信じる ◆holyBRftF6


「アキトさんって未来人でしかもロボットのパイロットなんですか!」
「…………」

 失敗した、とアキトは思った。
 あれから半ば強引に道路脇のベンチに座らされた挙句、長話に付き合わされている。
 神様がどうの、幻想郷がこうの、現実離れした――というよりも現実から離れていった話を自己紹介として話されたが、はっきり言ってアキトは興味がなかった。
 一応うまく会話を引き出して相手の戦力を探れはしないかと最初は思っていたのだが、そもそも話が噛み合っている気がしない。
 今までの生活を捨てたという点では共通点があるのかもしれないが、幻想郷に来る前の生活をつまらないものとして扱っている様子はアキトからすれば恵まれた者の贅沢だ。
 話に乗ってこないのは早苗の方にも伝わったらしく、次はそちらの番だと話を振られてしまった。
 仕方なくあまり触れられたくはないこと――つま木連との戦いや火星の後継者たち、そして人体実験のことを除いた経歴を話した。
 木連や火星の後継者との戦いを除いた以上、当然ながらエステバリスについては少ししか話していない。にも関わらず早苗は食いついてきた。
 けっきょく込み入った話をする羽目になり、今に至る。

「興味があるんだな」
「あります! 当然です!
 私がいた頃なんて、人類はまだ火星にすら行ってなかったんですよ?
 宇宙の世紀とか言われていたのに、環境を守れとか景気対策がどうだとかばっかみたい」
(……火星に遺跡がある、なんて聞いたらもっと騒ぎそうだ)

 私も火星に行きたかったなどと目を輝かせる早苗とは対照的に、アキトの内心は冷ややかだった。
 木星圏にまで到達した人類が引き起こした問題は、経済や環境の問題程度で済むのなら安いものだろう。異星の文明と接触したことは、決して輝かしいものではないのだと……彼はその身で経験してきている。

「君がいた時代には、巨大ロボットなんてないんだろ。なんで拘るんだ?」

 火星の遺跡について話すよりは、まだエステバリスについて話すほうがマシだ。
 そう思ったアキトが話題を誘導すると、やはり早苗は乗ってきた。

「アニメですよ、アニメ! そういうアニメを見て、私は憧れたんです!」

 だろうな、と質問した側も思っていた。
 単に話を逸らしたかっただけとしてで、本当に答えを聞きたかったわけではない。そもそも似たような例を知っているのだから、聞かなくても予想はつく。

「……君も、ゲキ・ガンガーを見たのか?」

 あっさりと死んだ友のことを思い出したアキトは、思わず無意味な問いかけを呟き、

「え?」

 そして、後悔した。きょとんとした早苗の顔は、明らかに不思議がっている。

 この聖杯戦争において、自分達が異なる世界・異なる時間軸から招かれたという事実を実感しているマスターはまだまだ少ない。
 だがその少ない例が、テンカワ・アキトである。
 彼自身ボソンジャンプを行ってきた身であり、更にカレン・オルテンシア……違う世界を生きた存在の再現から説明を受けた。実感としても、経験としても、知識としても十分に過ぎる。
 つまり、ゲキ・ガンガーが存在しない時空など予想できてもおかしくはない。
 むしろ、既に早苗から話を聞いているのだから予想できて当たり前とすら言える。彼女がいた年代はアキトの世界に当てはめた場合、ゲキ・ガンガーが放映される前だと断片的に聞いた程度でも分かる。
 故に悔いる。なぜこんな言葉を零したのかと。

「聞いたことないですけど、ゲキ・ガンガーってなんですか?」
「……感傷みたいなものだ」

 零れ落ちたものならば、続いて零れた言葉が答えだったのだろう。
 成り行きでパイロットになった「かつての」テンカワ・アキトにとって、ゲキ・ガンガーは切っても切れない存在だった。なにせ戦っていた木連がそのアニメに染まりきっている。
 その頃の自分を装おうとした矢先にこんな話題を振られ、アキトの心の底で何かが蠢いていた。その何かに突き動かされるように、余計な言葉が口をついて出る。

