーをそこそこの強者であり、屈折した生涯を送った『怪物』であると認め。
  配下として使うに相応しいと判断したからの勧誘。

「そうすれば尽きぬ魔力と魔物の加護で、最終決戦の瞬間まで生きる権利をやろう。
 戦いに明け暮れるもよし、主人と睦まじく暮らすもよし。虐げられた生前の代わりに、この地で自由を謳歌してみるといい」

  陣地のことを黙秘する代わりに、陣地の魔力を分け与え、自身のモンスターを貸し与える。
  聞くまでもない、破格の条件を続ける。

「断るというのであれば、余は貴様を殺すしかない」

  そして最後に、そう締めくくる。
  そうすればもはや『死』からは逃れられない、と言うように。

「……凄く魅力的な提案だわ……子ブタと一緒に、最期の時まで愛し合う……
 私とダーリンが人類最期のアダムとイブになるってわけね……!! なにそれ、最高にロマンチックじゃない……!! アンタやっぱり破格のロマンチストね!?」

  言いながら顔を真っ赤にするランサー。
  服装も相俟ってまさに紅のランサーと呼ぶに相応しい。

「でも、だから人を捨てろ、ですって? ……冗談じゃないわ!!」

  そして、提案を斬って捨てる。
  どれだけ魅力的だろうと、どれだけ恵まれた未来だろうと、彼女にはそれを飲まない覚悟があった。

「私はね、決めたのよ。どんなことがあろうと、今度こそ、子ブタ(ダーリン)の力になってあげるってね。
 だから、子ブタが守りたい凛の敵であるあんたは倒す。これはもう、入ってきたときからの決定事項!」

  なによりも、そんなこと、岸波白野が許すはずがない。
  だから、戦う。岸波白野のサーヴァントとして。
  それが彼女がここに居る理由。そうありたいと願っていた夢なのだから。

「それに、この姿は大衆が恐れ、崇め、奉った私の姿。角の先から尻尾の先まで、いっぺんたりとも恥じたことは無いわ。
 家畜どもが私を恐れれば恐れるだけ、私の美しさは増し、私という存在を際立たせる! すなわち、私が美しく在るには家畜が必要不可欠なの!
 それにね、家畜が弱くて愚かで身の程知らずなんて言われるまでもなく分かってる、だからこそ『私』がアイドルとして君臨するんじゃない。
 それが分からないていうんなら、アンタは支配者に向いてないわ。やめたら?」

  エリザベートにとっては自身以外の全ての存在は『愚かで当然の存在』だ。
  だから、食い違う。キャスターの意見とエリザベートの主観は、表面的には類似していても、根本的に食い違う。
  相容れない。水と油、陰と陽、そして―――『人』と『魔』がそうであるように、反発しあう。

「そうじゃなくても、アンタの配下なんてまっぴらごめんだわ! 観客があんな顔つきの岩ばっかりなんて考えただけでも冷めちゃう!」

  最後に本気か冗談か、そうたたきつけて槍を構える。やる気は十分、といったところか。

  もし、エリザベートが白野に出会っていなければ、彼女はキャスターの傍に控えていたかもしれない。
  ある世界で人の愚かさに絶望し、バーンの傍に控えることを良しとした別の竜のように。
  しかし、彼女は変わった。白野と出会い、過ごした事で、劇的に変わっていた。

  だから、立ち向かう。人を否定し続けた大魔王に刃を向ける。

「……そうか、よく分かった」

  キャスターの顔には何も浮かんでいない。
  怒りも、悲しみも、驚きも、感情と呼べるものは何一つ浮かべず、ただつまらなそうな目でエリザベートを眺めている。
  あえて説明するのであれば、何の気なしに横たわっていた屍に話しかけたが返事は返ってこなかった。そんな反応。
  もともと関係ないのだ。エリザベートがどう答えようと、彼には。
  キャスターは、彼一人で聖杯を獲れる力と自信があった。話しかけ、誘ったのはほんの気まぐれにすぎない。
  そしてその気まぐれは、二度とは起こらない。

「余の理想と貴様の理想は、互いがどれだけ歩み寄ろうと決して交わることはないだろう」

  何もなかった空間から突如『杖』が飛び出し、キャスターがそれを握り締めればそれは『槍』へと変わる。
  槍の切っ先に生じたすさまじい魔力の奔流がランサーとキャスターの間に亀裂を生む。
  それは、決して超えることの出来ない『魔』と『人』の間に横たわるクレヴァス。
  そして圧倒的な力量差によって示された逃れようの無い殺意の境界線。

  闘気が渦巻き、風が逆巻き、大気の轟く音が耳朶を打つ。
  そんな幻覚すら感じるほどの威圧感を纏い、キャスターは臨戦態勢をとった。

「かかって来い。せいぜいあがいてみせろ」


              大魔王バーンがあらわれた ▽

   ◎ ◎ ◎


  一合。
  二合。
  三合と。
  槍兵の槍と魔術師の杖が交錯する。

「キャスターのわりにいい武器持ってるじゃない!」

  息一つ切らさずに斬りあいに応じているキャスターに内心舌を巻きながら、ランサーがそう軽口を放つ。
  近接でも戦えるとは聞いていたが、ここまでとは想定外だった。

「キャスターらしさを御所望かね」

  鈍い響きを散らしながら、キャスターがそう答える。

「ならば、少し手業を加えていこうか」

  キャスターの指先に、火が点る。
  彼が深い皺の刻まれた指先で宙をなぞると、まるでシャボン玉のように火は空中に放たれた。

  ぽつんとひとつ。
  空中を漂いゆらゆらと揺れる様はまるで鬼火。
  怪しく移ろい、どこか目指して飛んでいる。
  攻撃というにはあまりに弱弱しく。
  防御というにはあまりに儚い。

  そんな鬼火が、まるで吸い込まれるようにキャスターの斬撃から回避行動を取ったランサーにぶつかり。
  ―――弾ける。

「……っ!?」

  ちっぽけだったはずの火種が極大の火柱へと代わり、ランサーの身体を包み込んだ。
  上級の対魔力を持つランサーの身体に魔術で傷が作られる。
  人間で言えば行動に支障のない、軽度の火傷のような傷。

「それがアンタの、もう一つの宝具ってわけ?」

  槍を振るい、身を焦がしていた火を掻き消す。
  この程度、造作もない。たかが対魔力を上回る程度の魔術だ。
  だが、その程度。怪我のうちにも入らない。白野に舐めてもらえばたちどころに治る。

「火遊びはやめといた方が身のためよ。お爺ちゃん」

「やはりなかなかの対魔力……しかし、余の名誉のために一つ訂正しておこう」

  キャスターが再び指先に火を灯し、二つの槍の前に
  先ほどと同等の炎だ。これも宙に放たれ、他者にぶつかれば、巨大な火柱となり敵を飲み込むだろう。

「今余が放ったこの魔法……『メラ』というが……余の世界では魔術師であれば誰でも使えるであろう初歩的な技だ。
 余が完全な状態であれば魔力をほぼ消費せずに放てる程度の技であり。当然、宝具などではない」

  即ち、別世界の魔術体系における基本魔術。
  ランサーの頬に汗が伝う。
  その言葉が意味する事実は一つ。
  『キャスターは、基本魔術ごときで対魔力Aを誇る自身に傷をつけられるほどの魔術師である』ということ。
  普通ならば笑い捨てる程度のハッタリ。
  しかし、目の前のキャスターには、有無を言わさず信じ込ませるほどのオーラがある。

「そして……」

  す、と短く息を吸い、言葉を区切る。
  そのタメは、優しく、美しく、残酷。
  まるで蝋燭でも吹き消すような軽やかさで。

「このようなことも可能だ」

  キャスターが高速の詠唱にあわせて手を振るう。
  すると空中に、数十、数百に及ぶほどの鬼火が放たれた。
  一様に同じ色、同じ形、そして同じ魔力で作られた、『先ほどの物と同等の鬼火』。
  ランサーの構えた槍の輝きが少しだけ曇る。
  これらが全て―――先ほどの、爆発的な火力を誇る『メラ』だというのか。

  いくら並外れた対魔力を持っているとしても、あの爆発的火力で軽傷で済むとしても、この炎の弾幕をがむしゃらに突き抜けて無傷ではいられない。
  さらに言えば、その奥には先ほどの『光魔の杖』を構えたキャスターが待ち受けている。
  『メラ』によってダメージを受けているところを狙い打たれればひとたまりもない。

  ならば、と。
  エリザベートが床に槍を突き刺し、その上に飛び乗る。
  背後に現れるのは『監獄城チェイテ』。彼女だけが使える、『特別ステージ』が瞬時に出来上がる。

『あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』

  そしてそのまま、『声』を放つ。
  宝具『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』。
  彼女の声は空気を伝わり、揺らし、波を起こし、全てを飲み込む津波と化す。
  衝撃で、全てのメラがその場で炎の柱と化した。

「先ほども思ったが……耳障りな歌だ」

  未だ消えやらぬ炎の向こう。
  姿も見えぬキャスターの、声だけが響く。

  キャスターが、腕を持ち上げ、真正面に向けている。
  枯れ枝のような、骨と皮ばかりの腕。
  まっすぐに突き出し支えることですら精一杯に見える、やせ細った両腕。
  しかしその瞳と、両腕から感じる威圧感。
  言われなくても分かる、あれは―――!!

「宝具の礼だ、受け取れ」

  気づいた時にはもう遅い。
  宝具を発動した直後のランサーは、攻撃に備えられていない。

  光の弾がキャスターの手を離れ、空を駆け。  
  無防備なランサーにぶち当たり、爆裂する。
  一発、二発、三発、四発、五発、六発、まだ、まだ、まだ叩き込まれ。
  爆裂、炸裂、大爆発。
  崩れる大魔宮の壁。
  剥がれ舞い散る床。
  衝撃で槍の上(ステージ)から引き摺り下ろされるランサー。
  まさに一瞬。
  一瞬で訪れた怒涛のような攻撃。
  倒れる寸前ランサーが見たのは破壊された床から巻き上がる砂埃。
  そしてその奥で睨みを効かせる。

              イオラ
「……これが余の、『爆裂呪文』だ」

  『大魔王』の姿。

「それと……」

  大魔王の目は捉えていた。
  大魔王の目たる『悪魔』は、通路の天井から捉えていた。
  影に潜み息を殺す、もう一つの槍の存在を。

  陽動が討たれている隙に肉薄し、本命が決着をつけるという作戦。
  もしもここが陣地の外であれば成功していたかもしれない作戦。
  しかし、キャスターの陣地内にはキャスターの『目』が大量に潜んでいた。
  侵入を企てる二騎のランサーを決して見逃さぬようにと。

  呪文発動の隙を突き飛び込んできたクー・フーリンに対して、エリザベートにしたように『イオラ』を放つ。
  しかし、あたらない。
  まるで川を流れる柳の葉が、岩を避けていくように。
  クー・フーリンは撃ち続けられる『イオラ』の全てを見切り、かわし、距離を詰める。

  クー・フーリンが狙うのは一点、目の前のキャスターの心臓のみ。
  イオラの一発が頬をこすり、背後で爆裂する。 ―――あと3m。
  イオラの一発が足元で爆ぜ、瓦礫を巻き上げる。 ―――あと2m。
  イオラの一発が胴へと迫り、寸前で交わして走る。  ―――あと1m。
  大魔王が一歩後じさり、ランサーがその間に二歩詰める。
  次のイオラが放たれるより早く、踏み込んだ。自身の宝具のレンジ内に。

  宝具を放とうとした瞬間、彼の目の前に遮蔽物が入り込む。
  一瞬、視界が埋まってしまうが問題はない。
  既に槍を突き、宝具の発動条件は揃っている。
  槍が、槍としての摂理を捨て、縦横無尽に駆け回り、敵の心臓を目掛けて放たれる準備が整った。

    ゲイ・ボルグ
「『刺し穿つ死棘の槍』!!!」

  肉を突き破るにぶい感触。
  体液が撒き散らされる音。

  クー・フーリンの放った槍は。

  ―――自身に張り付いていた大きな目玉を貫いた。
  目玉が生きる力を失い、床の染みだけを残して魔力粒子へと帰っていく。

「なっ――――!?」

「成程……今の様子を見るに、的確に急所を穿つ槍、といったところか」

  張り付いた目玉が居なくなって見れば、いつの間にかキャスターは遥か後方に下がっていた。
  それこそ、宝具の射程距離の外のさらに先まで。

「しかし、長距離は狙えないようだな。隠れて使えばそれまでの話であったのに、わざわざ出てきたところから察すると」

  キャスターが口元を歪める。

  エリザベートが『メラ』を撃ち落し、クー・フーリンが飛び出して距離を詰めようとした瞬間、既に『それ』は動き出していた。
  クー・フーリンの動きを受け取り、キャスターの真上にじっと控えていた『あくまのめだま』の一匹が、その身を投じてキャスターとクー・フーリンの間に割り込んだ。
  そして、宝具を放つ瞬間、キャスターの後退を図らせないために彼の眼前に飛び込む。
  宝具の解放を行うであろうサーヴァントの間に割って入るという自殺行為。確固たる意志を宿っている使い魔をして行われたありえない行為。
  しかし、『あくまのめだま』に躊躇はなかった。
  すべては敬愛するキャスターのため。キャスターの持つ最上級の『カリスマ』が、当然のように『あくまのめだま』に身を投じさせたのだ。

