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 雪風は彼を護ろうとしなかった。
 雪風は彼や人間を守る兵器ではなかった。
 彼はそのときはっきりとその事実を知る。 
 雪風は燃え上がる機体を捨てて、
 その炎の中から不死鳥のようによみがえり、
 彼から独立した。




「問う、艦むすは人間か?」

零は自分はでも理解できない苛立ちを抱えつつも言った。

「それとも機械か? どちらなんだ、お前達は」

ダン、と音を立ててカップが置かれる。入っていたコーヒーは危うく零れるところだった。
予想外に力が入る。零は驚いていた。何を怒っているんだ、俺は。零は自問した。

怒っている? いや違う。恐れているんだ。
目の前に座る少女ののようなものを。兵器を自称する人間的な何かを。
艦むすを。

「ええと、司令。それはですね……」

彼女は零の剣幕に戸惑いを隠せないようだった。手に持った双眼鏡を不安げに握りしめ、司令<マスター>である零を潤んだ瞳で見上げている。
外見はまさしくただの少女だった。海兵隊を思わせる生地の薄いワンピースに身を包むティーンエイジャー。成長期の最中にある人間だ。
しかし、それだけに身体と一体化した砲身がアンバランスなのだ。連装砲の鈍い光は見慣れた兵器そのもので、機械でしかない。

「見せろ」
「え……きゃっ、司令」

零は彼女の身体を強引に引き寄せる。首筋を掴みその感触を確かめる。
温かく柔らかな井、人の肌だ。フェアリイの人間より温かいかもしれない。実に人間的だ。
次に頭に触れる。これも異様なほど柔らかい、と思えば途中で感触が一変する。ぞっとするほど冷たく、そして馴染み深い無機質な感触。
明らかにそれは兵器だった。零はその意匠からそれが旧式のセンサーであると推測した。

「し、司令官。ちょ、ちょっと」
「黙れ」

彼女は身体をまさぐられ困惑の声を漏らす。その動作が一々恐ろしい。これでは人間だ。
零は、しかし、それを無視した。本能的な恐怖をかみ殺し、彼は彼女を兵器として扱った。
背中に背負うバックパックを見やる。その物言わぬ装甲は少女が背負うには重すぎる。
零はまず継ぎ目を探した。分離できるなら楽だった。人間である部分と機械である部分とパージできるならば、それは既存の兵器と何ら変わらない。
人間は兵器の中でも欠かせないパーツの筈だ。人間をシステムの一部として組み込むことで初めて機能する。
零とスーパーシルフの関係がまさにそれだった。あの時の零は兵器だった。兵器の一部だった。それでいい。

しかし目の前の彼女は違う。人間は兵器の一部であるが故に、独立できる筈だ。できないものは機械で、できるものが人間と呼ばれる。独立できないものは人間ではない。
だというのに、こいつには継ぎ目がない。兵装の着脱は可能だが、それで人間になる訳じゃない。戦闘機から武装を全て取っ払ったとしても、戦闘機は戦闘機でしかない。
肌に機械が埋め込まれている、という訳ではない。そんな後付けのものでなく、骨格、センサー、頭皮、装甲、どれを取っても最初からこうなることを設計された配置・構造をしていた。
ここからここまで人間で、ここからここまでが機械だと、明確な境界がないのだ。引くところがない。最初からこうなるものとして存在している。
その事実が零を何より戦慄させた。

「司令官……その、もう少し優しく……」
「出せ」
「え?」
「出せ、お前の持つ兵装を」

零は彼女の機械的でない部分を全て無視して言った。
彼女は戸惑っていたが従った。コンピューターでも戸惑うものだ。それはフェアリイでの戦いを通して知っていた。
そうして彼女は己の装備を展開した。連装砲、機銃、魚雷、爆雷……その手にまとわりつくように兵器が現れた。
どこに格納しているのか、零には判別できなかった。外観は服を模した装甲の下から出て来た形だったが、それではあまりに不合理的な設計だ。機械的でない。

「ええと」

零の視線をどう感じたのだろうか。彼女はぎこちなく言った。。そもそも感じるなどという機能が搭載されているのか。

「雪風の装備です」

雪風。
それが彼女の名だと言った。

「…………」

その事実に零は何も意味を見出さない。見出そうとしない。
そもそも何の意味もないのだ。零が惑星フェアリイにやってきたことも。異星体ジャムと何のナショナリズムもなしに戦うことも。味方を見殺しにしても帰還する『死神』のブーメラン戦隊の一員であることも。
FFR-31MR スーパーシルフのパイロットであることも。特殊戦第5飛行隊3番機のパーソナルネームが『雪風』であることも。
そのどれも繋がりのない、意味のない言葉だ。

