ひとりぼっち ◆tHX1a.clL.


  鉄パイプを持って暴れる女の姿をスコープ越しに追いかける。
  ぼさぼさの髪を振り乱し、片手に構えた鉄パイプを振り回す女。
  右手には赤黒い痣が刻まれている。
  凶行を繰り返す女の姿が消え、別の場所に現れては再び凶行を起こす。
  スコープは彼女の姿を見失わない。
  まるで未来予測のような精度で『瞬間移動』を行う女を追い続ける。

  彼女が天を仰ぎ『メシウマ』という意味の分からない言葉を発したその瞬間。
  利き手の人差し指に力が篭る。
  ゆっくりと、ゆっくりと、引き絞り。







  深い深い呼吸音。







  そして視界が、黒に染まる。


  人差し指で器用に蓋を閉じた単眼鏡をしまい、深く息を吐く。

  撃てば当たる。確実に。
  頭だろうと、右腕の礼呪だろうと、鉄パイプに付いたジョイント金具だろうと、ベルトのバックルの留め金だろうと、寸分たがわず撃ち抜ける。
  だからこそ、ヤクザは銃を持ち出さなかった。

  何故この状況で『アレ』を撃てる。

  あれがジナコ=カリギリではないことは一目見れば分かる。
  あれは何者かによって作られた『ジナコ=カリギリ』の姿をした別物だ。
  きっとジナコを拉致した何者かが用意したのであろう。

  あれが暴れ続ける限り、ジナコは無実の罪を被り続け、他者から悪意を向けられ続ける。
  だからこそ、ヤクザは『アレ』を撃てない。
  いや、ヤクザだからこそ、『アレ』は撃てるわけがない。


  たとえばここに、アサシンのクラスの英霊が居たとしよう。
  彼の逸話は『影武者』。
  時の為政者の格好をして為政者の活動を支え、銃撃を受けて倒れても自分の姿を晒さなかった
  ならばその英霊に与えられるスキルは二つ。
  『他者への変装』と『変装中にどんな攻撃を受けても自分へのダメージフィードバックを無効化』スキル。

  たとえばここに、キャスターのクラスの英霊が居たとしよう。
  彼の逸話は『クローン生成』。
  著名人のクローンを量産し、世界に混沌の渦を巻き起こした。
  ならばその英霊に与えられるスキルは一つ。
  『他者のデータを得ることでその人物そっくりのクローンを量産する』スキル。

  たとえばここに、なんらかの英霊が居たとしよう。
  彼の逸話は多々あれど、強いてあげるならば『変装』。
  他人の姿を変化させ、自身の姿を変化させ、不和や混乱を引き起こす。
  ならばその英霊に与えられる宝具は一つ。
  『NPCを含めた他者の外見情報を改竄する』宝具。


  多種多様な英霊、多種多様な逸話。多岐にわたるスキルと宝具。
  パターンは多々あるだろうが、言えることは一つ。
  姿を晒すからにはなんらかの『攻撃阻害能力』もしくは『攻撃を受けても問題ない事情』がその裏にあるはず。
  冷静な人物であれば簡単に気づくロジックだ。
  そんな英霊を射撃すればどうなるか。
  もともと他よりも劣っているのに、唯一の長所である『遠隔射撃』を敵に晒すだけだ。

  幸いなことに、あのジナコは悪意はあるが害意はないらしい。
  犯罪を起こすにしても被害者を出さないところを見ると、一応は聖杯戦争のルールに従っているらしい。
  確かに厄介この上ない相手ではある。
  主人の篭城というこちらの優位が跡形もなく崩れ去った。
  だが、それだけだ。
  最悪でも『通報され、警察から追われることになる』。それだけ。

  放っておいてもなんら問題はない、とは言えないが。
  今無理に事を起こしてまで倒すべき必要がある相手でもない。

  そして今はまだ、勝算がない勝負を迫られている段階ではない。
  彼の宝具の性質上、勝負は一回、必勝の時にのみ仕掛けるのがベスト。
  情報も、弱点も知りえないこの状況で引き金を引けば……

