殺人考察(前兆) ◆DpgFZhamPE



魔なる物が世界を覆う。
人が死に、地は荒れ、街は荒む。
魔王がこの世に現れ、この世を恐怖の底に陥れようとした時───勇者は、誕生する。

勇者の力とは、仲間である。
勇者の力とは、愛する人々である。
それらを護るためならば、勇者は何度でも蘇る。
遥かなる時が過ぎ、新たな魔なる
存在が生まれた時───勇者の魂と心は受け継がれ、また新たな勇者が立ち上がるのだ。
何度でも。
人々を脅かす魔が消え去るその時まで。
何度でも。
何度でも。何度でも。
何度でも。何度でも。何度でも。
何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも───そして。

その輪廻を終わらせる為に、勇者ら再び立ち上がった。
叶えるべき願いを背に。
争いに泣き、悲劇に打ちのめされる存在が生まれないように。
魔なる物を斬り捨て、この戦争に召喚された。
そう、なればこそ。
───勇者伝説は、この地にて再び始動する。




しかし。
此度の聖杯戦争の相手も、魔なる物とは限らない───




◆ ◆ ◆

「フゥ~~~……」

空になったカップに再び珈琲を注ぎながら、スーツの男───アサシン、吉良吉影は肺に溜まった空気を排出した。

(やはり、この一服は最高だ。
何より『心の平穏』が感じられる…… 最も、この聖杯戦争を勝ち残らねば本当の平穏は訪れないがね)

注いだ珈琲を口へと運ぶ。
それを堪能しながら、吉良は腕時計へと目を向かわせる。
時刻は午後を過ぎ、夕方だった。
生前ならば、仕事を早めに済ませ、誰にも邪魔されず夕飯を考えている頃だ。
愛する『手』と共に、夕飯を選ぶのだ。

(そうだ、聖杯を勝ち取って再び平穏な生活を手に入れたならば、まずあの店に向かおうじゃないか。
あの店のパンは柔らかいんだ……お昼の11時に焼いたパンを使い、揚げたてのカツを挟んでいるからね。だから午後一時には売り切れてしまうんだ……ラップの上からでもホカホカしているあのサンドイッチを買い、静かに昼御飯を堪能し、満足した気持ちで再び仕事に戻るんだ。
フフ……いっそのこと、杜王町より素晴らしい町を探して引っ越ししてみるのもいいかもしれないな……)

やがて訪れるであろうその平穏な日々を妄想し、吉良の口元が緩む。
その気持ちを引き締めるように黒い珈琲を一気に口内へ流し込み、立ち上がる。

(そのためには…『勝利』を得る必要がある。
そろそろ動き出さねばなるまい……マスターが組むと宣言した相手にとても嫌な予感がする……そうだ、勘だ。
この吉良吉影の『勘』が……ここから『今動き出さなければならない』と言っている)

マスターの決定に委ねるとは言ったが───マスターが殺されてしまえば吉良も消えるのだ。
学校が終わるであろうこの時刻、動き出すに越したことはない。
合流は速い方が良い。生前、モタモタしている間に承太郎に襲われたような失態は、二度と犯してはいけない。
チラリ、と再び己の手首に装着された腕時計を見る。
同盟を組もうと提案した相手と遭遇しても、親のフリをして近づけば、相手のサーヴァントにも気づかれないだろう。
不本意ではあるが。

(ああ、この気持ち、行きたくもないサマーキャンプの前夜のような気持ちだ……。
『面倒くさいし行きたくもないのに何故行かなければならないんだ』というような……そんな気持ちだ)

しかし、と吉良は言葉を続ける。
ドアノブを捻り、部屋を抜け出し、入り込んできた風をその身に浴びる。
霊体化はしない。
NPCに扮して歩けば誰にもバレない自信はある。
先ほど交戦したサーヴァントに出会う可能性もあるが、こちらには気配遮断があるのだ。
戦闘では負ける可能性があったとしても、アサシンとしての勝負では負けるつもりはない───そういうことだった。

「しかし、こんな気持ちも今回だけだ」

ネクタイをシュッ、と閉め、スーツの皺を伸ばし身だしなみを整える。
極力目立たないように。それでいてセンスは損なわないようなデザインを。
ああ、そうだ。
目立ってたまるものか。
それがアサシンの───吉良吉影の、戦い方なのだから。