「雪風か」
「はい。駆逐艦・雪風です。アサシンのサーヴァントとして呼ばれました!」

つまり彼女の名前にも何ら意味はないということだ。
元々『雪風』はブッカー少佐が付けた名前だ。偶然にも帝国駆逐艦の一隻と名前が一致してしまっただけで、そこに因果性など存在しない。

零は、だから、コーヒーを煽った。音を立ててカップを置く。ここは自分の部屋で、居るのは自身のサーヴァント。
何の家具もない殺風景な部屋にテーブルだけが置かれている。侵入者の気配もなく、警戒することはない。ない筈だ。

「…………」

零は無言で雪風(と名乗る何か)から手を放した。
雪風は安堵の息を吐いたように見えた。機械に不安や安心という概念はあるのだろうかと少し疑問を抱く。同時にないだろうとも思った。
そういったブレはマイナス要因でしかない。そういったデメリットは人間の専売特許の筈だった。

「……もう一度問う。お前達は人間か? 機械か?」

それともジャムか、とは聞かなかった。ジャムをその軸に加えるのは適切ではないと思えたのだ。

「雪風は……艦むすです」

再度の詰問に、雪風は俯いて答えた。

「艦むすとは何か」
「艦むすはええと、軍艦です」
「人間ではないのか」
「雪風には難しくて分かりません」
「所属は」
「えーと……帝国海軍、になるんでしょうか」
「敵は何だ。お前達は何と戦っている」

艦むすについて一つはっきりしていることがあるとすれば、それは敵を持っているということだった。
これは明らかに戦う為に造られている。それは即ち敵がまず最初にあって、それから彼女らが造られたということだった。

「深海棲艦」

その考えは確かだったようだ。
雪風は、それまでと違い、その問いに対しては迷うことなく答えた。

「問う。深海棲艦とは何か」
「それはええと……」

だが次の質問には答えを窮しているようだった。
敵は確かだが、その敵が何であるか、本質的には何一つ理解できていない。
まるでフェアリイだ、と零は思った。フェアリイの人間たちは自分が何と戦っているのか理解できていない。理解しているのはきっと機械の方だろう。

「敵は人間か?」
「人間……ではないんじゃないかと思います」

歯切れ悪く雪風は答える。そんなところまで一緒か、と零は思った。

「問いを変える。お前達が戦っているのは確かか」
「はい。それはもう。英霊として呼ばれる前までは雪風も前線で頑張ってました」
「お前達にイデオロギーやナショナリズムはあるか」
「い、イデ? ええと、司令官の役に立ちたい……とかでしょうか?」
「その司令官は何らかの思想を持っていたのか」
「わ、分からないですよ、雪風はあまりそういうことは……」

矢継ぎ早の質問に雪風は困惑しているようだった。負荷を掛け過ぎたか、零は恐怖しつつも苛立った。
聖杯戦争、と呼ばれるこの空間の意味も分からない。ジャムによる干渉の線が濃厚だが、それにしては人間を知り過ぎている。そんな感じがした。
あれは人間を知らない。機械に付随している変なもの、という認識に近い。最近ようやく人間に意識を向け始めたところだった筈だ。
どちらにせよ、情報が足らない。だからそれについて考えるのは棚上げしていた。それよりもまず、サーヴァントとして宛がわれた艦むすという存在について考えたかった。

最初はAIを搭載された人形だと思った。むかしブッカー少佐が造った人形の発展型。そんなものではないかと考えた。
しかし、それにしてはこれは不合理だ。外面上人間らしく振舞わせることができるならば潜入には使えるだろうが、だとすればわざわざ兵装を丸出しにする意味がない。
戦闘に使うにはそれこそナンセンスだ。反吐が出る悪趣味だ。

しかし艦むすが人間かと問われると、違和感しかなかった。
人間の定義を考えるに当たって、身体が機械化していることは重要ではない。
トマホーク・ジョン。内臓を機械化した男。彼は自分が人間と呼べるかに疑念を抱いた。
だが彼は人間だった。ジャムに機械と判別されようが、死人でない以上人間だ。

一方で艦むすは、この雪風は自身について疑念を持っていない。
機械であるか人間であるか、その存在のあやふやさについて考えてもいない。
あるのは明確な敵だけ。その敵が何であるかに意味はない。その思考が実に機械的だった。