  クー・フーリン視界が一瞬遮られたのを確認し、キャスターは迷わず一つの呪文を唱えた。
   トベルーラ
  『飛翔呪文』。キャスターほどの使い手ともなれば、一瞬で間合いを突き放すことが出来る。
  結果として、クー・フーリンの槍はキャスターを捉えられず、悪魔の目玉を殺すのみに至った。

「おい、立てるか!?」

「……痛たたた……やったの!?」

「いや、やってねぇ」

  あれだけの魔術を喰らっても、エリザベートの傷は浅い。
  だが、傷ついている。
  高い対魔力を誇るランサーの身体が、宝具でもなんでもないただの魔術で。
  どれだけの逸話を持っていれば、これほどの魔術が使えるというのか。
  そして、どれだけの魔力を割けばそんな魔術をここまで乱発できるのか。
  この光景だけでも十分に分かる。
  『こいつはサーヴァントの器を越えた大規模な魔力を有している』。

  二つの宝具を、スキルと、基本呪文のみでいなされた。
  そのことが英霊に対して持つ意味は、大きい。

「どうした、隠し玉は尽きたか?」

  二人の顔に焦りが浮かぶ。
  キャスターの宝具があの光り輝く杖だけならまだ戦いようもある。
  しかしもし。
  第二第三の宝具があるとすれば。
  それをこの莫大な魔力で延々と撃ち続けられれば。
  まさにジリ貧だ。

  持久戦に持ち込まれる前に、なんとか勝ちを拾う必要がある。

  この状況で速攻をしかけて勝つなど無茶というほかない。
  しかし、それだけでは窮地は終わらない。
  新たなる窮地が、異次元の方向から二人に襲い掛かる。

  それに真っ先に気づいたのは術者たるクー・フーリンだった。

「……陣が、突破された!?」

「……どうした、予想外のことでも起きたか?」

  キャスターが笑う。
  今までの殺し合いを、まるで児戯に等しいとでも言わんように。
  しかし、ランサーたちにとってはそれどころではない。

「陣が突破……って、それ、ヤバいじゃない!!」

  何の前触れもなく、急に突破された。
  まるで『異なる空間から瞬時に陣の内側に入り込まれた』ように。

  念話を試す。
  しかしなぜかどちらにも通じない。
  令呪を使うような反応もない。
  それがさらに二人を混乱させている。

  クー・フーリンについては凛が使い渋ることはあるかもしれない。
  しかし、岸波白野は聖杯戦争について熟知している。
  『二人で乗り切れる』なんて考えずに、危険が及んだらすぐに二人を呼ぶだろう。

  状況が悪すぎる。
  守るべきマスターたちがまったく予想だにしない方法で襲撃された。
  さらにマスターたちの状況が分からない。
  唯一わかるのは、目の前のキャスターの異常さと、マスターが『まだ』死んでないということだけ。
  もはや一片の猶予もない。


「退くぞ!!」

「ええ!!」

  二人はすぐさま階段を飛び降り、来た道を戻っていった。

  キャスターの笑顔の理由を、少しも考えることはなく。

  飛び降りるように階段を降り。
  疾風のように廊下を突っ切り。
  瞬く間に侵入したフロアまでたどり着く。
  そしてそのまま、飛び込むように入り口をくぐる。

  しかし、出られない。
  マンションの一室に続いていたはずの空間が、『閉じて』いる。

「……んだ、こりゃあ……」

「この、このっ!? な、なんなの!? 壁!?」

  目の前に、壁がある。
  見えないし、霊体化しても通り抜けられない壁が。
  触れるまで決して知覚することは適わない、強大な魔力による障壁が。

『余の大神殿に土足で踏み込み、無謀にも挑んだその蛮勇を評価し、一つ、良いことを教えてやろう』

  どこからともなく、キャスターの声が聞こえてくる。

『余の陣地……大魔王宮殿には一つの逸話がある。それは膨大な魔力によって侵入も撤退も許さぬ、というものだ』

『今はまだ不完全な城だが……魔力炉で生産されている魔力の大部分を障壁用として用いれば、その逸話が再現できる。
 念話が通じない、というのは……そのせいかもしれぬな』

『令呪を用いれば出られるかも知れないが……試してみるか?』

  その声は明らかに笑っていた。
  令呪を用いても逃げられないからか。
  そもそもマスターとの念話が途切れ、令呪の使用が出来ない状態にあると知っているからか。

  二本の槍の矛先が、曇る。
  退路は既に無く。
  活路も菩薩が下ろした蜘蛛の糸ほど脆く細い。

『覚えておけ。これが大魔王に勝負を挑むということだ』

  踏み込んだ瞬間から、分断されていた。
  踏み込むという戦法を選んだ時点で、二人は劣勢に立たされていた。
  ここから巻き返す方法は一つ。
  キャスターを是が非でも討伐し、その上で二人を助けに行くしかない。

「……行けるか」

「当たり前でしょ」

  槍を構えなおし、二人で駆け出す。
  遮る岩石はもう居ない。
  ただひたすらに。再び絶望の中へと駆け込んでいった。

   ◇◇◇◇◇◇

  遠坂邸。
  遠坂凛の部屋。

  小さな音が鳴り響く。
  何度も、何度も鳴り響く。

  凛に渡していた携帯端末の着信音だった。

  ルーラーからの連絡だろうか。
  凛が首をかしげて、電話に出る。

「……もしもし」

{もしもし。先ほどの件で連絡をさせていただきました}

  聞こえてくるのはルーラーの声。

「先ほどの件、って……それはもう話したじゃない」
{……何のことでしょう……――――たしは、今、初―――て電話をかけるので―――が}
「は?」

  耳を疑った。
  凛も同じだ。信じられない、という顔をしている。

「ちょ、ちょっと待って……さっき、電話掛けてきたじゃない!?
 それで、キャスターのことについて話して……」

{キャ―――ターとは―――地区の―――キャス―――です―――}

  空白が何度も走る。まるで電波の届かないところに一瞬だけ移動しているように。

「何、聞こえない!? 何があってるの、ねぇ!!」

{―――ってるの、ねぇ!!}

  天井から、凛の声が聞こえる。
  今、ちょうど電話に向かってかけた声が。
  不審に思って、天井を見つめる。そこには、信じられないことに『スマートフォンが浮いていた』。

「……見ぃ・つけ・た♪」

  突然聞こえてくる第三者の声。
  声の発生源は……部屋の、中。

「やっぱさぁ、思ってたんすよねぇ。ルーラーちゃん絶対贔屓してるって」

  金色の鎖が天井から垂れ下がり、まるで意識が通っているように部屋中をめちゃくちゃに暴れまわる。
  凛がすぐ横においてあったアゾット剣を持ち、鎖に警戒する。

「ひどいと思いませぇん? そういうのって無しっしょ、普通」

  別の場所から伸びた金色の鎖が、アゾット剣を跳ね飛ばし、凛の両手を縛り、吊り上げる。
  鎖が波打ち、凛の体に叩き込まれていく。  

「かwwwwwwwwwwwらwwwwwwwwwのwwwwwwwwwwwww」

  空間にノイズが走る。
  そして、突然の乱入者がその姿を現す。

「はぁーいwwwwwwカッツェさん降臨wwwwwwwwwwwww」

  彼の姿を捉えた瞬間、白野たちの目に映るのは英霊としての存在を示すパラメーター。
  アサシンのサーヴァントが、いきなり部屋の中に現れた。

「やっほーwwwwwwwミィっすよおおwwwwwwwミィ、会いに来たッスwwwwww」

  金色の鎖が波打ち、凛の幼い肢体に傷を刻み付けていく。
  服が裂け、地が飛び散る。凛が悲鳴を上げる。

「ルーラーちゃんがなんかしれっと電話してたけど、そんなんする相手絶対マスターっしょ?wwwwwwwww
 誰かは知んないけどwwwwwwwwwルーラーちゃんが贔屓してる奴っしょ?wwwwwwwwwwwwww」

  ルーラーと別れた後。
  カッツェは当然怒っていた。控えめに言ってブチギレていた。
  だから腹いせにルーラーを付回し、電話の様子を眺めていた。
  そのたどたどしい指付きで押される番号を記憶した。
  その電話の向こうに居る相手こそ『ルーラーのお気に入り』だと決め込んで。

  ルーラーの口から出た『キャスターの討伐』という単語から、B-4に潜伏中だと決め込み。
  宝具の能力で電話から伝わる電子情報を『ルーラーの声』として書き換え。
  電話を掛けながら瞬間移動でB-4地区にまばらに存在する家という家に侵入し、自身と会話する声の主を探し続けた。
  あまりに原始的で、非効率で、下らない方法。他のマスターが耳にすれば自殺行為だと笑う方法。
  だが、カッツェはそれを行った。ひとえに、『ルーラーにおちょくられたのが気に入らなかった』から。
  そして、見つけた。
  自身と電話越しに話す少女を。

「ごめんねぇ、お嬢ちゃん。でもさぁ、恨むならルーラーちゃんにしてねぇwwwwwwwwwwww
 あっはああああああああああwwwwwwwwルーラーちゃあああああんwwwwwwwざまあああああああああああああああああああああwwwwwwwwwwww
 ワラwwwwwワラワラワラwwwwwwwwwwあー楽しwwwww気持てぃいいいいいいいいwwwwwwwwwwwwねもっとwwwwwねぇもっと鳴いてwwwwwwww」

  凛の身体に赤い筋が見る見るうちに増えていく。
  このままではまずい。
  まずい、のに。
  念話でランサーたちの状況を確認しようにも念話が通じない。
  分厚い壁に向かって声を叩きつけているように、声が向こうに届かないし返事も返ってこない。

  なんらかの力によって念話が遮断されている。
  そう判断できた瞬間の行動は、白野自身びっくりするほど早かった。
  今、エリザベートを戻すのは大変危険だろう。
  しかし、それを惜しんで凛が死んでしまっては下も子もない。
  令呪の刻まれた右手に魔力を込め、念じる。

  >令呪を持って命じる!

  ……

  しかし、令呪は光らない。令呪も、主には答えない。
  まるで『何者かが令呪の発動を阻害しているか』のように。

「んーwwwwwww邪魔しちゃいやでぇすwwwwwwwwwwww次はんユゥの番だからぁ、おとなしく待っててwwwwwwwwwwww」

  見れば、アサシンが黄色いノートを翳していた。
  ノートが光り輝いている。念話の妨害、令呪の使用制限、どちらか、あるいはそのどちらも。
  そのノート型の宝具で起こしている、というわけか。

  凛の悲鳴が小さくなっていく。焦りが白野の精神を追い立てる。

  生半可な妨害では意味がない。相手の優位を足元からひっくり返せるほどの妨害が必要だ。
  しかも、『令呪』のように相手にその存在を悟られていない、不意打ちに近い妨害が。

  タネがないわけではない。
  二人分の魔力供給を行う立場としては進んで使えなかったし、一度存在を知られると対策を立てられてしまうため今までは隠してきた。
  だが、今は状況が状況だ。使わざるを得ない。

  身に纏っている礼装に、自身の内に宿る魔力を篭める。
  魔力に反応して、礼装が内に秘めた力を発揮する。

  ―――コードキャスト、発動。

  こちらの聖杯戦争に呼び出されるよりも前、一つ前の聖杯戦争の末電子の海に消えてなくなる寸前に身に着けていた礼装の一つ。
  これに魔力を篭めることによって、魔術の心得のない自分でも特定の電子的魔術(コードキャスト)が発動できる。

  礼装『アトラスの悪魔』。
  それは戦闘中にのみコードキャスト『add_invalid』を発動し、対象に特殊効果を付与できる。
  即ちその効果は―――

「は?」

  凛を鞭打っていた鎖が消え、彼女の身体が地面に投げ出される。
  笑い続けていたアサシンの耳障りな声が、ようやくやんだ。

  ―――即ちその効果は、対象が次に受ける攻撃の無効化。
     同一戦闘中6ターンに一度だけ発動できる、岸波白野の持つ切札の一つ。

  アサシンの顔が分かりやすく固まり、それまで蚊帳の外だった白野の方へと向いた。

「え、なに、今なにしたの? ヘイユー!! なぁぁぁああにしちゃってんのおおおおおおお!?」

  アサシンの声にはもう、先ほどのような愉悦は感じられない。
  穏やかでは在るが怒気が込められているようにも思える。

「ちょっとそれ、ずるくなぁいでぇすかぁ?」

  凛をいたぶっていた尻尾が波打つ。
  興味深げに白野の顔をじろじろと眺め、ねっとりとまとわり付くような声でそう言う。
  凛に向けられていた敵意は、完全に方向を変えていた。
  アサシンの目には、もう刷くのしか写っていない。
  ゆっくりと出口へと向かう凛にも気づかないほどに。
  いや、興味を失ったおもちゃから新しいおもちゃに鞍替えするよう。
  彼は、白野だけに、その狂った笑みを向けていた。

  底知れぬ『悪意』が伝わってくる。

  だが、白野は退かない。
  たとえ相手がサーヴァントだろうと。
  消えて現れ、伸縮自在の武器を持つ勝ち目のない相手だとしても。
  今はただ、ランサーたちや凛を信じて、持ちこたえるしかない―――!