「パイロットなんて、そんないいものじゃない。
 見た目はマンガみたいになっても、それは見た目だけだ」

 空気が沈む。それこそ、早苗が口を閉ざすほどに。交友を深めようとした結果がこれかと、アキトは自嘲せざるを得なかった。かつてのテンカワ・アキトを装うことすら、今の自分にはできないのかと。
 二人の従者もまた口をつぐんでいる。アシタカは話の成り行きを見守っているし、ガッツはそもそも言葉を奪われている。マスター達が喋らなければ、場に言葉は出てこない。重苦しい空気が流れた。

『――この『月を望む聖杯戦争』に参加しているマスター並びにサーヴァントの皆さま、こんにちは』

 だから通達が始まった時、アキトは思わずあのカレンに対して感謝してしまった。


 ■ ■

『定時通達は以上です。
 それでは明日の正午まできちんと生きていましたら、また』
「――――二十八、か」

 通達を聞き終えたアキトは、その数字を反芻する。28。それが願望器を巡って争うマスターの数。
 聖杯戦争の組数としてそれが多いのか、少ないのかはアキトには分からないし意味もない。ただ、手持ちのチューリップクリスタルは人数に比して少ないということだけを改めて理解する。

(……あそこで使わなかったのは悪くなかったのかもしれないな)

 思い返したのは金髪のセイバー……オルステッドとの戦いだ。
 アキトはオルステッドの真名などは把握していないが、ガッツにとって相性が良い相手であるのは理解している。
 とならば泳がせて他の参加者と食い合わせるのも、選択肢としては有り得る。アキト達にとっては未知の相手と出会うよりはオルステッドが生き残る方が楽なのだから。

 ただしこの選択肢を取る際の問題は、次に出会った際に相手の戦力が変わっている場合だ。
 あの時点でアキトはチューリップクリスタルの存在を秘匿していた。だから相手も何か隠し持っている可能性があるとアキトも自戒した。
 もっとも今のところオルステッドにはその能力の全てを使うつもりがない以上、これに関しては杞憂と言える―――少ないとも、今のところは。
 一番厄介なのは対ガッツを念頭に置いた同盟を組まれる場合か。そう思いながらアキトは早苗を見た。
 当然ながらアシタカの真名などは把握していないが、彼女のサーヴァントがアーチャーである事はアキトにも分かっている。ならば白兵戦に特化しているガッツの援護役としては最適だろうとアキトは見越していたし、実際アシタカの弓術はそれだけの腕前を誇る。
 二人では補えない部分も他者と組むことで解決することは可能だ。これはガッツに限った話ではないと、アキトも分かっている。
 早苗を見ながらも実際は別の相手について考えを巡らせているアキトを、見られている当人はどう思ったのか。物憂げな様子でぽつりとつぶやいた。

「……二十八人もいるんですね」
「無闇に戦って生き残れる数じゃないな」

 とりあえず、アキトは当たり障りのない事を返す。
 三組で交戦を避けても残り二十五組が敵としているのだから気の長くなる話だ、だから今は同盟を続けておきたい。
 彼が「当たり障りのない」ものとして考えているのは、一言で言えば単純な戦争の理である。

「……でも、それだけの人が殺し合うなんて」

 だから、そもそもスタンスが異なる早苗とは話が噛み合わない。

「戦争で人が殺し合うのは当たり前だろ」

 予想だにしない答えに、アキトは顔をしかめた。
 方舟にいる人間はその前提の上で来たのだと彼は思っている。いや、それ以前に見知らぬ誰かの死に心を痛めるような段階はとうに通り過ぎてしまっていた。
 故に、早苗との価値観には決定的な断絶がある。

「二十八人ですよ」
「それがどうした」
「そのうちの二十七人が死ななくちゃいけないんですよ!」
「戦争に参加して泣き言か。お前は何のためにここに来たんだ」

 かつてのお人好しな自分に近づけようと心がけていたアキトの口調は、突き放したかのような平坦なものに戻りつつあった。まるで、メッキが剥がれるかのように。
 口論を押し留めるように―――或いはいざという事態に備えるように、アシタカが割って入る。会話という点でも、物理的な立ち位置という点でも。