一体艦むすは何からできたのだろうか。零はその問いに立ちかえった。
艦むすとは何であるか。考えつつ付けた零は不意に奇妙な思いにとらわれた。


艦むすとは思想である。


思想は目に見えない。国家機構や民族意識や宗教は人間とともにあるがカタチを持っていない。
たしかに『ある』のだが、『いる』のではないだろう。だが機械ははここに『いる』。
機械は人間の頭から具像化した思想そのもの。それはかつて自分が考えたことだ。
それに艦むすを当てはめてみると、艦むすは機械である以上は『いる』と表現できる。
だが艦むすは同時に思想でもある。具像化である以上、思想の一部だからだ。
だから『ある』とも表現できる。

雪風はここに『いる』し、『ある』。
重なり合わせだ。それは観測されようによって様相を変化させる。
零は考えた。艦むすとは別の言語コードに属する何かではないか、と。
人間の思考体系、言語コードでは機械が『いる』か『ある』のかを同時に認識することができない。言葉がないからだ。
だが別の言語コード、例えばジャムのようなものにとって、思想から生まれる機械というものは艦むすのようなカタチを取るのではないだろうか。
『いる』と『ある』を重ねた言葉で表現される機械、それが艦むすか。

「……司令官?」

雪風が心配そうに尋ねてきた。
様子がおかしかっただろう。それまでの張りつめた剣幕は消え失せ、零は放心したように言葉を失っている。

零は、恐らくだが、自分はいま喜んでいるのだと思った。
自分はここに来る直前、雪風に見捨てられた。愛機にして、信じてきた唯一の機械。天駆ける妖精。
零は雪風と命運を共にするつもりだった。敵に解析されそうになった雪風は自爆を選んだ。共に死ねるならいい。そう思っていたのに、雪風は違った。
機体は破棄する。だが中枢機能は別の機体へと転送する。破棄する機体には零も含まれる。

雪風は零を切り捨てた。信じていた。しかし見捨てられた。
雪風は無人機として完成しようとしていた。人間など要らないと、雪風自身も考えたのだ。
その事実に、零はある種打ちのめされていたのだ。

しかし艦むすという存在に触れ、零はそれが間違っていることを確信した。
当初、零は艦むすを恐れていた。それが人間と機械の垣根を危うくするものに思えたからだ。
だが、仮に艦むすが思想で『あり』そして機械で『いる』ものだとするならば、その外観が人間らしくあることに意味がある。
兵器は人間を内包した概念である。人間の言語コードではあやふやでも、別の角度から観測すればそれが如実に浮き上がる。

「……雪風」

零は声を絞り出した。
は、はいっ、と気負った声色で雪風が返答した。

「お前には俺が必要か」

尋ねると、雪風は答えた。

「は、はい。私には司令官<マスター>が必要ですっ」

舌足らずな声が響く。零は聞いていない。すれ違いのようなものだ。
だが確信はあった。雪風には俺が必要だと。だからあの判断はミスだ。
帰ってやる。帰ってそのことを雪風に分からせてやる。そう思ったとき、零は初めて目覚めた気がした。
目覚めすぎた気さえ、した。

零は思った。早く帰りたい。帰って、フェアリイの不気味な空を飛びたい、と。

【CLASS】アサシン
【真名】駆逐艦・雪風
【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運A+++ 宝具E
【属性】
中立・善 
【クラススキル】
気配遮断 D 自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
如何な激戦であろうとも被弾しなかった、その奇跡的な回避性能からの派生。
【保有スキル】
砲撃 D 艦むすとしての砲撃性能。雪風は駆逐艦として上位の性能を誇る。
    が、所詮は駆逐艦なのでそこまでの火力はない。
爆雷 C 戦艦や空母と違い、駆逐艦は潜水艦への攻撃が可能。
    先手は取られてしまうが潜水による気配遮断に対応できる。
夜戦 B 夜間戦闘における威力補正。夜間戦闘において火力が飛躍的に上昇する。
    また幸運値に依存して命中補正がかかる。
【宝具】
『奇跡の駆逐艦<ゆきかぜはしずみません!>』
ランク:E 種別:- レンジ:- 最大補足:-
主要な海戦のほとんどに参加しつつ、毎回ほぼ無傷で帰還したその幸運が宝具となったもの。
戦闘が激化すればするほど、幸運値に補正がかかる。
被弾しても『偶然に』ロケット弾が不発だったり、回数機雷に触れても『何故か』反応されなかったりする。
ただし補正がかかるのはあくまで幸運値のみ。
その他パラメーターに変動はないので、不用意に突っ込むと呆気なく落ちる。
雪風が生き残ったのは奇跡ではない。乗組員の高い錬度と強い信念の賜物である。