  白野は、凛の落としたアゾット剣を構える。
  そして、いつもそうしてきたように、巨大な災厄に抗う道を選んだ。

  ◎ ◎ ◎

  『令呪が発動しない』。
  普通ならばありえない。
  それを可能にするのは英霊の持つ『宝具』の力に他ならない。
  その答えにたどり着いた凛の行動は早かった。

  白野が気を引いてるうちに、自身が『レンジ』の外まで逃れ、令呪を使ってランサーを呼び戻す。
  そして、白野を救い出す。それしかない。

  痛む身体を引き摺り、走り、家を飛び出してさらに走る。
  がむしゃらに、しゃにむにに、いっぱいいっぱいに、まだ走る。
  そうして走って、走り続けて。
  息を切らせながら自身の令呪に魔力を篭める。

「れ、れい、れいじゅをっ、令呪を持って、命じる!!」

  しどろもどろになりながら、その言葉を口にする。
  令呪は―――問題なく光を放った!

  大丈夫だ、『レンジ』を外れた。
  ほっと一息つきそうになって、首を振る。
  一息つくのは、白野を救ってからだ。
  彼はまだ、家にいる。あのアサシンと一緒にいる彼の方が危険なのだから。

「『ランサー、私の元へ―――」

「あれ、お嬢ちゃん、酷い怪我……なにかあったの?」

  不意にかけられた声。振り向くとそこには、安っぽいスーツを着た男が居た。
  とっさに身構える。この男が、あのアサシンのマスターかもしれないと。

「大丈夫、安心して。僕、こう見えても警察だからさ。ほら、警察手帳。漢字読める?」

  差し出されたのは紛れもない警察手帳。書かれた名前は『足立透』。

  凛は六歳児だ。
  いくら魔術師の家庭に生まれたからといって、六歳が十六歳と同等の思考・判断は出来ない。
  非日常の戦闘に慣れていないし、心構えを整えても想定外に追われてその判断を下せるとは限らない。

  距離を取るため駆け出すべき一瞬に、凛は信じてしまった。
  『警察はいい人』という常識を。

「『あまいいき』」

  影が伸び、真っ赤な口を開き、息を吹きかけてくる。
  息を嗅いだ瞬間、身体が、頭が、全てがどっと重みを増したような感覚に囚われた。
  何が起こったか理解できない。
  かろうじて凛が理解できたのは。

「はいざんねーん」

  自身に警察手帳を見せていた男の、その一言だった。

  倒れ掛かってきた少女を抱き寄せる。
  先ほどまで一生懸命令呪を使おうとしてたが、今はもう夢の中。
  恐ろしいまでの効き目だ。

「へぇ、やっぱ効くもんなんだ。実際、半信半疑だったんだけどさ」

『当然だ』

  キャスターは言った。
  迎撃する、と。
  『迎え、撃つ』と。
  二人が立てた作戦は単純だった。
  もしマスターと一緒に突入して来たなら、キャスターが全力でこれを迎え撃つ。足立は出来る範囲でサポートする。
  もしマスターを防御陣に置いてきてサーヴァントのみで突入してきたなら、防御陣頼みのマスターを足立が撃つ。
  足立はもともと、夜勤明けの今日は非番である。明日の朝まで仕事が入ることはまずない。
  新都周りの警察は忙しいようだが、川を挟んだ向こう側の話。深山町のお巡りさんである足立には到底関係ない話だ。
  当然、彼がキャスターに言った『お仕事』は聖杯戦争のお仕事になる。仕事内容は、サーヴァントのみで挑んできた際の『マスターたちの襲撃と回収』。
  さらに周到に、『投影魔術でランサーたちにマスターが中に居る』と見せることも忘れない。

  足立には、他のマスターに対して優位に立てる術があった。
  自身のペルソナ『マガツイザナギ』。
  単純な戦闘力もさることながら、投影魔術による撹乱や捕縛呪文も使える、彼の心象を投影した存在。
  さらに彼の影に潜む『まおうのかげ』。
  『あまいいき』を使えば見てのとおり、眠らせてさらに楽に優位に立てる。
  だからこそ、この奇襲に絶対の自信があったし、やり遂げられないなど微塵も考えなかった。

「まさに、『迎え入れてから撃つ』ってね。まぁ少し、想定外のことがあったみたいだけど」

  キャスターから状況は聞いていた。
  襲撃したサーヴァントのマスターは二人。一人はこの幼女、そしてもう一人はまだ家の中に居る青年。
  そしてもう一体、監視の届かぬ屋内にどうやら見知らぬサーヴァントが居るらしい。
  しかもかなり好戦的な奴だという話だ。

  そのサーヴァントが青年を殺してくれるならそれでいい。あえて火中の栗を拾いにいく必要は無い。

  ただ、逃げられるのは困る。
  キャスターがランサーを殺しきる前に他の参加者やの下に逃げ込まれて、余計なことを話されると厄介だ。
  だから足立は、巻き込まれる危険を承知で付近まで赴いて、どちらかが出てくるのに備えた。

  そして、案の定逃げ出してきた幼女に偶然を装い接触し、自身の身元を明かすことで油断させた上で、『あまいいき』で眠らせた。
  足立とキャスターの作戦は、乱入者の存在も含めて一枚上を行っていた。

「さーて、お仕事終わり。じゃあ帰るか」

  幼女を背負って送り迎えのキメラの背にまたがる。

  彼女をここでこのまま殺すのは簡単だ。でも、それよりもいい利用方法がある。
  『餌』だ。
  ニンジャのアサシンが即裏切ったのは、拘束力がなかったからだ。
  もし、マスターが間接的でなく直接的に拘束されていれば、言うことを聞かざるを得なくなる。
  たとえ、その先に未来がないとしても、だ。
  足立としては最初から片方は見せしめに殺し、片方はサーヴァントをこき使うための餌として利用する予定だったのだ。
  足立は今回の見知らぬサーヴァントの乱入を殺す手間が省けた、と喜んですらいた。

「英霊がどんだけ強くても、最後はマスター頼み、か。悲しいよねぇ」

  いくらえばりちらしていても、こちらを脅してきても、サーヴァントはマスターなしでは生きていけない。
  どんだけ大層な歴史や逸話を持っていても、サーヴァントはマスターの器に相当する魔力分しか働けない。
  どんな英霊だろうとマスターが死ねば消滅するしかない。(例外は居るが)
  そこをうまく理解して利用できる人間が勝利する。
  それが足立透の考える、この『ゲーム』の勝ちパターンの一つだった。

  ◇ ◇ ◇


  金属音が鳴り響く。
  アサシンには非力なマスターを殺しきる決定打すらないのか。
  それともただ単に甚振ることにしか興味がないのか。
  おそらく後者が大きいのだろうが、あれ以降白野は、小さな傷をどんどん蓄えながら防戦していた。

  肉の切れる音が腿から上がる。また少しだけ傷が増える。
  生傷はいくつも刻まれている。打ち身で骨が軋む音が聞こえる。

「なんでそんな必死んなってミィに挑み続けんのwwwwwwwww
 サーヴァントにマスターが勝てるわけないっしょwwwwwwwwwwwwwwww普通wwwwwwww」

  当然の質問。ここで粘って、白野がこのアサシンに勝てるわけがない。
  このまま防戦一方ならなぶられて笑われて死ぬのが関の山だ。
  しかし、彼は防戦をやめない。
  なぜなら白野は……

  まだ勝てるから
  もう勝てないから
  >まだ戦えるから

  そう、白野は勝とうなんて無謀なことは思っていない。
  しかし、こうやってあの金属の鎖のようなものを弾き落とせる。
  目の前のアサシンの動きを、それだけ止めておくことが出来る。

  あの『遠坂凛』が無為無策で逃げ回るとは思えない。
  きっとなにかアテがある。今の自分に頼れるものはそのアテしかない。
  だからこそ、戦える。彼女を信じればこそ、サーヴァント相手に勝負を続けられる。

「へぇwwwwwwwwwユゥ、なかなか面白いねぇwwwwwユゥのお名前なんてーのwwwwwwwwwww」

  少しでも彼女が策を決行出来る時間を稼ぐために、話を長引かせる必要がある。

  ここはあえて―――

  >フランシスコ・ザビエル
  岸波白野

  その返答を聞いて、アサシンはまた声を上げて笑った。

「wwwwwwwwwwwwザビちゃんwwwwwwwwwwwザビちゃんそんな名前言っちゃうのwwwwwwwww
 もう余裕ないだろうにねぇwwwwwwwwwww必死wwwwwwwいいねぇwwwwwwミィwwwwwwザビちゃん好きかもwwwwwwwww」

  アサシンの動かしていた尻尾が、怒涛のような攻撃が、止まった。

「そんなザビちゃんにミィからクイズwwwwwwwザビちゃあん、心の強い人間の心を折るには、どうすればいいと思いますか?wwwwwwwwwwww」

  アサシンが尻尾を揺らしながら、楽しげに口にする。
  それはきっと、今の白野の状況に対する問いかけ。
  白野は少しだけ息を呑むと、すぐに答えた。

  >心は、折れない。

  月で挑む聖杯戦争と月を穿つ迷宮探索。
  立ちはだかる敵はいつだって強かった。
  立ち向かう敵はいつだって恐ろしかった。
  何度も心を挫かれ、凹まされ、倒れてしまいそうになった。

  でも、諦めて投げ出すことはなかった。

  自分が弱いと分かっているから、自分を守ってくれている『   』のために全力で走り続けられた。
  自分が敗北を認められないほど愚かだから、最後の最後まであがき続けられた。

  いつか巨大な山すら崩すと信じて、ちっぽけな穴を穿ち続けた。
  いつかは大海を枯らすと信じて、柄杓で水を掬い続けた。
  いつかは光が差すと信じて、闇の中を這いずり続けた。
  どんな苦境だろうと。絶望的な状況だろうと。
  その先にあるかどうかすら分からない『何か』を信じて走り続けることが出来た。
  それにすがるしか出来ない弱い人間だから。
  それを心の底から信じられる愚かな人間だから。
  そして、支えてくれる誰かがいたから。

  0に限りなく近い勝率に向かって勝負を挑み、最後まで戦い続けた。

  そんな彼だから、言える。答えられる。他の人間では揺らぐ答えも、いっぺんの曇りもなく信じて口に出来る。

  折れてしまいそうになることもあるかもしれないが、立ち向かう心が少しでも残っているなら。
  立ち向かう心を認めてくれるだれかが居るなら。

  >心は、決して折れはしない。

「wwwwwwwwwwwwwwいいwwwwwwwwwwwそれいいよザビちゃんwwwwwwwwwwwザビちゃんらしくてステキぃwwwwwwwwwwww
 でもでもでもwwwwwwwwwwww折れちゃうんだなぁwwwwwwwwwこれがwwwwwwwwwwww」

「正解はねぇwwwwwwwwwwww『大事なものをぜぇんぶ壊しちゃう』だよぉほぉwwwwwwwwwwwwwwwww
 ほらさwwwwww内側がどれだけ強くても、外側の支えがなくなったら崩れちゃうっしょ?wwwwwwwwww」

  瞬間、アサシンの笑顔が消え去った。

「ところでザビちゃんさぁ……さっきの幼女とずいぶん仲がよかったみたいですねぇ……?」

  アサシンの口が、大きく裂ける。
  まさか、と思った時にはもう遅い。

「じゃあミィ、さっきの幼女と遊んできますんでwwwwwwwwwwwザビちゃん、いい顔まってまぁぁぁっすwwwwwwwwwwwww」

  再び黄色いノートをかざし、奇妙なポーズをとると、そのまま出てきたときと同じように消えてしまった。
  一人残された白野は、生傷まみれの身体を引き摺って歩く。
  焦る心を押して、痛む身体をなお押して。
  立ち止まってはいられない。
  早く、早く凛を助けに行かなければ……

  ◇ ◇ ◇

  高層マンションの一室。
  凛を背負ったまま窓に乗り付けたキメラの背から降りた。

「……生身で空の上って、ファンシーだけど思ってたよりも気分悪いもんだなぁ。寒いし、肩こるし」

  行きは数秒だが帰りは結構時間がかかる。
  というのも、キャスターの配下には『自分の領地に戻ってくる魔法が使えるモンスター』が居ないのだ。
  幹部クラスになると居るらしいが、そこまではまだ生産できない。というか生産できるかどうかすら分からないらしい。
  だからこそ、キャスターは『バシルーラ』と『飛行での帰還』が可能なキメラを一体、あくまのめだま付きで上空に飛ばせていた。
  『お仕事』終了後の足立の回収用と、不意に敵に襲われた際敵を彼方にぶっ飛ばす用として。
  『キメラ』を再び屋外に放ち、さぁ陣地に帰ろうとして。

「はぁい☆」

「なっ!?」

  突然目の前に、紫色のスーツを着た大男が現れた。そして次いでパラメーターを目視した。
  足立の頭によぎるのは当然、『ランサーたちの家を襲っていたサーヴァント』の存在。
  それが追いかけてきたという可能性。

「あーもう、すっげダル……魔力使いすぎたわ……ミィ、死ぬかも……
 ちょっとぉ、やめてもらえますぅ? そういう鳥みたいなの使って逃げるのぉ! ミィ、一生懸命おっかけて疲れちゃったっすよ!! ぷんすこ!!!」