「勝つのはこの私、吉良吉影だ」

アサシン───吉良吉影は、動き出す。

◆ ◆ ◆

タンっ、タンっ、タンっ、と。
小気味良い地面を叩く音と共に、蒼穹の勇者───セイバー、ロトは大地を疾走する。
その腕には己がマスター、聖白蓮が抱きかかえられている。
赤いサーヴァント、アーカードとそのマスターとの戦闘において、強大なダメージをその身に受け、意識を刈り奪られたのだ。
未だ目を覚まさぬ故、まずは治療をせねばならないのだが───ロトには現代の医療はさっぱりわからない。
ロトが生きた世界の文化と、今この世界の文化はまるで違うのだ。
よってロトの常識に則って行動する訳にも行かず、向かう先は自然と一つの場所に限られた。
そう、我等が拠点───命蓮寺である。

「……」

マスターは、未だ目覚める気配はない。
まだマスターの意識がある状態ならば、サーヴァントの身体能力を発揮し建造物の屋根を飛び渡り早く命蓮寺に向かうこともできるのだが、今は下手にマスターに刺激を与える訳にはいかない。
よって、ロトは地に足を付けての移動を余儀無くされた。

(───!)

苛立ちからか、焦燥感からか。疾走するロトのスピードが更に上昇する。
ああ、疾く気づくべきだった。
あの男を、アーカードのマスターをもう少し注意深く観察していたならば、足運びや呼吸の方法で、実力の程度は知ることができたはずなのだ。
なのに、自分はそれすらしなかった。
サーヴァントの相手は自分だと。
マスターの相手ならマスターに任せるべきだと。
それぞれの力量に合わせて戦闘を行った結果が今だ。
考えを改める必要があるのかもしれない。
言うならば、『いのちだいじに』だ。
戦略には疎いロトであるが、大まかな路線ぐらいは考えられるのだ。
勇者としての経験が、彼にそうさせたのだ。
今回こそ負けはしたが、次は必ず勝つ。
高い勇者スキルを持つ彼に、正しい精神と信念を持つ彼が一度の敗北で折れ曲がることはないのだ。
勇者として最高峰の力を得る彼にとって、敗北は終わりではなく、糧にして先に進むためのものなのだ。
勇者であること。それ自体が、彼にとって大きな武器となる。

───だが、しかし。
今回ばかりは、その『勇者であること』が、不幸を呼ぶこととなる。
勇者スキルのデメリット───己の意思に関わらず異常な事態を巻き起こしてしまう、その不幸が。

◆ ◆ ◆

そして、しばらく全力で疾走し続けた後。
バンッ、と。
物陰から現れた男に、危うく衝突しかけたのだ。
幸い、ロトの反応が速かったため、急ブレーキを踏むように全脚力を勢いの減衰に使用し、なんとか衝突は避けられたが。

「───?」

聖に衝撃が加わってないかと確認した後、ロトは男の顔を見つめる。
NPCだろうか───白のスーツにドクロのネクタイ、金の頭髪と外見は中々整った男だった。
エリートらしい気品漂う雰囲気と物腰を感じたため、女性にはモテそうだ。
そんな印象だった。
……だがその整った顔立ちも、今は驚愕の色に染まっている。
当たり前だ。高速で走る鎧の男に衝突されかけたのだ。
これで驚かない方がおかしい。
……とりあえず誤っておいた方が良いのだろうか、とそんなことを考えているロトを他所に、男の顔からは───更に汗が噴き出していた。

(『サーヴァント』……だと……ッ!?)

何を隠そう、ロトと衝突しかけた男こそこのアサシン、吉良吉影である。
吉良とて、注意力散漫だった訳ではない。
簡単な話だ。知覚できる外の範囲から、いきなりロトが全力で疾走してきたのだ。
当然、生身のステータスは貧弱である吉良が避けられるはずもない。
それ故に───普通に道を歩いていた吉良が、ロトに出会うという異常事態が発生したのだ。
ふざけるな、こんなことがあってたまるものか。
正面から向き合ってしまえば、気配遮断などもう意味を成さない。
寧ろ、サーヴァントとバレる可能性すらあるのだ。

(青い甲冑に抱えているのは女……か?
戦闘のダメージでもあるのか動かないが……いや、問題はサーヴァントの方だ。
この『雰囲気』そして『騎士たる甲冑』、私の予想が正しければ三騎士かライダーのクラスだろう。
クソッ!一番相性の悪そうな相手じゃないかッ!)