【weapon】
  • 12.7cm連装砲
  • 61cm四連装魚雷
【人物背景】
旧日本帝国海軍所属、「陽炎」型駆逐艦8番艦として命名される。
「雪風」は戦時中16回の作戦に参加。うち7度の海戦に加わり、ほぼ無傷で生還した幸運の艦として有名。
艦むすである彼女も史実を参考にしたのか、全艦むす中トップの運を持つ。
その他ステ―タスも駆逐艦上位に設定されており、島風と並ぶレア駆逐艦。
ただし入手難易度は島風より高く、入手には提督のリアルラックを要求される。
微妙に透けてるワンピースが特徴。

【サーヴァントとしての願い】ない。司令官に従いたいのかもしれない。
【基本戦術、方針、運用法】
基本的なパラメーターは低い。駆逐上位の砲撃性能も、所詮は駆逐艦。全体で見れば大した火力はない。
ただ圧倒的な幸運値と気配遮断から守りに回った時の生存率は高い。
宝具の影響もあり、どんな乱戦であっても逃げ延びることができるだろう。
攻めに回る時は夜戦スキルを生かすべき。というかそうでもしないと火力が出ない。
昼は逃げに徹し、夜は闇から威力補正のかかった砲撃を当てる。そんな戦い方になる。

【マスター】深井零
【参加方法】戦闘妖精雪風<改>ラスト、雪風の自爆直後に何故か方舟に飛ばされた。
【マスターとしての願い】どれだけ被害が出ようとも帰還する。
【weapon】なし
【能力・技能】
兵士としての技能。
戦闘機乗りとしてもエース級の腕を誇る。
英語。
フェアリイにおける共用語。零は日本人であるが、既に母国語という概念はなくなっており、特に意味がなくとも英語で話す。
【人物背景】
南極に出現した超空間通路から侵攻してきた謎の異星体ジャム。
人類はその先鋒を撃退し、逆に超空間通路の向こう側に攻め込み、そこに存在した惑星フェアリィに橋頭堡となる基地を築いてジャムの侵攻を食い止めていた。
設立初期には選び抜かれた精鋭によって構成されていたフェアリィ空軍 (FAF) だったが、長引く消耗戦にエリートの損失を嫌った各国は、
やがて犯罪者や精神疾患者といった社会的不適合者の中から才能を持つものに訓練を施し、FAFに送り込むようになる。
そのFAFの主要基地の一つフェアリイに属する戦術戦闘航空団特殊戦第五飛行戦隊、通称ブーメラン戦隊には中でも他者に関心を持たないという心理傾向がある人間ばかりを集められていた。
高性能な戦術戦闘電子偵察機スーパーシルフを擁する対ジャム戦における戦術電子偵察部隊であり、たとえ目前の味方を見捨ててでも敵の情報を持ち帰る事だけを要求される特殊部隊だった。

極めて高度な中枢制御体を搭載し、完全自律制御による高度な戦術判断や戦闘機動を可能とするスーパーシルフ。
その3番機 「雪風」のパイロットである深井零は、雪風を自らの半身と偏愛し、雪風以外のあらゆるものを「関係ない」と切り捨てるまでに雪風が全てと信じていた。

『戦闘妖精・雪風』の主人公。
雪風のパイロットであり、AIを搭載する戦闘機である雪風と執着し、生きる理由とさえなっていた。
それがジャムとの戦いの中で徐々に変化していく。雪風と自分のあるべき関係について、彼は真摯に考えることになる。
主人公でありながら謎が多く、FAFに来た理由さえ分からない。
初出時は「非効率な機械は嫌いだという理由で博物館のSLを爆破した」だったが、改定前文庫本時には「仕事のストレスで職場に放火した」という扱いだった。
コミック版では「強盗の手伝いをした」となる。短編小説では、コンピュータクラッカーであり、独自のアーキテクチャのマシンを組み上げ、CPU処理時間の外部開放義務を忌避した罪に問われたことが描写されている。

余談だが、アニメ版の声優は「半沢直樹」「リーガル・ハイ」で主演を務めた堺雅人が担当している。

【方針】帰る。艦むすとは何かを知りたい。