「マスターが方舟に招かれたのは事故のようなものだ。
 恐らくそちらには確固とした願いがあるのだろうが、事情が違うという事で分かってもらえないだろうか」
「あいにく、わからないな」

 早苗を庇うアシタカの言葉は、しかし逆効果だった。
 アキトは疑念を抱いたことを隠そうともしない。

「アーチャー、お前にも願いがあるからこの戦争に現れたんだろ。
 自分のマスターに何も思わないのか」
「私に願いはない。
 呼ばれたから応じ、マスターを生かす。それだけだ」
『………………』

 周囲に怒気が満ちた。
 それはアキトのものでも、ましてや早苗やアシタカのものでもない。
 ここにいるが言葉を発せない狂戦士―――ベルセルク―――が発している。

「どんな事情があろうと、殺せないというなら自分が死ぬだけだ」

 アキトが吐き捨てた言葉は、ガッツが霊体化したまま放つ殺気よりはまだ穏当だろう。
 彼の願いの強さはそれこそ狂うほどのもの。だからこそ、ガッツから見てアシタカは早苗以上に理解できない存在だった。
 サーヴァントである以上聖杯を奪い合う関係だというのに、そんな理由で妨害されてたまるか。
 そう、殺気は語っている。

「だ……だけど!」

 張り詰める場の空気に、思わず早苗は声を張り上げていた。
 それは見えぬガッツを恐れたからか……それとも、アシタカは間違っていないと主張したかったからか。

「だけど……殺し合いをさせるような聖杯は、本当に正しいんですか!?」
「……え?」

 アキトの口から、間抜けな声が漏れた。
 思いつきもしない発想だった。

「人間に罰を与えるような神様は知ってますし、生贄を求めるような神様もいます。
 ……でも、アキトさんはパイロットをやっていただけで、神様のことなんて何も知らなかったじゃないですか。
 私だって、方舟のことなんて何にも知らなかった。
 信仰も冒涜もない人たちを集めて殺しあわせるようなそんな聖杯が正しいなんて私には思えないんです!」
「…………」

 言うまでもないことだが、アキトは必ず聖杯戦争を勝ち抜くつもりである。
 何故か。願いを叶えたいからだ。
 彼にとって聖杯が願いを叶えるというのは当然の条件だ。だから方舟に来ている。疑念を差し挟む余地などどこにもない。それこそ、カレンをいけ好かないと思ってもその言葉を疑わない程度には。
 その意味では、聖杯を信じていると言ってもいいだろう。
 アキトは異星の文明が遺した遺跡を知っている。その文明が遺した力を知っている。だから方舟のような物があっても驚きはしないし、方舟が尋常ならざる力を持っていても疑問は抱かない。
 だが。

「聖杯は本当に願いを叶えてくれるんですか?
 叶えるとしても……本当に、正しいやり方で願いを叶えてくれるんですか!?」

 アキトの人生が狂わされてきた事もまた、異星の文明が遺したものが原因ではなかったか。

「だから、私は―――」
「ふざけるなッ!」
「きゃあっ!?」

 振り払うようにアキトは立ち上がり、叫んでいた。
 いや、アキトだけではない。ガッツもまた実体化し、獣が呻くような声を漏らしている。アシタカはとっさに抱きしめるような勢いで早苗を引っ張り、自らの後ろに庇っていた。

「そんな事があってたまるか!
 ここまで戦って、ここから勝ち抜くんだぞ! マスターだけで二十八人いるんだぞ!?
 これで願いが叶わない、なんて事があってたまるか……!」

 その叫びは、果たして誰に対してのものだったのか。
 偽りの大気を搖るがせる怒声は、何よりも放った本人に響く。その様は、まるで自らの従者に習い理性を狂気で抑えつけるかのよう。
 ならばこれは、聖杯は願いを叶える存在だという確信でも早苗に対する糾弾でもなく。
 願いを叶える存在であってくれという、懇願だった。