  いい銃は相手よりもまず持ち手を選ぶ。
  抜きどころを間違えば、死ぬのはこちらだ。
  ヤクザは、この上ない臆病者だ。
  ヤクザは、彼を知る皆が思い描いている彼よりも数倍臆病だからこそ、真の『暗殺者』たりえる。


(―――け、て――――――助けて、ヤクザ―――)


  ヤクザの瞳が鋭くなる。
  自身に念話で語りかけられるのは一人だけ。

(……無事か)

(無事じゃない……一大事だよ……もう、なにがなんだか……)

(周りに人間は)

(居ない……さっきまで居たけど、今は……でも、状況は……)

  言われなくても分かっている。

(場所は)

(アタシの家……家に居る、アタシ、家に居るの、今も、家……)

(すぐに行く。誰にも見つからないように隠れていろ)

  まだぶちぶちと続けるジナコの念話をピシャリと遮り、再び深く息を吐く。
  振り返り、町に目をやると。
  千里眼の先の『ジナコ』と目が合ったような気がした。
  が、気のせいだったらしく、『ジナコ』は狂ったような笑顔を浮かべると、ノイズをその場に残して再び姿を眩ませた。

  再び場所を移したのか、それともそろそろ襲撃をやめるのか。
  どちらにせよ、関係ない。
  今はまだ、雌伏の時。
  ゴルゴは葉巻に火をつけ、陣取っていたビルの屋上を後にする。
  現れ消える狂人の影に背を向けて。
  紫煙の先に見え隠れする、いつか来るあろう『それとの遭遇』を見据えて。


  *  *  *


  帰ってきたヤクザが見たものは、およそ今朝のジナコとは同一人物とは思えない彼女の顔だった。
  一言で表すとすれば、『曇っている』。
  表情が、とか雰囲気が、ではない。
  目が曇っている。
  普段からけだるげな瞳をしていたが、今は様子がまるで違う。
  生命力とか、正常な判断力とか、そういう大事な何かが抜け出てしまった、そんな瞳。


「ヤクザ……ど、どうしよう……」


  いわんとせんことは既に把握していた。
  間違いなく、B-10地区で起こっている『ジナコ=カリギリによる連続犯罪』についてだ。
  彼女はここにいる。
  しかし今もまだ犯罪は起こり続けていることだろう。

「あんなの、アタシじゃない……アタシじゃないの……!!」

  心の底から搾り出したような、悲痛な叫び。
  しかしヤクザは眉一つ動かさずに、淡々と、それこそ『業務的』とも言えるほどにジナコに応対した。

「教えろ、何があったのか」

  冷静なゴルゴの様子を見て少しだけ気を持ち直したのか。
  ぽつり、ぽつりとジナコが話し出す。
  ヤクザと別れた後、なぜあんなことになってしまったのかを。


  そしてヤクザは、午前中にジナコ周辺で起こった出来事を把握した。
  ゴミ捨てに出ようとして気絶したこと。
  目を覚ますと幼女が自身に抱きついて眠っていたこと。
  白髪の大男と赤服の大男にその幼女の面倒を見ることを頼まれたこと。
  そして事件について知り、錯乱し。
  幼女には逃げられ。
  呆然としていたところでヤクザのことを思い出し、呼び出した。


  一部、ジナコが言葉を濁している部分があるが、それは今はまだ気に留めない。
  重要なことが分かったのだから。

  ヤクザが目をつけたのは『気絶した』という証言。
  時間的に考えても、ここがきっと『もう一人のジナコ=カリギリ』とジナコが接触したタイミングだろう。

  ヤクザの脳内で一つの仮定が改められる。
  ヤクザは当初、ジナコは『何者かに利用されるために拉致された』と仮定された。
  しかし、ある意味では無事なジナコと今回の情報交換を踏まえた上で考えるなら、それは間違いだ。
  正しくは、何者かによるジナコへの『姿を奪うための接触』があり。
  『その接触によって気絶状態に陥っており、音信不通となった』というのがきっと現状だろう。