心の中で悪態を吐きながら目の前の甲冑の男を見据える。
襲いかからないどころか対話もなしのところを見ると、どうやらNPCと勘違いしているらしい。
落ち着け、落ち着くのだ吉良吉影…こんな時こそ忘れてはいけない。
『ピンチ』の時こそ『チャンス』は訪れるという過去からの教訓を……と、自身に深く言い聞かせながら、吉良は無理やり笑顔を作る。
ここは安全にやり過ごすべきなのだ。

「おや、奇抜な格好をしているね……『コスプレ大会』でもあるのかな、ハハハ」

サーヴァントの甲冑を当たり障りのないように、一般人らしく評価する。
NPCだと思い込ませるのだ、ここをやり過ごすために。

「そこの女性も良い服装をしてるじゃァないか、とても似合っているよ」
「───」

甲冑のサーヴァントは答えない。
何か喋らないのかおまえはと言いたくなるが、グッとこらえる。
後は起きない女性を気遣うフリをしてここを去るのみだ。

「おや、その女性は大丈夫か?どうやら気、を、失っ…て…」

吉良の演技が、はたから見てもわかるほどに崩れていく。
そこで。
吉良吉影は、気づいてしまったのだ。
その、すらりと伸びる白魚のような綺麗な───

若々しい艶のある肌だというのに、どこか年季を感じさせるような雰囲気。
武術でも嗜んでいるのか、程良く筋肉のついた指先は無駄な脂肪などなく、且つ女性らしい柔らかさも備えている。
そしてその掌はどの手にも変え難い包容力が備わっていて。
己の出会った今までの手より、それは格段に素晴らしく───

───ああ、切り取って保管したい、と。

無意識に口から飛び出しそうになった言葉を、吉良は執念で抑え込んだ。

(なんて…なんて良い『手』なんだ)

思えば、座などという場所に行ってからは手を保管することなど出来なかった。
そんな中ようやく出会えた格段に美しい、その手を前に、吉良が我慢出来るはずもないのだ。

(しかし此処は焦らるな……『チャンス』はまた私に降りてくる)
「───」

さすがに長く思考し過ぎてしまったのか、正面の甲冑のサーヴァントも吉良を不審に思い始めていた。
これ以上は危険。
手を奪う前に己が死んでは意味がない、と吉良は笑顔を浮かべる。

「ああ、すまないね、引き止めてしまったかな。
私はこれで失礼するよ……」

ぺこりと会釈をし、甲冑サーヴァントに勘付かれないように背を向けて歩き出す。
たまに時計を見るようなフリを見せながら、『私は普通の会社員です』と言ったフウな雰囲気を装うのだ。
そして。
吉良が1分ほど背を向け、そして頃合いを見て振り返ると───その場には、既に甲冑のサーヴァントはいなかったのだ。

(フン…逃げ切ってみせたぞ。あのサーヴァント、私の予想ではあの女を治療するために動いていると見える。
進行方向からして……『寺』か?)

そう考えると僧侶のような慎み深い雰囲気もあったかもしれない、と吉良は適当に思考しながら、その歩を学校へと向ける。
進行方向には学校もあるが、まさか学生ということはないだろう。
こんな時間に東側から走ってきたことから、学校関係者ではないことは予想できる。

(じゃあ学校へ向かいながら『あの女』と『寺』についても情報収集を行おうかな……私が殺すより先に死んで貰っては困るからね、今日の夜には仕留めたいが───)