 早苗が呆然とし、アシタカが身構える中……
 アキトは動力が切れたかのように、唐突にベンチへ腰を下ろした。

「……忘れてくれ」

 頭を抱えて呟く。
 この同盟を決裂させるわけにはいかない、その思考がアキトにブレーキを掛けたのだ。皮肉なことに早苗が善良で非好戦的であるなら同盟相手としては最適だと思わざるを得なかった。
 非好戦的である以上早苗の戦いにアキトが巻き込まれる事はないし、善良である以上裏切りを恐れる必要もない。同盟を組む上での最大のデメリットを心配しなくて済むのである。
 それに早苗のサーヴァントがアーチャー、つまり単独行動のスキルを持つというのも厄介だった。
 仮に早苗を殺してしまえば、間違いなく仇討ちのために襲われるだろう。アキトはそう推測している。アキトだからこそ推測している。市街地で弓兵からゲリラ戦を挑まれる状況は想像するだけでも最悪だ。
 つまりアキトが早苗を殺す際は、確実にアシタカも仕留めなくてはならない。今は同盟を続けるしかないのだ。
 例え、早苗とアキトが全く噛み合わない存在であっても。 

(―――だが、いつかは必ず殺す。俺達が聖杯を獲るために)

 アキトの瞳には、暗い炎が宿っている。
 例え聖杯に対する疑念について語られても、アキトの決意は変わらない。変えられない。
 仮に聖杯が悪意に満ちた汚物であろうと、その聖杯を獲るしかない。

 彼はもはや、後戻りができる身ではないのだから。




【D-9/廃教会周辺/一日目 午後】

【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、強い憎しみ
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ 、春紀からもらったRocky
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備えるが、慎重に行動。長期戦を考え、不利と判断したら即座に撤退。
2.下見したヤクザの事務所などから銃弾や武器を入手しておきたい。
3.五感の以上及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
4.できるだけ早苗やアンデルセンとの同盟は維持。同盟を組める相手がいるならば、組みたい。自分達だけで、全てを殺せるといった慢心はなくす。

[備考]
セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
D-9墓地にミスマル・ユリカの墓があります。
アンデルセン、早苗陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。


【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。




 あれきり、アキトさんは黙りこんでしまった。
 私はベンチに座り直すことさえできなかったから、道路の上に座っていた。アキトと一緒のベンチには座れない。
 怖いとかじゃなくて、もっと根本的な部分で、アキトさんと同じ所にはいられない気がしたから。

 アキトさんが何か願いを抱いているのは、はっきりしてた。
 私にも分かるくらいに強く……きっと人を殺してでも叶えたいくらいに。

 アキトさんは聖杯が願いを叶えてくれると信じている。信じたいと思っている。
 それは、聖杯から何を言われても従ってしまうくらいの強い願いがあるから。
 聖杯に縋り付いて、願いを叶えてもらいたいから。

 ――それは、神様を信仰するのとどこが違うんでしょう。

 タタリ神でも、いいえ、タタリ神だからこそ信じる人もいる。それぞれ中身も理由も違うけれど、大抵の人は大なり小なり願いがある。
 方舟にいる人は私を除いて二十七人。アキトさん以外にも願いを抱いてやってきた人がいるのは、簡単に予想できる。
 それだけじゃない、サーヴァントの人たちにも願いがある。
 私のアーチャーも……気遣っているだけで、本当は何か願いがあるのかもしれない。

 それなのに。
 何の願いも持たない私が、マスターとして戦う資格はあるんでしょうか……?



【D-9/廃教会周辺/一日目 午後】

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか
[所持金]一人暮らしには十分な仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺したくはない、けど……
1.私はマスターとして正しいの……?
2.少女(れんげ)が心配
[備考]
※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。
※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが
 あくまで外観的情報です。名前は把握していません。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※アキト、アンデルセン陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。なお、彼らのスタンスについて、詳しくは知りません。

【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】
[状態]健康
[装備]現代風の服
[道具]現代風の着替え
[思考・状況]
基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る
0.マスターの猪突猛進ぶりが心配。
1.とりあえず、早苗の意向を尊重する。
[備考]
※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。



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東風谷早苗&アーチャー(アシタカ