  ならばあの『もう一人のジナコ=カリギリ』は姿を奪う際に接触が必要であると言える。

  漠然と『姿の改竄』としかいえなかった敵の能力の範囲がグンと狭まる。
  もう少し決定的な情報があれば、敵の正体の絞込みも行えるようになるだろう。


「……ジナコ、いくつか伝えておく」


  伝えたのは、現在までの考察を含めた彼の仮説。
  『もう一人のジナコ』の能力についての想定されるいくつかのパターン。
  ジナコの姿を奪った人物が、『奪うためには接触が必要』であるという仮説。
  そして、『もう一人のジナコ』がNPCを扇動するためだけに暴れているという事実。

  まるで第三者から見たような冷静な報告。
  そんなヤクザの様子に、ジナコは憤慨した。

「なんで、なんでそんなに冷静なの!? アタシ、外を歩けない、なんてもんじゃない……
 こんな……もう……おしまいだよぉ……」

  崩れ落ち、泣き言を並べる。
  最早『ジナコさん』は欠片も存在していない。
  そこに居るのは、幼稚でヒステリックな等身大のジナコだけ。

「ねえ、アンタ、アタシのサーヴァントなんでしょ!? 助けてよ!」

  マスターであるジナコからすれば当然の懇願。
  しかし、ヤクザはその懇願を蹴り、逆に当然のようにこう返した。

「俺が出来るのは一つ。お前の依頼を遂行することだけだ」

「必要ならば、依頼をしろ。そうすれば俺の宝具が発動し、あいつを『殺し』やすくなる」

  その一言で、部屋の空気が変わる。
  ヤクザは求めている、ジナコからその一言が出てくるのを。
  ジナコが息を呑む音が、部屋に響く。
  彼女は人並みの判断力を持っているし、人並みの倫理観を持っている。
  そして誰よりも、その言葉の重みを知っている。

  『殺す』依頼。

  ヤクザの口から放たれた言葉が、ジナコの心に深く突き刺さった。


  *  *  *

  きつく結んでいた口が緩み、言葉を紡ぎ出す。

「ヤクザ……いや、『ゴルゴ13』、お願い……」

「あいつ……『もう一人のアタシ』を、どうにかして……アタシを助けて……」

  涙ながらに紡ぎ出された言葉。
  今のジナコに出来る、精一杯。


  精一杯の、『殺人依頼』。


  それを濁した、汚いなにか。


  ジナコは、自身の英霊『アサシン』の特性を忘れてはいない。
  強烈な殺意と詳細な情報。この二つを持って宝具は最高の状態となり敵を討つ。

  だが、ジナコは言葉を濁した。
  それは当然行われるべき心の防衛とでも言うべきだろうか。
  彼女は逃げた。明言を避けた。
  ヤクザがその言葉を『そう受け取るに決まっている』と知っていながら、あえて言葉を濁すことで自身を押しつぶしかねない『責任』という魔物から逃げた。


  彼女の心が如何に『もう一人のジナコ=カリギリ』を、それこそ『この世から消したいほど』憎んでいたとしても。
  口に出せば、それはジナコが自身の判断で『殺した』ことになる。
  だから濁した。
  受け取り手であるゴルゴに判断を委ねる形で依頼を行った。


  心の中で悪魔が笑う。
  『結局ミイと一緒ですやあんwwwwwwww殺す気マンマンですやあんwwwwwwwwww口に出さないだけでさーあ?wwwwwwwwwwwwww』と、煽るように笑う。

  そんな声から心をふさぎ、もう一度懇願する。
  明言は避け、できるだけ『どうとでもとれるように』。
  その一言が、さらに自分を窮地に追い込むとも知らずに。


「依頼でもなんでもいいから……お願い……」


  ヤクザの剃刀のような眉の根が潜まる。おそらく、了承の意だろう。
  ヤクザは脇に抱えていた袋を放り投げた。
  袋からきらきら輝くなにかが飛び出す。ついで鮮やかなパステルカラーの布の数々。