「クッ……『マガツイザナギ』!!!」

  傍に巨体のバケモノが現れる。
  足立透の心に住まう『ペルソナ』。刀を持った『マガツイザナギ』が。
  マガツが捕縛魔術を使う。しかしアサシンは捉えられない。瞬間移動で抜け出す。

「あぁんwwwwwwやめやめやめぇwwwwwwwミィが用があるの、そっちの幼女ちゃんすからwwwwwwwwwww
 戦う気、ないでぇすwwwwwwwww争うのはやめてぇwwwwwwwww」

  やおら剣を振りかぶり、アサシン目掛けて振りぬく。剣の軌道からアサシンは消え、そして足立の傍に現れる。

「あれ、つーかユゥ、もしかして、警告受けてたマスターさんっすかぁ?」

  『まおうのかげ』が立ちはだかり、『ザキ』を唱える。その声はむなしく響き渡った。
  影の応戦むなしく足立の顎に手が回され、あすなろ抱きに抱きとめられる。
  悪寒が走り、鳥肌が立つ。まるで、『心の奥底に潜んでいる悪意を煮詰めた存在』が自身に触れているような感覚に。

  どうする、呼ぶか。
  キャスターを呼ぶか。
  いや、呼ぶ。一大事だ、呼ぶしかない。

「あはぁっ☆ 心配ご無用wwwwwwミィ、ルーラーちゃんたちと違って、違反がどうとか、んなもんマジどーでもいいんでwwwwwwwww」

「へ?」

  アサシンが拘束を解き、足立の後ろから前へと瞬間移動する。
  その顔には、やはり満面の笑みを湛えて。

「それよりも……ねぇマスターさん、その子使ってミィと取引しませぇん?
 マスターさんにもさぁ、悪い話じゃないと思うんですけどぉ……www」

「……」

  足立はただ、黙ってゆっくり頷いた。

  ◇◇◇◇◇◇

  ◎ ◎ ◎

「どうした、マスターを救いに行くのではなかったのか」

  厭味ったらしい台詞。
  念話が使えず、自力脱出も困難。
  しかもなぜかマスターは二人とも令呪を使おうとしない。
  そんな不明瞭な状態に追い込まれてもなお、二人が戦いに挑めたのは。
  『自身が生きている=マスターは無事』という無根拠に等しい理論と。
  『キャスターを倒さなければ脱出は困難』という事実があったから。

  距離を詰められぬよう遠巻きに、既に杖を構えているキャスターが呟く。

「毒々しいほどに紅い槍。急所を穿つ必殺の槍。そして耳に輝くルーン石の耳飾り(ピアス)」
「禍々しい竜の角。捩れ曲がった支配欲。人を操り人を殺す一声」

「ここまで分かれば真名特定もたやすいだろう」

  クー・フーリンの顔が、苦虫を噛み潰したように歪む。
  真名を特定されれば宝具の条件や弱点も露見する。
  この場で倒しきらなければ、後になるたびにジリ貧だ。
  なんとかして、隙を突いて殺しきる必要がある。

「メラやイオラなんていう独特な呪文、魔力によって輝く杖。魔力で閉じ込める城に、そしてその尊大な見た目。
 アンタだってソートーじゃない。何言ってるんだか」

  キャスターが低く笑う。
  お互いに、十分に曝け出した。お互いに、手の内を明かしすぎた。
  ここから先は、一枚でも切札を隠し通せた方が勝つ。

「ただ、もう一つ。余は知っているぞ」
「……それは貴様が油断ならぬ男、ということだ。青のランサー」

  クー・フーリンを指し、大魔王が称える。
  油断ならぬ男、と。ここで殺しておくべき男、と。

「急所を穿つということは、どのような状況であれ、一手で余の命すら狙えるということ」

「あの陣を張ったのも貴様のようだ……これから先、いくつ『手品』が飛び出してくるか分からん」

「故に、ここで終いとしよう」

  キャスターが再び腕を振るわれ、再度空中にばら撒かれる『メラ』の弾幕。
  宝具で迎撃しようとしたエリザベートの動きが止まる。

  キャスターを中心に、圧倒的な魔力が渦巻いている。
  それが示すのは、紛れもない、『一撃で死に至らしめる攻撃』の予兆。
  魔力に火が灯り、轟々と燃え盛り、一つの形を成す。それは不死鳥。
  不死鳥が頭を垂れて傅いている。自身の主たる大魔王に。

「宝具解放だ」
           カイザーフェニックス
「その名も……『優雅なる皇帝の不死鳥』」

  『メラ』をはるかに超える爆炎が。地獄から飛び出してきたような業火が。膨大な『熱』の塊が。
  まるで命を刈り取る不死鳥のように翼を広げて迫ってくる。
  空中に漂う生命(メラ)を啄ばみながら、勢いを増し、火力を上げ、自分達を焼き尽くさんと迫ってくる。

「さらに宝具解放だ。『光魔の杖』『カラミティ・ウォール』」

  『光魔の杖』がキャスターの魔力を吸い上げ、刃を作り上げ光を増す。
  そして、おもむろに地面目掛けて薙ぐと、圧倒的な魔力による壁がランサーたちとキャスターの間に立ちはだかった。
  ただの壁ではない。宝具によって生み出された衝撃波製の壁だ。あたれば当然、痛いではすまない。


「さあ―――」

  『光魔の杖』による衝撃の壁『カラミティ・ウォール』。
  『優雅なる皇帝の不死鳥』による地獄の業火。

  迫り来る攻撃は、もはや死神の鎌なんて甘っちょろいものじゃない。
  『死』という現象。それそのものが壁を作り、二本ぽっちの槍を叩き折りに迫ってきている。

  どうする。
  どちらを防ぐ。
  どちらを受ける。
  どちらを―――

「―――どちらで死ぬか」

「選べ」

  不死鳥の赤。
  白と黒の衝撃。
  迫り来る二つの死。
  逃げ場はない。

「―――『逃げ場はない』? 違ぇだろ」

  しかし。
  二人のランサーの目には、絶望も、狂気もない。
  あるのはまっすぐに敵を見据える戦士としての誇り。

  目の前にどんな壁があろうとも。その壁がどんなに分厚かろうとも。
  その奥に敵が控えているというのならば。

「それを穿つのが、槍だろ」

  クー・フーリンは槍を構える。
  彼は『槍兵(ランサー)』のサーヴァント。
  一番槍とは敵の牙城を突き崩し、戦を始める者のこと。
  眼前に立ちはだかる敵におびえぬ、真に勇敢な者のこと。
  ならば当然、打って出る。
  逃げない。守らない。勝負の土壇場、勝敗の分かれ目において槍が捉えるのは常に『前方の敵』、それのみ。

  打って出て、穿ち、貫く。
  己の『槍兵』としての全てをかけて。

   ゲイ
「『突き穿つ』―――」

  クー・フーリンの槍が輝く。
  彼の魔力を燃焼させながら、さらに、さらに輝く。

  舞い上がる炎を掻き消し。
  衝撃の壁をぶち抜き。
  奥に控える大魔王まで貫かんと。

       ボルグ
「―――『死翔の槍』 !!!」


  ――― 一投。放たれた槍が


        不死鳥の心臓を食い破り。
        衝撃壁を切り裂き。


        キャスターの右肩を抉り取る。


「な、に……!?」

「クソ……予定じゃテメェの心臓も貫くつもりだったんだが……暑くるしくて手元が狂っちまった……」


  大魔王の眼前に広がるのは、およそ信じられぬ光景。
  不死鳥の心臓と、衝撃壁、二つの宝具に穿たれた巨大な穴。
  そこから覗くのは、槍を投げ終えた青いランサー。
  そして、魔女がそうするように、槍に腰掛けた紅いランサー。


「やれ!!! 嬢ちゃん!!!」

「はあああああああああああああああああああ!!!!!」


  そのまま紅いランサーが、超推進力を持ってこじ開けた穴から突撃してくる。
  肩が弾かれ、衝撃でよろけていたキャスターの体勢はまだ整わない。
  二本目の槍が、ついにキャスターの身体に刃を突き立てた。

  キャスターの顔が歪む。

  エリザベートが乱暴に槍を引き抜くと、キャスターは腹部を押さえ、杖を元々そうあるように地に突き、身体を預けた。
  その表情は、先ほどまでの不適なものではなく、苦悶。
  よもやダメージが通るとは、といったような表情。

「まだまだ!!!」

  その様子をみて、追撃にかかるエリザベート。

「ッ、駄目だ!!! 嬢ちゃん、下がれ!!!!」

  だが、クー・フーリンの言葉が、寸でのところでエリザベートの身体を止める。
  その一言が、数cmだけ彼女の首の位置をずらした。
  それが幸いした。

  エリザベートの目の前を、『光魔の杖』の切っ先が通り過ぎる。
  そのまま突き進んでいれば首があったであろう場所を、正確に。
  逃げ切れなかったエリザベートの右の角が、斬りはねられて宙を舞う。

  あまりの衝撃に後ろに倒れこみ、あわてて体勢を立て直すエリザベート。
  しかし、追撃は来ない。キャスターは、一歩も動かずにランサー達のほうににらみを利かせている。

「……やはり、気づいたか。青のランサー」

「アンタも意外と用心深いじゃねぇか」

  エリザベートの居る位置は二人のちょうど真ん中よりややクー・フーリン寄り。
  もし、キャスターが追撃を仕掛けていれば、同時に動くランサーによって距離を詰められ、今度こそ心臓を貫かれていただろう。

「完全に刺さったのに、なんで、そんな……」

  キャスターは鼻を鳴らすと、腹部を覆っていた左腕を取った。

「腹がどうした?」

  腹の傷は……ない。
  お得意の呪文か、それとも回復系のスキルを持っているのか。
  先ほど二人がかりでようやく叩き込んだ致命傷が、既に完治してしまっている。

  エリザベートは歯噛みした。
  傷つけた傍から治されては、倒すも何もあったもんじゃない、と。
  しかし、隣に控えるクー・フーリンは違う。槍を持ちなおした伊達男は、不適に笑っている。

「だが、存外無事ってわけじゃなさそうだ……右肩はどうした、キャスター。治し忘れてるぜ」

  『回復阻害の呪い』。
  身体破壊は修復されてしまったが、クー・フーリンの槍が持つ呪いまでは消し去れなかったらしい。
  ようやく見えた。絶対不当のキャスターの綻び。
  あとは、それを―――

『―――ランサー』

  突然だった。

「……何?」

『―――ランサー、助けて』

  突然、念話が届いた。
  この陣地によって遮られていたはずの念話が届いた。
  声の主は当然、クー・フーリンの主、遠坂凛。

(嬢ちゃん、今何処にいる!? 坊主はどうした!?)

『―――分からない―――暗い、気持ち悪いの―――』

  囚われている。マスターが、今、どこか暗いところに。
  そしてそこは、『念話が通じる』。
  そこまで分かれば、十分だ。

「……嬢ちゃん、すまねぇ、キャスターの相手、頼んだ」

「無茶言うわね。でも、まあいいわ。ただし、さっさと帰ってきなさいよ」

  右腕が先ほどのようには使えない今のキャスター相手になら、あの不死鳥の宝具さえ撃たせなければ戦える。
  クー・フーリンが帰ってくるまでは凌げる。
  そう含ませて、エリザベートはふわりと微笑んだ。
  今からまだ戦いを残しているとは思えないほど、やわらかい笑顔。

  そしてエリザベートは、そのままキャスターの方へと走っていった。
  勝てぬと分からぬ戦いを、誰かのように挑むために。

「ありがとよ、嬢ちゃん」

  その背を見送り、主に告げる。  

(呼べ)

  告げる。

(その右手に力を込めて、俺を呼べ)

  告げる。

(俺はお前の槍。お前の英霊だ。この槍の届く範囲なら、お前を救ってみせる。
 暗いのが嫌っていうなら太陽までの道だって切り開いてやる。だから―――)

  己が矜持を告げる。
  槍に乗せて告げる。
  主を守るための槍。
  それを振るうための呪文は。

「俺を呼べぇ、凛!!」


          ―――令呪を持って命じる―――


       ―――私を助けに来て、ランサー!!!―――

   ◇◎◇◎◇◎

「飛んで火にいる夏の虫とはこのことだム~~~ン」

  突然現れた、全身青で包まれた男。手には槍。
  ドラムーンのゴロアは瞬時に理解した。これがキャスターの覇道を妨げる他のサーヴァントなのだと。
  そうと分かればやることは一つ。

   ベタン
「『重圧呪文』!!!」

  男の居る場所にのみ、超重力で圧が駆けられる。それはかの勇者ですら膝を折り、醜く這い蹲るしかなかったゴロアの奥の手。
  しかし、男は倒れない。それどころかまるでなにもないように歩み寄ってくる。

「な、なんで効かないんだム~ン!? このワシの、勇者さえ沈めた、ベタンが……」

「うるせぇ」

「ム゙ン゙!?」

  うるさい生き物を槍の一撃で刺し殺す。
  目標は、目と鼻の先に居る、囚われの姫君。

「よう、助けに来たぜ、マスター」

「ランサー!!!」

「うわっ、マジで来ちゃった!?」

  凛を羽交い絞めにしている男のその後ろには、煌々と光を放つ魔力の集合体。
  それこそが、この強大な陣地とキャスターの膨大な魔力を支える魔力炉。
  おそらくここは、この陣地の中枢部。
  そしてあの男は、凛を魔力炉の新たな糧にしようとしてここまで連れ込んだ。
  そして、引き離された凛とクー・フーリンをわざわざ同じ場所に戻してしまった。