果たしてそのチャンスが訪れるだろうか、と。
吉良はまだ得られぬ手首に妄想を膨らませながら…己がマスターの元へと歩んで行った。

【C-4/街中(東)/一日目 夕方】
【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、聖の手への性的興奮
[装備]:なし
[道具]:レジから盗んだ金の残り(残りごく僅か)
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
0.フフ…ああ…良い『手』だった…
1.同盟相手に嫌な『勘』がするので学校へ向かい放課後のマスターと合流する。合流後、今後のことを決める。
2.同盟しているものに警戒。同盟を組むのは気乗りではないが、最終的な判断はマスターに委ねる。
3.甲冑のサーヴァントのマスターの手を頂きたい。そのために情報収集を続けよう。
4.B-4への干渉は避ける。
5.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
※魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
※保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。
※B-6のスーパーのレジから少額ですが現金を抜き取りました。
※スーパーで配送依頼した食品を受け取っています。日持ちする食品を選んだようですが、中身はお任せします。
※切嗣がNPCに暗示をかけ月海原学園に向かわせているのを目撃し、暗示の内容を盗み聞きました。
そのため切嗣のことをトオサカトキオミという魔術師だと思っています。
※衛宮切嗣&アーチャーと交戦、干将・莫邪の外観及び投影による複数使用を視認しました。
切嗣は戦闘に参加しなかったため、ひょっとするとまだ正体秘匿スキルは切嗣に機能するかもしれません。
※B-10で発生した『ジナコ=カリギリ』の事件は変装したサーヴァントによる社会的攻撃と推測しました。
本物のジナコ=カリギリが存在しており、アーカードはそのサーヴァントではないかと予想しています。
※聖白蓮の手に狙いを定めました。
進行方向から彼等の向かう先は寺(命蓮寺)ではないかと考えていますが、根拠はないので確信はしていません。
※サーヴァントなので爪が伸びることはありませんが、いつか『手』への欲求が我慢できなくなるかもしれません。
ですが、今はまだ大丈夫なようです。

[共通備考]
※一日目・午前中に発生した事件を把握しました。
※暁美ほむらがマスターだと認識しました。
※校門での暁美ほむらの瞬間移動は暁美ほむらのサーヴァントの仕業であると推測しました。
校門付近に存在する仕掛けからほむらの注意を逸らす為の行動であると考えています。
※暁美ほむらのサーヴァントが時間に関する能力を持つ可能性を推測しました。


何だったのだろう、あの男は。
それが再び疾走を始めたロトが浮かべた、最初の疑問だった。
NPC程度の魔力しか感じなかったのに───何故か、違和感が残る。
頭に疑問符を浮かべながらも、ロトは疾走する。
とりあえずは、『命蓮寺』へ。
安静に出来る場所へと、ロトは走り抜ける。






───勇者は未だ気づいていない。
己が、そしてそのマスターが、
かつて一つの町に潜み続け、多くの女性を殺害した人間に狙われていることを。
人々を守るために多くの魔物を斬った蒼穹の勇者の最後の敵は、人間───なのかも、しれない。

【C-4/街中(中央)/一日目 夕方】

【聖白蓮@東方Project】
[状態]全身打撲、気絶中、疲労(中)
[令呪]残り三画
[装備]魔人経巻、独鈷
[道具]聖書
[所持金] 富豪並(ただし本人の生活は質素)
[思考・状況]
基本行動方針:人も妖怪も平等に生きられる世界の実現。
0.気絶中……
[備考]
※設定された役割は『命蓮寺の住職』。
※セイバー(オルステッド)、アーチャー(アーカード)のパラメーターを確認済み。
※言峰陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
※一日目・未明に発生した事件を把握しました。
※ジナコがマスター、アーカードはそのサーヴァントであると判断しています。
※吉良に目をつけられましたが、気づいていません。

【セイバー(ロト)@DRAGON QUESTⅢ ~そして伝説へ~】
[状態]健康
[装備]王者の剣(ソード・オブ・ロト)
[道具]寺院内で物色した品(エッチな本他)
[思考・状況]
基本行動方針:永劫に続く“勇者と魔王”の物語を終結させる。
0.>白蓮を治療できる場所、命蓮寺に移動する。
1.>白蓮の指示に従う。戦う時は>ガンガンいこうぜ。
2.>「勇者であり魔王である者」のセイバー(オルステッド)に強い興味。
3.>言峰綺礼には若干の警戒。
4.>ジナコ(カッツェ)は対話可能な相手ではないと警戒。
5.>アーチャー(アーカード)とはいずれ再戦を行う。
[備考]
※命蓮寺内の棚や壺をつい物色してなんらかの品を入手しています。
 怪しい場所を見ると衝動的に手が出てしまうようだ。
※全ての勇者の始祖としての出自から、オルステッドの正体をほぼ把握しました。
※アーカードの名を知りました。
※吉良を目視しましたが、NPCと思っています。
吉良に目をつけられましたが、気づいていません。


[その他の情報]
ジナコ(カッツェ)に関する映像がテレビ、ネット上に出回っています。




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最終更新:2015年01月05日 03:13