「なに、これ……」

「服だ。その格好では一目でばれる」

  変装用の服。そしてアクセサリー。
  ヤクザが実体化して帰ってきたのは、『これ』を持ち込むためだったらしい。


「次に会う時までに、あの『ジナコ=カリギリ』の情報を用意しておけ。
 情報伝達には念話で、急用ならば令呪を使い呼べ」


  ヤクザの口から放たれたのはジナコのことはジナコに任せ、自身はこの場を離れるという旨の伝達。
  ジナコにとってはまるで死刑宣告のような一言。

  それだけ伝えると、ヤクザは来たときのようにまた何事もなかったかのように玄関へと向かった。

「待って、待って!!! こんなのじゃなくて、アタシを助けてよ!!!
 このままじゃあ……外も歩けないし……こんなのじゃどうにもならないよ……!!」

  あわてて彼の背を追いすがる。
  しかしその行為も、ヤクザの右の拳の一撃で結局成されることはなかった。

「言ったはずだ。俺の背後に立つな、と」

  顔を殴らなかったのは、一応『依頼人』として敬意を払ったから、なのかもしれない。
  突き放されて、尻餅をつく。
  ケーキを入れた箱がジナコの尻の下敷きになり、グチャグチャに崩れる。
  殴られた肩が痛む。
  痛みが、逃れようのない現実を知らせる。

「なんで……なんで……」

  言葉が続かない。
  こんな状況であれば、こんな状況だからこそ。
  彼が『英霊』であるというのならば、そばに居てくれると、助けてくれると。
  スレてしまったジナコも、心のすみっこでそう信じていた。

「……確かに、俺はお前のパートナーだ」

  聖杯戦争は『主』と『従者』の二人で行うもの。
  これは聖杯戦争を知る者にとっての大前提となる条件の一つ。
  しかし、ヤクザにとっての『パートナー』は意味が違う。

「だが、保護者に成り下がるつもりはない」

  ヤクザはヤクザ。依頼人は依頼人。
  その間に上下はなく、取引は常に対等。
  ヤクザは依頼をこなし、依頼人は報酬として金銭を渡す。
  ボディガードは対象外であるし、依頼相手ではない人物から守るだの守られるだのは依頼とは関係ない。

  裏切りではない。
  最初に二人に交わされた契約による正当な主張。
  最初と今で事情が違うにしても、彼は自身の流儀を絶対に崩さない。

「でも……」

  ジナコが続ける言葉にも耳を貸さず。
  ヤクザはそのまま霊体化して消えてしまった。




  また、ひとりぼっち。
  一人残されたジナコは呆然と立ち尽くし、そして思い出した。



  世界は優しくなんかない。
  守ってくれる人など居ない。
  ずっとひとりぼっちだった。
  ひとりぼっちで、ソコに居た。
  誰も居ない、『誰か』だけが居る匿名の世界と繋がっている、ソコに。



  ジナコは再び布団の中へと逃げ込み、両目を潰さんばかりの勢いで目を閉じた。
  自身と外界を遮る脆い殻のなかで、すがるように自分に願い続けた。
  どうか悪い『現実(ゆめ)』から目が覚めるように、と。


  *  *  *


  ジナコ、という名前はパパが付けてくれた。
  太っちょだけど優しいパパ、綺麗で優しいママ。
  二人が私を愛してくれた証。
  私が二人に愛されたという証。
  たとえ二人がいなくなっても、他の誰にも奪えない、たった一つの大切な思い出。


  太っちょなパパに似て、ぽっちゃりした体。
  優しいママとおそろいの、茶色い髪。
  そして二人が残してくれた、『ジナコ』という名前。
  誰にも触れることができなかった、ジナコにだけ残された、大切な思い出。