  凛が魔力障壁の内側に取り込まれたことで、念話の使用が出来るようになった。
  墓穴を掘ったとはこのことだ。

「……成程どうりで、撃っても撃っても減らねぇわけだ」

  煌々と輝く多角形の魔力炉は。
  驚くほどに巨大。
  呆れるほどに膨大。
  一人二人の魂喰い程度では説明が付かない、違反の動かぬ証拠。

「何人殺してこんなもん作り上げた? こりゃあおいたが過ぎるぜ、兄ちゃん」

「ま、まぁ待ってよ。話し合おうじゃん! ほら、こっちには人質も居るんだよぉ?
 下手に手を出すとさ、危ないと思わない? 僕、ピストル持ってんだよ? これ分かる? 一発でこの子、死んじゃうくらい強い武器なんだって!」

  男―――足立透が銃を見せ付ける。
  既に宝具のレンジ内ではあるが、もし槍を構えればすぐに引き金を引くだろう。
  クー・フーリンは黙って、槍を地面に突き刺した。

「へぇ、物分りいいじゃん。そういうの、嫌いじゃ―――」

  否、槍を地面に向かって『放った』。

  それが起点。
  槍を放ったという原因。
  原因は結果を呼ぶ。
  この場合であれば、地面に突き刺さるという結果を。

  しかし、この瞬間は違う。
  ランサーの宝具によって、その槍のみは、世界の常識から大きく外れ、自身の存在を変容させる。

  原因により結果が生まれるのではなく。
  まずそこに結果が在り、そして原因がそれに続く。
  すなわち―――因果が、逆転する。

    ゲイ・ボルグ
「『刺し穿つ死棘の槍』」


  槍がその穂先を変える。
  足立が盾として抱きかかえていた凛を避け。
  床を弾き、壁を弾み、空を切り裂き。
  引き金を引く間も与えず、無防備な足立の背後から違わず心臓を貫いた。

「―――は……そ、んな……」

  不意打ちに対処できずに固まった刹那を青のランサーは見逃さない。
  そして一気に彼の懐に踏み込み、ピストルを構えていた右腕を斬り捨てる。
  足立は後ろ向きにどうっと倒れ、それきり動かなくなった。

「地獄で言ってろ、クソ野郎」

  地面に投げ出された凛を抱き上げ、その姿を見る。
  涙に塗れて酷い顔だが、それ以外には特に外傷はないらしい。

「悪いな、遅れた」

「ううん、ありがとう、ランサー。本当に、ありがとう」

  労わりはしない。凛よりも自身の方が傷だらけだ。
  身体が痛む。魔力が足りない。頭痛がする。地下に来てから頭にずっと、脳内にノイズが走っているような感覚に囚われている。
  できることならさっさと帰って休んでしまいたい。
  ただ、ここで全てが終わったと満足して眠ってしまうのは片手落ちもいいところだ。

「それじゃあ、最後の大仕事だ」

  ランサーが再び槍を構える。
  目の前に聳えるのは、巨大なこの陣地の『心臓部(コア)』たる魔力炉。
  数十人、ともすれば数百人が、この魔力炉の犠牲となった。
  その悪しき行為の末に成り立つ城に、今、終止符を『撃』つ。

「この陣地に、『主人亡き後も魔力で閉じ込めたまま殺す』なんて逸話があったら困るんだ。
 それに、嬢ちゃんのためにも……違反の証拠、持って帰んなきゃな!」

「いいの、もういいのランサー! 私達、勝ったじゃない!!」

「貰えるもんは貰っとかなきゃ、十年後、『あの時アンタのせいで損した』なんて言われたらたまったもんじゃない」

  ランサーの脳裏に浮かぶのは、今より立派になった遠坂凛の姿。
  この闘争を経て彼女も、少しは『彼女』に近づけるかもしれない。
  あの凛に近づいた凛を思い浮かべ、少しだけ苦々しく笑しながら、槍を持ち上げ全力で投擲する。

   ゲイ・ボルグ
「『突き穿つ死翔の槍』!!!」

  槍が唸りをあげて魔力炉に突き刺さる。
  轟音が地下空間に響き渡る。まるで、この陣地の放つ『悲鳴』のように。
  魔力炉に皹が刻み込まれ、内に溜まっていた魔力を零しだす。まるで滂沱の『涙』のように。

  ただ、込める魔力が足りなかったらしい。
  槍は魔力炉に突き刺さったが、貫くまでは行かなかった。

  思えば、宝具を撃ちすぎた。
  平常時ですら六発で撃ち止めなのに、よくもまぁここまで撃ち続けられたものだ。
  もしかしたらこの陣地の攻略中、気づかぬうちに魔力が回復していたのかもしれない。  
  だが、それもここで撃ちきった。
  もしこのまま魔力を回復できなければ、現界することもままならず、そのまま消えるだけだろう。

「ランサー!! 待ってて、すぐに魔力をあげるから!!!」

「ああ、頼むぜ……見てのとおり、からっけつだ」

  力なく笑いかける。
  だが、なんにせよ、生き延びた。
  これでまた戦える。
  次の戦場へ向かえる。
  次はあのニンジャのアサシンだ。
  そしてその次は別のサーヴァント。
  誰も居ないなら仕方ない、あのライダーに対する対策を練ろう。
  あまりの心地よさに、心ごと手放してしまいそうになる。

  二人の唇と唇が触れ、離れる。















  しかし、魔力は供給されない。

「あれあれ、不思議そうな顔してまァすねぇ……」

  『遠坂凛』が微笑む。
  平常の彼女からは考えられないほど、醜く、浅ましく、微笑む。

「なんで不思議かなぁ? あ、そっか、普通回復するもんね。魔力」

「はーい、それじゃあここでクイズです! なんで魔力が回復しないんでしょおおおおおかっ! 三択でドン!!」

「一番、私、遠坂凛は既に死んでしまったあなたの見ている幻だから」

  そんなはずはない。
  ランサーはまだ生きている。崩壊を進める身体が何よりの証拠だ。
  しかし、ならばキスで魔力が回復するはずだ。何故魔力が回復しない。

「二番、私、遠坂凛が三画目の令呪を用いてサーヴァントとの契約を一方的に破棄したから」

  それもありえない。
  令呪を使われた反応はない。
  それに、『凛』の腕には確かに令呪が残っている。

  ―――二画の令呪が。

「……お前……いや、テメェ……なん……」

「そして、三番……私、遠坂凛はニセモノであり、そもそも本物の遠坂凛が死んだことで、ユゥの英霊としての顕現の権限が切れたから」


  魔力炉に突き刺さった槍が、炉の壁の崩壊に巻き込まれて地面に落ちる。
  崩れ落ちた壁の向こう側。
  そこには、あふれ出さんばかりの莫大な魔力と。
  新たに魔力を生み出す炉となるはずだった少女の姿があった。


「なんで、お前……そこに……」


  ランサーの槍は、その逸話に違わず心臓を貫いた。
  あくまのめだまの心臓を貫いた。
  『優雅なる皇帝の不死鳥』の心臓を貫いた。
  『足立透』の心臓を貫いた。
  この大魔宮の心臓部、魔力炉を貫いた。
  ―――そして、同時に魔力炉が取り込みかけていた遠坂凛の心臓を貫いた。

  左胸の大部分を失った少女の目に、もう生気は宿っていない。
  ただ、一筋の涙が頬を伝うだけ。

  頭の中に走っていたノイズが消え、声が聞こえてくる。
  本物の遠坂凛の、消えかけている命を燃やした、最後の声が。

『ごめ……ね……ンサ……』

「……よせよ……そんなの、嬢ちゃんらしく―――」

  命が消えた。守りたかった者の、守ると誓った者の。
  せめてもの餞に、あの偽者の凛を引きずり出し、心臓を……

「あーらら、こんなに壊しちゃってぇ。キャスター怒るぞー」

「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

  そんなランサーが最後に見たのは、なぜか階段を下りてきた、殺したはずの足立透の姿と。
  醜い愉悦をいっぱいに湛えた『凛のふりをした何者か』の笑顔だった。






【遠坂凛 死亡】
【ランサー(クー・フーリン) 消滅】

  ― ― ― →

  凛と繋がっていた魔力パスが途切れた。

  身体を奮い立たせていた力の全てが、重力にしたがって地面へと流れ落ちてしまったように。
  岸波白野は、力なく膝を着いた。

『―――子ブタ、子ブタ!? 聞こえる!?』

  ようやく、届いた。
  陣地の中に入ったランサーの声が。
  しかし、遅い。
  あまりにも、遅すぎる。

『よかった、魔力障壁が薄くなったみたいね』

  どんな状況だ、と問う。

『……私も、これ以上は限界よ。このままじゃ、角じゃなくて首を切り落とされちゃうわ。
 凛は? 令呪で呼ばれて助けに行ったんだけど、どうなったの? 子ブタなら分かるわよね?』

  ……
  >遠坂凛が、死んだ。

『……っ……』

  念話の先で、ランサーが息を呑む。
  彼女も凛にはそれなりに好意的だった。だから、なおさら、思うところは一入あるのだろう。
  白野は、右腕に魔力を込めた。

  >令呪を持って命じる。

  令呪が輝き、サーヴァントとの繋がりを示す。
  遮っていた『何者か』が消えた。あまりにも遅すぎる令呪の輝き。
  その輝きに向かって、救えなかった無力さを乗せながら、吐き捨てるように。

  >帰ってこい、ランサー。

  これ以上陣地に留まらせ続ければ、いずれランサーもキャスターの餌食になるだろう。
  撤退するしかない。凛たちの敵も討てずに、撤退するしか。
  悔しい。言葉が出ない。

  空間が歪み少女が帰ってくる。
  死地から戻った少女は、目も当てられない状態だった。
  衣服のあちこちがやぶれ、焼け。
  特徴的な右の角は切り落とされ。
  顔には苦痛の表情を浮かべ。
  数時間前の彼女とは、大違いだった。

  自分は、そんな彼女を、労うように、謝るように、あるいは失ってしまった物を埋めようとするように。
  ちっぽけな彼女の身体を強く抱きしめ―――


               バシルーラ
             『強制転移呪文』


「子ブタ!?―――」

  ―――抱きしめることも、適わなかった。

  突風が吹き荒れ、ランサーの身体を巻き上げる。
  風に煽られ、嘘のように空へと吸い上げられていくランサー。
  彼女の手をとろうと、必死でもがき、手を伸ばす。
  しかし、触れ合おうとした指先は決して交わることはなく、ランサーはそのまま、空の彼方へと消えていった。

  なにがあったんだ。
  原因を探して周囲を見回せば、すぐに『それ』は見つかった。
  ハゲタカの顔と翼に蛇のような身体をした奇妙なモンスターがこちらを見つめていた。

  ハゲタカ顔の生物―――『キメラ』が、ぐげげと喉から搾り出すような声で笑う。
  そして翼を広げて上空へと舞い上がり、くるり、くるりと輪を描いて飛ぶ。
  それはまるで、死にかけの人間が死ぬのを今か今かと待ち続けているハゲタカそのもの。

  そうか、あれが、ランサーをどこか遠くへ飛ばしてしまったのだ。
  もしランサーを呼び戻してもすぐにあれが降りてきて再び遠くへ飛ばすだろう。
  あれがきっと、キャスターの生成したというモンスター。

  つまり、キャスターも健在だ。

  遠坂凛は死んだ。
  クー・フーリンも死んだ。
  エリザベート・バートリーは満身創痍のまま飛ばされ。
  残ったのは、無力な自分ひとり。

  失ってしまった全てが、あまりに大きく、あまりに重い。

  これが、あの『カッツェ』という男の言っていた『大切なものを奪う』ということだろうか。
  同盟を組んだ相手の死、なにも出来ない無力感。
  最後の最後、立て直そうと誓った傍からそれを挫くような追撃は、言葉も出なかった。

  さらに悪いことにキャスターは健在。どころか一体、『カッツェ』という予想だにしない敵も増えた。


  だが、立ち止まらない。決して立ち止まったりしない。


  この地にはまだ、エリザベート・バートリーが居る。
  自身を信じて戦ってくれた少女が、英霊が、パートナーが居る。

  凛の形見であるアゾット剣を強く握り締め歩き出す。
  まずはあのハゲタカをなんとか倒し。
  その後にランサーと合流し。
  そして、陣地内に健在のキャスターと、『カッツェ』と名乗るサーヴァントを倒す。
  それが今の自分に出来る精一杯。

  日が暮れる。
  全てが闇に染まる。未曾有の恐怖で満たされる。
  参加者達が活発に動き出すとすれば、これからだ。
  命はさらに危険に晒されてしまうかもしれない。