  そんな思い出を。
  そんな思い出まで。
  誰かが奪って、汚していく。


  ジナコの姿で暴れる誰か。
  そいつを憎んでジナコを探すだろう誰か。


  誰も守ってくれない。
  守ってくれる人なんていない。
  肯定してくれる人なんていない。
  パパも、ママも、■■■さんも、ここには居ない。


  今度の悪魔は、足音を立てて迫ってきている。
  時間がもたらすものが解決ではなく破滅だとするなら。
  現実逃避がもたらすものが逃れようのない死だとするなら。


  私は決めなければならない。自分の心で。
  立ち向かい、生きていくという遥か昔に目を叛けた判断を。
  そして、歩き出さなければならない。自分の足で。
  遥か昔に置いてきた『ジナコ=カリギリ』としての新たな一歩を。











  でも、そんなこと、出来るのか。
  私に―――ジナコ=カリギリにそんなことが出来るのか。


  あれからどれくらい時間が経っただろうか。
  最早分からない。

  布団から顔を出して、『外』を見つめる。
  ひとりぼっちの少女が見つめる、窓枠から切り取られ、涙で歪んだ眩しい世界。
  ジナコには到底相容れられぬ、『底(ソコ)』からかけ離れた『眩しい世界』。

  めぐり合うマスターは、命を狙ってくる敵。
  もう一人の『ジナコ=カリギリ』も、もちろん敵。
  NPCからすれば私は犯罪者、彼らもジナコを追い詰める敵。
  自身のサーヴァントすら、助けの手は遣さず不干渉を貫く。
  全てが敵。

  そんな世界に、飛び込んでいけるのか。
  敵だらけの世界。
  まるで死のような無限の時間消費が続いていた『匿名(ヴァーチャル)』から引きずり出され。
  その先に待ち受けている、過酷な『現実(リアル)』という戦場。
  唯一、太陽だけがジナコを見守るように何処までも変わらぬ眼差しを向けている。


『――この『月を望む聖杯戦争』に参加しているマスター並びにサーヴァントの皆さま、こんにちは』


  声が聞こえる。
  『外』からの声。
  ジナコはただ、曇った瞳で『外』を眺め続けていた。



【B-10/街外れの一軒家/一日目 午後・正午ちょっと過ぎ】

【ジナコ・カリギリ@Fate/EXTRA CCC】
[状態]脇腹と肩に鈍痛、精神消耗(大)、トラウマ抉られて情緒不安定、ストレス性の体調不良(嘔吐、腹痛)
    昼夜逆転、現実逃避、空腹、悲しみと罪悪感、カタツムリ状態、いわゆるレイプ目
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]変装道具一式
[所持金]ニートの癖して金はある
[思考・状況]
きほん■■■■:ひとりぼっち
0.……
1.B-10には居られない……でも……
2.れんげやジョンスに謝りたい、でも自分からは何も出来ない。
3.『もう一人のジナコ=カリギリ』の情報を集める……?
[備考]
※ジョンス・リー組を把握しました。
※密林サイトで新作ゲームを注文しました。二日目の昼には着く予定ですが仮に届いても受け取れません。
※アサシン(ベルク・カッツェ)にトラウマを深く抉られました。ですがトラウマを抉ったのがカッツェだとは知りませんし、忘れようと必死です。
※『もう一人のジナコ=カリギリ』の再起不能をヤクザに依頼し、ゴルゴから『もう一人のジナコ=カリギリ』についての仮説を聞きました。
  『もう一人のジナコ=カリギリ』殺害で宝具を発動するためにはかなり高レベルの殺意と情報提供の必要があります。
  心の底からの拒絶が呼応し、かなり高いレベルの『殺意』を抱いていると宝具『13の男』に認識されています。
  さらに高いレベルの宝具『13の男』発動のために情報収集を行い、ヤクザに情報提供する必要があります。
※ヤクザ(ゴルゴ13)がジョンス組・れんげを警戒対象としていることは知りません。
※変装道具一式をヤクザから受け取りました。内容は服・髪型を変えるための装飾品・小物がいくつかです。
  マネキン買いしたものなのでデザインに問題はありませんが、サイズが少し合わない可能性があります。
※放送を耳にしました。ただ、ちゃんと聞いているか(=内容を把握しているか)は不明です。