  しかし、立ち止まらない。立ち止まれない。


  立ち止まれば、全てが無に返る。
  遠坂凛の死を。
  クー・フーリンの死を。
  無駄にするようなことを、してはいけない。

  誰にも聞こえないほど小さな声で。
  誰にも当てずに。誰かに当てるというならば、自分に当てて。
  もう一度だけ、その覚悟を示した。

  それでも、足掻き続けてみせる、と。

【B-4/遠坂邸付近/一日目・夕方】

【岸波白野@Fate/EXTRA CCC】
[状態]:身体の至るところに打撲・切り傷、疲労(中)、魔力消費(中)、強い決意
[令呪]:残り二画
[装備]:アゾット剣、アトラスの悪魔
[道具]:携帯端末機
[所持金] 普通の学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。
0.――――――
1.遠坂凛の死に対する憤りと悲しみ。
2.凛の代わりにキャスター(大魔王バーン)とアサシン(ベルク・カッツェ)を打倒する。
3.エリザベートと合流したいが……
4.狙撃とライダー(鏡子)を警戒。
5.聖杯戦争を見極める。
6.自分は、あのアーチャーを知っている───?
[備考]
※エリザベートとある程度までいたしました。その事に罪悪感に似た感情を懐いています。
※礼装『アトラスの悪魔』を装備しています。他の礼装があるのかは不明です。
※クー・フーリン、ジャンヌ・ダルク、ベルク・カッツェのパラメーターを確認済み。クー・フーリンの宝具、スキルを確認済み。
 カッツェの「カッツェという名前」「金属の鎖(尻尾)」「瞬間移動」「黄色いNOTE」を確認しました。
※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。
※アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」、およびランサーから聞いたアーチャーの特徴に、どこか既視感を感じています。
 しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。
※遠坂凛との魔力パスが絶たれました。本人も気づいています。
※キメラを確認しました。また、キメラの狙いにも気づいています。
※岸波白野の上空にあくまのめだまを身体につけたキメラが飛んでいます。
 エリザベートと出会った瞬間にバシルーラを狙ってきます。が、一般モンスターなので先攻を取れれば呪文発動前に殺せます。




【???/???/一日目 夕方】

【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】
[状態]:角一本欠損(魔力回復で復元可能)、満身創痍、魔力消費(大)
[装備]:監獄城チェイテ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。
0.(バシルーラで転移中、行先不明)
1.――――――
[備考]
※岸波白野とある程度までいたしました。
※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。
※カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。彼女の手料理に何か変化がある……かもしれません。
※キャスター(大魔王バーン)のメラ、イオラ、宝具「光魔の杖(カラミティ・ウォール)(カラミティ・エンド)」「優雅なる皇帝の不死鳥」を確認しました。
 また、ばくだんいわ、大魔宮の魔力障壁を確認しました。

  啓示のスキルが語りかける。

  ―――今、参加者が一組脱落した。
  遠坂凛。そしてそのサーヴァント、ランサーのクー・フーリン。

「……そうですか」

  彼女らは、キャスターに挑み、倒れた。
  ただ、参加者が一組脱落した。
  それだけだ。いや、裁定者にとっては全てが『それだけ』でなければならない。

  今後も恙ない進行が出来るように、残った参加者のために動く。
  B-4地区のキャスターへの対応を考え直す必要がある。
  やはり、自身で赴いて現場を押さえるべきだろうか。
  同じく裁定者たるカレンに再び聞いてみる必要があるだろう。
  遠坂凛たちの死亡という新たな状態も含めて。

  そしてもう一つ。
  出会ってしまったアサシンのことを知る必要がある。
  ベルク・カッツェ。人の心に巣食う者。悪意の体現者。
  能力は、他人を不幸に陥れる事象ほぼ全て。

  彼は確かに、テレビを見ながらこう言った。『ジナコさん』と。
  アサシンは知っている。あの女性がマスター『ジナコ=カリギリ』だと知っている。
  出会った事がある。断言できるのはここまで。

  しかし、彼の能力ならば。
  『ジナコ=カリギリに変装して、街を襲撃する』くらいわけない。

  あの時、口から出たのはここまで考えた上でのハッタリ。
  しかし、もしも彼が本当にそうだとしたら。

  今回、警告は行った。次に彼がなにかをしたときには……

  歩む足を止め、空を見上げる。
  夜の迫る空。既に暗み始めた空の色は、赤と黒。
  奇しくも、遠坂凛の身に纏っていた服と同じ色。

  ジャンヌはその空を眺め……胸の前で手を組み。瞼を伏せる。

  ただ、今、この瞬間だけは。
  『裁定者』ではなく、彼女と関わった一人の『人』として。
  神の御許に向かうであろう少女に、祈りを捧げる。


「遠坂凛。貴女の魂に、安らぎの在らん事を」

【???/???/1日目 午前】
【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:マーボーの残光
[装備]:旗
[道具]:?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1.少しだけ、凛に黙祷。
2.キャスター(大魔王バーン)に対してカレンと話し合う必要が……
3.新都で問題を起こしたのはアサシン(ベルク・カッツェ)では?
4.???
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。
※脱落者が出ると「啓示」スキルによってそれを察知できます

   ◇◎◇◎◇◎

「メヘヘヘヘヘヘwwwwwwwwwwwwwwwメッシウマァァァアアアアアwwwwwwwwwwwww」

  天を仰ぎ、高々と。
  アサシンが勝ち鬨の代わりに笑い声をあげる。  

「ねぇ見た?wwwwwwwwwねぇ見た見たぁ~?wwwwwwwwwwww
 すっげいい表情wwwwwww『えっ、俺死ぬん?』って顔してオワタあああああああwwwwwwwww」

「いやー、しかし、物の見事にハマったもんだ。あれ、もし投影魔術とかだったら危なかったのかな」

  既に主なき槍が消えるのを確認してから、足立が呟く。
  殺された足立は『マネマネ』がモシャスで化けていたものだ。
  キャスターから念話で『確実に急所を穿つ槍を持つ』と聞いていた。
  もし投影魔術でその宝具を使われれば、幻影に過ぎない『足立』に槍は突き刺さらず、もしかしたら隠れている足立自身に刺さるかもしれない。
  だから、念には念を入れてマネマネに行かせた。
  なかなかの名演だった。きっとあのマネマネは、死ぬ瞬間まで自分が『足立透』であることを疑いもしなかっただろう。
  だからこそ、『目の前の男』が誘拐犯だとあのサーヴァント相手に騙しとおせ、実際に死んだ。

「ワラワラワラワラwwwwwwリア充大爆死wwwwwwwwwちょっれwwwwwwwwぷげらwwwwwwww
 ザビちゃぁんwwwwwwwwwwwww心ぽきぽきwwwwwwwwwwwどんな顔してるんかなぁwwwwwwwwww
 あん時令呪使えてたら助けられてたのにねぇwwwwww令呪の発動ミィが消したったぁああああああwwwwwwwwついでに凛たんの必死の念話も消したったああああああああwwwwwwwwいい顔してたっすねぇwww槍の兄貴wwwwwwww」

「あー……なんか楽しそうなとこ悪いけどさ」

「あ、足立っちゃぁんwwwwwwww手伝い乙っすーwwwwwwwww
 そだ、足立っちゃん、ミィ、この陣地に居るキャスターさんに会いたいんですけどいっすかねぇwwwwwwねぇねぇねぇwwwwwwww」

  『カッツェ(と名乗る英霊)に足立が眠らせた幼児とキスをさせること』と『幼児をサーヴァントの前で殺すこと』。
  代償は『ランサーが迫った際の迎撃』と『もっと面白いことへの協力』。
  断ればその場で足立と敵対する。それが『カッツェ』の提案した取引。

  一考の余地もない。
  『カッツェ』がここに居るということは、男の方のマスターが死んでいるとは限らない。
  餌にする予定の幼女が生きている。つまり、ランサーは二体とも健在かもしれない。
  敵を一騎増やして帰ったりしたらキャスターは(倒されることはないにしても)確実に機嫌が悪くなる。
  足立は首を縦に振るしかなかった。

  しかし、なかなかに。なんとも。
  見覚えのある能力を持っている。というのが足立の彼に対する評価だった。

(……うっわ、たぶんこいつだ。新都の犯人……)

  意図せず犯人目撃。

(でもまぁ、あのデブがどうなろうと僕には関係ないしいいか)

  そして当然の職務放棄。
  穏便に済みそうなことを一悶着を起こしてまで事件を解決しよう!なんてクサい正義感は持ち合わせていない。
  それよりも目の前の問題だ。壊れた魔力炉、不可解な侵入者、そして勝手な同盟。
  あの以外と気難しいキャスターにどう説明するべきかと、念話を試みる。

(あー、キャスター。怒んないでほしいんだけどさ)

『全て見ていた。余の下まで来ることを許す』

  意外にも、二つ返事で許可が下りた。
  あまりの速さに拍子抜けしてしまう、とともに追い払ってくれたらよかったのにとため息をつく。

(正直、こいつと一緒に居んの嫌なんだよなぁ)

  足立は心の内でだけ悪態をつき、アサシンを見やる。
  アサシンはまだ笑っていた。よほど先ほどの光景が面白かったのか、はたまた笑わなければ生きていけないのか。
  どちらでもいいが静かにしてほしいと思いながら、声をかけた。

「あー、なんか、キャスターも会いたいってさ。案内するよ」

「wwwwwwwwwwww」

  ◇◎◇◎◇◎

「……貴様は」

「はぁーいwwwwwwwwwwwwミィはアサシンのカッツェさんっすよーwwwwwwwwwww
 にゃっwwwwwwwwにゃにゃにゃっwwwwwwにゃあんぱっすーwwwwwwwwwww」

  高々と右手を挙げ、意味の分からない言葉を放つ。

「……にゃん、ぱす?」

  思わずオウム返しする足立。
  文脈から、なんとなく挨拶ということだけは理解できた、が、そんな挨拶を使う人を見たことどころか存在すると聞いたことすらない。

「ほら、お爺ちゃんwwwwwwww一緒にwwwwwwwwwwwにゃんぱすーwwwwwww」

  アサシンがいつもの笑顔でそう煽ると、キャスターは静かに右手を上げ。

「にゃんぱす」

  そう挨拶を返した。
  見た目の壮大さと間の抜けた言葉の響きのシュールさに思わずずっこけてしまう足立。
  火がついたように笑い転げるアサシン。

「……そりゃあさ、『メラ』とか『モシャス』とか『マネマネ』とかもアホっぽい響きだけど……うーん、それ流石にどうなのさ」

「いつまでも無為なやり取りを続けるより、ましだろう」

  アサシンが会話をする気がないのは足立にも分かっていたことだった。
  自分の聞きたいことだけを聞き、こちらの言葉には答えない。それをキャスターも見抜いたのだろう。
  ならば一度相手の土俵に立って注意をひきつける。

(成程、理に適ってる……のか?)

  足立には分からなかった。

「wwwwwwwwwwwwノリいいっすねwwwwwwwんな見た目してるワ・リ・にwwwwwwwwwwwwww
 カッツェさん、お爺ちゃん、好きぃぃーーーwwwwwwwミィなぁんでも答えちゃうっすよぉぉおおおwwwwww」

  しかし、キャスターの読みどおりアサシンは(表面上は)心を開いたようだ。
  ようやく、話が進みだす。キャスターは真っ先に、本題に切り込んだ。

「何故こちら側についた?」
「べっつに~、意味なんていります~? ちっぽけで愚かな人間ちゃんたちがいい顔してるの見るとめっちゃメシウマですやーんwwwwwwwww」

  やーん、やーん、やーんと自分でエコーを付け、また笑う。
  そのふざけきった様子にキャスターはまた少しだけ眉をひそめた。

「あれ? 今の答えダメっすかー? じゃあこういうことにしときましょうね。『ミィとしては、お爺ちゃんに生き残ってもらってた方がうれしかったから』wwwwwwwwwwwどっすかwwwwwwww」
「へえ」
「……ほう」

  それは足立にとってもキャスターにとっても予想外の回答だった。
  アサシンは笑い声を抑えて続ける。

「んふ……だってさあ? ルーラーちゃんがお爺ちゃんに対して警告してるってことはぁ、お爺ちゃんが生きてた方がルーラーちゃん困っちゃうんでしょ?
 ここだけの話なんですけどぉ、ミィさぁ……ルーラーちゃん、大ッ嫌いなんすよねぇ!!!!!!」

  ルーラーを煽るためにルーラーに暴言を吐き散らし。
  ルーラーを煽るために岸波白野と遠坂凛を襲撃し。
  ルーラーを煽るためにキャスターに付く。
  ここまでの行動は、全て『ルーラーから煽りかえされたウサ晴らし』と『顔真っ赤涙目パーティの準備』に過ぎない。

「だったらミィ、だぁんぜんっ、お爺ちゃん派っすわwwwwwwwwwwwwコンゴトモヨロシクwwwwwwwwwwww」

  えびぞりのような奇抜なポーズで右手を差し出す。
  握手を求めているようだが、ふざけているようにしか見えない。

「笑うアサシンよ……どうあれ、魔力炉を見られた以上、生かして返すわけには行かぬ」

  キャスターが、未だしまわずに手にしていた『光魔の杖』に魔力を込め、刃をちらつかせながら続ける。

「だが、余の下につく、というなら話は別だ」

  口の端を持ち上げるキャスター。
  その言葉を聞き、アサシンはまた笑う。

「余の配下となれ。ルーラーを嘲り笑い続けたいのならばな」

「はぁーいwwwwwwww喜んでぇっwwwwwwwwwwwwwww」

  ◇◎◇◎◇◎

「この程度ならワシでも問題なく管理できそうだム~ン」

  新たに生産された『ドラムーン』のゴロア(正確には別個体の為名前は違うだろうが、混乱を避けるためこう呼ぶ)がどんがどんがと腹太鼓を叩き始める。
  ランサーに破壊され、少し規模の小さくなった魔力炉を、悪魔の目玉ごしに三人が観察する。