  *  *  *


「それで、拙僧になんの用で?」

「……こいつを調べてほしい」

  赤鼻の小男に写真を渡す。
  写真に写っているのは、鉄パイプを振り回す女性の姿。
  小男はあごに手をやり、「ふうむ」と首をかしげる。

「へえ。こりゃまた……これくらいなら拙僧に頼まずともそこかしこで拾えそうだがねぇ」

  小男の言いたいことも分かる。
  写真の女性は、おそらく今この町で一番有名な女性。
  インターネットを使えば名前だろうと仕事だろうとすぐに調べられるだろう。
  しかし、違う。
  彼が知りたいのはそんな『上っ面』の情報ではなく、もっと奥に潜んでいる『真実』。

「その女は二人居る……俺が知りたいのは、この『都市部』で暴れている方の女の動向だ。
 どこに、いつ、どれだけ現れていたのかを調べて欲しい」

「はて、同じ姿かたちの女が二人……まさか訳ありで?」

「……」

「あいや、出すぎた真似を。確かに、この女が魍魎だろうが幽霊だろうが、拙僧の知るべきところじゃありませんな。
 この女と事件のこと、調べておきましょう。御代はその時に、交渉ということで」

  そう言って恭しく頭を下げると、小男は下駄の歯をかっぽかっぽと鳴らしながら歩いていった。
  だが、ヤクザはそれを止め、もう一つの依頼をする。

「追加だ……一人は白髪でスーツを着た、筋骨隆々の大男。年のころは20~30。赤い服を着た大男とともに行動をしている」

「一人は薄い色の髪を両脇で二つ縛りにしている少女。名はれんげ。年のころは10以下。服装はTシャツと半ズボン」

  今度は口頭でのみ、特徴を伝える。
  『白髪の男』はきっと『もう一人のジナコ』の仲間か、『奴』を知る者だ。出会っておいて損はないだろう。
  そして彼が保護を依頼した『れんげ』なる少女は、身柄を拘束しておけばその白髪の男との交渉に使えるかもしれない。
  二人についてはヤクザも伝聞での外見情報しか知らないため、この程度の情報提供しか出来ない。
  しかし、それを気には留めない。
  だが、この二人はあくまでついでだ。結局、現状での彼らの扱いは『もう一人のジナコ』を追い詰めるための駒に過ぎない。
  この二人についてはまだ急がない。手に入れば行幸、といった程度。

「この二人への接触は絶対に避け、素性と、名前、最後に目撃した場所、そしてその時周囲に居る人物の名前も調べてほしい」

「へえ、それはまた、難儀な……さて、そちらの御代はいかほど頂けるんで?」

「……一人に十万、二人合わせて二十万。周囲の人物の情報次第でさらに十万」

「結構! ならば早速参りますかな! なあに、そこまで分かっているなら明日までには調べてあげてみせましょうて!
 明日、十四時にこの場所でまた落ち合いましょう。ではその時まで、しばらく!」

  恵比寿のようなにこやかな笑みを残し、かっぽかっぽと歩いていく。
  とても信用ならない男だ。
  確かに腕は立つようだ。三人の情報収集を二十四時間強でやるなどとても素人ではできない。
  ただ、ああいった類は金さえ積まれればなんでもやる。きっと一切の罪悪感なしに寝返るだろう。