「最初見たときも思ったけど、これ、凄いでぇすよねぇ。一体何人くらいころころしちゃったんですかっ☆」

  まったく言葉を濁さない。
  相手が不快に思うかどうかなんて考えていない、というより不快にさせたいような言い回しだ。
  しかし、キャスター自体はそこまで気に留めず「さてな」とやんわり受け流した。

「でもでもぉ、これだけ大きければさあ、ミィに少し譲ってくれるってのもぉ~? 意外と~?」
「それは出来ぬ」

  この返答は、足立にとっても想定内だった。
  こんな爆弾に瞬間移動装置が生えたようなサーヴァントに魔力炉を渡せば、それこそ酷いことになるのは自明の理だ。
  しかし、アサシンは食い下がる。やはり彼にとってもここは引けないところらしい。

「あ、じゃあもし、ミィが自分で『魔力炉の下になるニンゲン』を持ってきたら、ミィの分も作れたりしますぅ~?」

「可能だ……ただし、条件が一つ」
「ルーラーが無視できない程度の問題を各所で起こせ。そうすれば作ってやろう」

  思わず舌を巻く。
  キャスターは、マジでこのアサシンを使うつもりなんだと。
  確かにこのアサシンが魔力を得れば、ルーラーが無視できない規模の事件を起こしまくれるだろう。
  だからといって、腹に一物どころじゃない含みを持っているアサシンを御しきれるのか。
  アサシンは答えない。当然だ、といわんばかりに。その代わり。

「例えばそれがさぁ……ミィの『マスター』だったりしてもぉ? 作れちゃいますぅ?」

  傍で聞いていた足立がぎょっと目を剥く暇もない。
  アサシンが瞬時に足立の後ろに回りこみ、愛する人にそうするように再び足立を抱きしめながら、続ける。

「だって、出来そうじゃないっすかぁ、実際出来るんじゃないですかぁ?
 令呪とか、魔力回路とか、そういう『マスターとしての資質』を残したまま、石にするくらい」

  アサシンが足立の頬をなでる。
  笑い狂っているときよりも、数段狂気を孕んだ声で悪魔のような言葉を口にしながら。

「ねぇ、お爺ちゃぁん?」
「さて、どうだろうな……」
「えぇー!? 絶対出来るって!! っしょ、足立っちゃぁん!? 足立っちゃんも出来るって思いますよねぇ!?」

  問いかけに答えられない。
  ただ、ただ、悪意のみが伝わってくる。

  足立が必死に目で訴えると、呆れたような顔をして足立の変わりにキャスターがこう答えた。

「出来るにせよ、出来ぬにせよ、貴様は口が軽すぎる……次に余計なことを口走れば」

「脅しですかぁ? 怖ぁいですねぇ。でも、ミィそういうのまったく効かないんですよねぇ。
 カッツェさんさあ、殺そうと思って殺せるもんじゃないんで。サーヴァントになっちゃったときに、そういうの一切効かないようになっちゃってるんすよ」

  にたりと笑うアサシン。
  殺したくても殺せない、ものすごく重大な手の内を自ら明かしていく。
  これが事実とすれば、いくらキャスターでも勝ち目が薄い。
  そんな足立の懸念を他所に、キャスターは『それがどうした』といわんばかりに続ける。

「勘違いするな。余が壊すのは貴様の……後生大事に抱え込んでいるその手帳の方をだ」

  手帳、といわれて初めてカッツェの口元が引きつる。

「ランサーのマスターたちの居城を見張っていた『あくまのめだま』が見ておった。
 お主がその手帳を翳してから姿を消したとな。十中八九、宝具であろう」

  自身を抱きしめる力が、ほんの少しだけ強くなったのを足立は感じた。
(図星だ。図星突かれてキョドってやがる)
  声には出さない。出せばたぶん、アサシンは爆発する。
  だから、心の中でだけ毒づいておいた。バレバレだ、バーカと。

「だが余としても、貴様の羽をもぐようなことはしたくない」

  二人の間に沈黙が流れる。
  沈黙を破ったのは、意外にもアサシンのほうだった。

「……そっすか。んじゃあもう言わねっすwwwwwwwwwサーセェンwwwwwwwwwww」

  形だけの謝罪をし、足立を解放する。

「じゃあミィ、そろそろ魔力ほしいんでちょっとでかけてきまぁすwwwwwwwwwいってきまぁすwwwwwwwww」

「またねー、お爺ちゃぁぁぁあああんwwwwwwwwミィとのお約束、忘れないでねwwwwwwwww
 ワクッ、ッテカッ、しながらっwwwwwwww待っててねええええええええええwwwwwwwww」

  そしてそのまま、例の黄色いノートを翳して、大魔宮の中から消え去った。

  ◎ ◎ ◎


  足立透の心には、ガラにもなく細波が立っていた。
  アサシンの行為で少し混乱したのも合ったが、それ以外にもある。
  『マスターを魔力炉にする』という笑うアサシンの言葉。
  あれがどうにも引っかかる。

  思えば、足立の影に潜むまおうのかげ。
  マスターを眠らせることが出来るのは確認した。
  だが、それは本当に『敵』だけに放たれるのか?
  もし、都合が悪くなったら足立自身に向かっても放たれるのではないのか?
  疑い始めればきりがない。
  だが、言い切れない。
  これほどまでに業突く張りなキャスターが、追い詰められて足立を魔力炉にしないとは言い切れない。
  もしもマスターの条件を満たしたままの魔力炉にすることが出来ると分かれば、まず危ないのは……

「言っとくけどさ」

  キャスターが眉を持ち上げる。

「もし僕を、あのアサシンの言うように『魔力炉』にしようとしたら……
 僕が死のうがなんだろうが関係ない。魔力炉の中で令呪を三画使ってお前も惨めったらしく自殺させるからな。
 そこんとこよーく考えて、この影に言い聞かせといてよ」

  キャスターが鼻で笑う。
  馬鹿なことを言うな、といわんばかりに。

「ならば、余も言っておこう」

「あの口から出る佞言、甘言、侮蔑、罵倒、その他全てを信用するな」

  当然のことだと溜息で返す。言われるまでもない。

「あの男の心に誰への忠義も敬愛もない。あるのはどこまでも空虚な心を満たすために愉悦を求める欲望だけだ。
 今回は、その欲を満たすために余の側についた、というだけにすぎない」

「あいつにとっては、余やお主すらも、自身の欲を満たす駒のうちの一つなのだ。
 隙を見て、こちらを不和や裏切りに導こうとするだろう。信じるな」

  言われてみて、気づく。荒唐無稽な提案を、自然と信じ込みそうになっていた。
  いつもの足立なら、あの程度鼻で笑って蹴飛ばすはずなのに。
  それもこれもあのアサシンが悪い。あの話口は、なぜか信用しかけてしまう。

「分かった、気をつけるよ。忠告ありがとう」

  だが、心の奥では、やはり少しだけ、引っかかり続けていた。

『待っててー、れんちょぉおおおおおおんwwwwwwwwwwミィ、そのうち帰るからねぇぇえええへへへへへへへwwwwwwwww』

  二人のやりとりを遮るように悪魔の目玉が、よく似た声、よく似た抑揚でそう叫ぶ。
  アサシンの要請で、彼の右胸にも悪魔の目玉を忍ばせてある。
  煩いのが難点だが、アサシンの宝具と方針から今まで以上に色々な場所の色々な情報を得てくるだろう。
  ただ、真っ先に得られた情報が『それ』だとは皮肉な話だが。

「隠す気がないのか、それともバレてもいいくらいに思ってるのか。どっちにしても、トップクラスのアホだね、ありゃ」

  アサシンの性格・性質上、この『れんちょん』というのはまず間違いなくアサシンのマスターだ。
  信じるな、と言われたが。こればっかりはさすがに疑いようがない。キャスターも眉間に皺を寄せていた。
  その絶叫を耳にしたキャスターが、彼の声に掻き消されんほどの小ささで、しかし確かに聞こえる強さを込めて、静かに呟く。

「……足立よ。お主は街の『パトロール』をすると言ったな」

「言ったよ。ただし明日ね。今日は非番だし、疲れたからもう寝る」

「仕事の片手間、『れんちょん』に関する情報を集めよ」

「……あのカンジだとすぐに連れてくるんじゃない? それとも、先にやっちゃうつもり?」

  アサシンのあの言い草なら、まず十中八九、近いうちに連れてくるだろう。
  そして魔力炉にしてくれと頼むはずだ。もしもアサシンが邪魔になるならその時殺せばいい、と足立は考えていた。
  しかし、どうもキャスターは別らしい。

「見つけ次第殺せ、とは言わん。奴にはルーラー相手に存分に走り回ってもらうからな。命を燃やし尽くすその時まで。
 ただ、こちらの心一つで殺せる状況にしておく必要がある。最終的に魔力炉にするにしても、しないにしてもだ」

  杯を傾け、勝利の美酒で喉を潤す。
  上っ面だけの道化師の心理を読み解き、それを御するべく術を打つ。

「足立よ、『れんちょん』なる人物を探し、その容姿をマネマネにモシャスさせよ。
 そして、隙を突いて二者を入れ替え、本物の方を余の下に連れて来い。そうすれば、かの道化師もただの傀儡に成り下がる他ない」

  正に大魔王たる風貌、物言い。

「オーケー。じゃあ当面はそれが目標で?」
「そうだな……それと、ルーラーの情報を入手する必要がある。
 彼奴(きゃつ)が英霊であるというなら、手に入るやもしれん。情報検索施設でな」

  目の上のたんこぶであるルーラー。
  その実態が分かるというならばこれほど望むことはない。
  魔力炉を有し、ここに篭っている以上、いずれは相見えることになる。
  もしも魔力炉を無効化されるようなことがあれば、優位が揺るぎかねない。
  だからこそ、彼女も、彼女すらも『迎え撃てる』ようにしておく。

「ルーラーすら倒すかぁ、そこまでするかね?」

「ああ……余が聖杯を掴むためには、な」

「おいおい、『僕と』キャスターが、だろ」

  キャスターの杯に、足立が葡萄酒を注ぎ込む。
  上っ面だけの友好関係。腹に一物あるのは見え見えのやりとり。
  しかし、キャスターも足立もそれを不服とはしない。今は、まだ。

「じゃ、僕ちょっと寝るから。流石に気の張りすぎで身が持たないし」

「不憫だな」

「そうさ、人間なんて不憫の塊さぁ。ホント、神様はなにを考えてこんな生き物作ったんだろうね。
 じゃあなんかあったら起こしてよ。手伝うから」

  手を振り、玉座から伸びる階段を下っていく。
  キャスターはその背を、ただ黙って見送った。

      ◎

  杯を持ち上げる右肩が痛む。
  青いランサーが指摘したように、ベホマでも治すことのかなわなかった傷。
  忌々しいことに、呪いが込められているようだ。
  元々の世界の大魔王バーンならば、この程度の呪い障害のうちにも入らなかっただろう。
  『シャナク』。
  当然のように発動しなかった。
  大魔王がこんな基本的な呪文が使えないわけがない。
  わけがあるとするならば、それはこの『聖杯戦争』というシステムそれ自体にかかわる部分だ。

  英霊は伝承によりその存在を成す。
  大魔王バーンを成す伝承は、『勇者ダイに倒された大魔王』としてのものなのだろう。
  だから、ダイやその仲間がバーンが使っているところを見たことのある呪文しか使えない。
  魔力炉が完成し、自身に科せられた破壊力や応用力の制限を知るために行動をしていて、それに気づけた。
  なんとも忌々しい話だ。
  勇者ダイとその一行は、大魔王バーンを打倒するだけではなく、その後も枷として大魔王バーンを縛り続けている。
  もし、この制限に気づかずに先の二本の槍と交戦していたならば、呪文が発動せずに不意を突かれてということも……

「……有り得ぬな」

  鼻を鳴らして杯を揺らす。右肩がまた痛む。
  英霊が伝承に縛られている限り、この呪いからも逃れられない。
  あの伊達男の残した最期の恨みが消え去るのを待つしか出来ない。

  だが、悠長に待つだけではいけない。
  この聖杯戦争の地には様々な障害が残っているのだから。

  紅いランサー。竜のランサー。そしてその主たる青年。
  陣地の内容や宝具を知られている。速やかに抹殺する必要がある。
  容易いことだ。一人はサーヴァントなしで戦闘力ゼロのマスター、一人は満身創痍のランサーなのだから。

  笑うアサシン。そしてその主たる『れんちょん』。
  ルーラーを憎み、ルーラーを襲う願ってもみない参加者。しかし、今は手の内に収まっているが、いつ気まぐれで反旗を翻すかは分からない。
  主である『れんちょん』の身柄を押さえ、従わせる必要がある。

「……そして、あと何体か」

  二十八組……いや、残り二十七組となった参加者の中に、居るであろう『キャスター』。
  自身と同じように陣地を作り、そこに立てこもる輩。長期戦になればなるだけその強さを増し、厄介になるだろう。
  こちらも早めに潰しておく必要がある。

  左手を挙げると、闇に蠢いていた目玉が動き出す。更なる情報を集めるために。

「しかし、『マスターを魔力炉にする』か」

  少しだけ、口元を歪めた。
  アサシンが口にした『マスターの活用方法』。
  それは奇しくも、大魔王バーンも考えていた作戦の一つ。
  もしも非力で魔力に乏しいくせに自我ばかり強い人間が呼び出していたら。
  またはその思想が大魔王バーンの覇道の足手まといになるようならば。
  きめんどうしを生み出して混乱させた後で、マスターごと魔力炉に食わせるつもりだった。

  ただし、この行動には相応のリスクが伴う。
  成功しなければただ消えるのみ。
  成功したとしても、それが望みどおりの『性質』を持っているのかどうかは分からない。
  しかし、もしそれが、実現可能で実用可能であるとするならば―――?