  だからこそあの男を使う。
  ああいう奴らは、少なくともこちらが相応の額を支払っているうちはこちらの味方だ。
  小物は利に聡い。利があるうちは誰も裏切らない。
  AとBを天秤にかけ続け、損が出た瞬間に切り捨てる。アレはそういう男だ。
  一回目の依頼でアレが裏切るようであれば、それは敵が相当だということだ。それもまた、新たな情報として利用できる。
  B-10地区における『もう一人のジナコ=カリギリ』の情報収集の大部分は彼(ついでに依頼人)に任せておいても問題ないだろう。

  葉巻の先端を切り落とし、火を点ける。
  煙を鼻先に漂わせながら、ヤクザは現状をもう一度振り返ってみた。
  拠点が割れてしまい、マスターの顔と素性も公にされてしまった。
  これは言うまでもなく大きな失敗だ。
  変装で容姿は変えられても、あくまで付け焼刃。
  近いうちになんらかの対策を講じなければならない。

(『あいつ』が自分で隠れ家を見つけてくれるに越したことはないが……)

  ただ、あの依頼人が積極的に逃げ回るタイプだとは思えない。
  こちら側でもどこか、隠れるのに最適な場所の目星をつけておく必要があるだろう。

  そして、『放送』。
  先ほどの赤鼻の小男との邂逅中に頭の中に流れ込んできた『監視者』からの情報。
  新たに開示された情報は三つ。
  二十八組という通常の聖杯戦争より多い参加者。
  B-4地区にて『重大なルール違反』を行った参加者が居ること。
  そして『日常を著しく脅かす』行為を禁止すること。

  この中で重要な情報は一つ。
  B-4地区にて『大量の魂喰い』を行った参加者が居る。
  ヤクザはこの主催者による『暴露』の意味するところを考え、こう結論付けた。

(位置を晒すのは……拠点を置き、そこから離れられないと踏んでいるから……
 そして、大量の魂喰いを行わなければならないほどの魔力が必要……
 ……つまり、十中八九、B-4に潜んでいるのは『キャスター』のクラス)

  これは仮説に過ぎない。もしかしたら自身のようなアサシンかもしれないし、半身不随のマスターを持つサーヴァントのいずれかかもしれない。
  しかしいずれにしろ、B-4にはNPCの大量虐殺を行った参加者がおり。
  自身のように仮説を立てて、その参加者を狙ってB-4地区に参加者が集まってくる。
  そこまで分かっているならやることは一つ。

  ヤクザはB-5地区に向かう列車に乗り込んだ。
  目的は一つ、B-5地区に潜伏しB-4地区の『キャスター』を狙って寄ってくる参加者の情報を収集するため。

(干渉はしない……もし迂闊な行動を取り、俺の正体がばれるようなことがあれば『依頼人』を逆に追い詰めることになる)

  彼の宝具の性質上情報収集を行わなければならないが、それと同時にこれ以上の情報漏えいは避けなければならない。
  そのため、同一地区には潜まない。踏み込みもしない。
  その一つ隣のB-5地区に潜み、千里眼と自身の持ち前の装備である単眼鏡を使って観察する。
  数時間、十数時間にも及ぶかもしれない、一転集中の視界による広大なエリア中の無数の場所の監視。
  普通の人間なら気が狂いかねない苦行。だが、それもヤクザ―――ゴルゴ13の本業の一つ。
  睡眠・食事や疲れの心配を必要にならなくなった今、何日だろうと続けてみせる。
  依頼遂行のためならば、どんな難題を前にしても揺るがぬ鋼の精神。それこそが、M16以上にゴルゴ13をゴルゴ13たらしめる最強の武器。

(問題があるとすれば……やはり、『あれ』か)

  つり革を握る自身の手。
  英霊として呼ばれた以上、『伝承』として起こる可能性はある。
  一年に一度しか来るはずのない『厄日』が。

(『英霊』の性質上何らかの条件が揃えば、起こりかねない……一日とまでは行かないだろうが、条件さえ揃えば単発的にそれこそ『何度でも』……
 ここで武器が使えないとなれば……)

  だからこそ、秘匿する必要がある。
  自身の存在と、その正体。そして自身の伝承を。
  万が一条件が揃い、『その時』が来てしまっても何事もなくやり過ごせるように。