「試してみるのも、悪くはない」

「待っているぞ、貴様が余の城を訪れるのを……『れんちょん』」

  大魔王バーンは再び口元を歪めると杯の中身を呷った。

  ◎  ◎  ◎

  結論から言おう。
  大魔王バーンやベルク・カッツェが望む『生前の性質を閉じ込めた魔力炉』は存在する。

  大魔王バーンの世界とよく似た、しかしまったく別の世界。
  今は完全な第三者であるセイバー(勇者ロト)の居た世界。
  そこには、回復能力を持つモンスターを無数に取り込んだ簡易魔力炉のようなものが存在する。
  使用することによって得られる効果は魔力の補充ではなく閉じ込められたモンスター単体が使うそれよりも上位の治癒。
  内部のモンスターの魔力を用いて無限回の回復を可能にする魔力結晶。
  その魔力結晶に自我はなく。たとえ自我があろうとも、自我を伝える術もなく。
  ただたんたんと、命じられるがままに科せられた役割をこなしていく。
  そんな悪い夢のような宝物。

  この場で再現できるかは分からない。
  キャスターが再現するかも分からない。
  そんな絵空事のような宝物。

  その魔力結晶(たからもの)の名は、『けんじゃのいし』と言った。

【B-4/大魔宮/一日目 夕方】


【足立透@ペルソナ4 THE ANIMATION】
[状態]健康、魔力消耗(小)、明日も仕事とか世の中クソだな……
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]刑事としての給金(総額は不明)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
0.キャスターに任せて少し寝る。
1.迎撃の準備を整える。
2.魂喰いがルーラーにバレないか心配。こぞってサーヴァントが攻めて来るのも心配。
3.明日は『れんちょん』なる人物を探してマネマネにモシャスさせる。
 あと、ルーラーの伝承も一緒に探す。仕事は……あー……
4.笑うアサシン(ベルク・カッツェ)は苦手。出来れば即刻消えてほしい。
5.キャスター(大魔王バーン)に不信感……? まおうのかげが気になる。
[備考]
※ベルク・カッツェのパラメーター、宝具の一部を確認しました。マスターが『れんちょん』と呼ばれていることも知っています。
 また、彼が『令呪の発動の阻害』や『念話の阻害』、『殺せない逸話を持つ』ことも聞いています。
※今日は非番、明日は朝から通常勤務の予定です。有給の有無は不明です。
※ニンジャスレイヤーの裏切りを把握しました。
※野原しんのすけをマスターと認識しました、また、自宅を把握しています。
※カッツェの『参加者を生前のソースを残したまま魔力炉にすることが可能』という推測を聞きました。
 これに対してある程度の信憑性があると判断しています。
※護衛として影の中にモンスター『まおうのかげ』が潜伏しています。
 ですが『まおうのかげ』に対して不信感を抱いています。
※新都の怪事件の犯人がベルク・カッツェだと気づいています。


【B-4/大魔宮・玉座の間/一日目 午後】
【キャスター(大魔王バーン)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]魔力消耗(中)、右肩に抉られた傷(回復阻害の呪い付き)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:あらゆる手を用い、聖杯を手に入れる。
1.迎撃の準備を整える。
2.ルーラーの『意味』を知る。その為にもアサシン(ベルク・カッツェ)を使い火種を蒔く。
3.しんのすけは継続的に襲い続け、アサシンの魔力を削ぐ。
 さらに竜のランサー(エリザベート・バートリー)とそのマスター(岸波白野)にもモンスターをけしかける。
4.現代の『科学』に興味。
5.謎のサーヴァントと白ランの少年マスターをどう扱うか考える。
6.アサシン(ベルク・カッツェ)は信用しない。時期が来れば処分する。
[備考]
※狭間&鏡子ペアを脅威として認識しました。
※呪文が制限されています。自身の使える呪文が『ダイの大冒険内で使用したもの』に限定されていることに気づいています。
※足立の自室を中心に高層マンションに陣地を作成しています。
 半日が経過した現在、玉座の間と魔力炉の間以外は主城が半分程しか完成していません。
 その為、大神殿の効果は半分ほどしか引き出せません。
※しんのすけ、ウェイバーとデッドプール、岸波白野、ベルク・カッツェを悪魔の目玉で監視しています。
 また、エリザベート・バートリーと宮内れんげ、他のキャスターも悪魔の目玉に捜索させています。
※魔力炉に約250人分のNPCを魂喰いさせました。それにより膨大な魔力が炉に貯蔵されています。
 一日目終了時に主城と中庭園その下の天魔の塔上層ホールが完成し、この時に完全な大神殿の効果が発揮されます。
 二日目終了時に天魔の塔と白い庭園(ホワイトガーデン)含む中央城塞が完成。
 三日目終了時に大魔宮の全体が、四日目終了時に各翼の基地が完成し飛行可能になります。
 ただし、クー・フーリンのゲイボルグで魔力炉が傷ついたため出力は落ちています。
 回復阻害の呪いが魔力炉に対して影響を及ぼすのかどうかは後の作者様にお任せします。
※足立の高層マンションの住民は全てマネマネが擬態しています。彼らは普通に幼稚園、学園、会社へと通うことでしょう。
※アサシン(ベルク・カッツェ)と『他愛もない口約束』をしました。
 内容は『ルーラーが無視できない規模の事件を起こす』『成功すればアサシン用の魔力炉の製造を行う』です。
※カッツェの宝具であるNOTEが破壊できると気づいています。
 それが及ぼす効果については確信しているのは『瞬間移動の使用不可』のみであり、NOTEを壊すことで殺害できるとは気づいていません。
※右肩の傷は呪いが解けるまでベホマが効きませんし自然治癒もしません。
※現在の仮想敵は以下五組。
 第一候補:ルーラー。
 第二候補:ニンジャスレイヤー。
 第三候補:岸波白野&エリザベート・バートリー。
 第四候補:ウェイバー&デッドプール。
 第五候補:ベルク・カッツェ。

  ◇◇◇◇◇◇

「これさあwwwwwwwこれさこれさあwwwwwwwwwwwまーった面白いこと起きちゃうじゃんwwwwwwwwwwww」

  キャスターとの邂逅を終え、当て所もない放浪へと再び漕ぎ出そうとする道すがら。
  アサシンはまた、人目も憚らず笑っていた。

  襲われた時のあの少女の顔を見たか。
  少女を襲うと言った時のあの青年の顔を見たか。
  あのランサーの死に顔を見たか。
  なんと甘美な。
  身を焦がすような。
  何事にも変えがたい、幸福。

「ヤッベwwwwwwwマジ楽しいwwwwwwww聖杯戦争クッソ楽しいwwwwwwwwwwwww
 胸がwwwwwwwwwwワクテカwwwwwぁワクテカ、ワクテカぁwwwwwwwwwwwww」

  人が夢を見て、絶望し、死んでいく。
  裏切り、裏切られ、死んでいく。
  諍いだ。争いだ。戦いだ。戦争だ。楽しい、楽しい。もっと闘争を、もっともっと戦争を。
  もっと大きな、もっと過激な、方舟を転覆させるほどの聖杯を巻き込んだ戦争を。

  ただ、そんな楽しい聖杯戦争を邪魔する者が居る。
  それがアサシンには嫌で嫌で仕方なかった。

  スマートフォンの液晶に指を這わせる。
  画像一覧の最新部に踊る、一人の女性の顔写真。


「なんか好き勝手言ってくれたじゃないですかぁ……ねぇ、ルーラーちゃん……?
 ミィ、こう見えてさぁ、怒ると意外と怖いんですよぉ……?」


  愛おしそうにその画像を撫で、間違っても消さないようにロックをかける。
  これでもう、ずっと一緒。手放したりはしない。

  アサシンはスマートフォンに頬ずりをして、色を変えていく街に目を向ける。

  夕闇が迫ってきている。
  真っ赤に染まった町並みは、美しい。
  でも、もっと、もっと、もっと美しくしたい。
  もっと赤く。もっと激しく。そしてもっともっと楽しく。
  そのためには祭りが必要だ。
  参加者も、NPCも、ルーラーたちも、方舟も。
  全てをひっくるめた楽しい楽しいお祭りが。

  もちろん、その祭りの特等席に座るのは自分と、今のところは『彼女』だ。

  彼女が今どうなっているのかは特に問題ではない。死んだら死んだ、その時はその時だ。
  ランサーの死に顔を見れただけでも十分な収穫があった。悲しいけどそれで今回は我慢するしかない。

  でも、ここまで来たら祭りを起こしたい。あの高慢ちきなルーラーの歪んだ顔が見たくて見たくてしょうがない。
  そして出来ることなら彼女には、是非、そのお祭りを見てほしい。
  その『お祭り』を見て、聞いて、五感全てで感じて、ありのままの感想を述べてほしい。

  ただ、『出来れば』だ。
  もしかしたらその時彼女は既に感想を言えない体になっているかもしれないが、それは避け様のない犠牲。
  一番大切なのは、自分がその祭りを見届けること。

「待っててー、れんちょぉおおおおおおんwwwwwwwwwwミィ、そのうち帰るからねぇぇえええへへへへへへへwwwwwwwww」

  彼女はアサシンの味方でいてくれると言ったのだ。
  アサシンのために魔力炉になって、物言わぬ物体となって魔力を供給し続けるのもまた立派な味方のあり方だ。
  もし不都合が起きた場合、彼女にはずっと、無知で無欲で無害なアサシンの味方で居てもらう。


  真っ赤な日が、暗みを帯びてくる。
  黒の混ざった赤は、まるで夥しい人の血のようで。
  アサシンはその赤黒い光に向かって一歩踏み出し、両手を広げて高らかに叫んだ。


「さあ、れっつ、ふぇすてぃばるうぅぅううんwwwwwwwwwwwwwww」

















  ―――そして、夜が来る。















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【B-4/足立透のマンションの屋上/一日目・夕方】

【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】
[状態]魔力消費(極大)、め、め、め、メシウマぁぁぁぁああああああああwwwwwwwwwwwwwwwww
[装備]あくまのめだま
[道具]携帯電話(スマホタイプ)
[思考・状況]
基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい! 聖杯はその次。
1.名もなきサーヴァント(クー・フーリン)の表情を見てメシウマっ!!!
2.ふぇすてぃばるん!
3.まずは魔力回復。れんげの下に帰るか、あるいは……
4.お爺ちゃん(大魔王バーン)やジョンスたちを利用してメシウマする。
5.ルーラーちゃんチィーッスwwwww『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』開催決定したから待っててねwwwwwww
 顔写真使わせてもらうけどいいよねwwwwwwwwwいwwwいwwwwよwwwwwwねwwwwwwwww
6.ジナコさん……ジナコ……さん? あ、ジナコさぁんwwwwww

[備考]
※他者への成りすましにアーカード(青年ver)、ジナコ・カリギリ、遠坂凛、クー・フーリンが追加されました。
 マスターへの成りすましは『キスした瞬間』の成りすましなので刻まれている令呪の数は調整できません。また、怪我も真似できません。
※NPCにも悪意が存在することを把握しました。扇動なども行えます
※喋り方が旧知の人物に似ているのでジナコが大嫌いです。可能ならば彼女をどん底まで叩き落としたいと考えています。
 またフランシスコ・ザビエル(岸波白野)を『面白い奴』と感じています。
※ジナコのフリをして彼女の悪評を広めました。
 ケーキ屋の他にファミリーレストラン、ジャンクフード店、コンビニ、カラオケ店を破壊しました。
 死人はいませんが、営業の再開はできないでしょう。
※『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』を計画中です。今のところ、スマホとNPCを使う予定ですが、使わない可能性も十分にあります。
 加えてルーラーの顔写真を一枚手に入れました。
※キャスター(大魔王バーン)の陣地『大魔王宮殿』内の魔力炉を確認しました。
 これが大規模な魂喰いで成り立っていることも、これが宝具によって破壊できることも知っています。
※キャスター(大魔王バーン)と『他愛もない口約束』をしました。
 内容は『ルーラーが無視できない規模の事件を起こす』『成功すればアサシン用の魔力炉の製造を行う』です。
※『あくまのめだま』が右胸のあたりに絡み付いています。これを用いてキャスター(大魔王バーン)に映像を送ることと通信での会話ができます。
 装備品扱いなので一緒に瞬間移動できます。
※魔力炉について知りました。キャスター(大魔王バーン)ならば生前のソースを残したまま魔力炉にすることが可能だと考えてます。
 宮内れんげを魔力炉にすることもありかも知れないと考えています。