  がたんごとん。
  がたんごとん。

  B-5に向かって電車が動き出す。

  揺れる箱。
  揺るがぬ瞳。
  依頼達成率100%の『暗殺者』の英霊の第一の依頼が始まった。

【B-10/B-5へ向かう電車内/一日目 午後】

【ヤクザ(ゴルゴ13@ゴルゴ13)】
[状態]健康
[装備]通常装備一式、単眼鏡(アニメ版装備)、葉巻(現地調達)
[道具]携帯電話
[思考・状況]
基本行動方針:正体を隠しながら『もう一人のジナコ=カリギリ』の情報を集め、殺す。最優先。
          今のところはNPCの協力者とジナコ本人の『もう一人のジナコ=カリギリ』の情報収集の結果を待つ。
1.B-5地区に潜伏、千里眼を使ってB-4地区および周辺地区の情報収集。
2.『白髪の男』(ジョンス・リー)とそのサーヴァント、そして『れんげという少女』の情報を探す。
3.依頼人(ジナコ=カリギリ)の要請があれば再び会いに行くが、過度な接触は避ける。
4.可能であれば依頼人(ジナコ=カリギリ)の新たな隠れ家を探し、そこに彼女を連れて行く。

[備考]
※一日目・未明の出来事で騒ぎになったことは大体知ってます。
※町全体の地理を大体把握しています。
※ジナコの資金を使い、NPCの情報屋を数名雇っています。
※C-5の森林公園で、何者かによる異常な性行為があった事を把握しました。
 それを房中術・ハニートラップを得意とする者の仕業ではないかと推測しています。
※B-10での『もう一人のジナコ=カリギリ(ベルク・カッツェ)』の起こした事件を把握しました。
※ジナコの気絶を把握しました。
 それ以前までの『ジナコ利用説』ではなく、ジナコの外見を手に入れるために気絶させたと考えています。
 そのため、『もう一人のジナコ=カリギリ』は別人の姿を手に入れるためにその人物と接触する必要があると推察しています。
※ジナコから『もう一人のジナコ=カリギリ』の殺害依頼を受けました。
  ジナコの強い意志に従って宝具『13の男』が発動します。が、情報が足りないので発動できても最大の半分ほどの効果しか出ません。
※『もう一人のジナコ=カリギリ』は様々な条件によって『他者への変装』『サーヴァントへのダメージ判定なし』がなされているものであると推測しています。
  スキルで無効化する類であるなら攻略には『13の男』発動が不可欠である、姿を隠しているならば本体を見つける必要があるとも考えています。
※ジョンス・リーと宮内れんげの身辺調査をNPC(探偵)に依頼しました。
  二日目十四時に一度NPCと会い、情報を受け取ります。そのとき得られる情報量は不明です。最悪目撃証言だけの場合もあります。
※ジョンス・リー組を『警戒対象』と判断しました。『もう一人のジナコ=カリギリ』についても何か知っているものと判断し、捜索します。
  ジナコの意思不足・情報不足のため襲撃しても宝具『13の男』は発動しません。
※宮内れんげを『ジョンス・リー組との交渉材料となりえる存在』であると判断しました。ジョンス・リー組同様捜索します。
  ジナコの意思不足・情報不足のため襲撃しても宝具『13の男』は発動しません。また、マスターであるとは『まだ』思っていません。
※B-5地区に潜伏し、『キャスターと思わしきサーヴァント』それを求めてやってきた参加者の情報把握を行います。
  敵の能力を完全に把握して『絶対に殺せる』と確信が持てない場合は誰にも手を出さず、接触も避けます。
※伝承に縛られた『英霊』という性質上、なんらかの条件が揃えば『銃が撃てない状態』が何度でも再現されると考察しています。
  そのためにも自身の正体と存在を秘匿し、『その状態』をやりすごせるように動きます。



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最終更新:2014年11月21日 18:02